●リプレイ本文
●砂塵
北アフリカ某所、10:00。
すでに灼熱の太陽はその地を照らし、地上に生きるものすべてを焼きつくさんかとばかり。巻き上がる砂塵の様は、まるでこの星でもっとも荒れ果てた凄惨な場所であるのを証明しているような場所。
そんなうだるような炎熱の大地に陽炎のように揺らめくいくつかの動く影。それはまるでどこかの異次元からタイムスリップして、突如この大地に現れたかとすら思えるような不気味なフォルムをなしていた。
「ふむ。どうやら『客人』とやらがお見えになったようだ」
日の光を浴び、まさに「黄金」にかがやくタロスの機内で、レーダーにうつる機影を眺めつつ、その唇の端をわずかにゆがめるようにしてほくそえむのは『ゼオン・ジハイド』の一人である『アルザーク』。そのタロスの前方を、巨大な首をふりつつ進むRCに照りつけるすさまじいまでの陽光が、タロスのモニターからもはっきりと目に写る。
「そのようですな。さて‥‥、アルザーク様のお目にかなうような人間がいるとよいのですが」
突如モニターに割り込むのは、彼の子飼いの部下。2機のタロスはお互いに前後接近するような形でRCの後方をゆっくりと進んでいく。そのはるか先にいるであろう人間たちに期待しつつ。
●KV
(「RCこそがまず早急に殲滅べき敵」)
榊 兵衛(
ga0388)は思う。それはこの依頼を受けた時点から常に彼の心にある。歴戦の愛機「忠勝」は今日も彼を支えるのだ。
「さあ、これから恐竜ハントのお時間のようね」
皇 千糸(
ga0843)の思いも同じ。何人の生存も許さぬような炎熱の無人地帯を砂煙を道連れに進む10機のKV。だが彼らがもっとも畏怖するのはRCなどではなく、「タロス」そのものなのだ。しかも「黄金」のタロスであるとの情報はすでに彼らの耳にも伝わっている。
「2機のタロス、そして黄金のカラーリング。ふむ‥‥」
飯島 修司(
ga7951)は「ディアブロ」のコクピットであることを考えていた。それはこの敵と「交信」をかわすことの可能性についてである。果たしてタロスに交戦の意思のあるやなきや、を。
「挨拶にでもきたのですかね」
一人苦笑する神撫(
gb0167)。だが言いようのない不気味さが彼の心の片隅を支配しているのも事実。無事に済めばよいが、そんな気持ち。
ときおり激しく砂が舞い上がる。その都度多少なりともさえぎられる視界。だがKVのレーダーに映る8機の敵機影は、とまどうことなくまっすぐにこちらに向かっている。その事実が傭兵達に与える無言のプレッシャー。
(「私には荷が重かったのか? やはり。だが‥‥ここまで来て退くわけにはいかない」)
敵との距離が確実に迫る中、ひとりヘルヘブンの機内で、その体の震えに耐えつつ自問自答する南十星(
gc1722)。思えば初めてのKV戦。しかも相手がRCという、経験の少ない彼には十分すぎるほどの強敵である。だが弱気は禁物、とばかりにあえて前方を見据えるように睨み付ける。
「厄介な任務、というか極めて困難な任務かも知れない」
上月由鬼(
gc0849)のその言葉は、彼女のみでなくここにいるすべての傭兵達の想いかもしれない。
●視認
「ほお。どうやらあれが今回の『客人』どもか」
2機のタロスの視界にかすかに捉えられる10機のKVの機影。まだ距離はあるがそれは最大にズームされ陽炎ゆらめく画像となってアルザークの視界に飛び込んでくる。
「そのようですな。そろそろRC達に動きを与えましょう」
とモニターの向こうで部下が告げる。
