タイトル:エア・ショーマスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/03 07:34

●オープニング本文


 欧州某所にある某都市。ここでは毎年盛大に行われている催しがある。
 それは、年に1度この町にあるかつて使われていた軍の滑走路を使って行われる催しであった。
 今でこそ手狭になったために正式には使われてはいないが、かつては軍の正式な空軍基地だった場所である。
「エア・ショー」。それは世界各地いろいろなところで行われているように、新旧の様々な軍用機や民間機が終結し、華やかにして豪快かつ勇壮な航空ショーを展開することで広く知られている。
 ここもそういった場所のひとつ。ここでのショーは毎年古今東西から様々な新旧の軍用機が終結しデモンストレーションや地上展示を行うことで知られており、毎年多くの航空ファンが押し寄せることで有名であった。それはこの戦時下でも同じ。
 戦時下であればあるほどより軍事色の強い、ともすれば各メガコーポの機体のセールスやPRの為のショーだったり、メガコーポそのものの宣伝の場だったりするのだが、ここはそういった色合いよりむしろメガコーポの枠を超えた、KVのデモフライトや地上展示といったことがメインの為、純粋な航空機(あえて言えば軍用機)マニアやファンが多数見学に訪れることで知られていたりする。
 
「ふむ。今年は参加人数がいまひとつらしいね」
 とショーの案内状に目を通す、某高貴な仮面の貴公子様。言わずと知れたカプロイア伯爵である。
 カプロイア社総裁という立場上、当然こういったエア・ショーに対する関心、というかむしろビジネスとして密接に結びついているはずなのだが、そこはこの高貴なお方。カプロイア社総裁として会社を上げてではなく、伯爵御本人がプライベートでエア・ショー自体の大口スポンサーになっていたりもする。当然こういったショーの開催には莫大なお金がかかるので、こんなところでも無限とも思える伯爵様個人の財布の威力が発揮されるのである。
 だが今年はちょっと状況が。御時世柄か例年より参加機も機体数も少なく。とくにエア・ショーの目玉とも言うべき展示飛行(アクロバット飛行)を行うチームが目下皆無の事態に。そうでなくても軍が現状での参加に消極的である状況。このままでは伝統あるショーのステータスや今後の開催そのものにもかかわる、という事態になりつつある。
 軍にしてみれば、アジアでの大規模作戦に注力する関係で、どうしてもこういった任務とあまり関係のないイベントに対する反応はよくない。その多くが地上展示とかフライパス程度で、より高度な展示飛行をこなせるベテランクラスの優秀なパイロットを回せる余裕があるわけもなく。

「確かに軍にこれ以上頼むのも厳しいみたいだね。ならここは傭兵達にお願いしてみることにしよう」
 と伯爵様。さっそく何か手紙を書くと、それを執事に託す。
「傭兵達にお願いしてみることにしようか。彼らもKVの操縦に関しては専門家だからね」
 となにやら楽しそうな伯爵様。

 こうしてこの依頼がULTに届けられたのは、それからしばらくたってからのことだった。
 ちなみに、この依頼に対する報酬はすべて伯爵様のポケットマネーから出るようである。
「彼らのアクロバット飛行がどんなものか見てみたいではないか」
 と楽しそうに笑う仮面の貴公子様である。
 傭兵の中には腕には覚えのある兵が多数。とすれば期待も膨らむというものである。
 天気予報では、当日は雲もなく快晴とのことである。

●参加者一覧

赤村 咲(ga1042
30歳・♂・JG
ルシオン・L・F(ga4347
19歳・♂・ER
リゼット・ランドルフ(ga5171
19歳・♀・FT
シェリー・クロフィード(gb3701
20歳・♀・PN
ドニー・レイド(gb4089
22歳・♂・JG
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
鷹谷 隼人(gb6184
21歳・♂・SN
能見・亮平(gb9492
23歳・♂・SF

