タイトル:【VU】聖騎士新生マスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/13 21:25

●オープニング本文


 クルメタルKV開発局第九室――ドイツが誇る軍需企業の中では、閑職として埋もれ続けていたその開発室と、その主任研究員、加賀美 命の名は、英国王立兵器工廠との合作であるASH−01アッシェンプッツェルの開発で一躍名を轟かせた。
 そして今、彼らがどのような生活をしているかと言うと‥‥。

「‥‥室長〜、今度出る兵装の装飾部分のデザイン、上がりました〜〜」

 特徴的な瓶底眼鏡と、広い額を輝かせながら、命は上司である室長に企画書を提出していた。

「ああ、ご苦労さん‥‥後、他にもいくつかデザインの提案書が来てるから目を通しておいてくれ」
「は〜〜い‥‥」

‥‥その内容は、相も変わらず誰でも出来るような雑務や、KVの装甲や兵装の装飾部分、外見のデザインなどの設計・開発。
 ランスチャージのシンデレラを世に送り出した張本人は、またしても気怠い作業感溢れる仕事に従事していた。



――高性能の高級機として満を持して世に送り出されたアッシェンプッツェルであったが、クルメタルがそれによって受けた恩恵は驚く程に少なかった。



 共同開発と銘売ってはいるが、あくまで販売元は英国工廠であり、更に今までにない実験的・野心的な多くの機能を搭載したが故に開発コストが予想以上に高くなった事で、クルメタルに降りてくる売り上げによる利益は雀の涙‥‥とまではいかないまでも、かなり少なくなっていた。



――純粋な利益がそうなのだから、それが第9室に降りてくる頃には‥‥推して知るべし。



 そんな訳で、彼女のデビューは少々苦いものと相成ったのである。

「はぁ〜〜あ‥‥」

 パソコンにデータを打ち込みながら、命が大きく溜息を吐く。
 室長はそんな彼女を見ながらやれやれと肩を竦め、受話器を手に取った。



――室長が命を会議室に呼びだしたのは、その一週間後の事であった。

「ぱ、パラディンのば、バージョンアップ計画〜〜!?
 そ、それを私が〜〜!?」

 室長から告げられた言葉に、素っ頓狂な叫び声を上げる命。

「――そろそろ軍やら傭兵達からの要請が多くなってきたんでな。
 で、お前さんに白羽の矢が立った訳だ」

 元々命がアッシェンプッツェルの開発に執心していたのは、パラディンの存在が大きい。
 まるで騎士のようなフォルム‥‥そしてランスチャージという正々堂々たる攻撃を主に置いたこの稀有なKVに、彼女はとことん惚れていたのである。
――しかし、千載一隅のチャンスであるこの話を聞いても、彼女の表情は晴れなかった。

「‥‥でも‥‥アッシェンプッツェルの売り上げはあんまり‥‥」
「――馬鹿野郎」

 ぶつぶつと口を尖らす彼女に、室長はごつん、と拳骨を喰らわせた。

「あいたっ〜〜!?」
「生みの親のお前さんがそんなんでどうする。
 ちょいとコストが見合わなかっただけで、アレはいい機体だ。自信を持て」
「うう‥‥はい‥‥」

 赤くなった額をさすり、涙ぐむ命。
 そんな彼女の頭を撫でてやりながら、室長はさらに励ますような言葉をかける。

「――それに、パラディンとアッシェンプッツェルはナリこそ違うが、共通の機構を多く持つ兄弟みたいなもんだ。
 こいつのバージョンアップの具合によっては、将来的にアッシェンプッツェルへのフィードバックが可能になる‥‥一石二鳥だぞ?」
「‥‥!! はい!!」

 その言葉を聞いた瞬間、命は顔を跳ね上げ、先程までの不機嫌は何処へやらとばかりに満面の笑みを浮かべてみせた。

「ほいじゃ、さっさと取り掛かってくれ。
 クルメタルとしても、お前さん程の才能を埋もれさせる余裕なんて無いんだからな」
「ま〜〜かせて下さい!! うっしゃやるぞ〜〜っ!!」

 そして、挨拶もそこそこに物凄い勢いでドアを蹴り開け、走り去っていく。
 室長はその様子を微笑ましい表情で見つめるのだった。



――更にその数週間後‥‥開発室のデスクで、目にクマを作った命がうんうんと唸っていた。

「う〜〜ん‥‥案は大体固まっては来たけど〜〜‥‥」

 まずパラディンの問題点として挙げられるのは、取り回し辛い固定武装である機槍「ゲルヒルデ」と、それを装備する事で伴う拡張性の減少。
 固定武装のため元々少ない副兵装のスロットは圧迫され、威力はそれほど高くは無いのに、重く、更に練力も圧迫してしまうその特徴から、一部の口さがない者からは「産廃」とまで言われてしまっているのは非常に大きな問題だ。


