タイトル:勝利の翼は舞い降りてマスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/11 15:55

●オープニング本文


――戦場が次第に宇宙に移りつつある中、それでも海水や泥濘、吹雪や熱砂に塗れる戦場は消える事は無い。
 むしろ、陸・海・空とは別に第四の戦域として「宇宙」というカテゴリーが出来た事で、その他三つのUPC軍戦力は相対的に少なくなり、既存の三つの戦場は厳しい戦いを強いられていた。


 そして、ここロシア中央部の人類側領域の境目に程近い前線基地においても、吹雪吹き荒ぶ攻防戦が展開されていた。



――ズゥゥゥンッ!!



 凄まじい地響きを立てて、ゴーレムが力尽きたように氷の大地に倒れ、暫くして爆散して果てる。

『――これで第七波殲滅、か。准尉、作戦開始からどの位になる』

 欧州における精鋭部隊『御剣』隊の隊長であるエリシア・ライナルト少佐は、額の汗を拭いながら、新たな愛機となった、肩を赤く塗ったスレイヤーのコクピットシートに深く身を沈めた。

『小休止やら補給やら諸々の時間を入れて、きっかり2日。
‥‥思わず居眠り運転したくなる頃合いですぜ?』
『――寝たら死ぬだろうが馬鹿者』

 同じくスレイヤーに乗る、彼女直属の部下であるディック・ケンプフォード准尉がおどけたように答え、エリシアがそれに突っ込みを入れるが、双方声にはいつもの張りが無かった。
‥‥無理も無い。
 御剣隊がこの基地に派遣されてからというもの、このような日を幾度も跨ぐような作戦が、何度も繰り返されている。
 かと言って今何の対策も無しにこの基地を放棄すれば、戦線は数十キロに渡って後退を余儀なくされ、過去の血みどろの大戦で取り戻したロシアの大地を、大幅に削り取られる事となる。
 だが、戦況も去る事ながら、極寒の最前線故にその環境はあまりにも過酷であった。

『‥‥もう、基地に残っている燃料は極僅か。
 武器弾薬も殆ど使い果たした状態です‥‥そろそろ、覚悟を決める時かと』
『――軍曹、その言い方は‥‥』

 砲身が焼け付いて使い物にならなくなったスナイパーライフルを投げ捨てながら淡々と呟くエイミィ・バーンズ軍曹を、恋人であるロイ・エレハイン曹長が嗜めるが、彼女の言葉は無情にも現在の御剣隊の状況を妥協無く表しているものだった。



 彼らの上司であるブライアン・ミツルギ准将がアフリカ解放作戦の指揮官の一人となった事で、一躍脚光を浴びた御剣隊。
 凛々しい外見を持つ女隊長に率いられた、全てが歴戦の能力者達で構成された超精鋭部隊――軍は彼らをある種の広告塔として扱ったのである。
 そのため、彼らは以前とは比べ物にならない程に厚遇を受け、操るKVや武装は全て最新鋭のものへと換装された。
 しかし、その代償として彼らは必然的に過酷で、尚且つ重要な任務に就かされる事となったのである。
 度重なる任務により、一旦欧州に戻った時に受け取った最新の機体は既にボロボロに近い状態であった。
 こんな状況でもしっかりと動いてくれるため、流石は最新鋭機‥‥と言いたい所だが、この機体を支給されたおかげでこんな事態になっている事も事実であり、正直複雑だ。

『――オーカニエーバ01より各機!! 東から再び急速に近づく敵影確認!!
 数は40!! キメラ群も多数!! およそ十分後に接敵する!!』

 北斗を操る管制小隊から、再び接敵を告げる通信が響き渡る。
 疲れ切り、それでも休む間も無い過酷な戦闘の連続――脱落者や戦死者がいないのが殆ど奇跡と言える。

『‥‥隊長、俺達は――』
『――それ以上言うな。踏ん張るぞ』
『‥‥了』

 ストロングホークに乗る、不安げな新兵の弱音を封じ込め、エリシアは迫り来る敵軍を凄絶な形相で睨みつけた。

「‥‥っ!?」

 例え死んだとしても、せめて一太刀――そう覚悟を決めた瞬間、彼女の目は驚愕に見開かれた。
 地響きと砂煙を立てて迫り来る軍勢とは別の方向からこちら目掛けて飛ぶ、複数の機影が見えたのだ。

