タイトル:とある軍人とカママスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/27 01:47

●オープニング本文


●離脱

――絶対に許せない。
 シアン・マクニールは、堪えても堪えても湧きあがるどす黒い欲望を感じつつ、LHの中をひた走る。その手には携帯電話を握りしめていた。
「だから何度も違うと言っているだろう!!  言葉が通じないのか!?」
『そう言っても、さっき電話があったんだ。今日シアンはLHに行ってるって言ったんだけど、好都合だから挨拶しに今からウチに来るってさ』
「くそっ、厄日だ!! 何としても家には入れないでくれ!!」
『いいじゃんか。邪険にしたら可哀想だぞ。ただでさえシアンはモテないんだからさぁ』
「やかましい! だったらお前が俺の代わりに‥‥いや、それもだめだ。想像だけで耐えられない」
『なんだ、ホントは好きなんじゃない?』
 電話越しに聞こえるキーツののんびりした声もまた、彼の心を逆立てる他なくなってしまった。
「家に着いたらお前も、ぶっ飛ばすからな!!」
 と、乱暴に通話を切って、すぐアイルランドのユキタケ伍長宛てに電話をかける。
 今彼が家に向かわなければ恐怖と現実が襲ってくるだろう、というのも理解しているし、仕事を放りだして自分の事に必死になっていることにも強い羞恥すら覚える。
 しかし、これを放っておいては彼の人生が終わるのだ。そうでなければ、対象が敵であれば自分は迷わず撃っているだろう。彼にとってはある意味敵ではあるのだが。
(「あれがキメラであったなら可能なのに!!」)『素手でゴーレムと戦え』と言われるほうがましだとシアンは思いながらユキタケ伍長への電話を取り次いでもらっている間、数日前の出会いを思い出す。

●回想

 あれはLH内。今から‥‥5日前の事。
 ここ数カ月間の資料と書類を事務所に届けようと思って、LHへやってきたシアン。
 忘れたものがないかと手元ばかりを見ていたせいで曲がり角で人と衝突してしまった。
「きゃっ!?」
 完全に前方不注意だった。シアンのほうは書類が数枚舞ったくらいで済んだが、相手は小さい悲鳴をあげてよろめき、尻もちをつく。
「すまない、大丈夫か」
 悲鳴の主は女性のようだったから、人としての善意で反射的に手を差し伸べるシアン。
 第一印象は背の高い‥‥骨太な女性。彼の目の前に尻もちをついたまま差し伸べられた手と、怪訝そうなシアンの顔をじっと見ながらぽつりと言ったのだ。

「‥‥運命の出会いって、信じる? あたしは信じるわ」
「は?」
 交わした最初の会話がこれである。シアンの身体に冷たいものが駆け抜けた。電撃ではなく寒気だ。
 わけがわからないままだったが‥‥思わず後ずさったシアン。彼の精神は何故か未知なる恐怖を訴えていて、身体は自然と引いてしまう。
「そんなに熱っぽく見つめちゃってぇ。あたしのあふれ出る魅力のせいねっ! 隠しきれないなんて、罪な女なんだから〜」
――なんだこの女は。
「身体は怪我もなく無事なようだな。それでは俺はこれで――」
「いやぁん、身体は無事かなんてぇ! 初日からガッつかないで!」
 これで失礼する、と言いたかった彼の言葉を遮って『きゃぁ』と頬を押さえながらイヤイヤと首を横に振りつつ期待に満ちた目を向けてくる。
 人の話を聞かないところ『だけ』は自分の兄と似ていたが、残念ながらこの女性とは意思の疎通が取れない気がする。
 頭は無事じゃなかったようだな、と思わず出そうになったのを抑え、詫びもとりあえずといった苦い顔でその場を去ったシアン。
 後ろからは『結婚しましょう!』とか大声で言っている今の女性の声が聞こえてくる。
 最近の女性は恐ろしい。ユキタケ伍長が『日本には恋愛にアクティブな肉食系と呼ばれる女子が多い』とか言っていたのを思い出すが、ああいった感じなのだろうか。
 もう会う事もないだろうと思っていたが、それが再びやってきてしまったのだ。

 それが3日前。比較的容易な討伐任務を受け、現場にやってきたシアンと能力者達。
 そこに、先日の女性が居たのだった。
「あなたはあの時の運命の人!? やっぱりあたしたち、赤い糸で結ばれているんだわ!」
 彼にとってはそんなものになった覚えもないのだが、嬉しさのあまりシアンに飛びつこうとする女性。
「この話が見えない突飛さ。この間ぶつかった女性か‥‥まさか傭兵だったとは」
 仮にこの女性と繋がっている赤い糸が見えるならば、ちぎって捨ててしまいたいくらいだと思いながらサッと身を躱すシアン。
 一人の能力者が、すまなそうにシアンへと声をかけた。

