タイトル:【RAL】西王母護衛マスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/03 19:57

●オープニング本文


 北アフリカの某所。地中海沿岸。少し正確に言えばチュニジアとアルジェリアの国境付近。
対岸の欧州本土からは地中海を超えればここまであっというまである。

 【RAL】においてアルジェリア国内からマリ国境方面へ向けて進軍するUPC欧州軍とその主力とする地上部隊。彼らが拠点とするのはアルジェリア南部に設置された防衛ライン上に展開する人類側の基地。だが沿岸部からは相応の距離がありその兵站線を確保するのも戦闘継続のための重要な手段であった。そんな現地の状況から、欧州軍が急遽派遣を決めたのが、かの『西王母』である。多目的輸送機として、そのあまりある巨体を利用し、大量の物資弾薬や燃料などをまさにピストン輸送することを目的としてここ北アフリカの地にも派遣されてきたのだ。

 同時にそんな西王母をまさに護衛する任務を帯びて今回帯同している傭兵達の乗るKV群。いくらアルジェリアが人類側支配地域になったとしても丸腰で西王母が欧州から飛行するにはあまりにも危険すぎる、というわけである。この西王母、KVの護衛の元無事にアルジェリア沿岸の中継基地に到達後は、さらに物資弾薬を満載して新たな護衛の元、前線基地へ向かう手はずになっている。

 この西王母。現在は護衛するKV達の為に、空中給油機としての役割を担うため通常通りに空中給油用のマニュピュレーターを装備し、KVの為の燃料を搭載している。西王母に随伴する彼らの任務は地中海上空を飛行中の西王母の安全とここらあたりの空域の哨戒もかねているのである。作戦上途中で地上に降りられないKVにとって、飛行中に消費した練力を順番に西王母へ帰還することによって補おう、というわけである。いざ敵機との交戦となればその消費する練力はバカにならないからだ。

 そのとき、ひとりのパイロットが燃料計の針にちらりと目をやる。そしてそろそろ西王母に戻って給油する時間がやってきたことを知る。それは他のKVの燃料も同様であることを示す物。すみやかに秩序よく給油に戻らねばならない。西王母で給油できるのは1回につき1機。時間のロスなく給油するには傭兵達の上手いチームワークも必要としていたのである。

 だが。彼らはもちろん西王母の乗員にとってもこれから彼らの身に襲い掛かるであろうことをこの場で予測することはできなかった。それは今までの飛行が時には退屈過ぎるぐらいに感じられていた彼らにとってはある程度致し方のなかったことか。なにせここに来るまで彼らの行く手を遮るものは何一つなかったのだから。‥‥8機のHWがまさに彼らに向かってその牙を向けるべく突き進んでいたことを。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
ヘルヴォール・ルディア(gc3038
20歳・♀・CA
イレイズ・バークライド(gc4038
24歳・♂・GD
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF

●リプレイ本文


 西王母前方10km。高度2000mを飛行中の8機のKV。ここまではまず順調な飛行だった。絶対的制空権があるわけでもないのだが、HWの襲来も今のところはない。傭兵達はともすれば退屈さが沸き起こってきそうになるのを必死でこらえたりもしている。
 そんな傭兵達だが、そろそろ練力が気になりだしてくる。西王母に一度帰還、給油が必要な時間帯に差し掛かる。その間現在のフォーメーションが崩れるので、巧みな連係とチームワークで陣形の綻びを修正しなけばならない。全ての機体が補給を終えるまで約10分。
 
 その頃。彼らのレーダーの範囲外から急速に接近する機影。むろんまだ西王母やKVが気が付く距離ではないのだが、2機の新型中型HWに統率された6機の小型HWが遮られるもののない蒼空を軌跡を描きつつ突き進んでくる。
 すると。いきなり8機の機体が2手に分かれるように進路を変える。中型1機と小型4機、そして中型1機と小型2機の2組に分かれ、5機の方はそのまま直進し、残りの3機は大きく進路を変えるのだ。
まるで何かをすでにその高性能レーダーで捉えたかのように。そしてその後2組の機体ともさらに速度を上げ蒼空へと
消えていくのであった。

 同じ頃。そんなHWの動きに気づくこともないまま、あらかじめ決めておいたローテーションに従って西王母へ帰還を開始する傭兵達。最初に補給の為に西王母へ向かったはドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)とその護衛にあたるヘルヴォール・ルディア(gc3038)。ドゥが補給後はヘルヴォールが給油を行う手はずである。こうして無駄な時間のロスをなくすべく効率のいい給油を行う予定だったのだが‥‥。


