タイトル:【AA】邪魔者はどかせマスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/25 03:44

●オープニング本文


 ピエトロ・バリウスの戦死とユニヴァースナイト弐番艦の大破の報せは、勝利に酔いかけた欧州軍本部をその黒い翼で一打ちした。チュニジア沿岸に恒常的な拠点を確保するという大業を果たした将兵の顔も、暗い。それは勝利と言う言葉で表すには余りにも苦い味わいだった。
『数百人規模の一般人の収容所があるようだ』
 そう、生き残った兵士が語る。場所は、かつてカサブランカと呼ばれた都市のやや北側。バリウスの指揮下の一部隊は、陽動のためにそこへ強襲を仕掛けようと企図していたらしい。陽動はもはや、果たす意味が無くなったのだが。
「彼らをもしも解放できるならば‥‥」
 バリウスから指揮を引き継いだブラットは、言葉の後ろを宙に漂わせた。この戦場が無駄でなかった証が一つ、増える。それは、暗く沈んだ空気に光を射す事でもあった。
「ブリュンヒルデ、拝命します」
 マウル・ロベルは綺麗な敬礼を返した。今の欧州軍は小さくとも価値ある勝利を欲している。いや、必要としている。『比較的』損傷の軽微なブリュンヒルデで収容所を強襲、民間人を確保の上離脱するという作戦を立案するほどに。
 収容所確保の為、そして今は亡きバリウスの意志をも継ぐべく、大胆にして困難なる作戦を発動させようとするブラッド。その命を受け自らの生命の危機をも省みずにその任にあたろうとする欧州軍の精鋭たち。そして今そんな彼らに呼応するかのように自らもまた敵の懐に飛び込まんとする勇気ある傭兵達がいることを。

●参加者一覧

ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
番 朝(ga7743
14歳・♀・AA
アズメリア・カンス(ga8233
24歳・♀・AA
蓮角(ga9810
21歳・♂・AA
常世・阿頼耶(gb2835
17歳・♀・HD
9A(gb9900
30歳・♀・FC
獅月 きら(gc1055
17歳・♀・ER
エレシア・ハートネス(gc3040
14歳・♀・GD

●リプレイ本文


 北アフリカはカサブランカの地。「白い家」を意味するこの町の北部のとある場所。収容所に取り残された難民を救助するという、【北アフリカ侵攻作戦】の事後のハデで大掛かりな作戦の裏側で展開される、地味ではあるが決して軽視できないとある依頼。そんな依頼に参加した傭兵達。その作戦の意味するところ、そしてその重要性を十分認識しているからこそ、皆並々ならぬ決意を持って臨むのだ。

「キメラはきっちりと食い止めてみせましょう。決して邪魔はさせません」
 ケイ・リヒャルト(ga0598)が呟く。その手元では黙々とあるものを作成中。濃度99%のスブロフの瓶数本と同じく布。そこからできあがるいくつかの自家製『火炎瓶』。今回の作戦の必須アイテムである。同じものを同じように準備しているのが、蓮角(ga9810)とエレシア・ハートネス(gc3040)。かなりの数のそれが傭兵達の手元に準備された。そして同様に準備されたワイヤー。はたしてこれをどのように使うかは後に明らかになるのだが。蓮角が妙に緊張した面持ちに見えるのはあることが原因だったのかは定かではない。
「ここでがんばって本隊を楽にしてあげましょう」
 常世・阿頼耶(gb2835)のそんな一言は全員の気持ちを代弁しているかのようである。北アフリカの岩と礫の入り混じった大地がそんな彼らの行く手を出迎える。巨大『カブトムシ』のようなキメラと共に。

 難民救出作戦を実行する味方の進路上に多数のキメラ。しかも体長は3mにも及ぼうかという甲虫。その数約10匹。簡単に倒せる相手ではない。その為に知恵をひねった傭兵達。火炎瓶しかりワイヤーしかりだ。
 そういった小道具を携えて現地へと赴く。カブトムシは意外と嗅覚が発達している。だからこそそれを利用しようという作戦なのだが。
「キメラ殲滅‥‥。いいねえこのセリフ。わかりやすいし、大歓迎」
 クールな9A(gb9900)。過去の経歴が彼女のバグアへの接し方に現れている。一切情け容赦はない。たとえザコキメラであってもだ。
「皆様のお手伝いができるならがんばります」
 獅月 きら(gc1055)の決意。だが彼女は節足動物は大の苦手である。もちろんカブトムシも例外ではない。半分腰が引けているようにも見えるのはそのためかも知れない。それでもこの任務に参加したのは心密かに思うところがあるからなのだろう。譲り受けたその超機械を抱きしめる獅月。
(頑張らなくっちゃ。あの人のために‥‥)
 と密かに誰を思うのか?

