タイトル:さらわれた女学生マスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/06 23:38

●オープニング本文


 その依頼は、LHのモニターに『緊急』をしめす赤い文字と共に表示された。

 依頼元は、とある全寮制の女学校。長い歴史と伝統を誇り、設立当初から主に良家の子女を中心に良き教育と良き環境を持って、数々の卒業生を送り出してきたある意味名門の女学校。
 全寮制ということもあって、その規律も厳しく、特に門限や校則の厳しいことでも知られている女学校であったのだが。
 ここに在学しているのは、総じて15歳から18歳の乙女たち。まだまだ遊びたい盛りであろうにもかかわらず、この学校の厳しい校則や躾にも耐え日々勉学にはげむ、そんなある日。

「ねえ、この学校の近くにしゃれた洋館があるんだって」
と一人の女子学生が友人に話しかける。みればまだあどけなさの残る少女である。
「へ〜〜〜。知らなかった。いつできたの?」
 と興味ありげに尋ねる友人の女子学生。
「ん〜〜。よくわからないんだけど」
 といかにも女子学生らしい口調で話す。
「ねえねえ。いってみない。どうせ今日は休日で、門限もあまり厳しくないから」
「でも、寮長うるさいし」
 さらに別の友人がちょっと不安そうに語りかける。

 この学校。当然ながら寮の規則も大変厳しい。門限はきっちりあるし、休日に外出する際も、場所と目的をはっきりさせなければならないのだが、そこはこの年頃の女子学生である。ましてや厳しい規律に日ごろ縛られているので、たまにはハメをはずしたいと思うのも乙女心。まして一人ならともかく、友人と一緒とあれば、その心も緩もうかというもの。

 そんな訳で、寮長には内緒でこっそりとその洋館とやらを見に行くことに。場所はこの学校の寮から歩いて20分ぐらいの場所。ほぼ平坦な道をとおり、林を抜けた場所にひっそりとたたずむというしゃれた洋館。
 期待に胸を膨らませ、週末の日曜を待っていそいそと出かけていった3人なのだが。
 むろん寮長には無届であるのはいうまでもないこと。ちょっとした秘密の冒険気分でこっそり出かける3人。

☆☆☆
「え? うちの生徒が3人行方不明?」
 学校長がその報告を受けたのは、週があけてからのことだった。日曜日の門限が過ぎても、寮にもどらない生徒がいるとわかったのは日曜日の門限が過ぎてからのことであった。
 あわてて寮に確認するが、確かにどこにも見当たらないという。外出届けはでていないので、どうやら無断で外出したらしいことまでは判明したのだが、その行方はまったくわからない。夜が明けるのを待って、校長の命で付近の捜索を開始し、近隣の住民からも情報を集めることにした学校側。
 すると近隣の住民の目撃情報が寄せられる。この学校の生徒と思しき女子学生3人が、洋館の中にはいっていくのを見た、という目撃情報が。さらに詳しく聞くところによると、つい最近もこの洋館に立ち寄ったと思われる若い男女が行方不明になった、ということも明らかになった。

 その証言を受けた学校側。ULTに捜索依頼をだすことにしたのである。
 依頼書にはこう記されていた。
『洋館に向かった後、行方不明になった我が校の女子生徒を捜索してほしい』

☆☆☆☆☆☆
 その頃。洋館内の地下室。その薄暗く冷たい床にへたり込むようにして手足を縛られて猿轡をされた3人のうら若き乙女の姿があったことは誰一人知る由もなかったのである。
 その天井は何か異質なもので作られているような怪しく鈍い光を放ち、そこからは鋭い刃がいくつも下に向かって突き出していたのである。それは不安定で今にも落下しそうにその無数の切っ先を女学生の方に向けており、どこかに落下させるためのスイッチでもあるようにすら思われた。
 その光景がさらに3人の恐怖を掻きたてるのであった。

