タイトル:【BV】レニお見合いすマスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/02/16 07:30

●オープニング本文


※これらの依頼は、依頼主の依頼を文字通りに成功しない方がULTの評価が高まる場合があります。

「‥‥あれ? これ、いいのかな」
 依頼の情報に目を通した受付担当は、首を傾げた。普段ならばULTの依頼掲示板に来る前にはねられるレベルの妙な依頼に思えたのだ。しかも、これが唯一と言う訳ではない。そして、問題になるかどうかのライン引きは慎重に行われている気配があった。明らかに作為を感じる動きだ。
「どうしたんだろう。何か上で起きて‥‥あ、こんにちは。申し込みはこの任務ですね?」
 職員は内心で首を傾げつつ、今日も笑顔で職務を遂行するのであった。

☆☆☆☆☆
「え〜〜〜〜。お見合い? お見合いって、あの殿方と御同席していろいろプロフィールだとか趣味だとか好きな食べ物だとか1体1でお話する、未婚の男女のある種の神聖なイベント?」
 とレニファー・ドレイク(gz0256)。妙にカマトトぶっている気がしないでもないし、多少間違った知識が入っている向きもあるが、まあ大方その通りではある。

 だが今回は少しばかり事情がありそうである。というのも、その話を持ち込んできたのが、他ならぬ兄のラフィン・ドレイク(gz0257)であるからだ。そんな兄が語る。
「実はなレニ。ここだけの話なんだが」
 と兄がこっそり打ち明けたその秘密の内容とは、

 御存知の通り、UPC軍の情報士官である兄ラフィン・ドレイク。その彼が勤務中に居住している兵舎の私室に尋ねてきたのが、ラルの入隊当時の上官であり、現在はある事情により閑職で暇をもてあまし気味のさる大佐殿。たまたま公務で情報部を尋ねた折、かつての部下でもあったラルの部屋へ訪れた、というわけである。

 だいたい兵舎の私室というものは殺風景なものである。もちろんラルは士官なので個室なのだが、とはいってもいかにもそれっぽい雰囲気で、個人のきらびやかな内装の部屋とは見比べるすべも無い。まあ、ここに滞在するのは勤務ローテーション中の休憩時間とかにすぎないからそれでもいいのではあるが。

「そういえば、君にはレニファーという妹さんがいたね」
 とその大佐殿。ラルの机の上に、レニと2人で写った写真がはいったコースターがおいてあったからである。
「はい。今はULTのオペレーターをやってます」
 と普通に対応するラル。
「うむ。それは知っている。」
 レニ、意外と軍部でも知名度があるのである。オペレーターの割には、といっては失礼か。逆にオペレーターだからこそか。何せULTへの依頼の最初の窓口はオペレーターだからである。

 とそこまで話すと、この大佐殿、急に真顔になりラルの方を向き直り、小声でこう言った。

「ところで、お見合いをしてもらえんかな? ‥‥相手? 私の息子だよ」

 聞けば、この大佐殿。すでに30歳も半ばになる息子がおられるらしいのだが、なぜかこの息子、これまで『異性』というか『女性』とのご縁がなく、何回かお見合いやそれに類する類を行わせてはいるのだが、何故かうまくいかないのだという。まあ、ここまではよくある話。
 でこの息子様。以前ULTとのあるプライベートパーティーに出席したことがあるのだが、その際たまたま同席したラルとレニにも大佐自ら紹介し、あいさつをさせているのだ。そこまでも極普通にある話。

「で? そのバ‥‥いや御子息様が、レニを気に入ってしまったと?」
 馬鹿息子‥‥というのを必死に飲み込んで体裁を繕うラル。やれやれ、と内心思うのだが、相手がかつての上官様である。邪険に断るわけにもいかない。
「うむ。なんでも、『僕の理想のお嫁さんタイプなの』といいおってな。」
 と俄かに相好を崩す。
「はあ。わかりました。なら、一応レニに確認してみましょう」
 とその場をなんとか取り繕う。とさらにそれに追い討ちをかけるセリフが大佐殿から。

「ちなみに、今まで何が気に入らなかったのか、見合いの話が壊れてしまっていたうちの息子が、今回私にこういうのだよ。『パパ。今度こそ絶対うまく成功させてみせるよ。うん。きっと』とな。ガハハハ」

