タイトル:危険な本?!マスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/07 23:32

●オープニング本文


 閉館時間を過ぎた図書館。一般の利用客が退館しても変わらずに忙しいのは職員たち。司書、と称されるこれらの方々は、返却された書籍の整理やら、古い書籍の入れ替え、新刊の整理など開館時にはできないような雑多な仕事をこなさねばならない。

 そんな彼らの前に突如現れた得体のしれないキメラ。得体、というかほぼ正体不明。なにせ見た目はただの「書籍」にしか見えないのだから。ただあきらかに違うのはその大きさ。本にはあるまじき大きさなのである。
 目撃者の証言によるキメラの特徴は以下のようなものらしい。ちなみにこの目撃証言は複数人に及び、また同時に2冊以上の目撃証言があるとのことなので、どうやら複数体いるようである。
 
1.大きさは縦1m。横幅数十cm。厚さはちょっとした辞典なみ。
2.なぜか細い手足がついていて、パタパタと動き回っているらしい。
3.手足の長さはその図体の割には短め。なにか光る棒のようなものを持っているとの証言も。

 だがいずれも情報が錯綜してはっきりしないのは、目撃した人はほとんど速攻逃げ出しているからだ。また別の証言によればその体からなにか薄い紙のようなものを飛ばしてきたとの情報もあるが。
 ただいずれの情報にも共通していることは、目撃時間が閉館時刻を過ぎてから、とくに19時以降の目撃情報が多数、なのでどうやら人気のある時間には現れない、らしいのだが。また明るい場所でも目撃されているので、暗がりにのみ現れる、ということもないようである。

 いずれにしても、まだ図書館の職員に実際に被害はでていないものの、‥‥それは見れば即逃げ出しているのだから被害が皆無というのもうなずけるが‥‥一部追いかけられたという証言もあるのでいつ被害がでてもおかしくはない。
 それに。こんなものが図書館に潜んでいては図書館としての機能そのものにも支障がでかねないので、早急に退治してほしいとのことで、正式に依頼として要請があった次第である。

 まあ、早い話「危険な本」というところだろう。
 多少半信半疑な思いを持ちつつも現場へと向かう傭兵達であった。

●参加者一覧

辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
相澤 真夜(gb8203
24歳・♀・JG
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
沁(gc1071
16歳・♂・SF
エクリプス・アルフ(gc2636
22歳・♂・GD
アリシア・トリーズン(gc3897
18歳・♀・ST
鎌苅 冬馬(gc4368
20歳・♂・FC
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER

●リプレイ本文


 カサ、カササ、ガササ‥‥

 閉館時刻を少し過ぎたころの図書館。すでに一般客の姿はなく、この日は職員も一時避難しているので館内は森閑としている。

 本棚がビッシリと立ち並んだとある館内のブロック。人気もないその一帯になにやら蠢くような怪しげな音。そしてやがてそれが一息ついたかと思うと、

 フッ‥‥

 と黒い影のようなものが書棚と書棚の間の通路を駆け抜ける。それはまるでGの如く俊敏な動き。

 ピタ

 突如それが立ち止まる。見ればそいつはこの場にあるまじき格好をした妙な物体。床に立ったその姿は見た目どう見ても分厚いただの『本』。だが決して本などではありえない。まず本は自力では立たない。それに本には決してあるはずのない短いながらも立派な手と足がついているからだ。しかも奇妙なことにその手足を巧みにチタパタと動かしながら。意外と敏捷である。

 そのなんとも奇怪かつ珍妙な光景。これが今回の舞台たる図書館の片隅の光景なのだ。で、よくよくみれば本の形をした立派な生命体と見えないこともないこの不思議さ。さらにお仲間がいるらしく、もう1体がひょっこり書棚の隙間から顔を出していたりするのだ。

 だが。そんな奇妙な光景が繰り広げられている場所からほんの数列離れた場所では、

 ドカン、バタン

 とか

 シュシュシュ、ギュ、ガチ

 といったおよそ図書館にはあるまじき盛大にして大げさな騒音が響き渡っていたりするのだが。その音は確実にこの奇妙な生き物にも伝わっているのだろう。いつになくソワソワしているように見えなくもないのだが。