 そして‥‥それは不意にやってきた。

「敵、HW急速接近中。機数複数。直進してくるぞ!」

 ともすれば退屈な時間が流れようかというその刹那、突如として警報アラームが鳴り響き、西王母のレーダー員の眠気を覚ますような甲高い声がKV内に響きわたる。一瞬にして体内をアドレナリンが駆け巡る傭兵達。それは4番目に給油したアーク・ウィング(gb4432)が帰還するのとほぼ同じタイミングであった。

「まったく練力も残り少ないというのに、厄介な時に現れたモノだな。仕方ない。西王母を落とされでもしたら、全員そろって愛機を捨てなくてはならなくなるからな」
 榊 兵衛(ga0388)が厄介ごとに巻き込まれた、というような表情で呟く。彼の補給は8番目、すなわち最後である。戦いがHWのみでなく練力との戦いになることも十分に覚悟している。給油を終えた仲間が帰ってくるまではどうにか戦線を維持したいところ。

「え?見間違いじゃないの? レーダーに敵影?」
 エリアノーラ・カーゾン(ga9802)である。無理もない。その彼女の視界には今だ蒼空以外の何ものも姿を現してはいないからだ。何かの誤認であってほしいことを願うばかりなのだが。
 単なる偶然か、はたまた最初から待ち構えられていたのか?いずれにしても戦いは避けられないことを自らに言い聞かせるような表情を見せるイレイズ・バークライド(gc4038)。まだその視界にはHWの姿は捉えることはできない。
 だが確実に敵は近づいている。そしてKVの燃料切れも確実に近づいている。今この瞬間に戦端が開かれれれば、榊やエリアノーラ達、まだ補給をしていないKVの行動は確実に制約されることになる。皆に更なる緊張が走る。

 その頃。すでにKV全てをその長射程兵器の射程に収めていた5機のHW。だがあえて先制攻撃をすることもなく、不気味にKVに接近中である。それはまるで何かをカムフラージュするかのようにあえてそうしているような動き。


 迫りくるHWがその機体から閃光を放ったのは、まさにKVのモニターに揺らめくように映るHWが一気にズームアップされてくるのとほぼ同時であった。その、5という数は傭兵達が想定していた数より多いのか少ないのか?
 サングラスで日差しの影響をさえぎりつつ、敵機を視認する新居・やすかず(ga1891)。すでに補給を終えたそのKVの練力は十分である。味方は5機、相手も5機。数的には拮抗しているのだが。
 直後、KVのはるか前方で無数の爆裂音とまばゆいばかりの発光。そう。榊機とアーク機の放ったK−02とHWのプロトン砲の閃光が空中で交錯したのだ。それがひとしきり収まったころさらに第2射が。榊のそれは中型に、アークのそれは小型に殺到する。‥‥再びHWから放たれる閃光。そして爆裂音。白煙がもうもうと立ち込め一瞬ではあるがKVとHWの視界を遮る。
 中型HWを狙ったK−02は拡散プロトン砲によってその多くが撃墜されたものの、さすがにその数の多さの故か、何発かは確実に中型HWに殺到し、その機体の周囲で盛大に爆裂しHWを揺らす。

 その緒戦のやりとりから強化型HWであることを感じ取った新居。すぐさま間髪を入れず次の行動に移る。あっというまに接近してきたHWにすれ違いざまにリニア砲を叩き込むとすかさず反転、僚機と挟撃体制を敷く。
「うわ。新型HWがぞろぞろ」
 その光景に思わず叫び声をあげるエリアノーラ。厳しい戦いになりそうだと自らに言い聞かせつつ、まだ補給前なので練力の消費をセーブする戦い方を心がける。愛機から放たれたミサイルが中型HWに襲い掛かる。


 ズウウウウウウウウンンン


 大気を揺るがす鈍い振動がコクピットにまで伝わる。中型が放ったファランクスの迎撃音。だがそのまま構わず一気に中型に肉薄し、ライフルを打ち込む。そしてまた距離をとる。ヒット&アウェーの戦法で無理はせず自らもダメージを受けない戦い方に徹する。
 そんなさなかKVのコクピットに飛び込んでくるアークの叫び声。

「西王母に近づく前に、全機叩き落してやるもんね」

 気合の入ったその声に合わせガトリング砲の雨が中型HWに降り注ぐ。‥‥その弾幕の前に立ちはだかるように覆いかぶさる小型のHW。どうやら中型の盾となるようにAIにプログラミングでもされているのだろうが、バチバチと火花を散らし小型HWの機体が一瞬赤く染まる。どうやらエンジン部に命中したようでその若干スピードが落ち、多少よろめきつつ高度を落とす。するとその背後からチャンスを窺うように、挟撃する新居機。小型の高度が落ちたことでうまい具合に僚機と射線がずれる。そのKAー01が轟然と火を噴く。強烈なエネルギーの塊が小型HWに殺到し、それを覆い尽くす。


