●オープニング本文
前回のリプレイを見る MC・ラボ・地下実験施設――それはこの世の科学の禁忌を全て押し込んだような場所だった。
無数の培養槽に入れられたキメラ達、さも当然の如く並べられた「ヒト」の標本、ゴーレムやワームのパーツ‥‥まともな人間が見たなら、その醜悪さに吐き気を催すに違いない。
――しかし今この場にいる十数人の人間には、一人としてまともな者はいなかった。
その内の二人は、言わずと知れたラボの所長であるアニス・シュバルツバルトと、その助手であるサムライ、ハットリ・サイゾウ。
そして残りの者は主任研究員――バグアの持つ科学技術に魅入られ、悪魔に魂を売った科学者達だ。
「――と、いう訳で皆。とうとう『計画』を実行する時が来たヨ」
アニスの言葉を聞いた瞬間、主任研究員たちの間からおおっ! という歓喜のざわめきが響く。
「――とうとう、我々も正式なバグアの一員になれるのですね!?」
「‥‥やっと‥‥やっと、私の本当の研究が始まる‥‥!!」
「シェイドやステアー‥‥この目でしかと見たいものですな‥‥」
その口から思い思いの呟きが漏れ出る。
アニスはそれをニコニコとした表情で、サイゾウは不快そうに顔を顰めて見つめていた。
――『計画』
それはアニスやバグアに寝返った者達が、各種実験データごとバグア側に亡命する事。
彼ら主任研究員たちはそれを実行に移すため、今まで綿密な準備を進めて来たのだ。
「まぁまぁ皆落ち着いてネ‥‥それで、その開幕を記念して乾杯をしようと思うんだヨ」
彼らを宥め、アニスは傍らのテーブルに並べられた、ワイングラスを示した。
そこには上等な葡萄酒が満たされている。
主任研究員たちは各々グラスを手に取って目の前に掲げ、アニスも自分のグラス――中身はオレンジジュース――を手に取り、乾杯の音頭を取った。
「――バグアのために」
『――バグアのために!!』
そして主任研究員達は一斉に杯を煽り――
‥‥血反吐を吐き、喉を押さえてのたうち回った。
毒――しかもおそらくは致死性の猛毒が盛られていたのだ。
彼等の断末魔の悲鳴を聞きながら、アニスはそれを楽しそうに見つめる。
「‥‥な‥‥? これ、は‥‥ど、どうして‥‥」
殆どの者が動きを永久に止める中で、一人の研究員は悶えながらもまだ生きていた。
「――アレ? ねぇサイゾウ君、こいつまだ生きてるみたいだけど?」
「――知るかい。お前が毒の分量間違えただけやろ」
「むー、まだ怒ってんの? お堅いなぁキミは」
「‥‥サムライが騙し討ち、暗殺が好きな訳あるかい」
眉根を寄せてそっぽを向くサイゾウの態度に肩をすくめてから、アニスは辛うじて生きていた研究員の男の傍に座って話し始める。
「んー、どうしてかって? 簡単だヨ。
逃避行っていうのは、人数が少なければ少ないほどいいんだヨ?
切り捨てるのはまず『使えない』奴――ボクは君達全員が『使えない』って判断しただけだヨ」
「ば‥‥ば、かな‥‥わ、我々の頭脳を無くしたら‥‥困るのは‥‥お、前のはず‥‥」
「‥‥ぷっ‥‥ふふ‥‥アハハハハハハハハッ!! キャハハハハハハハハ!!」
アニスは男の呟きを聞くと、もう堪らないとばかりに笑い始めた。
それはいつもの笑みでは無く、壊れたスピーカーのように甲高く、狂った笑い。
そこに込められた狂気に、死に掛けている筈の研究員の全身が粟立つ。
「――頭脳!? キミ達みたいなクッサい脳みそに価値なんてあると思ってんの!?
思い上がりも甚だしいよ、キミ!? ホント、人間って馬鹿だよネ!!」
アニスは研究員の襟首を掴み、片腕だけで彼の体を高々と持ち上げ、そしてギリギリと締め付け始めた。
――これが、子供の‥‥いや、「人間」の力なのか‥‥!!
薄れゆく意識の中で、研究員はそんな恐怖を覚える。
「ここにいる間、ボクがどんだけ我慢してたかキミに分かる!?
どいつもこいつも、俗物と無能ばっかりのサルの檻みたいな所に押し込められて、愛しいおじーさまと離れ離れにさせられてサ!!
