タイトル:チキンボーイマスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/29 00:41

●オープニング本文


「何〜〜。また体重オーバーだと?」

 と半ば呆れ気味のボクシングジムの会長さん。目の前にいる明らかに太目の体型の男をみて怒鳴る。
 
 この男。名前を「アルド・バジェホ」という。職業は一応プロボクサーのはず‥‥なのだがこの男。どうにここうにも意思が弱いのかはたまたヘタレなのか、肝心の試合の前になると必ずといっていいほど計量の際に体重がオーバーしてくるのだ。
 ボクシングは言うまでもなく階級制である。よって対戦するもの同士の体重規定は非常に厳しい。とくにタイトル戦は厳密そのものである。
 まあ、彼の場合まだそこまでの実力はないのでいいのだが、それでも本来の彼の階級はフェザー級のはずなのだが、この男試合直前の計量の時はほとんどといっていいほどウェートオーバー、まあはっきり言えばウェルター級でもぎりぎりなほどの体重なのである。
 それには理由が。この男とにかくよく食う。まあスポーツ選手ならばそれなりに大食漢は多いだろうが、この男の場合、自分の置かれている状況がわかっていながら食欲の誘惑には勝てず、試合直前の減量中にもかかわらず、トレーナーの目を盗んでは食べる始末。その為に試合直前になって過酷な減量をする羽目に。しかもそれでで成功すればいいのだが、時には計量時点であきらかに体重オーバーになり、トレーナー、セコンド巻き込んでの大騒ぎ展開したりする。
 だが問題はそれだけではない。いざ試合になればこのアルド君。過酷な減量からくるスタミナ不足を露呈し、3Rすぎるとほとんどガス欠状態に。そのため彼の試合はほとんど4R以上は闘えたことがないのである。
 え?なら勝ったことないだろうって?いえいえ。実はこのアルド君。3Rまでの強さはまさに世界ランカー並み。なので、対戦相手によっては3R以内にKOしてしまうことも。
 まあ早い話、4R以上試合が進むと、彼の勝率は限りなく0(ゼロ)になるという、強いのか弱いのかまるでわからない状況になるのである。
 で。普通ならこんなダメボクサー。とっくにリングから姿を消してもいいはずなのだが。彼のジムの会長様。なぜか彼にぞっこんの御様子。でその理由が、
「ヤツは絶対に世界チャンプになれる。かならず大化けする!」
 言い張っているかららしいのだが。
 だがそれは表向き。実際このアルド君の所属するジム、あまりの弱小で選手は彼一人だけ。トレーナーはいるにはいるのだが、それも他のジムとの掛け持ち。それは何故か?いかんせんこのジム、
「お金がない」
 のである。そのため、アルド君のわずか?なファイトマネーでも貴重な収入源。そのためやめさせるにやめさせられないのだ。よって是が非でも試合をさせなければいけない有様。ヘタレなのはアルド君だけではなかったのだ。
 そんなことは100も承知のはずのアルド君だが、当の本人。稼いだファイトマネーはほとんど彼の胃袋に消えているらしいのだ。現に、今日もかなり太目の男がひとりサンドバッグに向かっている。
 そんなアルド君、今回も試合の日が迫ってきた。まあ、どうやって対戦相手を見つけてくるかは謎なのだが。

 かくしてこの軟弱なヘタレボクサーが果たして世界チャンプになれる日は‥‥来る?

●参加者一覧

黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
リネット・ハウンド(ga4637
25歳・♀・BM
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
サヴィーネ=シュルツ(ga7445
17歳・♀・JG
絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
湊 獅子鷹(gc0233
17歳・♂・AA

●リプレイ本文

●見かけは
 ドシ、ドシ、と勢いよくサンドバッグをたたく音、額から流れ落ちる汗。そこには試合直前に、最後の調整に追い込みをかける一人のプロボクサー、『アルド・バジェホ』の姿があるのだが。
「おい、ヤツの今度の試合はフェザー級だよな?」
 とそんな彼を見ていた黒川丈一朗(ga0776)が改めてそばにいたトレーナーに確かめる。そしてそれを確認するや、あきれ返ったようにうんざりした表情を浮かべる。そして昼夜問わず彼の生活に溶け込んでみようと思う。

 それもそのはず。今目の前でサンドバッグをたたいている彼、見た目にもどう見ても太い、のがはっきりわかる。いや多少太いなどというレベルではない。それはボクシングを多少かじったことのある者ならあからさまにわかるほどの太さ‥‥、まあ簡単に言えば、『とんでもない』ほどのオーバーウェートなのである。 
 これがまだ試合まで時間があるというのならまだしも、たった3日前の姿なのだから!
「こいつ。試合から逃げてんじゃねえのか?」
 とかつて自分も同じように四角いジャングルで戦った経験を持つ黒川。そのときのことが昨日のように思い出される。軽い頭痛とめまいが襲う。

