タイトル:基地祭と大石君マスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/23 01:03

●オープニング本文


 UPC欧州軍では、欧州各地に基地が存在している。そこにはその基地が存在する街や村の一般住民もいるわけで、軍としては、そうした基地の町に住む一般住民との、緊密かつ友好的な交わりも重要になってくる。関係が悪くなれば、基地自体の存在も危なくなるからだ。
 で、とあるUPC欧州軍海軍基地。この基地の司令官も、そういったことは十分心得ているベテランの軍人。毎年1回以上必ず、地元や近隣の一般住民のために基地内を解放し、ときには訓練の様子を見せたり、実際に兵器や艦船などに触れさせたり、体験乗船などをおこなったりして、その日ばかりは基地全体が友好&お祭り気分になるのであるが。

「へ〜〜。基地祭のお手伝いだって。どれどれ、何をするのかここに書いてあるが」
 とULT斡旋所の掲示板の前にできる人だかり。毎年恒例になっている基地祭を今年も開催したいのだが、いかんせん、今年はUPC軍も人手不足。基地祭を行うには、裏方的な仕事のできる人間が不可欠なのだが、今年はその人員がいない、兵員が足らない。大規模の影響で兵員自体不足、というわけで傭兵にそういった仕事をお願いしてきたのである。
 なお欄外には、『特別な計らいで、傭兵達の模擬店の出店も1つに限りOKとなります』、とある。
 で、仕事の内容だが、この基地祭は、毎年いろいろなイベントなどのほかに模擬店なども開くのだが、当然来場者は多く、場内警備とか整理、迷子の案内、場内の道案内といった仕事をやる人員が不可欠になってくる。
 しかしながらこの時はまだ傭兵達は知らなかったが、この基地祭にて、キメラもいかにというとんでもない乱入者が、とあることを実行すべくひそかに準備を進めていようとは。

「基地祭、模擬店、と来れば、俺の出番だな」
 といつも以上に白い歯がいやにまぶしい大石君。そう、こやつ何を思ったか、この基地祭に堂々と乱入し、あまつさえ褌の展示即売会を開催しようともくろむ。すでにキメラ以外何者の扱いでもない大石君。ただでさえその存在自体が危険人物なのに、基地祭に乱入し、褌の即売会などを行おうという。こんなことは絶対に許すわけには行かない。しかもそんなことは露も知らない本人、
「さあ、早速俺自ら素材を厳選した、最高級褌を提供しなければ」
 などと、やる気満々の気配である。
 ということで、絶対にこの野望は阻止されなければならないのである。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
獅子河馬(gb5095
18歳・♂・AA
美環 玲(gb5471
16歳・♀・EP
ヴィンフリート(gb7398
20歳・♂・DF
リティシア(gb8630
16歳・♀・HD

●リプレイ本文

●開幕
 恒例の基地祭である。地域住民にとっては、UPC軍の最新兵器や装備に直接触れたり、ふだん見ることのできない訓練の様子などもかいまみることのできる貴重な時間である。ゆえに例年多くの観客、そしてそれを行うための関係者の多大な労力もかかっているのである。
 そんな一大イベントに、まさかヤツがこっそり潜入していようとはこのとき誰も知る由もなかったのは当然である。‥‥傭兵達もまた無事にこのイベントが行われる為、さまざまな面で協力を惜しまない。
 UNKNOWN(ga4276)は、全身黒ずくめのどこかの映画スターのようなダンディズムを追及したいでたちでこの祭りを楽しんでいた。もちろん酒片手に、である。どこか漂う余裕と冷静さがにくい。
 辰巳 空(ga4698)は、会場の警備を無難にこなしつつ無事にこのイベントが終わる事を願っていた。
 獅子河馬(gb5095)は、特別に許可された模擬店で、金魚すくいの係り。そう、今回傭兵達にも特別に出店が許可されたので、横長の大きなテントの中で、種種雑多なイベント屋台を出店しているのである。
 その横では美環 玲(gb5471)がアクセサリーを販売していた。なんとすべて手作りだそうで、希少価値は高そうである。金運を向上させるダイスとか誕生石をあしらったものや、幸運が増すというクローバー型指輪など、人気は高そうである。
 ヴィンフリート(gb7398)は場内整理中。なにせたくさんの人である。迷子だって出るだろうし道に迷う大人だっているのである。大いに汗を流している。
 最後がリティシア(gb8630)。ちょっぴり趣向を変えたゴスロリ喫茶である。え? と思うかも知れないが、今日はお祭りということで、学園の文化祭的なこの出店も許可されたのだ。軍人も多数徘徊している会場内に、ある種奇妙な雰囲気こそ漂ってはいるが、どうしてなかなか盛況である。お祭り大好きなのだ。
 かくして、このまま無事に祭りは終わるものと傭兵達誰もが信じていた。そう、ヤツが来るまでは。

