●リプレイ本文
●思惑
「余に無断であのようなバケモノを生み出すとは、実にけしからん」
ここになにやらえらくご立腹のご様子と見受けられる一人の王様が。
だがよく見ればこの王様。王冠をかぶってこそはいるが、その羽織っているマントにはご丁寧にも王冠をかぶったコミカルな「カエル」が描かれ、その手には身の丈はあろうかと思われる杖がにぎられているが、その杖の先にはこれまたご丁寧にカエルの顔がつけられている。
このあまりにも奇妙、としかいいようのないいでたちで、しかもなにやらカエルと深い因縁でも持ち合わせているかのようなこのお方。実は立派な傭兵であったとしたら‥‥‥。
その名は澄野・絣(
gb3855)。今回の依頼の参加者の一人である。しかしながら、王様ともあろうお方が従者も連れず自ら蛙討伐に参加とくれば、いかにお怒りであるかがわかろうかというもの。
だが今回。まったく違う目的と興味で参加した傭兵も。MIDOH(
ga0151)、そして湊 獅子鷹(
gc0233)である。してその目的は、ズバリ「キメラを食う」なのだ。
そもそも今回のキメラ。キメラではあるがその容姿は食用ガエルを元にしている。ならば、「食える」と確信し、その味を知る両名にとっては今回はまたとない、「試食」「味見」のチャンスなのである。無事退治した暁にはそのグルメな胃袋にキメラは収まるのであろう。
が。そんな傭兵ばかりではない。蛙、と聞いただけで「びびる」「怖がる」「近寄らず」な心境の傭兵も何故か混じっていたりする。名はファタ・モルガナ(
gc0598)。ならば何故参加したのかはあえて問うまい。だが、
「あの姿に虫唾が走るだけだ、絶対に側によこさないでくれ」
と狙撃銃を抱え、すでに膝がガタガタと笑っている彼女。武者震いだと言い訳しても、そのおびえ方はあまりにもあからさまである。もし今回キメラがその「張り付き」なる行動をもって彼女に襲い掛かろうとでもすれば‥‥間違いなく気絶必須である。それだけはなんとしても阻止しなければならない。
かくしてあんなこんな思惑が錯綜する中、なんとも見た目が気色悪いキメラ退治が始まろうとしていた。
●接近
100dbはあろうかというその大音量な鳴き声は、はるか遠くにいても空気を震わせここまで伝わってくる。
そこはまだ、農地まではそれなりの距離のある場所。
「卒倒するほどの蛙とはいかほどのもの?」
手にした双眼鏡を眼にあて、その姿を遠望しようと試みるクロスエリア(
gb0356)。改めてその位置を確認してみる。
「はんまでかい蛙やなあ」
とクロスエリアから双眼鏡を借り、その姿をしげしげと眺める鳳(
gb3210)。この距離にしてすでに双眼鏡のスコープ一杯である。さらに近寄ればその大きさがなお一層実感できるのだろう、と思う。
ここで参加者全員が用意した耳栓を着用。なにせその声は立派な「音波兵器」である。遠方から備えておくに越したことはない、という考えからか。だが耳栓をすることによって、お互い声を掛け合っての意志疎通が不可能になる。そこで事前に簡単なハンドサインを取り決める。「前進」、「援護」、「撤退」など、わかりやすく単純なものを。
「行くぞ相棒」
耳栓をつけつつ、紅蓮(
gb9407)に声をかける紅鬼 レイム(
gb8839)。今度は蛙か‥‥。そんな思いは心の隅に封じ込める。
まず集団で問題の農地へと向かう。キメラの姿が大きくなればなるほどその醜悪さがいっそう迫ってくる。
確かにグロテスクだが、見た目がグロな生き物ほど実は以外と美味だったりすることも多い。
