●リプレイ本文
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『準備中』、のスタート地点になる鳥居周辺。まだ時間もあるのに怖いもの見たさ、な参加者の面々がすでに集まっている。まだ明るいというのに何やら気のせいか周囲はすでにおどろおどろしい雰囲気。
しかも参加者に混じって、先ほどからなにやらこわ〜〜い話をしきりに語っているのは今回、お化け役をかってでた傭兵の一人、エイミー・H・メイヤー(
gb5994)である。むろん一般の参加者は知る由もないが。
さらにもう1名明らかにこの場に不似合いな人影1体。みればその男、神社にはあるまじき一見僧侶風の男性。不気味な雰囲気を漂わせ、怪談話中の参加者たちへ向かって低い声でこう呟く。
「‥‥ここは嫌な予感がする。皆念仏を唱えよ‥‥」
そういうと、いきなり念仏を唱えるこの男、歪十(
ga5439)。その風体は霊でも招きそうである。まだ準備中なのだがすでにあたりはなんともいえぬ面妖なる邪気が漂ってくる。
(ホラー好きの本気、見せてやるぞ)
ニヤリ、と微笑しこっそり人々の輪から出ていくエイミー。その先には一般人には見えないような場所にしつらえた『お化け控室』の垂れ幕の下がったテントがあったりするのだ。
突如一陣の生暖かい風がまるで仕組まれたかのように鳥居を吹き抜ける。
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控室内部。エイミーの手による特殊メイクによって『お化け』になりきる傭兵達。室内には衣装や小道具もところ狭しと並べられている。
「さて、足腰立たぬぐらいにしてやろうか」
あくまでリアルさ追求のORT=ヴェアデュリス(
gb2988)。持参したそれは髑髏風の装甲服。その両眼は紅に輝き、骸骨のお面のようなそれは不気味そのものである。さらには生身にメイクも施し、2段重ねの念の入れよう。その装甲服の見た目がよほど怖かったのか、泉(
gc4069)。
「にゃぁっ。こわいさん、アレ‥‥着よん‥‥?」
と叫び思わず腰が引ける。始まる前にすでに身内に怖がられるぐらいだから、本番ではさぞや‥‥。そんな泉は白装束に猫のメイクを施してもらって満足そうである。
「脅かし、役、恐い、けど‥‥おもろそう、やっ♪ ‥‥うまい、こと‥‥でける‥‥やろか?」
内心心配はしているもののその仕上がりには満足そう。
限りなくリアルに近いメイクと仮装によって次々とお化け、妖怪の類に変身していく仲間たちを横目でみやりつつ、
「ふう。驚かされる方やのうてよかったわ」
と安堵する白藤(
gb7879)。たぶん自分が客側だったことを想像しホッとしているのだろう。
「それにしてもいやな風が吹きますね」
おあつらえ向きに何やら生暖かい風が吹いてきた屋外に目をやり、控室からこっそり顔を覗かせ、
(人を怖がらせるのは好きじゃないんですけどね)
などと呟いてみるソウマ(
gc0505)。だがそれが本心でないことは次の瞬間の笑顔で明らかになった。楽しみでしょうがいない、といった顔をしているのだ。
ワイワイ、とにぎやかな控室にあってクールな雰囲気が際立つのが天空橋 雅(
gc0864)である。もともとが真面目な性格なのでこのような内容の依頼であってもそのクールさがひと際目立つのである。
次第に闇が支配していく中、着々とかつ手早く進む準備。それに並行してお化け役の配置や連絡方法、その他万が一の対応やら、あんなこんなリハーサルも最後の追い込みに入る。
(肝試しのお化け役か。始めての体験だから楽しみだね)
時間になるのが待ちきれない、かのようにつぶやくアーク・ウイング(
gb4432)。外見年齢はまだまだ子供だがそのお化けぶりやいかに?
