●リプレイ本文
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「目標『天守閣』、すすめー」
決してここへ遊びに来たわけではない。‥‥ないはずなのだが何か微妙な勘違いをしていると思えなくもない傭兵、ジェーン・ジェリア(
gc6575)。確かに公園ほぼ中央に高くそびえたつ鉄製の山、見ようによってはそのようにも見えなくもない。もっともそこへ到達するための道は簡単ではなさそうだ。今のお城の番人は他ならぬ『キメラ』だからなのだが。しかし当の本人、あまり深く考えてはいなさそうで、
「お城攻めおもしろ〜〜い。ついでに門松もおもしろ〜〜い」
などとなんとも呑気な発言すら聞こえてこようかというものである。
‥‥その光景はいささかなりとも季節外れである。そこにいるのは存在そのものが珍妙にして奇怪なキメラ。いや、キメラと呼ぶこと自体にもいささかなりとも抵抗感がありそうなフォルム‥‥。
昔の日本では正月になると家々の玄関先によく見かけられた光景も、この場ではとてつもない違和感しか感じられないのだ。しかも動いているとあっては‥‥。
「ふふ。初任務がまさか正月飾りの片づけとは」
これが傭兵初任務。その初任務がこんな仕事であること自体珍しいことかも知れないがどこか愉快そうな表情なのはメルセス・アン(
gc6380)。いやむしろ初任務だからこそ逆にリラックスしているのかも知れない。一方‥‥。
「キメラを飾るなんて‥‥、へんな風習が日本にはあるのですね」
と完全に日本の古き風習を誤解?しているのか、変な感心をしているリズレット・ベイヤール(
gc4816)。当たり前の話だが、この世界のどこにもそんな風習があろうはずもない。がそういう誤解が生まれるのも今回のキメラの容姿が容姿だからに違いない。
彼女がどこかおどおどした印象を与えるのはその性格ゆえか。
日本ではある意味神聖な正月の風習であろう門松。が今回は傭兵達の目標であり標的である。それをはっきりと認識しているであろう沖田 護(
gc0208)。その持参した道具のなかにひときわ目立つのは『のこぎり』風の武器。それを使って何をやろうとするかはすでにこの時点で明白である。
旧正月も近い冬晴れのとある日。御剣雷光(
gc0335)言うところの、なんとも敵の感性を疑いたくなるようなキメラとの戦い、というよりしまい損ねたできそこないの偽門松の片づけをするためにここへやってきた傭兵達である。
(子供たちの遊び場を奪うとは)
それは心に秘めた怒りである。
「旧正月に門松はまるで関係ないような気がしますが〜」
封鎖された児童公園の様子を窺うべく、付近の多少なりとも高いところから見渡す八尾師 命(
gb9785)。子供向けのさして広くもない公園内を見渡すのにそれほど高い場所も不要。同じく依頼写真だけでは今一つピン、とこなかったらしいリズレットも双眼鏡片手に園内観察である。
1、2‥‥3、4
依頼書の写真に写っているのは2体であったが実際は4体のソレがジャングルジムの周囲にたむろっている。
「‥‥キメラは全部で‥‥4体でしょうか」
改めてキメラの数を確認するのはリズレット。そのキメラの位置と園内の地理状況などを入念に確認し、民家への被害がないような攻撃方法を確認するのは八尾師。キメラが無事に排除された暁には子供たちと公園で遊びたいらしい。
そこはまた見ようによってはまるでキメラのお城でもあるかのよう。だとすればやはりそのテッペンは天守閣?‥‥。
「‥‥色々ご迷惑おかけするでしょうが‥‥ヨロシクお願いします!」
初めての依頼、かつハーモナーの有用性実証の為とあって意気込みも高いララ・スティレット(
gc6703)のそんな挨拶が聞こえる中、ゆっくりと公園に近づいて行く彼ら。父や仲間たちの為に、と思えばその意気込みやいかばかりか、である。他の傭兵に比べなぜかひときわ存在感が高いのはその衣装があまりにも場違いに目立つものだったからかどうかははっきりしないが。
さて。
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4方からゆっくりと近づいていく傭兵達。公園の周囲を取り囲むのは子供たちにとっては十分に障害物足りえるほどの高さの柵。だが傭兵達にとってそれほど障害物足りえない、と思われる程度の高さ。
ます囮役になる沖田が堂々と正面入り口からこの「カドマツモドキ」のキメラに接近。むろんAU−KV装着の上なのでそれなりの装備を施して、ということに。とは言っても前回の依頼から立て続けでの参加なので疲労がないとはいいきれないのだが、そんなことはおくびにも見せない足取りである。もっと重体でも立派に依頼を遂行した傭兵達の事がチラリ、と脳裏をよぎる。実際のところ、敵がよりアクティブならば別の作戦も考えられるのだが今回はこちらからアクションしないことにはラチがあかない敵なのである。
ブランコと滑り台の間をすり抜けなおも接近。するとお山の大将の如くジャングルジム周辺を徘徊していた1体の門松がそれを察知。まるで誰も近づかなくて退屈していたかのように一気に距離を詰める。続けざまに別の1体も。それはまるでお互いに引き付けられるかのように沖田の元に急速にその短い脚で接近。この距離だとすでに松葉の針が飛んできてもおかしくはない。さらにジムの向こう側にいた別の2体もその動きにつられ沖田の方へ向き直る。