「本のキメラですか‥‥」
 経験豊富な辰巳 空(ga4698)にしてもこのようなキメラと戦うのは初めてかもしれない。なにせ手足の生えた本など普通に存在するわけもなく。まあ、バグアのつくるキメラが時として意味不明に見えるのは今に始まったことではないのだが。もちろん彼ばかりでなく他の傭兵達もまた‥‥。
「本キメラかあ‥‥いったいどんなのかしら」
 こちらは興味本位でワクワクドキドキドキ状態に見える相澤 真夜(gb8203)。図書館の平和を守るためにも颯爽とこの場へやってきたことは間違いない。
「なぜそのようなキメラが作製されたのかも謎ですが、果たしてその中身は何が?」
 キョウ運の持ち主、ソウマ(gc0505)。かつて彼の参加した依頼では必ず何かが起きているらしい。良きにつけ悪しきにつけ、である。よって今回も必ずなにか起きる‥‥ような予感。
「珍しいキメラ。手がかりがあるかもしれない」
 沁(gc1071)、の長きにわたる己の過去の記憶をめぐる旅に、今日こそ決着はつくのであろうか?
 怖いもの見たさと好奇心が微妙に入り混じった気分でやってきたのはエクリプス・アルフ(gc2636)。走る本、とはいったいな何ぞや、な気持ちであろう。
 もともと病弱だったころの影響なのだろうか、読書好きな傭兵のアリシア・トリーズン(gc3897)。図書館の貴重な本に被害があっては大変なのでその退治に全力をつくす気構え。
 サイエンティストのイスネグ・サエレ(gc4810)。科学者にとって本は貴重な財産であり心の友。
そんな本がよりによってキメラの素材にされたことは人並み以上に悲しいのだろう。こんなキメラがでてきたこと自体悲しむべきことなのだ。
 そんな彼らが今回やってきたこの場所にもう一人、図書館にきわめて身近な存在の傭兵が‥‥


 さて。どのようにしてこの妙なキメラにご退場願おうかと事前の作戦会議。その場を仕切るのは、自称「奥の部屋を管理」しているという 鎌苅 冬馬(gc4368) その人である。ちなみに『奥』とは具体的にどこか? などとツッコムのは遠慮しておこう。本人が奥、といっているのだからそれでいいのである。今回まず彼の立案した作戦をもとに喧々諤々の打ち合わせが始まる。要は、本キメラを倒す、そのために仲間で連携する、ということなのだ。
 広い場所で戦うという彼の案とバリケードを築いて誘い込む、という仲間の案で白熱した議論が展開されたのだが。
 先ほどからトンテンカンの槌音が響いているのがその『結論』ということになるのだ。

 キメラがコソコソし始めたころ、急ピッチで進められるのはバリケードの準備。

 まず本箱と古毛布を手配したのは辰巳。ついでに丈夫な盾とワイヤーも手配する念の入れよう。自らの盾を快く差し出したのはソウマ。強度はあるに越したことはないのだ。シールドを2枚、これまた重そうにこのために運び込んだのはエクリプス。作戦開始時間まで限られた時間で速やかにバリケードつくりをしなければならない。
「お、重い‥‥」
 持参したベニヤ板で押しつぶされそうになりながらもどうにか運び込んできたのはアリシア。盾はそれなりの機能的な重量にできてはいるだろうが、ベニヤ板はただの板、である。確かに重そうだ。
「ぜぇぜぇ‥‥力仕事は苦手なんだなあ」
 いくらベニヤほどではないにしろ盾を2枚も持参すればそりゃ息もあがるでしょう、というのはイスネグ。すでにこの時点で練力を幾許か消耗してしまった雰囲気すら垣間見れる。普段はあまり存在感がなさげな彼だが、やるときはきっとやるのだろう。

 かくして。開始時刻の19時が迫ろうかという頃。本棚に挟まれた1ブロックの通路をびっしりと塞ぐようにしつらえられた大げさすぎるくらいのバリケード。キメラといえど所詮は本、である。いかなでもこのバリケードを突破できる力はその短い手足からは生まれないだろうと想像する。

 さては準備万端。頃合いもよく、奇妙奇天烈なキメラ追い出し作戦は開始されるのであった。たぶんに練力が減っているかのような雰囲気の傭兵が見えないこともないがそれだけ手をかけた『網』だと思えばなんとも心強い。まあ鮎の追い込み漁のような‥‥。


 その怪しげな気配を察したか当のキメラ。いつもより多少早め?にご出勤と見受けられる。意外と好奇心が強いのかもしれない。だがキメラである。きっちりと逝っていただくことになる。

