●リプレイ本文
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「敵機来襲! ‥‥敵HW多数。急速接近中」
けたたましい警報音が空中哨戒中のKVのコクピットに鳴り響く。あらかじめ予想されていたこととはいえ、今まさにそれが現実になろうとしていた。
見ればそれぞれのKV。その兵装スロットにこれでもかと装備された数々のミサイルの山。それは彼らが対HW用に準備したもの。いわばミサイルの壁、である。まさに『ミサイルロマン』を彷彿とさせるそのフォルムはどこかの映画にでてきたワンシーンのようでもある。
「‥‥邪魔はさせません」
警報がなるまでこの蒼空はるかどこかを見やるような表情を見せていたりもしたセシリア・ディールス(
ga0475)。だが今はその視線は前方を注視しているのだ。
「この俺がいる限り輸送船は落とさせやしない」
今は、その顔面のトライバルこそはっきりと見ることはできないがその風貌はバイザーを通してかいまみることができる歪十(
ga5439)。快晴の高高度であり視界は良好だ。
「来ましたか、まあ見逃すはずもないですしね」
空戦は当然、といった表情を見せるのは秋津玲司(
gb5395)。その愛機はまさに『ミサイルロマン』を体現できる機体だ。なにせ主兵装以外すべてミサイルなのだから。
「ほどほどの敵数ですかね」
イース・キャンベル(
gb9440)がレーダー画面を注視しつつ呟く。
機上レーダーに映る複数の輝点。それはすぐに機種が認識できるほどに接近してくる。
「‥‥敵。小型8機。中型2機。‥‥その後方に大型が1機確認」
レーダーサイトから改めて入る報告。それは直ちに空中警戒中の全KVに共有される。
すると、
「イース・キャンベル。先陣きります」
イース機が他機に先行して駆ける。間もなくHWの射程に入ってもおかしくないタイミングである。
(‥‥簡単にいかせてくれるほど甘くはないか)
エンゲージ直前の機内で一人考えにふける有村隼人(
gc1736)。淡々とした口調のその内に秘める闘志は誰にもひけをとらないものである。
傭兵達より一足早く、その高性能レーダーによりKVの機影を察知したHW群。それに合わせるかのようにそのフォーメーションを変更し、小型が横1列の密集隊形になり、その直後にほぼ等間隔に2機の中型。そして100mほど離れて大型がほぼ同高度に展開するような陣形になる。そしてそのまままっすぐにKVの方に進路を向ける。
「ミカエル‥‥。頑張ってやっつけちゃおうね」
初のKV戦、初の空戦、と初めてづくしのユウ・ターナー(
gc2715)。この場に不似合いなほどのドキドキワクワク感満点なのは内緒である。
「さてと、空戦は今回が始めてだな‥‥」
と九道 麻姫(
gc4661)が言いかけたその時、KV全機のモニターに無数の輝点が映り、急速に彼らの方に接近してくるのであった。
射程で勝るHWからのバグア版K−02、すなわち多弾頭ミサイルが無数の軌跡を蒼空に描きながらKVに殺到してきたのだ。
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1000発を超えるミサイルが8機のKVに殺到する様は壮観‥‥といいたいところだが、ミサイル満載で弾幕用の兵器を搭載していない機体にとってはあまりありがたくない歓迎である。
HWの多弾頭ミサイルが到達する直前に急上昇したイース機こそ難を免れたものの、その他のKVは大なり小なりミサイルの洗礼にさらされる結果となる。
バルカンやガトリングといった対空弾幕にも有効な兵装を装備してきたユウ・歪十・そして摂理(
gc3333)らに殺到したミサイルはそれでもその威力こそ多少は削がれたものの、他の機体は多かれ少なかれその被弾を受ける結果になる。命中精度は決して高くはないこともあって幸い致命傷にこそならなかったが、秋津機や九道機そして有村機はその緒戦で多少なりともダメージを受けてしまった。
「相打ち覚悟でも止めてみせる」
HWのミサイルの攻撃をマシンガンの弾幕でなんとかかわしつつ摂理がつぶやく。
だが、ようやくその射程にHWを捉えたKV全機からおびただしい数のミサイルが空中乱舞する。まるで空一面を覆い尽くすかのようなその壮大な軌跡が迫りくる11機のHW、とくに大型以外の10機に殺到するのだ。彼らの狙いはまず小・中型HWの殲滅なのである。
「少しでも数を減らす!」
高空から一気に急降下しつつ敵に接近するのはイース。至近距離からそのHWに殺到するまばゆいばかりの白光のような高熱量のフラッシュ。それは小型のHWの何機かを確実に焼き尽くすかのようである。そしてそのまま敵の眼前を突っ切ると旋回して再び急上昇。
そんな高機動がHWの編隊の直前で展開され、明らかにHWが気を取られたかに見えたその瞬間。
KVの放ったミサイルの壁がHWに到達する。
「これでも食らっちゃえ!」
ユウが叫ぶ。
「‥‥発射します」
ミサイル発射時もあくまでクールなままだったセシリア。そのパンテオンが牙をむきHWに殺到する。
