●リプレイ本文
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大西洋に浮かぶ神秘的な小島。平和な時代であれば、間違いなくリゾートとして観光ガイドに掲載されたであろう。美しい青い海の真ん中の、白い砂丘に囲まれたその小島に今いるのは、観光客ではなくキメラという名のバケモノ。そしてそこへわたろうとする人間も、観光客ではなく、傭兵という名の戦う人間たち‥‥小島へ向かうボートはエンジン音をうならせながら波間を快調に進む。
「あ〜あ。こんな美しい小島で、キメラ退治か〜〜〜。泳ぐには最高なのになあ」
さも残念そうなのは、戌亥 ユキ(
ga3014)。きっと泳ぎたかったに違いない。空を眺めることが好きな彼女は、大きな海と青い空をぼ〜、とながめつつ。
「それを言うなら、私なんか全身黒ですよ〜〜。やっぱり、こういうところはスク水に限ります」
と言葉を返すハルトマン(
ga6603)。返す返す、水着持参でないのが残念そうである。スク水、というか水着ならば確かに動きやすいし、ぬれても問題ないのだが、戦いやすいかどうかは別ではある。
「こういう暑いときは水筒持参で来るのが、賢いんですよ。日射病には注意ですからね」
と、いきなり水筒の水を飲みだすヨグ=ニグラス(
gb1949)。確かに海面の照り返しは暑い。ただでさえここは大西洋の真ん中。ふりそそぐ太陽光線がまぶしいくらいである。
そんなやりとりを横目に、はいてきたコンバットブーツの紐を締めなおす皇 流叶(
gb6275)。現場の地形から足元の悪さを想定し、砂漠仕様の靴である。
同じく、探検用?とも思えるジャングルブーツで足元を固めたリュイン・カミーユ(
ga3871)は、武器を手に船の前方を見つめてつぶやく。船が少し揺れるが苦にもしない様子。
「補給は、戦場の勝敗をも決するからな。雑魚キメラごときで、補給路を邪魔されるわけにもいかない」
その表情は厳しく、すでに覚醒している風にも見受けられる容姿に変貌していた。‥‥。目的の小島がだんだんその姿を大きくしていった。そいつはみるからに傭兵たちを招かざる客としているようなどこか不気味な静寂をもって、洋上にたたずんでいるようにも見えた。
「物資を守るためにも、ここは絶対に制圧しないといけないし」
とキッと前方を見据えるアズメリア・カンス(
ga8233)がいる。
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すでに小島は目の前。用心の為、乗ってきたボートのエンジンを切り惰力で慎重に進む。それで足りなければ、傭兵達が手で水面を掻き、とにかく無用な音を立てないように慎重かつ大胆に‥‥さらに、できるだけ目立たぬように背を低くした姿勢で。だが、ただ一人戌亥だけは、立ち上がり弓を構え警戒しようとする。が、
「このゴーグルの望遠で確認した方が安全かも。これなら気づかれる可能性もすくないし」
とアズメリア。結局全員が低姿勢で、桟橋の影になるような位置からじわり、と上陸予定地点に接近。波も穏やかだ。‥‥ゴーグルの望遠で見る限り、何かが動いているようには見受けられなかったが。
「確かUPC軍の事前情報では、残橋付近には確認されているんだよな。」
とリュイン。上陸しないかぎりたぶんその姿は明確に捕らえられないと考えている。
「ここから見る限り、穏やかな小島にしか見えないですけどね。まあ、気合を入れていきましょ」
と浅川 聖次(
gb4658)。身に着けたペンダントにそっと触れる。そこにはたった一人の肉親の妹の写真がはめ込まれている。さらにギュっと握りしめる。
その傍らで自動小銃にゆっくりと弾を込めながら上陸の開始を待つ、メシア・ローザリア(
gb6467)。見た目はタカビーお嬢様風、実は並外れた努力家であるだが、その態度と口調からあまりいい印象をもたれないことも過去あったようである。
‥‥やがてボートは桟橋に飛び移れる距離にまで接近した。死角ということもあって、キメラ、傭兵双方まだ相手を認識できない状態。風もなく穏やかである。
「上陸したとたんに、お出迎えはやですわね」
と奇襲を怖がる戌亥。すでに全員が覚醒状態である。すぐにでも飛び出せる態勢で待機。桟橋は明らかに古そうで、ところどころいたんではいるが、まだまだ十分に使用に耐えそうである。
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‥‥着いた。慎重に自分たちの気配を殺しつつ桟橋の上に。幸いいきなりの奇襲はなかったようだが、あきらかにすぐそばにキメラがいる気配は感じられる。フォーメーションをとる傭兵達。前衛3名、後衛2名、それと左右から回り込むもの2名。常に海を背中側にし、敵に背後をとられないように注意しつつ。
「ん。この程度の足場なら、ふんばりもききそうだし、足元で不覚をとることもたぶんなさそうですね。」
とは浅川。リュインも小さくうなずきつつ、右手の方へ大きく回りこむ。敵を挟撃し、背後を取る狙い
「なら、私は左へ」
と皇。こちらは左側から挟撃を狙い移動する。もちろん相手に極力気がつかれぬように低姿勢で、砂地で無用の足音を立てぬよう慎重に。
「敵来ます。前方に3匹。接近中」
とハルトマン。さっそく弾幕をはる準備をしつつチラリと左右に眼をやる。側面からの襲来はない。
「現れたな」
とリュイン。
「今ならこの弓で奇襲がかけられる距離ではありますね。たぶん」
と戌亥。船の上では身を伏せていたので、大きく伸びをしてゆっくりと弓を構える。
「喜んでお出迎えかも?」