 バリケードを拠点に探査の目を使ってその気配と動きを探るソウマと辰巳。その研ぎ澄まされた六感が逃げ隠れの巧妙なキメラの気配を探る。沁と相澤、エクリプスとアリシア、鎌苅とイスネグがコンビを組み、キメラを発見したらバリケードへと追い込むのだ。
 でそのキメラ。ただならぬ気配にいつも以上にはりきったのかは知らないが、その短い手足に似合わず俊敏に床を走り抜けると隣のブロックに移動する。

 パタパタパタ

 その手足のチタパタに合わせ発する足音のようなものが書庫一帯をまんべんなく探し回る傭兵達の耳にも達する。それと同時に同じような足音が重なるように反対方向へ駆け抜けていく。

 まずその姿を捉えたのは相澤と沁。その足音が彼女たちのすぐそばの通路から、遠ざかっていくのに気が付く。スキルを使って一気にその通路の見渡せるところにまで達する相澤。続く沁。

 シュッ‥‥

 相澤の視界に捉えられた何かが一瞬隠れるような影。どうやら思いのほか臆病そうだ。さらに一気にその方向へ。‥‥いた。そいつは短い足を器用に動かして今まさに通路を曲がろうとしていた。
 背後から追いついた沁とともに無線機で発見の連絡をメンバー全員に告げると一目散にそれを追いかける‥‥むろんバリケードの方にである。
 かたやキメラ。いままで追いかけられたことなどなかったのか、どうやら追いかけられるのは苦手なようで追われるままにバリケードの方へと誘導される。
 角を曲がり、そして‥‥。キメラにすれば目の前に得体のしれない巨大な障害物が待ち構えていたのだ。たぶんに腰でも抜かしたいところだったろうが、いかんせんキメラなのでそれもかなわず。あわてて反転するがそこにはすでに傭兵が。彼にすればおろおろしたいような心境だったろうが、そんなことは髪の毛ほども気にかけない傭兵。さっそく退治にかかる。

 するとキメラの胴体部分の本がパラパラとページをめくるように開き、そこから鋭い何かが飛び出してくる。なるほどそれはよくよく見れば本型のカッターのようにキラキラと光る物体。逃げることかなわぬ、と見たか一転して攻撃に転じるキメラ。だがヒョイとそれをかわす相澤と沁。さらにキメラをバリケードに追い込む。退路を断ち一気に攻勢に転じるのだ。

「てや」

 ずばっと相澤の一太刀。キメラの手にしたロッドが光る。あわててスキルで飛び退く相澤。

「うわっととと」

 大げさに見えるが決してそんなことはない。

「瞬雷!」

 牽制に専念する沁。初めは練成強化をした味方に攻撃はまかせる。弱ってきた相手にはその巻物風の超機械でトドメをさすのだ。どうにか逃げ出したいのだが逃げ道はどこにもないキメラ。そんな状況に頭を抱えようとするがその短い手では頭に届かない。かろうじて地団太ぐらいは踏めるのだが、その姿は「チタパタ」にしか見えない
 
 
 やはりといえばやはり、バリケードを力づくで突破できるほどではなかったキメラ。2名の傭兵に適当に遊ばれた挙句、古本のような体となりその場にグニャリとなってしまった。弄っていた最中に2名が多少手傷を負ったのもご愛嬌、というところだろう。
 
 ‥‥古本1冊完成。


 そんなドタバタがバリケード付近から聞こえていた頃、別の本キメラが全力でチタパタ中。遊んでいるのはエクリプスとアリシア。すでに1体のキメラが古本と化したことは無線で知らされているので、同じようにバリケードに追い込む作戦。意外と広い開架書庫。他の仲間の姿は見てとれない。
「さあさあ。こっちこっち‥‥」
 巧みに誘導し、バリケードの方へいざなうエクリプス。パートナーのアリシアが時折盾を高く上げるのは、貴重な本がキメラとの戦闘で傷まないようにする為、である。その為主兵装の出力もギリギリにまで絞って周辺への被害を抑えている。万が一のカッターの被害に備え、壁の役割はエクリプスの分担になる。
 すごい勢いでバリケード方向へ走ってくるキメラ。それを追うエクリプスとアリシア。目の前には巨大なバリケード。知ってか知らずかそれに体当たりするキメラ。当然ぶちぬくパワーなどあるわけもなく。

 グシャ

 巨大な反響と共にそれに弾き飛ばされ‥‥ではなくて、情けないことにバリケードの間に挟まって動けなくなるキメラ。まさに短い手足をばたつかせてもがくそのさまは見ていて滑稽ですらあり。
思わず哀れに思い‥‥なことなどあるわけもなく、これ幸いと背後から弄るかのように痛めつける2名。