「――ははっ‥‥」

 それを見たエリシアの口元が、自然と綻ぶ。
 そして、程なくして彼女は呵々大笑とばかりに腹の底から笑い声を上げた。

『‥‥た、隊長?』
『はははははははっ!! 今の今まで悲観していたのが馬鹿のようだぞ諸君!!』

 気でも違ったかのようなエリシアの様子に戸惑う隊員たちを他所に、エリシアは何処までも嬉しそうに声を張り上げる。
 その理由は、直後のオーカニエーバ01の言葉によって全員に知らされた。

『――援軍だ!! しかも驚くなよお前ら!! 我らが救世主、傭兵共のお出ましだ!!』

 その声とほぼ同時に、唸りを上げて頭上をフライパスする、機体も、カラーリングもバラバラな一団。
 それは正しく、彼らにとっての勝利の翼であった。

『‥‥あの馬鹿共が‥‥アメリカとお空の上は、今頃大わらわだろうに‥‥!!』

 ディック准尉が歓喜に声を震わせながら叫ぶ。
 今、この時も人類の命運を分ける大戦が行われているというのに、彼らは来てくれたのだ。
‥‥自分達を、助けるために――!!

『――全機!! 補給など後回しだ!! このまま彼らと合流するぞ!!』
『――了!!』

 本来ならば、接敵までに行う補給の時間すら惜しかった。



――眼の前に、掛け替えの無い最強の友人たちがいる。



――また再び彼らと、轡を並べて戦える。



 それだけで、御剣隊の‥‥そしてエリシアの心は躍った。



 さぁ――もう負けはしない。



 絶望の戦場は、この時勝利への凱歌へと姿を変えた。

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
レイラ・ブラウニング(ga0033
23歳・♀・GP
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
藍紗・バーウェン(ga6141
12歳・♀・HD
カーラ・ルデリア(ga7022
20歳・♀・PN
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
御鑑 藍(gc1485
20歳・♀・PN

●リプレイ本文

「Blitz1より御剣へ、これより支援を行う」

 リヴァル・クロウ(gb2337)のシュテルン「電影」を先頭に、氷雪吹き荒ぶ大地へと傭兵達のKVが降り立つ。

「やぁ、久しぶりだな。天を衝く刃が加勢に来たぞ‥‥生きてるか? 御剣隊の剣達!!」

 そう高らかに呼びかけるのは、雷電「アンラ・マンユ」を駆る傭兵、漸 王零(ga2930)。

「‥‥相変わらず、御剣隊は無茶をしていますね」

 彼に続いて大地に降りたのは、アッシュグレイのディスタン「プリヴィディエーニィ」に乗るリディス(ga0022)。

『‥‥王零!!』
『り、リディスの姐さんまで‥‥!!』

 幾度も共に戦場を駆けたもう一振りの剣達の登場に、御剣隊のメンバー達の士気は否が応にも高まっていく。

「ハーイ、お久しぶり。
 こんな状況で生き残れてるなんて‥‥随分成長したわねぇ、隊長達に凹られたのがもう遥か彼方って感じ?」
「――いつかの演習以来ですね。
 三日会わざれば克目して見よとも言いますし、随分と成長した様で」