 『パパ』というセリフを聞いてあやうく、その場に持っていた小銃の引き金を大佐に向け引きそうになったラル。いやいや、相手が違うぞ。狙うなら‥‥と思いとどまる。まあ、今までこの息子が見合いに失敗した理由はわからないでもないのだが。
「というわけなので、すまないが会ううだけでも会ってもらえないだろうか? まあ、あとは2人に任せればすむことだし」
 自分のいっていることがどう相手に伝わっているか知っているのか知らないのかはたまた無関心なのか、前以上に顔を接近させ小声で語る大佐。だからあなたは、とあやうく口に出すところだったラル。
「は、い。了解しました。お見合いの席に参加させるように説得します」
 と感情を一切表さず機械的に対応するラル。
「いや〜〜。助かるよ。何せ自分で言うのもなんだがあんな息子でも、根は実に優しい純朴な息子でな」
 と親馬鹿ぶりを発揮する大佐殿。はあ、純朴‥‥。

 かくして大佐殿が部屋から退出された後、軽い眩暈と動悸を覚えるラル。

「え〜〜〜。なんでそうなるの!?」
 と大声で叫びつつも、他ならぬ兄の依頼、しかも相手が相手とあっては邪険に扱うわけにも行かず。さんざん悩んだ挙句。
「まあ、選ぶのはお互いの自由だから、何もお見合い即ゴール、とかいうわけでもないし」
 としぶしぶながら首を縦に振るレニ。となにやら1枚の紙切れとそれにはさまれた写真を手渡すラル。

「これがその馬鹿‥‥いや御子息様の写真とプロフィールだ。心して見てくれ」
となにやら念を押すように伝える。

兄からその写真とプロフィールを手渡された彼女。それをちらりと一瞥した次の瞬間‥‥。
「えええええええええ!!!!」

☆☆☆☆
 その後2日ほどの間、原因不明の頭痛に悩まされたレニであった。そして兄のラルはといえば、
「‥‥辞表書こう」
 となにやらしたためはじめる始末。

 先方指定の日は今日から3日後。場所は先方からの願いでとある静かな湖畔の別荘で行われることになった。
 同席するのは、例の大佐殿とラル。もちろん当人たちも。
「パパ、僕今度こそがんばるからね」
 とこの息子は父親に告げたらしい。

●参加者一覧

黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
二条 更紗(gb1862
17歳・♀・HD
ジェーン・ドゥ(gb8754
24歳・♀・SN
ジョゼット・レヴィナス(gb9207
23歳・♀・EL
フロスヒルデ(gc0528
18歳・♀・GP
ファング・ブレイク(gc0590
23歳・♂・DG
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
ルナティ(gc0685
18歳・♀・DG

●リプレイ本文

●お見合い阻止作戦発動
 レニファー・ドレイク(gz0256)のお見合い相手。三十路にして独身、見合い失敗歴多数。もちろんそんな男と結婚どころか付き合う気持ちもさらさらないレニ。ただ兄であるラフィン・ドレイク(gz0257)の立場を考え、やむなく承諾したのだが。
 とはいうものの最初に兄に写真を見せられたときは思わず大声で動揺してしまったレニ。それもそのはず、その見合い相手、『イケメン』、しかも『長身』、あまつさえ『セレブ』である。ただでさえ惚れっぽい傾向のあるレニ。だがその写真の隅に兄の字で小さく書かれていた一言で目覚める。
(ファザコン)、こんな殿方こそレニがもっとも嫌いなタイプ。ならば断固として阻止しなければならない。

 こうしてお見合い前日。某所に集まり、怪しげに密談する傭兵とレニ、そしてラル。話題は当然『いかにしてぶちこわ‥‥いや破談にするか』といういわば作戦会議。
 相手がダメ属性持ちということはあっても、そこはそれ。兄の立場を壊さないように、このBAKA息子に自ら諦めさせるのが最善と考える。

 顔を寄せ合いひそひそ話中の面々。当事者のレニと親代わりのラルの他は、なにやらあんなこんな策略を胸に秘めた二条 更紗(gb1862)、ジェーン・ドゥ(gb8754)、そして無理やり片棒を担がされるハメになった、黒川丈一朗(ga0776)。更紗とジェーンは過去何回かレニの依頼で同行しており、今回も一肌脱ごうというのだ。そして黒川は、今回無理やり『ある立場』に置かされることに。
 だが当事者のレニ。黒川がそばにいたせいか、普段あまり見ないような表情である。
「うまく立ち回ることが肝心ですね。ましてや相手があの年で『ダメ属性持ち』ですから、これを利用しない手はありませんね」
 秘策?を胸に更紗はその無い胸を張る。そしてこっそりレニにこう耳打ちする。
「女たるもの、男一人や二人手玉に取る位が丁度良いのです」
 と告げる。その眼はやる気まんまんの様子。

