タイトル:秋の料理大全マスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/22 03:03

●オープニング本文


 それは一風変わったところからの依頼。依頼元は某雑誌社の編集部。とはいっても、例の「週刊個人雑誌クイーンズ」ではない。
 依頼元はグルメ関係の雑誌を主に発行している雑誌社。規模はそれなりに大きく、世界中に何箇所か支社も持っている程である。まあこの御時世、グルメ関係の本などそうそう売れるとも思えないのだが、それはそれ。実際には「料理本」とかはそれなりに読まれていたりもするのだ。いつの時代でも「食」に関することは興味の対象にならないことはないのである。

 さて。そんな雑誌社の編集部のそれなりに偉い方と思われる人物から届いた1冊の見本雑誌と依頼書。同封されていたその雑誌は、さまざまな季節料理を特集で取り上げたもので、季刊で発行しているらしい。そんな雑誌の中の記事に「この人たちが作る! オススメ料理」なるコーナーが設けられており、雑誌社がランダムに選んだ人々にテーマを決めて料理をつくってもらうコーナーがあるのだが‥‥。

「ふ〜〜ん。で、今回は傭兵のみんなに料理を作ってほしいということみたい」
 依頼書に目を通していたオペレーターが独り言のように同僚に呟くと、改めて雑誌の中身を見る。
「料理ねえ。まあ料理好き、得意な傭兵もそれなりにいるからいいんじゃないの?」
 と呟かれた側のオペレーター。何気なくヒョイ、とその依頼書を覗いてみると、
「でも、この内容って‥‥。う〜〜ん。どうなのかねえ。我々に頼むべき内容でもないような気がしないでもないけど」
 と目をしばたかせながら言う。
「でしょ〜〜。何か人選ミスという気がしないでもないけど、特に不自然な内容でも、NGな内容でもないしねえ。却下する理由は見当たらないわ」
 ということで無事受理され、正式な依頼としてモニターに写しだされる。

「『秋』をテーマにしたオリジナルの創作ミニフルコース料理を作ってくれる傭兵複数募集」

 ということで。

 さらに依頼書をよく読んでみると、どうやら指定された場所に出向き、そこで料理を作って、依頼元の雑誌社の方が試食する、という内容のようである。ということは最低限、「他人様の味覚を満足させる」レベルの料理でなければならないようなのだが??

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
歪十(ga5439
22歳・♂・FT
ミリー(gb4427
15歳・♀・ER
希崎 十夜(gb9800
19歳・♂・PN
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
ザイン・ハイルング(gc4957
23歳・♂・ST

●リプレイ本文


「さてね。どんなメニューが出てくるのか楽しみだわね」
 自ら、食通と自認するこの女性編集長。グルメなことでは自他共に認めるところでもあるのだが、今回はその対象が普段あまりこういった世界とは縁のなさそうな傭兵、とあっていつも以上に興味津々といった様子で、どのような記事にまとめようかと早くもあれやこれや悩んでいる様子。
 しかも今回のテーマが「秋」である。一年中でもっとも食材豊富といわれる季節、果たしてどのような味が彼女の味覚を通過し、そしていかなる香りが彼女の嗅覚に訴えるのであろうか。

「ん〜〜。たまには料理をしよう。昔はよくしていたものだがね」
 いつものごとくダンディズムを旨とし、紫煙をくゆらせるUNKNOWN(ga4276)。その一貫したライフスタイルから生み出される料理がいまから楽しみである。そんな彼のサポートもかねて今回料理作りを手伝うのは元給食調理員であったそうなザイン・ハイルング(gc4957)。料理を食べてもらい相手に満足してもらうことを望んでいるのはかつてのそういった仕事に従事していた経験からだろうか。こちらが1組目。UNKNOWNには前回世話になったのでそのお礼の意味もかねているのだとか。出来上がった料理の給仕もかってでるのがUNKNOWN。彼の作る料理には知性さえ感じられることだろう。

 そして。今回はさらにもう一つの組でもそのアイデア満載の料理が作られようとしていた。それは歪十(ga5439)を中心とする組。究極のフルコースづくりに挑むという彼とその協力者たるミリー(gb4427)、希崎 十夜(gb9800)、そしてソウマ(gc0505)である。もちろん今回も「キョウ運」の持ち主である彼。相手はキメラではなく料理なのだが、それでも何かが起こる予感が??
 