 その傍らに準備を終えた手製火炎瓶を携えたエレシア。見た目スマートに見えるのはたぶんに「着ヤセ」するタイプだからだろう。その自慢の主武装も心なしか小さく見えたりもする。
 さぞや重そうに見える火炎瓶を大事そうに抱えながら『カブトムシ』キメラに向かう傭兵達。それはこれから始まる『ムシ退治』に備えた下準備だったのであろう。


 その後しばし。岩と礫の中を周囲を警戒しつつ進む傭兵達がふと見つけた小さな変化。それはほんのささいな変化にしか過ぎなかったが‥‥。
「ん? ‥‥」
 突如何かの気配を察知した番 朝(ga7743)。山林で生まれ育った彼女。その生まれ育った環境からか、かなり五感も鋭い彼女。しかもとある過去により虫キメラはことさら気になるのだ。よってなにかしらの気配を早くも感じたのか。迫るある種の『気』のようなかすかで微妙な空気でも感じたのか? その反応にすぐさま呼応する仲間たち。
「あれかしら?」
 とゴーグルの望遠機能を最大限に生かしてはるか前方を見やるアズメリア・カンス(ga8233)。
「いよいよ『カブトムシ』出現?」
 思わず声を上げる蓮角。その声にピクリ、と敏感に反応する獅月。やはり苦手なものは苦手だ。姿は見えずともその名前だけでさえ敏感に反応してしまうのは致し方ないか。どうやらアズメリアはまだ距離はあるものの10匹に及ぶキメラの影をその双眼鏡の視野に確認したようである。

「風向きは‥‥、東風です。ちょうどいい加減の風ですね」
 風向きを測る獅月。その声と同時に行動を起こす8名の傭兵。まずは風上側の有利なポジションを探すアズメリア。キメラがある程度見通せる場所で、かつそれなりの岩がある場所を探す。ワナをかけるのに有利な場所だ。探すことしばし‥‥。ちょうど2つの岩と岩の間で砂礫の大地に多少なりとも隘路のような間隔を形成している場所を確認。『ワナ』を仕掛けるにまさにもってこいの場所である。
「この岩なら大丈夫じゃない?」
 そこで持参したワイヤーを適当な高さに岩と岩の間に渡すケイとそれを手伝うアズメリア。ちょうどランナーのゴールテープのような形に。わざわざ持参したワイヤーの意味はこれだったのだ。
「ワナ、無事設置完了ね」
 どうやら間に合ったようだ。あとは獲物を待つのみ、そんな心境だろう。さらに呟く。
「きっちり始末をつけないとね」

 ワナの設置が完了したので、『風上』『風下』の2手に別れる、それぞれ東と西の方向に散る傭兵達。『風上』に向かったのはアズメリア、蓮角、エレシア、獅月の4名。『風下』に向かったのはケイ、番、常世、9Aの4名。
 風上のポジションにたどり着くのとほぼ同時にエレシアが注意を促す声。
「ん‥‥。キメラがこっちに気がついた」
 双眼鏡を覗いていたエレシアが双眼鏡から目を離さずに伝える。その視界には、人間の匂いに反応したのか一斉に風上、すなわちワナの方へその頭をもたげ向かってくるキメラの姿が確認できる。巨大なツノを揺り動かしながら多数ある足を気味悪く動かしつつ、である。

 そんなキメラの動きを風下側からもしっかりと観察するケイ。匂いに釣られたキメラすべてが風上側に向かっていく様をしっかりと観察。だがまだ事は起こさない。
「キメラ反応中。こちらに向かってるわ」
 無線機に聞こえるアズメリアの声。それは予想以上の反応であった。10匹すべてがひきつけられる結果になったことはこれからの行動が非常に有利。風上側ではエレシアが逐一そのキメラの動きを把握し、双方の連携を取るべく情報を伝達する。

 40m‥‥、30m‥‥。徐々に近づくキメラ。その巨大なカブトムシは多少鈍重な速度ではあるものの確実にワナに近づいてくる。何かにひきよせられるように。
 そしてついに20m‥‥。10匹のキメラは前方に傭兵達の姿を認めるや、まるで猪の如く一目散に突進してきた。その巨大なツノをふりかざしつつだ。そしてまるで図ったかのように隘路となった2つの岩の間に頭をを突っ込んできた。そして‥‥。

 仕掛けられたワナ、が見事に作動した!