 そしてジェーン。こちらも一騒ぎ起こそうと考える。内心、「YURI」の罪滅ぼしもかねているのだが、それはレニには内緒。今回黒川を同席させたのも、ジェーンのアイデアである。

「黒川氏。あなたには今回レニの『フィアンセ』になっていただきます」
 と黒川に事前に伝えてあったのだ。さすがに最初はその一言に動揺した黒川。だが依頼の成功のため、というもっともらしい理由で婚約者にされることになる黒川。
 そのことがちょっとびっくりし、かつどこかうれしそうなレニ。
「レニ、お前がイヤで、なければ、だぞ。と、と、とりあえずだからな‥‥」
 動揺が顔に現れる黒川。むろんレニがイヤ、と言うはずもなく。かくして、『偽』の婚約者同士の誕生である。
 兄ラフィンもこの提案に、ひょっとして妙案かもと一人納得している様子。そしてある事を思い出していた。

 さらにジェーンが取り出したのが、とあるゴシップ系雑誌の最新号のゲラ刷り原稿らしきもの。それは今度発売予定のこの雑誌のいわば「スクープ」をとりあげたものである。そこに書かれていた内容とは‥‥
 その時。
「そういえばコレを忘れていたわ」
 と二条がその懐から取り出したのは、録音済み『ボイスレコーダー』。中身は一体?

●妹を思う気持ちは
 時間を少し巻き戻そう。それはお見合い3日前。つまりこの依頼が出された直後である。
 兄であるラルは、ある場所で今回の参加者の一人である、ファング・ブレイク(gc0590)と話す機会を得た。
「あんたの妹を思う気持ちはよくわかる。だれだっていやな虫をつけたくはないからな」
 口調こそ多少は卑屈だが、その語る内容は非常に熱いものが。かつて自分にも弟妹がいた。それがキメラによってその命を絶たれたことによって、一時は狂人と化したファング。そんな彼だからこそ、多少なりとも過去に同じような経歴を持つであろう、ラルやレニの気持ちがわかろうかというもの。
 ‥‥それはいかほどの時間か。妹について自ら暴走気味に熱く語るファング。それは決して単に『依頼』という枠組みを超えた何かを、ラルに伝えようとしているかのよう。熱い。その思いは確かにラルに伝わったようだ。だからこそ‥‥、

(「絶対に破談にしてやる」)
 と誓うラル。彼自身決して『シスコン』では無いのだが、今回に限ってはそう思われても構わないと思う。
 
 そんな事をふと思いだし、ひとりおかしく思うラルであった。
 そして同じ頃。別のところでは、更なる『陰謀』という名の『作戦』が静かに蠢いていたのである。

●偽ゴシップ
 同じ頃の某所。
「黒川さんに、ここは甲斐性を見せてもらいましょう」
 ジョゼット・レヴィナス(gb9207)はそう思う。そして密かに陰謀を決行する。
 まず聞き出したのが、例の「クイーンズ」のお騒がせ記者、マリの電話番号。そしてマリに電話するジョゼット。その内容とは‥‥。

「例の依頼で有名になったULTのレニファーさんのゴシップ記事をそちらの雑誌に載せてもらえませんか?」
 それは、『レニに婚約者がいた』という内容。むろんそんなゴシップなどあるわけもなく、これは黒川との偽婚約のゴシップ、つまり『偽ゴシップ』情報なのである。
 これこそジェーンが考えた、名づけて、『偽ゴシップリーク作戦』である。
 すなわちこうだ。過去のクイーンズ絡みの依頼などで知名度の上がった傭兵、そしてレニ。その知名度を利用して偽ゴシップをマスコミ、特に芸能雑誌にリークし、それを雑誌にのせることによって先方の印象を悪くしようという、なんとも大掛かりな作戦。
『今は忙しくて結婚どころではない、それにすでに婚約者が』
 というガセネタを雑誌にリークして、相手方にそれが真実であると思わせようとする作戦なのだ。その作戦のためにこうして動いているのがジョゼットなのである。
 だが、「クイーンズ」自体はゴシップ記事はほとんど扱わない。そのことをつげるマリ。しかし、マリである。『悪巧み』については他の追随を許さないマリ。ジョゼットから事のいきさつを聞くや、むくむくと頭をもたげる『悪巧み』のアイデア。そのアイデアを聞き、喜ぶジョゼット。
 