その上、キミ達と来たらまるで自分がさも有能ですー、優秀ですー、んでもってこんな所に価値はありませんー、とかピーチクパーチク‥‥あー、ウザいウザい!!」
「‥‥おい、アホ娘。そんぐらいにしとけや」
ドス黒い感情を吐き出し続ける彼女の肩を、サイゾウが抑え付ける。
――瞬間、彼の眼前にはぬらり、とした光沢を放つメスが突きつけられていた。
だが後少しで眼球に突き刺さりそうな切っ先を前にしても、サイゾウは汗一つかいていない。
「‥‥んー? 何かナ? 今いい所だから、邪魔しないでくれる?」
「――そいつ、もうええ加減放したれや」
「――あ、ホントだ。ごめんネー?」
アニスはスイッチを切り替えるかのように、普段どおりのヘラヘラとした笑みを浮かべた。
研究員からの答えは既に無い。
――彼は、アニスの手によって頸をへし折られ、既に事切れていた。
「‥‥まぁ、真面目な話をすれば、目先のエサに釣られた奴は、将来的に裏切る可能性があるからネー」
そしてサイゾウに死体の処理を任せると、アニスは浮き浮きとした表情で『準備』に取り掛かるのであった。
――そして数時間後、UPCに一つのビデオレターが届けられた。
そこに映し出されたのは、ぶくぶくに膨れ上がった肉体から人の顔――主任研究員達のもの――を生やした醜悪なキメラに囲まれたMC・ラボの研究員十数人と、ヘラヘラとした笑みを浮かべるアニスの姿だった。
『――UPCの皆さん、お勤めご苦労様だネー?
まぁ、この研究所がバグアの息が掛かってる事は既にご存知だと思うケド、ボクは皆の迷惑になるだろうから、ここを破棄する事に決定しましたー♪』
そこでわざとらしく言葉を切り、うーん、と困ったように唸ってみせる。
『――でも、何だかんだ言ってここには結構愛着あるからネ。
‥‥そこで閉鎖記念として、ゲームをする事にしたんだヨ。
舞台であるダンジョンは当研究所の地下研究施設、プレイヤーは選び抜かれた傭兵達♪
――ルールは簡単、制限時間内にモンスターを倒して鍵を手に入れて、ボクのいる地下ドッグまで辿りつき、人質を救出する事が出来たら君達の勝ち、出来なかったら君達の負け‥‥分かりやすいでしょ?
それと、言っておくけどルール無視して第三者が手助けしたり、鍵を手に入れずに扉をぶっ壊そうとしたりしたら、問答無用で人質は皆殺しネ♪
‥‥それと、人質無視して上空からフレア弾投下っ!! っていうのも出来れば止めて欲しいナー‥‥そんな醜聞、リークされたりしたく無いでしょ?
それじゃ、皆様の奮ってのご参加、お待ちしております――待ってるヨー♪』
――キャハハハハハハッ!!
尾を引くかのような狂った哄笑を響かせながら、ビデオレターの再生は終わった。
――最早、何も語るまい。あの狂った糞餓鬼を叩きのめして来い!!
傭兵諸君に望む事は、ただそれだけだ。
●リプレイ本文
MC・ラボの前に集った12人の能力者達――その中で、ミスティ・グラムランド(
ga9164)は溢れ出す怒りを隠しもせず、肩を震わせていた。
「人の生も死も踏み躙りながら大儀を翳す‥‥そんな彼らに、正義などあろう筈がありませんっ‥‥!! これ以上、彼等の思い通りには‥‥!」
「とうとうアニスさんが本性を現しましたね。
親バグア派なのは元より、仲間だった研究員達をあっさりと切り捨てるなんて、酷い‥‥」
山崎・恵太郎(
gb1902)もまたそうだった。
――確かに、自分達とアニスとは根本的な部分で価値観が違っているのだろうが、一部の者に価値があり、その他の者は否定するという所業は、決して許されざるものの筈だ。
「マッドサイエンティストなんて、ロクな物じゃないんだよー。
少なくとも、獄門は好きになれないねェー」
獄門・Y・グナイゼナウ(
ga1166)は同じ科学者としては、アニスが自分達と同列だとは考えたくもない、といった風情だ。
「――彼らには聞きたい事もあったんですが、今は人質優先ですね」
バグアに対して知的興味を持つ高坂聖(
ga4517)も、内心今回の事については不快そうな表情であった。
(「バグア側の科学者が人質‥‥ね。
ふぅ、いつから慈善団体になったのかね‥‥傭兵は‥‥」)
クリス・フレイシア(
gb2547)の心中はあくまで冷ややかだった。
――だが、人質救出がクライアントの要望だ。それに逆らう訳にはいかない。
「戦争の只中でゲームですか‥‥許せませんね」
ティーダ(
ga7172)は先に行われた多くの戦いの事を思い出す。
――彼女は人々が必死に戦い、傷つき、倒れていくのをその目で見てきた。
だからこそ、彼女の戯れを許すことが出来なかった。
「ハッタリさんも、何だか苦労してそうだね」
忌咲(
ga3867)としては、そんな狂った彼女の下についているあのサムライが少し哀れに思えた。
そして黒崎 夜宵(
gb2736)はこの『ゲーム自体』に疑念を持っていた。
「これ、公平なゲームなんでしょうね?