 さて。そのころ彼のジムの一室。ジムの会長さんを中心に人だかりができている。周りを取り囲んでいるのはすべてLHの傭兵達。
「これ、傭兵に頼む依頼じゃねえだろ。基本的に」
 と苦笑しつつその場にたたずむ湊 獅子鷹(gc0233)の姿も。だがやるからには勝たしてやりたいのが本音。
「基本的に、キツ〜〜〜〜イ、お仕置き、いや減量が必要ですね」
 と現役の女子プロレスラーであるリネット・ハウンド(ga4637)が意見を述べる。クールだが心は熱い。なんとかしてやりたいことでは同じ。
「試合まであと72時間。まあ『ダイエット』と考えるしかないですね」
 生粋の武道家であり、現在は医者でもある辰巳 空(ga4698)。ドクターとしての観点から、ギリギリまで肉体を追い込むすべをいろいろ試してみるつもりらしい。やりすぎて試合前に肉体を破壊しては元も子もないのであるが。
 そんな辰巳。事前にアルドの試合をビデオで確認し、スタミナ配分に問題があるのでは、と考える。ならば、そういった事を彼の意識に取り入れていくことが必要だと考え、それにそったプログラムを検討する。
 
「嫌われ役の鬼軍曹キャラでいくか」
 とあえて自分から志願するのはサヴィーネ=シュルツ(ga7445)。その怜悧&ナイフのような冷徹な雰囲気を持つ彼女が言うと、リアルな説得力が増大する。怖そう、である。義肢の四肢が余計に迫力を見せている。
「何か叫びながら、ラッシュとかさせられないか?」
 滅多に笑うことのない、孤児だったキリル・シューキン(gb2765)。性格は冷たいが、何かにかける情熱は熱いものがありそうだ。ふと想像する。『ムダムダムダ〜〜〜!!!』とか言いながら相手に猛然とラッシュをかけるアルドの姿を。彼もまた『嫌われる男』を演じる腹積もりらしい。
「では、よろしくお願いします」
 低姿勢だが、見た目が暢気そうな風貌の会長さん。アルドのファイトマネーに頼らざるを得ない苦しい胸のうちは決して見せたくないのだろう。あえてそのことには誰も触れない

 こうして、『ヘタレ』なチキンボクサー、アルド君の『減量大作戦』の行方やいかに。残り3日。
 アルド君の根性が0.5上がった!

●初日からハードに
「こんなもの用意したぜ」
 その日の朝、なにやら錠剤のようなものを仲間に見せる湊。すわ!禁断のドー○ング、かと一同色めき立つが、何のことはない。タダの『利尿剤』である。なにせ3日で10キロ以上の非常識なダイエット、いや減量である。体内にわずかな水分でものこしておきたくないのだ。もちろん万が一の場合である。いざとなればこの分が結果を左右するやも知れない。

 さて。ボクサーの朝はまずは、『ロードワーク』から始まるらしい。そこでそのロードワークに同行するというキリル。ただし普通に一緒についていくわけではない。『隠密潜行』で、こっそりアルドのロードワークを観察するのだという。
 聞けば彼、毎朝のロードワーク中に、どうやらこっそりあるまじき行為、早い話『つまみ食い』に及んでいるのでは、という事をこっそり聞きだしていたのだが。
「いいか、まず言っておくが、私の指示に逆らえば右手の銃がどうなるか、と思え」
 と初日の朝からいきなり不穏な言葉でアルドを驚かす。
 半ばビビリつつも、試合に向けて集中したいアルド君。とりあえず素直にうなずく。そしていつものようにロードワークへ。
 
 『隠密潜行』でその行動を追うキリル。と‥‥15分ほどすると、突如あたりを気にしだすアルド君。周囲の気配を確認するや否や、いきなり横道へ。あわてて彼の後を追うキリル。
 すると、彼。どっから持ち込んだのか、小さな袋に入った『フライドポテト』らしきものをつまみ始めたのだ! それも人目を気にしつつ、こっそりと。
「‥‥」
 その有様を遠目ながら逐一観察したキリル。ニヤリ、とまるで犯罪者の決定的瞬間を捕らえたような表情をする。
 証拠発見、である。これで明日からの楽しみが増えた、というような顔をする。

 さていつもどおり?『つまみ食い』行為付のロードワークを終えたアルド君。ジムに戻るとジムワークを開始しようとパンチボールの前に立つが、いきなり目の前に立ちはだかるサヴィーネ。彼の胸倉にグイ、と迫るや、ほとんど0距離射程で口撃?開始。
「いいか。キサマ。じっくりかわいがってやる! 泣いたり笑ったり出来なくしてやる!」
 といきなりの罵倒。さらに何か、『ピー』でしか表現できない、あんなこんな禁止用語を浴びせる。う〜〜ん。この言葉。確か某映画の某軍曹のようじゃないか!
 あまりのことに一瞬ビビリそうになり、思わず逃げ腰になるアルド。だが、試合まであとわずか。とにかく集中したい彼。あえて素直にうなずく。確かに最低限?のプロとして自覚はあるようだ。

