タイトル:【BD】ジハイドの影マスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/29 00:03

●オープニング本文


「ボリビアか‥‥。暇を持て余すよりはマシか」
 自室の壁に掲げられた世界地図。その南米の一部に大きく赤丸で囲まれているその国こそ、ボリビアである。今回人類側の最終目標になっている国でもある。ニヤリ、と不気味にほほ笑むこの男こそ、ゼオン・ジハイド10のアルザークである。
 彼の名誉のために言っておくが、別に呟くほど「暇」というわけでもないのだ。人類が南米各地‥‥コロンビア、ベネズエラ、そしてこのボリビア‥‥への大規模作戦を展開してからバグア側も当然それに対抗すべく様々な作戦を行っている。だがこの男。やはり自らの手で率先して最前線でドンパチやらないと気が済まない性格なのであろう。
 聞けば。度重なるバグア側の工作活動により、ボリビアの敵防衛網はかなり虫食い状態になりつつあるとのこと。ならばそんな隙間に自ら足を突っ込んでみるのもまた一興とでも考えたのだろうか?

 その時ドアが開き、長く子飼いにしている部下が入ってきた。彼が呼び寄せていたのだ。
「お呼びでしょうか? アルザーク様」
 立場上上官になるアルザークに礼を尽くした挨拶。
「ボリビアへ行こうと思う。同行するしないは任せる」
 簡潔に言い放つアルザーク。
「ボリビア‥‥。なるほどおもしろそうな場所、を見つけたというわけですな」
 部下はククク、と笑った。過去同じようなことは何回もあり、別に同行しなくてもなんら叱責を受けたことなどないが、そこは長年彼の部下だった男である。同行しない理由などない。
 その言葉には反応せず、自室のモニターに映るティターンに目を向ける。彼が最近自分専用にチューンしたものだ。どうやらその性能テストをしたいらしいことは部下にもよくわかっていた。

「お気に召されるとよろしいですな。アルザーク様」
 モニターに目をやりつつささやく部下。
「フフフ。行ってみないとわからんな。‥‥まあ。少なくとも退屈はしないだろうが」
 そう言うアルザーク。すでにその眼には冷酷な光が漂っているのである。

 それから幾許かの後。ティターンとタロスが悠然と宙に舞いあがる。その行先は‥‥。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
三島玲奈(ga3848
17歳・♀・SN
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
希崎 十夜(gb9800
19歳・♂・PN
ブロンズ(gb9972
21歳・♂・EL

●リプレイ本文


 南米某所上空。曇天の空の雲を蹴散らすように飛行する時枝・悠(ga8810)のKV。それにあわせるかのように雲が散らされ青い空がくっきりとよみがえる。これは上空からの『敵』の奇襲に備えるものだ。
 そんな視界の開けた上空にもしっかりと警戒の目を怠らないのは漸 王零(ga2930)。何かあればすぐに先手を打てるように陸上と合わせてしっかり警戒する。
「さて。どんな敵がでてくるやら」
 
 ボリビア某所の山岳地帯に囲まれた丘陵地。こんなところにやってくるなどとはずいぶん酔狂な敵、しかも情報によればたったの2機という。ティターンとタロスが1機づつ。そのことでスーパー級バグアの飛来を想像するのは榊 兵衛(ga0388)。
「たった2機とは。よほどの手だれか‥‥それこそゼオン・ジハイド級のな」
 先だっての北アフリカでの体験が脳裏をよぎる。
「遊び相手と指名か。ふざけているがそれだけの実力があるのだろうな」
 対タロス戦に向け、その時を準備万端で待つ時任 絃也(ga0983)。エース級のタロスであろうと想像する。
「たった2機とは。いくら緩んだ防衛網とはいえ、よほどの酔狂かそれとも相当のエースか。あるいは‥‥」
 その数の少なさに多少驚きを禁じ得ない飯島 修司(ga7951)。
 自分より強い存在と対峙してこそより自分が鍛錬される、と心ひそかに思う希崎 十夜(gb9800)。どんな強敵であろうと決して逃がすつもりも撤退するつもりもない。
 そんな強い思いの傭兵達ではあるが、ブロンズ(gb9972)は多少様子が違うようだ。決して戦闘に対して消極的ということではなくその思いは皆と同じ。だがなぜかしきりにコクピットの中で眠そうな表情の彼。その為か眠気覚ましのコーヒーを飲みながらKVの中でその時を待つ。いままでいろいろ頭を悩ます依頼が多かったようで、今回は気が楽に感じているようだ。
「開所戦闘の雌雄は包囲されるかされないかで決まる」
 三島玲奈(ga3848)が注意を喚起する。決して油断はしない。
 

