●リプレイ本文
●レニ宙ぶらりん
「あ〜あ。ヘンなことになっちゃったなあ」
と宙ぶらりん状態のレニ。樹木と樹木の間、地上から高さ3mほどのところに引っかかった状態である。周囲は樹木に覆われており、ところどころの隙間からはどんよりとした空が垣間見える。かすかに鳥の鳴き声が聞こえる。今は彼女にとっては「忌まわしき」存在である。
この高さなら地上に降りられないこともない‥‥、と地上を見やりつつそう思う。幸い下草が生い茂っているその足元は、うまく着地すれば降りられないこともなさそうである。そこで彼女は試してみることにした。
その、どうにか体をひねることのできる状態を利用して、身に着けているライフキットからサバイバルナイフを取り出すと、自分の周囲に絡みついたパラシュートの紐を切り離そうと考えたのだ。これがうまくいけば降りられるかもしれない‥‥。そんなアイデアを持ったレニ。早速試してみようとするが‥‥。
メリ、メリ、ピシシ
何か布の引き裂かれるような音。思わず自分の体の周囲を見渡し、その音の原因が判明する。それは‥‥。
「ええええええ。これって‥‥」
思わず少女のような声を上げ、思わず顔を赤らめるレニ。そしてさらに何かが破けたような音がして、やがてそれは収まった。
自らの目で確認した、その状況に思わず赤面し、同時に手の動きがピタリと止まる。
(え〜〜〜ん)
それは自らの置かれた状況がはなはだ芳しくないことに改めて気がつき、思わず心の中で泣き叫ぶ声。そしてそれは同時にこれから自分に降りかかるかもしれない様々な災難やあんなこんな事を考えた結果である。
果たして、レニが自力での落下を諦めたその原因とは‥‥。
(誰か‥‥早く助けに来てくれないと)
心底そう思う彼女。そのおかれた状況は一刻を争うものであった。それはここがバグア支配地域であるということ。それが意味するものは彼女にも十分すぎるほどにわかっていたのである。だからこそ‥‥。
●救出作戦開始
同じ頃。そんなレニの思いが通じたのか通じないのか、急遽救出作戦へ借り出された傭兵達の集団。ここは彼女の墜落現場から15kmほど離れた某所。その知らせをきいて駆けつけた傭兵達である。ここにいる皆誰もが彼女の墜ちた場所がどういう場所であるかをよく知っていたのだ。
(お前ほどの腕がありながら‥‥、最近身も心も少したるんでるぞ)
密かに彼女を叱咤するのは須佐 武流(
ga1461)である。レニ墜落、の知らせを受けるや直ちに当時の風向きと風力のデータを確認する。その結果南東の風こそわずかにあったもののほぼ無風に近い、という結果が。それを受け、たぶんほとんど風に流されることなく落下傘が降下したであろうと予想する須佐。
(お前が死ぬと悲しむやつがいるから‥‥かならず助けてやる)
その決意は固い。
(レニ、よりによってとんでもないところに落ちたわね)
苦笑するのは風間・夕姫(
ga8525)。レニと同じ小隊に所属し、いわばレニの「姉貴分」のような形で彼女を可愛がっていたのだ。その心境は『妹分の危機に駆け付ける姉貴分の心境』であったに違いない。
「ホントに困ったちゃん、のレニファー様救出ですね‥‥。場所が場所だけに急がないと」
と一人呟く全身リンドを纏った二条 更紗(
gb1862)。レニとは過去にあんなこんな因縁のある彼女。
(それにしても‥‥)
と彼女は思う。木にひっかっかたままというのは考えがたいので、どこかに移動でもしているのではないかしら? と。そのまま真下で助けを待っていてくれればいいけれど、とどこか不安そうな表情を一瞬浮かべるのだ。
(バードストライクで墜落ですか。なんという運のないことでしょう)
ソウマ(
gc0505)は思う。『キョウ運』の持ち主である彼にしてみれば今回の出来事はまさに不運以外の何ものでもないのだろう。もっとも彼の場合『キョウ』は凶でもあり同時に強でもあるのだが。
「まあ、エキスパートですからどうってことは」
などと皆の前では冷たいセリフを放つが、内心は本気で彼女を心配しているらしい。
(怪我でもしているかもしれませんし、いくら気丈とはいえ、敵の真っ只中で女性一人というのは)