特に中央部にドッシリと構えているのはボスと思しき他のキメラより一回り以上も大きい代物。耳栓が効果を発揮しているからよくわからないが、その喉が膨れたりへこんだりしているのは確かに大声を発しているからであろう。もし耳栓がなければと思うとゾッとする光景である。
全員が一塊になっているうちに拡張練成強化を使用する紅蓮。30秒程しか持たないのだが、このあと2手に分かれるので、今のうちでなければ使用しても効果が薄いと考えたからだろう。
「‥‥‥」
黙々と強化する紅蓮。無愛想だが、特定の人間以外との交流が苦手なだけである。
強化終了を待って急ぎ農地へと侵入する。東西方向の用水路を渡ると南と北に分かれる。両方から囲い込みを図る。蛙キメラは全部で7匹。ボスはひときわ大きいがそれ以外は2m程、とりあえず1vs1でも対峙できない大きさではないが、集団でこられる可能性も考慮し、4名づつに別れ、ボスはあと回しにする。その為ボスとそれ以外を引き離すことを優先する。
こちらの接近が気になったのか、2mクラスの6匹がピョン、と飛び上がると、2班それぞれの方向へ近づいていく。ひと飛び約5mほど。3〜4回ほどはねると、農地に踏み込んだ傭兵達ともうほとんど眼と鼻の先程度の距離になる。
●開戦
前衛を援護しつつキメラの眼を狙うクロスエリア。その手にした小銃の銃口が光る。が、
「はずれた?!」
予想以上に素早い蛙の動き。こちらの気配を感じたのか、ピョン、と軽く跳ね上がりこの攻撃をかわす。
「ほお、思った以上に速いな。だが、これはどうだ?」
紅鬼の攻撃。初撃がかわされたことで、かえってキメラの素早さを推し量るよい材料にでもなったか、正面からその頭を突き刺す。それはキメラの柔らかい皮膚に衝撃が吸収されこそしたものの確実な手ごたえ。
「‥‥‥」
クリムゾンローズで相手の弱点を探しつつ、時には知覚攻撃も織り交ぜ、その有効性を検証しつつ仕掛ける紅蓮。その中の一撃がキメラの喉に命中。おおきくのけぞり2mほど弾き飛ばされるキメラ。
「なるほど。ここが弱点か」
蛙の喉。どうやら皮膚の他の場所に比べここがもっとダメージを通しやすい場所のようだ。ハンドサインでそれを知らせる紅蓮。うなずくクロスエリアと鳳。
「こっち、こっち」
AU‐KVの機動力でキメラを翻弄しようと試みる鳳。そしてできたスキを見て、後足に狙いをつける。後足を切断すれば飛べなくなるからである。
「うわ。」
5枚の舌がクロスエリアに襲い掛かる。あわてて2連射で舌を打ち抜く。だが、残ったそれが彼女の体に巻きつく。
「この、この!!!」
なんとか残りも打ち抜いて脱出。舌を切断され、思わず後退するキメラ。
「く!!!」
5枚の舌が、ムチのようにしなり紅蓮の体を襲う。横なぎに飛ばされる紅蓮。そこへ絡みつくような5枚の舌の攻撃。それにいち早く反応したのが紅鬼。とっさにその舌の1枚に紅月を突き刺し、自身の体ごとキメラの口元まで巻き取らせる。
「くらえ!!」
口元ぎりぎりまで巻き込まれたところで、壱式をその喉めがけ突き刺す。飛び散る血しぶき。返り血を浴びつつもそのまま剣を抜く紅鬼。急に舌の絞めつけが弱くなり、見ればキメラはそのまま後方へゆっくりと仰向けにひっくり返る。
「すまん。助かった」
とハンドサインをかわす紅蓮と紅鬼。
相手の弱点が「喉」と知った、鳳とクロスエリア。クロスエリアが援護する形で鳳がキメラの喉元に攻撃を仕掛ける。
バシィイイイイイイ
と銃弾が喉元に命中し、傷口から血しぶきを上げつつもんどりうつキメラ。あたりに死臭が立ちこめはじめ、流れ出した血が農地を濡らす。ちょうど仰向けになったような形でその場で動かなくなるキメラ。
●一撃
「我が眷属の名を汚すようなバケモノは断じてゆるさん」