●参加者一覧

黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
遠石 一千風(ga3970
23歳・♀・PN
クロスフィールド(ga7029
31歳・♂・SN
秋月 九蔵(gb1711
19歳・♂・JG
天宮(gb4665
22歳・♂・HD
ブロント・アルフォード(gb5351
20歳・♂・PN
石田 陽兵(gb5628
20歳・♂・PN
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER

●リプレイ本文

 天井から無数に突き出している鋭い刃のような凶器。それが何を意味しているのかは、人質になっている女学生が一番よくわかっていたであろう。その恐怖におびえ、瞳孔を大きく見開き、ガタガタと小刻みに震えているさまはまさにこれから生贄にされんかとする子羊の如く、である。

(「ハ、ヤ、ク、‥‥‥‥タ、ス、ケ、テ」)

 猿轡をかまされ決して声をあげることはできないにもかかわらず、その瞳はたしかにそう訴えていた。確実に迫る死。その事実だけが彼女たちを支配していたのだ。冷たい地下室の中で‥‥‥。

●偵察そして潜入
(「くそ〜。こんな気分はアノ時以来だな」)
 おかれた状況を顧みるにつれ、そんな気分がのしかかる秋月 九蔵(gb1711)。またあのときの悪夢がよみがえるのか‥‥。気が重い。
「一体、ガキを何につかうっていうんだ。ったく‥‥」
 傍からも聞こえる大声でいらだつクロスフィールド(ga7029)。その怒りの矛先は当然強化人間に向けられている。今回もっとも憎むべき敵である。
「さて。とりあえず参りましょうか」
 その全身に『パイドロス』をまとった天宮(gb4665)。その優れた静寂性はこういった状況ではおおいに役に立つ。アナライザーのアタッチメントをAU−KVにつなぐ。

 問題の屋敷は、一見するとどこにでもありそうにも見えるたたずまいでそこに鎮座していた。だがその庭先にはキメラがいるという噂がある。一体だれがこの屋敷の主として、知られているだけで数名にも及ぶ人類を何の目的で連れ去ったのか?
「庭にキメラが2匹。人影は‥‥」
 と双眼鏡で確認するクロスフィールド。だがすべての窓が閉まっていて人影は確認できない。建物内に直接踏み込まなければ確認は難しい状況である。万が一に備え、持参した閃光手榴弾を改めて確認する。
 一方。一足先に屋敷とその周囲を偵察する秋月。まず屋敷に何気なく接近し、庭にいるというキメラの姿を遠目に確認。今度は屋敷を離れ、グルッと一回りしつつテレスコピックでキメラや屋敷内部を偵察する。
「ほほお」
 彼の視界に大きく捉えられた2匹のキメラの外観は巨大なトカゲにも見えるのだがいかに?
 だが。今回の標的はキメラではない。まずは人質の女学生の救出である。内部に親バグア派がいることは間違いない。内部の情報が入手できない状況では、これ以上の手がかりは得られそうになかった。外部からでは、狙撃ポイントの確保も出来そうに無い。敵も警戒しているのか? それとも単なる偶然か?
 
 こうして裏口へと向かう傭兵達。事前に手に入れた屋敷の見取り図によればこっそり近づける裏口があるらしい。天宮、石田 陽兵(gb5628)、遠石 一千風(ga3970)、春夏秋冬 立花(gc3009)が裏口へ急ぐ。庭にいるというキメラに気づかれぬよう、遠石に依頼されて秋月が先導する。さらにその後方から黒川丈一朗(ga0776)クロスフィールド、ブロント・アルフォード(gb5351)が続く。彼らによる決死の救出作戦が展開されるのである。
 人目をはばかるように気配をできるだけ殺す8つの人影。それは端から見ればまるで忍者か何かが隠密潜行でもしているかのような動きに見えたのかもしれない。もちろん、庭先にいるキメラにみつかるようなドジなマネはするはずもなく。

●確保
 秋月の事前偵察で、裏口から侵入が可能だろうとの情報を得た彼ら。実際にその場に達してみると、なるほど本来かけられているはずのカギが何故か閉め忘れの状態に。
「‥‥罠?」
 と一瞬躊躇したブロントだが、思い切ってそのノブに手をかけ、そっと開く‥‥。
 