「ククク。はたしてどんなヤツらが現れるのか」
 上空から現れるかもとの予想を裏切り陸路現場へ向かうティターン。とはいっても低空を飛行してくるので完全に歩いて、というわけでもないのだが。
 赤いタロスを引き連れたその全身黒いまがまがしいまでのフォルム。それこそ彼‥‥アルザークが今回初めて持ち出した彼専用にカスタマイズしたティターンである。多少防御、回避力をデチューンしているものの、その分を攻撃力に振り分けたようなステータスである。彼ごのみの機体といえるかもしれない。性能テストもかねているので無理はさせないつもりなのだ。

 やがて。バグアの高性能レーダーにKVの姿が輝点となって明滅し始める。その数8機。してやったり、の表情を浮かべるのはアルザーク。
「以前、俺がアフリカで相見えた傭兵がいることを期待しよう」
 そう言い放つと、コクピットのスイッチを入れる。とたん、ティターン全体が鈍く光を放ち始める。戦闘モードがONになり、防御機構が作動し始めたのだ。

 小高い山を越えると、目の前に多少開けた丘陵地が。そして遠景ながらKVの姿が一望できるようになった。
「ほお」
 スコープを最大にしたモニターに映るKV。その中には彼が以前見知ったKVの姿をおぼろげながらはっきりと認める。
「さっそくの出迎えのようだな。ならばこちらもそれなりの礼儀を尽くさせてもらおうか。ククク‥‥」
 その残忍な笑みが口元からあふれ不気味な表情を作り出す。そしてゆっくり部下と共にそこから降りていく黒いティターン。

 すぐに‥‥、

「敵捕捉‥‥。先手をとる」
 漸が動く。2機の巨体が山肌をゆっくりとおりてくるその姿はすぐにKVの視界にもはいる。山が影になってレーダーでは完全にとらえきれなかったのだが。すでに敵の射程内である。いつ攻撃されてもおかしくはない。射程では完全にバグアが上回る。それに呼応して他のKVも動く。
「さて行こうか」
 若干眠気から解放されでもしたのか、ブロンズが愛機に声をかけ、静かに動き出す。

「ククク。さっそく歓迎されたらしい」
 ティターンの両肩が開くとそこからビームの閃光がKVに殺到する。同じくタロスもその口のあたりから一条の軌跡が。飯島、榊、希崎のKVがそれらをいち早く回避する。さらに接近。そしてKVの射程内に敵が捉えられようとするその時‥‥。

「フフフ。待っていたぞ。この日を」
 
 漸がその砲火を開こうかという寸前、いきなりKVの全機に飛び込んでくるアルザークの声。それは榊、飯島、漸の3人には確かに聞き覚えがあった。まさにあの時北アフリカで‥‥。その源はどうやら黒い巨体からのようであり、これがティターンのようである。

「‥‥貴様! アルザークか」
 即座に反応する榊。その声ははっきりと聞き覚えがあるもの。
「よかろう。俺も一廉の傭兵のつもりだ。ここで己の全力をださせてもらおう」
 言うが早いか閃光一閃。雷電からの強烈な閃光がティターンを襲う。だがその手にしたシールドではじかれる。
「先日の北アフリカでは名乗らずに失礼した。‥‥私、飯島と申します、以後お見知りおきを」
 いかにも余裕たっぷりに応える。そして一気に間合いを詰めると槍の強烈な一撃。それはティターンのシールドを弾き、その胴体にあきらかなダメージを与える。
「!!」
 かすかに動揺するアルザーク。すぐに修復機能が働いたものの、ティターンにたった一撃で傷を与えるほどのKV‥‥。返す刀で飯島機に集中砲火。だがその愛機はわずかに揺れた程度。そのティターンの攻撃を受け止めたのだ。
「貴様‥‥」
 アルザークが吠える。傍目に見れば驚きすら垣間みせたのかもしれない。その直撃を食らってなお健在なKVが存在することに、である。
「残念ながら我は今回遊べそうにない」
 前回の依頼で重傷の漸。今回まともに彼とやりあうのは無理と考えたのか。あえて距離をとりアルザークに対応する。怪我の影響を極力見せないように注意する動きである。

 それは武士の決闘前の名乗り合いの如く。次の瞬間2機対8機の戦いが開始されたのである。


 ‥‥たぶんにアルザークは油断していたのかもしれない。まさかこれほどの猛者が多数自分に挑んでくることを。もしくは自分の初見以上にそのKVの性能が高かったことを。彼はすぐに後悔することになる。

 三島が狙うのは部下のタロス。‥‥赤い機体である。希崎、時任、そして漸の4機がタロスにあたる。
 見れば敵は適当な間隔をとりながらほぼ真横に真正面からKVに立ち向かう。もとから真正面からドンパチやりあう気のようだ。牽制しつつ連携をとり接近戦を挑む時任。だがタロスからの巨大な剣がその狙いを阻む。


 ガシインンンンンンンン‥‥‥!!