 そして出来上がったのが、ジェーンの持っていたゲラ刷りなのである。すなわちこの記事原稿、マリが自分自身ででっちあげた偽原稿なのである。しかも実在する芸能関係の雑誌に巧妙に似せている。
 かくして、その偽フィアンセ情報はあたかも事実であるかの如く、傭兵達の目に晒されることになったのだ。

「プルプルプル〜〜〜」 
 それから少し後。大佐の元に一本の電話が。おっとりと電話口に出る大佐。
 すると電話口の向こうで、聞いたことの無い男性の声でこんなことが語られた。
「もしもし。大佐殿? 俺昔、一時アンタの世話になって、今はラフィンとも付き合いのある者なんだが」
 といきなり慇懃な口調。その無礼さに内心多少むっとするも何事か、と告げる大佐。すると電話口の向こうで語られたことは。
「実は、今回息子さんがお見合いされる相手には、すでに『フィアンセ』がいるらしいいんですよ。もっともラフィンこの事実を知らないみたいですがね」
 と妙にあたりをはばかるような声。
 声音も変え、徹底的に匿名を守っているが、この声の正体こそ、他ならぬジャック・ジェリア(gc0672)なのである。そうこの男。今回一芝居打つべく、偽フィアンセの情報で相手に不信感を与えようという作戦にでた。
 さらにこう追い討ちをかける。
「たぶん、見合いには来ると思いますが、無理に進めるとそちらの家名にも傷がつくかもしれませんよ」
 とやんわりと告げる。こうすれば大佐がいろいろレニの身辺調査を始めるだろうから、おのずと過去の履歴が明らかになり、大佐が勝手に動くだろうとの判断からである。

(「人間、いきなり提示された真実は疑ってかかっても、事前に調べた事と一致する嘘は信じ込むもんさ)
 と電話を終え、ニヤリとするジャック。それは大佐の不信感と疑惑を増幅するに十分な効果があったようである。

●BAKA息子を罠にかける
 時間を1日進めて、お見合い2日前。
 フロスヒルデ(gc0528)はセーラー服姿。懐には密かに隠し持った『ボイスレコーダー』。そして内なるもう一人の自分『なっちゃん』と会話。
(あんたにはまだ早そうね)
 『なっちゃん』の声が、【OR】の専用人形を動かし、まるで誰か他人と会話を楽しんでいるかのよう。それは『なっちゃん』の意思によってしゃべる、『なっちゃん』そっくりの人形。

「でもそんなにしたくないの?」
(あんた依頼の内容見たの? こんなのと結婚したい女性なんていないわよ)
「そっか。うわ、男の人面白そうな人だね」
(本当に同情するわ、男ならもっと根性出しなさいってのよ)

 と会話しつつ、向こうから歩いてくる男に狙いを定める。その標的にされたのが今回の見合い相手のBAKA息子である。偶然を装い接近し、わざとぶつかる。その直前、ボイスレコーダーのSWはオン、である。
「あ〜〜。ごめんなさい」
 といいながらわざとらしくにじり寄る。そのポーズに思わずにやけるBAKA息子。こいつ、ファザコンだけじゃなかったのか‥‥。
「あ〜〜。いい人、イケメンだし。」
 と急にギャルモードになり、さも親しげに話しかける。その間もボイスレコーダーは録音中。

 この状況。どうみてもBAKA息子でなくても、無防備になろうかというもの。目の前に女子高生?らしき若き乙女が、いろいろ自分の事を聞いてくる。かなりプライベートな部分まで踏み込まれる。趣味は? 仕事は? 好きなタイプはなどなど。
 こうして一部始終を余すことなく録音したボイスレコーダーは、更紗の手に渡ることになる。それによれば、どうやらこのBAKA息子、レニが自分のタイプであるらしく、すでに自分の中では気持ちを固めているらしいのだ。
 これは何が何でも阻止しなければならない。黒川も譲る気など決してなかったのだ。
 かくして様々な嘘と噂がばら撒かれ、それが一部の人間にはさも信憑性を持っているかのように疑われつつ、お見合いのその日がやってくるのである。

