●リプレイ本文
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‥‥今回、マリアンはどうやら本気のようである。今までは極端な話、半ば無理やりそういった席や話を持ち込まれていた雰囲気がないでもないのだが、今回ははっきりいって、『その気』になったとでもいえばいいのであろうか。決してストライクゾーンは広くないマリアンである。そんな彼女のド真ん中な男性‥‥。今までサラシでギリギリと巻き上げていた主武装を、今回ばかりは自宅の鏡の前であからさまにし、思わず見つめてしまうほどに‥‥
「恋は女性を変えると云いますけれど‥‥女性らしさに目覚めるというのはステキな事ですわね」
クラリッサ・メディスン(
ga0853)のこの言葉がまさにマリアンの現在の心境を代弁しているといえるだろう。だからこそマリアンが立派なレディに生まれ変われるように手を貸したいのだと思う。
「その勢いは買うけど焦らないでね。ついていくのが大変だから」
微笑を浮かべつつマリアンに声をかけるのは百地・悠季(
ga8270)。今現在『おめでたい不調』中だそうである。自分に負担がかからずかつ過去の自分にも多少なりとも相通じるところがあるということで参加したこの依頼。どこか意味深な横目でチラリとクラリッサの方を見やりながら悪戯っぽく微笑む。
「初めまして、マリアン様、ジュリエット・リーゲンと申します」
上品に初対面の挨拶をかわすジュリエット・リーゲン(
ga8384)。だがその言葉とは裏腹に今回はかなりのスパルタで望む決意。与えられた時間は短く、改造の為のハードルは低くはないからである。その為の覚悟と決意をマリアンに伝える。その眼は本気であり真剣である。
「俺に先生役など務まるのだろうか?」
一抹の不安を抱えつつも、心に秘める思いは確かなカズキ・S・玖珂(
gc5095)。依頼を受けた本心はともかく、ピッチリとしたスーツ姿でやってきたのは秘めた決意の表れだろうが、果たして彼はよき教師役になれるのだろうか?
綺麗になろうとする女性はそれだけで美しい。そう思うのは浮月ショータ(
gc6542)。事前にお見合いの相手の情報をさりげなく聞きだし、その性格や行動パターンなどを事前の知識として把握しての依頼参加である。
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さてそのマリアンであるが、当然ながら今までおよそ自身の性別とはあまりにもかけ離れた行動、言動、嗜好などを持ち合わせていたので、それを短期間で矯正するのは傍から見てもかなり困難にすら思えるのだが、どうやらその辺は本人も覚悟を決めているようで、ある程度のハードな改造の為の教育は受け入れる心構えらしい。だからこそ彼女を矯正する傭兵達のメニューもそれにふさわしいものにしなければならない。
まずは女性らしさを身に着ける基礎たる、化粧と服装。これはクラリッサの担当。年齢・体型的にももっともマリアンに近いであろう自分が進んでかってでた形。
その彼女。まさにローティーンの子供に教えるが如く本当に基本の基本からメイクの仕方、化粧品の選び方、そして下着や洋服選びに関してもほとんど知識のないマリアンの為にあれやこれやと伝授する。
「基礎化粧品選びは大切ですわよ。マリアンさんもそれなりのお年ですし、手入れを欠かしてはいけませんからね」
今まで化粧などとはほとんど無縁であったマリアン。クラリッサが懇切丁寧に教え込む。
その指導は化粧のみならず服装にも及ぶ。今まで「スカート」の類や女性らしい飾り立てた装飾品とはほぼ無縁だったと思われるマリアン。その為、無理なくそういった洋服が着こなせるように徐々に女性らしい装いへと導いていくクラリッサ。むろんアクセサリにもこだわりを見せたりもするのだ。むろん本人の嗜好や趣味にそったより身に付きやすいものを取捨選択しながらである。
立派なレディに欠かせないものに料理と裁縫も。指導するのは百地。が、おめでたい不調中でいささかなりとも味付けの自信は微妙。そこで秋姫・フローズン(
gc5849)の助けを借り、まずは基本中の基本たる「カレー」の作り方から伝授しようとする。
「あ、それなら作ったことある‥‥」
その言葉づかいは無理に女性らしさを演じようとしているのかどこか微妙に怪しいマリアン。これからこういった事も改造していかなければならないのだ。むろん作ったとは言っても俗にいう「キャンプ料理」の類の大雑把なレベルでしかないので、その初歩から心を鬼?にして教え込む覚悟の百地。そしてその為にとった方法は。
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LHの某所にあるプチお屋敷程度の広さの私邸。その秋姫の自宅、そこが今回泊まり込みで特訓するための舞台である。LH内で、こういった場所が確保できる意味合いは大きい。また主たる秋姫にとっても久々の大勢のお客様を迎えるとあって、妙に気合がはいったのか、なんと『メイド服』でお出迎えである。合宿中はずっとこの格好で過ごすのだそうだ。いそいそと掃除したりベッドメイキングしたり、曰く、