「その人、男です。名前は里中竜三っていって――」「ちょっとアンタ黙んなさいよ! あたしの名前は鵺! 心は乙女よ!!」

――つまり、そういうことらしい。鵺はバチコンとウィンクをしてくるし、こんな事なら下着の防御力まで強化しておくべきだった。ますます恐ろしいと感じるシアン。
 
●回想終わり

『――はい、ユキタケです』
 ユキタケ伍長に繋がったことへ安堵しながらこう切り出した。

「そっちに予定が空いている能力者が何人かいないか? 依頼料はキーツに支払わせるから、『対象に極力暴力を振るわず足止めする』という依頼を出してくれ」
『はぁ。それは構いませんが、一体何を』
 しばし黙ったシアンだが、観念したように答えた。
「君達の国でいう『オカマ』というやつが、何を勘違いしたか俺の家に来て家族へ挨拶をすると言ったらしい。今そちらに向かっているんだが、俺の人生を左右する一大事だ」
『‥‥それは、確かに一大事ですね‥‥』
「ああ。討伐してほしいところではあるが、足止め程度でいい、頼む。では」
 そうして電話を切ると、シアンはまた走り出したのだった。

●参加者一覧

リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
志羽・翔流(ga8872
28歳・♂・DF
草薙 涼(gb2336
25歳・♂・SN
平野 等(gb4090
20歳・♂・PN
皓祇(gb4143
24歳・♂・DG
フローネ・バルクホルン(gb4744
18歳・♀・ER
桂木穣治(gb5595
37歳・♂・ER
ウェイケル・クスペリア(gb9006
12歳・♀・FT
レベッカ・リード(gb9530
13歳・♀・SF
リアナ・シェリエス(gb9801
27歳・♀・FC

●リプレイ本文

●伏撃作戦ヲ敢行セリ

 アイルランドの首都ダブリン。そこへ降り立った能力者達。
「おー、中尉。ダブリン着いたぞ」
 ウェイケル・クスペリア(gb9006)が今回の依頼者シアン・マクニール(gz0296)へと報告する。
『そうか。是非とも頼んだ』
「色々と手段も考えてみるが‥‥本当に足止めしておいていいんだな?」
 それを横からひょいと引き取り、フローネ・バルクホルン(gb4744)が落ち着いた様子で依頼内容を復唱するように確かめた。
『ああ。速やかに発見し、撹乱の後に駆逐することを目的としている』
 立派に聞こえるような依頼内容だが、平たく言えば『家に来る前に捕まえろ』だ。
「そうか‥‥わかった。できるだけはやってみるさ」
 鹿爪らしい顔で通話を切ったフローネは皆へと向き直る。
「では、予定通り始めるとしようか」

●おかまいなく。

「なんでこんなに渋滞してるのかしら!? 未来の家族が待ってるっていうのにぃ!」
 能力者達が此方に着く20分ほど前より、時刻表と道路状況をせわしなく見つめてバス停に並んでいる(心は)乙女のオカマ傭兵、鵺。
 そうかと思えば鵺の家族に未来永劫なりえないというのに、マクニール家での幸せそうな未来を思い浮かべながら『やだ〜、どうしよう』とでかい体をくねらせてニヤついている。
 そのセリフは嫌悪の意味でシアンが言いたいところであろう。

「おっ、あそこにいるのがもしかして?」
 バス停まで早足でやってきた桂木穣治(gb5595)が、鵺を遠巻きに見つめる人々を指さしてフローネに教える。彼女も人だかりの中心人物を見てから『間違いない』と頷いた。
「んじゃ、面識ある奴にお任せするぜ」
 志羽・翔流(ga8872)が『俺たちは初見だしな』と肩をすくめる。
「‥‥ふむ、まぁ‥‥そうだな。やってみよう」
 と、先頭に立ってずいずいとバス停へと歩みよっていく姐御、フローネ。
「中々面白そうね‥‥鵺さん。どんな人か楽しみだわ」
 リアナ・シェリエス(gb9801)がくすりと笑い、これから起こる事に期待していた。

