タイトル:十字架とキメラマスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/22 23:48

●オープニング本文


 イベリア半島のとある街はずれの丘。ここの古くなった教会が、新しく立て替えられ、落成式典が執り行われようとしていた。
 ここは観光スポットにもなっている景勝地で、観光客もよく訪れている土地である。
 その新しい教会の荘厳でかつ巨大な十字架が天にそびえる様は、威厳に満ちており、これからさらなる観光名所とすべく、地元の期待も大きかった。
 が、誰がこれから起きることを想像できたであろうか。
 式典を前に、最後の準備があわただしく行われていた。参加しているのは、工事関係者、地元の有力者。そして地元の観光の目玉として、おおいにPRしたいと張り切っているいくつかの地元のマスコミ。

 だが、その光景は一瞬にして地獄に変わる。

☆☆☆☆☆

「‥‥キ、キメ‥‥」
 と最初に発見した工事関係者が声にならない声を上げた。叫ぶ間もなくキメラの餌食になる。でつぎの瞬間、
「キメラ〜〜〜〜〜〜!!!!」
 と別の工事関係者のすさまじい絶叫があたりの華やかなムードを一瞬にして阿鼻叫喚に変えた。
「ギヤアアアアアアア」
「ウワアアアアアアアア」
 と声とも思えない悲鳴を上げて逃げ惑う参加者達。周囲は大混乱のパニック状態である。どこからやってきたのか、複数のキメラが教会裏手の森から突如現れたのだ。それは、まったく予想すらできなかった事態。なんでこんなところにキメラが‥‥
「誰か、軍を。UPCを貸してくれ」
 と叫ぶ地元関係者。多少言葉の意味が通じにくいのは、そのうろたえようが尋常ではないことを示しているのだろう。とにかく逃げなければ、と先を争うように会場から逃走する出席者たち。だが、また一人、キメラの矛先が向けられる。
 そんな混乱の中に、なぜかこの人‥‥週刊個人雑誌クイーンズの突撃記者である土浦 真里(gz0004)、の姿があった。たまたま休暇を兼ねていたのだが、事前にこの教会のことを知り、休暇ついでに取材ということで、許可をもらって参加していたのだ。
 もちろん彼女にとっても予想外の出来事。逃げ惑う参加者達を横目にみやりつつも、そこは突撃記者。はじめのうちは大胆にも避難者の誘導などを行っていたのだが、彼女にそれ以上のことはできるわけもなく。次の瞬間には、「来てね♪」と連絡している彼女の姿があった。
 もちろん、彼女が即座にそこから逃げ出したのはいうまでもない。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
櫻杜・眞耶(ga8467
16歳・♀・DF
今給黎 伽織(gb5215
32歳・♂・JG
赤い霧(gb5521
21歳・♂・AA
流 星刃(gb7704
22歳・♂・SN
緑間 徹(gb7712
22歳・♂・FC
ソウィル・ティワーズ(gb7878
21歳・♀・AA

●リプレイ本文

●逼迫
 「来てね」と言い残して、その場から脱出した土浦・真里(gz0004)、その電話口越しに聞こえた、喧噪と混乱した声が、現場の状況を物語っていた。連絡した本人がいない状況下、リアルに今現地がどうなっているかは想像するしかないが、決して楽観できる状況でないことだけは、傭兵達誰の目にも明らかだった。その頃‥‥。
「グワアアアアアア」
 ‥‥どこかで再び地獄のような叫び声。また誰かがキメラの餌食になったようだ。逃げ惑う民衆。押され転倒する女性の悲鳴、誰かの怒号。華やかなはずの式典会場は、まさにカタストロフィの様相を呈していた。
「こっちだ。急げ!」
「ダメだ。教会の裏手にキメラが迫っている」
 ‥‥次々と寄せられる新たな知らせにパニック状態の一般人。逃げようにもその道はそれほど広くなく、しかも周囲は森。そのことがさらに群集心理を圧迫しているのである。キメラがいつどこから襲ってくるのか、というえもいわれぬ恐怖はあたりを支配していた。
「順番に。あわてるな。女性と子供が先だ」
 といっているそばから、先を争うように逃げる来賓者と思える年配の紳士達。
 急遽現場へ向かう傭兵達にも、それは肌身に感じられた。真里の携帯に電話をしようとする、櫻杜・眞耶(ga8467)。だが、その向こうは電源が切られているらしく、空の発信音のみが虚しく響く。もしかして電話もできないほど、あわてて脱出でもしたのだろうか? 急がなければ‥‥、今いえることはそれだけである。十分に作戦も立案できなかったであろう状況の中、対キメラ戦が開始されようとしていた。

