タイトル:コンテナマスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/06/20 00:51

●オープニング本文


 南仏の某港。ここは地中海航路の物資の中継地であり、平時には商船が多数出入りしている。戦時下の今も変わらず、ただし対岸がアフリカということもあって、商船にはUPC軍の護衛は欠かせない状態ではあるが。また、現在はUPCの軍港としても機能している。

 その日、たまたま公務でこの港へ出張していたのは、UPC欧州軍情報部武官付将校でもある、ラフィン・ドレイク。ULTオペレーターのレニファーの兄でもある。いざ、仕事を終え、帰ろうとしたそのとき、緊急事態を告げる連絡が彼に届いた。早速、軍の詰め所へ向かう。

「いったい、どうしたんですか?」

 年齢の割りに、落ち着いた低音で、物静かな口調で尋ねる

☆☆☆☆

 聞くところによれば、まもなく入港予定の某貨物船の積荷のなかに、バグアがキメラ入りの積荷をコンテナの中に紛れ込ませたらしいということだ。もともとあった正規の積荷が、出航地近くで発見され、また、出航地の港に、親バグアとみられる人物から、犯行声明文と思われるものが届けられたことから、発覚したらしい。キメラとなれば、UPC軍も簡単には手が出せない。港には民間人も多数いる。たまたま、現地にいたラフィンに状況確認も兼ねて声がかかったというわけだろう。

「ということは、対キメラ戦を想定しなければならないということですね。」

 とラフィンは、冷静さを保ちつつ、落ち着いた声でつぶやいた。この時、すでに彼はとるべき手段を決めていたのである。

「直ちに傭兵の派遣を依頼しましょう。彼ら到着まで、厳戒態勢は解かないでください。あと当該船は、できれば他の船から離れた桟橋に接岸させてください。可能ですか?」

 電話機に手を伸ばしつつ、振り向く。可能だとの返答を聞くや否や、受話器を取り上げた。そのスマートさに、周囲に居たものから、信頼のまなざしが寄せられていた。

●参加者一覧

幡多野 克(ga0444
24歳・♂・AA
篠崎 公司(ga2413
36歳・♂・JG
瞳 豹雅(ga4592
20歳・♀・GP
諫早 清見(ga4915
20歳・♂・BM
望月 美汐(gb6693
23歳・♀・HD

●リプレイ本文


 その貨物船はラフィンの指示に従って、港の一番はずれの桟橋、そう、どちらかと言えば寂れたような場所に接岸されていた。貨物船とはいうものの、普通イメージする貨物船よりうんと小さく、コンテナが十数個も積まれれば満載となってしまうような、どちらかといえば大型の漁船のようなサイズである。問題のコンテナは船に積まれたまま、誰の手にもふれない状態でそのまま置かれていた。傭兵たちは港の係員に案内され、その船にゆっくりと歩を進めていく。

「よろしくお願いします。急ぎの荷物もあるので、あまり時間がないんです」

 と中年の体格のいい、港湾長らしき男が傭兵達に話しかける。途方にくれている様子がありありとその脂ぎった顔に表れていた。話しかけながら、彼らに積荷の目録と船内図を手渡す。

「積荷にキメラねえ‥‥。しかも犯行声明付。大胆というか、うかつというか」

 男を無視するかのようにひとりごちつつ、歩を進めるのは幡多野 克(ga0444)。常にポーカーフェイスの彼は、内心を決して顔にはださず、その表情をほとんど変えないのだが、内心は心臓バクバクなのは内緒である。そんな彼と並んで歩いているのが、瞳 豹雅(ga4592)。