一刻も早く助けて上げないといけない、という思いに強く駆られる彼。そのことがかえって彼を冷静に振舞おうとさせているかのようである。こんな時に欠かせないのが冷静な判断力なのだから。
(この前お世話になったレニファーさんのピンチとあれば助けに行かないわけにはいかないでしょう。お兄さんにもこの前ふがいないところを見せてしまいましたし、名誉挽回のためにも今回はいかない訳には‥‥)
南十星(
gc1722)は思う。ここはなんとしても助けなければならないと。
(それに‥‥)
ふふふ、となにやら思うところありそうなふくみ笑いをする南。今回、彼はこの依頼を受けるにあたりある傭兵をも誘い込んでいたのだ。なにやら悪巧みの予感プンプンである。
(余計なお世話でもやいてみましょうか)
何をたくらんでいるのだろうか? その瞳は一瞬イタズラ好きの子供のようにも見えた
軍用車1台、ジーザリオ1台、バイク3台。そしてAU−KV1台、と傭兵一人の救出としてはかなりものものしくも思える車列がそのUPC軍の施設から出発したのは、雲の合間から柔らかい陽が差し込むようになった頃合であった。時は一刻を争う。なにせ場所が敵のフトコロの中だからだ。そして現場までの道は辺りを樹木に囲まれた林道。十分に何かが待ち受けていそうな雰囲気を醸し出し、傭兵達をその懐に向かえ入れようとしていたのだ。
「危険地帯に美女が独り、此れでは飢えた野獣ども、寄ってくるわな」
佐賀である。だからこそ急がねばならないのだ。
●移動中に
その車列はあまり速くない速度で林道の中を進む。道が道なのであまりスピードは出せない。むしろ一般車両にとっては悪路といえそうな部分も散見される道。当然スピードが遅い理由は道路状況だけが原因ではない。林道は競合地帯からバグア支配地域へと伸びている。当然この先、どこでキメラやらなんやらがお出迎えしてきてもおかしくはないのである。よってそれに対する備えの意味もあるのだろう。ジーザリオでも時速30kmがせいぜいである。ましてや軍用車はただでさえスピードの面では劣るのだ。
車列は殿を軍用車とその横にAU−KVが並ぶ形である。2台の車を運転しているのはセレスタ・レネンティア(
gb1731)とそして急遽南に呼び出された格好の黒川丈一朗(ga0776)である。南が彼を呼び出した意図はいろいろあるのだろうが、今はただ黙々と運転に集中する黒川である。
そんな一向の中に一風変わった風体に見える傭兵がいるのもまた事実。『ひょっとこ』の面をかぶり、それにご丁寧にも偽装を施している佐賀十蔵(
gb5442)。その偽装はご丁寧にも武器にまでおよんでいる。たぶん目立たなくするというのがその目的だろう。手元には無線機。
彼に限らず連絡、情報交換用の無線機の点検、チューニングには皆余念がない様子である。
そんな彼のすぐ側をバイクで周囲を警戒しつつ移動中の風代 律子(
ga7966)。すこしでも怪しい影や妙なものの動きは逃さないといった表情で前方を見据えている。
いつしか。樹木の切れ目から薄日が漏れはじめる。どんよりしていた雲が少しずつ切れ上がってきたようである。それは傭兵達にとってもまた敵にとってもお互いに相手を視認しやすくするということを意味しているのだ。
周囲は相変わらずの樹木。不意打ちや奇襲をかけるのもまたかけられるのにも好条件な環境である。
そんな道中すれ違った何台かの車。あまり幅の広くない林道なので、かろうじてすれ違えるほどなのだが、そのすれ違った車両の何台かは、間違いなく「消防車」の類であった。それはまさに消火活動を終えたのか、まだ途中なのかわからないが、レニの乗っていた『ウーフー』墜落現場からやってきた車であろう。とすれば間違いなくこの林道沿いに、墜落地点があり、そしてどこかでレニが救助を待っていることを意味しているのだ。
急ごう、と誰もが思い始めたその時‥‥。『招かれざる客人』が彼らの前方に現れたのだ。それはいきなりというわけでもなくどこかから悠然と沸いてでてきたという描写がピッタリであった。消火班と行き違ってからまだ数分ぐらいであろうか。「消火班」がキメラに遭遇しなかったのは、偶然に過ぎなかったのだろう。