●作戦
 現地へ向かう途中で急遽決めた作戦。ドクター・ウェスト(ga0241)がその概要をメモしていた。‥‥まず、3班に分かれる。「先行班」「前衛班」「避難誘導・護衛班」である。現地状況が不明確な中、まだ一般人は避難が完了していないだろうとの傭兵達の判断で、参列者や地元民の避難誘導の必要性を判断している。真里ひとりでできることはたかが知れていると踏んでいるからだ。
 先行班は、現地にてその実態と数が現状不明なカピバラ似?キメラの捕捉、および個体数確認を行いつつ、敵の動きを捕捉し、牽制する役目。緑間 徹(gb7712)と今給黎 伽織(gb5215)がその役目。「探査の眼」を使い、短時間でより広い視野でキメラを捕捉したい今給黎と逃げ遅れた人物の把握を優先したい緑間。
 前衛班は、発見、捕捉されたキメラとの戦闘をメインに受け持つ。当然、今回の作戦の成否を担う、重大な役割である。それだけにメンバーの士気も高い。ロジー・ビィ(ga1031)は、二刀小太刀を携え、教会の建物への被害だけは避けたいという気持ち。櫻杜はまず教会に向かい、安全の確保を最優先しつつ、キメラの殲滅にあたる予定。赤い霧(gb5521)は、避難民の安全確保もあわせつつ、あわせてオリーブの木も守りたい、という他の傭兵とは多少違う観点に立っている。最後、ソウィル・ティワーズ(gb7878)は、いきなりの呼び出しに多少の不満を抱えつつも、自らに気合を入れ、作戦に臨む構え。
「なめられるわけには!」
 という決意が、表情となって現れていた。
 で最後が避難誘導・援護班。逃げ遅れた一般人を落ち着かせ、的確に避難誘導するのが目的。あわせて、避難民をキメラから守ることも忘れない。信仰心は厚いが多少キレている感じのあるドクターは、キメラの研究ではその道の権威としてもそこそこ名前が通っており、今回も退治後のサンプル採取を目的のひとつとしている。そして、流 星刃(gb7704)。極力力をセーブし、非能力者への無用の被害には細心の注意を払いつつ、かつ、教会にも傷つけないような戦い方を心する。
 この8人で、現場の統制と秩序の回復を図りつつ、キメラを相当する、というのが、今回の作戦の概要である。だが、不安もある。パニックになった一般人の予想外の突発的な行動に対処する必要もあるし、キメラの数が想像以上に多かった場合、など。だが、今はためらっている余裕などない。事態は一刻の猶予もないのだから
「ひゃひゃひゃ」
 と意味不明にも取れるドクターの声が不気味にあたりにこだまする。戦いに赴く前に、静かに祈りをささげるロジーの姿が、ある意味印象的にも写る。神の加護は果たして得られるのであろうか? まさに神のみぞしる、ところである。
 現地では、犠牲者は少しずつ増えつつあった。一人、また一人。幸い命永らえたものもその恐怖のあまり、ただおびえきったように視線が宙を泳ぐ。

