タイトル:デンデンムシムシマスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/07 00:06

●オープニング本文


「これはどうみてもアレだよな」
「うん。確かにアレだ」

 などとまるでわけのわからない漫才のような問答が聞こえているが、ここは別にお笑いライブの会場でもなんでもなく、ULTのオペレータールームである。

 こんないかにも間の抜けた、やる気のない会話に聞こえないこともない会話をくり広げているのは別に退屈だからでもふざけているからでもない。とある依頼に添えられてきた1枚の写真がそのすべての原因なのだ。
 場所ははっきりとは分からないが、どこかのどかな冬枯れの畑か空地のようだ。むろん依頼書には場所などははっきり明記されているのだが、写真を見る限りどこにでもありそうな特徴のない冬枯れの風景。そしてその写真のド真ん中にUPで写し出されているのが、なんであろう、「アレ」なのである。

 だがアレ、のみではいったい何のことか当事者の彼ら以外にはわかるはずもなく。で具体的に何が写っているのかというと‥‥。
 全長は7〜8mほど。体高は3mぐらいだろうか。実際はもう少し大きいのかもしれない。でよくよくみれば、その背中には巨大な巻貝のような殻。中心に向かって渦巻いているそいつはそこから突き出しているその軟体生物の身を護っているかのようだ。
 そして。その特徴的な目玉とツノとヤリがあたりを睥睨するかのようににらみを利かしているショットがその写真に収められていた。

 そう。ここまで書けばこのバケモノの正体は大概の人間にはイメージできるというもの。この世のものとは思えぬほど巨大なのだが、その見た目はまさに雨上がりになると花々の葉っぱの上にチョコンとすまし顔で座っていたりするまさにあの生き物なのである。

「‥‥だよな。こいつはまさに『KA○○TU○○RI』だよな。うん。きっとそうだ」

 そのあまりにもグ○な見た目に明らかに眩暈を覚えつつもオペレーターの一人が呟く。なんでこんな長閑な農村の荒れ地のど真ん中に、と思ってはいけない。キメラは場所を選ばないのだ。
 しかもこのキメラ、依頼書によればつい最近突如として現れ、ここになぜか居座っているらしい。だがただ居座っているだけで特にそれによって具体的犠牲者とか被害がでたということはないそうである。むろん気味悪がって誰も近づかない為もあるのだが、キメラも特に何か自分から悪さをするということもない、風なので単に気味悪いから排除してくれ、ということなのだろう。
 ちなみに、西欧のとある国ではオリジナルは立派な「高級?食○」であるのはいうまでもない。

●参加者一覧

絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
セラ(gc2672
10歳・♀・GD
春夏冬 晶(gc3526
25歳・♂・CA
ジョシュア・キルストン(gc4215
24歳・♂・PN
沙玖(gc4538
18歳・♂・AA
安原 小鳥(gc4826
21歳・♀・ER
犬坂 刀牙(gc5243
14歳・♂・GP
蒼 零奈(gc6291
19歳・♀・PN

●リプレイ本文


 でんでんむしむしかたつむり〜〜

 などとどこかの国の長閑な童謡にうたわれているものとは似ても似つかない巨大なバケモノが1匹。どこからやってきたのかこんな片田舎の冬枯れの空き地に居座っているということで馳せ参じた傭兵達多数である。聞けばしばらく前から居座ってしまったらしい。

「と、とりあえずがんばりましょうね。いろいろ迷惑ですし‥‥」

 多少腰が引けている感が口調から感じ取れないこともない安原 小鳥(gc4826)。もちろん決してそんなことはないのだろうが、口調からそう思えてしまったりもするのだ。
「たとえ被害がなくても害がある時点で討伐対象だな。残ったのは小さくして燃やすか」
 とは沙玖(gc4538)。しかしこのキメラ、無事に討伐した暁には小さくしたうえでもう一つのお楽しみも待っている。それは追々‥‥。

 その巨大な見た目は「でんでんむし」そっくりの巨大なキメラ。それが居座っている場所にやってきたのは8名の傭兵。だがこの寒空の中、なぜか水着姿の傭兵がいる珍妙な集団。それはそれで立派な理由かつ合理性はあるのだろうが、傍目○○な集団にしか見えない。春夏冬 晶(gc3526)が持参したと思しきテントがすぐそばに設置されているので、どうやらそこで着替えたのだろう。夏の海辺ならそのグーなスタイルが公衆の眼を引くところだろうが、いかんせんここでは‥‥。で、その春夏冬、あろうことかこの場にあるまじき?一言をぼそっと‥‥。