 ギギギギ

 かすかな音とさしたる抵抗もなくドアが開く。やはりカギはかかっていなかった。幸運のダイスは傭兵達に転がったようだ。潜入班の4名が直ちに内部に潜入し、あたりの様子を窺う。外部からではこれ以上の手が打てぬと判断した秋月も、邸内へ向かうこととした。
 
 そこはまっすぐな廊下の周囲に4つのドアがあるシンプルな構造。
「ドアは開けるなよ」
 黒川がささやく。罠を仕掛けるにはもっとも適した場所だからだ。
 天宮と石田が1F。秋月も1F側へ回った。遠石と春夏秋冬が2Fを探査する。ここで2手に別れ内部を探査しつつまずは人質の居場所を確認しなければならない。強化人間なり親バグア派なりを発見次第即座に連絡と取り合う算段をつけそれぞれに分かれる。2Fの階段を足音をしのばせ上る遠石と春夏秋冬。秋月に続き、そのまま廊下を直進する天宮と石田。

 その屋敷の内部はどんよりとした重苦しい空気に包まれている。1F手前の部屋の内部の気配を探る天宮と石田。罠を警戒し、扉を開けることなく気配で内部の様子を探る。慎重にそして確実にである。
 
 ひとつめの部屋‥‥。ふたつめの部屋‥‥。

 用心深く気配を探る。だが人の気配は感じられない。

 とその時、先行していた秋月が何かに気がついた。それは3つめのドアの手前。内部に確かに感じられる人の気配。それはまさに『何者かの』気配。
「隠れろ」
 咄嗟に裏口まで駆け戻り階段に身を潜める天宮、石田、秋月。息を殺しつつじっとそちらのほうを眺める。それが永遠の時間のようにも感じられた頃、3つめの部屋のドアが開き、一人の男がこちらに背を向けてゆっくり歩みだそうとしている。その格好からどうやら親バグア派のメンバーのようだ。そのかもし出す雰囲気は強化人間のものではなかった。
 即座に動く天宮と石田。千載一隅のチャンス到来と見たか、気配を悟られぬように一瞬にしてその男の背後に迫る。

「!!!!」
 それは息つくかつかぬかのほんの一瞬。出てきた男にしてみれば瞬間自分の身に起きたことが理解できなかったであろう。あっというまに口をふさがれ声を殺され3人がかりで右手の階段の陰にひっぱりこまれる。もちろん叫ぶ余裕などまったくなかった。
 親バグアメンバーの確保。それはまさに幸運がもたらしたものであった。その知らせは早速2Fにいる遠石と石田にももたらされた。室内で無線機を使うことのリスクを考え、人の足、によってである。

●尋問
「さて、すべて話してもらいましょうか‥‥」
 言い方は丁寧だが、決して妥協はせぬ決意を秘めた天宮。グイっと顔を男の方に近づける。
「尋問は苦手だけど。素直に答えてね。女学生はどこ?」
 遠石が続けざまに問いかける。後ろから不意打ちした時点ですでにその男の武器は無力化されており、戦闘力を失っていたのだ。そんな相手を圧倒するかのような気構えと気迫で男を見据える。その射抜くような視線が男に注がれる。
「女学生の身の安全が確保されればあなたの身の安全は保証しましょう。おっと。抵抗してもムダですよ。なんなら‥‥」
 相手を完全に圧倒し、飴とムチを使い分けているように見えつつも、決して妥協する姿勢は見せない春夏秋冬。
 ジワリ、と相手を心理的に圧迫し押さえ込もうとするような言い回しで白状させようとする傭兵。

 この男。親バグアとはいっても、所詮はただの平凡な一般人だったようだ。たぶんやむを得ずバグアに従っていただけなのだろう。8名の傭兵に輪の様に取り囲まれては、もはや蛇ににらまれた蛙にしか過ぎなかったようだ。
「ひええええええええ。話す‥‥話すから、殺さないでくれええええ」
 あたりをはばかる声で命乞いをするように哀願するまでには大して時間はかからなかった。