●ひそかに
 そして、そのヤツ。恐ろしいことに何日も前から、このイベントに備え準備していたのである。祭り開始の何時間か前‥‥
「さて、これで準備はすべて終わったな。あとはこの俺が開く出店での売り上げが楽しみだが」
 となにやら、そのムダに白い歯を見せてひとりほくそえむヤツ。そう、ヤツこそあの大石・圭吾(gz0158)である。すでに幾たびかところ構わず乱入し、そのたびに多大な犠牲者を排出している。つまり傭兵達にとってはすでにキメラ扱い以外の何者でもない、ヤツである。
 こともあろうに今回、どこでかぎつけたのかこの基地祭という地域の一大イベントにはばかることなく乱入し、あまつさえ褌を売りつけようという、まったくもって許しがたい行為を行おうとしているのだが、肝心の本人にそういった意識はまったくない。というか、自分がキメラと同じ扱いをされていることさえ知らない様子。
 それだけではない。この大石、今回に備えなんと自らあちこちを駆け巡り、その素材から厳選した、と証する自称「大石特選褌」なるものを売りつけようともくろむ。さらには、まかり間違って購入でもしようものなら、漏れなく自分の揮毫まで、褌にいれるというサービスまで考えている始末。
「今回は、俺自らがあちこち探しぬいた挙句に選び抜いた厳選素材でできた高級褌だからな」
 などと分けのわからないことを言い出す。
「しかも、カラーバリエーションも豊富」
 と、なにやらド〜ンと広げた各種褌、見れば単に白、にとどまらず、あんな色やこんな色まであるという念の入れよう。まったくもって、どうやって入場許可書やら出店許可書を手に入れたのか、UPC軍の関係者を詰問でもしたいところだが、本人はまったく意に介すどころかむしろ当然といった感じ
「祭りの会場に、この俺がいないというのも祭りのステータスにかかわるからな」
 などとまるで、自分が主役でもあるかのような言い草。
 こんなヤツが堂々と会場に乱入しようと言うのだ。何がなんでも阻止しなければならない。が、そのことを傭兵達はまだ知らない。

●ヤツが来た
 その異変に最初に気がついたのは、金魚すくいをしていた獅子河馬である。突如、彼の金魚が変調を来たし、腹を返してしまう金魚もでてくる始末。あわてる獅子河馬。だがその時点ではまだ原因はわからぬまま。彼がそれを知るのはもう少し後になるのだ。
 その頃場内で一番目立つと思われるところに出店した出店のひとつに、他の参加者、一般人の多くがそのあまりの光景に目を疑うことになった。
 テントの下、整然と並べられている長い反物のような布製品。そして背後には、そう、カラフルな色彩の長いその布がつるされていた。そう。これこそヤツの店なのだ。当然そのテントの下で、いつものスタイルで完全に危険な雰囲気をかもし出している男、決してかかわってはいけない、と誰もが思うに違いないこの大石が、いつもの如くムダにさわやかにそこに立っているではないか。
「やあ。みんな俺が大石だ。ところでそこの諸君褌に興味はないかい?」
 などとそばを通る一般の観客にだれかれ構わず声をかける。
「今、興味がなくても、この俺様の特製褌を見れば、絶対に興味がわくはずだ。なんたって、俺様が自ら厳選した素材でできた超高級品。しかも色も豊富だ。さあさあ、どうだい? 贈り物にも最適だぜ」
 ついにはそこらへんの人々を強引に巻き込む勢い。
 そのあまりの光景に、おそれおののいた観客。中には恐怖のあまり泣き出す子供や、悪夢をみたかのように全力で走り抜ける人、そうでなければ遠巻きにして、ひそひそとなにやら小声で話す人。‥‥だがさすがに何人かは、
「すぐに、会場警備を呼んでくれ。早く退去させてくれ」
 と大声で叫ぶものも。
 そんな声が最初に耳に届いた傭兵は、ヴィンフリートだった。
「すいません。なにやら得体の知れないものを販売している裸の男の人がいるんですが」
 と彼の許にやってきた若い女性の一言を、最初は何のことか理解できなかった彼。だが次の一言で、彼はそれが何を意味するか、直ちに理解した。
「その人、褌一丁なんです」
 皆は不要だった。褌、と聞いたその瞬間、まさか、の思いが駆け抜ける。とっさに彼は無線機にこう叫んでいた。
「大変だ。信じられないと思うが、大石が乱入している。しかも褌を‥‥」
 すべては不要だった。大石が乱入、この一言で十分だった。中にはこの事態をなにやら胸騒ぎしていた者もいたのかも知れないが、次の瞬間には傭兵6人全員、まるでキメラ戦のような心構えになり、直ちに対大石に向けて行動を開始していたのである。時は一刻を争う由々しき事態、と誰もが感じていた。
 かくして大石排除大作戦が発動したのである。はたしてつつがなく追い出せるのだろうか?