 かくしてアルド君。傭兵達特製の『スペシャルメニュー』の洗礼を浴びることになるのだ。

 「あきれ返るほど単純」
 と黒川が自認するほどの単純なメニューがアルド君を待つ。それは、
 ほおリ投げたピンポン球を上半身だけでかわす。
 腹筋にボールを落とし腹筋を鍛える。
 といった極めて単純なもの。だがコレが効果があるのだとの考え。さらには柱に自転車のチューブを取り付けそれを引っ張ることによる相手のカウンター対策、等を組み込みトレーニングする。
 その合間にリネットがアルドと同伴してのランニング、である。傭兵が同行しているので『不謹慎』な行為に及べないアルド君。ややつらそうではあるが。

 もちろんそれだけではない。医学の専門家辰巳が考案したメニューによりバイクや坂道・水中などを使ってのトレーニングも行う。事前に彼の肉体を検査した結果を元に考案されたものだ。その距離3日で60キロ!。なんとも過酷に思えるが、もともと常識を超えた減量に望んでいる。リスクは覚悟の上だろう。
 だが。そういった過酷なトレーニングを支えるのは食事やアフターケアである。当然減量に影響がでてはいけないし、彼のコンディションも維持しないといけない。その為、辰巳が常に彼のコンディションに注意し、素早く疲労とストレスの提言に勤める。バランスのよい食事の手配と適度な睡眠。
 
 こうして彼がかつてボクサー人生で経験したことのないような?過酷な1日が終わった。だがあと2日。
 アルド君は、スタミナが0.5あがった! 根性が0.5あがった! 顔つきが見た目スリムになった!

●さらに過激な2日目
「おら! 起きろ! (ピー)野郎!」
 といきなりサヴィーネの罵倒でたたき起こされる。時間はまだ5時。普段の彼より1時間も早い。が傭兵は容赦しない。

「相手のパンチはへなちょこだ〜〜。止まった蝿さえ落とせない〜〜」
 などとよくわからない歌?らしきものを歌いながらロードワークに出発。どうやら『鬼軍曹さま』が教えこんだようだ。いつものように早朝のロードワークに出かける。
 だが今日はキリルが公然と同行している。普段は一人なので、これではさすがに『道草』と言うわけにはいかない。事前に『身体検査』までされ、隠し持っていた『不謹慎』なものは没収されたのだ。もちろんサヴィーネの罵倒のおまけつきで。

 戻ればすぐにスパーリングである。相手を務めるのは絶斗(ga9337)。事前に黒川から受けていたアドバイスにそってインファイター対策に重点をおく。だがそれだけでなく、コンビネーションパンチの練習もあわせて行い、ポイントが取れるボクシングをも教え込む。
「ガードを固めろ。フックを封じるんだ」
 と絶斗の激が飛ぶ。うなずくアルド。激しい打ち合いの音。
 だがさすがに。昨日の過酷なメニュー+つまみ食いが封印されたことで、アルド君、少々バテ気味である。だがここで手を緩めては元も子もない。

 わずかなインターバルをはさんで、こんどは湊相手のミット打ち。アルド君のパンチを受ける湊がうれしそうに右、左とミットを打ち抜かせる。
「う、こいつの左。きくじゃねえか」
 アルド君の必殺左ストレートに思わず顔しかめる湊。オーソドックス&インファイターの相手にこの左が当たれば、と思わせるような一撃。当たれば確かにKOも夢じゃない、と考える湊。カウンター対策が万全ならチャンスは十分だろう。

 そして昼。何故か少々多目の昼食がアルドの為に用意される。だがこれもキリルの計略。
「減量中である事を忘れずに。量は自分で決めてくれ」
 と目の前に大いなる誘惑を差し出す。そしてそのまま部屋から素直に退出‥‥するわけもなくこっそりと監視。
 連日のハードなしごきの前に、思わず誘惑に敗れるアルド。ついつい量が‥‥とたちどころに扉が開き、キリルがこう言い放つ。
「よし。そのまま山までランニング。5キロ」
 かくして地獄のランニング開始で。万一の為に辰巳が同行こそするものの、途中で文句でもたれようものなら容赦なくあんなこんな仕打ちが待っているので、仕方なく走る。それは夕食後であっても。すでに暗い中を走らされる始末。
 これにはさすがのアルドも、とうとう音を上げたのか、翌日にはすっかりおとなしくなり、誘惑にも手を出さなくなった。
 こうしてまさにイジメとしか見えないような2日目が終了。だが、この時点ですでにアルドの体重は8キロ近く落ちていたのである。恐るべし‥‥

 アルドは根性が1あがった! スタミナが0.5あがった! 前にもまして精悍になった!

