タイトル:チーズの好きなネズミマスター:江口梨奈

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/27 19:53

●オープニング本文


 ネズミだからチーズが大好きだって? そんなのは、漫画の読み過ぎだよ。
 怒りに顔を紅潮させて、斡旋所に飛び込んできた初老の男は、笑えないジョークに舌打ちした。
 男はは酪農家のショーン。とはいえ、過去の戦火で牧場は小さくなり家畜の数は減り、今は目立たないようにひっそりと、家族の食べる分を賄うのがやっとだという。
 彼は牧場の脇に室(むろ)を置いていた。冬の備えとしてチーズやヨーグルトを仕込んでいたのである。
 昨日のことだ、様子を見ようと室に入った。
 すると、いくつもの爛々とした目がこちらを睨んでいるではないか!
 そしてそいつらは、ショーンの姿を認めると、まるで雪崩のように襲いかかってきたのだった。そばに一緒にいた若い助手が気付いてドアを閉めてくれなければ、今頃無事では済まなかっただろう。
 ショーンは『ネズミ』というが、助手が認めた特徴から判断するに、それはキメララットと思って間違いないだろう。それが食料庫に何匹も立てこもっている、なんて厄介な。
「忌々しいネズミどもめ!」
 ショーンは怒りを隠そうともせず、目の前の机に拳を叩きつけた。
「落ち着いて、親父さん」
 助手がなだめるが、ショーンの怒りは収まらない。こうしている間も、大切な室の中身が滅茶苦茶にされているかも知れないのだ。
 一刻も早い駆除を。
 能力者達が集められた。

●参加者一覧

フィオ・フィリアネス(ga0124
15歳・♀・GP
水鏡・シメイ(ga0523
21歳・♂・SN
メディウス・ボレアリス(ga0564
28歳・♀・ER
小野寺 斉(ga2204
27歳・♂・ST
二階堂 審(ga2237
23歳・♂・ST
ウィンバック(ga2379
28歳・♂・SN
愛原 菜緒(ga2853
20歳・♀・FT
コー(ga2931
22歳・♂・SN

●リプレイ本文

●封鎖
 そもそも、どこからキメララットは、室の中に入り込んだのだろうか?
 室の四方にある換気口は、蓋状になっている木の板を内側から手で押して上げ、つっかえ棒で支えて斜めに開かせるようなものだ、1つ1つはそれほど重いものでもない。普通のネズミなら難しいだろうが、キメララットほどの大きさと力があれば、その蓋の隙間に鼻をねじ込ませて外から入り込むこともできるかもしれない。
「おそらく、その経路だと考えて間違いないだろう、他に穴らしい穴も見当たらないしな」
 周囲をくまなく見て回ったメディウス・ボレアリス(ga0564)はそう結論づけた。改めて換気口を見ると、蓋は薄い板だし、蝶つがいも軽々と動きそうだ。中にいるキメララットに気付かれないようにそっと板を持ってみると、その軽さはよく分かった。
「塞ぐぞ」
 二階堂 審(ga2237)は、ショーンの納屋から借りた大工道具や、板きれなどの廃材をいくつか、荷車に乗せたものを引っ張ってきていた。
「釘を打っても、大丈夫かな?」
 壁に耳を当てて、中の様子を伺うフィオ・フィリアネス(ga0124)。粗末ではあるが、石造りの壁だ、そう簡単に中の気配は分からない。
「気付かれないようにやるべきです」
 コー(ga2931)は、素早く審の持ってきた道具類の数を数えると、それをきちんと8等分にした。
「封鎖すべき場所は、四方にある換気口。同時に始めよう。ドアを6時として、0時の壁を‥‥」
 まるで機械のように抑揚無く指示を出し、それぞれの手に道具を渡す。
「では、6時は俺と」
「私だね、よろしくっ!」
 右手を差し出してにんまり笑う、愛原 菜緒(ga2853)。
(「‥‥‥‥子供、か‥‥」)
 何を期待していたのか、能面の表情がわずかに崩れた。

 静かに、慎重に、封鎖作業は開始された。
 大きな金槌で太い釘ををガンガン打ち付けるわけにはいかないので、小さな細い釘を蓋と木枠に刺し、紐を絡めて塞いでいく、これがまた、時間ばっかりかかる面倒な作業だった。
「ったく、ハーメルンの笛吹きでもいれば、一網打尽なんだがなあ」
 タバコの煙と疲労の溜息を同時に吐き出すウィンバック(ga2379)。高い位置へ腕を上げ続けて行う作業の繰り返しに、肩が凝ってきた。
「もっと便利な道具があればよかったんですが」
 隣で同じ作業をしている小野寺 斉(ga2204)も同意する。さりとて他に方法が無い。粘着テープなどは脆いだろうし、セメントで固めては元に戻せなくなる。冬の間も、その後も、ずっと使うだろうショーンの室を壊してしまっては、元も子もない。
「そういえばあんたは、中に置いてあるものが何かって聞いてんのか?」
「チーズでしょう、何の種類かは存じませんが」
「旨そうなやつだったら、ちょっと分けてもらうように頼んでみないか? メディウスがワインを持ってきているらしい、肴に‥‥」
「我がどうかしたか?」
 と、壁の向こうから、メディウスがひょこっと顔を出してきた。
「我のワインがどうとか」
「いや、あの」
「ダメですよ、欲しいなら自分で用意しないと」
 更にメディウスの後ろから、水鏡・シメイ(ga0523)が首を突っ込んでくる。
「でも、まあ、チーズは魅力的ですね。ウィンバックさんが行かれるなら、私のぶんも頼んで下さいませんか」
「同じこと考えてんのかよ」
 ばれましたか、とシメイは舌を出す。
「ところで、こんな壁の端まで来てると言うことは」
「ええ、終わりましたよ。こちら側は終わりです。これだけ頑丈に塞げば、中からは逃げられないでしょう」
「本当ですか?」
 斉も丁度作業を終えて、彼女たちの仕事跡を見た。なるほど、嘘ではないようだ。
「こっちも終了だ」
 反対側の壁を担当していた審とフィオも、同じように他の皆の仕事跡を見て回る。
「じゃあ」
「じゃあ、いよいよ、ですね」
 菜緒とコーが待っていたドアの前に、全員が集まった。
「‥‥これより、内部に突入する」
 室の中のキメララットは、外の異変に気付いているのだろうか? 