 ドガアアアアアアアアンン


 轟音一閃。小型HWはそのエンジン部に直撃を受け四散し、無数の残骸となって弾ける。

「気が利かない連中だね‥‥空気を読まないやつは嫌われるよ」
 目障りな小型HWにミサイルを撃ち込み牽制、半ば強引にあけさせた空域から一気に中型HWにその狙いを定めるのはヘルヴォール。その愛機から放たれたミサイルが迷うことなく中型HWに殺到する。ファランクスで弾幕を張る中型。だが間髪入れずレーザー砲をお見舞いするヘルヴォール。
一瞬グラリ、とその機体が揺らめく中型HW。盛大に火花を放ち、わずかながら白煙が上る。
「やはりAI機? だったら多少はやりやすいわね」
 小型HWの機動パターンを見抜くエリアノーラ。相手が有人機でなければ戦いやすい、と判断し自らの攻撃パターンを変更することによって、相手のAIの思考攪乱を試みるが‥‥

 ドカン

 エリアノーラの機体が大きく揺れる。どうやら多少の損傷を負ったようだが、コクピットの計器類に異常なし。どうやら損害は軽微なようだ。
「‥‥っと。損害軽微。」
 自分に言い聞かせるエリアノーラ。HWの片翼に集中攻撃。激しく白煙を吹く小型HW。そのダメージを見過ごすことなく集中砲火を浴びせかける榊機。KV側が数的優位に立つことを優先すべく、である。そんな榊機の視界に飛び込んでくる新たなミサイルの軌条。それはアークの放った螺旋弾頭ミサイルが中型HWに今まさに殺到せんとする姿であった。度重なるミサイルの波状攻撃によりさしもの中型HWも2度3度とその機体が揺らめき、火花を散らす。

「さっさと終わらせるよ。まだまだ腹を空かせた連中がいるんだ」
 ヘルヴォールが計器にちらりと目をやりつつ呟く。
 まだ補給を行っていないKVの練力が尽きる前にすべて叩き落とさねばならない。燃料は確実に減ってきているのである。誰かが直撃でも浴びせたのであろう。小型HWが爆裂音と共に散華していく。

 こうして5機のHW相手に傭兵達が徐々に攻勢に転じつつある頃。その後方に展開する西王母に迫る魔の手と最大の危機‥‥


 それはいきなりやってきた。ちょうど西王母ではイレイズがその尽きかけた練力を満たし、次に待機していた夢守・ルキア(gb9436)がまさに空腹をみたしている最中であった。すでに前線のKV達がHWとドンパチやっている最中とあって、切迫感が満ち満ちている西王母周辺。
 一足先に給油を終えたイレイズが今まさにブースト全開で前線に帰還しようとしたその時。

「敵! 急速接近中!!」

 あわただしく鳴り響くアラート音と機械的な声。そしてそれがまだ言い終わらぬうちに、イレイズの愛機のモニターに映し出されるHWの機影。それはまさに迷うことなく西王母目指して突き進んでくるのだ。それはまさに強襲であり奇襲でもあった。西王母の2時の方向からあっというまにそのフォルムがあらわになる敵HW。その狙いは明らかである。敵は1隊ではなかったのだ。計算されつくしたそれはまるで榊達の相手が単なる「囮」にしか過ぎない、とでもいいたげに襲い掛かってくる。
 初めに給油を終え、西王母に張り付いていたドゥが即座に反応する。それに続いてイレイズ。その機首を急角度で展開し、HWに向ける。いましがた補給に入ったばかりの夢守の対応は遅れる。
給油中のKVははっきりいって無防備なのである。その為西王母自体も機首をめぐらし、そのHWから逃れるべく高度を下げようとする。HWの鼻っ面が白光したように思えた次の瞬間‥‥

 ズシイイイイイイイン

 その場にいたKVを揺るがす振動。間一髪高度を下げた西王母のまさに頭上を掠めとるように帯状に広がるまばゆいばかりの閃光。ドゥ機とイレイズ機から一瞬スパークするような火花が。コクピットに黄色いランプが1つ2つともる。
 だが傭兵達の対応は俊敏だった。奇襲ゆえに完全にアドリブに近い陣形ながら直ちに迎撃態勢に入るドゥ。
 ようやく補給を終え、プロトン砲がその頭上を掠めた夢守の電子戦機がその速度を生かし、ただちに遊撃と管制の役割を果たすべく動く。自ら積極的な攻撃はあえて行わず、むしろ囮に近い動き。

