●リプレイ本文
●出撃
「敵HW多数。急速接近中」
ブリッジオペレーターの緊迫した声が凛、として響くブリッジ内。
独特のフォルムはまるで巨大な宇宙攻撃空母のごとき『UK10』。そのカタパルトからは待ちきれない、とばかりに我先にと宙へとびだす宇宙戦闘機仕様KV。その機内のモニターにははるかにまるで蜃気楼のように迫りくる『ニューラインホールド』とそれにつき従うごとき宇宙空間に湧き出たように展開するイカ型のHWが映し出される。そのシャープなフォルムはまるで宙を切り裂く細いナイフのようにすらみえる。それはこれから始まる総力戦の序章なのである。
「サムライ・ブルー発進! 目標敵HW!」
まるで古武士が身にまとう甲冑のような風体の青い宇宙仕様ディアブロで真っ先にカタパルトをける雪ノ下正和(
ga0219)。猛烈なスピードで漆黒の空間を切り裂くように進む。2本の巨大な刀を装備したそれは、まさに「古の武士」のごとき、である。
「宇宙戦か。この胸の高鳴り。燃えるな」
あえてオーソドックスな機体ながら、できうる限りのカスタマイズを施した兵装で臨戦態勢のカイト(
gc2342)。前時代的とも思えるその武装で活路を開く。
「私は一人ではない! かつて、この狼嵐を駆り戦った総ての英霊達と共にッ! 行け! シン・ロウラアアアアアン!」
幾星霜もの間、ともに戦い続けてきた愛機『真・狼嵐』に宿ったすべての涙・硝煙・血潮を思い出し、今まさに宙を駆けんとするフェリア(
ga9011)。その握りしめた操縦桿がかすかに震えているのは英霊たちの魂を感じているからだろうか? その牙で屠ったすべての者たちの怨念と思念が激しく交錯するように機体から炎が揺らめくようにすら見える。
「イース・キャンベル。いきまあ〜〜〜す」
ビュン、と風切り音が聞こえるかのようにその可変戦闘機を轟然とUK10のカタパルトから発進させるのはイース・キャンベル(
gb9440)。
「絶対に‥‥させるかああああああ」
その声にあわせるかのように彼のコクピットのモニターに大写しに映し出されるガル・ゼーガイア(
gc1478)
「総力戦か。ならば! ‥‥。いくぜ! クリムゾンライトニング!!」
その咆哮がイースにも伝わる。
「死ぬなよ!! ガル!」
傍らのパートナーの愛機を横目でちらりと見やる。
「ここにフェニックスライダー希崎見参。忘れちゃこまるぜえ」
いきなり彼らの真横に現れる1機の機体。すぐさまモニター一杯に映し出されるその表情。ニヤリ、とウインクし片手をあげるのは希崎 十夜(
gb9800)。その巨大な刀身がまるで鋭利なカッターのようにいくつにも割け。それがまるで意思をもつかのようにイカ型のHWに殺到する。‥‥ほぼ同時に放たれた敵のまばゆいばかりの閃光を高速変形で回避すると、すぐさま反撃に転じる。
●サーカス
ニューラインホールドから発進したイカ型HWは、そのスリムなシェイプにふさわしく、宙を切り裂くようにあっという間にKVを射程にとらえる。その先端から放たれるビーム砲は、後方のUK10にも到達し、1回2回と艦体が大きく揺らぐ。その直撃を受けてさえなお、進撃するUK10。味方機が体を張ってその弾幕に突入し、無音の爆発とともに機体が四散する。だがこれはまだほんの序章にすぎないのだ。ニューラインホールドから発せられる強力な様々な妨害、怪電波の類は、電子戦機によってそのほとんどが効果的に中和され、計器類は正常に作動しているのだ。
「戦闘支援はまかせてくださいね〜〜」
強力なジャミング中和装置を味方にした八尾師 命(
gb9785)が前線の皆に呼びかける。武装のない機体にはナノマシンが張り巡らされているのだ。
