タイトル:ゆるキメラマスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/10/14 02:17

●オープニング本文


 南イタリアは世界的に知られたオリーブの産地でもある。毎年収穫期になれば、あたり一面オリーブの香りに包まれ、それを生業とする人々にとってそれまでの苦労が報われる瞬間である。
 だがこの時代、しかも昨今間近に競合地域を抱えることになった南伊。そんなオリーブ農家を悩ます存在がいる。

☆☆☆☆☆

「キメラ‥‥って、これどうみても○マケ○ノにしか見えないわね」
 と依頼書の写真を、しげしげと見つめるULTのオペレーター。オリーブ畑にキメラが出没して、収穫ができない、との苦情を受けてのことなのだが、どうみてもあの生物にしか見えない。
『これって、わざわざ傭兵が出かけて、駆除する必要があるの?』
 と内心思いつつ、依頼は依頼なのでとりあえず、モニターに映し出すのだが、どうみても場違いすぎるその容姿に別の意味で注目を引いてしまう。
「こいつがいったい何をするというのだろうか? てか、こいついったい何者?」
 とその得体の知れなさばかりが注目される。仮にもキメラなのだが。
「手荒いことすると、某動物愛護団体のようなところからクレームが来るだろうし」
 といたって真面目に解説する傭兵も出る始末。
 だが、キメラには違いないので、駆除しないわけにはいかないのだが、できれば穏便にすませられないか?と真剣に考え始める者もいたりで、いやはやなんとも難儀な依頼ではある。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
劉黄 柚威(ga0294
27歳・♂・SN
美空(gb1906
13歳・♀・HD
沙姫・リュドヴィック(gb2003
13歳・♀・DG
大槻 大慈(gb2013
13歳・♂・DG
土御門・姫命子(gb4042
19歳・♀・ST
ヴィンフリート(gb7398
20歳・♂・DF
鳳凰 天子(gb8131
16歳・♀・PN
紅桜舞(gb8836
14歳・♀・EP
流月 翔子(gb8970
20歳・♀・SN

●リプレイ本文

 これはとてもキメラとは思えぬその容姿ゆえに、さる筋からのクレームを気にしつつも依頼に望んだ傭兵達の、珍妙にしてかつ傑作なアイデアによるキメラ退治の物語。


 このキメラ、見た目があまりに『ナマケモノ』に似すぎているがゆえに、動物愛護団体からのクレームが心配である。キメラでありながら見た目が可愛いのはいかんともしがたい。見た目には人間は意外と弱い。
「可愛いからしょうがないですね」
 と依頼添付の写真を逆に愛でる石動 小夜子(ga0121)。その気持ちわからないでもない。
「最近ゆるキメラって、ブームなのであります」
 とこれまた便乗する美空(gb1906)。ゆるキメラがブームかどうかは別にして十分に愛でた上で、駆除したいのだろう。
 かと思えば、
「なんともなあ」
 とすっかり脱力気味の劉黄 柚威(ga0294)。キメラは凶悪凶暴醜悪であってこそのキメラで、はっきりいって今回はキメラとは思えない風貌のキメラである。
「愛護されるべきものではないはずなんだけど、どうにもこいつは」
 といったいわば困惑気味なのが沙姫・リュドヴィック(gb2003)。動物保護団体と喧嘩するつもりはないだろうから、今回は殺生抜きでキメラ退治ということになろう。
 そんな中、大槻 大慈(gb2013)は、今回『癒し』目的の参加ムードが漂っている。
 依頼に癒しを求めるのは自由だが、キメラで癒されるというのもおかしな話。というかどうもキメラの姿にあてられたようなのだが。