瞬間、爆煙と火花がまるでその空域をまったく別世界に変えたかのように包み込む。その為視界が一瞬ではあるが遮られる形のKV。
その視界がまだ完全に晴れぬうちに、輸送部隊の直衛に回る歪十と摂理がその場を離脱する。2射、3射と立て続けに殺到するミサイルの雨とそのたびに沸き起こるもうもうたる爆煙と激しい爆発音と火花。
そして。ひとしきりその爆音がやみ、あたりの視界がもとに戻ったとき、すでに彼我の形勢は変わりつつあったのである。
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果たして何発あったであろうか。小型と中型に殺到したミサイルの雨。それが終わったとき、すでに3機の小型HWがその空域から跡形もなく消し飛んでいたのだ。
「さすがに派手だな」
眼前で繰り広げられるその爆発の光景が想像以上だったのか、思わずため息さえつくような思いの九道。有効な弾幕兵器を持たない小型HW相手にミサイルの雨は有効に機能したのである。
だがすべてうまくいったわけではない。後方の中型を狙ったソレはその大半が中型のバグア版ファランクスの餌食になり、たいしたダメージを与えることはできなかった。その編隊は陣形があまり乱れることもなくなおも直進してくる。多分想定していたのだろう。
まずは中型を落としにかかるセシリア。手じかな仲間と編隊を組む形でスナイパーライフル掃射。さらに接近し高分子レーザーを叩き込もうとする。だがHWから打ち出されるレーザーバルカンがその目論見を阻む。そのまますれ違い、お互いに反転する。
そんな彼女を援護する秋津。緒戦で何発か多弾頭ミサイルの直撃を受け、多少出力が低下したもののまだ戦闘継続に支障はない。温存したUK−10をお見舞いする。直前の攻撃で中型に対して使用したASM「トライデント」はもともと対艦用とあって空戦ではさしたる効果はあげられなかったのだ。命中精度の向上がはかられてはいたが、やはりファランクスの餌食になった方が圧倒的に多かったのだ。
小型HWが1機、火花を散らしながら急激に高度を下げる。なんだかんだでミサイルが当たれば小型HW程度ならば‥‥。
ガトリングで牽制しつつ応戦するのはイース。急降下から急上昇して味方後方からいつのまにか戦闘に合流していたのだ。ガトリングから逃れようとした小型HWにショルダーキャノンが炸裂。
ズガ〜〜〜〜〜ンンン
小型の右舷に激しい爆発が。おおきく機体が揺らぎ白煙を噴き上げる小型HW。
「簡単に通しはしません」
有村が呟き、中型HWをまずは残存したUK−10で牽制する。それをファランクスで迎撃する中型。その隙にスラライが一閃。中型がわずかに揺らぐ。さらに接近を試みるが中型のバルカンが簡単にはやらせない。なにかがスパークしたかのような火花がKVのモニター越しに映る。どこかに軽微な損傷をうけたようだが構わず接近。至近距離からレーザー砲を一撃。KVにもとどろく爆発音と閃光を残し、中型は大きくかしぐ。
「ほらよ」
インカムに響く九道の声。ほぼ同時に大きくかしいだ中型が爆裂する光景が。彼女のスラライがトドメを刺したのだ。
「攻撃は最大の防御、なの!」
イースとロッテ隊形を組み連携するユウ機。ガトリングの雨を手じかな小型HWに浴びせる。その猛射を浴びた小型は火を噴き一気に落下していった。
HWを囲い込むように追いつめるKV。数の減った小型HWと中型HWがさらに密集体型に。そこへフォトニック・クラスターを浴びせるのはイース。まばゆいばかりの閃光が密集したHWを覆い隠す。その高温度のフラッシュの餌食になった小型HWが文字通り蒸発するかの如くその視界から消滅する。いままでそれがいたであろう場所を掠めるように通過するセシリア機。ほぼ同時にレーザー砲が命中していたのだ。
だが。そんな小・中型との混戦のさなかに大型から発射される多弾頭ミサイル。それは前方のHWを縫うようにKVに殺到する。だがわずか、のところでその直撃を回避するKV。秋津機が左右に2、3回揺れる。弾幕が間に合わなかったのだ。幸い致命的ダメージはない。バルカンやガトリング砲を持たない秋津機にとっては多弾頭ミサイルの迎撃は困難なのだろう。なおも接近を試みる大型を牽制する秋津機、今はまだ大型に本格的に手を出すタイミングではない、と判断。それにしてもチョロチョロとうるさい小型HW。戦闘力こそ落ちたが1機残存している中型がうまくそれらをコントロールしているせいだろう。
こうして予想以上に小・中型HWに手間取った傭兵達。するとここで戦況が大きく動くのだ。
大型HWがKV包囲網をすり抜け、味方輸送部隊の方へ突破を開始したのだ。どうやら戦況不利を察したのか、強引に突破する気なのだろう。
イース機がブーストして回り込もうとするがその動きを察知した小型HWが身を挺して阻止。行く手を阻まれる格好になる。至近距離から猛射を浴びせこれを爆裂させるがすでに大型は射程外へ。さらにその進路上に立ちふさがるように中型HWからの砲撃による足止め。
こうしてKVの包囲網を突破した大型HWが歪十と摂理のもとに迫る。