キメラが現れた。
●最初の敵
‥‥それは見るからに明らかであった。車列の前方どのくらいの距離だろうか。まず目に入ったのは上半身が人、下半身が狼の【人狼キメラ】が4体、それと明らかに見た目の異なるこちらは【大蛇型】のキメラである。その数2体。まるで傭兵達がやってくることを待っていたかのように林道上に立ちふさがっていたのだ。
「キメラです!」
直ちに停止する車列。そしてセレスタの大声が響く。すぐさま車外に飛び出しライフルの一撃を放つ。さらに車両の陰からもう一発。
さらに次の瞬間、接近戦を挑むためにアクションを起こす須佐。同じようにキメラに迫る風代。キメラには容赦しない派にも見える須佐に対して、キメラといえどあまり殺生は好まない風代。多少趣旨は違うがキメラに対しての思いは同じようだ。さらに牽制しつつ風間が続く。
「悪いが先を急ぐんでな。速攻で終わらせるぞ」
風間が叫ぶ。敵の真っ只中に人類側のそれも妙齢の女性が一人落ちたのだ。ほおって置かれるわけがないことは百も承知しているのだ。
「委細構わず突貫‥‥刺し、穿ち、貫け」
こと敵に関しては一切躊躇しない二条。風代とはまったく正反対である。そんな相対な2名がキメラと対峙する。できれば傷つけたくはない風代だが、味方に危害が及ぶ状況になれば身を挺して防ぐ。ここはお互いの心情の違いをあからさまにする場面ではないのである。立ちはだかる敵は速やかに排除しなければ先へは進まないのだから。
ガガガガガガガガガガ‥‥‥‥。
と佐賀のガトリング音。須佐と連携したそのすさまじいまでの轟音があたりにとどろく。
「テメェら 食い易い様に挽き肉にしてやるぜぇ」
轟音にかき消されながらも高らかに響く佐賀の声。
「炎鎧鉄騎衆の力、魅せてあげましょう!」
さらに後方から声が。見れば銃を構えたソウマ。小隊長でもある二条の援護をすべくその銃口が火を噴く。
「邪魔しないでくれ」
そして南。後方からP−56の砲火をキメラに浴びせながら叫ぶ。須佐に迫ろうとしていたキメラにその閃光が走り、急所を貫く。飛び掛ろうとする大蛇には二条の無慈悲なまでの攻撃が。あまりの無力さに逃げ出そうとした人狼1体。ためらう風代の脇を掠めるようにソウマの一撃が命中する。そして須佐が自らの肉弾での強烈な一撃を浴びせる。
そしてどのくらいの時間か。立ちふさがったキメラはすべて殲滅されたのである。
「先を‥‥」
ソウマが一瞬途切れた緊張感をとりもどさせる一言を放つ。そうだ。先はまだ長いのだ。こうして再び各自の車両に戻る傭兵達。彼らが戦闘中に黒川が車両を守っていたことはいうまでもない。
●その頃バグア
「ほお。敵のパイロットがこちら側に落ちてきただと? ククク。それはおもしろい」
レニ墜落の一報はバグア側にも確実に情報としてもたらされていた。もちろん名前などは知る由もなかったが。
人類側のパイロットがひとりバグア支配地域に落ちたこと、そしてどうやって知ったのかそれが女性であるらしい、ことまで彼らも情報把握していたのだ。
「ククク。女か‥‥。それはそれでまた面白いかもしれん。それなりに優秀なら上層部に連れて行きそれなりの処置、ということか」
そう独り言を呟く、やや白いものが頭髪に混じった年のころ40代と思しき強化人間。見た目はどこにでもいる人類となんら変わらない。もっとも見た目だけのことだが。ここらあたりの地域の隊長レベルでもあるのだろうか? その口調は冷酷残忍そのものにすら感じられるものであった。以前はUPCの軍人か何かだったのだろうか? そんな風貌がどこか見受けられる男であった。
「ならば、こちらからも捜索隊をだすとするか。ククク」
彼の部下、というより僕に近い親バグア数名に指令をだす。もちろんバグアとて、100%正確な墜落位置を把握しているわけではない。だが、地の利、がある分だけ捜索は有利かもしれないのだ。その命を受け、6名ほどのバグア派が動き出した。『殺すな、発見しだい捕縛し生かして連れ帰れ』。その命令はいたってシンプル。だがあきらかに目的と意図をもった命令であった。万が一レニが捉まれば、能力者である彼女の運命は大方想像できる。