 こうしてさまざまなアイデアと知識そして経験などにも裏打ちされているであろう傭兵達による豪華にして味わい深い料理の数々がその手によって生み出されるのである。編集長でなくてもおそらくワクワク物に違いないだろう。
「モンブラン愛に満ちたおいしいモンブランをつくりますぞ〜〜」
 ミリーの誓いが印象的であった。その眼は輝いていた。待ち遠しそうである。
(なかなか面白い企画をしている雑誌社があるんですね)
 感心したように呟くのはソウマ。今回料理の勉強もかねての参加。かつて料理関連の依頼は何回か受けたことはあるもののほぼ調理のみとなる今回の依頼は彼にとっては初めての体験。いわく、決して下手ではない、ということなのでそのお手並み拝見、というところ。今回はフルコースのうちのサラダがメインの担当になる予定だ。食通、と評される女性編集長の肥えた味覚を満足させられる料理は果たして生み出せるのであろうか?

「それにしても設備すごいな」
 その設備の豪華さに驚かされる希崎。なにせ雑誌社専用にしつらえられたキッチンである。調理器具や調理台などあらゆる種類のものが一通りそろっているのである。
 そんなキッチンを前にしてさっそくオリジナリティーあふれる創作フルコースの調理にとりかかる傭兵達。はたしてその出来栄えは? まずはオードブルからである。
 その頃テーブルでは歪十が用意した白ワインが料理の到着まで編集長の喉を潤していた。つまりは『食前酒』というところである。さらにUNKNOWNのメインディッシュに合わせ、そのテーブルにはバタールも事前に準備されていたのであるが。


 まずはUNKNOWNとザインのグループのメニュー、それはトマトをゼリー状にし、それに3色のピーマンを寄せたトマトゼリー、そしてピーナッツを使ったカラメル味のクラッカー、それに甘味として用意した薔薇茶、の組み合わせ。器用にこれらをつくりこなすUNKNOWNと、そのサポートに回るザイン。あらかじめ材料を下ごしらえしておくなどザインの準備も抜かりはない。
「美味しいものが完成すればいいなっと」
 いかにも楽しそうにキッチンで振る舞うザインととどこおりなく料理作りに励むUNKNOWN。こうしてあまり時間をかけることなくいかにも味わい深そうなオードブルが完成する。そしてその出来上がったオードブルはさっそく女性編集長のグルメな胃袋に収まることになるのである。
 してその出来栄えは‥‥。

(これ!!)
 思わずその芳醇な舌触りに嘆息する彼女。決して嫌味に甘くない適度な甘さが彼女の口内に広がり、薔薇茶の香しい香りが彼女の嗅覚を刺激するのだ。
 その出来栄えはこの『グルメ』な女性をして満足と言わしめるものであったようだ

 さて一方の歪十達。こちらのオードブルは季節感にあふれた3点の品々。揚げ銀杏、オニオンのサーモン巻き、そして胡麻豆腐である。
 練り胡麻の風味を十分に生かしつつ、くず粉を混ぜたものに火を通すのは歪十。その傍らではスープを煮込みつつ、銀杏を揚げる希崎。手馴れているのか実にうまい手順でオードブルを仕上げていく。そしてチルドのサーモンにこちらも鮮度が命のオニオンを巻いたサーモンのオニオン巻き、の3点を仕上げる。でよくよく歪十の手元を見てみれば、包丁代わりにその手にしているのはなんと「刀」である。そのとても刀とは思えない捌き具合で材料を切り刻んでゆく歪十は見事である。
 こうしてできあがったオードブルは希崎が自ら給仕し、彼女の待つ食卓へ。その髪をピンで留めた姿はどことなく女性風‥‥。おっとこれは失礼。だが家事スキルの十分な彼には似合ったスタイルなのかも知れないが。

(え??)
 その食感と食材の鮮度に思わず口元がほころぶ編集長。一口大の大きさにそろえられた胡麻豆腐のなんとも香ばしい芳醇な香りが香味付に盛られた山葵のそれと絶妙に溶け合って彼女の口内から喉元まで伝わる。さすがに究極のフルコースを提供する、と意気込んでいただけのことはあったようである歪十と、まだまだ勉強中と謙虚ながらもその腕前は確かな希崎の手になるそれはこの食通の女性の嗜好を満たすに十分であったようだ。