 ピ〜〜ン、と張られたそのワイヤーに、まるで吸い寄せられるかのように殺到するキメラ。その高さはまさに計算されつくしたかのようにキメラの行く手を阻む。

 ズシ〜〜〜〜ン〜〜〜〜

 大きな音と共に、1匹の巨体が面白いようにひっくりかえる。なんかあっけないが、所詮は昆虫キメラ。その程度の知能しかないヤツラはワナなど考えることもなかっただろう。
 そしてそれが合図だった。待ち構えたように蓮角がその手にした点火した火炎瓶を、隘路に殺到し動きが鈍くなったキメラに投げつける。
 激しい爆発音。燃え盛る炎。カブトムシキメラが炎につつまれる。それは敵の足を止めると同時に混乱させるには十分に効果満点のもの。
 そんな火炎瓶の炎が一段落したかに見えたとき、傭兵達がキメラに殺到する。あらかじめ申し合わせておいた火炎瓶の爆発がその合図。あたりにとどろく銃声と叫び声。ややはでに見える立ち回りで相手を引き付けるのはアズメリア。キメラへの風下側からの攻撃を悟られぬためのいわば『陽動』のような動き。2〜3mの距離まで近づき、接近戦を挑む。もちろんまだ燃え盛る火炎瓶の炎には注意しつつ、である。

 かくして。ものの見事にワナにはめられたキメラは傭兵達の砲火と斬撃にさらされることになったのである。加えて火炎瓶の炎による混乱である。キメラにしてみれば、このようなワナが仕掛けられているなどその単純な思考回路では考えも及ばなかっただろう。


 風上側に十分にひきつけられ、火炎瓶の一撃をお見舞いしたのをきっかけに背後から強襲をかける風下側。それは風上側の攻撃と微妙にタイミングをずらした巧妙なものであった。あわてて4匹ほどのキメラが後方からの攻撃にその首をもたげ、180度転換して、風下班に向かってくる。
「そろそろ僕たちの出番だな」
 そんなキメラに9Aは意気揚々に叫ぶ。この瞬間を待っていたかのように、今回初めて使う装着式の超機械のスイッチを入れる。
「さあ、楽しませて頂戴」
 加虐的な笑みを浮かべつつキメラに双手の銃撃をしかけるケイ。さらにはその用意した手製の火炎瓶に火をつけ向かってくるキメラに投げつける。それはキメラに命中し盛大に燃え上がり、キメラの足を止める。
 
 風上側ではまだ燃え盛る火炎瓶の炎をたくみによけながら、機械剣を逆手に構えた蓮角。その刃のついた足とスキルを利用して力任せに相手を押さえつけにかかるのだ。その狙いは弱点と思われる足の関節。2本の巨大な角の威力は侮れないが、その動きさえ止めてしまえば決して手に負えぬ相手ではない。その硬い甲殻から知覚攻撃が有効と判断したか、機械剣を振るう。その戦う様はとても隻腕とは思えぬほどだ。
「邪魔はさせません」
 風下側からキメラの背後への攻撃に備え、手前の敵から順次狙いを定める獅月。だがやはりその巨大なツノは節足動物の苦手な彼女にとってはことのほか脅威のようだ。真正面には立ちたくはないのだ。決して。
「この斧でひたすら叩ききるのみ!!」
 アズメリアが気合を入れる。彼女にとって、その硬い甲殻をつきやぶるべく用意した武器はこの巨大な斧しかないのである。
 だがさすがに、キメラの甲殻は手強いと見たのか、甲殻に比べればより柔らかい顔面を狙う。
「しっかり始末しないとね」
 そう。後に控える仲間たちのためにも、とにかく邪魔者はきっちり排除するのだ。それが彼らに与えられた『仕事』なのだ。
「あんなものまともに食らったら、死んじゃいます」
 獅月は本気で怖がっているのか、それほどでもないのか、多少ビビリ気味なのは確かである。力強いアズメリアと蓮角の姿に多少安心した様子であるが。決してキメラの正面にだけは立たないように気をつける。
「ん‥‥。逃がすわけにはいきません‥‥」
 不利と見たのか、それともかなわないと見たのか首をめぐらし逃走を試みようとするキメラに対して、手製の火炎瓶を投げつけるエレシア。それはキメラの退路をふさぐ形で盛大に燃え上がった。あわてたようにうろたえるキメラに浴びせられる容赦ない攻撃。すると突如変転し、狂ったように突進してくるキメラ。決死の体当たりにも見える攻撃だが、咄嗟にあわてることなくスキュータムに持ち替え、その盾で相手の攻撃を受け止め、はじき返す。その強大なツノの直撃を受ければ無傷ではすまないだろう。そのカウンターのようなブロックで巨体が弾き飛ばされる。