●リプレイ本文


 ‥‥華やかなBGMが流れる滑走路周辺。各機体が展示されているあたりは見物客でごった返している。
 そんな喧噪をすぐそばで感じることのできるエプロンに、鮮やかな青白2色に色どられた8機のKVが整然と並べられている。そのシンクロされた色調は見た目にも鮮やかである。この日の為に、胴体の青を基調に4機ずつが右翼左翼どちらかが鮮やかな白に塗り分けられ対称美を見せている。
 演技開始までの間、この色鮮やかなKVもまた地上展示されているので、多くの観客の間近な視線を感じ、全員多少緊張気味なのかも知れないが。そんな展示中もいろいろと対応に追われるドニー・レイド(gb4089)。そんな中、
「でも、落っこちたらどうしよ?」
 始まる前から不安一杯の シェリー・クロフィード(gb3701)。かたや展示飛行は2度目で、すっかりやみつきになったと見えるソーニャ(gb5824)は楽しみで仕方がない、といった様子。
「今日は夢を描いて飛ぶ。最高だね」
 雲ひとつない空を見上げながらつぶやく。この日の為にペン片手にマニューバの案を考え、実際にシミュレーターで確認し、データとしてまとめた彼女が今回の依頼で事前に果たした役目は大きい。そして今、各自思い思いにスタンバイしつつ、そのときが来るのを愛機のKVともども待つ。
「こうして平和に飛べるって、いいね」
 と改めてこうして戦闘以外で飛べることを実感し、喜ぶリゼット・ランドルフ(ga5171)。戦闘以外の目的で飛行するのはこれが始めてである。平和のありがたさを実感する。
 今回8機のKVが行う演目は、基本4機づつの2班+全体演技+2機のソロで構成されるのだが、実はまだ肝心のチーム名が決定していないのだ。というかそれ自体を当日の籤引きで決めようというのが赤村 咲(ga1042)の意見で、今回それにしたがってこの場で決めることに。いくつかの候補の中から籤引きで決定したチーム名は、
 アルファチーム「スカイジュエル」
 ベータチーム「スカイホープ」
ということに。立案者はルアム フロンティア(ga4347)である。空に関連したしゃれたネーミングである。いろいろ候補があるなかから選ばれたものだ。
 そんなやりとりが行われているうちに、場内のBGMの曲調が変わった。シェリーが事前に用意したこの演技の為のBGMのCDである。その曲調はこれから始まるショーのイメージを表したもので、場内のテンションはさらにヒートアップ。加えてプロのMCの紹介アナウンスが盛大に雰囲気を盛り上げる。さあ、出番だ。
「こちら赤村。盛り上げていきましょう」
 今回アルファチームで演技予定の赤村が全員に告げる。華麗なるショーの開幕である。普段とは違い、そのKVのエンジン音も心なしか気持ちよさそうである。いざレッツ、ゴー!
「さていこうか」
 新品のパイロットスーツで決めたドニーが心の中でつぶやく。
 そんな周囲の騒がしさの中で、愛機「エルシアン」のコクピットの中で一人青い空を見上げ、瞑想にふけるソーニャ。やがて目を開け、機体下方にいる整備兵の方に目をやる。頭上に広がる抜けるようの空の青さが心の琴線に触れる。
「さあ行こう。空が待ってる」
 とつぶやき親指を整備兵に向かって立て、ニコリと微笑む。いよいよテイクオフだ。前日までの準備による疲れはその表情のどこにもうかがえない。


 今日のために入念に構成されたプログラムとそのメンバー。
アルファチーム「スカイジュエル」
赤村
ルアム
シェリー
ソーニャ

ベータチーム「スカイホープ」
鷹谷 隼人(gb6184
ドニー
リゼット
能見・亮平(gb9492

 演目は各班4演目づつ。それに赤村、鷹谷両名の約180秒のソロ演目と最後に全体演目が5つ、の構成である。全演目時間は10分。決して長い時間ではないが、アクロバット飛行がほとんどであるためパイロットへの負担はかなりのものと思われる。
「元気にいきましょう〜〜」
 とシェリーの声がイビルアイズのコクピットに響く。
 演技開始。まずは全機そろっての【ミラーダイヤモンドテイクオフ】。4機づつ2編隊が併走する形で離陸し、そのうち1編隊がロール反転し背面飛行に移行後、観客の前を通過。その後、演技に向け必要高度を作るために上昇。さあ、ここからが本番。すでに下界では見上げる観客の大歓声が。だが傭兵の耳には届かないのが残念。最初に演技する4機がその態勢に入るべくポジションにスタンバイする。