「カエルの王様」は、ピョン、ピョン、と近づいてきたキメラを一喝すると、杖の先を向ける。その先端にあるカエルの顔はどこかおとぼけ風で可愛いが。
「脚は残しといてくれよ〜〜」
そんな彼女に声、いやハンドサインで呼びかける湊。
(「引き締まってって、こりゃおいしそうだ」)
だが王様は食べる、というような行為はなさらないので、そんな要望を聞き流しつつもその手にした杖で殴る、殴る。さらには、見た目は本のような形の超機械でも殴る、殴る。何故か知覚攻撃になるというこの珍妙な本の攻撃。極めて単純だがキメラには効果あるダメージとして残る。
こちらも狙うはジャンプ阻止のための後ろ足。MIDOHはその定めた狙いにスピアを突き立てる。だがすんでのところでかわされる。
(「脚は狙っちゃ、ダメだって」)
とあくまで無傷での脚確保を優先したい湊。槍で頭をつつき、そして振り下ろす。射線に入らないように注意しつつの攻撃。
「こいつ!!」
渾身の一撃をヒットさせる湊。キメラはもんどりうって、仰向けにひっくり返る。するとそこはキメラとはいえ、元はカエルである。一度仰向けになると簡単には元の姿勢に戻れないらしい。2mの巨体を無様に仰向けにしたまま、まさに解剖前のカエル状態である。その腹にトドメをさしつつ、
(「へへ。こりゃいいや」)
とばかり早速、その引き締まった脚を食すべく切断する湊。
「終わったら試食に便乗する」
とその光景を眺めていたMIDOHが、そんな意思表示に見えるハンドサインを示す。うなずく湊。
こうやって前線に躍り出た3名の傭兵ががんばっている中‥‥。
●及び腰
「さ、さっさと、早く、片付ける! いや、片付けよう」
口調は威勢がいいのだが、完全にへっぴり腰のファタ。農地の南端の畦道の上から、狙撃銃片手にしてはいるものの、半ば手は震えつつこわごわの援護射撃である。もう少し接近すればそれなりに命中、威力とも増そうかというところなのだが、そうはいかないのである。これ以上接近しようにも脚が動かないのだ。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
仲間の戦闘中は、どこかの狙撃兵のように念仏を唱え始める有様。
「怖くない、怖くない、怖くない‥‥」
それでもどうにかこうにか狙撃によって多少ではあっても貢献してはいたのだが。
ピョン、
どうやら1匹のキメラが彼女に気がついたのか、何か興味ありそうに近づいてくる。それはまるで子供がおもちゃに興味を示すようにすら見えた。
ピョン、
さらにひと飛び。そしてそのカエル眼でジッと彼女の方を見つめたのだ。口をかすかにあけ、そこからは涎のようなものが地面にたれていた。
「こっち来んなこっち見るなこっち来んなこっち見るなっ!」
その姿に気が付いたファタ。すでにパニック状態に陥っているようである。すると、そんな彼女がおいしい『獲物』にでも見えたのか、さらに飛び上がろうとする構えを見せるカエル1匹
「ぎゃ〜〜〜。来ないで〜〜〜!」
その声。当然耳栓をしている仲間たちには聞こえないはずなのだが、その声と同時に無意識の内に行った派手なオーバーアクションが、仲間の傭兵の目に留まった。
(「ありゃ。」)
咄嗟に動いたのが湊。そのキメラの行く手に立ちふさがる。ヘタに張り付かれでもすれば、ほぼ100%失神されかねないからだ。
「おいおい、相手はこっちだよ」
叫びながら持っていた武器でキメラの頭を突く。2回、3回‥‥。それがクリティカルを呼んだのか、キメラはゆっくりと仰向けに音を立ててひっくり返った。とどめはやはり脚を傷つけないように腹を狙う。