●まず救出
 男は知る限り洗いざらいしゃべったようだ。女学生は地下室に閉じ込められていること。そこにいたる扉に罠や鍵はないこと。そして主犯たる強化人間は建物内のどこかにいること。などである。正確な場所を聞き出そうとするものの、どうやらこの男は本当に知らないらしい。というか、顔すらあまり知らないのだと、妙なことを言い出す。どうやら何も知らされず単にこの屋敷につれてこられ、門番でもしていたようなことを言う。
 だがこの男。仮にも親バグア。すべて正直に白状したとはまだまだ信用できず。そこで一計を案じた春夏秋冬。地下室までこの男に案内させようということに。
「私も同行します」
 と遠石。男と秋月と共に先行して地下室への階段を進む。あとに続く春夏秋冬。その場に残って念のため警戒する黒川、ブロント、クロスフィールド。もし何かあれば直ちに合図を送る手筈を整え、イザ地下室へ。

 そこはポッカリとひろがる空間だった。‥‥ここに至るまでに本当に罠はなかったのだ。
 その内部に閉じ込められていた女学生の無事を確認すると、まず落ち着かせようとする春夏秋冬と遠石。多数の人間の侵入に驚き、初めこそ恐れおののいていたように見えた女学生だが、彼らが傭兵であり自分たちを救助に来たことを知ると、いちように安堵の表情を浮かべる。その姿にとりあえずほっとする傭兵達。

「じっとしてろ。今自由にしてやる」
 その戒めを刀で解きほぐすブロント。一人‥‥また一人。猿轡もはずされた3人をまず介抱し、ケガがない事を確認する。長い間拘束されていたので、多少やつれてはいるように見え、精神的にダメージを受けているようだったがまずは一安心である。
「怖くなかったですか?」
 同じ年頃の女性としてその身を気遣う心遣いを見せる春夏秋冬。まだ信じられないといった表情を浮かべる女学生たち。
「本当に無事でよかった」
 安堵する遠石。ひとまず女性陣がつきそって屋敷の外へと女学生らを連れ出す。そこで無線連絡で関係者に無事を報告し、あとの事をまかせることに。まだまともに話せる状態ではないのだ。
 
 こうして無人になった地下室に、くだんの親バグア派の男を手足を拘束した上で閉じ込めておく。
「少しここでおとなしくしていてもらいましょうか」
 と天宮が男に告げる。親バグアに銃を向けることなく捕縛することができ、内心ホッとした表情の石田。
 かくして人質は無事解放され、傭兵達の目的達成‥‥。いやまだ敵が残っていた。どこかにいるという『強化人間』と庭の『キメラ』である。キメラはまず後回し、そう提案するクロスフィールドの案を受け、『強化人間』狩へと向かう傭兵達。

●探索開始
 地下室からでた一向。どこかに潜んでいるであろう『強化人間』の姿を求め、部屋を1つづつ探索する。だが黒川が最初にささやいたように扉には注意する。まあ女学生が救出されたので、リスキーではなくなったのだがそれでもとんでもない罠が仕掛けられているかも知れないからだ。『君子危うきに近寄らず』という訳だ。
 1Fの残りの部屋を慎重に捜索する天宮と石田。だが未捜索だったそれらの部屋に、少なくとも人気はない。
 扉の向こうがどうなっているかは定かではないが、少なくとも人の気配がないことだけは確かであった。
「‥‥2Fか」
 誰からとはなく口をついて出た言葉。階段一歩一歩確かめるようにして2Fへ。まるで仕掛けられた罠の中に自ら飛び込んでいくような心境。
 
 ギシギシギシ‥‥
 
 かすかに階段がきしむ音だけが無音の屋敷内に響く。そしてついに目の前が開け、再びまっすぐな廊下が現れる。だがその廊下に一歩足を踏み入れたすべての傭兵達が目にしたものとは‥‥。