 かくして風上側のキメラ。最初は6匹いたのだが、すでに3匹が屠られて残り3匹。だが残ったキメラはなおも最後の抵抗を試みようとキバを剥き傭兵達に手向かう。だが手強い傭兵達の前に、まさに『ムシの息』状態である。すでにその巨大なツノを失っているものもいたのだ。

 その頃‥‥‥‥。
「ふふふ。さあ。蝶とどっちが華麗に舞えるかしら?」
 風下側からそのエネガンを面白いようにカブトムシの甲殻に浴びせながらサディスティックな笑みを浮かべるケイ。最初は4匹いた風下側の巨大なカブトムシキメラもすでに半数に。残ったキメラもすでにその足は止められ動きはさらに鈍く重い。
「すぐに感じなくさせてあげるわよ」
 まるで痛めつける事を楽しんでいるかにすら思える加虐的なケイ。そのすぐ横で、大剣を横なぎに振り回しつつそのツノを付け根からバッサリと切り落としにかかっている番。そのまったくの無表情、無言で戦う様はまるで何者かにとりつかれたようにすら見え、ある意味不気味ですらあるが。数的不利を考慮しスキルをセーブしつつ戦う。
 ライトピラーの光の槍を地面と水平に構え、そのまま一気にキメラの懐に飛び込むのは常世。そのグリップの両端から収束形成される2本のレーザーの刃はまるで邪悪なものを断ち切る強大な聖なる光のようにも思える。キメラにその『光の槍』をおおきく振り回す。
(ここで頑張ればあとに続く皆様が!)
 それは心の叫びである。さらにもう一振り。キメラの前足が関節からバサリ、と切り落とされる。そのままちょうど隘路になっている岩と岩の間に自ら敵を巧妙に引きずりこみ、その退路を断ってからさらに攻撃。やはり昆虫系には知覚武器は有効なのだ。
 初めて使う武器の感触に初めこそ戸惑っていたような9A。だがどうやら本人の予想以上にその使い勝手がよかったらしい。使う前に感じた自信と不安がない交ぜになった感覚は今では100%、自信に変わっているのが本人にもよくわかる。
「はは! 悪くないな。これ!」
 すっかりその手ごたえに満足したようで、思わず叫ぶ9A。今までつかっていた武器と比べても遜色のない使い心地に本人喜んでいるようである。その覚醒した髪の毛はすっかり青色に変化していた。

 ズシャ、グシャ、バシャ‥‥

 なにかがつぶれるような音。番の振り回した大剣がキメラの関節を破壊する盛大な音だ。銃撃音がさっきからしきりにとどろいているのはケイのエネガン&アラスカによる2連射の発射音なのか。

 バシ、バシ、バシ

 音からわかる確かな手ごたえ。巨大なツノが狂ったように上下するのはその銃弾が甲殻を付きぬけ、キメラの急所に命中したことを示していた。

 こうして。10匹の大きなカブトムシキメラは、ツノを吹き飛ばされたり、頭と胴体がバラバラになったりその両足を吹き飛ばされたりして、ただの無機質な肉の塊になっていたるところに転がっていたのだ。そして俄かに静寂が訪れたのは、最初の一撃が加えられてからほんの数分後にすぎなかったのだ。


 あたりをさらに警戒する番。新たな敵がいないことを改めて確認する。
「さあ死骸の撤去を」
 手際よく片付けはじめる蓮角。放置しては通行の邪魔になるだけである。
「あ〜。まだ火が燃えてる」
 よほど盛大に火炎瓶が燃えたのであろう。まだプスプスとその残り火がくすぶっていた。それを手早く消火にかかるエレシア。そして彼女もまたキメラがすべていなくなった事を改めて確認する。

「どうか‥‥ご無事で」
 続く人のために祈る獅月。

 蓮角が遠く空を見つめる。その先には一体何があるというのだろうか? 希望? それとも‥‥。
 ちなみに今回、彼が『紅一点』ならぬ『黒一点』だったことを知るものは当人たちのみであった。