バグア側からも墜落地点まで林道が通じている。だが彼らはそこを通らずに樹木の間を徒歩で向かう。見つけ次第拉致しようということだろう。6名の親バグアは途中で3名ずつに別れ、より広範囲を捜索できる体制をとった。
こうして敵味方双方入り組んでの捜索隊が森林地帯に展開されていたのである。
その頃のレニ宙吊り現場。
「‥‥身体が、‥‥イタイ」
もうかなりの時間、宙吊りになった状態のレニ。不自然な姿勢で拘束されていたこともあるのだろう。なんとか少しでも楽な姿勢になりたいと身をよじるがなかなかうまくいかない。しかも悪いことに人間の生理現象まで徐々に首をもたげてきた。だがこんな高い木の上ではどうにもならない。
(誰か早くきてくれないかな)
しきりと首をめぐらすが、あたりは依然として森閑としたままだった。えもいわれぬ焦燥に駆られ始める彼女。
●2回目の戦闘
ちょうどその頃。先を急ぐ傭兵達の前に立ちふさがる第2の壁‥‥。そう。あらたなるキメラが出現したのだ。
今度は先ほどの【大蛇】キメラのほかに新たに見た目がトラの【トラ】キメラまで参上している。しかもこのトラ。まだだいぶ距離があるにもかかわらず早くもこちらの気配に気がつき威嚇する構えを見せる。こうして第2の敵との交戦が再び開始される。
先ほどと同じように先行し肉弾戦を仕掛ける須佐と風代、そして二条。だが、トラキメラは先ほどのキメラよりは動きが素早く、逆に先制攻撃を受ける。
キメラの細かい動きに合わせバック転やジャンプなどでかろうじて致命的な一撃をかわすも多少なりともダメージを受ける須佐。だがこんなことではあとに引くわけにはいかない。限界突破と疾風脚をフルに生かし、相手の急所を狙い蹴りを連打したのち、必殺のミドルキックを叩き込む。
「‥‥これがお前の最後の時間だ」
一瞬ニヤリ、としたようにも見えた須佐。くの字にへしゃげ大きくはじき飛ばされるキメラ。そのままもんどりうつように逃走してしまったのだ。その光景をみやりつつも深追いはしない風代。二条も今回はあえて?追撃はしなかったようである。‥‥いや。まさに彼女も目の前のトラキメラと格闘中だったのだ。その槍を縦横無人に振り回し獲物を屠る。
だが。今回のトラキメラは多少手強いようである。その為、苦戦と見て取ったか、後衛陣からの援護射撃が浴びせられると共に、トラキメラ対応のため、手すきになった大蛇キメラに対してターゲットを定める風間。そこへ先ほどと同様に佐賀のガトリング砲が大蛇に浴びせられる。
「ダメージを負った方は?」
素早く反応するのがソウマである。致命傷こそないものの前衛は多少の手傷を負ったようである。素早く応急処置に走る。そんな彼を車陰から援護するセレスタ。遮蔽物をたくみに利用する佐賀。
「クッ」
かすり傷程度だが、素早く活性化で手当てを図る風間。
かくして前回よりは多少てこずったものの2回目のキメラも無事に殲滅した傭兵達。1匹のがしたことが多少残念そうな二条とどこかほっとした表情の風代が好対照に見える。
こうして2度にわたるキメラとの戦いをなんとか切り抜けた傭兵達。だが一抹の不安。いままでの戦いでかなり練力をつかってきている。さらに3たび目のキメラと遭遇するか、本格的に敵強化人間との遭遇になった場合に多少なりとも不安がよぎる。だがそれは決して表には現さない。まだ何も成し遂げてはいないからだ。
再び先を急ぐ彼ら。そしてついに、レニが墜落したと思われる現場付近に到着したのである。車を止めさっそくいくつかの班に別れ行動開始する彼ら。おそらく間違いなくレニはこの近くにいるはずである。捜索中に車を守るのは黒川である。
●どちらが先に
同じ頃。親バグア派も現場付近に迫りつつあった。もちろんレニの顔形はわからないが、人類側の墜落した女パイロット、という情報を元に付近を重点的に捜索するのだ。
「おい。あっちの方が怪しい」
一人の親バグア派が仲間に声をかける。それは彼らの右手方向。だがその方向には他ならぬ傭兵達も迫っていたのである!