「なんだか‥‥楽しい‥‥です‥‥」
ということなのでその心中は想像できるというもの。やってきた客人たちをそれぞれの寝泊まりする部屋に案内したり、その他食材の買い出しを手伝ったりといろいろ奔走しているようである。
「野菜はあまり大きく切るなよ。おい、その左手は危ない‥‥」
カズキの声がするのは秋姫の家のキッチン。どうやら夕食の支度を兼ね、マリアンへの料理特訓でも行っているのだろう。そんな様子を横目で見やるのが安原・小鳥(
gc4826)。本人曰く、料理のみならず家事全般は苦手、とのことであえて傍観の様子。そんな彼女、マリアンに『大和撫子』、すなわち日本女性の立居振舞を手本とした作法を指導したいらしい。そんな彼女の服装は紺の着物。地味でかつ質素な服装は控えめにして穏やかな大和撫子の美徳をイメージしたものか?。
むろん本格的に調理などしたことのないマリアン。夕食のメニューは百地が伝授するカレーとそしてママ直伝というカズキの「ニクジャガ」。どうやらこのニクジャガ、仲間には評判がいいようで浮月がリクエストしたもののようである。
「あ、やべえ」
思わず包丁で指を切りそうになるマリアン。思わず声を荒げる。まあ包丁などまともにもったことなどないのだろうから仕方がないが、先ほどのカズキの一言はそんな危なっかしい手さばきに対する愛情たっぷりの指導だったのだろう。
こうしていろいろ悪戦苦闘しつつもどうにか完成した夕食。味見は秋姫の役目。
「‥‥‥」
最初の一口で浮かぶ思わず微妙な表情。う〜〜ん。という顔をする。初めてとあってやはり味付けは少しばかり微妙だったようだ。それでもなんとか食するに堪えるまでに味を調整どうにかこうにかマリアン初の本格的な手作り夕食が完成。
「お食事が‥‥出来上がりました」
どことなく嬉しそうな秋姫。皆で食卓を囲む。
だが。和む夕食の場でもマリアンへの指導は続く。テーブルマナーやら作法ということに対して今までまったくといっていいほど無頓着だった彼女。それを矯正する役がベルティーユ・ロワリエ(
gc6499)。豪快に足を組み、がつがつと急いで食べることが習慣のようになっていた彼女にレディとしてふさわしいテーブルマナーを指導するのだ。足は組まない、がつがつ食べない、むやみに音を立てない、などレディとして当然のたしなみを躾、指導する。ドカドカと大股で歩く癖のあるマリアンにはその部分も改めるように指導しつつ、急ピッチでレディへと改造していくのである。さらには食事中の会話においても細かいところまであえて厳しく指導するのだ。
特に今回は見合いという重要なイベントが控えている。だからこそ相手の方に対する礼儀とか正しいお辞儀の仕方とかもきっちり丁寧に指導。合わせて一番問題ともいえる言葉遣いはジュリエットが徹底的に社交の場にふさわしい言葉使いを教え込む。
こうして本来はリラックスする場のはずの夕食の席もともすれば叱責や厳しい注意の言葉などが入り乱れる場と化したのであった。
おっと、言い忘れていたが、そんな食事の最中についつい、マリアンの「隠し玉」に視線が向いてしまっているカズキの姿があったりもしたが‥‥。だがマリアン、そんな視線に気が付いたのかどうなのか、自身はすっかりアルコールが回ってしまったようで日頃のマリアンとはまた違う一面を見せてくれる、その表情や仕草に思わず可愛らしさを感じるのはカズキ
「いっそ、酔わせてから見合いに放り込んでみるのはどうだろう」
などと考えて酔わせたカズキではあったが、どうやらマリアン本来の素の姿に触れたようである。
夕食後もその指導は続く。待っていたのは百地の裁縫指導である。本来女性のマリアン。実は手先は器用だったりもするのだが、当然そんなことは気にも留めていなかったので、およそ針や糸を扱うようなこととは無縁。というか自分がすべきことではないとでも思っていたフシもあるようで。
「みっちりやるわよ」
どこか笑みを浮かべつつも特訓の構えの百地。解れ縫い、毛糸編み、ミシン使い等‥‥、世間一般の女性が行えることを一通り教え込む。だが手先が器用だったことが幸いしたのかマリアン。こちらは料理よりかなりスムーズ。特にミシン使いはどうして初めてとは思えないほどの腕前を発揮。もっともそれを引き出したのは百地の指導がよかったからだともいえるが。裁縫のセンスはよい服装選びのセンスを養うためにも欠かせない要素、なのだそうである。上流階級のレディの嗜みとしても裁縫程度はできないと失格と考える百地。
そんなマンツーマンのある意味「鬼」な特訓というか指導というか、が延々と続き、
「お風呂‥‥湧きました。どうぞ‥‥」
そんな秋姫の一言で、ようやく終了したのであった。見ればその手にはあちこち針でさしたような無数の傷跡が。やはりかなりハードな教え方だったことが想像できる。
