●リプレイ本文
●疾走
競合地域の中でもバグア支配の強い地域へと向かうとある一本道。周囲はのどかな農村風景。
そんな道を疾走する2台の車。‥‥インデースとジーザリオ。それぞれに乗っているのは各4人&男女さまざま。キッ、と前を見据え厳しい面持ちである。スーツ姿あり作業着姿あり、コートで身を包む者もいる。
それは一見、日常の風景のように思われるが、実はこの4人、全員熟練の『傭兵』である。しかも今回、極めて危険かつ重要な作戦に参加すべく移動中なのである。何故彼らがこういった格好をしてるかが、今回の作戦の特徴を表している。そう、キーワードは「潜入」である。
先に行くのはインデース。運転しているのは神撫(
gb0167)。それに同乗しているのは3名。セレスタ・レネンティア(
gb1731)、リヴァル・クロウ(
gb2337)、鳴神 伊織(
ga0421)である。
もう1台のジーザリオ。運転しているのはジェーン・ドゥ(
gb8754)。それに同乗しているのは残り3名。オルランド・イブラヒム(
ga2438)、フィオナ・フレーバー(
gb0176)、新居・やすかず(
ga1891)である。さっきからこの8名、車内でもほとんど会話はなく緊張した面持ち。それもそのはず。車はすでにバグア支配地域へとはいっていたからである。ここから先、いつ何があってもおかしくはないし、また何でも起こりうる。事前に打ち合わせたカバーストーリーを頭の中で反芻する彼ら。そう、必ず通るであろうバグアの「検問所」。そこを突破しないことには、この作戦は実行不可なのだから。
●尋問1
やがて。
「検問だぜ」
と神撫。すぐ目の前には、ゲートと人影が。そう、親バグア側の検問である。以前得た情報ではこの検問所には、能力者はいないということであったが。もちろん出発前に様々な情報、現地地形、地図など得られる限りの情報を入手し万全の態勢ではあっても、やはり実際に遭遇してみれば何が起きるかはわからない。
「前回の轍は踏みません」
前回同じような依頼に参加し、最後の最後でミスった経験を忘れてはいないセレスタ。今回はその反省を十分に踏まえている。このときのために入念にストーリーも打ち合わせ済みのオルランド。心の準備も万端である。
「おい。そこの車」
まずゲートに差し掛かるインデース。あまり出入りは多くないようで、警備する連中も多少暇をもてあまし気味の様子。こういった場合、暇に任せて根ほり葉ほり聞かれたりするものなのだが。
「この先バグア関係以外通行できねえぜ」
銃を構えインデースに接近する一人の男。
「ご苦労」
さりげなく装う神撫。ここから先はセレスタの出番である。実に巧妙に偽造されたIDカードをちらつかせる。手にとってそれを確認する男。別段怪しむ風もない。それもそのはず。以前亡命者から聞きだした情報を元に軍が精巧に作ったものだ。
「どこへ行く?」
お決まりの質問。答えも当然の如く平然と答えるセレスタ。
「この先の町へ。最近完成した通信施設に不具合がみつかったので」
車の内部を一瞥する男。残り2名を彼らは? と無言で目が尋ねる。
「施設改修のための技師とその助手。面倒な作業なので助手がいる」
セレスタが答える。
「何の改修だ?」
男が尋ねる。疑ってはいないように見えるが、まあお約束なのだろう。
「詳しいことは聞いてないが、その施設に指定された装置を設置するようにとの指示だ。」
とスーツ姿の技師に扮したリヴァル。その説明に怪訝そうな顔をした男。すると
「一応、荷物をあらためさせてもらう」
荷台の方に移動する。がそこへ。
「中身は空けられないぞ。設定済みなんでな。なんなら向こうの技師にでも聞いてほしい。まあ、無理にというなら開けてもいいが、責任はもてん」
と迫真の演技で応えるリヴァル。その「責任」という一言で男もあきらめたようだ。やはり揉め事に巻き込まれたくはないのだ。手で行け! と合図する。
「よかったですね」
と鳴神。自分の出番はまだ先だと考えているようだ。
同じ頃。ジーザリオの方も同じようなやりとりが展開されることに。だがこちらは相手が多少なりとも気の利くヤツだったと見える。先ほどよりは入念である。
「見かけない顔だな」
スーツ姿のフィオナとオルランドの顔を見渡して尋ねる
「技師は、最近こちらの側にお世話になることになってな。競合地域からやってきた」
さりげなく応える。と、その男、オルランドの胸元のロザリオに目が行く。
「俺も昔はクリスチャンだったのさ。こうみえてもな」
そのロザリオに手をかけようとする。一瞬、ハッとするフィオナとジェーン。まさか‥‥。
「ふ〜〜ん。神の御加護があるようにな」
と顔を近づけただけで終わった。仮に手にとられていたら、超機械「ハングドマン」の偽装がバレたかも知れない場面であった。
「で、積荷は何だ?」
再度尋問してくる