「あ〜〜。俺ビデオ録画すんの忘れてたから帰るわ〜〜」

 その見た目以上のキモサに思わず戦わずして戦意喪失かと思いきや、本人ほんの軽いジョークのつもりでつぶやいたらしい。どうしてやる気行く気満々なのだ。実はキモイのは内緒だったりもするのだが、そうはいっても決して依頼よりビデオという本心はこれっぽちもないはずだ。
 すると。そんな傍らで突如聞こえる女性の叫び‥‥。

「はっ!? セラってばなにして‥‥? って!? わたし水着になってる! なんで!?」

 自分で勝手にそうなったんだろう、とこの場合思っていけないのがセラ(gc2672)である。なにせ彼女、自分の内面に全くの別人格たるもう一人の女性の人格を持ち合わせているのだが、その記憶は一切引き継がないので、なぜ自分がこんな格好しているのか戸惑ったようにも。いえいえ。すでにそんなことには慣れっこになっているので別段気にする風でもなさそう。別人格が体現したということはすでに覚醒し、準備万端ということなのだろう。
「おっきいかたつむりにはしっかりどいてもらいましょ」
 それはセラ本来の口調。だがそこに至るまでの数々の深謀遠慮はほかならぬ別人格たる【アイリス】の行った事なのである。このアイリス、どうやらキメラの持つという特殊な攻撃に備えてこのような格好をセラにさせたのだがそれが吉と出るか凶と出るか‥‥。その行動規範はいうなればセラとは正反対に近いといえるかも知れない。
 
 対キメラということでは他にも更なる秘策?をめぐらして来た傭兵が約2名。絶斗(ga9337)とジョシュア・キルストン(gc4215)である。だがその秘策、ジョシュア曰くには、
(本当にこんな作戦で大丈夫ですかねぇ)
 という内容らしいことからして十分に怪しさ満点である。が、もう一方の当事者たる絶斗本人はやる気成功させる気をプンプン漂わせているから深くは追求しないでおこう。
(彼がやれというからどうなっても‥‥)
 心でこそ思え、今は口に出すことはしないジョシュアである。さらにもう一つの本音らしき言葉を呟く。

「ぶっちゃけキモいんでサボりたいんです」

 以下説明不要である。確かにキモさでいえばそこら辺のキメラの比ではないキモさ。想像してみてほしい。全長7〜8mはあるカタツムリのお化けなのだ。

 だがさらに。すでに気分は退治した後のキメラに向かっている傭兵約2名。そう、この手の類のキメラは退治した後のもう一つの楽しみ‥‥、それは。
「蝸牛おいしいといいなー」
 そう犬坂 刀牙(gc5243)である。すでに「○い気」オーラが全身からみなぎっているかのようである。こいつのオリジナルは西洋の某国では立派な食材なのだから。キモさに勝るものがまさにソッチの欲求。いやこれは本来人間の持つ自然な欲求(以下略)。
 刃霧零奈(gc6291)はすでにそっちの準備も万端なようだ。なにせMY調理道具やら調味料までここへ持ち込んできているのだから。すでにその頭の中はどんなレシピで捌いてやろうか、などということをいろいろ思い描いているらしい。料理は得意らしいのだが、「何とかより○い気」とはよく言ったものである。水着になぜか傘の十分にアレないでたちでたたずむその姿はある意味(以下自主検閲)

 こうして「平和の為」「キメラ退治の為」「○い気の為」といったあんなこんなさまざまな理由が成り立つ中、8名の傭兵はキメラに向かうのであった。はたして???
 

 傭兵達がその大きさを十分に確認できる場所まで接近した時、そいつはどうやらご機嫌斜めだったのかは知らないがその巨大な殻の中に閉じこもっておられる様子。3mほどの巨大な殻が小山のようにデン、と居座っているといえばわかりやすいだろうか。
 とりあえず2班に分かれる傭兵。殻そのものの破壊に向かう班と、殻口に向かう班。その本体がまさに殻口からその巨大であろう目玉と頭を出していれば直接攻撃も可能なのだろうが、今はその口を閉ざして閉じこもっている。

 傭兵達が接近しても相変わらずピクリとも動かない蝸牛。同時に真後ろから殻を攻撃し、まずヒビだけでも入れられないかを試すのは絶斗。だがどうして想像以上の硬さ。生半可な攻撃では傷どころかヒビ一つ入れられない。
 その盾の硬さに自信を持つセラも加わる。これはセラというよりアイリスの行動判断である。