●捕捉
 現地の騒乱ぶりは、ある程度予測できてはいたが、それでも傭兵達も思わずうめく。あちこちに転がるけが人。すでに息はないと見える犠牲者が、担がれてどこかへ運び出されていく。みな、傭兵たちの姿に気がついてはいるはずなのだが、それどころではない、といった様子。
 現地に着くなり、すぐさまキメラの捕捉に走る先行班。
「ここから見える範囲でも、すぐ見つかりそうな気がするが」
 と今給黎。相手は2mぐらいの大きさという情報が正しければ、目立つため見つけやすいと考えている。
「見えている以外の敵の数を把握と、逃げ遅れた人の有無も」
 と大剣を抱えた緑間。キメラの数がわからないとはいえ、なんとしてもこれ以上の犠牲者を食い止める必要がある。まずは、教会を中心としてキメラの個体数の確認作業。
 ‥‥程なく3匹のキメラを発見。教会裏手でうろうろしているそいつは、程なく完全に視界に捉えられた。さらにその奥に2匹。まだいる可能性も。
 なるほど。真里の報告にあったとおり、図体こそオリジナルよりでかいが、顔形は、どことなくカピバラに似ていないこともない。直ちに、位置と個体数を前衛部隊に報告。と同時に、これ以上の犠牲を阻止すべく、キメラの動きを牽制する。
 ブサかわいい、ともいえなくもない容姿だが、南米では食用である。遠慮する必要はないのである。途中、民間人の遺体を発見。形ばかりだが哀悼の意を表す。
 とりあえず手近なキメラに狙いを定める先行班。すでに前衛班も行動開始している。スキルを発動し、攻撃を仕掛ける先行班。相手はでかいが、傭兵達にとっては、大きい的のようなものである。今給黎の『影撃ち』、緑間の『刹那、円閃』による確実なダメージ。やがて前衛班が射程に捉えられる距離にまで接近。先行班は、さらなるキメラの捕捉のため、教会から距離をとりつつ探索する。無論「探査の眼」が使われる。
 探すことしばし。最初にキメラが現れた付近から少し奥へ。‥‥いた。ほぼ同時にヤツラもこちらの動きに気がついたようだ。思いのほか敏捷な動きでこちらにキバを剥き、迫ってくる姿が捉えられた。ただちに、前衛班に連絡しつつ、足止めを図るべくキメラの進路に立ちふさがる。

●追撃
 先行班と微妙な距離を保ちつつ、確認されたキメラを追撃、殲滅する前衛班。ロジーは『先手必勝』『流し斬り』により、迅速かつ大胆にキメラを狙う。
「まあ、所詮はネズミですからねえ」
 と櫻杜。キリスト教においては、カピバラは魚類に分類されているのは御存知だろうか? まあ、食用と考えればうなずける話だが。硬い爪と体毛に注意しつつ確実にキメラにダメージを与える。
 悪魔のごとき咆哮をとどろかせつつ、側面からキメラの死角を狙い『流し斬り』『両断剣』発動する赤い霧。時には決して無理はせず、カウンター狙いの受けに徹しつつ、同時にまだ避難し遅れている一般人がいる可能性も計算しての堅実な戦い方である。民間人の方へ決して矛先を向けさせない位置取り。さらに味方への配慮も忘れない。
「やらせはしません。取り逃がしたら被害甚大になりますからね」
 犠牲者のその醜い有様に、心穏やかならざるも、敵の動きを読み、敢えて正面からの戦いに挑むソウィル。『流し斬り』『両断剣』をハデに使い、敢えて目立つような動きをしているのは、味方が有利な状況になるならば、敢えて囮も辞さない覚悟に見受けられる。多少のダメージは、自らの身で受け止める決意なのだろうか?
「避難が済んでいない人は?」
 と周囲を気にする。さすがに、時間的に大分経過していることと、教会の裏手、少し距離があるところなので、民間人がはじめからいたとは思えないが、なにせ、パニックな状況。用心に越したことはない、ということか?
 ‥‥あらかた、殲滅したところで、先行班がさらに複数のキメラを捕捉したとの情報を受ける。すでに彼らが戦闘行動を開始しているとのことだが、援護のため、さらに森の奥へと進む。途中で、犠牲者らしき?遺体を発見。教会から大分離れているのだが、今回の犠牲者なのだろうか? いや、すでに白骨化が進んでいるところからして、死んでから時間が経過しているようだ。
 と前方で激しい戦闘音と剣の音。遠めにもアキレウスをたたきつけるようにして何者かと争っている、緑間の姿が垣間見える。急ごう。と、
「うわ」
 いきなり、横から何か飛び出してきた。キメラだ。何故気がつかなかったのか。不意打ちによけ損ねた赤い霧。が、咄嗟に振り上げた剣が運良く直撃を免れる。傷は浅そうだ。ロジーがフォローし、すぐにこいつを仕留める。
「Es ist das Ende!」 
 とドイツ語でなにやらつぶやく赤い霧。危なかったが、どうにか切り抜けた。