手にしていた軍用双眼鏡をすぐさま剣に持ち替え、ほくそえむ皇‥‥浅川、ハルトマン、アズメリアの3人が横に並んだ形でキメラを射程にとらえる。さらに後方から、戌亥、ヨグ、メシアが続く。前と後ろでペアの形になり隊列をつくる。前衛のフォローが後衛の役割だ。やっとキメラがこちらの動きに気がついたようだ。どうやら何かを貪っていたらしい。食事中に申し訳ないが、と傭兵達が思ったかどうか。
「カミツク気まんまんでしょうけど、そうはさせないからね〜〜〜」
といきなり、キメラに向かって大声を上げる戌亥。かと思えば、ハリウッド映画のように巨大ガトリング砲を構え、まるで戦車か何かを相手にでもするように威嚇するハルトマン。重そうに見える。
「さあさあ。こいつが受けられるなら受けてみなさい」
というが早いか、ドカン、と一発お見舞いするハルトマン。やや手元が狂ったかキメラには惜しくもあたらず。が、迫力満点、牽制効果大である‥‥かたや、大きく右側へ回り込んだ後、しっかりと足元を確認し足場がさほどわるくないことを確認するリュイン。
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桟橋からすぐそこの見える位置に、キメラが3匹。予想以上にでかく、接近すると傭兵達の前に立ちはだかるような大きさ。風体はライオンのようだが、2本の牙があり、その4本足には巨大な爪。さすがにこちらの接近を受け、近づいてくるが思ったよりは鈍重な動き。これなら背後をとられる心配はないかもしれない。だが用心に越したことはない。回り込み班に軽く手を上げるハルトマン。‥‥OK、とばかり片手を挙げ、『瞬天速』でさらに一気に回り込むリュイン。微妙にポジションを移動しながら、有利な陣形と味方の射撃しやすい位置取りを確認するアズメリア。
「フォローよろしく」
前方から声をかける。背後からポン、と背中をたたくメシア‥‥攻撃開始。背後の3名がまずキメラの動きを封じる。戌亥は弓、ヨグとメシアは射撃だ。基本は足元を狙いキメラの動きを止める。そこへ前衛が切り込む。回り込み班が敵の退路をふさぐ。理想的なチームフォーメーションである。
「お待ちしてました‥‥。左、皇よろしく」
とばかり待ち構えるリュイン。すでに目の前にキメラをとらえている。もし、前衛のスキマを抜けてくるキメラがいたとしても、そこには絶対に通さないという意気込みで待ち構えているアズメリアが。傭兵達が先手をとったのは明らかであった。
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キメラにしてみれば、食事中に奇襲を受けたような格好である。態勢をとる間もなく傭兵に先手をとられる形。その巨体を左右にうねらせ向かってくるのだが、なにせ、動きは鈍い。腹いっぱいで動き自体がのろかったというわけでもないだろうが、3方を囲まれ逃げ道はない。何撃かがかわされた後に、3匹すべてが骸になってその場に横たわった。その巨体をもてあましたわけでもあるまいが、硬い皮膚を持たないキメラでは、傭兵達の攻撃に耐えられるわけもなく。たいした時間もかからずに、最初の戦闘は終了した。
「さて、とりあえずかたづきましたね」
とハルトマン。だが、これで終わりではないことは誰もがわかっていた。いくらさほど広くない島とはいっても、補給基地を作れるほどだ。3匹程度のキメラで終わるわけもないことは容易に想像できた。
「それでは島内探検といくか」
とリュイン。瞬天速で、さっと砂を蹴り上げ走りだす。軽い足取りである。砂地の上とは思えない。
「逃がしませんわよ」
とニヤリとするメシア。あたりを見回しつつ探索範囲を広げる。絶対にいる、という自信。それは傭兵皆同じである。
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ほどなく新たなキメラを発見。どうやらさっきの騒ぎで、のっそり動き出したというところ。場所は桟橋から程ないところで、先ほど視認できなかったのは、どうやらどこかに潜んでいて、やはり何かを貪っていたようにも思える。早い話、一斉お食事タイム中に乱入したのかも知れなかった。
「気分は探検隊♪」
などと暢気につぶやいていた戌亥もただちに身構える。メシアの探査の眼のおかげか、発見は早かった。すでにリュインはキメラに迫っている。
一方、上空を気にしつつ進むヨグ。飛行キメラでもいないかと確認しているのか、あまりの空のきれいさに見とれていたのか。そうこうしているうちに、回り込み班がキメラにアタックを始めたようだ。先ほどの隊列を維持しつつ進む。
「やっぱりいましたね。にげられましませんよ。私たちからは」
とメシア。ぶっきらぼうだが、間違いなく頼れる言葉である。
「きっちりと片付けさせてもらうから、そのつもりで」
と刀を斜に構え、じりじりとにじりよるように接近するアズメリア
「さっきの戦闘でけが人はでなかった?」
と仲間を気遣いつつ大声で叫ぶ皇。全員OKのサインを出す。
「オーホホホホ。どこからでもかかっていらっしゃい」
とキメラを挑発するように、グイっと一歩踏み出すメシア。完全に上から目線であり、キメラをキメラとも思っていないような口調。
「お互いに声掛け合っていきましょう」
と後衛の2人に呼びかけるヨグ。ちらりと、両サイドに眼をやり、前方に集中しつつキメラに接近する。すでに射程に捕らえた浅川‥‥が、いいことばかりは続かない。アクシデントだってあるのだ。
「!!!!!」
声にならない叫び。傭兵すべてがその声なき声の方を振り返る。するとそこには砂地に思わず足をとられるハルトマンの姿が。油断したのか?