「犯行声明があからさますぎです。狂言ではないでしょうが、それにしても‥‥」

 と誰が聞いているでもないのに、自分自身に話しかけるようにつぶやく。その身のこなしはかなり身軽そう。聞けば忍者修行をしていたらしい。手元にはさきほど受け取った船の積荷目録。そこには極ありきたりの品物の名前がズラリと書き込まれていた。さらにそんな2人から、多少距離をとって歩く3人。まずは篠崎 公司(ga2413)。企業の研究畑出身の彼にとって、どんな事態でも常に冷静に分析を心がける性格。その為、事前に各コンテナの配置も調べてきたという念の入れようである。これからおきるであろう事象について、いろいろと思いをめぐらしつつ、ときおり天を仰ぐような仕草。

「何が目的なのか今ひとつわかりませんが、積荷にキメラとは。いずれにしてもさっさとかたづけましょう」

 とは諫早 清見(ga4915)。その手には、港の係員から借りたとみられるバールがひとつ。これで箱を開けようということらしい。万が一のことを考え、貨物船の船内図を依頼しておいたのも彼だ。‥‥そんな彼らとは、見るからに異なる風貌、いでたちでしんがりを歩いてくるのは望月 美汐(gb6693)。ドラグーンである彼女はすでにAU−KVを全身に装着した格好で、見るからに重々しい。いざキメラ戦になった際に、他の傭兵達の盾的な役割を担おうということらしい。その手には、やはり箱をこじあける用に使うとみられる工具。AU−KVの片手に工具、とはあまり見慣れぬ光景に感じられるといえば、いいすぎだろうか

「テロリストにしては、お粗末ね。この港、すなわち水際で食い止めますよ♪」

 と余裕たっぷりの表情で、鼻歌交じりでゆっくりとコンテナ船の方へ進む。絶対の自信がそこにはみなぎっていた。‥‥かくして、5人の傭兵達によって、コンテナの中身があらためられ、積荷に紛れ込んだキメラがいぶりだされていくのであった。


 桟橋に係留されている貨物船には、すでに彼らのためによじのぼり用のはしごがすえつけられていた。さらには、おそるおそる遠巻きに見守る港湾作業員もちらほら。もちろん周囲は厳戒態勢で、一般人立ち入り禁止になっていた。万一にそなえ、バリケードのようなものも。もっとも、キメラに役立つとは思えないが、多分気休めにおいてあるのかも知れなかった。船に積まれたコンテナの数は12基。見た目はみな同じで、大きさからは何も区別がつかない。下から見上げると荷主のものと思われる荷札がちらり、とみえる程度。

「コンテナを開けるのでしたら、たしか専用の工具が必要なんですよね」

 と望月。コンテナは通常鍵での封印がしてあるので、開封するには鍵を破壊する必要があるが、その工具を事前に準備しておいたらしい。手回しのいいことだ。

「バールでもいけるよな?」

 と諫早。本来は木箱を開けるものだが、鍵を破壊するのに使おうというわけ。

「まあ、大丈夫でしょ。」

 と瞳。能力者の力を持ってすれば、道具の差などたいしたことないのであろう。‥‥ゆっくりと順番にハシゴを上り船上へ。そばで見るコンテナはそれなりに大きいし、船の上も思ったよりは広いが、地上からはやはりかなりの高さがある。落ちないように注意が必要だと、傭兵たちが皆あらためて思う。傭兵といえど、海に落下すればただではすまないことは想像できたからだ。


 さて、行動開始である。とりあえず2班に分かれ、12基のコンテナを1基づつ慎重に鍵を壊していき、扉をあけ、中身を確認する作業。犯行声明どおりなら、キメラは木箱に入っているので、いきなりコンテナを開けても不意に飛び出してくることはないとは思うのだが、