 まずアルファチームの演目。最初はシェリーがFLの【デルタループ】。以後は4人のうち誰か一人がFL、他のメンバーはWMという形になる。
「気持ちよくいきましょう〜〜」
 とここでも楽しそうなシェリー。
 4機が幅広のデルタ隊形で会場後方より進入後、ループしつつ頂点付近で密集したデルタ隊形に。機体の横幅が様々なために、機体間の余裕はほとんどないので、わずかなお互いのミスが命取りにもなりかねないほどシビアなのだ。そして上昇離脱。次の演目に備える。
 おっ、と見れば全機両翼端から色鮮やかなスモークが。鷹谷が事前に全員に貸し出したものである。それは長い色鮮やかな織物のようになって青空に流れていった。
 そのまま第2演目に。今度は赤村がFLの【変則トルネード】。こうやって演目ごとにFLを変え、演技を構成していく。4機が同一高度で進入。2番機のルアムと3番機のシェリーが背面飛行している両脇をFL赤村の1番機とソーニャの4番機が大きく螺旋状にバレルロール。そのまま滑走路上空をフライパスする。うわ〜、とどよめく観衆。すでにこの時点で場内はさらにヒートアップ。S−01Hとイビルアイズの背面合わせにシュテルンとロビンが絡む。戦闘では絶対に見られない飛行だ。
 さらに演目は続く。引き続き赤村がFLの【ワイドブレイク・クロスエッジ】。アルファチーム最大の見せ場であろう。前後微妙に位置をずらした2機づつ2組が場内に進入し、機体を90度横転させそのまま機首上げ&散開。さらに編隊内側へ180度反転して、機体同士を交差させるように機首上げ&散開。わずかな速度と位置関係がずれれば空中衝突必至?の荒業。だがコレも難なく成功させると観衆はスタンディングで迎える。
 そのままチーム最後の演目のルアムがFLの【ウオーターフォール】に突入すべく編隊ごと一気に急上昇し、さらに機体間隔をタイトにするチームメンバー。そのまま縦旋回からその頂点で180度に回転して、そのまま下降しながら緩やかにブレーク。そのまま花が開くように四方に散開していく。見事なまでの連携。機種も大きさもバラバラにもかかわらず鮮やかな演技である。しかも重いKVでこれをやってしまうとは!
 直後に沸き起こる地上の大歓声。声は聞こえないがその息吹は確実に感じ取ったであろう。アルファチームのメンバー。それは演技に備え上空で待機中のベータチームにも確実に伝わったに違いない。


 さてベータチームの最初の演目は【デオチパス】。FLは鷹谷、他の3人がWMである。イメージは「風に舞う木の葉」。
 フィンガー形態で離陸後そのまま低空で観客の前をパスする4機。そのままFL機から順次垂直上昇し、後方宙返りで滑走路上をローパスする。空中で後方宙返りをする4機に観客は大歓声。この技。4機のタイミングと呼吸がチョットでも乱れれば、接触事故にもなりかねない。名前とは裏腹の難易度の高い技である。さらにそのまま第2演目へ移行の為に急上昇。
 ここで4機の翼端から鮮やかに彩られた4色のスモークが。そのまま失速気味にスパイラルダイブの体勢。WMの鷹谷、ドニー、そして最後にFLのリゼットと能見は2機同時にダイブする。鷹谷機が軸になったところへ他のメンバーがそれぞれ先行機と反対方向に螺旋を描いた後、ぎりぎりのところで大きく四方に展開する。これぞ【スパイラルダイブ・トルネード】。そのまま編隊を立て直し、ローパスで観客席前を通過。KVが失速寸前まで減速かつダイブしたのだ。実戦では絶対にできない機動。改めてKVの旋回性能と機動性の高さを実証する。
 3演目目が、やはりFLがリゼットの超危険技の【リーフフォール】。KVを垂直の状態で空中で完全に停止させそこからテールスライドしてから、3形態でのきりもみ落下を行う。しかも4機が平行にである。テール、機首、最後には水平姿勢のまま回転落下。なんとなくイメージは「木の葉落とし」を彷彿とさせるが難易度的にはこちらの方がはるかに高い。4機同時にタイミングよくやるのは、個々のKVの性能差がある中では極めて困難に思われる。
 そのまま体勢を立て直す4機。最後の演目。スモークを焚いたままの状態で、ドニーをFLに密集隊形ローパスしながらの3方向へのロールである。右→中央→左、そしてロール順を反転してもう一度。【ウェーブ】である。ローパス状態で、観客席の目の前で展開されるKVの360度ロール。スモークが微妙に絡み合い、まさにある種の芸術である。