 今回はそういった事情で、駆除方法にも工夫が。動物愛護団体の手前むやみに殺戮もできず、基本は穏便に捕獲という方向に落ち着くのだが。そのアイデアがこれまた珍妙かつ巧妙。とりあえず捕獲したキメラを入れるための檻をとあるキメラ研究施設から借り受ける。労を取ったのは石動である。
 明らかに意味不明なスタイルで下手糞な歌を歌って、キメラを追っ払うという絶対に誰も思いつかない、いや思いついても普通は実行できないアイデアで望むヴィンフリート(gb7398)。キメラの前に仲間たちが逃げ出さないことを祈るのみである。
 こっそり枝を切り、袋詰めして捕獲を考えるのは紅桜舞(gb8836)。いたって穏便にかつ迅速に処理するにはいい方法と言えなくもない。というか最もまともな捕獲方法を考えているのではないだろうか?
 とてつもなくつまらない本を読んで、キメラを眠らせようかと考えているのは流月 翔子(gb8970)。あの〜〜。こうなるともはや訳がわからないというか、キメラ相手なのかタダの人間のなまけもの相手なのか。たぶん読んでる人間の方が先に眠くなりまっせ。
 そんな中動きたくとも動けない人、影でサポートに徹したい傭兵も。まず前の依頼で重傷中の鳳凰 天子(gb8131)。本当は問答無用で叩き切ってやりたいところだが、こいつ相手に間違って名誉の(というか不名誉の)戦死などしたくないと思うのは当然で今回は監視と言う名目で本当に「まったり」するつもりらしい。
「いつ何がおきるかわかりませんし」
 と土御門・姫命子(gb4042)はサイエンティストの立場を利用し、他者のサポートに徹しつつ、スキルを用いてキメラを弱体化させるつもりだが、果たしてそれほどの相手なのかどうかは不明。なにせどう頑張ってもこのキメラ、『ナマケモノ』以外の何者でもないであろうから。
 で以上10名。あれやこれやのアイデア満載でキメラに当たる‥‥はずなのだが、本当に大丈夫なのだろうか。キメラと同化してしまわないかが不安といえば不安。


 農場の中は収穫を間近に控え、オリーブの実がいい頃合に。でそこへ傭兵達がいそいそとやってくるのだが、何かいつものキメラ相手とは明らかに異なる妙なムードが。だって変な着ぐるみをまとった傭兵だの、おおきな枝きり鋏だの、ちゃぶ台や座布団やら満載したトラックに乗り込んで勇壮に、ではなくまったりとやってくるのだから。端から見ればどうみても怪しいコント集団にしか見えない。
 てよくみれば明らかにナマケモノに同化している傭兵もいたりする。単なるコスプレ‥‥いや、これも相手を油断させるための仮装。すごいぞ石動。とほめるべきかどうか悩むところではある。それはどうみてもメスにしか見えない。が相手がオスかどうか誰もわからないんだが、そこはあえて触れないでおきましょう。
 かたや着ぐるみからいそいそとAU−KVに着替える大槻。いくら相手がアレでも備えは必要ということか。がここで着替えたことが後々悲劇を生むとは‥‥。
 

 まずはキメラ探しであるが、まあさほど広くない農場、さらには相手はナマケモノ。当然木にぶら下がって動かないのだから探すとはいっても手間がかかるわけでもなく。単に木を1本づつ見回ればいいのである。
 だがここでもさすが傭兵達。すでに相手を見切っているのかその余裕は眼を疑わん?ばかりで。
「さてまずは一服。まあ、ゆっくりさせてもらおう」
 とどこから持ち出したのかちゃぶ台と座布団を適当に広げ、お茶をすすっていきなりまったりし始める劉黄。って、まだ何もしていない、というか何かする気があるのかどうかわからない。
「動物愛護の精神にのっとり存分に愛でてから御退場を」
 を狙いとする美空・沙姫・大槻の3人。彼らコンビは「1人1殺」が目標。理由は、よってたかっては動物虐待だという例の団体のクレームになるからとかならないからとかだそうだ。いやはやなんとも言いがたいが。実はこっそり物見遊山気分だというのは絶対に内緒‥‥。というかもはや癒し系キメラ扱いのコイツである。
 でいったいどうするのか?とみていると、まるでお約束のように1匹のキメラを発見。するといきなりAU−KVを着たまま木によじ登り始める大槻。ってかそれって無謀‥‥。となにやら取り出したのはほかならぬ『ハ○セン』そのもの。さらには器用にもまるで猿の如く枝にさかさまにぶら下がると、おおきくそれを振りかぶる‥‥
 その格好どう見てもナマケモノの生態をまねる○○な人にしか見えない。その前にそのAU−KVの重さじゃ枝が‥‥
「ドス〜〜ン」
 とやにわに大きな音。みれば枝ごと見事にナマケモノが落下したが、当然大槻も頭から墜落。やはり重過ぎたのだ。というか振りかぶる前に気がつきそうなものだと思うが。まあ狙いはともかく結果オーライ。落ちたキメラは持ってきた捕獲檻の中に。落ちた大槻はそのままピクリともせず。どうやら完全に作戦は裏目にでたようである。やがて何事もなかったかのようにむっくり起き上がる。
「大丈夫?」
 と、とりあえず駆け寄る沙姫。が端からみれば喜んでいる風に見えなくもない。
 そんな大槻を横目で完全スルーしつつ、他のキメラを探す美空。まるで何事もなかったかのようである。
「だから兄上、最初から」
 とその眼は物語っていたようだが。