戦い終えて大きく息を吐き、横目でチラリとファタの方に眼をやると、どうやら腰を抜かしたのかも知れない。その場にへたり込んで、呆然としている姿があった。
●ボス
今まで、農地のほぼ中央にじっとしていたボス。2mサイズのキメラがすべて片付けられた頃になって、やっとこさ動きだす。巨体の割には敏捷な動きで、ピョン、ひと飛びする。
その頃には傭兵達は、キメラの残骸を踏み越えてボスの方へ向かっていた。前に5人、中衛に2名。そしてやはりズッと後ろにファタ、のはずなのだが、まだ腰を抜かしているのか立ち上がった気配が見えない。
身の丈およそ4mはあろうかという、車1台分のようなボス。これに飛びつかれればカエルに耐性のある傭兵でも無事ではすまないかも知れない。
MIDOH、鳳、紅鬼、湊、澄野の5名が前になって進む。澄野の姿は従者を引きつれボスキャラに向かうどこぞの王様、のようである。
しゅるるるるるる〜〜〜
5枚の舌をフルに伸ばしたり引っ込めたりして威嚇するボスキメラ。その顔は先ほどの子分?キメラとは比較にならないほど醜悪である。
(「グロイほど美味しいものが多いというし」)
と早くも戦闘後の試食が待ち通しそうな鳳である。
「次は貴様か」
紅月を斜に構え、ボス蛙をじっと見守る紅鬼。その迫力に圧倒されたのか、飛び掛る構えを見せつつも睨み合う蛙。
「紅光飛刃‥‥!!!」
言うが速いか、彼の体からソニックブームの衝撃波がボスキメラに向かって浴びせられる。その巨体が揺らぐ。
それが合図だったかのように、一斉に集中攻撃を浴びせる傭兵。いかな相手が4mはあろうかという巨体であっても7名の覚醒した傭兵のスキルを乗じた攻撃に耐えられるわけもなく‥‥‥
ウオオオオオオオオオオン
まるで蛙の鳴き声とは思えないような声とも付かない声を発して、まるで溶解するようにゆっくりと全体が崩れていくボスキメラ。それはあまりにあっけない幕切れ。動かなくなった巨大な肉の塊がそこに転がっているだけだった。
「終わりだ」
紅鬼が静かにつぶやく。
「こりゃ、今までの中でもっともうまそうだ。」
耳栓をはずす湊。すでにそこにはさっきまでの鳴き声はウソのような静寂さが広がっているのであった。そそくさと何人前はあろうかという脚を解体する。
●試食
「か〜〜。うめえ。カレーなら最高だな」
味見、と言う名目で早速蛙キメラのもっともうまいであろう後脚を食する湊。まだまだ大量に確保してあるのは、持って帰るためだろうと思われる。
「これ? ‥‥あ〜〜。やらないやらない」
などと騒ぎ立てるも、内心はそのうまさにどっぷり浸っているのだ。
「こいつは中華料理の食材でもあるしな」
とMIDOH。枯れ草にライターで火をおこし、細かく解体したそれを串刺しにして焼いて試食する。確かにグロイ物ほど美味しいというのはこれに関しては真実だったようだ。ただいかんせん淡白すぎて、塩味がほしかったらしいが。
そんな湊たちをあきれ返ったような表情で見つめる紅鬼。彼にはこの手の物を食らう嗜好はないようである。
すると、そんな傭兵達の耳に突如響きわたる絶叫が。それは確かにさっきまで腰を抜かしていたであろうファタの声。
「に、二度と、こんなところへ来るか、アホ〜〜〜〜〜。バカ〜〜〜」
泣きべそをかきつつ脱兎の如くひとりその場から逃走を図るファタの後ろ姿がその視界に入ったのである。
どうやらすべてが終わってからようやく立ち直ったようだ。その姿はあっという間に小さくなっていった。そんな姿を横目に、早くシャワーを浴びてさっぱりしたいと素直に思うクロスエリアであった。
その後しばらく、「カエル」という3文字はファタの前では絶対禁句だったそうな。
了