すると。その声にあわせるかのようにゆっくりとRCがそのフォーメーションを変える。6体のそれはシンプルに横1列の態勢になり、その歩みを速める。その300mほど後方をやはりそれに歩調をあわせるかのように進むタロス2機。
「まずは、高みの見物をさぜてもらうとするか。ククク」
アルザークが冷酷な笑みと共にその機体をおおきく揺らめかす。
10:15。10機のKVを先導する形で進んでいた、漸 王零(
ga2930)機と冴城 アスカ(
gb4188)機。真っ先にその射程にRCを捉えたのは漸機。まだ有視界では確認が困難な距離。
「前方RC6機確認。作戦行動開始」
漸の声が、他のKV全機に凛として伝わる。その声に呼応し、10機のKVがポジションを変える。6機が2手に別れ、後方に2機。そして漸と冴城の両機が突出する形。いわば「囮」役である。それはいうならばもっとも危険な役回り。だがそれをあえて引き受ける両名はそれなりの自信と確信に満ち溢れていたに違いない。
初手。エニセイを敵RCのほぼ真ん中に叩き込む。いわば先制攻撃。だがRCはかまわず前進してくる。そのプロトン砲はTWのそれより射程が短く、威力で劣る。だがその分錬力を消費しないので、理論的には「連射」も可能である。決してあなどれないのだ。さらに両者接近。
「敵、発砲」
簡潔に響く冴城の声。RCのプロトン砲の射程にはいったようだ。だがもとからそれは折込済み。6機のそれが2機のKVに集中するその衝撃に耐える。それこそ「囮」の役割なのであるから。重装甲化されたシュテルンのコクピットにいやな振動が伝わる。
ほんの何秒か後。そのシュテルンの砲門が開き、スラライがRCにめがけ轟然と火を吹く。
「突進、突撃、電撃、奇襲上等!」
威勢の良い冴城の声が響く。
●挟撃
敵RCの注意を引き付けることに成功した2名。タイミングを見計らうと同時に煙幕を張る。煙幕銃から放たれたスモークが敵味方双方の視界を妨げる。これが合図だった。
イルファ(
gc1067)、皇 千糸(
ga0843)両名以外の残り6機が左右からRCを挟撃するべく展開する。敵視界がきかぬ間に一気に迫る作戦。超伝導アクチュエータを作動させ、敵射程の間合いに飛び込む榊。同じサイドに接近しつつ、ミサイルの弾幕を張るシィル=リンク(
gc0972)と上月機。ブーストで逆サイドに展開する飯島。それにあわせる南と神撫。煙幕でさえぎられた視界が徐々に開ける‥‥。
だが。それはRCにとってもその動きを悟られないチャンスだったようである。その視界を覆っていた煙幕が薄れ、双方視界がクリアになったその瞬間。RCのプロトンバーストは冴城のシュテルンにそのキバを向けたのである。
「冴城機。プロトンバースト。来るわ!!」
その気配をいち早く察知した皇が叫ぶ。ほぼ同時にRC全体を包むような強烈な閃光一閃。
「!!!!!!!」
その声に瞬時に反応する冴城。RCの2門のプロトン砲から放たれた目もくらむそれはシュテルンのモニターを覆いつくす。
(「直撃!!?」)
誰もがそう思った‥‥、だが間一髪。シュテルンはかろうじて直撃を免れる。しかしながらその苛烈な光線は、シュテルンの手にしたスラライ毎、その上腕部を吹き飛ばすには十分だった。
(「主兵装発射不能?!」)
モニターにともる赤い警告ランプ。それはシュテルンの主兵装が使用不能になった事を示すものだった。
だがさらに追撃をかけようとしたRCに殺到する味方後方からの直撃弾。それはイルファと皇が咄嗟に放った後方からの援護射撃。
「隙をなくすのも、私たちの役目‥‥です。いつでもいけます」
シュテルンのスピーカーの向こうから聞こえてくるたのもしいイルファの声。
そしてそれこそこれから始まるKVの猛攻のきっかけにしか過ぎなかったのだ。