 そうフェンリル「サーベラス」から手を振るのは、彼ら雛鳥の巣立ちを見届けたマザーグース、レイラ・ブラウニング(ga0033)。
 合同演習に参加した経験を持つ鳴神 伊織(ga0421)も、シュテルン「伊邪那美」からモニター越しに微笑みを浮かべた。
 彼女たちの登場に、かつて新兵だった頃に彼らの薫陶を受け、ヒヨっ子から精鋭へと成長した者達の喜びは一入だ。
 その中でも最も若輩の隊員は、降り立った八機の中に己の慕う者が駆る機体を見つけて、思わず歓声を上げた。

『――藍紗さん!!』
「ふふ、ちゃんと生きておったな もっともこの程度でくたばるようなやわな鍛え方ではないじゃろうがの――絶望にはまだ早いぞ、さぁ、いつもどおり勝って帰るのじゃ」

 それはアンジェリカ『朱鷺』と、藍紗・T・ディートリヒ(ga6141)――ライルという名の新兵に、初陣の恐怖を乗り越えさせた女性の一人だ。
 先程まで殺伐としていた戦場の空気が、一気に良い方向に弛緩していく。
――これもまた、傭兵達の力か。
 エリシアはそれを見て、ふ、と口の端を緩めるが、すぐにそれを引き締めて皆に向かって号令を下す。

『――世間話はそこまでだ。
 確かに援軍は来たが、我々の置かれている状況は未だ改善されてはいないだろう』

 隊員たちが、その言葉にはっとして顔を見合わせる。

「何、心配するな。既に手は打ってある」

 リヴァルがにやり、と口の端を釣り上げるのと同時に、皆の頭上に大きな影が差した。

「ヒャッハー! 水だー! 弾薬だー! 燃料だー! ‥‥って、私はモヒカンに奪われるか弱い村人Aなんだけどねん」

 陽気な女性の声が響き渡り、見上げるとそこにはKV唯一の補給機・西王母の威容。

「にゃはっ。女王蜂直々に補給してあげるよん。
 こんなサービス、めったにないんだからねっ!」

 「クイーンビー」のコクピットの中で、カーラ・ルデリア(ga7022)はそう言って仲間達に向けて可愛らしくウィンクをしてみせる。

「――と、言う訳だ。カスタム機は先に補給を受け離陸しろ。この場を凌いで帰還する」
『‥‥感謝する!! 各機、順次補給開始!! 隊長機と余裕のある機体を優先しろ!!』
『了解!!』

 一斉に動き出す御剣隊――周辺を警戒しつつ、彼らを見つめる御鑑 藍(gc1485)の瞳に、決意の光が灯る。

「私も‥‥頑張ります。勝利の翼となれる様に‥‥」

 その視線の向こうには、バグア軍が作り出す雪煙が間近に迫りつつあった。



 次々と武器を、燃料を補給していく御剣隊――だが、その途中で警報と共に管制班からの通信が入る。

『隊長!! 敵前衛が有効射程圏内に入ります!!』
『ちっ!! 無粋な奴らめ!! 迎え撃つぞ!!』

 補給中の機体を残して、すぐさまフォーメーションを組む御剣隊と傭兵達。
 エリシアと部下三人、そして管制班の北斗、そして王零、リヴァル、御鑑の三人が空中へと飛び上がり、残る者達が陸で待ち構える。

「地上は任せたぞ‥‥さて、少々‥‥きついが‥‥行くとするか!!」

 体内のエミタが唸りを上げた瞬間、凄まじい激痛と嘔吐感が王零の体を蝕む。
 彼の体は、先の大規模作戦における戦いの中で負った重傷が治りきっていなかった。
――だが、それでも彼は大切な戦友を助けるためにここへ来たのだ。