●まずは
 まず最初に現地に駆けつけたのは、会場警備をしていた辰巳。で、さっそく大石のそのとんでもない出店の写真を撮る。そのとき、どこからか威勢のいい御輿ばやしが聞こえてきていた。そう、絢爛豪華な御輿が練り歩きはじめていたのだ。この御輿が後々活躍することになる。
 一方、大石の一報を聞いた獅子河馬。突然の金魚の異変が、ヤツと無関係ではないと確信し、怒りに燃え、大石排除作戦に加担する。さらには、ゴスロリ喫茶を開いていた、リティシア(gb8630)も参戦。やや遅れて、最初に大石乱入の情報を受けたヴィンフリートが現場に到着した頃には、御輿の音が大分おおきくなって来たときだった。
「あまり乗り気ではないのですが、周りの方々のことを考えると退場していただかなくてはならないですわ」
 と美環 玲(gb5471)。どちらかといえば大石に好意的ではある。だが、ここはなんとかして速やかに御退場いただかねばならない。

●さらに
 とりあえずダメもとで警告、説得を試みる辰巳。そんなものでおとなしくなる大石ではないのはわかりきっているが、実はあることを実行するための時間稼ぎだったりする。
 そう。彼らは接近してくる御輿のそのお囃子を聴きながら、あることを行うべくひそかに行動を開始していたのである。そのため御輿に近寄ってなにやら話をする傭兵も。
 やがて御輿は何事もなかったかのように、ゆっくり大石の店の方に向きを変え、さらに勢いを増していった。
 ‥‥その頃大石を囲んだ傭兵達。どこから手に入れたのか、それとも他の出店の店主のご好意か、大量の食い物を大石の出店に持ち込む。
「さあさあ、大石さん。あなたのような有名人にお会いできて光栄です。これはそんな皆様からのおごりです。どうぞ召し上がって」
 などととにかく言いくるめ、御馳走をすすめる傭兵達。それもこの後の作戦への布石か。美環があれやこれやと振舞う。空腹だったこともあり、いわれるままに食する大石。作戦成功である。
 かたやリティシアは、どこで手に入れたか致死量寸前の痺れ薬を入れたお茶を持って大石に接近。
「あっ褌で有名な大石さんですね。お茶をどうぞ。サービスです」
 などといいくるめつつお茶を勧める。だがそのおそるべき本能で、なにやら察したか大石、いらないというそぶりを見せる。しかし、これを飲ませなければ作戦成功はない、とばかり無理やりああだこうだと飲ませようとする。
 そんな問答のさなか、ゆっくりと大石に接近するヴィンフリート。といきなり北の方を指差し何やらこう伝える。
「大石さん。噂によればはるか北の方で、女褌祭り、なんてものをやってるらしいですよ。でも褌といえば、やはり大石さんの右に出るものはいない。やはり、ここはあなたが行って本家のすごさを見せるべきでしょう。いや、見せなければいけません。あとのことは褌愛好会が責任を持って、きっちりと販売させていただきます。さあ、早く。今すぐ旅立ってください。でもはるかかなたですよ。ざっと2000km‥‥」
 などと無茶苦茶な話で大石を屋台の外の通りに押し出す、いや力ずくではじき出すやいなや、さっと一斉に道を開け、大石の周りを無防備な状態に。そこへ、傭兵達の狙いのものが‥‥