「電子戦機、狙ってくるかな?」
 それが夢守の意図したことなのだろう。他のKVから多少の距離をとり離れる。HWがおびき寄せられればだが‥‥
 そんな夢守の思惑通り、電子戦機狙いが目的だったかのように夢守にその矛先を向けるHW。そんなHWにイレイズ機から放たれるミサイルの光跡。さらに、

「墜ちろ墜ちろ墜ちろ墜ちろぉぉぉ」

 ドゥのその気迫がコクピットから奔流となってHWに殺到するかのようである。白煙と爆発音が小型HWを包む。不意を突かれたのか弾幕が間に合わなかったようなHW。
「イレイズ君。西側のHW。出力低下中ね」
 常に冷静さを保ちつつつ夢守が的確な管制を仲間に与える。そんな夢守機のモニター一杯に迫りつつある小型HW。その機首部分から放たれた白光が夢守機に襲い掛かる。咄嗟の回避行動、幸い直撃こそ免れたが、多少なりともダメージを負う愛機。だがそんな夢守機に今度は中型HWから放たれたプロトン砲の軌跡が牙をむく。

ドシンンン

 いやな振動がその夢守の電子戦機を揺らす。モニターの警告ランプが点灯。機体が大きく揺れ、バランスが崩れる。どうやら片翼にダメージを負ったようだ。
 そして先ほどの初撃はかろうじてかわしたかに見えた西王母だが、ダイブしてきた小型HWに食いつかれる形になる。手負いの夢守機から放たれたミサイルがそのHWの行く手を遮る。光の弾幕と交錯するそれが盛大に空中で爆発する。小型HWに効果的なダメージは与えられなかったが、足止めに程度にはなったようである。だが構わず突き進むHW。臨機応変に対応しつつも、その連携に多少の乱れが見える3機のKV。やはり奇襲を受けた分、対応が後手後手にまわっているのだろう。


ズン


 夢守機にさらに鈍い振動が。機体出力が低下する。そんな夢守の視界の片隅にチラリと映るイレイズ機の挙動。その剣翼が陽光を浴びてきらめき、急旋回していくのが捉えられた。
 だが先手をとられた3機のKVにとって、主導権を奪い返すのは容易なことではなかったのである。中型HWによる統率のとれた連携を見せる敵に対し、ともすれば後追いにならざるを得ない夢守、ドゥ、イレイズ。
 そんな彼らの視界に飛び込んできたのは、その後部からわずかに白煙を上げつつ飛行する西王母はまだ無事である、という事実であった。西王母の乗員も必死なのだ。


 形勢は明らかにHW側に傾きつつあった。開戦時の数的には互角だったが、不意打ちを受けた分だけ傭兵達が体勢を立て直すのに時間を要したからである。どうにか小型HW1機は片づけたものの、夢守機が受けたダメージは決して小さくはなく。
「ん。ちょっと厳しいかな」
 ひとまず高度を下げ、西王母の方に寄り添うように後退する。飛行自体はどうにか可能ではあるがまともに戦闘継続できる状態ではすでになくなっていたのである。
 さらに。もう1機の小型HWが力尽き爆裂四散するのと引き換えにこちらも大破したドゥ機が戦線から脱落していくのが確認できた。ともすれば孤軍奮闘になる場面すらあっただけに、致し方ないところか。


 だが。この時を境にして、傾きかけた形勢は一気に振りだし、いや傭兵側に傾くことになる。前線から仲間達のKVが西王母の危機に馳せ参じたからである。その先頭にいるのは補給のための最後の順番を待っていた、エリアノーラと榊。そしてアーク機の姿も確認できたのである。どうやら前線での趨勢が決したようであった。ぎりぎり補給が間に合った形のエリアノーラと榊。あと少し遅れていたら‥‥。

 結局最後まで西王母に迫っていた中型HWであるが、絶体的に数的有利になったKVの前に最後は大破損傷し、そのまま白煙を吐きながら墜落していった。傭兵達が守ろうとした西王母は、出力が低下しつつも乗員達の奮闘によりエリアノーラと榊に給油を終えたのち、かろうじてその目的地たる軍の基地にたどりついたものの、その受けたダメージはいささか甚大で、その修理の為、しばらくは実戦投入ができなくなってしまったのである。だが撃墜を免れた事は、傭兵達の戦いの結果であったことはいうまでもない。