「リヴァル!! 藍!! タイミングを合わせろ!!」
「‥‥承知!!」
「了解‥‥です‥‥」

 共に並ぶ二人に向けて合図を送ると、王零はK−02のトリガーを引き絞った。



――一斉に放たれる、計750発の猛烈な弾幕。



 それらは突出していた強化HW達目掛けて次々と突き刺さっていく。
 瞬く間に二機の小型HWが炎を上げて落下し、中型HWも装甲をボロボロと宙に舞わせる。

「今だ!!」

 そして、編隊の隙間が空いた機を見計らい、リヴァルは一気に加速し、やや後方に位置していた指揮官用タロスへと肉薄する。
 そして瞬時に敵の武装を確認――その手には、盾と斧槍。
 盾持ちは防御が固い‥‥頭を長期戦へと切り替える。

「まずは挨拶代わり‥‥食らっておけ!!」

 言うが早く、PRMを発動させると、リヴァルは剣翼を勢い良くタロス目掛けて叩きつけた。
 無論、そこは指揮官機‥‥瞬時に機体との間に盾を滑りこませ、一撃を防御する。
 しかし、リヴァルにとってはそれこそが狙い――傷ついた盾目掛けて、今度はチェーンガンを叩きこんだ。


――ゴドドドドドッ!!


 猛烈な火線の集中に、ただでさえダメージを受けていた装甲が耐え切れる訳も無く、タロスの左腕の装甲ごと盾が吹き飛ばされる。
 それに怒ったように瞳を光らせると、タロスはプロトン砲を放ちながら、斧槍を叩きつけんと迫り来る。

「そうだ‥‥付いて来い!!」

 装甲を炙られながらもそれらを掻い潜ったリヴァルは、そのまま指揮官タロスとの壮絶な一騎打ちの火蓋を切った。



「‥‥ここ、です」

 傷ついた中型HWの突進をブーストをかけて回避すると、藍はスタビライザー「ディノスケイル」によってもたらされた機動力でそのまま背後を取り、エンジン目掛けてスラスターライフルの弾幕を打ち込む。
 尻に数十発もの弾丸を叩きこまれた中型HWは、エンジンごとその身を破裂させ、微塵となってロシアの空に散る。
 残る大型も、王零とエリシア達の連携によって瞬く間に追い込まれ、既に一機が破壊されていた。

「よし、まずは上々‥‥むっ!?」

 だが、その戦果に満足する前に、後方から駆けつけたタロスの三機編隊が爆煙を切り裂いて肉薄する。
 放たれるプロトン砲の弾幕を、藍はバレルロールを駆使して掻い潜るが、本調子ではない王零は幾つかの光条をその身に受ける。

「ちいっ!!」

 衝撃と共に激痛が走り、新しく替えた包帯に再び血が滲んだ。
 ぐらついたアンラ・マンユに、好機と見たのか何機かのタロスが翻って再び王零目掛けて襲いかかる。
 だが、その前にタロス達目掛けてレーザーとスラスターライフルの弾幕が降り注いだ。

「させ‥‥ません‥‥!!」
『バッカ野郎っ!! 怪我人が無理するんじゃねぇっ!!』

――藍とディック准尉による援護だ。
 二人はそのまま接近すると、ソードウィングの連撃を加えて一機を地上へと叩き落した。

「‥‥気づかれていたか」
『当たり前ですよ!! そんなフラフラしてて、気づかないとでも思いましたか!!』
『‥‥少々、私達をナメすぎかと』

 周囲に不安と心配をかけまいと隠していた己の傷を悟られてしまった事に、思わず王零が苦笑すると、ロイとエイミィが非難するように声を上げる。

「――汝らを失う事に比べたら些細な事だ。問題無い」
『‥‥馬鹿者が。帰ったら後で説教だぞ?』
「フッ、楽しみにしておこう‥‥行くぞっ!!」

 エリシアに向かって微笑みかけると、王零はKA−01の狙いをタロスに向け、トリガーを引く。
 轟音と共に放たれた光の矢は、タロスの中枢を貫き、爆散させた。



――一方地上では、ハニービーと補給を受けている機体を狙うバグア軍との攻防が始まっていた。

「‥‥っとぉっ!!」

 RCが放ったプロトン砲の流れ弾が直撃し、ぐらり、と傾ぐハニービーの機体のバランスを取るカーラ。
 しかし、決して補給を止めようとも下がろうともせず、スモークディスチャージャーを駆使してその場に留まり続ける。