●BAKA息子を待つ
 お見合い当日。2台のAU−KVが物々しく、指定された別荘へ向かう。それに同乗しているのはレニとラル。AU−KVに乗っているのは、ファングとルナティ(gc0685)である。別荘は特に大佐の所有というわけでもないらしく、関係者でなくても誰でも近づける、そこで2人の足代わりになったわけである。
 『偽婚約者』たる黒川は一足先に到着。するとそこへ声がかかる。
「上手く事が運べばいいんですけどね〜〜。迫真の演技期待してますよ」
 とAU−KVにレニを載せたルナティが到着。黒川に微笑みかける。さらにこう告げる。
「え? 私? 私は中年のオジ様が好みで‥‥」
 嘘か本当か両手で頬を押さえつつはにかむ。内心、黒川がこのまま本当に既成事実になってしまえばいいのに、とか応援したりする。
 ファングのAU−KVから降りるラル。するとそこへジャックが足早に駆け寄り、こう伝える
「『自分は知らなかった、妹の幸せを一番にしたい』。これだけは忘れずに言ってくれ。それも繰り返し」
 と声をかけ、ポン、と肩をたたく。

●BAKA息子登場
 まだ先方のBAKA息子はやってこない。わざと時間に遅れると伝えてあるのだ。すでに別荘の中にはジェーンが待機している。ラルの姿を認めるとゆっくりとやってきて、こう伝える
「真実? を直接伝えれば説得力ありますよ」
 と耳打ちする。小さくうなずくラル。そのジェーンの手には例のゲラがしっかり握られていたことはいうまでもない。

「レニファーさん、よろしく〜。えっと、レニお姉ちゃんって呼んでもいい?」
 いきなり声をかけられるレニ。見ればそこにはメイド服姿でたたずむフロスヒルデが。どうやら黒川の専属メイドに化けて、このお見合いに潜入しようと言うのだろうか。一度やってみたかったらしい。
「旦那様〜〜、とこれでいいのかな?」
 黒川を旦那様と呼ぶフロスヒルデ。さすがに旦那様とはバツが悪そうな表情の黒川。
「一度やってみたかったんだよね〜〜」
 おおはしゃぎの様子。だが黒川にメイドは果たして似合うのであろうか?

 やがて。大佐殿とその御子息、つまり三十路のファザコン息子が登場。見ればこのBAKA息子。どこか頼りなく父親の影でこそこそと歩いてくる。絶対に正義の鉄槌が必要かもしれない、と思う傭兵達。
 そんな御一行さまを入り口で迎えるジョゼット。この別荘のお手伝いと思われるように多少可愛く着飾って登場する。これでBAKA息子の興味の対象にでもなれば儲けものなのだが、果たしてこのBAKA息子。そんな彼女のいでたちになにやら関心を示した様子。ここでもありえない別の属性?を露呈する。もはや完膚なきまでに叩きのめしてやらねばなるまい。

●BAKA息子に鉄槌
 かくして見合い開始。電話の件含め、すでに不信感をお持ちの御様子の大佐殿。その為、見合い開始早々から、事の真相について追求がなされることに。当然レニの側には黒川がいるのであるから、当たり前といえば当たり前。BAKA息子は、レニの側に黒川がいるので信じられないと、いった様子。
 そこで爆弾投下。例の「ゲラ」を何気なく大佐の目の前に。当然それは偽なのだが、電話作戦が奏功したか、嘘の裏づけをとり、信じ込んでしまっている様子の大佐。さらに不信感のメーターが上がる。
 そんな危なっかしいやり取りをこっそり庭先まで出てきて覗き込むルナティ。好奇心満点である。
 
 次第に広がる険悪な雰囲気。ジャックの助言どおり知らぬ存ぜぬを決め込むラル。しどろもどろを隠しつつ、フィアンセだと主張する黒川。すでにその時点で父親たる大佐の憤懣はMAXに近づく。
 と、どうだろう。あろうことか、このBAKA息子。部屋の隅にいたフロスヒルデになにやら怪しい目配せを送る。そう、この瞬間。更紗に言い含められた罵詈雑言が炸裂する。それは普段のレニとは思えない。

「傭兵の女を妻に娶ろうかというのに三十路を迎えて尚、その性格で父親をパパと呼ぶ性根が許せません、今の貴方には覚悟も無ければ気概もみえません、はっきり言って今の貴方はお呼びじゃない」
 側にいた黒川も思わずビックリの口調。
(「やっぱり猫かぶってたな」)
 などと内心思いつつ、端から見てもこの男確かにレニの言うとおりである、と納得。

 この一言が鉄槌となり、哀れBAKA息子。内心の憤りを隠せない父親に引きずられるように別荘を後にした。だがこの父親。ラルやレニを責める気もどこかへ失せ。わが息子のあまりの醜態にその気力すら奪われてしまったかのように見えたのは気のせいだろうか?

 こうして無事に見合いは破談となり、依頼は成功を収めた、のだが‥‥。