●リプレイ本文
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全身ポッチャリで、毛に覆われたちょっと太めでまあるいお顔のそいつ。基本的に身体は白だが、特徴的にところどころが黒い毛に覆われているそいつ。とくに白い顔に黒く縁取られた目が印象的なそいつ。そう、某アジアの極かぎられた地域にしか生息しないはずのソレが、何故こんなはるかかなたの地中海に浮ぶ極少の無人島に‥‥
いや確かに本物ならばありえないのだが、相手がキメラとなれば話は別。どこに何が湧いてもおかしくないのだが、なんでまたパ○ダそっくりなんだ‥‥
依頼書に同封された写真を見る限りどう見てもアイツそのものにしか見えないキメラ。それを捕獲しろというのだから、いやはやなんともな依頼には違いない。だが依頼は依頼である。受けた以上は確実に完遂させなければならない。これはそんな珍妙かつ難儀な?依頼を遂行した傭兵達6人と1匹?の記録である。
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「では、ひとつよろしくお願いします。檻は準備できておりますので」
となにやら慇懃におもねる白衣の初老の男性。見るからに一癖ありそうである。愛想笑いがむしろ不気味にすら見える。
そう。ここは問題の無人島から少し離れた洋上に浮かぶ、民間船の船上。白衣を着た男性はもちろん、今回の依頼主である、某キメラ研究機関の所員である。なにせ、「生きたまま捕獲」などという無理難題を押し付けてきた割には、実に緊迫感がみられないのだ。
「なんでかなあ。というか何のために」
と電子煙草くわえつつ、タメ息を漏らすキヨシ(
gb5991)。生きて捕獲しろなどとは。
「それもそうだが、よく生息地を見つけだしたよな」
としきりに感心するジン・レイカー(
gb5813)。それもそのはず。本来ならありえないような場所に生息しているのだから、よくぞ見つけたというところであろう。
「ああ、早く会いたい生パ○ダ! きっともふもふのフワフワで」
などとなにやら夢想しているのがセラン・カシス(
gb4370)。相手は仮にもキメラなのだが、そんなことはすっかり忘却されているらしい。パ○ダ、という3文字以外は自己消去でもしたのだろうか?
今回のために準備された檻は、ソイツが2匹ははいろうかというぐらいの大きさ。なんでまたこんな大きい物を? と思った傭兵達だが、その有無を言わさぬような薄ら笑いを浮かべる男に圧倒され?誰もツッコめない。
まあそれでもキャスターなどがついていて、動かすにはあまり力がいらないようになっているのはせめてもの救いか、などと思っているうちに、無人島へわたる船の準備ができたようだ。
「私の祖国では見慣れた動物。とくに親子連れは危険」
と過去の経験を語る夏 炎西(
ga4178)。肉まんやトウモロコシ持参はおびき寄せのえさを作るためである。
「本物のパンダ見たかったアルヨ」
と怪しすぎる偽チャイナを装うのはトロ(
gb8170)。当然パ○ダなど見たこともなく、依頼よりも本物を見たいがために参加した模様。まあ、相手はパ○ダ風?キメラ。偽というククリではどちらも同じようなものに違いない。何故か十分に多すぎる肉マン持参である。曰く、「非常食」だとか。
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さてここまでは普通のメンツである。通常の能力者がキメラ退治にいく風情に変わりない。が、おや? 何か変だ。なにか珍妙な風景だ。よく見てみよう‥‥ええええええ! なんで、キメラが一緒の船に?! しかも2本足で歩いて? いつから傭兵と仲むつまじく談笑するキメラが‥‥