こうして準備万端整った傭兵達。あらかじめ決めた配置へと向かうのだが、なにせ場所が場所である。お化け役の自分たちでさえ真っ先に逃げ出したいような真っ暗な闇に包まれていく周囲。
「あまりこちらを窺わぬようにな?」
ORTが泉に声をかける。お化け役がお化けを怖がっていては話にならないからだ。
「これは!!」
メイクの出来栄えに思わず身震いと戦慄を感じる天空橋。特殊メイクが醸し出すその姿はまさに怪談にでてくるような幽霊である。女性の幽霊は暫しその場で自らに見とれていたのであった。
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開始時刻直前。事前のPRのせいか、肝試しという企画に引き付けられたのか、好奇心満点なチェレンジャーが集まってきた。皆はっきりいって『怖いもの見たさ』なのであろう。
開始時刻に合わせてなにやら動物の鳴き声やらおどろおどろしい効果音やらがあたりに聞こえてくるのは歪十が事前に用意したカセットテープから流れてくる音である。
ひときわ明るい鳥居付近に順番に整列する一般参加者。係員から簡単な注意事項と各グループごとに「懐中電灯」が渡される。みれば若い男女がほとんどだが皆待ちかねた様子。そして傭兵達もそれ以上に待ちわびる。時間が待ち遠しいのか、はたまた恐怖を早く紛らわしたいのか?
「では‥‥最初の方、どうぞ」
促されるように若い男女3人組がいよいよ肝試しに出発する。コースの両脇の樹木が等間隔で光っているのは、歪十が事前に目印の為に蛍光塗料を塗ったからである。
「こちら、歪十。聞こえますか‥‥」
気づかれぬようにこっそり無線機に話しかける。気配を消し、参加者がスタートするたびにその合図とこっそり後をつけての位置情報をお化け役に伝達するのだ。暗視スコープは必須である。その情報をもとに順次お化けたちが行動を開始するのだ。気づかれそうになれば用意したカセットテープ君が活躍する。
スタートして間もなく。3人組がとある場所を通りかかると、いきなり地面から2本の腕がニョキ、と突き出してきてそのうちの1名の脚を掴む。
「ギャアアアアアアア」
およそ女性とは思えぬ声が上がると同時に、その穴の中から這い出てくる人、いや怪しき全身髑髏男。そう、ORTがあらかじめ地面にほった穴の中へ潜んでいたのである。そして悲鳴を上げた女性達をお社の方へ追い回す。
「ぎゃああああああ。いやああああああ」
必死にこけつまろびつ逃げる女性達。するとその恐怖も冷めやらぬうちに、
「イタイ‥‥イタイ‥‥コレ、ヌイテ」
こんどは槍で背後から心臓を貫かれた格好の少女が苦しそうに現れる。これはアークが扮した姿。一息つく暇もなく追い打ちをかける。全力ダッシュでとにかく逃げるのだが。
「まぁ、ま‥‥どこ?」
全身白装束に猫顔の少女が唐突に参加者の目の前に現れ、いきなり消える。そして少し距離を置いて再び同じ少女が姿を現したかと思うと再び姿を消す。これは泉がそのスキルを使っていたるところに出現しているのだ。
そんな参加者の前方に鯨幕に覆われた台と和風のノートのようなものが。どうやら記名帳なのだろう。だが台に血痕が点々と。しかも記名帳には不吉な文字があちこちに赤い文字で書きこまれている。これはエイミーの仕込み。
さらに当の本人。鯨幕の中に全身白装束、狐面に血痕メイクで潜んでおり、いきなり参加者の脚を掴むなり、
「‥‥恨めしい‥‥」
とやるのだ。しかも下方向からランタンの光で照らされたその表情は恐怖そのものである。だがそれだけで終わるはずもなし。なにせ全力で驚かすためにきているのだ。いきなり覚醒すると炎のオーラに包まれた全身で、そのお面をとり金色の目で睨みつけ、いきなりその場から消えるのだ。すると火の玉がぼんやりと‥‥。