シュッ、シュッ
その全身松でおおいつくされたなんとも珍妙なボディから、これまた松の葉っぱがまるで吹き矢のように沖田に向けて放たれる。それは空気を切り裂くようにかすかに風切り音を発しながら、である。
「通らなければどうということはない」
その盾と鎧であえて攻撃を受けながらこちらからも一気に攻撃を仕掛ける。むろん受け止めることによって多少なりとも負うであろうダメージは八尾師の手によって速やかに軽減回復されることになるのだが。徐々にジャングルジムの周囲から押し出すような動きをとる沖田。
そんな沖田の行動によってすっかりそちらに注意を引き付けられたキメラ。その4方から残りの傭兵達が一気に迫ってくるのを知る由もなく‥‥。
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沖田の一撃を合図に、入口、ブランコ、滑り台、砂場の4方向から一気に公園内へ躍り込む傭兵達。柵の周囲でタイミングをうかがっていたのだ。
「支援開始しますよ〜。頑張って」
滑り台側から迫る八尾師。柵が高すぎることが不安だったようだが心配するほどではなく。キメラの注意がそれている内に柵を乗り越え、一気に園内へ躍り込む。
「もう飾る期間は過ぎてますので、帰ってくださいね〜〜」
いささかなりとも時期ハズレのキメラに叫ぶ。仲間の支援をしつつも機を見て自身も攻撃に加わるのだ。
そんな声が響くころ、すでにキメラに刃を向けている傭兵が。御剣である。沖田の後を追うように入口からジャングルジムへ一気に突進。途中、そのメイド服‥‥とは言っても立派な戦闘用だが‥‥のスカートのすそがめくれ下着がチラ見えの格好になるがそれを気にすること、恥じらうこともなく平然とキメラの元へ。
そんな3m以内に近づく彼女に松葉を飛ばしてくるキメラ。なんなくそれを刀で防ぐ御剣。そのまま一気にキメラのその太い松の幹の部分を切り裂きにかかる。キメラはその短い手に持った刀のようなもので防ごうとするがそんなもので傭兵の武器を受け止められるわけもなく。
‥‥奇声?のような音を発して腰砕けのように弾かれるキメラ。
「正月もすでに終わっている。片づけねば」
園内の遊具が損傷しないように細心の注意を払いつつ、である。
ふと見れば滑り台側から侵入したティルコット(
gc3105)。その見た目こそ子供だが中身は立派な大人。だが今視界に入ったキメラに行っているのはとてつもなく?子供じみた行為。何を隠そう『おしりペンペン』であろうことかキメラを挑発。キメラがそんな行為に挑発されるとはとても思い難いのだが、それも作戦のうちなのだろう。
ブランコ側から侵入したリズレット。ハーモナーのララを守るような動きをとり彼女の行動を助ける。そんなララが目指すのはジャングルジムの頂点、すなわち『天守閣』である。
砂場側から侵入するメルセスとやはり天守閣を目指すジェーン。だが今回依頼初参加のメルセス。ここでは無理をせずに他の仲間たちがどのような戦いをするのかを見極め、見学する目論見らしいのでどちらかといえば受動的な行動を選択。ジェーンの傍らで周囲を警戒しつつ他のメンバーの動きを逐一チェックし、キメラからの不意打ちに備える。いわば護衛、のような役回りに徹するつもりのようだ。
そんなメルセスの視界に入った3体目のキメラに気が付くや、咄嗟に叫ぶ一言。
「門松は一家に2個までだろう!」
だが。そんな発言の直後、傍らで天守閣取りにチャレンジを試みるジェーンにこう呟くのだ。
「‥‥アレ、を見ていると”おしるこ”が食べたくならぬか?」
ニセ門松、を見て、正月の風物でもアレコレ思い出したのかはたまた好物が『たいやき』だからなのか、このシチュエーションではほとんどありえないような一言が発せられる。今それだけの余裕があるのかはたまた‥‥。
さて。いきなりタイヤキ、の話を振られた当のジェーン。初めこそメルセスと一緒にジャングルジムへ接近しつつ銃撃などをしていたのだがすぐに飽きたのか、メルセスと共にキメラに一気に肉薄する。
そんな彼女に容赦なく迫る松葉の吹き矢。だがよくわかってないのかどうか、別段気に留める風もなく平気で食らっていたりもしたり。
「痛いぃぃ」
だがそれでも痛さをこらえつつ持っていた剣で『斬る』のではなくキメラをまさに文字通り『叩く』。がそれはそれで立派な有効打撃だったりするのだ。思わず後ずさるキメラ。
「燃えちゃえー」
そんなジェーンにチャンス到来。ジワジワとジャングルジムの周囲から4方におびき寄せられるキメラ。そのことで『天守閣』の周りが次第に安全地帯に代わっていくのを見届けるとついに意を決した?かのようにジャングルジムの頂点まで登リ始める。そのテッペンで『ドヤ』顔で片手を腰にあて仁王立ちで。
「とったど〜〜」
と叫ぶためである。そんな彼女の視界に変わらず『おしりペンペン』攻撃をお見舞いしているティルコットの姿が目に入ったりもしたのである。
‥‥が。その時別方向からすでにその頂点を極めていた傭兵がいたのである。残念。一番乗りならず?