いや失礼。本人の名誉のために言っとこう。決してキメラではない。立派な傭兵なのだ。だがその風体はどう見てもアレにしか見えない。しかもAU‐KV装備のドラグーン仕様である。
そう、七市 一信(
gb5015)。あくまで口調は軽く、こころは熱い、「熱血パ○ダマン」なのである。だがその決して素顔をさらさない全身パ○ダルックはどうみてもキメラとの違いが指摘できない。普通に歩いているだけで退治必至?のいでたちである。
「真のパ○ダの主は誰かきっちりさせてやる」
と意気込みも盛ん。だがこの戦いどう見てもパ○ダVS偽パ○ダの戦いである。キメラがキメラと戦っているようなもの。端から見ればそう見えないほうが不思議だ。絶対に誤射されるに違いない。
「なにゆえ、仲間にパ○ダさんが?」
と喉まででかかった声を押し殺すユーフォルビア(
gb9529)。ここは黙ってスルーするのが暗黙の了解とでも空気を呼んだか、そのことには触れず語らず。だがどうしても気になるこのパンダマン。2足歩行するキメラと思われなければいいのだが。七市さん。
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さて。くだんの無人島へ上陸した6人と1匹?は、さっそく罠の設置と落とし穴の準備に取り掛かる。それに平行して罠におびき寄せるための餌作りもはじめる。
上陸してみてわかったのだが、島全体は、いかにもパ○ダがまぎれていそうな雰囲気満点の風景。と、よくよく目を凝らして見れば、背の低い草地にまぎれて、白く丸い小山のようなものがもそもそとうごめいているのが見えたのかも知れない。なにやらゴソゴオと音が聞こえるのはそのせいなのか?
「本当にいるのか?」
と多少は疑いつつもどうやら少しづつ納得しつつあるジン。無理もない。繰り返して言うがここは地中海なのだ!
でこのパ○ダは、実は雑食である。だが一般にはあまりにも笹を食べる光景が知られすぎているため、笹以外食べないのだろうと思っている人も(かくいうMSも)いるが実際はなんでも食べるのである。
「肉まん、トウモロコシ蒸し饅頭とかつくってみましょう」
と夏。パ○ダが好みそうなものをあれこれ考えつつ、手作りでえさを作る。
「え? 偵察も回り込みも先約がいるの?」
とパ○ダ見たさ会いたさ触りたさに張り切っていたのだが、そこは人気者につきおいしい役割は候補者殺到である。泣く泣く?罠設置のお手伝いをするセラン。パ○ダ可愛いや逢いたさ120%なのに会えないもどかしさに思わず意味不明な言葉を無線で叫んでみたり。
そんな傍らで、せっせと落とし穴を掘る「2足歩行」パ○ダ、ではない七市。だがその姿形ゆえ、あんなこんな目にあうことを予想したのかどうか、正面と背中になにやら書かれた札をぶら下げている。そこには大きく赤い字でこう書かれている。
『俺は味方だ。押すな、誤射するな」
笑える。その手書きの文字がいかにもという感じで、かえって危険な気もするのだが。しかもかなり深い穴である。たぶん落ちれば自力脱出は不可能だろう。キメラと一緒に落とされてはソレこそネタではすまない○○必至である。AU‐KVを身にまとっているのでタダでさえ重量が重いのだ。
「うんしょうんしょ。ヘヘヘ、ちょっと檻に細工しちゃった」
となにやらにうれしそうなユーフォルビア。一体何を檻に細工したのか、危ない。危なすぎる。もし七市がお約束の如く罠にはまったらどうするつもりだ、とか考えてないのか。
そんな光景を横目でみつつ、くわえていた電子煙草をしまい、ジンとともにキメラの探索にいそいそと赴く構えのキヨシ。
「待っているのもなんだしね。早めに追い込んでみるとしますか」
とジン。テンションがあがってきたようだ。