こうして偶然にも親バグア派と傭兵達がハチ合わせする展開になったのである。
「!!」
先に気がついたのは傭兵側、そう、セレスタであった。南、風間と3名で付近を捜索中、偶然生い茂った樹木の向こう側を何か探すように動き回る人影を発見したのだ。その距離それなりに近く。注意すれば敵の動く足音が聞こえそうな距離にすら思えた。こっそりと気配を殺し、音で悟られぬように敵に迫る。もし強化人間なら絶対に容赦はしないつもりだ。
ぎりぎりまで接近しじっと息を殺して様子を伺う。その雰囲気から、どうやら強化人間ではないらしいと判断。
彼ら独特のある種の【気】のようなものが感じられないのだ。ならば‥‥。タイミングを計る風間たち。そして‥‥。
「敵と接触。応援を」
無線機に叫ぶセレスタ。その声とほぼ同時に戦端が開かれる。ここは黒川との約束どおり極力殺さず無力化することにする。むやみな殺生は避ける、その黒川の考え方は時として敵への温情にもなりかねないことは十分に承知はしているのだが。そこで敵への【奇襲】を行うことによって無力化を図ろうと考える。
傭兵達は瞬時に行動した。その動きに寸分のムダもない。
たぶんバグア派のメンバーは一瞬何が起きたか理解できなかっただろう。突如疾風の如く目の前に現れた傭兵3名。たぶん声を上げる間もなかったかもしれない。あっというまに手足の大関節の先を撃たれその場に崩折れる。そしてそのまま意識を失ったのだ。たぶん味方に危険をしらせる間もなかったかもしれない。急所は外したのでたぶん絶命はしていないはず、それを確認する南達。とりあえず最初の危機は去った。だが戦闘音は確実に周囲に響き渡った。
一方ほぼ同じ頃の別地点。別の範囲を捜索していた須佐、風代、佐賀。そこは林道から少し入った茂みの中。樹木の上を中心に捜索していたのだが、その時、須佐の前方右手の樹木の隙間からなにやら蠢く人影が迫る。その須佐、佐賀の2名から多少距離を置きより広範囲を探す風代。もしバグア派と遭遇したらなるべく平和的に持ち込みたいと密かに思う。電源がONになった無線機からはまだ何も聞こえない。
「あれは?」
最初にそれを発見したのは風代であった。と次の瞬間その人影から、
バシ、バシ
いくつかの発砲音が。敵の先制攻撃である。それはこちらが反応するよりわずかに早かったようである。同時に無線機から聞こえるけたたましく響く『敵発見』、というセレスタの声が。
つまり2組の傭兵の捜索隊はほぼ同時にバグアメンバーとハチあわせする格好になったのである。幸いなことに樹木に阻まれ、彼らが直撃されることはなかった。どうやら傭兵達を見失ったようだ。
ここでも傭兵達はむやみな殺生に出ることを避ける。あえて遠回りし、逆方向から敵へ向かう須佐達。自分たちが来た方向を欺瞞することによって、レニの位置情報を混乱させるのが須佐の狙いである。その為、あえてひとりだけ生かして逃亡させることにしていた。
「レニファーに近づかせねぇよ はっはっは 踊れ踊れ ダンスマカブルだぜ」
豪快な声と共に、意図的にガトリングガンで相手への直撃を避けて攻撃する。その攻撃により、死の恐怖によって半狂乱になったように踊るそのさまこそまさに『死の舞踏』。その光景を楽しむ佐賀。致命傷を与えぬように無力化することを心がける。
「さあて、お前らの探し主はあっちだと思うが」
あえて逆方向に視線を向けた須佐。2名の親バグアにあっというまに接近するやいなや強烈な拳で鳩尾に一撃。その場に昏倒させる。もちろん敵の発砲こそあったものの、傭兵の素早さにターゲットをしぼることなど常人には不可能である。さらに横蹴りでもう一人もその場に昏倒させる。
「ひえええええええ。うわあああああ」
残った1名。すっかりおびえたように悲鳴を上げその場から半ば腰を抜かして逃亡。だがそれが狙いなのであえて追撃はしない。まずはこれでニセ情報が敵に伝えられれば上等である。転がるように消えていく後ろ姿はなんとも滑稽にすら見えた。
こうして無事親バグア派を撃退し、ほっとした表情を見せた次の瞬間。彼らの無線機に飛び込んでくるソウマの小躍りしそうな声。
「レニファーさん発見しました!! 無事です。ここにいます!」
そう。それこそついにレニが傭兵達に無事に発見された瞬間だったのである。レニを発見したのがソウマ、というのはまさに『キョウ』運の持ち主たる彼だからこそなのか?