「UK10、聞こえる? 一時的に陣形を組んで! 私達の後方へ」
その空域のほぼ全部のKVのモニターに強制的に割り込むように聞こえる夢守 ルキア(
gb9436)の声。その愛機イクシオンを大きくめぐらしロックオンキャンセラーを発動させるとともに、ソニックフォン・ブラスターの最大出力でHW群に叫ぶ。
「さあ。これからは私たちの出番だよ!!」
その叫びに呼応するかのようにイースとガル。シンクロした2人の波長はやがて一体となり、背中合わせに張り付いた2機の機体から、まるで無数の蜘蛛の糸のごとくAAEMが敵HWに軌条を描き殺到する。それはやすやすとHWの装甲を打ち破り爆裂飛散する残骸。その余韻が冷めやらぬうちに、その残骸を縫うようにすりぬけそのまま人型にあっという間に変形静止し、眼前のHWに向かうと、その巨大な剣を真っ向から振り下ろすイース。その刃が太陽の光を反射し、妖しい光をはなったかと思うと、眼前のHWがまっぷたつに切り裂かれる。
同じころ。その一太刀を持って迫りくるHWを一閃にて切り捨てた雪ノ下。そのままの勢いを保ちつつ、密集したHW群の中に単身切り込むや、
「‥‥秘剣、羅武破亜斗!! 我に斬れぬ物無しっ!!」
右手に『陽光』、左手に『月光』。陰陽2つの相反する巨大な剣を同時に抜刀し、居並ぶ敵HWの間隙を駆け抜けるや一瞬にして一刀両断にそれを切り捨てる。その2本の剣の軌跡が描く巨大なハートマーク。抜く手すら見せぬ抜刀にまるでストップモーションのごとく、ゆっくりとその機体が分断され、爆散するHW。だがその直前に放ったビームの軌跡が雪ノ下機に死に際の返り血を浴びせる。
「獅子王の牙と刀神の一振りに絶てぬ物など‥‥悉皆一つも、ありはせぬ!」
どこからか聞こえてくる咆哮のような叫び。これまた2本の名刀を相棒にし、乾坤一擲の気合とともに真っ二つにしたHWの影から飛び出してくるフェリア機。なおも食い下がるHWに対しては
「光り輝き闇夜を照らせッ! 天狼脚ッ!」
その巨大な爪がHWの胴体をがっちりと捕捉する。そのまま一気に握りつぶすのだ。だが数に勝る相手は、かなわぬとみるや一気に囲むように集中砲火を浴びせる。激しく火花が飛び散り血しぶきのごとく何かが噴き出す狼嵐。
「たとえ‥‥翼がもがれようとも‥‥!」
傷つきながらも決してひるむことなく戦うことをあきらめないフェリア。するとそんな敵集団を切り裂くように鮮やかな軌跡を描く一条の光。
「待ってろよ! 今助けに行くぜ!!」
そんな雄叫びとともにフェリア機の眼前に現れるガル機。自らの多少の被弾は顧みず味方の救援に向かう。
信頼すべきはナノマシンでコーティングされた自慢の愛機である。
「これでもくらいやがれ〜〜〜!!!」
そのフォトニッククラスターバーストの閃光が宙を切り裂き敵を蹂躙するのだ。無音の爆発とともに四散するHW。
だが。戦力で勝るHWは確実に傭兵達を押しこみつつあった。このままでは‥‥。とその場の誰もが感じたその時。
●きらめき
ナノマシンのパワーを全開でその時を待つ命機。
「準備OKで〜〜す。」
その時を待ちかねたかのように十夜に呼びかける。眼前に迫りくるHWにはそのナノマシンを使って攻撃しつつ、である。
「そりゃ〜〜〜〜〜」
その声に合わせ、ルキア機を掴むとハンマー投げのように勢いよくそれを命機めがけぶんなげる。鮮やかな放物線を描き、かつ乱射する銃の閃光はまるで巨大な宙を飛ぶ『ネズミ花火』のようである。そのまま命機まで回転しつつ到達するや否や見事にキャッチされる。
「範囲回復〜〜〜」
そのナノマシンによる回復スキル発動の様はまさに、きらめくダイヤモンドの塵のごときである。そのまばゆいばかりの光に包まれ、ダメージを負った味方機が次々とそのダメージを回復してくのだ。
