●リプレイ本文
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「少しでも生存率があがってくれるなら喜んでお手伝いしよう」
堺・清四郎(
gb3564)は思う。それが今回参加した動機でもあるからだ。
「お〜〜。一杯集まったようだな」
びっしり、と会場を埋め尽くしその開始を待つ新人たちを見つめるホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)。先輩としてアドバイスしたい気持ちがあふれている。
「新人の役に立てるとはこれほど喜ばしいことはありませんね」
かつて自分もそうだったことを思い出しているかのような八葉 白夜(
gc3296)。
初めに演台に上がったのが、元陸自隊員の綿貫 衛司(
ga0056)。過去の経緯から、軽火器の取り扱いには熟知し、さまざまな銃器を一緒に持ち込んだ。
「さて。皆さん」
と切り出す綿貫。彼の講義内容は『戦闘の心得』。すると、
「戦場では卑怯者になってください」
といきなり切り出す。生き残るためには手段を選ぶな。真っ正直では生き残るのは難しい、と言いたいのだろう。それは今日にいたる数々の経験の中で身に着けた教訓であろう。
「仲間と助け合い、策をめぐらし、ときには逃げ隠れしてでも任務が成功すればいいのです」
決して体裁や外面を気にしては生き残れない、と彼は強調する。その言葉にうなずく新人傭兵が多数。古今東西の歴史上の英雄や勇者であってもそうしてこなかった人間は生き残れなかったのである、と。
つまり生き残ってこそ価値がある、と綿貫は強調するのだ。
「皆様が生き延びて得た教訓を後輩に伝えていただければ幸いです」
講義の締めとして彼はこう告げるのだった。
ひとしきり講義が終わり、綿貫は演台に用意された数々の小火器に手を伸ばす。実際にそれぞれの銃器の射撃の仕方を講義しようというのだ。その目が俄かに輝きだす新人も。銃はその戦闘の状況によって種類を選ばねばならないことと射撃の要点をその射撃姿勢を織り交ぜながら伝える。
「日々の手入れは欠かせませんよ」
その手馴れた扱い方に思わず感嘆の声が湧きあがった頃。彼の持ち時間である15分が終了したのである。
そんな会場の雰囲気が消えぬうちに次に演台に上がったのが、今回「紅1点」であるはずの御山・アキラ(
ga0532)である。演台に上がりまず挨拶する。
「御山・アキラという。KV戦の注意事項担当である」
多少ぶっきらぼうな言い方。
「時間が限られているので基本的なことを優先して講義する」
といいながらいきなり核心について語る。
「まずは。HWやゴーレムと戦う時は、常に『数的優位』に留意しろ。敵1機を多数で囲むイメージだ」
その実戦経験に裏打ちされた解説は説得力がある。
「数的に不利なら逃げ回れ。その際敵を引き付けることを忘れないように。味方と合流できれば勝機だ。それとウーフーや岩龍などは『撃墜されないこと』が最大の仕事と思え。なおさらに注意事項としては‥‥」
ここから強調するかのように多少声のトーンを上げる御山。
「単機での行動は極力避けろ。ロッテやシュヴァルムを常に意識した戦い方をすること。それと」
新人がだれでも考えそうなこと、と考えこんなことを言う。
「フェニックス以外の機体で空中変形して格闘攻撃、なんてことはよせ。大抵失速して自滅するだけだ」
思わず赤面する新人がいたのは、過去その身に覚えでもあったのだろうか?
「さらには、だ」
彼女は続ける。
「KVにとって要注意となる敵戦力については常に敵資料を熟読し、その情報をつかんでおくように。それはKVへ致命的なダメージやジャミングを与える敵戦力の事を指す」
ベテラン傭兵なら当たり前のことを的確に新人に伝える御山。熱心にメモをとる新人。御山の的確なKV戦闘のアドバイスに改めて納得し、知識が深まったであろう新人達。
こうしてざっと基本的な心構えのみ語るだけであったが、あっというまに持ち時間が来てしまったようである。
どこからともなく湧きおこる拍手に送られ退場する御山。
3人目の登壇者は独特な風貌の持ち主たる漸 王零(
ga2930)。その風貌ゆえに思わず興味を持ってひきつけられる新人傭兵も。
「諸君。まずは自己紹介をしておこう。我は漸王零。『誓約者』だ。」
『蟹座との誓約者』という称号のいきさつを知らない新人傭兵が、一瞬キョトンとした顔をするがかまわずに続ける。
「まずは、『おめでとう』と言いたい、なぜなら新たな可能性を得ることができたからだ」
常人では得られない力と可能性を持った傭兵への賛辞であろう。だが能力者とて人間。過ちもあれば死を迎える事もあることを付け加える事も忘れない。そして戒めも忘れない。
「諸君たちは決して『選ばれた者』ではないのだ。なぜなら多くの能力者ではない人間の支えなくしては戦うことが出来ないからだ」
物資を補給し、怪我を治療してくれる人がいなければ傭兵とてただの普通の人間に過ぎないことを強調する漸。
よく肝に銘じておけ、ということだろうか?