●対決
 2Fの突き当たり、壁を背にしてたつ人影。それは傭兵達の姿を認めると、多少驚いたような表情をする。が、次の瞬間、その冷酷さをあからさまにしたような表情で彼らを見据える。
「貴様たち‥‥。どこから入ってきた‥‥」
 極めて抑揚のない声。それは内心のかすかな動揺すら感じさせないほどのもの。
「裏口が開いていたんでね」
 と黒川。ひるむことなく男の顔を見やる。
 男は30歳ぐらいだろうか? いや、もっと若いかも知れない。全身黒一色の服装に身を包み両足を仁王立ちに構え、まばたきひとつせずに傭兵達を見据えるその目は、底知れぬ不気味さを感じさせるものであった。
「お前達の企みは潰えた。おとなしく投降したらどうだ。人質はすでに解放したぞ」
 黒川のその問いかけには答えず、クククとかすかに口元をゆがませる。

「なるほど。裏口か‥‥。俺とした事がうかつだったな。ということは俺の下僕はすでに貴様たちの手中にあるということか」
 自嘲気味に呟くその男。
「一体ガキをどうするつもりだったんだ?」
 とクロスフィールド。わずかに男の方に歩み寄る。
「ふふふ‥‥。知りたいか?」
 その声は抑揚のない淡白でかつ冷淡なものだった。
「どうやら貴様らは、あながちマヌケというわけでもなさそうだな。どうやら正しい答えを導く方法を知っていたと見える。だがな、ゲームはまだ終わっていないんだぜ」
 正しい答え、と聞いて体に戦慄が走る石田。もし、人質を助ける前にこの男と対峙していたらどうなっていたのだろうか? 人質解放のための交渉を考えていた彼にとってはまさに幸運ですらあったかも知れない。
 男がゆっくりとその右手を開く。そこには小さなスイッチのようなものが握られていた。
「こいつがなんだかわかるか?」
 冷酷な表情で男が呟く。
「トラップか? まったくいい趣味してるよ」
 呆れたように呟くクロスフィールド。
「‥‥まあそういうことだ。一歩でも動けばどうなるかは‥‥わかるな?」
 トラップが仕掛けられているだろうことを傭兵誰もが直感する。この廊下のどこかに。
「‥‥おっと、貴様たちの質問に答えてなかったな。あの人質はキメラの素体にでもしてやるつもりだったのさ。以前もマヌケなカップルが迷い込んできたが、やつらも‥‥」
 その口元が醜くゆがむ。
「おっと。言っておくが俺様の趣味じゃない。『上』からの命令でね」
 男はそういうと傭兵達の方へ一歩踏み出そうとした。その時、

バキュ〜〜〜〜ンンンン

 傭兵達の背後からとどろく鋭い銃声。それは秋月が男の持っていたそれをまさにピンポイントで狙撃粉砕したものだった。これには思わずわずかではあるがたじろぐ強化人間。
「俺はスナイパーだからな。その意味がわかるか?」
 ニヤリ、と微笑む秋月。彼の正確無比な射撃が男の企みを粉砕したのだ。が次の瞬間、その男は思わぬ行動にでた。まるでそうなることを予期していたかのような次の1手。

●逃亡、そして
 一瞬その視界を奪われる傭兵。男はどこから取り出したのか煙幕弾を破裂させたのだ。そして右側のドアから部屋の中へと逃走する。
「くそ! 天宮。あわせてくれ! コイツは、許すわけにはいかねえ!」
 かろうじて確保された視界の中を、逃げた男を追撃するブロントと天宮。だが男が飛び込んだ部屋の中はすでにもぬけの殻。どこかに隠し部屋でもあったのだろうか? そこには人影ひとつ見当たらない。
「くそ。逃げられた‥‥」
 ブロントが臍を噛む。だがもはやなすすべはなかった。そこにはなんの変哲もないだだっぴろい空間が広がっているだけだった。いつのまにかその窓は開いており、ヒヤリ、とした外気が吹き込んでくる。男と対話の余地を残したことが招いた結果だとは思いたくない。だが‥‥。

 人質は救出したものの、わだかまりをのこしつつ屋敷を去る傭兵達であった。

P.S 庭で確認されたキメラは後日ULTの能力者によって殲滅されたそうである。