 ガシィイイイ、ガシャンンン

 激しく盾を貝殻にぶつける。スパークするかのような火花がでんばかりの勢いである。だが殻はまだ持ちこたえている。

 そんな攻撃を微妙な距離から眺めるだけ?のジョシュア。自分の出る幕ではないと自己判断したのかそれとも本当にやる気がないのか? あまつさえ欠伸の一つでもしたいのか手の平を口元に持っていく仕草も。
 拳で殻を連打するのは刃霧。こちらはすでに己の食い気120%を満足させるべく必死?の形相である。食い物が絡むと気合が変わるのはどこの世界にもいるものである。
「あたしに、美味しく調理されちゃいなさーい!」
 人間の3欲こそ最大の欲求である。気合の入り方もまたワンランク上なのだろう。

 だが。そんなこんな攻撃でもびくともしないかに見えた蝸牛なのだが‥‥。


 それは突如起きた。外部からの刺激があまりにもうざったかったのか、その固く閉ざされた殻口がついにその口を開ける。そしてそこからニョキと出てきたのはキモイ‥‥いや大きいが意外とそれっぽい目玉とツノのようなものである。何事か、と外部の騒ぎが気にでもなったのだろうか。
 その瞬間を待ちわびてでもいたように、殻口班がその突き出たものに一斉に攻撃を開始する。
 
「ハッ、これでも喰らいな! 吼えろ、エリュマントス!」

 スキル全開の大振りな攻撃をその突き出た部分に見舞う春夏冬。

「俺は手加減などしない。悪く思うな」
 
 その口調の変化がすでに覚醒していたことを明らかにさせる沙玖。出っ張ったものはひっこめたくなるのは人の常であろう。


 グシャ


 なにやら嫌な音が。どうやら蝸牛の角がひしゃげつぶれたようである。それはキメラにとっては激痛にでも感じたのか。はたまた急所でもあったのか。あわててまた首をひっこめようとするのだが。


 ズガァアアアアアン!!


 安原の放った小銃の銃弾がそのひっこめようとした頭の先端に命中し、なにか気色悪い粘液のようなものを弾き飛ばす。さらに刀から持ち替えた沙玖の一撃が追い打ちをかける。それは再び閉じようとする殻口の中へ微妙なタイミングで吸い込まれていくかのようであった。大きく揺れる蝸牛。
そしてその巨大な殻が少しではあるが傾きつつあるのを見逃さなかった傭兵達。ここで新たな作戦決行である。

 再び閉じこもった蝸牛の殻ごと横倒しにしようとする作戦。殻のてっぺんめがけジャンプするのは絶斗。殻を掴んで倒立状態で倒せないかを試す。


「ウオオオオオオオ」


 これは咆哮である。気が咆哮になってその口から洩れる。

「たーおれーるぞー、なんだよーっ」

 その殻の上部を蹴り飛ばしながら叫ぶのは犬坂。グラグラとその殻が大きく揺れる。
 とその時。絶斗はそのジャンプした殻のある部分に気が付く。それはあきらかに目立つには小さ過ぎたが‥‥。それこそ傭兵達にとっての転機だったのだ。


 水滴、石を穿つ。そんな意味合いの昔からのことわざがあるが、まさに今その瞬間が目の前に現れたのだ。かすかではあるがあれだけ堅牢であった殻についたわずかな傷。
 大急ぎで殻から離れ、ジョシュアを呼ぶ絶斗。半ば退屈していたともいえるジョシュアがいよいよ主役になる瞬間である。
 上着を脱ぎ捨てる絶斗。気迫満点に戦隊ヒーローのような決め台詞を吐く。

「加速力、腕力、爆発力‥‥その三つのパワーを右腕に次々送り込み、発射させる‥‥これがジャイロジェットドラゴンキャノンだ!」

 かっこいい。かっこよすぎる。成功すればまさにヒーロー間違いないそれはまさに決死の覚悟。それに呼応するかのようにジョシュアがエアスマッシュを放つ構え。
 その一連の動きを見、ターゲットから離れるセラ。通称【エア絶斗】の発動の瞬間を大げさに驚くのは刃霧。他は遠巻きに半ばニヤニヤとその様子を眺める。

 右手に弾頭矢の鏃を掴んだ絶斗がジョシュアの前に走り出す。直後その背後からエアスマッシュの強烈な一撃が襲う。その爆発的なパワーを加速エネルギーに変え、一気に突進し殻を突き破ろうというのだが‥‥。
 皆の眼が一斉にその成り行きに固唾をのんで見守り‥‥。

「どうなってもしりませんよ!」

 ある程度結果が想像できているのか内心ワクワクしつつ叫ぶジョシュア。当の本人が希望しているのだ。どうなっても責任を負うつもりはこれっぽっちもないのだが。

 そして。すでにそれは想像された通りの結末となる。まさに矢のごとく蝸牛の殻に突き刺さる‥‥ではなく。これよりしばしの間、地面に転がったまま戦力外となった傭兵などまるではなからいなかったかのように蝸牛との戦いがクライマックスを迎えるのであった。南無南無。
 そんな屍?にやにわに敬礼するジョシュア。だがそのままの勢いで一気に蝸牛に接近し、叩き斬りにかかる。その動きは迅速で無駄がない。エア絶斗が炸裂するはずだったであろう場所をスキルでつくのは犬坂。先ほどの光景は彼らの中にはまるで記憶にないかのごとき無駄のない動き。 
 