すでにこの段階でパニック状態。よくぞ我を忘れて引き返さなかったと思うのだが、それでもよろけるようにして問題の古い社の方へ向かう‥‥かと思ったが連れのひとりがここでギブアップ気味で動けなくなったよう。
その様子は直ちに歪十の無線で係員へも連絡され、お迎えが来ることになった。1名撃沈。南無〜〜。
無線機で参加者の動きを確認しつつスタンバイする白藤。危うい足取りで参加者に後ろから近づくや死者蘇生の言霊をたどたどしく呟く。クリーチャー風の血糊までご丁寧にメイクしたその姿は昼間見ても思わず絶叫ものだろう。ましてやあたりは闇。場所は古い参道である。懐中電灯の明かりに照らしだされたそれはそこら辺のヘタなお化け屋敷のお化けより何ぼリアル感があることか。
表現できないような悲鳴を上げ、参加者は社に向け走りだす。もはや恐怖に我を忘れているのかもしれない。
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ようやく中間点の社にたどり着く。だがまだまだ恐怖は参加者を襲う。先ほどの装甲を脱いだORTがそこには待ち構える。血まみれ風衣装で背後からそっと‥‥
「首ヲ‥‥ヨコセ」
と恐怖の笑い声と共に地面に這いつくばるように腕だけでやってくる。その笑い声は腹の底から響き、聞く者は戦慄のどん底に叩き落されるようである。
ここでさらに耐え切れなくなって女性1名脱落。いや、完全に足腰が立たなくなったようだ。再び係員が救出。残るは男性1名のみ。さすがに男性。なんとか無事にここまでたどりつく。
だが帰り道も決して容赦しない。とにかくやるからには徹底的に、である。ここで再び泉と白藤登場である。
顔半分が醜くくさったような白藤の顔は恐怖とおぞましさの塊。打ち合わせ通りに再会する両名。
「やっと‥‥見つけた」
「まあま‥‥いた」
お互いに抱き合うように一体化するなりまるで本物のソレであるかのように、
す〜〜
いきなり姿を消す。これにはさすがに気丈な男性も腰を抜かしつつ全力で走り出す。すると逃げ出す男性の前方にす〜〜と立ちはだかる何やら青白い女性の幽霊。満を持して登場の天空橋、である。音もなく静かに逃げてくる男性の前方に立ちはだかる。
「うわああああああ!!」
その絶叫があたりを切り裂く。それがまだ途切れぬうちに忽然と姿を消す天空橋。すると次の瞬間男性の首のあたりに不気味な感触が。それは天空橋がエアーバットの先を冷水に浸し、
そ〜〜
と対象者の首筋にあてたのである。いったいいつのまに接近したのであろうか?
さすがにこれにはたまらず。首のあたりを押さえつつ逃げ出す男性にとどめの一撃。それは落ち武者姿のソウマが現れたのだ。どこで用意したのかボロボロの鎧に全身に刺さる折れた矢。ご丁寧に血糊までついている。その手にはやはりボロボロの刀。
「敵はどこだ〜〜」
「殺してやる〜〜」
叫びながらタイミングを見計らって面具をとるとそこには本物のドクロ‥‥ではなくドクロ風のお面が
「★○▽※!!!!」
もはや言葉にならぬ叫びを残しながら、ほうほうのていでその場からマジダッシュで逃げ出す。さすが演劇部員である。迫真の演技はもはや名人芸といってもいい類。
‥‥こうしてようやく出発地点にたどり着いた男性。たぶんに連れの女性にかっこいいところを見せたかったのかもしれないが、いかんせんお化けがあまりにも迫力とリアル感ありすぎて理性が耐え切れなかったのだろう。
「お疲れ様でした。ふふふ」
不気味な笑いでそれを出迎える歪十。そしてこっそり無線で最初の組がゴールしたことを伝える。その連絡を受け、再び持ち場とポジションにつくお化け達。