さらにこう続ける。
「君たちは可能性と力を手に入れた。だがそれは戦うばかりではない。何をするにしても今後どのように進むにしても君たちの自由だ」
こういいながら、ちらっと視線を向けたその先には金城 エンタ(
ga4154) の姿があった。
「だが‥‥。覚悟のないヤツは戦場にでるな」
きっぱりとつよい口調で語る漸。彼はそこが名誉と賞賛だけが得られる場所ではないことを言いたかったのだ。そして同時に敵であれ味方であれ、その命の価値は同じであり、それを奪うのが自分たちである事をわすれぬように、と戒める。『命の重さと価値』。その意味することに思い当たるフシがあると見受けられる新人が多数おおきくうなずく。そしてさらに言う。『他者の命を奪う時、それをためらうのは、奪うものへの侮辱』だと。猛獣がその獲物をしとめるときに全力を尽くすのも同じ理由からだろうか?
「力を行使した者の受け止めねばならない重さに屈せず常に自らを研鑽してほしい」
その制限時間の最後に彼が伝えたかったことがこれだったのだろう。同意する新人達。
そんな重苦しい雰囲気が消えぬうちに登壇したのが、4人目のキリル・シューキン(
gb2765)。その彼の持った雰囲気と振る舞いはその経歴をそのまま現しているかのようで、それは新人傭兵達にもはっきりとわかろうかというもの。
事前に新人たちの手元に配られた資料には、そのタイトルとして『インテリジェンスの初歩』とある。果たしてその内容やいかに? そのものものしげな題目に妙な緊張感を覚える新人達。資料にはその歴史的背景も含めびっしり、と情報が詰め込まれているのだ。
「私はキリル・シューキン。以前はロシアの方で諜報活動を行っていた。‥‥さて今回は、諜報活動について時間の関係でごく一部ではあるが講義する」
事前配布された資料は多岐に渡ってはいるが、そのなかで『HUMINT』と『CI』に大きく目印がつけられている。
HUMINT、すなわち『人間による諜報活動』。簡潔に言えばスパイ活動による諜報のこと。だがそれはバグア側とて同じ。そういった敵の諜報活動を防ぐ重要性についても語るキリル。
スパイ経験もあるキリルの一言一言が説得力を持って聞くものに訴える。バグアの洗脳技術をもってすればダブルスパイをつくるのはいとも簡単であり、そして傭兵内にそういった者がおれば直ちに排除されるであろうことを簡潔に伝える。ダブルスパイはもっとも簡単にスパイを作成できる方法なのだ、とキリルは訴える。
「諜報活動の成否によっては、大規模な部隊でさえあっというまに壊滅したりもする、よってその責任の重さに常に留意しなければならない」
時に身内を疑わなければ成らない諜報という任務の特殊性をその経験を持って伝えたかったのであろう。新人にとってあまり触れる機会が少ないであろうと思われる「諜報活動」。今回のキリルの講義からさぞ多くのことを学ぶことができたのだろう。
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ここでちょっとしたブレークタイムに。そろそろ多少の疲労と共に、退屈感が襲い始める時間でもある。
「まあ。こんな時間だから。ひょっとすると俺の方が居眠りするかも」
休憩後最初の講義担当の新条 拓那(
ga1294)。硬い話の合間に柔らかい話を織り交ぜて新人たちの気分転換を図るつもりのようだ。すでに講義の終わった者たちはそれぞれに手ごたえを感じていたようである。
で休憩後。さっそく演台にあがる新条。
「茶のみ話程度に聞いといてね」
と雰囲気を和ますツカミを入れて話を始める。その内容は『キメラとは何か』。
「バグアの持つ膨大な遺伝子情報によって、およそなんでもキメラにできると思っていいよ。中には意味不明なものも多いし」
過去の経験を交え、様々なキメラの生態などについて語る新条。そして思わずその場がなごむようなこんな話題も。
「可食動物がベースのキメラは実際食べられるよ」
半分冗談なのだろうが、実際UPC本部の食堂には、そのような可食キメラがメニューに並んでいるとの噂もあり、かなり信憑性は高いとも思えるのだが。
そんな彼の語り口はかなり柔らかく、いままでの講義で多少なりとも疲れた新人にはいい息抜きになったかも知れない。ときにはジョークをまじえつつ語る奇怪なキメラのあんなこんな話に思わず笑い声もこぼれる、いつしか座談会風な雰囲気に包まれてくる会場内。
だが。最後に彼はもっとも重要なこと、としてこう語りだすのだ。
「まず言いたいことは、『能力者は決して無敵ではない』ことと、『仲間がいればどんな強敵でも怖くないという事』。この2つは凄く重要なことさ」
この一言を持って彼の講義は終了したのである。
すっかりなごんだ雰囲気の中で次に登場するホアキン。時間的にはそろそろ睡魔が皆を襲う時間帯。それは彼も同じであったようだ。眠そうな雰囲気で登場する。