‥‥流石に、『これ』を殲滅した後にあのサムライとやる余裕は無さそうだけど‥‥」
そう言って今回の倒さなければならないキメラのリストを示す。
報告書で読んだ――能力者達の中には実際に戦った者もいる――限り、そのほぼ全てがそう簡単には倒せない代物だ。
「中々に難しいゲームだが‥‥チェックメイトと征こうか」
――しかし、やるしか無い。
皆の決意を代弁するかのごとく、イレーネ・V・ノイエ(
ga4317)が言い放った。
だが、彼女の体は先のグラナダでの戦の傷が癒えておらず、あちこちに見える包帯が痛々しい。
「しかし‥‥この大事な局面で‥‥何で怪我してるんでしょう、私は」
そしてそれは宗太郎=シルエイト(
ga4261)も同じだった。
一言呟いて悔しさに唇を噛む。
「――そう言うなシルエイト。こんな自分達でもやれる事は十分ある。今回はそれを果たせば良いさ」
「‥‥ですね」
嗜める様なイレーネの言葉に、宗太郎は表情を引き締めて答えた。
――ヒュンッ!!
そんな時、荒々しくも鋭い音が響いた――文月(
gb2039)が月詠を抜き放ち、振るったのだ。
「――行きましょう‥‥出来ればこんな下らないモノ、早く終わらせたいですから」
その言葉はあくまで冷静だったが、人の命をチップにしたゲーム――ソレに対する怒りが、まるで燃え滾るかのように全身から溢れ出す。
「‥‥ですね。では、行くとしましょう」
瓜生 巴(
ga5119)が文月に同意する。
かくして能力者達は、待機していたUPC軍の兵士から申請しておいた物品を受け取り、研究所の中へと入っていった。
『――はーい、プレイヤーの皆いらっしゃーい』
――能力者達が地下への階段を下りた瞬間、頭上にあったスピーカーからアニスの声が響き渡った。
『今からゲーム開始だヨー‥‥それじゃあ、スタートッ!!』
そして高らかに開始の合図に代わってブザーが鳴り響いた。
「‥‥つくづく、ふざけてやがるな――それ以上に、ここもな」
「ですね‥‥」
高坂が思わず喉を鳴らし、覚醒した宗太郎がうんざりしたように呟いて辺りを見回す。
――そこには、ガラスケースの中に所狭しと並べられた『ヒト』の標本。
「こういうのなら見た事があるわ。あっちの方が真剣だったけど。
‥‥でも、流石にこれは無いわね‥‥」
そう呟く瓜生の眉根がきゅっ、と顰められる。
視線の先には、地下の広場に飾られた完全な『人間のホルマリン漬け』があった。
ガラス玉のような虚ろな目をしたまま、プカプカと浮かぶ男女の標本が。
「‥‥こん、な‥‥っ!! こんなっ!!」
――ガンッ!!
ミスティは怒りを抑えきれずに傍らの壁を殴りつけた――何度も、何度も。
そうでもしないと、身体が、心が張り裂けてしまいそうだったから。
「――ともかく行動だよー。皆、分担は大丈夫だよねェー?」
獄門が確認すると、能力者達は一斉に頷いた。
――ケージAには高坂、瓜生、文月、黒崎。
ケージBには忌咲、ミスティ、山崎、クリス。
ケージCにはティーダと獄門。
そして最も強力な敵が待ち構えているケージDには、各ケージを攻略した後に全員で当たる。
C班の足りない人員は、バイク形態のリンドヴルムで素早く移動できる山崎と文月が応援に入る形で補う。
イレーネと宗太郎は、各班から伝えられる情報を統括し、全体に伝達する事と、各ケージを攻略している間にケージDまでの通路の罠を先んじて解除し、少しでも時間の短縮を図る。
「――それじゃあ皆さん‥‥行きましょう!!」
山崎の声を合図に、能力者達は各エリアへと散っていく。
――その時、宗太郎が黒崎を呼び止めた。
「――黒崎、ちょっと待ってくれ」
「なんですか宗太郎さん?」
宗太郎は背負っていた自らの相棒――ランス「エクスプロード」を手渡した。
「‥‥怪我人の俺が持つには、勿体ねぇ代物だからな」
「――ありがとうございます、じゃあ私はこちらを‥‥」
交換するように黒崎はフォルトゥナ・マヨールーと小銃S−01を差し出す。
――罠を解除するには、銃の方が丁度良いと思っての選択だった。
そして彼らは互いの健闘を祈りあい、それぞれのやるべき事を果たすべく、行動を開始するのであった。
『――こちらA班、二番目の曲がり角で罠が発動、現在足止めを受けてます!!』
『‥‥こちらB班、広範囲に渡る罠を発見したけど、解除は無理そうだから破壊するよ』