●その頃
 避難誘導・援護班は、パニックになった住民たちの避難誘導と負傷者の運び出しと現場の秩序の回復に追われていた。本来なら、避難誘導が順調に行っていれば、キメラ殲滅の援護に回る手筈だったのだが、状況はそう都合よくはなかったのである。
「さ〜〜。こっちこっち」
 と大声で誘導するドクター。何しろキメラが奇襲状態で現れたのだから、混乱ぶりは相当なものであることは想像していたのだが。
「教会内に、一般人たちが逃げ込んではおらんやろな」
 と流。教会付近では、できれば戦闘は控えたい。キメラをまず接近させないこと。そう考え、教会入り口付近で待機し、覚醒して万が一に備える。避難誘導はドクターに任せようと考えている。
 右往左往し逃げ惑う人々は、道を誤り、より危険な方向へ逃げようとする人もいるので、そういった人を無事に安全なところへ誘導する必要性もでてくる。
「こっちは危険でっせ! すぐに向こうへ」
 と大声をかけつつ。周囲に気を配る。視界にチラリ、とけが人らしき避難民が目に入った。両脇を誰かに抱えられるようにしながらよろよろと安全な道の方へ逃げていく。
 と、人ごみの中、
「ひゃひゃひゃ。まかせときんさい」
 とドクターが大声で叫ぶのが聞こえる。これだけの混乱の中、冷静さを保っているのが救いである。口調は少々イカレているが、行動は確かである。
 能力者と気がついたのだろうか? 避難民の一人が歩み寄ってくる。
「早く、キメラを早く。家族とはぐれてしまって‥‥」
 と途方にくれている様子。あきらかにうろたえ、冷静さを欠いている。そんな人たちを落ち着かせ、敏速に避難させるのも誘導班の役割である。落ち着いて対応する流。

●決着
 キメラは数こそそれなりにいたものの、強さそのものは思っていたほどでもなく。手練の能力者にとって困難な相手、というわけでもなかったようである。周囲の森をグルリ、と捜索し、まだキメラが残存していないか確認する先行班。
「かたづいたみたいだね」
 と今給黎。遠く、避難民のざわめきこそ聞こえるが、あたりは静かになった。キメラの気配はもうない。以前の静寂な森に戻ったのである。
 キメラがいないことの確認を受けた前衛班はほっと安堵の表情を浮かべる。彼らの素早い、的確な行動で、なんとか教会の建物に被害は受けずにすんだようだ。もっとも、キメラ自体建物に興味はなかったと思われるが。教会近辺で戦っていたら、結果はもっと違っていたかも知れない。巧みな誘導のなせる業である。
「さて帰りましょう」
 と櫻杜。彼女にしてみれば、真里姐さんの後始末?が終わって、少なからずホッとしているのだろう。と、
 教会の方から、避難誘導をしていたドクターと流がやってくる。どうやらこちらも無事に混乱を収めたようだ。避難民への犠牲の拡大を最小限に食い止めたのは幸いだったが、キメラの餌食になった一般人がいたことは、残念なことであった。
 全員、頭をたれ黙祷する。犠牲者への追悼の意を表すためだ。後日、遺体は教会で丁寧に葬儀が行われ、埋葬されたとのことである。

●後始末
 ふいに、ドクターがキメラの残骸?の方へ歩み寄る。どうやら自身の研究所で、研究材料としたいようだ。その大きさ等の概観から大体の戦闘能力が、細胞サンプルなどから弱点がわかるらしいのだ。
 そんなドクターに気をとられている傍らで、櫻杜がなにやら近くの木にぶら下げている。見るとそれは何か匂いの強い野菜が入った布袋らしい。近寄ると強烈な匂いが漂ってくる。どうやら罠らしいのだが、これでキメラが本当に近寄ってくるかは疑問である。もしこれに何らかの異変があれば、すぐに傭兵に連絡をということなのだろうか?
「10月にはオリーブの収穫時期ですからね」
 と櫻杜。そう、今度はオリーブが被害にあわないとも限らないからだ。
 ところで、という表情で仲間を見る今給黎。
「カピバラって、南米では食用らしいんですけどね」
 曰く。味は豚肉に近いらしい、とのこと。

●大団円?
 しかし、やはり真里は転んでもただでは起きなかった。後日発行された、「週刊個人雑誌クイーンズ」には、この事件の顛末が、体験者の証言つきでしっかりレポートされていたのだ。あまつさえ現地のリアルな写真まで掲載されて。
 ということは、本人はしっかりどこかで取材していたことになるのだが、一体どこにいたのだろうか? この記事を読んで櫻杜はあることを思い出していた。そう、キメラを追撃中に、すぐ近くを大慌てで走りぬけていく人影のようなものを視界に捕らえていたのだ。状況が状況だっただけに気に留める余裕はなかったが、まさか‥‥。そこまで考えて、思わずため息をつく彼女であった。