タイトル:とある軍人とヒヨコマスター:藤城 とーま

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/16 03:31

●オープニング本文


●新手の生物兵器かッ!?

 今日のスケジュールの大半をこなし終え、シアン・マクニール(gz0296)は部下の日本人が帰省の土産に持ってきた銘菓『ひよ子』をしげしげ眺めていた。
 つぶらな瞳と丸いボディの焼き菓子をひっくり返しては考えている。
「頭から食うのか、尻から食うのか、これは‥‥?」
 日本人ですら大激論を繰り返してきた商品である。味は甘いにしろ、初見でそれを看破できるほどこの菓子は甘くないのである。
 大変に暇そうであるが、これでも彼は忙しく勤務していて、たまたま今回は息抜きの時間だったと思っていただきたい。

 どちらからでもいい、という本当にどうでもいい結論に至った頃、執務室の扉がノックされた。
「マクニール中尉、ユキタケ伍長です」
 ユキタケというのは、シアンにひよ子をくれた部下だ。快く入室を許可すると、彼はドアを開いたものの室内に入ろうとはしない。
「どうした」
「折り入ってご相談が」
 ユキタケ伍長は、こんな事を頼みたくないのですがと情けない顔をしながらこう言った。
「ひよこを、どうにかしたいのですが‥‥」
「ひよこ。これの事か」
 まだ食べていない焼き菓子を指して見せると、ユキタケ伍長は首を横に振る。
「自分が言ったのは生き物です。ニワトリの雛のほうなんです」
 歯切れ悪く言いながら時折そわそわする伍長。彼を呼んでいるのか、外から『ピヨ』と鳴いている声が室内にいるシアンの耳にも届く。
「はっきりと言ってくれ。ひよこが一体何だというんだ? 俺にどうしろと。処分してほしいのか、里親がわりに育てろというのか」
「‥‥できれば、かわいいので処分したくないんですが‥‥お許しください、中尉!」
 と、伍長は目の幅涙を流しながら廊下に駆け戻る。そういえば彼の趣味はバードウォッチングだったか。
 などと考えながら待っていると、外のほうから彼を呼ぶ声が聞こえたので窓を開けて外を見た。
 ‥‥そこに、ひよこを連れている伍長を発見した。
 シアンの目は驚愕に見開かれ、伍長の視線は申し訳なさそうにひよこに向けられていた。
 ひよこは確かにひよこである。しかし、それは通常のひよこよりもずっと大きかった。
 2メートルほどもある巨大ひよこで、黒くつぶらな瞳は不思議そうにあたりを見回しては、甲高い声で『ピヨ』と幾度も鳴く。
 ひよこが鳴くごとに窓ガラスが振動で震え、ついにはビシッと音を立ててひびが入った。

「ユキタケ伍長。冗談は大概にしてくれ。それはひよことは言えないぞ!」
 焼き菓子を皿の上に戻し、素早く引き出しを開けると中に入っていた愛用の拳銃を握って窓の外‥‥ひよこへ向けるシアン。
「それはキメラだ。きみとてそれくらい分別がつくだろう!!」
「待ってください中尉! このひよこは預かり物なんです!」
「預かりものだろうと野良だろうと同じ事だ! きみもだが、何故誰も咎めるどころか連絡すらしないんだ!!」
 激昂するシアン。それはもっともな事だろうと伍長は思いながら、続きを口にする。
「一般人から受け取ったのは『大きくならない(成長しない)ヒヨコがほしい』といったものの第一号商品なんだそうです」
「見ろ、十分失敗じゃないか。そもそも、そんなものがどうしてここにいる。渡したのはどこの誰だ」
「通販で買ったらしいのですが、大きくなったから苦情の電話を入れようとしても記載の店と連絡が取れない。店の住所には店がない。どうにもならないから、せめて飼育用の場所を作るまで飼えないので軍で預かってほしいとの言伝を受けたのです」
 そして、渡してきた若い男はガウバと名乗り、住所も電話も伝えて去っていった。すぐに確認作業に移った伍長だったが、それは偽名であり、偽の住所だったというわけだ。
 シアンは思わず頭を抱えた。その一般人らしき者も十分怪しいのだが、わかりましたと受け取るほうもどうなのだ。
 確かに大きくならず、かわいいままの雛は和むかもしれないが‥‥北伐の事もあるし、何よりここでは面倒見ることなどできない。と思った矢先の事だった。