『こちらC班、現在非常に順調に進めてるよー。このあたり一帯は安全みたいだねェー』
「こちらイレーネ、了解した。引き続き報告を頼む」
各エリアに向かった仲間達からの通信に受け応えしながら、報告に基づき罠の位置や形状、その他様々な情報をノートに纏めていき、それらを全体に伝達していく。
現在、足止めを受けている班もあるが、今の所踏破は順調だ。
「――シルエイト、そちらはどうだ」
『‥‥ああ、結構厄介だな。十メートル置きに罠がある感じだ』
一方宗太郎はケージDへと向かう通路の罠の処理を行っていた。
だが、怪我の影響でエミタに変調をきたしている為思うように進まない。
「体が重いぜ‥‥くそっ!!」
悪態を吐きながら曲がり角を覗き込む――特に異常は無い。
そう判断して体を晒した瞬間、電子音と共に天井からレーザーガンが姿を現していた。
「――不味い!!」
咄嗟に避けようとするが、動きが鈍っていたため肩と足に数発かすってしまう。
必死に曲がり角の向こうに身を隠し、S−01でカメラを狙撃。
――銃弾の直撃を受けたカメラは、くぐもった破裂音と共に動かなくなる。
「これでレーザーガンは四つ目‥‥ワイヤーが三つか‥‥」
『‥‥大丈夫かシルエイト、何なら交代するぞ?』
「いや、まだまだいけるぜ」
まだ数百メートルも進んでいないにも関わらず、かなりの数の罠が通路には存在している。
しかもケージの入口まで、まだかなりの距離がありそうだった。
――だが、仲間達のためにも泣き言は言っていられない。
「――俺の代わりに皆を守ってくれよ。相棒」
今は手元に無い自らの愛槍へと想いを託し、宗太郎は通路の奥へと再び歩を進めた。
最初に到達したのはB班だった。
中で待ち受けている装甲スライムと、以前戦った事のあるクリスが口頭で皆に敵の特徴と能力等を伝えていく。
「なるほど‥‥スライムに鎧着せるって、結構斬新なアイデアだと思うよ‥‥その分厄介だと思うから、防御は固めた方が良いだろうね」
「‥‥分かりました!!」
ミスティが忌咲の言葉に大きく頷く。
皆は合図し合うと、山崎を先陣にケージの中に突入した。
――ケージの中は30×30メートルほどの大きさの、立方体状の空間になっていた。
その中央には、武骨な鎧姿のキメラが四体‥‥間違いなく、装甲スライムだ。
『――いやはや待ちくたびれたヨー。それじゃあ、バトル‥‥スタートッ!!』
備え付けられたモニターに上機嫌なアニスの姿が映され、高らかに開始宣言をすると同時に一気に動き出す装甲スライム。
――クリスの言う通り、その動きはまるで人間と同等かそれ以上だ。
まず先んじて距離を詰めた一体は、かなり距離が離れているにも関わらず剣を振り上げた。
そして振り下ろすと同時に装甲スライムの腕は数倍にも伸び、まるで鞭のように能力者達に襲い掛かった。
ミスティはその一撃をレイシールドで辛うじて受け止めるが、もう片方の伸びた腕が彼女を襲う。
「――っ!! 危ないっ!!」
ベルセルクで受け止めたが、突進の勢いと遠心力を乗せた一撃はかなり重く、ミスティは腕に走る痺れに顔を顰めた。
山崎も同じく伸びた腕に気を取られている隙に距離を詰められ、膝蹴りを叩き込まれてたたらを踏んだ。
「や、やりにくい‥‥!! でもっ!!」
咳き込みそうになるのをどうにかこらえ、山崎は装甲スライムの腕を狙って機械剣αを振るった。
腕を伸ばせば、当然装甲の間に隙間が出来る――その部分のスライム本体に、超濃縮レーザーブレードが叩き付けられる。
「――竜の角、発動!!」
同時に、山崎のリンドヴルムの頭部と腕にスパークが走り、機械剣αがその光をさらに激しい物に変えた。
――ボシュウッ!!
まるで熱した鍋に水をぶちまけたかのような音と共に、装甲スライムの腕が切り落とされる。
床に落ちた装甲の隙間から、焼け残ったスライムの体がデロリ、と流れ出した。
ミスティも初手こそ逃したものの、次第にスライムの変則的な動きに対応出来るようになり、後衛の二人に攻撃が行く前に剣と盾で受け止め、払い落とす。
そして牽制を欠かさず行い、注意を完全に自らに向ける事に成功していた。
「‥‥外すなよ‥‥僕‥‥」
その隙に、クリスはアンチマテリアルライフルを構え、狙いを定める。
腕に付けられた檮骨の腕輪の効果で動きが鈍っているが、その分神経が研ぎ澄まされていくのが分かる。
極限の集中力で、クリスは引き金を引いた。
――ズガァンッ!!