「どんなに堅いFFでも、かなわぬ敵はない!!」
それに勇気づけられたかのようなカイトの叫びは、まるで反響するかのように周囲に轟く。
「いっけええええええええ〜〜〜〜〜!!!」
ベアリング弾がHWに殺到しそれらを覆い尽くす。一瞬HW全体がまばゆいばかりの閃光で覆い尽くされた後、そこには無数の残骸が散らばっているだけであった。さっきまでHWがいたその空域に曲刀のようなフェザーミサイルが殺到する。それは直前に十夜が放ったもの。まるでニューラインホールドに迫ろうかというそれはブーメランのように大きく弧を描く。
だが。その曲刀の切っ先をかわすかのように迫るひときわ巨大なHW。どうやらこいつがRPGでいうところの中ボスのようにも見える。先ほどのベアリング弾の斉射をかいくぐったのかはたまたそれに耐えうるだけの高耐久だったのか、その後部のバーニヤを一気にふかしてガル機に迫る。一矢報いたいということなのだろうか?
「一撃必殺!! こいつでも、食らいやがれえ!」
優に100mはあろうかという巨大なレーザーブレードをその巨体にぶつけるガル。
「ここから、いなくなれえええええええ」
イースの咆哮にも似た叫び声がコクピットのスピーカー越しにガルの脳天を揺さぶる。彼の形相が手に取るように想像できる。
押され気味であった形勢を徐々に押し返すKV。だが十夜機には別の身近な『危険』が迫っていたのである。
●暴走
バグア側がこの空域で放ったいくつかの怪電波。その多くはKVの電子戦機によて無効化されたが、中にはその効果が100%でなかったものもあったのだ。そんな中にいわゆる「洗脳電波」も含まれていた。偶然かはたまた狙われたのか、その餌食になったのがエイミ・シーン(
gb9420)である。その電波によって洗脳された彼女、いわば暴走状態となり、その刃の矛先を十夜に向けてきたのである。
「‥‥‥」
まるで別人のように無表情となり十夜機に迫るエイミ機。そのKVの指で十夜機を握りつぶさんと背後からその背中を狙うべく接近する。
だが。寸前でそれに気づく十夜。すんでのところでそれを回避する。しかしエイミの攻撃はなおも続く。執拗に十夜機を狙うエイミ。まるで何者かに取りつかれたように、である。
「十夜君。エイミは‥‥洗脳されているわ!」
その光景に思わずルキアが叫ぶ。咄嗟にライフルで牽制するルキア。すると今度はエイミ、その攻撃の矛先をルキアに向けんと、彼女のほうに向き直る。手荒な攻撃はしたくない十夜。だがこのままではルキアやほかの機体も危険にさらされる。やむを得ないか‥‥。多少手荒だが直撃を避ければなんとか命だけは助けられる、と思ったかその愛機の練機刀タイプBで逆にエイミ機を封じこめようとする十夜機。その8つの狐火がエイミ機を直撃すれば機体をらせん状に締め上げるのだ。そして今まさにその力を開放せんとしたその時‥‥。
突如この宙域に展開するパイロット達全てに響く歌声。それはあの子のものに違いない。
●歌声
それは戦域のほぼ中間にポツンとたたずむ形で存在していた1機のスカイスクレーパー。だが強制無線ジャックが作動した今、その声は敵味方問わずその宙域すべての機体に、そしてそのパイロットたちに伝わる。
「そろそろ私の本当の出番ね」
迫りくるHWを鈍器を振り回しつつ撲殺していた『撲殺姫』ソフィリア・エクセル(
gb4220)。だがこのとき彼女は武器ではなく、『歌』を持ってすべての宙域を支配しようとしていたのだ。
「響け! ‥‥私の歌声。この宙いっぱいに」
無線ジャックが作動中は、ステレオ放送の副音声のように彼女の歌声がBGMのように流れるのだ。元アイドルとして純真可憐にその役割こそ自分に与えられた使命だと固い決意のもと、その歌声を響かせる