 まだオードブルの段階だがその出来栄えは早くも次からのメニューに大いに期待を持たせるものであった。心密かに次のメニューに期待する編集長。


 フルコース2品目目は「スープ」である。もちろん秋、をテーマにしたスープであることには間違いない。そのせいか先ほどから秋を感じさせる鼻をつくいい匂いが調理場付近に漂い始めている。
 コロコロとした新ジャガ。その新ジャガをメニューに取り入れたのはUNKNOWNとザイン。スープのメインシェフはザインが担当する。新鮮な新ジャガをふんだんに使ったビシソワーズ風のスープに、タピオカを加える。これは食感を補うためのもの。その絶妙な食感にくだんの女史の舌も満足した様子である。
 かたや歪十達の作るスープ。これまた季節感満点の松茸等のキノコをふんだんにあしらったスープ。オードブルの作成中にコトコトと時間をかけて希崎が煮込んでいたのはこれである。サラダ担当予定のソウマ達の手伝いも受けながら濃厚なポタージュ風味のスープが完成する。どうやら隠し味のような感じで仕込まれているのは鶏がらスープだろうか? 季節のキノコが多数彩られた見た目にも季節感満点のスープが出来上がる。煮込み料理は得意と自称する希崎ならではの感もある一品。
 そんなスープも自らの手で給仕する希崎である。
 
「う〜〜ん。季節感がにじみ出ているわね」
 目の前に並んだ2種類のスープ、そしてそれを試食した女史の偽らざる心境であろう。新ジャガとキノコという大地と森の恵みがタップリ含まれた2種類のスープにさぞや女史の舌も満足したに違いない。

 そしてメインディッシュとなる3品目目。どちらのグループもメインは肉料理である。はたしてそのレシピは‥‥

 『鹿』肉を取り入れたのはUNKNOWNとザインの組。若鹿のディアブロ風ソテー、である。香辛料で味覚に刺激をつけた肉の上には溶ける果肉を混ぜた青ミカンゼリーが寄せられているのだ。
 付け合せにアロエが添えられているのがUNKNOWNのこだわりなのだろうか? 噛みやすくするためか切り込みが入っている。そしてチューリップのような形にカットされた肉はその形にもこだわった一品である。
 一方スタンダードな牛ヒレ肉と秋野菜を使った豪快な鉄板焼きを振る舞うのは歪十達。季節感を出すために南瓜やニンジンはイチョウやモミジの形に飾り切りされたものを使用。食べやすい分量にされた肉と共に鉄板の上で一気に焼き上げる料理。

「料理の音、香り、旨みを味わっていただくためにあえて焜炉を使う形をとらせていただきました」
 出来上がった料理ではなく、かの女史の目の前で焜炉に火をつけ、鉄板焼きを味わってもらおうという趣向なのだろう。目の前で贅沢な料理が出来上がっていく様を眺めるのはある意味格別、女史も当然その趣向に多少驚いた風ではあったが、焼きあがるにしたがってその香りと旨みが徐々に醸し出されていく様に思わず感慨深げであった。
 こうしてそれぞれのアイデアが満載されたメインディシュを十二分に味わったくだんの編集長。
 この段階で彼女の胃袋はすでに至福にみたされようとしていたのであった。

 多少なりともこってり感のある肉料理の口直しといえばサラダ、である。4品目目のそれらにもそれぞれ携わった傭兵達の個性と創作性とアイデアが十分に満ち溢れていたのであった。
 カルパッチョと季節柄、林檎ジュースを取り入れたのはUNKNOWN達。ほっと舌休め、の意味合いが込められているのだが、今回これに携わったザイン。秋野菜とアンチョビの味加減のバランスにこだわりかつシンプルにまとめることにする。それぞれの特徴を壊すことなく絶妙にブレンドされた一品に仕上がったのだ。見るからに旨そうである。
 かたやちょっと趣向を凝らし加減に見えなくもない歪十達のサラダ。手がけたのはソウマ。そのキーワードは「かけあわせ」のようなものか? 陸の「カキ」と海の「カキ」。偶然にも同じ名称をもつ2種類の食材の見事なコラボレーションの成果である。海鮮と野菜、海と陸、といういわば対照的な色合いをもつ2つの食材がサラダという共通のテーブルの上で実に見事にマッチングを果たした一品である。女性向けということを意識し、素材の形を生かし、かつ薄味に心がけた一品。事前にレシピなどは調べていたので手順には無駄がなくすんなりと出来上がったようだ。料理にも詳しい歪十の的確なアドバイスも効果があったのだろう。