轟音と共に放たれた砲弾が、装甲スライムの胸部装甲を打ち砕く。
同時に晒された醜いゲル状の体目掛けて、忌咲が超機械一号を発動させた。
凄まじい密度の電磁波が放射され、装甲スライムは全身をボイルされて激しく身悶える。
そこへ更に山崎が機械剣を叩き込み、瞬時に止めを刺した。
――A班の能力者達は、同じやり方で一匹ずつ確実にキメラを屠っていった。
残るは後一匹――しかも最初に山崎が腕を切り飛ばしたため既に手負いだ。
同じように止めを‥‥と考えていたが、ミスティは不意にある事に気付いた。
(「――切り飛ばした腕の装甲‥‥何処に!?」)
山崎が切り飛ばし、床に落ちた筈の装甲が無くなっている。
彼女の探査の眼は未だにその効力を発揮しており、そのため辛うじて気付く事が出来たのは僥倖と言うものだろう。
だが、警告の叫びを上げるのには僅かに遅い。
「――うわっ!!」
「‥‥忌咲さんっ‥‥ぐっ!!」
後衛の忌咲が弾き飛ばされ、クリスの首が締め付けられる。
――それを為したのは、無くなっていた腕の装甲。
その中に残っていたスライムの体が動かしているのだろう。
引き剥がそうとするも、万力のような力がそれを許さない。
完全に気管が押し潰されそうになった時、ミスティが叫んだ。
「クリスさん!! 腕を引っ込めて下さい!!」
言うが早いか、ミスティはベルセルクを振り下ろした。
その一撃は正確に装甲の手の部分を切り飛ばし、スライムを今度こそ動かぬ肉塊に変える。
そしてその間に山崎は最後の一匹を倒していた。
「‥‥み、ミスティさん‥‥ああいうのは、出来ればもう少し早く言って‥‥」
「ご、ごめんなさい‥‥」
クリスはけほけほと咳き込みながら、少し青ざめた表情でミスティに抗議をするのだった。
キメラが倒れた瞬間、ファンファーレが鳴り響き、備え付けられたモニターにパスコードの一部が表示される。
「――それじゃあ、皆さんは先にケージDへ。僕はケージCに向かいます!!」
その一字一句を間違えないようにメモしてから、山崎はリンドヴルムをバイクに変形させてCエリアへと向かい、残りの者達はケージDへと急いだ。
そして、Aエリアでも戦闘が開始されていた。
A班の能力者達の前に立ち塞がるのは、主任研究員の死体を利用して作られた、肉人形キメラが五体。
――正しく、人類を私利私欲のために裏切った者達の哀れな末路と言えた。
「‥‥何だかグロテスクだなぁ」
「まったくもって趣味の悪いキメラばかりですね」
「死というのは医学上の定義、あるいは個人の認識よね。だから死は客観的事実じゃない。生物の成り立ちが異なれば死の概念はおのずと異なる。
もしバグアが本当に異星人なら、生命としての成り立ちが異なっていて、人の死の定義を特別な境界と認識できず、意識せずに踏み越えてしまうということもあり得る。
その成果がああいうのなんじゃない?」
思わず漏れ出した高坂と文月の呟きを聞いて、瓜生は目の前の光景を冷静に分析してみせる。
――オオオォォォォッ!!
突進を仕掛けてくる肉人形達に、高坂が次々と超機械αの電撃を次々と打ち込んで出鼻を挫くと、まず黒崎が前に出た。
宗太郎から受け取ったエクスプロードは、まるで長年愛用しているかのように手に馴染む。
「‥‥行ける!!」
肉人形が繰り出した一撃を、斜めに構えた槍の柄で受け流し、即座に水月に向かって突き入れた。
――ゴバァッ!!
同時に穂先から爆炎が上がり、肉人形の腹に大穴を穿つ。
普通ならば致命傷の筈だが、肉人形にとっては大したダメージでは無いらしく、そのまま反撃を加えてくる。
黒崎は焦らずにそれを再び受け止めると、迅速に爆炎の槍を急所に突き入れていった。
月詠とプロテクトシールドを構えた文月は、一気に後衛を狙う三体もの肉人形を相手に攻防を展開する。
正面からの体当たりをかわすと同時に刃を突き入れ、左右からの連撃を盾で受け止める。
その内の一発は盾では防御し切れずに脇腹を抉ったが、淡い光の障壁が紙一枚の所で直撃を避けた――スキル・竜の鱗だ。
キメラは追い討ちとばかりに大振りに剣を振りかぶるが、そこに文月の月詠がカウンター気味に振るわれ、分厚い肉を物ともせずに両断する。
どれだけ傷ついても、文月は前進するのを止めない。
――鉄を纏いし姫は、ただひたすら前を往くのみ。
その彼女を、瓜生が、高坂が援護する。
レイ・エンチャントで出力の高められたエネルギーガンの連射が、容赦なく肉人形の肉体に直撃し、一体がどう、と地響きを立てて崩れ落ちた。
そして高坂は文月や黒崎の傷を練成治療で塞ぎ、武器に練成強化を行い、隙を見て練成弱体を駆使して敵の戦闘力を下げ、徹底して支援に徹する。