●乱戦
しっかりふんばったことにより、一時的にせよその動きを止めたRCに対し、イルファと皇の援護射撃が集中する。本来は対空弾幕用なのだが、その圧倒的な掃射力を誇るイルファのマルコキアスと皇のスラライがRCの主砲に炸裂する。雨あられのごとき弾丸がRCに浴びせられ、猛烈な爆発音と共に、RCの主砲が破壊される。そんなRCへの砲火の最中も常にタロスへの警戒をおこたらない皇とイルファ。
やはり主砲に狙いをつけた榊。相手の火砲をつぶすべく弾幕を張る。
「‥‥体色変化。緑」
戦闘中であってもそんなRCの体色変化を冷静に伝達する榊。緑、すなわちそれは物理攻撃に対して耐性を持っている状態。よってこの状態なら非物理攻撃が極めて有効になる瞬間でもある。
それを確認するや、高分子レーザー砲をRCに叩き込む飯島。さらにその高機動力を生かし、多数のRCにまるで「扇撃ち」のように全方位射撃を試みる。その赤い「悪魔」からまるでシャワーのようにふりそそぐ弾幕。それは狙われたすべてのRCに確実にヒット。緑に体色を変化させたRCはたちどころに火を噴き、その主砲は白煙を上げる。くるしまぎれなのか、近接するKVに噛み付き攻撃をこころみるが、そのモーションの大きい攻撃はたちどころに見切られ、かわされる。
そんな飯島の乱射により撹乱され、隊列が乱れたRC。囮の大役を果たした漸機がそこを狙う。
「アンラ・マンユ‥‥。参る」
体色を緑から赤へと変化させつつあったRCに主兵装でまさに穿つような攻撃。首の付け根のあたりに食い込むような攻撃。
「グギャアアアアアアアアアア」
あえて表現すればこうか。その恐竜は断末魔とも思えるまさに「鳴き声」のようにも聞こえる咆哮を上げるとおおきくその巨体をゆらし、前のめりに崩折れていく。
緒戦、不用意にも大きなダメージを負った冴城だが、その戦意は一向に衰える気配が見えない。吹き飛ばされた腕を気にする風もなく、残った腕でガンランスを振るう。
(「以外と精巧ね」)
目の前でキバを向き、爪を振るわんとするRCを前にして冷静にその特徴を見やる余裕。噛み付きを余裕でかわすと、その首根っこを踏みつけ巨体ごと押し倒すや、プロトン砲ごと根こそぎもぎ取る。
そんな彼女の視界の端に神撫機。まさにその「雪村」のすさまじい一撃をRCにお見舞いしようとするところ。そんな彼の視界のはるか先にチラチラと具間見えるタロス。気にならないことはないが、まずは目の前のRCに専念。
「こいつを耐えられるかな?」
一刀両断の袈裟斬り状態でそれを振り下ろす。膨大な錬力に裏打ちされたそれはRCの首を数mは斬り飛ばしたろうか? 直後まさに仁王立ちするそのおおきく翼を広げたような形の機影は、「悪魔」を屠る「天使」のようですらあった。
かたや。反対側から挟撃を仕掛けたシィル機。パラディンの接近戦でのその苛烈な攻撃力と突進力はこういった混戦の場面でいっそう引き立つ。相手の体色にあわせた臨機応変な対応。狙われても直撃だけはさせず、相手の足元を狙いバランスを崩し、その狙いをはずさせる。相手に踏ん張らせなければプロトンバーストはない。冴城が受けた一撃によって、その対策を即座に見出す彼ら。
「こいつはどうかしら?」
イルファや皇の援護により、その主砲が機能を喪失した赤いRCの胴体にレッグドリルを食いこませながら呟く上月。
煙幕が効いている間に、一気に接近した南のヘルヘブン。だがいざRCに直面して、その攻撃力を知ることとなる。
機動力が武器のヘルヘブン。その小型高速性を発揮した突撃戦法がいわば「売り」なのだが、こういったRCのような巨大な敵との接近戦ではいかんせん非力さが目に付く。ましてや相手も機動力のある相手。しかもRC戦は始めての彼。だがその戦いぶりは決して臆するところなどなかったのだが。