「ピヨー!!」
 ひよこが一際高く鳴いた途端。

 めきめきと骨格が変化し始めているではないか!
 窓の外へ身を乗り出し、ユキタケ伍長に声を飛ばす。
「伍長!! そいつの様子がおかしいぞ! 建物内の非戦闘員全てをすぐに退避させ、能力者に‥‥ULTに戦力を要請しろ!」
「了解いたしました!」
 ユキタケ伍長が全力で駆けだすのを見ながら拳銃をひよこに向けて数弾発射するが、着弾寸前で赤い障壁に阻まれた。
「ひよこのくせにフォースフィールドとは生意気な‥‥!!」
 どこぞのガキ大将のような事を言いながらシアンは覚醒しすると、槍を掴み窓ガラスを叩き割って外に転がり出る。
 ひよこは既に、ひよこではなくなりつつある。
 柔らかそうな黄色の羽毛は抜け落ち、純白の羽毛を持つ雄鶏へと変化していた。尻尾からは蛇が生え、伝説の生き物を彷彿とさせた。
「‥‥『コカトリス』というものか? キメラも日々様々な種類が出るものだ」
 キシャァ! と、尾の蛇が鎌首をもたげる。
 この騒ぎを聞きつけて軍の仲間たちが援護に来るだろうが、一般武器による攻撃はフォースフィールドでほぼ無力化される。
 第一に優先するのは生存だが、人員避難の完了とULTの傭兵たちが到着するまで、このキメラを足止めして時間を稼がねばならない。

「卵が先か鶏が先か、など生まれる前から人間を困らせる生き物だな、ひよこというのは。
 さて、この場合も‥‥尻からか、頭からやればいいのか迷う」
 息を吐きながら、シアンはキメラが『見たものに対し石化させるような能力がない』事にだけは安堵したのだった。

●参加者一覧

瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
ザン・エフティング(ga5141
24歳・♂・EL
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
城田二三男(gb0620
21歳・♂・DF
フォルテ・レーン(gb7364
28歳・♂・FT
飲兵衛(gb8895
29歳・♂・JG
レベッカ・リード(gb9530
13歳・♀・SF

●リプレイ本文

●ユキタケ、たるんどる!!

「2m前後のヒヨコ退治、ねぇ‥‥」
「ああ? 巨大なヒヨコって何の冗談だ!? そんなもん基地に入れるって最近の軍兵はたるんでるんじゃないか?」
 飲兵衛(gb8895)とザン・エフティング(ga5141)は信じられないとばかりに声をあげ、レベッカ・リード(gb9530)が彼らから依頼書を受け取り、読みながら眉をひそめていく。
 (今回の騒動の原因である)ユキタケ伍長がULTに連絡を取り、すぐさま能力者を急行させてくれる運びとなった。
 が、当然事態を把握した能力者達も、軽い目まいや驚きは禁じえない。
「ヒヨコ‥‥私も可愛いとは思いますけど、流石に2m越えはどうなんでしょうか」
 リゼット・ランドルフ(ga5171)も見上げるほどに大きいヒヨコを想像し、小さいからこそ可愛らしいのだと何とも言えぬ表情をする。
「とにかく、キメラの排除が最優先事項なんだ」
 もう着いたぞ、と付け加えながら時枝・悠(ga8810)は合流地点まで出迎えに来た、泣きそうな顔のユキタケ伍長を睨むように見つめていた。
「来てくれてありがとうございます。早速ですが、あの‥‥どうぞよろしくお願いします」
 罪の意識はあるようで、すまなそうに頭を下げる伍長。
「ああ。当然遠慮も油断も容赦もしない――あんたにも」
 悠が冷たくそう言って、伍長のそばをすり抜けた。思わず振り返った彼へ、ザンが呼びかける。
「まあ良い。1人で戦っているのが居るみたいだし、さっさと行こうぜ」
 ようやく伍長はきゅっと顔を引き締めると、こちらですと建物の方向を指して駆け出した途端、鶏の鳴き声が聞こえた。