「ファイターのホアキンだ。そろそろ眠くなる頃だが、仕事なので講義をはじめよう」
眠い目をこすりつつプロジェクタにLHの全体図を映し出す。どうやらLHでの生活について語るようである。さらに続けざまに主要施設の写真が写しだされる。
「これがLH。あなた方の活動の拠点だ。世界中から様々な能力者が集まってくるコミュニティだ。そこには民族・文化・宗教といった違いは当然ある」
地図と写真をポインターで指しながら語るホアキン。そういいながら僅かに遠い目をする。
「ここへきた理由も傭兵になった理由も違う者たちがここには集まっている。だから」
そういいながらかすかに苦笑するホアキン
「お互いの立場を尊重し、理解しあう。それがチームワークでありそれができないといい結果は決して生まれない。覚えておいてくれ」
ひとしきり説明を終えると、ロッタの写真をスクリーンに映し出す。
「彼女が、我々の兵站のカギを握っている。‥‥ロッタだ。覚えておくといい」
いままで数え切れないくらい彼女の世話になったことだろう。すでにロッタを知っている新人は多いようでそこかしこからどよめきが起こる。
さて。次に登場するのは見た目娘風の傭兵。ドレスに合わせたラメ入りのメイクも鮮やかに演台へ。いや、たしか今回の参加者で女性は御山だけのはずだったが。
さもありなん。この娘風の傭兵こそ、なにを隠そう金城なのである。そこにどんな陰謀があったかは知らないが、その女装した姿は完璧にすら見えた。その見た目は10代前半の乙女である。綿貫に始まりホアキンにいたるまでまっとうな見た目の傭兵が入れ替わり立ち替わり演台に立ったあとだけに妙に違和感があるのだが。
そんな『男の娘』金城が語るのは『ヨリシロ』についてである。バグアという生命体から始まり、ヨリシロとは何か、そしてその持つ意味と危険性、さらには対処方法にいたるまでを丁寧に解説する。
「ヨリシロ、は死者と同等の存在」
であることをはっきりと口にする金城。殲滅は、その死者の尊厳を守るための正しい行為であると。
そんな中睡魔には勝てずに、うとうとし始める者も。そこで金城。身近にヨリシロが潜んでいるかも知れぬ、というとっても怖い話を始める。アフリカ作戦で身内に化けたバグアに暗殺された中将の話を知る者にとっては実に恐ろしい話であったようだ。
「何食わぬ顔でLHに入り込んでいる能力者を装ったバグアには十分注意してください」
その金城の一言が妙にリアルさを持って聞くものの耳に飛び込んでくるのだ。
ある種異様な雰囲気に包まれた場内。妙に怪しい空気が流れる中、おもむろに登壇したのが刀剣、及びその戦闘心得について己の実体験を元に語る予定の堺。昔の侍の極意にもあったように『自分の間合いを見失うな』がその基本であると説明する。恐怖に打ち勝ち、出すぎず退かず、がその肝であることを重ねて強調するのだ。
「決して相手から目をそらしてはいけない」
新人たちの方をキッと見据えたまま語る堺。そして実際に武器を選ぶ上でのポイントを語る。それは、
「自分にあった、信頼性の高い、扱いやすい武器を選ぶことをしてほしい」
それは極めてシンプルながら非常に重要なこと。初心者がまず陥りやすい「大剣主義」を捨て去ることが重要、と力説するのだ。身の程にあった武器を選ぶ重要性を指摘する。
「最後に覚えておいてほしい。決して諦めるな。最善を尽くせ」
これが彼のもっとも言いたかったことのようだ。大きくうなずく新人たち。
最後に演台に登場する八葉。どこか浮世離れした感のある彼が語るのは、『生命の急所』について。早い話自ら造詣の深い生命や急所についての知識を伝授しようということらしい。
だがその内容はかなりナニである。まずスライドで見せた写真はかつて自分が遭遇したキメラの姿。だがそれは一部の人間にはいささか刺激が強すぎたようで、思わず下を向く者も。だがそんなことはお構い無しに、その敵に対峙したときの攻撃手段を延々と語る。内容はまさにグロそのもの。
さらに。実際に人体の構造を説明するため、一人の新人を助手に指名し、生身の身体を使って筋肉などの流れを解説するのだが、先ほどの話を聞いているだけにリアルさがよけいに倍増するのだ。
だが。八葉の話はさらにエスカレート。
「出来るだけ相手を苦しませずに殺す方法について。そのやり方は‥‥」
はっきりいってとても表現できない描写がまるで当たり前のように講義される。
その内容が内容だけに場内は声すら立てずに、ただ沈黙が支配するのみ。だがそれはまさに彼の思うとおりの展開だったようである。
「ふむ。最近の若い子は私語のひとつもなく、勉強熱心ですね」
とうてい私語ができる状況などではなかったことに無頓着な八葉がそこにいるのであった。
講義終了後、ラブラブな雰囲気を撒き散らしてLH内を散策する御山と金城が目撃されている。そこにいるのは極普通のカップルであった。
了