飯島の高分子レーザーの攻撃で赤くなったRCに狙いをつける。だが高速2輪モードでの攻撃は、直線的な動きにならざるを得ず、その分相手の攻撃をかわすのが困難になる。狙われたら回避がしがたいのだ。そのため思わぬダメージを受ける戦いになり、彼の想像以上に苦戦することになる。
そんな彼の苦戦を後方から見て取った皇とシィル。RCの足元を狙いその動きを阻害する。だが蓄積したダメージはいかんともしがたく。その片輪に深刻なダメージを負い、戦線を離脱せざるを得なくなったのは戦いがほぼ終わりかけたころであった。
●対峙
(「ほお。これはなかなかに」)
KVとRCとの戦いをはるか後方で見守っていた2機のタロス。アルザークは自分の予想以上に傭兵達の手際が良かったことに、あらためて人間の実力の程を理解したようでもあった。
「なるほど。たしかにこれは俺様を楽しませてくれる相手のようだな」
もう観戦は十分だ、と感じたアルザークが立ち去ろうとした時、オープンチャンネル通信だろう。人間の声がタロスの内部に響き渡った。
「あらら、高みの見物というわけ」
それはRC戦を終えた皇、の声。その声はどこか挑発的にさえ聞こえた。あわよくばタロスに一太刀加えたい、という気持ちがその言葉に見え隠れする。
するとそれをさえぎるかのようにさらに別の声が。
「汝が金色のパイロットか? どうやら戦闘する気はないようだが」
それは漸の声。タロスに手を出そうとした仲間を制し、自ら話しかける。
「地球では、武士はまず自己紹介をするのが礼儀なんだが‥‥。覚えておいてくれ」
さらに別の声。それは神撫のもの。
「そなたたちの目的はいかに?」
4人目の声は飯島。
「目的か? ‥‥まあこの星の言い方をすれば『観察』とでもいえばよいのか?」
アルザークはゆがんだ笑顔をつくりつつ答える。
その口調にある種の戦慄すら覚える不気味さを感じさせられた傭兵達。こいつはただのヨリシロバグアなんかじゃないと誰もが心に焼き付ける。
「まず名乗りなさいよ」
と皇。が、それを制したのは神撫。
「おっと。まずはこちらから名乗るのが礼儀かな。『神撫』という。覚えておいてくれ」
「我は漸。漸 王零だ。」
そう名乗った2名の傭兵の顔が大写しにタロスのスクリーンに映る。
「私は冴城。冴城アスカ。覚えておいていただけると光栄ね」
冴城も名乗る。
「なるほど。この星ではまず名乗るのが礼儀なのだな。俺は『アルザーク』。『ゼオン・ジハイド』と貴様らが呼んでいる集団のひとりだ。」
その口元がかすかにゆがむ。
「なるほど。汝がそのひとりというわけか。」
漸が反応する。『ゼオン・ジハイド』、という言葉に非常に興味と感心を示す。
「貴様らの戦い方はここでじっくりと拝見させてもらった」
ゆっくりと機体を浮かしながら告げるアルザーク。武器のない方の腕を伸ばすとKVを指差すようにゆっくりと動かす。
「特に貴様たち‥‥」
その指先は、飯島、榊、漸、そして神撫らに向けられた。
「貴様たちはどうやらこの俺を満足させてくれそうだ。」
2機のタロスは次第に高度を上げていく。
「今日は引き上げるが、いずれ戦場で会う日もあるだろう。そのときはこちらも楽しませてもらうことにする」
最後の言葉は異様な笑い声と共にかき消された。
「!!」
思わず狙いをつけるシィル。だがすでにそれが無理なことは明白であった。
「次を楽しみにしている。ゼオン・ジハイドよ」
漸の言葉がKVの皆に伝わった。それは新たな因縁の予感にすら感じられた。
了