 同じ頃。ある木にキメラを発見した石動。乗ってきた農場のトラックごと接近するのだが、端からみるとどうみてもトラックに載せられたナマケモノが移動中にしか見えない。それもそのはず。着ているのは例のキグルミ。
 あまつさえ頭にはリボンも載せている。完全に本人の気分はメス。でそのままゆっくりと接近。トラックの上からおいしそうなエサを見せておびき寄せようとする作戦。果たしてこんなことでうまくいくのか? いくら相手がナマケモノでも‥‥。
 とみているとなにやら興味津々なキメラ。ひょっとしてこいつオス?かと思ううちにトラックの方へのっそりと乗り移ってきた。なんらためらうことなくというか完全にメスだと思い込まれている石動。
「成功ですわ。あとは檻の中にっと」
 ええ? と思うような展開の中、なんとキメラの捕獲に成功。まさか本当にオスだったとは。う〜む。
 そんなやりとりが繰り広げられている傍らでは、1匹のナマケモノキメラとマジに向かい合っている流月が。
 みればその手には一冊の本。え? 本。これでキメラを捕獲するつもりらしいのだが。距離をとりやにわに本を開く。さらにそれをゆっくりとキメラに届くような声で朗読を始める。そう。何を考えたのか、あまりにもつまらない本をキメラに朗読し、相手がそのつまらなさに眠気を催したところを捕獲しようというらしいのだが、考えてみれば相手はキメラである。間違っても人間ではない。こんな作戦がまさか成功すると本気で思って‥‥。いやそこは傭兵にしか理解できない脳内があるに違いない。
 がそんな本読めば本人も退屈して眠くなるだけとしか思えない。読むこと5分‥‥いや10分。異様かつアッチな空気があたりを支配する頃。
「あ〜〜あ。私がねむ‥‥」
 と思わずあくびをひとつする流月。と神か奇跡か、ゆっくり眼を閉じ完全に眠りこけるキメラの姿が。え? と思えるが考えれば相手は一応ナマケモノ。本物はほとんど日中は寝ているらしいので、こいつが寝てしまっても別段不思議ではないのだが。ウソのような展開で無事捕獲。やってみるものである。というか普通はやらないと思うが。


 こちらでは他の傭兵から離れたところで、キメラと対峙しているヴィンフリート。その手にはなにやら怪しげな楽器のようでそうでない、『バトルベース』が握られていたりする。どうみてもベースにしか見えないが立派な武器なのだ。だがそんなことはむしろ今の彼にはどうでもいいこと。
 いきなり大声で悪声を響き渡らせ、ヘタな歌を歌いだす。そのヘタさは離れたところにいる傭兵達の耳にもとどかんかと言うくらい。だがそれはまだ何とか精神的に許容範囲。彼はただ歌っているだけではなかった。なんとみれば褌一丁なのである。
 なるほど。彼が他の傭兵から遠く離れたところにいる理由がこれ。こんものをそばで見せられたからにはキメラどころではなく、あっという間に人事不省に陥りかねない。そう、ある意味キメラより危険なのだ。
 それを知ってか知らずか、なおも歌い続ける。もはや騒音以外何者でもないと思えた頃、なんとキメラがそのうざったさ?に根負けしたのか、そろそろと隣の木に移動し始めた。まさか‥‥。いや事実起きたのであるから信じるしかない。そこへ土御門が気配をかぎつけ馳せ参じる。スキルを掛け、キメラを弱体化。見た目ではわからないがたぶん弱くなっているであろうキメラは隣の木になんとか移動。
 