「最初が肝心ね。傭兵の方は死ぬ気で戦線を支えるのが役目よ」

 初手の補給さえしっかりとやり切る事が出来れば、後がぐんと楽になる。
 そのためにも、彼女はここで踏ん張らなければならないのだ。
 その思惑を分かっているのか、激化していくバグア軍の弾幕――だが、傭兵達がそれを黙って見ている訳が無かった。

「そんじゃまぁ行くとしますか!! そこっ、いただき〜♪」

 レイラのサーベラスがタロスの一団目掛けてガトリング砲を放ちながら接近する。
 ショルダーキャノンの弾幕を四足歩行型特有の機動力で掻い潜り、剣が届きそうになった瞬間を見計らい、マイクロブーストをかけながら一気に飛び越えた。

「――行くぞ」

 そこへ、レイラとほぼ同時に突撃をかけたリディスがスラスターライフルを目くらましに放ちながら一気に迫る。

「本当はじっくりやりあってみたいものだが、今は助けを待つ仲間が沢山いるのでな」

 言うが早く一の太刀、二の太刀と翻ったセトナクトはタロスの刀を弾き飛ばし、砕く。

「――悪く思うな」

 そして、三撃目のルーネ・グングニルの一撃が土手っ腹をほぼ千切り取るかのように刺し貫いた。
 瞬く間に一機が食われ、咄嗟にリディスへと狙いを変えようとするが、そこへサーベラスのガトリングが降り注ぐ。

「ワオ、さっすが隊長、その強さに痺れる憧れるぅ〜♪
 はいは〜い、鬼さんこちらってね」

 レイラはそのままタロス達を挑発するかのように跳びまわり続け、撹乱していく。
 彼女の狙い通り、敵の照準はサーベラスへと集中し、陣形が次第に乱れ始める。

「――今じゃ!! さて、では行こうか御剣の兵(つわもの)共!!
 策は、先ほどの通りじゃ 穴は我がふさぐ、連携を乱すなよ!!」
『――了!!』

 その瞬間を見計らい、藍紗の号令と共に余力のある隊員たちが、小隊ごとに別れて一斉に突撃した。
 スレイヤーに乗る古参兵が盾を構えて突進してゴーレムの動きを止め、三人の新兵が操るストロングホークによるレーザーの集中砲火で仕留める。
 そしてゴーレム達が足止めされている間に、他の小隊が回り込み、後方から狙いを定めるRCを同様に押し包み、同様の戦術で攻めていく。

『ぐあっ!!』
『306!! クソッ!! 支援要請ッ!!』

 だが、その損耗具合は小隊によってバラバラであり、中には耐え切れない者も出てくる。
 ストロングホークの一機がプロトン砲で脚を焼かれ、そこへRCが爪を振り下ろそうと迫った。

「――やらせんわっ!!」

――そこで光るのが、藍紗の支援だ。
 朱鷺がRCの前へと立ち塞がると、ウルで弾き、返す刀のBCアクスで腕を切り飛ばす。

「こいつで撃ち抜くのじゃ!」
『くっ‥‥了!!』

 たたらを踏む敵の隙を狙い、藍紗は手にしたアハトを倒れた隊員――ライルへと投げ与える。
 トリガーが幾度も引かれ、全身を穴だらけにしたRCは堪らず雪原の上に倒れ伏した。



 鳴神は、地上に降りた指揮官タロスと対峙していた。
 伊邪那美は白桜舞と獅子王を、タロスは小ぶりの剣を二振り――どちらも、二刀の構え。

「暫し付き合って頂きましょうか、何そんなに時間は取らせませんよ」

 呼吸を一つ、二つ、三つ――そして、四つ目を吸い込んだ瞬間、二機は一気に踏み込んだ。
 レーザーカノンを放ちながら接近する伊邪那美。
 タロスはそれらをかわし、弾きながら突進していく。