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
心の扉を開けて
現実(リアル)を見つけ出そう
あなたにだってきっとある
奥底に眠っているメロディーが
みんなで紡いでいこう
無限に広がるよ 悠久シンフォニー
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その歌声はそこだけが異空間のような存在を持って響く。清廉で凛とした歌声が優しいメロディラインにのってすべての現実を包み込んでしまうかように宙に流れていく。
「これは…あの子の歌」
その歌声にイースが動く。KVに搭載されたスピーカーポッドを迫るHWに次々と打ち込みつつ叫ぶ。
「分かれよ、お前ら。これが歌。これが俺たちの魂の真の姿だってことを!!」
破壊ではなく愛によって争いを解決したい。そんな思いが込められているのだろう。
だが。いくつかのHWはそんな彼の願いに相反するかのように突入してくる。しかもその目標はほかならぬソフィリアなのだ。HWとバグアにとってそれはただの音波兵器でしかなかったようだ。
「貴様みたいに、戦争をゲームみたいに思っているヤツらがいるから!」
イースの決死の気迫が気の発露となりまるで波動のように眼前のHWを包む。殺るか殺られるかまさに紙一重の攻撃が相手の動きを止め、その力を削ぐのだ。
「‥‥消えてしまえええエエエエ」
そのすさまじいまでの一撃にHWが霧散する。今までそれがいた空間を駆け抜ける炎をまとったかのようなイース機。そんなイース機の目の前に展開する強烈な閃光は、いましがたカイトのベアリング弾を至近距離からまともに食らったHWが1機、跡形もなく消し飛ぶ光景であった。
「この想いも魂も、そして明日への希望は決して砕けはしないッ!」
ソフィリアの歌に触発され勇気づけられたかのように縦横無尽に暴れまくるのはフェリア。それは『真・狼嵐』とシンクロした彼女の気が解放される瞬間でもあった。
「え???」
その歌声がゆっくりと消えゆこうとしていたその時。先ほどまで暴走行為に及んでいたエイミが我に返ったように自分を取り戻す。自分は何をしていたんだろう、という困惑にも似た表情を浮かべる彼女。
そう。ソフィリアの歌声によって、彼女を支配していた洗脳電波の効力が相殺されたのである。ソフィリアの歌声によってエイミは自分を取り戻し、そして元の彼女に立ち返ったのである。
「戻ったら説教だな」
十夜の笑い声がエイミ機のコクピットに伝わる。照れくさそうにはにかむと十夜の後を追うようにいまだ残存するHWに向かうエイミ。
「砕けぬ心<ヤイバ>で、星すら砕けぇェッ! シンッッ! ロォォォラァァァァァァァン!」
フェリアの絶叫にも似た甲高い声が再びそのKVを鼓舞するころ、ようやく戦いは終息を迎えつつあった。
「敵、撤退確認」
UK10のブリッジに響くオペレーターの明るい声。
●生還
UK10はなんとか死守された。敵主力はその多くが壊滅し、バグアは撤退を余儀なくされた。これで終わったわけではないがひとまず人類の絶対防衛圏は死守された。
「何とか無事でしたね〜〜」
とほっと一息つく命。
「どうやら悪運だけは強かったみたいだな」
UK10へ意気揚揚と帰還するガル。
だがそんな傭兵たちを尻目にただ一人ニューラインホールドの撤退した宙域に向かうKVの姿が。
「ただ‥‥打ち砕くのみ」
それが傭兵たちが聞いたカイトの最後の言葉だったそうである。そして彼の機体はかすかな輝点となりやがて見えなくなっていったらしい。
了