「‥‥おぅ、鵺ではないか。珍しいな、こんなところで。何かあったのか?」
 あくまで自然に声をかけるフローネに、はっと気がついた鵺。
「え‥‥あらッ!? フローネちゃんじゃないの〜偶然ねぇ? こんなところで何をしてるのかしら!」
 何をしてるのか訊ねたいのはむしろフローネのほうだっただろうが、主導権はフローネが握っている。
 鵺こそ何処へ? と逆に問いかけ、それに対し簡易説明をする鵺‥‥が着ているド紫のシルクブラウスを見、落胆の溜息をつくフローネ。
「‥‥相手の家に挨拶に行くにしては‥‥少々服が良くないな」
 鵺はショックで固まっている。
「ちょうど、グラフトン・ストリートへ彼女の服を買いに行くところだ。お前も一緒に服を買ってみてはどうだ?」
 ウェイケルをちらと見て言ったフローネだが、時計を見て渋る鵺を畳みかけた。
「まぁ、そのまま行って相手の親の心象が悪かったら、お前の恋路も即終了になるが‥‥それでもいいのか?」
「いやよぅ! アタシも一緒に行くわ! アフロディーテの再来と呼ばれるくらい綺麗な姿を見せるわよぅ!」
 それは止めてほしいなと心から思う男性陣であったが、鵺は拳をぐっと握り決意を表明している。
 それぞれ軽く自己紹介をしたところで、『では、行こうか』と、誘導を開始したのである。

●おかくれ御一行

 連行‥‥もとい、買い物に誘う一行を物陰から見守っていた後発隊。
「鵺嬢も、いろいろやってくれますねえ。海を渡ってまで‥‥。その情熱には頭が下がりますが」
 今回の依頼において、絶大な効力を持つ称号がある皓祇(gb4143)が苦笑しながら彼らの消えた方向を眺めている。
「何時もなら恋する女の子の味方なのですけど」
 今回はシアンに対する義理を優先してくれたのだろう。リゼット・ランドルフ(ga5171)もガイドブックなどに付箋を貼りながら困ったような顔をしていた。
 ノートPCをいじりながら、鵺に関する依頼書を眺めるレベッカ・リード(gb9530)が『中尉ってツイてない人なのかな‥‥可哀想』と首を縮こめ呟く。
「でも、なんか今からわくわくします!」
 どんな話しようかな、と平野 等(gb4090)だけが無邪気な笑顔で自分たちの出番を待っている。
「皆さん、これからゴスロリの専門店へ入るそうです」
 先発隊からの連絡に、地図を広げながら店舗を探し、『ここです』と赤丸をつける草薙 涼(gb2336
 連絡を頼りに、彼らは2時間後に落ち合う予定である。キャップを閉めたペンで自分の頬をつきながら、
「僕らにできる事は‥‥店のチェック、そして」
 その時のためにお腹をすかせておく事だけかな、と思う涼であった。

●引きとめるのも作戦

「やだわ、こんな時間じゃない! ゴメンなさいフローネちゃん、そろそろアタシのお家行かなくちゃ‥‥」
 ビジネススーツ系ショップに入ったときの事であった。時計を見た鵺が慌てたように言って、先ほど買ったゴスロリ服をフリフリさせながら顔の前で両手を合わせる。
『もうお前の家になってんのかよ』と翔流は口に出さないまでも思う。
「でもよ、そんなチャラチャラした格好じゃ親御さんも驚くんじゃねーか?」
「確かに。初対面の印象ってのは大事だからなぁ」
 ウェイケルの指摘と、素直に同意した親の身である穣治。
「そ、そうよね‥‥ピッとしてパッとしたほうがいいわよね。じゃ、これウェルちゃんにあげるわ」
 どうピッとしてパッとするのか分からないところだが、鵺の引き留めには成功したようだ。しかも自分の着ている服をこの場で渡そうとする神経も理解不能だ。
「こ‥‥これ着るのか?」
 自分に似合わないから、とやんわり断ったウェイケルもさすがにたじろぐ。年下にまで気を使わせているどうしようもないオカマ、鵺。
「いいじゃない。スーツならあなたに似合うものを私が選んであげるわ」
 ぐいぐいと鵺の手を取って、スーツを見立てるリアナとフローネ。
「足が長いから、パンツスーツがいいかしら?」
「タイトスカートも悪くはないと思うんだがね」
「でしょ〜? アタシ何でも似合うから困るわぁ♪」
 ウフッと言いながらなかなかにイラッとすることを平然としてくれる鵺。
 挙句の果てには男性陣へ色目まで使ってくるので、必死に彼らは視線を逸らす。
「これなんかどうだ? 似合うと思うんだが」
 ウェイケルも楽しそうに鵺や自分用のを選んでいた。
 ぽつんと残される男二人。
「我々もスーツ一緒に探しあいましょうか? ‥‥キャッ、これなら志羽さんに似合うかもッ★」
 わざと変な口調をして、グレーのスーツを見せる穣治。微妙な表情で首を振る翔流。
「ンな片っ苦しいモン着てられねーって‥‥ほら、荷物持ってやっからどんどん買いねぇ」
 と、鵺の荷物を渡すように言えば、鵺が『やっぱりアタシに興味があるのね!』そう思っていた、と斜め上の発言をする。
 笑顔を張りつけさせながら、心の中では嫌悪の言葉を呟く翔流。
 結局もう一件行った和服店で、フローネの『これなら、相手もおぬしのことを認めるだろう』というお墨付きで鵺の服は振袖に決まったのだった。
「うん、いいですなぁ、着物」
「うふん‥‥穣治ちゃん、アタシに惚れてもいいわよ?」
「えっ!? いや、ハハ、お互いのために何も聞かなかった事にしときましょう」
 しなを作って、女の色気(と鵺は思っている)を褒めてくれた穣治にアピールしたが、穣治の返答はかなり的確である。
 リアナもこっそり巫女服などを着、いでたちは大胸‥‥いや、おおむね皆に好評だった。
 男性陣がそこを見ていたかどうかについては、彼らに直接聞いたほうが良いだろう。