 こうして2組のミニフルコースを心行くまで堪能したであろう女性編集長。だがまだ女性ならではのお楽しみが残っていたのである。そう、いよいよデザートの登場だ。そしてこの時を待ちかねたのがデザート担当のミリーである。モンブラン愛、を自認する彼女。はたしてその出来栄えは?


 すっかり満腹感に満たされた女史。何分2種類のミニとはいえどフルコースが味わえるとは事前に想像していなかったのでその驚きもさることながら、想像以上の出来のよさにちょっと驚いているというのが本音なのだろう。
 まずUNKNOWN組が取り揃えたのは、まさにこの季節にふさわしいデザート。見ればそれはシャンパングラスの中に季節感あふれる角切りの梨と皮をむいた白ブドウ。その上に季節のフルーツジュースがタップリと含まれた薄膜でおおわれたキャンディボール、とまさに味わってよし食べてよし、嗅いでよしの逸品。女史の好きな紅茶と共に目の前に提供される。よく冷えたそれはフルーツの芳醇な香りとほどよい酸味がほのかに彼女の口内と鼻腔を刺激し、ひとたびその球体を壊せばフルーツポンチにもなるという、食べ方のバリエーションもあふれる一品。すでに十分に満ち足りているはずであろう彼女の胃袋であるが、ついつい進んで手がでてしまうほどの出来栄えにもはや批評するという立場も忘れすっかりグルメに浸っている女史。

 だがこれでおわりではない。ミリーがその愛情たっぷり込めたモンブランがラストに控えているのだ。

「あら??」
 一瞬驚く女史。そして次の瞬間かすかに微笑する。そして給仕にやってきたミリーの方へ思わず視線が釘付けになる。それもそのはず。モンブランを給仕にやってきたミリーの格好はメイドそのものだったのだから。だがミリーにしてみればそれはごく当たり前の話だったようで平然とその愛情タップリのモンブランを女史の前に。

 見ればそれは。どうやらこの季節ならではのサツマイモがたっぷりと使われたモンブラン。だが単にサツマイモが使われているというだけでなく、その味わいや香り、見た目はどうやらいろいろと手の込んだ隠し材料でも使われているかのように思えた。ミリー曰く、レシピは『ヒ・ミ・ツ』だそうなので、やはりいろいろ仕込みがなされているのだろう。さすがコスプレ好きのモンブラン愛好家だけのことはある。凝っている。スポンジ一つとっても彼女のモンブランへの愛情度がひしひし、と食べた者に伝わってくるような一品であった。

 こうして。無事に2組のそれぞれに趣向を凝らした全10品目を平らげた女史。よくそのおなかに収まったというべきか‥‥。
「今日はとっても幸せな気分になれました。みなさんありがとう」
 自他ともに認めるグルメの彼女をして納得させる料理の数々を作った傭兵達。雑誌に載るからには半端な料理はだせない、というソウマの気持ちが皆を代弁しているかのような出来栄えであった。

 傭兵達にも隠れた?料理の達人は確かにいることが証明された。


 後日彼女が編集長を務める料理雑誌にこの時の料理の批評が早速取り上げられた。それは傭兵達の予想をはるかに上回る評価であったことはいうまでもない。グルメをして満足させる出来栄えだったのだ。

 ところで。例のソウマである。彼がこの依頼に参加していたということは当然何かが起こる、ということを暗示していたはずなのだが、試食中は何一つ起きなかったのは不思議である。だが待ってほしい。それは試食が終わり、傭兵達が後片づけをしていた時についに?起きた。

 ソウマが作ったサラダの残り。それを彼女の雑誌社の男性スタッフの一人があまりにもおいしそうだったのでその牡蠣を口に。どうやら彼の好物だったようなのだが。‥‥そしてその数時間後、トイレから立ち上がることができない彼の姿が複数の人間に目撃されていたらしいのだが。女史が無事だったことが不幸中の幸い、といえばそうだが、まさに『キョウ』運‥‥。