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その時。どこからともなく何者かがごそごそと接近してくる物音が。何? と思わずそちらに気をとられる傭兵と偽?パ○ダ。
「おわ。でた!」
まだ準備中にもかかわらず。早速向こうからお出ましである。なるほど、見れば見るほど確かにパ○ダそのものである。遠くから見る分には動物園の観客の気分だ。
「可愛い(はぁと)」
と思わず誰かがつぶやく。セランだ。その目は早くもうるうる状態。もはやキメラを見る目つきではない。
「本物、可愛いアルヨ」
と偽チャイニーズ言葉全開で騒ぐトロ。本来の目的を忘れ、みな目がテンになり、うるうる状態。
だが相手はれっきとしたキメラ。先手必勝。というわけで、早速動いたのが我らが?偽パ○ダ、ではなかった七市。偽?パ○ダがパ○ダ風キメラに突進である。と見るや直ちに肉弾戦に移行。早い話が取っ組み合いのけんかである。
「パ○ダがんばれ〜〜。あれ? でもどっちもか」
となにやらヘン?な声援を送るユーフォルビア。草地の中で異様な取っ組み合いをする2匹?のパ○ダモドキ。
「支援するのです〜〜〜。あれ? でもどっちだ?」
とスキルを使うが、お約束の如くどっちがキメラでどっちが七市だが見分けつかず。その為かこれもお約束でキメラを支援したりする。
だがそれだけでは終わらない。さきほどからニヤニヤしつつハリセン片手に観戦を決め込んでいたキヨシ。戦いの趨勢が決っしかけると見るや、何を思ったか、巨大「ハリセン」を抱えてキメラに突進。
「トドメやトドメ」
とばかりハリセンをかまそうとするが、これまたお約束の如くキメラではなく七市にもろにヒットさせる。決してダメージはないのだが、コレはかなり痛い一撃だったらしく思わず頭を抱える七市。でヒットさせた本人はさすがにマズイ、と思ったのかそのまま一目散にいずこかへ走り去る。う〜〜ん。逃げたな。
そんなこんなドタバタ感満点ながら、最終的には、
「勝った!」
とくんずほぐれつの肉弾戦を制した七市がキメラを檻に押し込む。武器なしでキメラに勝つとは。恐るべし偽?パ○ダさんである。
こうして周囲が完全にカオスの魔の手に侵食され、誰もがこの先どうなるか予測不可能に陥ろうかという頃、念入りに準備した罠の設置がどうにかこうにか完了する。そこで、
「準備完了で〜〜〜す」
とあんなこんな言いたいこと聞きたいことをグッと飲み込んで無線機で合図を送るセラン。いや本当はもっと別の心の叫びをしたかったに違いないが、ここはおとなしく無線機に呼びかける。
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同じ頃、罠から多少離れた場所では、
「ほらほら。こっちこっち」
と、先ほどの勢いそのままに罠までキメラを誘導するキヨシ。気分は鬼ゴッコである。「隠密潜行」でそっとキメラに接近し、正確な位置を無線で連絡したのだが、先にキメラに見つかったようである。実は本物のパ○ダ、意外と素早い。キメラであってもそれは同じようだ。だが逃げながらも手にはしっかりとさっきの巨大「ハリセン」が握り締められている。一体これで何を? やがてふと立ち止まり、仁王立ちでこう叫ぶ。
「さあ、どっからでもかかってこんかい!」
とハリセンを振り回すが、やっぱり相手はキメラ。かなわないと見たのか逃げ足がさらにスピードアップ。そしてなんとか罠と餌の設置されたところにまでキメラをおびき寄せ、罠で捕獲し檻に押し込むことに成功。で檻の中のキメラに放つギャグ?一発。
「こら。ボケがたりん。ボケが」
とハリセンを振り回す。う〜〜ん。ほとんど関西の某お笑い団体のノリである。ひょっとして関西人か?