――先に二刀を振るったのはタロス。



 大上段に振るう右の一撃と、敢えてそれを受けさせての左の横薙ぎ。
 鳴神はそれらを装甲一枚犠牲にして掻い潜る。
 再び間合いを空けた伊邪那美は、今度はバルカンを放ちつつ攻める。
 鋼の弾幕が装甲を甲高く打ち、追い打ちの獅子王の一撃が傷ついたソレを砕いた。
 が、そこで鳴神は終わらない――更にもう一歩踏み込んで、PRMでその身を更に鋭くしながらの白桜舞による一撃。


――ジュウッ!!


 身の毛もよだつような音を立てて、生体部品が切り裂かれた。

「‥‥っ!!」

 更にもう一撃、と思った瞬間、タロスの反撃の逆袈裟が振り上げられ、伊邪那美は大きく胸の装甲を削られる。
――そして、初撃の攻防の焼き直しであるかのような攻防が幾度と無く続く。

「流石ですね‥‥しかし、退く訳には参りません」

 怯む事無く再び突進する鳴神――だが、タロスはその線上へと二刀を振るい、カウンターを狙っていた。



――二刀と伊邪那美が交叉しようとしたその瞬間、鳴神は垂直離着陸用のバーニアを噴かし、横の動きを縦へと変える。



「‥‥ぐっ!!」

 凄まじいGに呻きを上げるが、歯を食いしばって耐え、そのままタロスの直上を取った。

「私はこれ位しか取り得が無いので‥‥ね」

 微笑みながら、しかし誇りと共に紡がれた言葉と共に二刀が振るわれる。
――獅子と白桜の一撃は、タロスの両肩を砕き、股下まで切り裂いて抜けた。



「‥‥流石は鳴神、こちらも負けてはいられんな」

 そして、上空でも指揮官機とリヴァルとの戦いが終わろうとしていた。

「――そろそろ時間稼ぎにも飽きた‥‥仕掛けさせて貰おう!!」

 一声叫ぶと、リヴァルはスロットルを全開にし、指揮官機へと突進していく。
 そして再びPRMを火力に注ぎ込み、剣翼による一撃。
 タロスはかわしきれず、脇を大きく切り裂かれた。
 斧槍の切っ先が翼を抉るが、構わずに急上昇――頭上を取る。

「‥‥終わりだ!!」

 そして放たれたチェーンガンの弾幕が、タロスの頭とその内部をグズグズに吹き飛ばした。



――そして数分後、リディスの振るったセトナクトが、最後に残っていたゴーレムを真っ二つにする。

「ふぅ〜‥‥みんな、お疲れさーん♪」

 覚醒を解き、いつものおどけた口調に戻ったカーラが朗らかに皆に労いをかける。
 それは傭兵達の仲間を救う戦い、そして、御剣隊の長い、長い任務の終わりを告げる合図だった。



「相変わらず激戦区に回されてるのね、最新機がもうこんなボロボロ‥‥これもうスクラップ手前じゃない?」

 戦闘終了後、基地に帰投し、修理を受けるエリシアの機体を見つめるレイラが額に汗を掻きながら呟く。

「確かにな‥‥だが、これの修理と補給を終えたら、また別の戦地に赴かねばならん。
――休むのは、その後だな」

 コクピットから降りたエリシアも苦笑で答えるが、その前にブランデーを入れたグラスが差し出される。
 そこには、同じく杯を持ったリディスがいた。

「‥‥ですが、一杯付き合うぐらいの時間はあるでしょう?」
「――だな。軍規に触れるが、このぐらいの事は許して貰うさ」

 二人の女傑の微笑みと共に、チン、と涼やかな音を立ててグラスが打ち鳴らされた。