●にわにはにわとり

「コォケーーッ!」
「うおぉあぁッ!!」
 キメラと現在交戦中のシアンは長い髪を振り乱しながら槍を突きだしたが――キメラの胴体へは届かない。彼の槍に尻尾の蛇が巻きついてきたのである。
「体といえどエール(アイルランド)に蛇を持ち込むとは‥‥!!」
 毒づきながらやむなく手を離すと、素早く距離を置くシアン。キメラは大きな足音を立てつつ追い駆けてきた勢いのまま、体当たりを敢行した。
 とっさの判断により後方転回し紙一重で避けた彼だが、素手ではダメージすら与えられない。どうするかと焦りを感じていたところで‥‥待ち望んでいた彼らがやってきたのだった。
「ヒヨコがコカトリスに変化‥‥って! 実際見るとデカイな、おい」
「ヒヨコ通り越してもう成体って感じだな」
 ザンがハットを押さえながら見上げ、飲兵衛もキメラの頭部を指して『トサカもついているし』と付け加える。

「中尉!! 状況はいかがですか!?」
「窓ガラスの9割は取換えなくては。しかし一般の死傷者・避難遅れも皆無。俺もたいした傷は無い」
 伍長の言葉にキメラを見据えながら返すシアン。
「それは幸いです。窓ガラス以上の被害が出る前に倒すだけですね」
 リゼットが確認するように頷き、武器にそっと手をかける。シアンも無事なようだったので、すぐさま殲滅行動に移る。
「待って。今強化をかけるから、行きすぎないでね」
 レベッカが覚醒し、ぎりぎり全員が届く範囲内で拡張練成強化を使用する。
「ありがとう‥‥先行します」
 瓜生 巴(ga5119)は簡潔に礼を述べると長い距離を疾走し、丁度良いところでカプロイアM2007を構え、狙撃眼を使用して射程を延ばす。
 傍らを駆け抜けていくフォルテ・レーン(gb7364)や城田二三男(gb0620)らの足音を確認しつつもまだトリガーは引かず、その先‥‥拳銃を取り出すシアンと、彼に近づくキメラの挙動に集中した。
(「味方に当たらないよう集中しなければ」)
 シアンに攻撃を繰り出す一瞬を逃すわけにいかない。一歩間違えれば仲間の身にも危険が及ぶと理解したうえで常識ではなく、確実性を重視する事にしたのだ。
 呼吸と精神を落ちつけ、じっと待った好機‥‥キメラがシアンをクチバシで突こうとした瞬間。
 ピィィー、とフォルテの笛が鋭く鳴り響いた。
 キメラはくるりと彼らのほうへ頸を向け、動きを止めている。
(「ここしかない!!」)
 巴は影撃ちも組み合わせて狙撃、続けてもう一発撃つ。
 銃より解き放たれた空薬莢が地に落ちて乾いた音を立てる頃、キメラの頸の付け根あたりから血が噴き出している。
 巴は ほう、と短く息を吐き、遠距離からの先制攻撃が成功した事にかすかな安堵を得たのだった。
「クォワァァーーッ!!」
 頸の痛みにキメラは苛立ちの鳴き声を発した。鳴き声は振動となり、耳を通り抜け、脳を揺さぶる。
「うー、みんな早すぎ‥‥しかもキメラ煩いし」
 レベッカはそう言い、耳を塞いで耐えながら近づいていく。
「あれ効くなぁ‥‥耳栓が欲しいところだ」
 耳障りな声のせいで集中を削ぎ取られつつも、飲兵衛は適当な位置で射撃準備をしながら頭を軽く振る。
「回り込みます! ご注意を!」
 その間にキメラへ接近したリゼットが、キメラの喉元を狙って攻撃を繰り出し、
「鶏の鳴き声は苦手でな、さて、何発ぶったら黙ってくれるか」
 あまりに騒々しい鳴き声に、辟易した顔の二三男。彼のハンマーがキメラの胴にめり込むように入って、さすがのキメラもよろめいた。
「頭か尻か‥‥まあ良いか、どうせどちらの首も斬り落とす」
 悠は仲間の狙撃ラインを邪魔せぬように注意を払いながら紅炎を振るう。
 攻撃されて一瞬ひるむキメラの姿がちょっとばかり可愛らしくも見えたが、無論手心など微塵も加えたりはしない。
「じゃ、俺は尻尾から取り掛かるとするさ」
 ザンはそう応えると、キメラの尻尾‥‥蛇を切り落とさんと攻撃を加え始めた。
 執拗に攻撃を加えられている尻尾はザンの喉笛に食らいつこうと牙を剥いて襲いかかったが、その大きく開いた口には、援護する飲兵衛の狙撃弾が突き刺さる。
(「ええい、蛇め、うっとおしい!」)
 思いのほか長さのある尻尾攻撃に気をつけながら脚への攻撃を狙っていたフォルテへ、怒り心頭なキメラのクチバシが降ってきたが、
 それが触れる瞬間に彼は急所突きをカウンターで喰らわせ、悠と二三男がキメラの胴体へ流し斬りを両脇から喰らわせる。
 羽毛と血汁が舞い散り、痛みにのたうつキメラの体当たりを素早く回避した。
 後方から頭部を狙った飲兵衛とレベッカの銃弾が次々に打ち込まれ、立派だったトサカも穴だらけになってしまっている。
「まったく、ひよこから変化って冗談みたいなキメラの癖に、中々堅いな」
「二人で斬ってみりゃ、いけるんじゃないか」
 動き回るせいかなかなか斬れない尻尾をザンとフォルテが見つめながら言い、
 ザンはこれでどうだとばかりに布斬逆刃で渾身の力を込めて切りあげ、フォルテは紅蓮衝撃で振りおろすと――とうとう蛇の尻尾が斬り離されて地に落ちた。
「尻尾が切れちゃったら、なんだか見慣れた姿ですね」
 あらまぁ、とリゼットが目をぱちくりとさせて呟く。
「‥‥要するにただでかいだけの鶏か。ま、たまにはこういう単純な奴も悪くはないな」
 おまけに鳥頭だった、と二三男は残念そうな響きを乗せて呟いた。二人が言うように実際でかいニワトリなので説明はあえて避けようと思う。
「今夜の晩御飯は焼き鳥にでもしようかな」
 食べたくなった。と飲兵衛がぼそりといった晩御飯チョイス。
「そんじゃさっさと料理しよっか! 食べるためにもさぁ!!」
(「え‥‥今『食べる』って言った!?」)
 早く倒そうという気持ちは同じなのだが、キメラを料理するといったフォルテの目がきらーん、と光ったよう巴には見えた。
「フン、いい加減喧しいからさっさと沈め」
 それを聞いていたのか聞いていないのか定かではなかったが、二三男が100tハンマーを握り直すと、思い切り振りかぶって腰の入ったスイングをする。
 100tに満たない重さではあるが、それでも非常に重い衝撃を食らったキメラはとうとうドサリと倒れた。