●かくして
 グシャ、という鈍い音。そう作戦通りうまく言いくるめて誘導した、例の御輿が大石めがけて突っ込んだのである。いや担ぎ手は、まさか人がそこにいるとは思わなかったのかも知れない。ただ、威勢良く通り抜けて、と言われただけのようなのだが。その場で動かなくなる大石。さっき無理やり食わされた食い物で、動きが鈍くなり、かつ痺れ薬も効き始めた頃だったようで、逃げる暇などなかったのだろう。
 その光景に、大石のことを知らない一般人は悲鳴を上げた。まさか、人が御輿に轢かれるなんて。とおもったのだろう。だが、大石の実態をしる傭兵達は平然としたもの。表情ひとつ変え‥‥、いやむしろうれしそうでさえあるが。

●仕上げ
 とそこへ、なにやら保健所の職員のような服装の男性が一人、ゆっくりと大石に近づく。そう、これは獅子河馬が変装した姿。
「すいません。保健所の者ですが。実はこのそばの屋台で金魚が変死しまして、先ほど あなたの販売中の褌の病原菌検査をしたところ、他の動植物にも影響をあたえ、褌愛好者のみ感染するというバグア由来と噂されるウィルスが確認されました。よって、これから駆除を実施します」
 などとウソ八百を並べ立て、すでに気絶している大石に冷酷に言い放つ。その傍らでは、さも大事そうな表情をしつつ、もったいぶった演技?で、応急手当といいつつ、動けないように彼を固定する辰巳。
 するとそこへ、ダンディーに決めたUNKNOWNが登場。彼は、左右に首を振り、響くバリトンの声で、さも大石が死んでしまったかのような、レクイエムでもきかせるような口調で大石に対する弔辞のような言葉をささやく。
「‥‥わが友よ」
「‥‥この空で、高きこの空の上からこれからも見守ってくれ」
「皆も、祈ってくれ。――ヤツのために」
 などと慟哭の言葉をつぶやきつつ、その場で動けない大石に蹴る、踏みつけるのしたい放題をしたあげくには、
「ヤツを襲うバグアは、どうしてもみつけることができない」
 さらには天を仰ぎこうつぶやく。
「バグアめ」
 その間にも、大石は担架に乗せられ、どこで用意したのか救急車の中に運ばれていくのであった。ゆっくりとその姿から眼をそらす一同。
「さらば、わが仲間よ」
 といいつつタバコを噛むUNKNOWNであった。

●トドメ
 だが、これでは不十分である。と誰もが感じていた。やつにはまだトドメが必要なのだ。とばかり救急車の中で、最後の仕上げにとりかかる獅子河馬。本来は、大石が気絶する前に無理やり運び込む手筈だったが、御輿突入によって、ヤツが気絶したので、手間が省けたような形になったのであるが。だが、それでも手を抜くことはない。
「あなたには適切な処置・治療を受けてもらいます」
 と無言の大石に、さももったいぶって告げ、強力な麻酔剤を血管に注射する。ビク、と一瞬動きかけた大石だったが、すぐに完全に眠ったような状態になってしまった。これで完璧である。顔を見渡す傭兵達。
 で、こうなればもはや大石もただのゴミと同じである。しかも不燃物扱い。というわけで、たまたまとおりかかった不燃物収集車を呼び、それに大石をほおリ投げて、持ち去ってもらうことに。
 こうして、半ば強引かつめちゃくちゃながらも無事に大石君に退場していただき、再び会場に戻った傭兵一同は、酒を酌み交わし乾杯しつつ、祭りを楽しんだそうである。

●天罰
 このような騒ぎが起こったことで、UPC軍から、事情の説明を求められた傭兵達ではあるが、大石の出店の写真を見せつつ、辰巳がこう説明している。
「日本の神様は『穢れ』を嫌いますからね。これを日本では天罰、といいますが」
 とは、さもあらんである。
 で、褌はどうしたかというと、その説明を真に?受けたUPC軍により、すべて焼却処分にされたとのことである。さぞや盛大に燃えたことであろう。できれば、カラー褌なるものは、試着してみたかった気もするのだが。いずれにしても、ただの1枚も売れることはなく、その褌は天に還っていった。厳選素材だけあってその燃え方もよかったようである。

●これくらいでは
 「ん? 今、何か落ちたような音がしたが」
 と不燃物収集車を運転していた男が、助手席の男に告げた。
「いや。気のせいだろう。もう一本いくかい?」
 と気にする風もなく、タバコを勧める助手席の男。
 とそのとき、収集車の後方を走行していた、1台の大型トレーラーが、なにやら巨大なゴミのようなものを轢いていったのだが、誰も気がつかなかったようである。
 後日、あちこち傷だらけになった褌姿の男が、地元警察に保護されたニュースが新聞に掲載されたことを知るものはほとんどいなかったらしい。