「奴らが、木箱を壊して飛び出しているかもしれないから、用心にこしたことはない」

 という幡多野の意見で、コンテナを開けるタイミングで、後方から篠崎がクロネリアで即射できる態勢をとりつつ開けることにする。射程の長いこいつなら飛び出されても食いつかれる前に狙撃可能だからだ。もちろん、他のメンバーは開けた扉の影になるように位置取りをする。1基あけては確認しまた1基あけては確認するといった、地道な作業。開けるたびに身構え、また身構えの繰り返し。想像以上に慎重さを要する作業。やがてコンテナのひとつが開けられると、そこには、見るからにそれとわかる木箱。さほど大きくはないのだが、多少形がゆがんでいて、ガタガタと内部で何かがうごめいているのが誰の眼にも明らかな木箱。他の普通の荷物の木箱と見た目はかわらないそれはあきらかに内部に「爆弾」をかかえていることを意味していた。

「‥‥あれ、ですね」
 
 と幡多野。幸い木箱はまだ壊されていないようであった。同じように、篠崎たちの開けたコンテナの中にも、これはさらに断続的に大きく振動しているように見える木箱もみつかった。

「では、マーキング、っと」

 篠崎が港湾作業員から借りた、スプレーペイントをコンテナに吹き付ける。あまりはでにやるとあとでペンキを落とすのが大変なので、最低限の目印程度にスプレーし、さらにスプレーしたコンテナはもう一度扉をしめ、工具等を使って、念のためつっかいをしておく。こうしておけば、キメラがふいに飛び出すのを多少でも阻害できると考えたからである。かくして12基のコンテナの中で、4基のコンテナの中に、怪しい箱が4つ。御丁寧にも1箱づつ分けるとは、かなりの手間をかけたようだ。ご苦労なことである、と思わず言いたくなるようなやり口である。

「4基に4箱ね。手間隙かけて、お疲れ様、とでもいいたいわね」

 と望月。全部のコンテナの確認が終わって、心の準備と戦闘態勢をととのえつつ、船上で小休止。

「さてさて、どんなトラップをしかけていただいたんだか。まあ、楽しみといえば、楽しみ」

 と瞳。何か想定外の事態が起きることを期待しているかのような口調。単純作業は退屈してしまい苦手と見える。

「‥‥後方援護は、スナイパーにまかせよう」

 と篠崎を見やり、小さく頷く幡多野。心得た、と目で返す篠崎。‥‥かくして傭兵達の戦闘準備は心体ともにスイッチがはいったのである。ギリギリまで錬力を温存していた者達も一斉に覚醒し行動を開始する。


 さて、キメラ退治である。さきほど、マーキングしておいたコンテナへ全員で向かう。横に4人。その背後に篠崎が、即射体勢をとりつつ。慎重にコンテナを開ける。キメラの奇襲にも十分備えつつだ。まず1箱目。「砂錐の爪」を靴に装備している諫早が、まず、キメラの入った箱を開ける、というか叩き壊すという動作。緊急の場合は、その足で直接攻撃しようという魂胆だろうか? ‥‥バガン、という音とともに、あっさり箱が壊れ、中から何かが2匹勢いよく飛び出してきた。それは4つ足の小型犬のような風体のキメラだ。うなり声をあげるやいなや、傭兵たちに飛び掛らんとする。だが、十分に態勢を整えている傭兵たち。間髪いれず相手の攻撃を見切る。
 
「素早いだけでは、攻撃にならないよ」

 とばかり幡多野が月詠を一閃。他の傭兵たちも続く。手だれの傭兵5人相手では、犬キメラなど、雑魚と変わらない。瞬く間に骸というか肉塊となってそこに転がった。まず、2匹。AU−KV装備の望月が、一応、他の傭兵達の盾代わりになる手はずだったが、この程度の相手ではそれも必要なさそうである。仮に、逃げ出そうとしても、篠崎の長弓が確実に急所を射抜く。巧みな連携で、キメラにまったく隙をみせない攻撃である。‥‥2箱目。こちらも、小型犬型が2匹。いささか歯ごたえはないが、仮にもキメラである。放っておくわけにもいかない。