 盾と剣がぶつかり合う轟音が響く。おたがい一歩も譲らない。だが傭兵の2の矢3の矢がタロスを襲う。
 やや離れた距離から弾幕で味方の攻撃のサポートをするのは漸。返す返すも自分がご指名のアルザークと対峙できないのが残念そうではあるが。タロスがその一見スマートそうなフォルムから繰り出すのは悪魔の一撃。だがそれよりわずかに早く味方の攻撃がタロスの脚を止める。むき出しになった体内の生体部品をかばうように修復機能が作動する。だがその暇も与えずさらに攻撃の手を緩めない時任。

「お前の相手はこの俺達だ。付き合ってもらうぜ」
 タロスに対してその火力を生かした一撃を見舞う希崎。タロスの機体から激しいスパーク。だがこの程度でどうにかなる相手ではないことは先刻承知である。タロスの攻撃のタイミングを計る。スラライを放ち、その予測回避軌道上へ新たな砲火を炸裂させる。


 ドガアアアアアアアアンン


 タロスに直撃。さらに自機を囮とすべく逆方向への動き。だがその動きがタロスには煩わしかったようである。ダメージ覚悟で一気に接近される。0距離からの猛射。


 グラリ


 と大きく機体がかしぐ希崎機。さらに一撃。どうやらタロスにとっては標的とでも思われたのだろう。
 背後から迫るKVの猛射がタロスの背後に命中し、火柱があがる。とっさに振り向くタロス。その視線が醜くゆがんだかのように見えたのは、己の背後に迫った傭兵達への恫喝にも見えたのだ。
 だが今の傭兵達にはただのこけおどしにしか見えなかったのかも知れない。
「そら撃て、そら怯め」
 狙撃に次ぐ狙撃の三島。だがタロスが再び向き直った時、そこには機体から白煙と炎を噴き上げつつよろめく希崎機。タロスの捨て身の肉弾戦の標的になった格好。だがかたやタロスもKVの猛射にあちこちからその肉体が悲鳴を上げる音が。修復機能がもはやその損傷においついて行かないのだ。たぶんどこか機能自体に重大な損傷でもあったのだろう。
「この戦いで全力を出し切る」
 時任の愛機のモニターいっぱいに硝煙にかすむ今や傷だらけのタロスが映る。むろん味方にも無傷な者は一人もいないことはわかりきっていた。
 そんなタロスに0距離から猛射を浴びせるのは時任。だがそんな猛火を縫うようにタロスが迫ったのは三島機。どうやらこのタロスのパイロット、長年の経験からか対峙するKVの中で三島機の機体の弱点でも見切ったのだろうか?
 0距離に接近する両名、三島のリニア砲に白煙を上げながらもひるまずそのまま巨大な剣を振りおろすタロス。
「悪いがやらせはしないよ」
 とっさにその危機を察知した漸機からエニセイが一閃しタロスを捉える。瞬間微妙に狙いが外れるタロスの刃。その巨大剣はわずかに三島機の急所をそれ、その右半身に大きなダメージを与える。
 コクピットにともる赤ランプ。それはKVとしての戦闘能力を奪うには十分であった。

 だがそんな捨て身の肉弾戦にも近い攻撃はタロスに更なるダメージを負わせたようである。どうやらそれなりの覚悟を決めた攻撃にも思えたのだが。そして‥‥。
 まるでカウントダウンでもするかのようにゆっくりと足元から崩れ落ちていくタロス。さらに迫る時任機と漸機。


 ズガアアアアアアアンン


 耳をつんざかんばかりの轟音と天を衝かんとする火柱。タロスはつい爆裂した。‥‥だがその寸前にその頭部が大きく開き、脱出用ブースターが天高く一気に打ちあがったことに傭兵達は気が付かなかった。たぶんにタロス本体に気を取られていたのかもしれない。