 演技はいよいよ佳境へ。ここからは赤村と鷹谷のソロ演目である。時間的にはわずかだが、両名にとっては格好の舞台。待ちかねたように両者のKVが勇躍する。
 まずは赤村。エルロンロールの為に十分に加速する。その後揚力確保のため機首を上げ、さらにわずかに操縦桿を倒し、エルロンの効きを補う。さあ、開始! 一気にスティックを力任せに左方向へ。エルロンロールだ。しかもそれを連続で行いつつ進入。通常はイナーシャカップリングの危険があり、2回以上はほとんど困難とされているにもかかわらずだ! さらに90度バンクの水平飛行から、ローパス→急上昇を行う。縦旋回後、擬似ストール気味にフラットスピンで落下。直ちに操舵回復後水平飛行に。最後にはコブラ体勢からのダブルクルビットをするという高難易度連続の離れ技を見せる。シュテルンの能力を限界まで引き出したマニューバ。これには観客もあっけにとられるしかなかった。お見事。
 続いては、鷹谷のソロ演目。まずはギヤダウンしての客席前をローパス。そのまま加速&ほぼ垂直に急上昇する。これは‥‥。と見る間にほぼ垂直にそそり立つハヤブサ。そのまま【コブラダイブ】に移る。ロールから水平方向に回転。コブラのままこれを行う。真下を向いた時点で失速回避。
 今度は翼端からスモークを放出しつつ超低空での錐揉みから静止、さらにはスパイラルダイブから急上昇。【スクリューフリーフォール】である。演技中にスモークの色が順次変わるといった手の込んだ演出も忘れない。
 最後に白いスモークを出しつつ体勢を作るハヤブサ。バレルロールからクルビットさらに完全に失速させての木の葉落とし挙句の果てにスパイラルダイブまでを一瞬のミスもなく演じたのである。その間順次移り変わるスモークの色。【CQGマニューバ】である。かつてZEROの高等戦術であった木の葉落しが、こんな華やかな舞台で演じられようとは。卓越した技量とラダー操作がなせる業であろう。
 最後は白煙とともにフライパスで演技終了。パス中にロールするおまけ付である。大歓声に迎えられ観客席前を通過するハヤブサ。満足そうなコクピットでの鷹谷。一陣の風とともに翔けぬけるKV。
 2名でたった3分の演技なのだが、内容はその10倍、いや20倍の密度はあったかも知れない。


 演技はいよいよ大詰め。ここからは5演目の全体演技である。
 まずは、挨拶代わりの【トンネル】FLの鷹谷を中心に横一線に並んだ8機のKVがロールでつくるトンネル。そのまま急上昇で体勢を作り次の演目へ。
 次が【アステリズム・マニューバ】。これまた超危険な編隊技。一斉に上昇した後、FL以外の全機が花びらを開くように四方へ散開。とここでスモークオン。さらにそのままFL機を掠めるようにお互いが交差する、といったほとんど離れ業に近いマニューバである。その角度とタイミングが完全に合わなければ確実に失敗する技。それも連続して間隔を開けずに突入しなければならない。それをできる限り低空で行うというのだから、失敗は即最悪の展開をも意味する。だがこれも見事な連携で成功。
 さらに演技は続く。次は【クローバー】。2機がキューバンエイトを描き、離脱の際に1機が描く【枝】。それが空中に咲く大輪のクローバーのようであることから名づけられたのだろうか? それを2つ。FLのルアムを中心に、緑色のスモークで描く、平和を意味する巨大な空中のクローバー。エア・ショーでは定番ともいえる空中お絵かきである。
 そのころ地上では、BGMにのってルアムが朗読?しているのであろうか、「名もなき傭兵の詩」と名づけられた詩が場内をやさしくつつみこんでいた。それは傭兵達の心境を正直にかつ純粋につづったもの。‥‥”CATCH THE SKY”、そのセリフが大空高く描かれる平和のシンボルを見上げる観客たちの心に染み渡る。‥‥、いつかこの空をとりもどす為に‥‥。そういつの日かの平和を願い、描かれるクローバー。それは風に消されることもなくいつまでもそこにとどまっているかのように思えた。
 やがて造形を描き終えたKV達がゆっくりと降りてくる。そして悠然と観客席の前をフライパスする。一斉に湧き起こる拍手。
 最後に【ハンズランディング】で今一度アンコールにこたえるかのように、FLの鷹谷以下、赤村、ルアム、シェリー、ソーニャ、ドニー、リゼット、能見の面々が編隊を組んで左右対称に並走しつつ、着陸する。
 規定の時間ほぼぴったりに演技を終え、ほっとする傭兵。とくに今回タイムキーパー兼進行係だったシェリーにとっては何事もなく時間通りに演技が無事終了したことの喜びも加わる。


 場内のMCが絶賛の言葉をアナウンスする。再び湧き起こる割れんばかりの拍手。KVは静かにエプロンに帰還し、その任務を終えた。コクピットから顔を出す傭兵達。その表情は晴れやかであった。達成した満足感とこんな機会が今後増えればよいと願う傭兵達であった。
 コクピットから降りる傭兵達に四方八方から浴びせられる絶賛の嵐と鳴り止まぬ拍手。なかには興奮して駆け寄ってこようかという者も。
 かくして俄かにヒーローが誕生したかのような光景であった。