 スポッ

 何かの拍子にバリケードから外れたキメラ。なんとか反転したが‥‥

「これで終わりですよ‥‥」

 トドメとばかりにキメラを叩きのめすエクリプス。‥‥こうしてジタバタする余裕など与えずにグニャグニャになるまで叩きのめされたキメラ。やはりぐったりとその場で動けなくなってしまう。

 古本2冊目完成。


 古本3冊目の獲物は鎌苅とイスネグの目の前にいた。

 サイエンティストなので先頭きってのチャンバラというより支援主体のイスネグ。練成弱体と練成強化を巧みに使い分け、キメラを弱らせ鎌苅を強化させる。他のメンバーと同じようにまずは巧みにバリケードに誘導‥‥。傭兵から当然逃げるように追われるキメラ。通路を突っ切り角を曲がり短足を最大回転させるように逃げてゆく。事前情報では「追いかけられた」という話もあったが追いかけられるのではなく、追いかける展開がもっぱら、である。
 そしてお約束のごとくバリケードへ追い込まれるキメラ。するとこんどはほぼ同時に逆方向からもバリケードに追い込まれるキメラが。そしてそれを追いこむようにやってくる辰巳とソウマの姿が。偶然だろうが2体同時に網に追い込む形になったのだろう。
 牽制しつつバリケードへと追い込み、近距離からこれでもかと殴りあうのは辰巳。はっきりいってタコ殴り。黒帯武道家系の彼に似つかわしい攻撃方法である。
「おやおや。こんなところで足踏みですか、どうやら躾のなってないキメラのようですね。僕がここで再教育してあげますよ」
 冷笑しつつ、優雅に遠距離攻撃を浴びせるのはソウマ。
「どうやら君の中身は読むに値しない内容のようですね。ムダな本は焼却処分に決定」
 やたら嬉しそうである。
 その傍らでは、チャンスと見たか武器で攻撃するイスネグと自称「管理人」の鎌苅。
「うまく当たれよ〜〜」
 イスネグが短く叫ぶ。ついには2体の本キメラ、かなわぬまでも、と思ったのかロッドをその短い手で振り上げ突進してくる。敵もこうなると必死である。

 だが忘れてはいけない。ここにソウマがいる、ということは絶対に何かが起きる、ということの裏返しでもある。そしてそれは起きた。しかもこんな緊迫した状況で。

 ドサ‥

 追いつめられたキメラと立ち向かうソウマの目の前に突如何かの拍子に棚から落下してきた1冊の本。都合よくそのページが落下の衝撃で適当に開く。するとそこにはなんと、公共の場である図書館の公序良俗に明らかに抵触しそうな、そういわゆる未成年ダメよの『エ○』な描写がなされたグラビアページが。なぜここにコレが?
 
「‥‥」
 
 その場にいたソウマが真っ先にそのページに目が留まる。いや眼だけではない。体全体一瞬フリーズしたかのようにその場で動かなくなる。がそれだけではなかった。なんとキメラも一瞬動きを止めたのだ。むろんエ○に反応した、などというわけはなく、たぶんに驚いた程度なのだろうが、本が落下して驚くキメラもいるものかと思うが、そこを逃すソウマではなかった。見て見ぬふりをしつつキメラにトドメを刺しに行く。それにしてもなんでこのようなことが‥‥いや起こったのだ、実際。幸運だったのはこの場に相澤やアリシアがいなかったことか。

「さて、終わりですよ‥‥」
 それがフィニッシュのエクリプスの一言。キメラは例のごとくグニャリとなった。
 かくしていささか簡単ではあるが古本4冊完成。


 こうしてキメラは退治され、バリケードを撤去する傭兵達。
「図書館の平和は守られましたね」
 と相澤。
「いったい、なんだったんだ!?」
 いまだによくわからないといった表情のエクリプス。
 そしていつもの如く、キメラの死骸からある部位を探すのは沁。はたして見つかったのか‥‥それは結局当の本人のみ知ることである。
「う〜〜ん。中身がぜひ知りたかった」
 中身を見損ねたままにしたのか、ちょっとくやしそうなイスネグ。その表情は皆の労をねぎらうかのようにも見えた。

 そんな中。

(う〜〜ん。どこの図書館でもある悪戯の類ですね。実にくだらない)

 と呟き、あくまでクールさを装いこっそりエ○なページのある本を‥‥するソウマの姿が目撃されていたりもしたのであった。そういえば戦闘終了後にこっそりそのエ○な本を‥‥しようとしていたとかいないとか。