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むろん特訓は室内だけではない。それは一歩外へ出ても同じ。クラリッサが洋服選びに協力する為、いろいろとその手のお店に連れていくのもその一環。本来のマリアンの魅力を最大限に引き出すような服装・アクセサリなどをクラリッサ自らが選びつつ、身体にあった洋服選びの方法をも指導伝授するのだ。
そればかりではなく。マリアンとできる限り行動を共にし、その言葉遣いのチェックを怠らないのがジュリエット。当然言葉遣いは誰に対してもそれなりのものでなければならず、最低限恥ずかしくないレベルにまで持っていきたいのだろう。どこかの店に入れば店員とひとしきり会話させその言葉遣いを逐一チェック。
スパルタ、を公言した彼女、どこから持参したのか指揮棒のような棒を片手にこっそり忍ばせ、妙な言葉遣いがあればこっそり後ろからつついて本人に気づかせ矯正させる。その為初めこそ会話の流れが妙に途切れたりもしたものだが、それもやがて意識しなければ気がつかないほどにまで矯正されることとなった。
「一人称は『私』、人を呼ぶときは『さん』をつける、語尾は『です・ます』‥‥」
まるで幼い子をしつけるような内容だがマリアンの場合にはやむを得ない。なにせ今までそういった教育や指導はなされてないのであるから。その結果、少しずつではあるが言葉遣いが矯正され多少なりともサマになってきたように感じられるマリアン。
さらに。人と接する折には常に『微笑み』を絶やさないことをしっかりと意識づけさせようとするのが安原。もちろんモデルは大和撫子、である。笑顔は女性の化粧に似た効果がある事をしっかりとマリアンに指導する。その成果か今まであまり女性らしい表情に乏しかったマリアンも少しずつではあるがそういった自然な笑みが作れるように。初めて傭兵達と接した時と比べ長足の進歩のあとが垣間見られるようになるマリアン。
だが、なかなか矯正できない部分も多い。たとえば歩き方。
「ほら。大股で歩かない」
たぶん無意識だろうが、今までの『地』がでるのであろう。女性らしからぬ大股でしかも多少なりとも「ガ○マタ」気味に歩くその姿は、およそレディーには縁遠いもの。その為かその都度ベルティーユの叱責がマリアンに浴びせられる。時には多少キツイ言葉遣いにもなるが、これもすべて彼女の為。
そんな傭兵達の昼夜を問わずの教育指導の為か、目に見えないストレスが蓄積していると思われるので、合間を見計らって息抜きがてら自分自身で最も女性らしい部分をさりげなく聞き出す百地。今までマリアン自身がともすれば邪魔だと意識していたであろうその部分を逆に彼女にとってもっとも魅力的な部分であることを理解し納得させるのだ。
「男性を惹きつけるのに魅力的な処だし、十分自信を持っていいわよ」
そこには自分の魅力に改めて気づかせようとする百地の姿があった。なにせかのマ○ル少佐ともタイマンできそうな主武装なのである。そうでない、為に悩む女性はいくらでもいるのだから。
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事前に見合い相手の男性の情報を手に入れていた浮月。その理由が明らかになるのはマリアンの改造化計画がいよいよ大詰めに差し掛かった頃であった。
訓練の成果を見極める為、ということで行われるのがいわばお見合いの「シュミレーション」。その相手役を演じるのが彼なのである。その為いつになく気合が入っていると見え、
「さあ、マリアンさん!ボクを彼だと仮想して、いつでもどっからでもかかってきてください!
‥‥あ、でも技はやめてください‥‥ボク身体弱いんです」
などと云いつつ、今までの特訓の成果を発揮しようとするマリアンを真っ向から受け止めようとする浮月のいわば「お見合い模擬戦」が繰り広げられる。ここでも今までの傭兵達の指導は確実にマリアンに根付きつつあるのがわかる。
‥‥こうしてマリアンの麗しきレディへの変身の為の特訓は無事幕を閉じ、そこにはどこへ出しても恥ずかしくないほどの気品と礼節と雰囲気を醸し出す一人のレディの姿が。
「お見合いが上手くいくことをお祈りいたします」
ジュリエットが手ごたえを感じつつマリアンに語りかける。
「どうか双方にとってよいお見合いとなりますように」
安原が笑みを浮かべつつ語りかける。
「世の中に可愛くない女性はいない。‥‥誰もが可愛がってもらう権利がある、と恩師が言っていたんだがな」
どこか不安げなマリアンを勇気づけるカズキの一言が添えられる。ちなみに恩師とは彼のママ、のことらしい。
さて。後日執り行われたお見合いがどうなったのか?残念ながら直接的に傭兵たちに結果が知らされたわけではない。が、とあるルートからの話として、どうやら無事に見合いは成功し、相手とマリアンとのお付き合いが始まったとの事。どうやら一人のレディが無事誕生したようである。なおマリアンのその主武装の威力が存分に発揮されたのかどうかまでは定かではない。
了