 そこへ。そっと忍ぶように近づく影。そう紅桜舞である。
「なるべく眼を合わせないようにしないと」
 などと独り言のようにつぶやきながら、その可愛い顔に惑わされまいと目標をロックオン、接近する。
 その手にはさっきトラックに積んであった枝きり鋏がと大きな袋が。
 シュ〜〜、と相手を威嚇するキメラの吐息が感じられるギリギリのところまで接近。そしてパチリ、と、静かにキメラを枝ごと木から切り離す。さらに一緒に引きずってきた袋に枝ごと放り込む。
「それ〜〜」
 とばかりにトラックへ引きずっていく。ウソみたいだがしっかり捕獲したのである。というかこのやり方がシンプルかつスマートに見える。思えば最初からすべてこの方法でやったほうがよかったのではないか。
「これって、どこかのキメラ研究施設に収容してもらえるんですか?」
 と真面目に尋ねる土御門。捕獲してしまった以上はどこかで収容してもらうしかない。
「この檻って軍がそこから借り受けたんですかね?」
 と石動。なんだそうだったのか、と改めて納得する傭兵達。もっとも手続きやらなにやら良く分らない大人の事情もあり。とりあえず捕獲したキメラは今回軍に引き渡すことになっている。


「いた。いた」
 と沙姫。どうやらやっと新しい獲物を見つけたようだ。にわかにやる気を見せる。
「これぞ、ストレスに弱かった作戦」
 といきなり解説を始める美空。タコなぐりすることなく穏便にキメラを退治する究極の作戦らしいのだが。
『愛でて穏当に処理』という名目だが、目的は愛でる、でなく退治であることは間違いない。だが本当に愛でる気満々な表情。眼がうっとりしている。さらにそんなところへ、
「さて、そろそろ加勢するか」
 とやってきたのがさっきまでひとり茶をすすってまったりしていた劉黄。どうやらすっかりまったりしすぎて任務を忘れるところだったのか? まあ、間に合ったからよしか。
 そんな間にもキメラの真下にのそりとやってくる美空。可愛いお尻、などとしばし愛でた後、己の長い槍を取り出す。でどうするのかとおもいきや、
「‥‥ツキッ‥‥」
 とキメラのお尻をつっつく。
「相手にストレスを与え、疲労の挙句病気になり死ぬまで続ければ自然死」
 と思わず腰が砕けそうな一言。すでに陽も傾きつつあるというのに、明らかにキメラ以上に脱力感を覚える。大体そんなあまりにもぬる〜い、意味不明な行為に何の意味が? だがそれをみていた劉黄、
「加勢しよう」
 とこれに加わりまさにカオスな集団である。さらにいつのまにか沙姫もコレに加わる。3人がチョン、チョン、チョン‥‥とかわるがわる愛らしいといえなくもないお尻をツンツン。
 このあまりにもゆるすぎる3人の攻撃にはさすがにキメラもいたたまれなくなってきたのか、自分から木を降りる気配。その隙に紅桜舞が枝ごとバッサリ切って袋の中へ。かくして無事終了である。が、あれ? そういえばひとりだけさっきから気配が見えない傭兵がいることを誰もが忘れていたのである。


 「皆、何も役に立てなくて誠に申し訳ない。」
 とわびる鳳凰。そうだ、すっかり忘れられていた彼女。重傷の身であることから、一切手は出さず他の傭兵が行動中は地べたに正座して眺めつつ。手持ちの温泉饅頭と牛乳を食べながらまったりと観察していたらしいのだ。
「すまんな。こいつに今殺されるとかあまりにもイヤすぎるのでな」
 どうもすっかりゆるさが伝染してしまったような表情でたたずんでいたらしいのだが。
「どうもみるものを怠惰に陥れる何かを持っていたようだ」
 と妙に説得力に欠ける一言を放つ。さらには
「炙るとか冷やすとかやってみたかったが」
 と残念そうであった。試してもよかったのかも知れないが、間違ってこいつに殺されたとあっては恥以外の何者でもないだろうからやめておいて正解だったかもしれない。
『ナマケモノ 怠け者より 生ケモノ』
 と1句ひねる。うまい。うますぎる。
 かくして10匹ほどいたキメラはすべて「捕獲」され、1匹の犠牲?も出すことなく任務完了である。が何故こんなキメラをバグアが作ったかということは謎である。
 

 さてお楽しみの時間である。無事キメラがすべて捕獲されたので、農場主からは約束された新鮮な野菜サラダが振舞われた。もちろん農場で採りたて絞りたてのオリーブオイルたっぷりである。思わず笑顔がこぼれる傭兵。
 今回の戦果:退治0 すべて捕獲。報告書にはそう記録されていた。