その声に一斉に歓喜する傭兵達。ただちにその現場に急行する。
そう。レニは無事に傭兵達によって助けだされたのだ。
●こんなところに
‥‥それはまさに目の前であった。二条と共に行動していたソウマ。林道から少し入ったとある場所。彼らが車を降りた地点からさほど遠くないとある5mほどの一本の木。
かれらがその木の上の方に何か白い塊と人影のようなものがひっかかっているのを偶然遠目から確認したのだった。もはやそれは改めて確認する必要もなく。急ぎその木の真下にたどり着き、見上げたそこには。
「あら〜〜。こんなところに墜ちるなんてお茶目さんなんですね〜〜。でも運がいいのか悪いのか」
ととても第一発見時の印象とは思えぬ内容で叫ぶ二条。
疲れてウトウトしかけていたレニ。その聞き覚えのある声に、思わずハッと目を覚まし、下をみやる。そう、そこにはあの見知った二条がなにやら笑いながら立っているではないか。思わずドキッとするレニ。だがいま二条は命の恩人である。
「あ〜〜〜。二条さん。助けにきてくれたんですね」
と思わず上げる安堵と喜びの声、そして傍らのソウマの手にした無線機に目がいく。
「え〜〜〜。皆で助けにきてくれたのね〜〜」
さらなる喜びが湧き上がる。そして思わずおおきくタメ息をつくレニ。
程なく他の傭兵達も到着。そこには風間の姉さん初め、見知った顔何名か。みな彼女のために危険を省みず助けにきてくれたのだ。
「悲しむやつ、の顔を見たくないんでね」
と須佐。
さてよくみるとレニ。別に複雑に樹木にパラシュートが絡まっている訳ではないのに、何故自力で下に降りてこようとしなかったのか? その理由は木に登ってみた風間によって明らかになった。
ふと見ればレニのパイロットスーツ。あちこち微妙に木の枝にひっかかっているのだが、そのまま落下傘のロープを切って無理やり降りようとすると、その極薄生地でできたパイロットスーツがビリビリと引き裂かれる形に。しかもである。今までのレニはパイロットスーツの下には、実は一切何も身に着けていないのだった。つまり自力でおりようとすると最悪スーツが全部破けて、あんなこんなあられもない姿でその主武装をさらけだすことになってしまう可能性が。その為、さすがに羞恥心が働き自力で降りられなかったということらしいのだ。その事実を知った二条。
「助けが遅かったら、あんなこんなことになっていたかも?」
とむしろアッチの意味で大変なことになっていたことに気がつき、ひとり内心ほくそえんでみたりしていたのだ。一体何を想像していたのだろう。
「パラシュートを斬るので落とす形になるから注意しとけ」
スーツが破れないように事前に段取りをしてから、慎重にロープを切る風間。念のため下で受け止める態勢をとる佐賀。
ドシン
と多少の衝撃はあったものの無事に着地に成功するレニ。どうにかうまく隠すことに成功したようだ。すると俄かにあわてたようにゴソゴソと樹木の中に消えていく。どうやら生理現象が限界だったようだ。
「レニファーさん。あまり心配かけてはいけませんよ」
しばらくして戻ってきたレニになにやら意味深にクスリ、と笑いかける南。軽いカスリキズ程度の彼女を現場に到着したジーザリオにつれていく。するとその運転席には‥‥。
「え?‥‥」
そこには彼女のよく知った顔がいたのである。傭兵達が戦闘中に車の守りをしていた男である。
●そして
「無事作戦終了ですね」
とセレスタ。緊張が解けたような表情である。
「腹が減ったぞ。メシ大盛な」
依頼成功に満足そうな佐賀。
そしてジーザリオの車中に何故か2名だけ。こころなしか表情が硬く妙に神妙なレニ。いつになく無口である。
「皆さんいいですか。決して‥‥」
軍用車の中で意味ありげになにかを言おうとしている南の姿が目撃されたのである。彼にしてみれば多分に余計なお世話が好きだっただけかもしれないのだが。
こうして、敵の手に落ちることなく無事に助けだされたレニ。だがその後しばらくKVに乗ることを自粛したとかしないとか‥‥。そして思う。今度パイロットスーツを着るときは、必ず下着は身に着けようと。
了