●そして最終日。
 試合前日である。今日は計量があるので、何がなんでも体重を落とさねばならない。その為最終手段を発動することに。まず髪の毛を全部そる。いまさら見てくれなどを言っている余裕はない。もし何か不満を言えば、『鬼軍曹』様のお言葉が彼にお見舞いされるだけである。
 
 丸坊主になり気持ちが整理できたのか、いつになく神妙なアルド。今日は4Rの『模擬戦』を行う予定である。
 相手は絶斗。事前に試合相手のビデオをみて研究したという彼の動きは未経験者にしては軽快。模擬戦といえど4R持ちこたえれば明日の試合のメドが立つ。
「ほらほらほら〜〜〜」
 と周囲から飛び交う叱咤激励の声に、どうにかこうにか素人相手とは言え、4Rを無事に持ちこたえたアルド。
「これなら勝機はあるだろう」
 と絶斗。不恰好ながら形にはなってきたようである。だがまだ『計量』という最大にして最強の壁が立ちはだかっている。飯抜きで、さらにはサウナに入って、しぼり出せるだけの余分な水分やら何やらを搾り出す。すでに過酷な減量で限界に近いアルド。もしこれでだめなら。という傭兵の思い。これ以上は肉体的に追い込めないし、危険と判断する辰巳。そして‥‥

「アルド・バジェホ、126ポンド。計量パス」

 思わず漏れる歓声とため息。お互いに顔を見合わせる傭兵達。地獄とも思える過酷な減量メニューに耐えたアルド。ギリギリではあるがリミットをパスしたのだ。
「これ使わなくてよかったな」
 と利尿剤をその場で捨て去る湊。こうして脅威の『減量』に成功したのだ。

 アルドはテクニックが1あがった! 根性が0.5あがった! パワーが1あがった!

 その夜。2人きりの機会を狙ってアルドに問いただす黒川。
「なあ、お前の闘う意味ってなんだ?」
 といつになく神妙な表情の黒川。かつての自分と重ね合わせアルドに尋ねる。
 
 聞けば、彼の家族は大家族で、家は貧しく、彼は多くの弟妹の学費や生活費を稼ぐためにボクサーになったのだという。その話に遠い日の自分を思い出す黒川。リングにあがる恐怖は誰よりも一番わかるのが黒川なのだ。
「闘う理由があるうちは大丈夫だ。気がついたときはそれを失っていた、なんてのは耐えられないからな」
 かつての自分の過去を淡々と語る黒川。それはあの人も含め、まだだれにも話していないこと。それはアルド君の心にも届いたのだろうか?

●そして決戦
 ボクシングは計量が終われば食べ物に制限はない。だが急激な減量で、胃が受け付けない事を考え、当日朝の食事は細心の注意を払うリネット。消化吸収のよい豆類や穀物類、大事な塩分、サプリメント、そして少量の肉。
 まるで飢えた獣のようにそれにくらいつくアルド。その顔はすでに戦う前の精悍なボクサーの風貌を覗かせていた。絶対に勝てる、という強い自信の表れ。
「自分を強くするのは自分しかないぞ」
 それがアルドにかけた黒川の最後の言葉。

 そして四角いジャングルに立つアルド。カクテル光線に照らし出される彼の横顔は今までとは何か違う、風格のようなものすら漂わせていた。セコンドにつくリネットと湊。黒川は客席から見守る。
「諦めんな。アンタのストレートは必ず倒せる!」
 湊が激を飛ばす

 序盤、実力でまさる相手に追い詰められつつも鍛えた硬いガードでそれに耐え、的確に反撃する。今までと違い、序盤で無理をせず、6R闘うだけのスタミナを温存しつつ。

 そして4R。彼が実戦でいままで体験したことの無いラウンド。
「スパーリングを思い出して」
 と声をかけるリネット。アルドの粘りに場内もヒートアップしさらに歓声が盛り上がる。

 そして5R、6R‥‥。ついに試合終了のゴング。こうしてアルドはフルラウンド戦いきったのだ!
 結果は負けこそはしたものの微妙な判定にもつれ込む接戦。この結果におおいに満足する湊。
「負け試合にでも意味はあるのさ」
 と試合直後のアルドに声をかける。妙な達成感に満たされたアルド。
「次はチャンピオンを目指すんだな」
 敵役に徹したキリルの言葉は、今のアルドには大きな激励の意味を持つ。

「ところで、黒川さん、リネットさん、サインくれます?」
 そこにはただの格闘技ファンに戻った湊の姿があった。