四人の連携の前に、ただタフなだけのキメラ達は成す術があるはずが無い。
とうとう最後の一体の首が文月に跳ね飛ばされた時には、数分とかかっていなかった。
「バグアに手を貸そうとした方にはお似合いの末路ですね‥‥」
ごろり、と転がる主任研究員の生首を見下ろしながら、文月は冷ややかに呟いた。
一方C班はと言うと――
「興味深いねェー。原型の動物をそのまま『キメラにしちゃいました』的と言うかー。
生理的な嫌悪感だけで他に特徴は無いが、費用効果は意外と高いのかもー‥‥?」
「‥‥ご、獄門さん!! 考察は良いですから手を動かして下さい!!」
獄門の呟きに、ティーダは少し涙目になりながら叫んだ。
「OKだよー」と獄門は再び敵であるフナムシ型キメラ達に狙いを定めた。
その大きさは凡そ二メートル――そして動き回る様はかの衛生害虫の如し。
獄門が放ったエネルギーガンに、壁に張り着いていた一匹が叩き落され、背中から落下してワシャワシャと足をばたつかせた。
それに止めを刺そうと近付いたティーダは咄嗟に四足獣のような動きで飛びのく。
右手から新たに飛び掛ってきたフナムシが頭上を掠めて通り過ぎていった。
ティーダはすかさず頭上に向けてルベウスを叩き付ける――柔らかい腹の甲殻が突き破られ、凄まじい悪臭のする内蔵と体液が彼女の全身に降りかかった。
そして先ほどの壁から落ちた奴の追撃をしようとすると、既にその姿は部屋の奥へと姿を消していた。
「――ああもうっ!! また逃げられました!!」
「まるで本物のゴキブリを相手にしてる気分だねェー」
「‥‥言わないで下さいっ!!」
獄門からなるべく考えないようにしていた単語を聞かされて、ティーダは身を包む悪臭に顔を顰めながら叫んだ。
「‥‥でも、これは冗談抜きで不味い状況だねェー」
獄門は眼鏡をくいっ、と直すと、表情を引き締めて呟いた。
フナムシ達は部屋中――天井までも使って縦横無尽に這い回っている。
一見コミカルに見えるこの状況だが、時間稼ぎという点で言えばこれほど厄介なものは無い。
今でこそ時々食欲に負けた数匹が襲い掛かって来るから良いものの、完全な逃走に入られたら‥‥。
「――獄門さんっ!!」
「‥‥Scheisse!!」
そんな事を考えている間に、天井に張り付いていた一体が、自らの体を武器にして獄門の頭上から襲い掛かる。
――しかし、フナムシは次の瞬間に真っ二つになって果てていた。
文月と山崎が応援に駆けつけたのだ。
「――すいませんっ!! お待たせしました」
「山崎さん!! それに文月さんも!!」
「‥‥あちらの方は片付きましたから、お手伝いします」
「了解――それじゃあ一緒に『駆除』をやろうではないかねェー」
ケージの状況を見て、現状を瞬時に判断したのか、文月と山崎は即座に頷き、ケージ中を駆けずり回り、ようやくその全てを駆逐する事に成功したのだった。
C班のメンバー達は途中でイレーネと合流し、宗太郎が切り開いたルートをなぞって移動し、既にケージDの扉の前に集まっていた他班のメンバーと合流した。
「‥‥全く、怪我人なのに無理し過ぎだよ?」
「はは、面目無ェ」
仕掛けられた罠に何度か引っかかったのか、傷だらけの宗太郎の体を忌咲が治療していく。
「‥‥宗太郎さん、槍、ありがとうございました」
「おう、役に立ってくれたのなら良かったぜ」
そして、扉の向こうで待ち受ける強敵――見えざる悪魔こと、ディプレッサーデーモンについて、クリスは皆に敵の能力をごく手短に解説していった。
「蠍座のFRを思い出すねェー。
しかし、魔法ではない。科学には科学で対抗なんだよー」
「いくら強くても、一匹じゃ限界があるよね」
確かに、二人の言う通りだ。
どんな力も正体が分かっていれば対応できるし、自分達には仲間がいる――何も恐れる事は無い。
能力者達は、一斉に扉の中に駆け込んでいった。
――既に光学迷彩を発動させているのか、ケージの中にDデーモンの姿は見えない。
まず、山崎と文月がリンドヴルムのヘッドライトで辺りを照らす。
――一瞬だが、確かに床に落ちる影。
そこに向かって宗太郎、瓜生、イレーネが次々にカラーボールを投げ込んだ。
僅かに飛沫が掛かり、輪郭が僅かに顕になる。
「この眼でどこまで捉えられるかしらね‥‥」
黒崎がペイント弾を打ち込むが、Dデーモンは凄まじい反射神経でそれら全てをかわしてみせる。
姿は僅かに見えてはいるが、その動きは例え探査の眼を使った能力者の動体視力でも捉えきる事は難しい。
Dデーモンもこちらを攪乱するつもりなのか、あちこちを飛び回り、狙いを定めさせないように動いていた。