かたやジン。あろうことかキメラに馬乗りになり、まるでロデオのように颯爽?と檻にめがけ突進。どうやら奇襲後、腕づくでキメラを屈服させているようである。見ればそれはいかにも大成功のような雰囲気。だがよく見ると屈服させて馬乗りになっているのではなく、どうやら多数のキメラに追いかけられ、どさくさ紛れにとっさに馬乗りになって逃げている、というのが正解らしい。それが証拠に彼の背後から、何匹ものキメラが我こそはと彼に殺到してくるのだ。
「無理むりムリ」
と大声で叫んでいるジン。笑っていけないが、思わずすべてを忘れ笑いの世界に落ちそうである。
そんなキメラに立ちはだかるセラン。覚醒しているので感情がなく、無言で槍を振り回すのだが、傷つけないように最新の注意をはらいつつ、である。覚醒前は、
「ああ。パ○ダを攻めないで苛めないで弄らないで」
などと愛でていたのだが、覚醒するともはや別人である。無言で槍を振り回し、愛でるなどとは無縁。なんとか生かしたまま捕獲することに成功。だがひとたび戦闘が終わり覚醒を解くやいなや、激しく自己嫌悪に陥りつつさっきまでとは一変して、パ○ダに近寄りすりすりとさわりまくる。といきなり大声で絶叫。
「ああ! 私ったらカメラ忘れてる!」
せっかくつかんだドアップのシャッターチャンスなのに、と泣きたいのをじっとこらえているのが傍目にもよくわかる。
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リュックサック一杯の肉まんを大事そうに背負い、キメラを罠へと追い込むトロ。キメラがあらぬ方向へいってしなわないように、「瞬天足」発揮してキメラの追い込みにかかる。満面に笑みをたたえ、本物のキメラと遭遇したのがいかにもうれしそうである。
「こっちアルよ」
などとキメラをたくみに誘導する。いざとなれば実力行使だが、決して殺さない程度に。で一仕事終わるたびに肉まんをおいしそうにほおばる。その雰囲気はどこかの童話に出てくる猫のよう。1個また1個。その旺盛な食欲でもってひたすら肉まんを自らの胃袋に納める。果たしてキメラ退治に来たのか、単に肉まんを食べに来たのかこうなっては傍目にはよくわからない。本当の所はパ○ダ観察というのは間違いないだろう。
「いや〜。おいしいアルネ。肉まん」
結局、依頼が終わるまひたすら肉まんを食べ続けていたようである。その食欲恐るべしである。
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小1時間か2時間か。時間すらもよくわからぬままに、終わってみれば捕獲用の檻はすべて生きたパ○ダ風キメラが早く出せ、といわんばかりの表情で傭兵達をにらむ。
「いや〜〜。ご苦労さまでした」
と先ほどより慇懃さがグレードアップしたような感のある、くだんの白衣の研究員。檻をすべて回収し、意気洋々?と引き上げていったのはそれから間もなくのことだった。
だが同じ頃。バイク形態のAU‐KVが無人島の未探査の場所を走り回っているのに気がつく傭兵はいなかった。
「目指すは島のボス」
と意気軒昂な七市。そう。彼にはまだ遣り残したことがあった。それは「最強パ○ダ決定戦」である。まあ早い話がボスキャラ目当てなのだが。絶対にいる、そういう確信を持って走り回る。
と、目の前にいきなり巨大な影が。それは明らかに今までのソイツとは違った図体と見かけ。この手の話にはお決まりのボスキャラ出現である。
「突撃〜〜」
と果敢に突っ込むAU‐KV。そして‥‥
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「そういえば、七市がいない」
とかなり経過してから誰かが思い出したように気がつく。てか遅すぎる。あたりには彼の気配がない。とっくにいなくなっていたのに誰も気がつかないとは。
とその時。どこからともなく聞こえるAU‐KVの爆音。それは猛烈な速さで近づいてくる。次の瞬間にはあたりに響くブレーキ音。それはいきなり出現したのである。さらに、
「アイアムナンバーーーワーーン!!!」
そこには高々と右手の人差し指を天に突き刺す彼‥‥七市の姿があったのである。見れば全身かなり細かな傷があるものの、大きなダメージはなさそうに見受けられる。
かくしてここに「パンダ・オブ・パンダ」が誕生したのであった。
了