こうして。次の獲物、いや犠牲者を再び待ち受けるのである。次に控えている組は前の組があまりにリアル恐怖体験をしてきた後だけあって、そのヘロヘロな様子に早くも腰が引け気味。しかも次は若い女性3名である。これは社につくまで持たないかもしれない。係員と歪十に促されるように恐る恐る歩き出す。が‥‥やはり女性3名にはあまりにリアル恐怖過ぎたようである。ORTの仕掛けで1名、アークの鬼気迫るなりきりぶりに1名、白藤の仕掛けで1名があっけなくリタイヤ。しかも運悪く半ば失神でもしてしまったかのようでその場から動けない女性も。その様子にいち早く気が付いたアーク。直ちに無線機で救助を要請する。むろん参加者に気が付かれないようにではあるが。気絶者を出したい、と願っていたORTの目標は曲がりなりにもクリアされた様子。
そんなリタイヤした彼女たちにも容赦ない歪十のこんな一言があびせられる。
「お疲れ様でした。あれ? ひとり足りませんね? いったい何処に?」
単に1名が救護班のお世話になっているだけなのだが、そんなことは知らぬふりでさらに恐怖をあおる歪十。
その次のチャレンジャーは友人同士とも思える男性3人組。前2組の姿に逆に征服心でもわいたのかそれまで以上の意気込みでコースに向かう。さすがに男性だけあって数々の仕掛けを、多少の笑顔を持って耐え抜く。エイミーの鯨幕の仕掛けもその階段のトリックをも見抜くほどの余裕を見せ、社でのORTの首なし幽霊の仕掛けにも多少驚きこそすれ時には冗談を交えてはみせたものの、天空橋の幽霊から先は全力で振り切ってそのままゴールに到着。とはいえ。
「マジ、コエ〜〜」
と出発地点の係員にその本音を漏らすほどであったからやはりよほど怖かったのをやせがまんしていたのだろう。
最後は4人組。どうやら2組のカップルのようである。当然男性を先頭に‥‥と思いきや現在の世相でも反映しているのか、なんと女性が先頭を切って進んでいる。あまりありえない光景なのだが、それでもこの女性達。スタート開始からダッシュせんばかりの勢いで傭兵達の仕掛けを次々と突破していく。泉や白藤や天空橋、そして最後のソウマの仕掛けをもほとんど強引に突破したのである。あまつさえ途中のエイミーのポイントやORTの首なし幽霊には目もくれずに駆け抜けてきたのである。いやそれはある意味それだけリアル怖かったがゆえに、普段ならあり得ない行動をとらせたのかもしれない。
息を切らしながらゴールした4人組、よくよく見れば男性と見えたのは女装したオ○マさん。女性と見えたのは女装した男性。どうやらその手の趣味の方々のグループだったようである。さもありなん。
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こうして傭兵達の異常なまでの頑張りの成果もあって、気絶寸前者やリタイヤ者も出た今回の肝試し。傭兵達がほぼ満足できる仕掛け成功、と相成ったのだが‥‥。
「みなさん。怖がらせ過ぎですよ」
半分笑顔の主催者。どうやら彼の想像をはるかに上回る恐怖度であったようだ。だがこのくらいでちょうどいいのだろう。満足するORT。
「脅かす側もなかなか面白いものだな」
元の格好に戻り神社に一礼して立ち去るエイミー。効果抜群のメイクに感謝する白藤。気分転換ができたと喜ぶ天空橋。
「にゃぁ‥‥いっぱい、がんばった‥‥おつ、かれ、さまー?」
小首を傾げこちらもうれしそうな泉。だが忘れてはいないだろうか? この場にいる『キョウ』運の持ち主たるソウマの事を。
後日。ULTに送られて来た1枚の写真。それは現地で撮影した傭兵全員のもの。素顔に戻った傭兵達を映し出しているのだが。それを受け取ったULTのオペレータ。ふとあることに気が付き、思わず絶叫しそうになる。それは‥‥。
その写真には確かに『18本』の足が写っていたそうな。南無阿弥陀仏‥‥。
了