●裁きと捌きとクッキング。

 リゼットが救急セットを持って仲間に傷がないかを見てくれている中‥‥
「ありがとう。君達が来てくれて本当に助かった」
 自分の槍を拾い上げ、覚醒を解いたシアンは素直に頭を下げて感謝の意を示す。
「別に。そういう依頼だし」
 ぶっきらぼうに答えた悠だが、口調の割に表情は幾分優しい‥‥が、すぐにすぅっと目を細める。
「あの伍長が余計なことしなかったら、今回は無かったかもしれないし」
「ああ、そうだったな‥‥さて、伍長」
 指摘されたシアンも冷えた声音で元凶の伍長を呼び、手招きをする。
 ユキタケも一瞬身体をこわばらせたが、シアンの側にやってくるとお騒がせしましたと謝罪した。
「全くだぜ。可愛いからって日和ってんじゃねーぞ、ったく」
 ザンがユキタケへ説教をする一方では、フォルテと飲兵衛がいそいそとキメラの死体に近づいていた。
「おぅい、こいつでバーベキューしないか? 食い応えがありそうだぜ」
「毒は無かったようだが食うのか、これを‥‥」
「見た目鶏だし、一応ヒヨコから育ったわけだから‥‥まぁ大丈夫、かな?」
 食えるのだろうか、とまじまじキメラを見つめるシアンだったが、大丈夫だろうという判断をレベッカと共に下す。
「任せろ!! 伍長には特別にいいもん食わせてやる!」
 ニカリと笑い、すらりと刀を取り出してキメラ解体を始めるフォルテ。
「まずはドラムから!」
 最初は手間取っていたようだが、要領を得たのかなかなかの手つきでこなしていく。
「次に胸、手羽、ササミ! 砂肝! 蛇はどうするか、テリヤキにしてやろうか」
「唐揚げとかいいかも」
 雑談を挟みながらぽい、ぽいと調理助手(?)飲兵衛に投げ渡していく。
「本当に、食べるつもりなんでしょうか‥‥」
「う‥‥あんな適当な蛋白質とりたくないし」
「や、俺も遠慮しておくぜ」
 肉の焼けるいい匂いが漂い始めた頃。リゼット、巴、ザンは遠巻きにひそひそと話していて、フォルテらに手を貸さないが観察するように二三男は調理を見届けている。
 悠は退屈そうにあたりの景色を見つめていた。