「それは機密事項だ。護衛の俺がいるのは万が一の為。何か特別なものらしい」
笑顔の中にある種の恫喝を見え隠れさせつつ答えるオルランド。確かに迷彩服にサングラス姿の彼の風貌、護衛といわれても不自然ではないようである。
「そっちは?」
後席の作業服姿の新居の方を指差す。
「そいつは技師の助手だ。寡黙な男でな。」
さりげなくフォローするオルランド。だが、
「まず荷物をあけさせろ」
とジーザリオの荷台の荷物に手をかけようとする男。
「やめておけ。そいつは開けられないし、それ以上かかわるとあとで面倒だぜ。何せバグア様のお偉いさんからの依頼物らしいからな」
今度は半分本気っぽく恫喝する。さすがにそれが効いたのか、それ以上詮索するのはやめたようだ。
「わかった。行け!」
男は手で合図を送った。
こうして無事に2台は検問を突破したのである。
「静かに、完璧に、優雅に‥‥といったのかどうか」
一人つぶやくジェーン。表情は硬いままである。
●尋問2
程なく問題の町の出入り口に到着。目標の建物はアンテナが目印ですぐに判明する。遠目からでもその大きさがわかるほどである。いつのまにこんなものを‥‥、と心ひそかに思う傭兵達。
この町自体、先ほどよりは人の出入りが多いようで、にぎやかな反面検問もより厳しく人数も多そうである。ものものしさは最初の検問以上と見受けられた。さっそく誰何される。
まず、8人全員が車から降ろされる。ボディチェックだ。事前に備えてあるのでこの程度のことでは尻尾は掴まれない。さらに2台の車のボディ下まで調べられる。そして最後にいろいろ尋問である。聞かれることは先ほどと大して変わらないのだが、物々しさが歴然として違う。もっている武器も違うし装備も違う。それはもし正体が発覚した場合の事後の困難さを物語るようでもあった。
「中身はどうしてもみせられないというのか」
やや語尾が上がり口調の尋問者。多少いらだっている風にも見える。
「詳しいことは我々如き作業者レベルではわからん。ただ誰にもふれさせるなとの命令でな」
とリヴァル。
「さっきから聞いてれば。私たちだって好きでこんな田舎にきたわけじゃなし。それにケースを開けるのはいいけどたぶん作業は全部パー。そのことを私たちは報告するけど、責任はとってくれるんでしょうね?」
と苛立ちを露にするような演技で割り込むフィオナ。
田舎、というセリフにカチンと来たのかこの男、強引にケースを引っ張りだすと無理やりあけようと力を込める。もちろん簡単に開くようなミスはしない。ので、これが開かないのだが、その姿にオルランドが一喝する。
「どうなってもしらんぞ」
‥‥その一言を聞いた他のバグア派のメンバーが、この興奮した男にかけよりなんとか彼を引きはがす。
こうしてどうにかその場は収まった。まだ興奮気味な男を残して尋問は終了。完璧な事前準備が功を奏したのか、なんら疑われることもなく無事に潜入に成功である。
「悪かったわね。コーヒーでも」
とさりげなくコーヒーを薦めるフィオナ。
「実際に建物に入れるのは6人までだ」
ということで、運転手役の神撫とジェーンは車の中で待機することに。車は指定された場所へ。そこは町に入ってすぐの広場。そこからでも高いアンテナはよく見える。
「車にも警護か」
と神撫。長身の男が車に張り付く。逆に言えばそれだけ警備が厳重だということなのだが。
「1本どうだい?」
などとタバコをすすめつつ、雑談に引き込む神撫。これで相手をこちらにひきつけるには十分だろう。ニヤリ、と笑いながらそのときを待つ。これで施設の警備が手薄になればしめたものだ。そっと近寄ってきたジェーンがアイコンタクトする。
●決行1
爆破のために必要なものは、すべて偽装し無事に運び込むことに成功。あとは決行のタイミングである。
今回は持ち込める爆薬量が限られているので、施設の中枢とアンテナだけをピンポイントで破壊する。そうすれば多大な損害が与えられるからだ。そのため決行は夜間ということになった。もちろん設備の改修だと偽って昼間堂々と設置することも可能なのだが、何か事を起こすには闇の方がいろいろ好都合だと考えたのか。
今は曇天で月はまったく見えないし、事前の天気予報では晴れる見込みもないと思われたのも幸運である。
だが潜入には障害も。24時間監視の歩哨と入り口の鍵である。強行突破はできなくもないがそれは今回は愚策。
戦闘ナシにケリをつけるのが最良である。
「アイツを破壊すればいいんですね」
新居はアンテナと施設を見てつぶやく。
「いよいよ私たちの出番ですね」
鳴神である。
‥‥やがて深い闇があたりを支配する。それは傭兵達が動き出すサイン。まず、周囲の気配を確認。運転手役だったジェーンと神撫はあたりの警戒を怠らない。無線は声でばれる危険はあるがこの深夜、小声であれば問題はないと考える。
「こちら鳴神。状況確認お願いします」