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自身ハーモナーのララ。そのスキルは『歌う』ことによって発動する。ならば是が否でも歌わねばならない。
沖田とは逆方向の柵にひそみ飛び出すチャンスを窺っていたのだが‥‥
「よし、今だ!」
沖田の戦闘開始と同時に柵を乗り越え、これまた一気にジャングルジムへ向かう。目的は当然ジェーン同様、そのジャングルジムの頂点である。
だが。当然偽門松、もとい、キメラに狙われるリスクが。だが運よく?キメラが仲間に注意をそらされている間に一気に頂点にまでたどりつくララ。
「えっと。‥‥こーゆー時は‥‥お決まりのセリフを言うと‥‥」
とにわかにどこかで聴いたようなセリフを声高に詠唱するや、大声でその美声を披露しようとする‥‥のだが、その高いところでひときわ目立つ姿はすぐにキメラの的のような形になる。松葉の吹き矢が彼女に向けられる。
「!!!」
とっさにそれを阻止するララの護衛役たるリズレット。キメラとララの間に割り込む。その松葉を盾で受け止めると叫ぶ。
「‥大丈夫です‥‥続けてください」
自身受けそこなったのか多少なりとも痛そうではあるが、それでも気丈に叫ぶリズレット。返す刀でそんなキメラには自身のドレスに仕込んだナイフを投げつける。それはキメラの注意をララから逸らすための行為。
「ステージの邪魔はさせませんよ」
キメラに向かうリズレット。そしてララの歌声を今や遅しと待つかのよう。
そんな行為に勇気づけられたのか先ほどより一気に声のトーンが上がったようなララ。いよいよその歌声がジャングルジムを中心としてその周囲にあまねく伝わるのだ。
「ラ〜〜〜〜〜」
済んだきれいな歌声が、ジャングルジムの頂から周囲にこだまする、それは【ほしくずの歌】となってしばらくの間、周囲にいるキメラに届く。それによって混乱が生じた1体のキメラ。いきなり別のキメラに吹き矢を放つ。どうやら効果てきめんのようである。
さらに新たなターゲットを探し歌い始める。が、そこへキメラの吹き矢が流れてくる。それは彼女を掠め後方へ落ちる。多少の苦痛に顔がゆがむララ。だが負けることなく再度歌唱を開始。さらには【呪歌】を。淡い白光と共にもたらされたそれは、やがて1体のキメラの動きを鈍くしやがて完全に動けなくしてしまったのだ。その歌がもたらす効果は【麻痺】であった。
だが。彼女が護られるだけの立場でないことを証明するのが【ひまわりの歌】が歌われた時である。それは聞く者全てのダメージを幾許かでも回復させ敵の攻撃を受け止める力を与えるのだ。
「‥‥私も!!」
その口元ははっきりとは聞き取れなかったが確かにそう伝えているようであった。
こうして。いささか時期外れの妙な偽門松なキメラ4体は傭兵達の手によってすべて片づけられ、そのあとには今まさにそうされたかのような形で無造作に転がされた偽門松の残骸が残るだけであった。
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「これで今年の正月はしっかり終わりましたね〜〜」
懐かしそうにブランコと戯れながら話す八尾師。怪我人がいないかどうか仲間に入念に確認して回る。同じころ無造作に転がった残骸を持参した斧でバラし、園内の片隅で盛大にほかならぬ『どんど焼き』で燃やすのが沖田。本物より心なしか勢いよく燃え盛っているような気がするのだが。
(時期外れもいいところです)
炎を目にしながら思う御剣。どこで聞いたのか、こうするのが正しいということを知識として知っているジェーン。一番乗りこそ逃したが、一通りやらかして満足だったのか最後まで仲間のサポートに尽力したことは述べておこう。
「皆さん、今回はお世話になりました!」
初め同様最後もアイサツを忘れないのがララ。初依頼はどうだったのであろうか? さらに、仲間と協力ができたことに満足そうなティルコットの姿もあった。
そして。すべてが終わった時‥‥
「‥‥この後、お汁粉でも食べにいかないか?」
ほっとした表情の仲間にひとしきり声をかけ、食事に誘うメルセスの姿があった。やはり甘いものは彼女になくてはならないもののようだ。
‥‥再び子供たちの遊び場と化したこの公園。すぐに、童心に帰って子供たちと戯れているであろう八尾師の姿が目に留まるだろう。
END