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「護衛はまかせて行ってください」
ミサイル斉射後に他の傭兵達を交戦空域に残し、輸送船団の直衛に回った歪十と摂理。前方の部隊の状況は逐一モニターされているので、大型HWに残念ながら突破されたことは即時把握していた。
「盾役は俺に任せろ」
摂理機より前に飛び出す歪十。急速に近づく大型HWを待ち構える。ほとんど間を置くことなくその射程内に迫る大型HW。
そしてそれを視認するよりも早く、無数の軌跡が蒼空に糸を引くように歪十機に殺到する。大型が多弾頭ミサイルを発射したのである。それは後方の摂理機にも迫るもの。
ズ、ズシインンンンンン
大きく揺れる機体、モニターのランプが何か所か黄色く点滅する。マシンガンで弾幕をはった歪十機。だがすべてを防ぎきることはできなかったようだ。さらに後方の摂理機の方からも衝撃音が。
すぐさまはっきりと大型HWが視認できる距離に。すると後方から大型めがけ飛散する複数のミサイルの軌跡。そう。摂理機が放ったものだ。多少の被弾こそしたが摂理機は無事のようだ。
今度はこちらの手番だ。歪十機から連続して放たれるミサイル。それは大型のファランクスで威力こそ削がれたものの何発かは確実にダメージを与えるに足りる程度大型に直撃する。
「ここから先はいかせはしない」
前方の傭兵達の奮戦で大型以外の突破をゆるさなかったのだ。ここはなんとしても止めなければならないのだ。
「ミサイルが底をついたと思ったら間違いだったな」
パンテオンの軌条をモニターで見やりながら呟く摂理。さらに接近してきた大型にH12の照準を合わせる。射程こそ短いが有用な兵器である。さらに近づけばマシンガンやバルカンでお迎えするのだ。
大型HWから閃光一閃。それは歪十機に向けられたもの。それをあえて受け止めるかのように立ちはだかる歪十機。
「俺の攻撃はまだ死んではいない」
0距離に相対するやマシンガンの乱射を浴びせる。大型からスパークが。多少スピードが落ちたようである。だが相手も至近距離からバルカンを浴びせる。
ガガガガガガ
歪十機が揺れる。だがまだまだだ。この程度は計算のうちなのだろう。
軌道が交差する両機。そのまま大型は輸送船団へさらに接近。反転する歪十。とこんどはそれを迎え撃つ摂理。いわば挟み撃ちの格好で。
「護りぬく。それが俺の大命だ」
交差する銃撃。その猛烈な弾幕に思わず怯む大型。高空へ逃げようと‥‥。
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そこへ。
「‥‥ここで落ちていただきます」
KVの無線越しに聞こえるセシリアの声。ほぼ同時に彼女の放ったミサイルが飛来。
「逃がすわけにはいきません」
それは有村の声。
「あたれ〜〜〜」
それにかぶさるようにユウ。
そこには、手こずりながらも大型以外のHWをすべて片づけた先行班が大型HWの後方から一気に背迫ってくる姿があったのである。
こうして局面は一気に転換する。いくら大型HWといえど、KV8機ではいかんせん戦力差がありすぎるのだ。
「墜ちなあ!!」
九道渾身の叫び。残存していたミサイルすべてで大型を狙う。退路を断つべく後方に回り込もうとするセシリア。
が。大型HWのバグア兵。すでにその退路を明確に意識していたようである。傭兵達に囲まれながらもなんとかその逃げ道を見出す。すでにその大勢は決しており、バグアにとっては今はこの空域を脱出することのみを考えていたのだろう。
KVが動くより一瞬早く、その機体を一気に急上昇させKVの射程から逃れる。
「絶対逃がさないんだカラ‥‥」
ユウがブーストで回り込もうとするがすんでのところで振り切られる。
「逃げるつもりかよ! 逃がすかよ」
イース機がそのエンジン部をプラズマリボルバーで狙う。だが惜しくも外れる。大型HWはKVの追撃をなんとか振り切ってこの空域から脱出したのである。惜しむらくはエンジンにダメージを与えていれば‥‥。
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こうして。来襲した敵HW群は、残念ながら大型HWは取り逃がしたものの、他はすべて撃墜し、輸送船団の安全もとりあえず確保された。だがこれで戦いがすべて終わったわけではない。いつ次の敵が飛来するかはわからないのだ。
「早く、燃料・弾薬の補給を! 敵は待ってはくれないんだ。補給完了後、引き続き護衛任務に」
簡易滑走路に着陸するのももどかしそうに叫ぶ歪十。
「では順次補給に」
ややのんびりした口調ながらその思いは決して歪十に引けはとらない秋津。
「本音を言えば撃墜したかったのですが、輸送船を守れただけよし、としますか」
やや不本意ながらもとりあえず任務完了し、ホッとした表情の有村。一仕事終え、とりあえず紫煙を旨そうにくゆらす九道。
こうして無事に南米への物資補給は完了し、【ボリビア防衛作戦】は新たな段階へと向かうのだ。
了