「――と、言うわけで‥‥罰だ、これをどうぞ」
 ずいっとユキタケに差し出したのは、キメラの身体の一部だろうが、生である。
「ど、どういうわけですか?! ていうかこの、なんかつるんとしてプルンとしてるのは‥‥肝?」
「鶏の脳だ。いいから食え。新鮮さは保証できる」
「いやだーーー!! せめて焼いて!!」
「嫌 で も 残 さ ず 喰 え」
 まだ何か言おうとする伍長だったが、フォルテの勢いに抗う事が出来なかった。
「助けてー! 中尉!」
「許せ伍長。俺にはどうにもできん」
 その直後恐ろしい悲鳴が聞こえたが、シアンは顔を背けると眼を閉じて十字を切る。
 うち捨てられた伍長が可哀想だったので、レベッカはGooDLuckでもかけてやろうかと思ったが‥‥事件が起こった後では無意味だと思い直した。
「‥‥さて、今晩のオカズは完食できるかねぇ〜」
 砂肝〜、と言いながら嬉しそうにフォルテは焼き加減を確かめ、二三男が近づいて覗きこむ。
「‥‥しかしいつからなのか、キメラを食うのが普通になったのは‥‥」
 不思議そうに言う彼に、はたして皆こうしているのか首を傾げる悠。
「これだけ大きいと全部は食べれないだろうけど‥‥食べる気満々みたいだね〜」
「真剣かよ、ヤバイだろ」
 遠巻きに眺める仲間に、食べるかと肉の切れ端を差し出すフォルテだったが、
「いえ、おなかすいてないのでっ」
 巴が激しく拒否をし、リゼットもこくこくと頷いた。
「腹に入れば一緒じゃないの? うまいぞ」
「確かにな。まぁ、鶏肉はどこから食ってもうまい」
「ん。同感」
 と、焼けたものからもぐもぐ食べる三人。これで酒でもあれば言う事は無いのだろうが、任務中ゆえ飲酒は我慢していただこう。

●ひよ子。

「ヒヨコが、ヒヨコが‥‥」
「キメラなのは明らかなんだから‥‥可愛くても涙を呑んで処分するべきだったと思うよ」
 いたたまれなくなったレベッカが、伍長に慰めの言葉をかけてやる。シアンも伍長の肩に手を置いて、焼き菓子の乗った皿を目の前へと見せた。
「泣くな伍長、これも一種の報いだ。『ひよ子』なら君から貰ったものがある。食べるか?」
「いりませんっ!」
 差し出された皿にちょこんと乗っているひよ子を見て、わっと泣き出す伍長。
 どうやらしばらくそっとしておいたほうがいいだろうと判断したシアン(の手にした皿)へ、悠やレベッカが目を向けていた。
「ひよ子美味そうだな。いやキメラの方でなくて。そっちをくれないか」
「ひよ子? ひよ子があるの? えっと、食べたいかな〜‥‥なんて」
 上目遣いのおねだりに負けたわけではないのだが、すぐにスッと差し出す。
「どうぞ。たくさん貰ったからな」
 そうして差し出した皿に手が伸びてきた。二人以上の手だったが、そんな細かい事は気にしない。
「これが本場のひよ子かぁ」
 嬉しそうな顔をし、口に運ぶレベッカ。どうやら彼女は頭から食べるらしい。
 ひよ子を食べている彼らの前へやってきた飲兵衛は、ひよ子を掴むと包み紙を開けて、丸ごと口に入れたではないか!!
 そして悠は胸から食べている。
「‥‥なるほど、そういう食べ方もあるのか」
「背中側を掴んだら自然とそうなると思う。ならない?」
 人それぞれで参考になったのだが、後々自分もやってみようと思ったところで、彼の食べる分は無くなっていたのだった。