●突入
「愛情溢れる援護を期待してるね、バックアップの皆さん♪」
「頼りにしちゃうから、よろしくねー」
 フィオと菜緒は、後ろに控える残りの仲間にウインクしてみせた。
 ドアを大きく開けるわけにはいかない、突入も、出来るだけ素早く行わなければ。まずは小柄な、この2人が先駆けする。それぞれのエミタの力を目覚めさせ、時を待つ。
「3‥‥2‥‥1‥‥今よ!!」
 わずかに開けた隙間にするりと体を滑り込ませる。同時に体勢を整え背中合わせになり、360度を見回した。
「いた!!」
 黄色いチーズが並んでいる間に、どぶ色の毛が見える。それらは『異物』の乱入に興奮し、キィキィ耳障りな声を上げた。
「チッ‥‥鬱陶しいな、ネズミのくせに。威嚇のつもりか?」
 覚醒した菜緒は、それまでの脳天気な少女とはがらりと雰囲気が変わってしまう。向かってくるキメララットを容赦なく切り刻んでいく。
「ドアに近づけさせるんじゃないわよ!」
「分かってる」
 全員が入り終わるまでの、短いようで長い時間、2人でこの場を守らなければならない。1匹でも取り逃がすと、すぐ隣の牧場にいる家畜に被害が及ぶ。
「待たせたわね!」
 シメイのナイフが頭上をよぎった。見事、1匹のキメララットに命中する。
「援護するわ、存分に暴れてきて下さい」
「言われなくても」
「俺も忘れるなよ」
 梁から飛び降りてきたキメララットの脳天に、ウィンバックとコーの銃弾が撃ち込まれる。
「足下も見ろ」
 言うが早いかメディウスは超機械一号を、床を駆けてくるキメララットに向けた。バチッと音がして、キメララットがひっくり返る。
「まだ気絶しただけだ、とどめを」
「こっちもだ」
 同じく超機械一号の使い手、斉と審も、チーズ荒らしをつぶさに見つけては電磁波を流していく。
「くっ、次から次へと!」
 こっちはチーズにぶつけないように、かなり動きを制限されているというのに、ネズミどもはまったく構わず、棚からどんどんチーズを落として遠慮無く走り回る。
「逃げてるのか?」
 いつの頃からか、キメララットたちが向かってこなくなった。
 梁の上を右に左に走り回っている。
 壁の一画を、かりかりと囓っている。
「その窓は、とうに塞いである」
 斉は呟いた。やはりあの換気口が出入り口だったのか。だが、そこは自分たちが塞いだ。それを知らず、そこが開くと信じて必死に齧り付いている畜生の姿はなんとも哀れだ。
「‥‥‥‥」
 同情はしない。銃を使える者達の手で、キメララットの体は床に落とされた。

●後かたづけ
 能力者として頼られ、依頼を受けたからには、ドンパチやってあとは知らん顔、というわけにはいかない。ウィンバックは落ちたチーズを拾い集める。
「キメララットの死骸は、燃やした方がいいかな? 変な病気持ってたら大変だしね」
 さっきまでは平気でぶん殴っていたフィオも、今では親指と人差し指だけでおそるおそる摘んでいる。
「それを考えると、室の掃除は徹底的にしないと」
 シメイも雑巾片手に腕まくりだ。
 外では、塞いだ換気口の回復がなされている。斉が、塞いだままでもいいかと尋ねたが、それでは中の乳製品の熟成に困るからとの返事だった。
 借りていた道具を集めながら審は、几帳面に荷車に、元通りの形に乗せた。控えていたメモと照らし合わせて数に間違いが無いことを確認すると、納屋の方へ引っ張っていった。

「これから大変だな、室の中身も減っただろうし」
 メディウスに勧められたワインを飲んでやや頬の赤くなったショーンは、あまり落ち込んでいなかった。室にネズミが出るのはたまにあることで、それの直し方ぐらい長くチーズを作っている者はよく知っているという。
「それよりあんた、せっかく旨いワインを貰ったのに、肴がないのがよくない。おーい」
 ショーンに呼ばれて、妻が出てきた。
 手に、去年のチーズをたっぷり乗せた盆を持って。