「歯ごたえないですね‥‥退屈ですね、これは」

 とか言うほどの余裕を見せ相手を屠る瞳。これで4匹。残るは2箱。意外と簡単にカタがつくかも知れない、と思い始める傭兵たち。

「キメラとは言っても犬だから、多分泳げるよな。海に飛び込まれるといろいろたいへんだろうな」

 と眼下の海面を見つめながらつぶやく諫早。高さはあるが、下は海である。もっとも逃がすようなヘマはするつもりはないだろうが。‥‥3箱目も犬キメラが2匹。こちらは実際に海に飛び込みんでにげようとする動作をみせたものの、傭兵たちに進路を阻まれ、望月の「3段突き」の餌食となって敢え無く討ち取られた。あと1箱。いよいよ大詰めである。最後の最後でヘマをやらかすわけにもいかないので、さらに気を引き締める傭兵たち。

「うわ。こいつはボスキャラクラスかい」

 となにやらうれしそうな傭兵達。最後の箱にはトカゲタイプの、今までの相手とはちょっと違うぞ、といわんばかりのツラ構え?のキメラが3匹。

「注意して。こいつは酸をはくかも」

 とは望月。傭兵としての経験が、その姿形をみてとっさにそう思わせたのだろうか。AU−KVの頑丈さがいよいよ役立つときが訪れたようだ。見た目それは、あきらかに手強そうな相手に見えた。


 シュー、と何か吐き出すような音。トカゲキメラの口元から、なにやら煙のようにも見える、液体のようなものが吐き出された。酸だ。それは確実に強力で、キメラの入っていた木箱がジュワ、と音をたてて泡立った。

「!!」

 AU−KV装備の望月ではあったが、その液体が盾代わりの彼女にふりかかった。鼻をつく異臭。AU−KVにかかったそれは、確かにそれを蝕ばもうとしたのである。だがその装備ゆえか、彼女の身にはダメージは及ばなかった。間髪いれず、間合いをはずす傭兵達。わずかではあるがその酸は、幡多野、瞳の体を掠めた。不覚。

「ち!」

 かすかではあるが、ダメージを受け、服の袖の部分が異臭を発し、溶けた。さらには狙撃を狙っていた篠崎にもそれはふりかかった。予想外の到達距離だ。だが、傭兵達にたいする被害はこれだけだった。覚醒し、特殊能力を発揮した傭兵達にとって、それは退屈な中の適度な刺激でしかなかった。確実に急所を捉える幡多野。適度な刺激にかえってやる気がみなぎりだした瞳、流し斬りで確実に相手にダメージを与える諫早、「セリアティス」が「竜の爪」でさらに破壊力をました望月。相手は3匹だったが、酸の攻撃さえ見切ればあとはたいしたことないというその場の判断が、彼らに余裕と自信を与えた。幸い動きがあまり早くない相手の背後をとるのはたやすいこと。正面にさえ立たなければいいのだ。酸の攻撃は距離はそこそこでるが範囲が狭い、そのことが何撃かのコンタクトではっきりすると、あとは彼らにとっては雑魚に等しい。‥‥。3匹すべて肉塊となるまでさほど時間はかからなかった。

「ふう。最後はちょっと楽しめたみたいね。まあ、ハヤニエにはちょっと時間かかったけれどね」

 と大きく息を吐く望月。幸い被害は軽微で応急セットを使うまでもないようだった。

「‥‥。穴あいちまった‥‥」

 袖口が溶けた服にちらりと眼をやるも、すぐに視線をもとに戻す幡多野。そう、これですべてがおわったのである。幸い他の荷物にもほとんど被害はなく、船自体が傷つくこともなく戦いは終わったのである。これで依頼達成である。安堵の表情が見え始めだした傭兵達。そんななか、緊張が緩んだのか‥‥

「腹減ったな」

 と誰に聞こえるでもなく、一人つぶやくのが幡多野であった。彼の大食いの虫がうずきだしたのであろうか。そのとき彼は、脳内で甘い物でも妄想していたに違いない。