●そして追撃

「鵺さん‥‥ようやく会えました」
「え‥‥?」
 和服の店を出て数十メートル歩いたところで呼びかけられ、鵺はわが目を疑う。
 鵺にとってすぐにでも結婚していい(かも、しれない)男性――皓祇が居るではないか。もちろん後方に後発隊のメンバーも一緒にいるわけだが、そちらには気がついていないようだ。
「な、なんで皓祇ちゃんがここに? まさかアタシを追って‥‥?」
 お前のためじゃねーよ。と言いたいところだろうが、皓祇は優しげな微笑みと一緒に『ええ。貴女のお名前が出たもので、(止めるために)追いかけてきてしまいましたよ』と告げた。
 鵺じゃなくともイケメンからそんな事を言われれば勘違いするだろうが、鵺はとろんとした顔でボッフーと大きな息を吐く。
「シアンちゃんと出会ったアタシ、これは浮気になるのかしら‥‥」
 どうやら先ほどのドラゴンのブレスみたいなものは吐息であるようだ‥‥。
 言わなくてもいいだろうが、皓祇もシアンもこのオカマを愛していないので『浮気』という発想は鵺の勝手な幻想の産物である。
「買い物でお疲れでしょう。甘いものでもご一緒しませんか?」
 普通ならそこで挫けても誰も責めたりしないが、皓祇はなおも誘い続けた。素晴らしき精神力だと心の中で讃辞を送る男性達。そして等も持ち前の美声を発揮する。
「お噂はかねがね。可愛い人だなって思ってましたけど、実物はもっと可愛いんですね」
 じっと見つめてくる青年と、二発目のブレスを吐きだすオカマ。もはやその気である。
(「うわぁ‥‥見たどおり強烈な人だ‥‥」)
 そっと腕をさすりながら寒気を和らげるレベッカ。と、そこで鵺と目があった。
 ババッと瞬時に後発隊の顔を確認し、女性比率より男性が多い事が気になったらしい。
「きぃぃッ、イケメンを二人で連れ回すなんて許せないわっ! まさかアンタたち、あたしの皓祇ちゃんも狙ってるワケ?!」
(「どうしてそうなっちゃうんだろう‥‥」)
 事前に計画した口裏合わせや、ツッコミも忘れてきょとんとした顔をするリゼットとレベッカ。
 憤慨しているオカマは、皓祇たちのグループに自ら一緒に行くと言いだした。
 それはそれでしてやったりなのだが‥‥いまいち納得がいかないリゼットとレベッカを慰める。
「イケメンゲット‥‥いえ、素敵な男性とデートのために頑張るわ!」
(「‥‥今、イケメンゲットって言った」)
(「しかも、言いなおした意味も変わってない‥‥」)
 ともあれ一行は第二の足止め場所、喫茶店へと向かったのである。