と無線に小声で伝える。すぐさまジェーンの声。
「異常なし。車の周囲に歩哨が2名。気づかれた気配なし」
声を極力押し殺し語るジェーン。
「同じく。空は曇天。今宵は闇」
と神撫。
見張りはいないとの事。なおさら結構である。
「では、決行」
呼応して6名が動く。もちろん施設までの行動もすべて事前に打ち合わせておいた通りの手順で通信施設破壊に動くセレスタ、リヴァル、鳴神。アンテナ破壊に動くオルランド、フィオナ、新居。
「!!」
と新居。途中で人影のようなものを発見。どうやらバグア派の見張りのようだ。ここはさっそくコイツをひきつける動きに出る。
「すいませ〜〜ん。車に忘れ物とりにいったら道にまよちゃって」
と迷?演技で見張りの注意をそらす。それにつられる見張り。その隙にすぐ脇をすり抜ける5名。うまくいったようだ。
かくして無事に施設を囲むフェンスの目の前に。ここからがいよいよ正念場である。ここでミスってはすべて水の泡である。慎重かつ大胆に行動を起こす。
●決行2
事前情報では歩哨は3名。この施設の周囲を警戒しているらしい。暗がりのためよくわからないがたぶん周囲を巡回しているのであろう。施設の周囲は意外と大きく1周もそれなりに距離がある。
だが暗がりでは時限爆弾のセットは困難。
「歩哨なら明かりを持っているはず」
とセレスタ。まず歩哨をなんとかしなければ。
と右手から明かりが。歩哨だ。気配を殺し様子を窺う。直ちに散開し遮蔽物に身を隠す。
それはゆっくりと傭兵達の近くに。だが、彼らには気づくことなく通り過ぎる。
「今、な、ら!」
と動き出す鳴神。相手の死角から迅速に接近する。その動きは洗練されていてスマートである。すぐさまドサッ、という小さな物音。そう、彼女が背後から歩哨を襲撃し、声も上げさせぬままに絞め落としたのだ。さすがに傭兵、無駄のない一瞬である。もっとも相手が能力者ではないので当たり前といえるかも知れないが。
持っていた明かりを奪う。で、絞め落とした歩哨は目立たぬところに隠蔽する。これで次の交代の時間まで気がつかれぬはずである。直ちに身体から鍵を探す。
「あった」
鍵は胸ポケットに。これで中に入れる。
それに呼応して他の傭兵も動く。セレスタが一人同じように絞め落とし明かりを奪う。あと歩哨は1人のはず。だが、どうやら今宵は歩哨は2人だけだったようだ。そう、さっき新居が話しかけた男、彼が3人目の歩哨で、ちょうど交代のため宿舎に戻る途中だったのだ。敵の見張りも案外ルーズだった様だ。
奪った明かりを頼りに通信施設に例のケースを運び込むリヴァル、セレスタ。それに呼応してオルランド、フィオナはアンテナである。2手に別れるとそれぞれこっそり持参したケースをセットする。中身は当然、時限装置つき『爆破装置』。
「さてこれで完了と」
爆破時間は、傭兵達が抜け出す時間を考慮したものである。無事に仕掛け終わり起爆装置のスイッチを入れる。
コチコチ、とタイマーが動き出す。さあ急ごう、と誰かから声が上がる。
●脱出
直ちに車に向かう6人。暗闇ではあるがかなり目が慣れたのか、走ることも可能である。
「うまくいったみたいだな」
と神撫。決行が夜間だったので彼にしてみればあまり休む暇はなかったかも知れないが。
2台のエンジンに火が。深夜真夜中にエンジン音である。寝静まっているとはいえ、誰かおきてきてもよさそうなものだが誰も気配がない。2台のライトが煌々と明かりをともしたその時‥‥。
「ドッカ〜〜ン!!」
というすさまじい爆発音と火花が闇夜を引き裂き炸裂する。そう。時限爆弾が炸裂したのである。それはたちまち火災となって通信施設を覆う。爆薬の量が少ないので大爆発にこそならなかったが、それでも破壊力はすごいものである。
あっというまにあちこちに明かりがともり、街中はちょっとしたパニックに。その間隙を縫って傭兵達が抜け出す。喧噪と怒号が飛び交い、逃げ出す彼らを注目するものはほとんどいない。というか気がつかないのだ。
さらに爆発音と炎。闇の中を赤い悪魔のような舌が踊っていた。
2台の車は来たとき以上に猛スピードで駆け抜ける。あっというまに最初の検問所に。ここの検問所の連中は、まだ爆発のことは知らない。ならばかえってだましやすい。
「おい! どうした」
と案の定制止される。がここで再び新居が嘯く。
「さっき、例の町がUPC軍の奇襲にあった。技師の安全を確保しなければならないので、このまま脱出させてもらう」
本来なら何故、競合地域へ? と問われるところだが今回は何故かそれはなし。ラッキーと思ったのかジェーン。思わずその変装を解き、警備員にこうつぶやく。
「おかげでいい仕事をさせてもらった」
と急発進。あっ、と思わず警備のバグア派が気付いたとき、その腕にはエミタがくっきりと見えていたのである。2台の車はライトをきらめかせ猛然と走り去った。
了