 かくしてタロス轟沈。エース仕様ではあったが巧みな連携と常に絶やすことのなかった砲火の前についに残骸と化したのだ

 残るはアルザークのティターンのみ。だがさすがにティターンはそう簡単にはいかなかったのである。黒い化物は伊達ではなかった。



「この俺を落とせるとでもいうのかあああああ」

 アルザークの形相が一変する。それは中のバグアの本性がむき出しにでもなったかのようである。だが己の内心の動揺を隠すためのものだったのかも知れない。もし的確な言葉があるとすればそれは「誤算」「油断」であったろう。
 砲火を浴びせつつすこしづつティターンに迫る榊機。むろん一発で倒せる相手ではない。だが少しでもダメージを蓄積させたいのだ。ティターンの両肩から浴びせられる攻撃には弾幕を張りつつ、である。その黒い巨体は囲むように迫る4機のKVを真っ向から受けようとしていた。
 そして飯島機。常に相手の挙動を注視する。機械ではない以上、いや機械にさえクセがあるのだ。必ずしやアルザークにもクセがあるはずである。この状況でありながら冷静にその動作を見切る。
 その為か。ときにはそのティターンの攻撃をあえて受け止めたりもする。ティターンの巨大な剣が飯島機を襲う。だがその愛機は多少ぐらつきこそするものの決して頽れたりはしないのである。
「クソ‥‥!」
 はた目からみればアルザークはあせっていたのかもしれない。左右から挟撃するかのように迫る飯島と榊。
「無様を晒すわけにもいかないしな。気張れよディアブロ」
 愛機を叱咤激励するのは時枝。あえて近接戦闘に持ち込み、その攻撃を盾でしのぎつつその斧を黒い機体に叩き込む。むろん1撃2撃でどうなるわけでもないが、それは確実にティターンの装甲を削る。常に複数で動き相手に動きを読まれないようにである。その再生能力を発揮させる前に決着を図る時枝。手を替え品を替え、実力では上かも知れない相手に、その手の内を読ませない動き。
 アルザークがいらだつほどに、確実な攻撃がその耐久を削る。常にティターンを挟むような動きと連携。そしてアルザークがあえて犠牲にした防御力と回避力が傭兵達にとっては幸いしたのだ。
 だが相手はティターンである。皆が皆うまくいったというわけにはいかないようである。

「よろしくお願いします閣下」
 時枝を閣下と呼ぶのはブロンズ。睡魔と闘いつつティターンの刃を紙一重でかわしつつ練力を温存しつつ決定的なチャンスをうかがう。榊と飯島の連携に合わせその2刀で追撃にでるのだが、そのタイミングをアルザークも狙っていたようである。一瞬襲った睡魔の故か? わずかに反応が遅れる。
「もらった!!」
 そんな気が奔流となってブロンズに届くかのよう。その狙いすました一撃がブロンズ機に致命的な一撃を与える。


 グシャアアアアアアアア


 なにかがひしゃげるような音。ブロンズ機の頭部がティターンの剣で吹き飛ばされる。そのまま100mほども吹っ飛ばされるブロンズ機。立て続けに襲うティターンからの猛火。それはブロンズ機の装甲に大穴を開ける。
 だが、アルザークにとってはこれが最後の抵抗だった。榊、時枝、飯島、ブロンズの4名の猛攻にさらされたティターンはすでにその自己修復能力を喪失し、明らかに修復不能なダメージを負っていたのである。この場にこれ以上とどまることは不可能である。


「‥‥この俺としたことが‥‥」

 
 ホゾをかむアルザーク。ティターン1機では太刀打ちできない傭兵がいることを思い知る。数対1でも勝てるはずだったティターンが、である。
 突如、その動きを停止した黒い機体に傭兵達が殺到する。ブロンズ機が気になるところだが、今は目の前のティターンだ。黒い機体にその槍を深々とめりこませる榊。ティターンの攻撃パターンを見切ったかのような動きの飯島とそれに合わせるかのような時枝。


「榊 兵衛だ。覚えておけ!」


 そのトドメの一撃がティターンをえぐる寸前、その頭部からカプセルが空中に射出される。それはいきおいよく上空に舞い上がり、エクアドル方面へと消えていった。ついにアルザークがその機体を見限ったのだ。ほぼ同時に大音響と共に紅蓮の炎を上げ爆裂するティターン。
「これだけやってあの程度か、判りきっていたが‥‥先が思いやられるな」
 時任の言葉がすべてを物語る。

 こうして多大な犠牲を払い、アルザークのティターンは灰塵と化した。それは新たな因縁の始まり。