ティーダが瞬天足で間合いを詰めて足止めを試みるも、爪の連撃を受けて弾き飛ばされる。
その時、宗太郎は一つの予想を立てていた。
――敵は狩人。
多数の得物を狩る場合‥‥弱い者から確実に消していく。
だったら――
「‥‥まず、俺達を狙う‥‥か?」
その呟き通り、Dデーモンの影は確実に宗太郎とイレーネに飛びかかれる位置に移動したかと思うと、まるで砲弾の如き速さで突っ込んで来る。
今の自分は、戦闘は殆ど行えない身。
「‥‥こんな状態でも、好機を作るぐらいなら‥‥!!」
宗太郎はスキルを複合させ、槍を捻るように突き出し、衝撃波を飛ばして牽制する。
その隙にミスティと文月が進路上に割って入り、牙と爪の一撃を盾で受け止めていた。
そこにクリスのフリージア、黒崎のS−01が叩き込まれる。
「これが獄門の切り札だよー」
動きの止まったDデーモンに、獄門はエネルギーガンを向け、虚実空間を発動させる。
――Dデーモンの光学迷彩が解除され、黒い獅子の姿が完全に顕になった。
「――皆!! ここからが本番だよ!!」
クリスの警告に、皆は一層表情を引き締めて答える。
――彼女の言葉通り、そこからのDデーモンはまるで黒い竜巻の如く暴れ周った。
次々と打ち込まれる瓜生やクリス、黒崎の弾幕を悉くかわし、前衛の四人に肉薄する。
山崎のナイフが弾き飛ばされ、堅牢なはずの装甲が易々と噛み砕かれる。
ティーダの腿がざっくりと抉り取られ、リンドヴルムの装甲ごと、文月は肩を潰される。
――しかしその傷は、淡い光と共に塞がっていく‥‥高坂の練成治療だ。
高坂だけでは無い――獄門も、忌咲も、錬力が尽きそうになっているにも関わらず、前衛の仲間達の支援を続けていた。
「今だよ、皆!!」
忌咲の叫びと共に、ティーダ達の武器のSESが唸りを上げた。
なけなしの錬力を使い切った練成強化だ。
彼等の声に答えるべく、徹底した連携でDデーモンに切り込んでいく四人。
――それが功を奏したのか、次第に攻撃が当たり始め、次第にその体を自らの血で染めていくDデーモン。
「‥‥食らいなさい」
黒崎の強撃弾を発動させ、貫通弾を込めたフォルトゥナ・マヨールーの一撃は脇腹の肉を吹き飛ばし、Dデーモンの完全に動きを止める事に成功する。
「――たあぁぁぁぁっ!!」
そして終に、ミスティのベルセルクがその足を完全に切り飛ばし、返す刀がDデーモンの頭を貫く。
――とうとう『見えざる悪魔』はその体を横たえ、動きを止めた。
能力者達は簡単な治療を済ませると、地下ドックへの扉へと急ぎ、パスコードを入力して扉を開放する。
「――よう、遅かったやないか」
「‥‥ハットリ・サイゾウ‥‥!!」
地下ドッグの扉に面した廊下の壁に、仏頂面のサイゾウがその背を預けていた。
咄嗟に身構える能力者達――だが、それをサイゾウは手で制する。
「‥‥待てや。手負いのお前らを相手にするほど、ワイは腐ってへん。
――着いて来いや。あのアホ娘ン所まで案内したる」
そしてくるり、と背を向けて歩き始める。
その背は一見隙だらけだ‥‥まるで「斬りたければ斬れ」と言わんばかりに。
しばしの間、無言で歩を進める――そこに、不意に高坂がサイゾウの背に声を掛けた。
「あー、サイゾウさん、貴方方がバグア側に行くならカッシングに聞いて欲しいんですけど、バグアって家族の概念とかあります?」
「‥‥んなモン聞いてどないするねん」
「――ちょっとした興味ですよ。強化人間の調整方法とかも知りたいですけど、言わないでしょうし」
「‥‥」
サイゾウは高坂の言葉をただ無言で聞いている。
高坂はそのまま続けた。
「それと、貴方にも質問が。ハットリさんはバグアの強化人間、で合ってるかな?
強化人間って生殖とかは出来るんですか?
何だかカッシングが能力者に問いかけてたので、そっちはどうなのかと思いまして」
「――知らん」
「――え? 知らないって‥‥自分の体の事ですよ」
「ワイは戦いしか知らん男や‥‥増して、色恋に興味なんぞあらへん。
サムライとして戦う事――それがワイの生き方であり、矜持や。
体はそれを体現するための道具であり付属物に過ぎん」
「‥‥」
堂々と言い切る彼の言葉と態度は、高潔とさえ思える程の誇りと覚悟に満ちていた。
「――まぁ、アンタの質問はちゃんと伝えておくから安心せぇや。
答えを伝えられるかどうかは、分からんがな」
そしてその話が終わる頃には、能力者達は地下ドッグへとたどり着いていた。
――しばしの間、能力者達は目の前の光景を信じる事が出来なかった。
「う‥‥そ‥‥?」
「な、何で‥‥ど、どうして‥‥」
――チャキッ!!