ちょっとしたくぼみ、凸凹が傭兵達の足元の自由を奪うこともある。思わず横向きに転倒したそこへ、接近したキメラの牙の一撃が襲い掛かった。一瞬息を呑む傭兵達。
かわせるのか? と誰もが動きを止める‥‥。だが、彼は瞬時に身をよじり、かろうじて直撃はかわした。が、キメラの一撃は彼のわき腹に多少なりともダメージを与えたのだ。続けざまに二撃目が‥‥だが、
「フォローします」
とすかさず割ってはいる戌亥。ハルトマンにおおいかぶさるような体勢で、キメラの攻撃をしのぐ。
「ありがとうです」
思わず叫ぶハルトマン。だがまだ余裕があるわけではなかった。
「こんなところで手間取っては!」
と二連撃でキメラに切り込む皇とそれに呼応するメシア。無事にピンチを切り抜けることに成功。こうしてなんとかキメラを屠ることに成功した。
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幸い、軽いカスリ傷程度で済んだようだ。皇の救急セットで応急処置。多少動きは悪くなるが、戦えない状態ではないとのこと。そう。彼らにはまだやるべき仕事が残っていたのである。このあまり広くもない島内である。すべてくまなく調べてもそう時間はかからない。UPCが上空からでは見逃しているキメラがいるかもしれない。メシアの方位磁石を頼りに、島内の残る場所の探索を行う。
「援護ならまかせておいてください」
と浅川。いざとなればドラグーンのスキルが十分に役立つことだろう‥‥傭兵たちは小さな森を越え、上陸地点とは反対側へ抜ける。
「いましたよ」
と誰かの声。やはり、上空からでは見つけられなかったキメラが潜伏していたのである。
「やはりいましたね」
とハルトマン。わき腹の状態も深刻ではないようだ。水筒の水をゆっくりのみ、気合を入れなおすヨグ。大きく息を吐く。緊張が続いているためか。ふと左を見ると、肩で息をしているアズメリア。やはり緊張と興奮で疲労を覚えているらしい。
「さて、お相手をして差し上げる時間のようですね」
と浅川。頂き物だという、槍『ザドキエル』を構える。相手は2匹。まあ、いままでの相手とそうは変わらないだろう、と一瞥する傭兵たち。すでにリュインは急接近している。速い。
「にがしません」
と聞こえるような大きな叫び声。
「敵はきっちりすべて排除」
とアズメリア。急速に接近し、戦いをしかける態勢。だが、すでに回り込み班の2名によって、キメラはほぼ屍状態。どうやらトドメをさすまでもないような状況である。
「なんだ、終わっちまったのか」
と物足りなさそうな表情の浅川。まだ戦い足りないといった様子。
「はい。ご愁傷様」
と余裕?のリラックスした口調の戌亥。
「いや〜〜。終わりましたね」
と、おいしそうに持ってきたラムネをゴクゴクと飲み干すハルトマン。さぞや格別のおいしさだったろう。戦闘で喉が渇いていたはずだからなおさらである。傍らでは、がっちりと手と手を握って勝利を確信するアズメリアとメシア。余裕ができたのか目が完全に笑っていた。‥‥そんな中で、
「水〜〜〜。水〜〜〜」
といいながら水筒の水を一気に飲むヨグ。のどがカラカラだったようだ。この熱さである。他のメンバーにも少しずつ水を配る。みな戦い終わってほっとしたのか、喉の渇きを覚えたようだ。
「あ〜〜あ。次は遊びに来たいものですね。仕事抜きで」
と誰かがつぶやく。みな同じ思いであったに違いない。こうして無事任務を果たした傭兵たち。どうせだから、物資の基地と合わせてリゾート施設でも作ってくれないかしら、と思ったのかもしれない。
了