 そして。そんな絶斗の名誉の戦死?のかいあったのかないのか、ついに蝸牛のその殻が横倒しになる瞬間が。だが最後の抵抗かはたまた断末魔のあがきなのか、いきなり殻口から胴体を突き出した蝸牛が放った必殺兵器とは。


 プシュウウウウウウ

 擬音にすればそんな感じ。その殻の方へ振り向いた口らしきところから吐き出されたのは必殺の粘液。それは殻班の群がる方へ一気に解き放たれた。

「目が、目がぁああああああああ」
「痒いぞオオオオオオオ」

 とっさに水着女性達の盾になるべく身代りになった春夏冬。だがそれは彼を含め、犬坂、刃霧達を直撃する。咄嗟に傘で防御する姿勢をとる刃霧。多少飛沫を浴びた安原はそのスキルでなんとか中和するのだが、春夏冬、犬坂、そして刃霧もかわしきれなかったようである。

「うーあー、ねばね…か、かゆいんだよーっ!?」
「はにゃー! 痒い! ものっそ痒いのぉー!」

 その強烈な刺激に思わず身をよじって悶絶する3名。

「これは庇って正解だったな」

 かろうじて喘ぎながらも呟く春夏冬。あたりかまわず身悶える姿は決して笑えない。不幸にも蝸牛の最後とも思える抵抗の犠牲者になった者たちの叫びである。
 だが残った者は横倒しになった殻と本体を攻撃する。もはや断末魔のそれへの容赦ない攻撃を加えるセラ、沙玖、安原、ジョシュア。セットしたスキルに救われた形になった安原。
 こうして。最後は意外とあっけなくその蝸牛は殻を破壊され無残な姿をさらしたのであった。
 その痒さからやっと解放された3名の傭兵が立ち上がったときすべてが終わっていた


 すべてが終わった。いやまだ終わっていない。楽しい楽しいクッキングタイムのお時間である。
 安原の持ってきた応急セットやらなんやらでどうにか戦力外から立ち直った絶斗を含めた8名がその食卓を囲むのだ。
 粘液攻撃に犠牲になった傭兵達の中にはそそくさと着替えたり、タオルで拭うべくテントに向かう者も。その光景はさながら行楽シーズンで大慌てである場所へ向かう光景のようでもあった。沙玖はその汚れた鎧を手際よく脱いでいく。そしていざ食卓へ。

 ところでやはり一番この時を待っていたのは刃霧である。本人いたって大真面目に水着エプロン姿で手際よく料理する。
「お、俺はかえってビデオをみなきゃ‥‥」
 などと最初は嫌がっていた風の春夏冬も結局毒見役をやることになる。
 できあがった料理を前に、ちらり、と安原の方を見やるジョシュア。まあ恋人関係なので多少の無理は効くのだろうが‥‥。

「どうぞ。お嬢様」

 だが、その気配を察したのかすでに脱兎のごとく3mほどその場から離脱している安原。追いかけるジョシュア。結局無理やり食べさせられることになるのだが‥‥。
「醜いです‥‥。でも、美味しい」
 いつの間にか羽織った上着で服を隠しつつほほ笑む安原。
 率直な感想でどうやら彼女の口に合ったようである。傍で見ているとほほえましくもある光景。
 寄生虫を心配していたむきもあったが十分に加熱調理したのでその点もクリアである。なので口にほおばるセラ。その表情は‥‥。
 かたや生の刺身を春夏冬に食わせようとする沙玖。彼が毒見と言っていたのはこのことだったようだ。むろん女性陣には完全に火の通ったものを、である。そのなんとも言えない未知の味に思わず声をあげるのは犬坂。そしてそれを調理した沙玖と刃霧の腕の良さに感心していたりもしたのだが。
 そんな沙玖。自らは蝸牛いや元キメラを食べる、という嗜好はなく、宴たけなわの隅の方で温めたスープを飲みながらそんな心温まる光景を見やっているのであった。こうして寒空の下、傭兵達の宴は長閑にそしてまったりと過ぎていくのであった。

 ところで気になるのはその味である。むろん好き嫌いはあるので一概には言えないのだが、ただ一つ言えることそれは‥‥。
 その後しばらく医療機関に通っていた某傭兵の姿がLHで目撃されたことは内緒である。

END