「――説明‥‥してもらうぞ‥‥何で――」
「――殺したっ!!」
クリスはサイゾウに向けて銃を突きつけ、あらん限りに叫んだ。
――そこには頭や胸に穴を開け、血溜まりの中に倒れ付す研究員達の変わり果てた姿。
制限時間までは、まだ十分すぎるほど時間があったはずだ。
サイゾウは険しい表情で、そのクリスを見下ろして答える。
「――言い訳はせぇへん‥‥せやけど、これはお前らの行動の結果や」
「それはどういう――っ!!」
「――まぁまぁ、サイゾウ君を責めないであげてヨ? やったのはボクなんだから♪」
楽しげな笑みを浮かべて、アニスがそこに割り込む――その白衣は返り血で赤く染まっていた。
「――どうしてだ‥‥何で人質の人達を!!」
「んー? 簡単だヨ‥‥キミ達はルール違反をした‥‥それだけだヨー」
ニィィ‥‥とアニスが嗤う‥‥うろたえる彼らの姿が可笑しくて堪らないとばかりに。
「‥‥第三者の介入の禁止――UPCの人達から物品を借り受けるのも、立派な『介入』だと思うケド?」
その言葉に、能力者達の顔が一斉に青ざめる。
――確かにその通りだ。
だが、いつ、何処でそれを知り得たと言うのか?
「――何処にでも、ボク達に協力してくれる親切な人はいるって事だヨ♪」
疑問に答えるかのように、アニスはちっちっち、と指を立てた。
――それはUPC内部の内通者の存在を暗に示す言葉であった。
そして死体の一つを足で小突き、ヘラヘラと笑う。
「しかし、健気なモンだネー‥‥こいつ、最期にどんな事を言ったと思う?
‥‥『妻と娘を返してくれ』だって」
その言葉にクリスははっ、とする。
それはつまり‥‥この研究員達は、人質を取られて仕方なく協力していたという事だ。
「馬鹿だネー、毎日毎日地下の階段の傍で対面してるってのに。
‥‥あ、でも流石に『破片』じゃ分かんないか――キャハハハハハハッ!!」
「――貴様ぁっ!!」
死者を愚弄し尽すようなアニスの言葉に、イレーネが激昂する。
そして獄門は軽蔑しきった瞳でアニスに向かって吐き捨てた。
「笑わせるよねェー、キミもカッシングも。
1人で勝手に狂う分には良いが、その狂気を世界に開き直られてもねェー。
挙句外道に奔るなんて、お世辞にもライトスタッフとは呼べないんだよー。
心無いキミのそれは、科学にあらず。ただの技術だよー」
宗太郎も精一杯の感情をぶつける。
「‥‥命の認識、軽すぎねぇか? てめぇのそれは、ごっこ遊びと変わらねぇ!!」
だが、彼等の必死の叫びも、アニスの心には届かなかった。
「――せいぜいキャンキャン吼えてなよ、負け犬クン達。
それじゃあ、ここは直に自爆するから、早く逃げた方が良いヨー?」
その言葉を肯定するように、地下ドックの一部が爆発を起こす。
「――待って」
去ろうとするアニスを、クリスが呼び止める。
そして、カッシングの演説が録音されたテープを取り出すと、それを思い切り踏み砕いた。
そして瓜生もそれに倣い、アニスに向けて指さして宣言し、ミスティは懸命に叫ぶ。
「これが‥‥僕からお前達への宣戦布告だ!!」
「人を本気にさせるのは希望じゃない。相手への敬意よ‥‥それを貴方に証明してあげる」
「‥‥これ以上不幸な死に方をする命を生み出さない為にも、私は絶対に‥‥貴女達を止めますっ!!」
「‥‥覚えておくヨ」
アニスは肩を竦めてソレに答えると、ドックの奥へと姿を消した。
――キャハハハハハハッ!!
‥‥耳障りな狂った哄笑を残して。
そしてサイゾウもその後を追って歩き始める。
――だが、彼は不意に能力者達を振り返った。
「――今度こそは、正々堂々とお前らと戦いたいモンやな。
‥‥特に、そこの銀髪女とはな」
「‥‥望む所です」
貫くかのような視線を受け止めて、ティーダは答える。
そして文月もいつかの一幕を忘れてはいなかった。
「あの時の借りはまたいずれの機会に」
「ああ‥‥楽しみに待っとるで?」
そして再び背を向けると、手を振って去っていった。
「バグアのサムライ‥‥武人として、決着を付けたい所だな‥‥」
イレーネもまた、武人としての彼に惹かれる者の一人だった。
人質だった研究員達の遺品を出来るだけ回収すると、能力者達も炎を上げる研究所を脱出すべく、通路を駆けた。
――その胸に去来するのは、救える命を救えなかった事に対する無力感。
その途中ガラスケースに入れられた人々の標本に、山崎は祈りを捧げていた。
それが贖罪になるとは思わないけれど――山崎はこれから先も奴らと戦い続ける事を誓うのだった。