●夢か現か

「これも中々、おいしいですね。お一口食べてみますか?」
「アラ、いいの? あなたもいただいちゃいたいわあ」
 目の前に涼の彼女がいるというのに空気も読めず、痛烈なセクハラ発言である。
「‥‥ッ‥‥!!」
『まぁまぁ! 後で! 後で!』
 覚醒して鵺に斬りかかりそうなリアナを慌てて制した仲間を隠すように、みんなで食べるご飯って美味しいですよね〜と言いつつ等が鵺に近づいた。
「今日は好きな人も一緒だし、格別に感じるなぁ」
「か、からかわないでよッ‥‥」
 からかってません、と言う等。迫られるという体験で微妙に照れているオカマ‥‥という構図はどうも見ていられない。
 見つめ合う二人は置いておくとして、次第に言葉少なになって視線を彷徨わせる仲間。
(「‥‥気持ちわりぃ」)
 翔流は先ほどから笑みを張り付けたまま堪えている。
 涼に至ってはリアナから『仕事が終わったら‥‥わかってるわね』と冷たく光る眼で語られる始末。一体誰が可哀想なのだろう。
「っ、ええと‥‥運命の人、との馴れ初めなどをお伺いしてもいいですか?」
 ようやく気がついたリゼットが話を振ると、嬉々として鵺は『シアンちゃん? それとも皓祇ちゃん? それとも‥‥』と次々に名前を挙げてきた。
「今は、別の人のこと想って欲しくないなー‥‥」
 返事に窮するリゼットをフォローするかのように、傾奇者もびっくりするほど見事に自分の役割をフルに使ってくる等。

(「‥‥っかし、運命の人、ねぇ」)
 ウェイケルも女の子。興味はあるのだが、鵺の感じる『運命の人』は(多すぎて)疑問が残る。
(「私には関係ないし。っていうか、あんまり関わりたくないし」)
 この知覚攻撃、仲間に効果絶大だとレベッカは目を覆いたくなる。
 仲間の大半が生ける屍となろうとしているときの事だった。

『‥‥もういいぞ。ありがとう』
 穣治の無線に、シアンからの着信があった。
 待ってましたとばかりに、鵺と等以外がガターンと勢いよく席を立つ。しかもほぼ同時。
「行こうぜ!! シアン中尉の家!」
 翔流が今日一番元気よく言い、鵺が忘れてたとばかりに口を押さえていた。

●いきなり最終回

「ようこそ。遠路はるばる来てもらって頭が下がる」
 マクニール家にたどりついた彼らを、門扉の前で腕を組んだシアンが待っていた。
「シバさん、ヒラさん。ここは若いものに任せるとしましょうか」
 ほっほっほ、とご隠居みたいな笑い声を出しながら、穣治が翔流と等に笑みを向ける。
「お手並み拝見、だな!」
 ニヤリと笑う翔流。その視線を受けたシアンは物言いたげに口を尖らせた。
「シアンちゃん〜! 待っていてくれたのね!! やっぱりアタシの運命の人だわぁ!」
 鵺は喉の奥からグフフと厭らしい笑いをこぼし、言い放つ。が、シアンの眼はすぅと細められた。
「悪いが、男とは恋愛できない。オカマも然りだ。里中竜三、俺の事は忘れてくれ」
「竜三じゃねぇ‥‥わよ! ああっ、酷い! シアンちゃんが女の純心を弄んで捨てるような酷い男とは思わなかったわ!! こっちから捨ててやるぅっ!」
 怒ったり泣いたり忙しい鵺。シアンにとっては相手に振られる形なので、モヤッとした気持ちのぶつけどころがない。
「鵺さん。僕ら以外に、きっとあなたにふさわしい方がきっといますよ‥‥」
「いっそ宇宙まで手を広げてみられては? 貴女を待っている方が見つかるかもしれません」
 涼と皓祇の慰めに、鵺はイヤだと拒否をする。
「いたとしても宇宙じゃ、ムダ毛のお手入れしたら宙を舞うじゃないの! 許せないわ!」
 相手にとっての不満ではなく、環境の不満は深刻らしい。

 その後、現場にやってきた伍長に鵺をLHまで強制送還させ、シアンの奢りで飲みに行ったのだった。
 宴の席で、リアナは先ほどの事を怒っていたが、皆に冷やかされて真っ赤な顔を誤魔化したり。
「‥‥で、誰が鵺と付き合うんだ?」
 あいつは黙って終わるようなオカマではないぞ、と恐ろしい事を言うので、一斉に等に視線が行く。
「あー、確かに好きですよ鵺さん。でも‥‥」
 等はキルケニーを美味しそうに飲みながら、『俺、みんなを大好きですもん』と無邪気に笑っていた。