――固定武装の強化、副兵装スロットの増加。


 この二点は決して除く事が出来ない要素と言える。
 その他にも装備重量の増加を中心としたスペックの向上など、改善や強化をしたい部分は多々存在する。
‥‥あくまでパラディンは廉価な特化機体であるため、あまり極端な強化は出来ないが、この点は元々あって無きが如しと言える知覚系のスペックをデチューンすれば、ある程度はカバーする事が可能だ。

「問題は‥‥突撃よね〜〜」

 そして最も命の頭を悩ませていたのが、パラディン最大の特徴であり武器でもある特殊能力「ワルキューレの騎行」‥‥突撃の性能向上についてだった。


 アッシェンプッツェルの開発によるフィードバックは、突撃を行う際のジェネレーター出力の効率上昇、オーバーロードまでの活動限界時間延長等の恩恵をもたらしていた。


 それらを計算に入れた事で上がってきた強化案は二つ。

――一つ目は、突撃の威力の向上と、突撃距離の延長。

――二つ目は、特殊能力の発動可能回数の増加。

 パラディンの運用方法を考えれば、どちらも捨て難く、魅力的な案だ。
 しかし、どんなにシミュレーションを重ねても、この両方を実戦レベルで両立させる事は現時点では不可能。
 更に言ってしまえば、この突撃の強化を行ってしまえば、上に上げた必須の強化案件以外のスペック強化は、デチューンを行わない限りコスト的な問題が生じてしまう事が分かった。


――スキルの強化を取るか、更なるスペックの向上を取るか‥‥命の悩みは尽きなかった。


 思わずボリボリと左手で頭を掻く‥‥その時、掌の手術痕が目に入った。

「そ〜〜うだ‥‥こういう時こそ、持つべきモノは人脈よね〜〜」

 それを見た瞬間、ピン、と閃いた命は、ULTに連絡を入れ、傭兵達への依頼の申請を行っていた。



「さ〜〜〜〜あ、意見交換会の始まりよ〜〜〜〜!!」



 徹夜続きで半ばハイになり、ウヒヒヒヒヒ、と少女にあるまじき不気味な笑みを浮かべながら、彼女は早速資料を纏め始めた。

●参加者一覧

クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
水無月・翠(gb0838
16歳・♀・SF
ハンニバル・フィーベル(gb7683
59歳・♂・ER
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
BEATRICE(gc6758
28歳・♀・ER

●リプレイ本文


「傭兵の皆!! よ〜〜く来てくれたわね!!」

 例によって広い額を輝かせ自己紹介をしたのはクルメタルKV開発局第9室主任研究員、加賀美命だ。
 アッシェンプッツェルの開発に関する依頼の際と比べると目の隈が目立つがその喧しさは相変わらずだ。

「命さんとはアッシェンプッツェルの開発依頼以来ですわね。今回の依頼もよろしくお願いしますわね」
「あら、お久しぶり! 今回もよろしく頼むわ!!」

 最初に挨拶したのはクラリッサ・メディスン(ga0853)だ。彼女は命がアッシェンプッツェルの開発に関する意見を求めた依頼にも参加していた。

「今回はよろしくお願いします」
「えぇ、よろしく‥‥って、あなたなんでそんな恰好を?」

 続いて挨拶した水無月・翠(gb0838)に思わず命は質問を投げた。彼女はなぜか鎧姿で室内に入っていたのだ。「いけませんか?」と翠に逆に問われたが、まぁ服装は何を着て来ようが個人の自由だろう。
 こうして、やや騒々しくも意見交換会は始められることとなった。


 まずは機槍「ゲルヒルデ」強化に関してだ。

「それじゃ、さっそく始めましょう!! まずはモニターを見てくれる?」

 そう言って命は会議室の照明を落とす。モニターにはパラディンと機槍「ゲルヒルデ」のデータが映し出された。

「私がゲルヒルデに関して現状考えているのは攻撃力の向上と、取り回しの改善ね」

 VUという性質上、大幅な強化を行うことはできないが、これにより多少はましにできる算段だ。
 それに対し、クラリッサは攻撃、命中力の強化に絞るべきだと案を述べる。

「固定兵装である以上、陸戦での近接兵装はメインにこれを使う事になります」

 ならば、攻撃力はもちろん、当たらない攻撃に意味がない以上、命中力もより高める必要があるとのことだ。

「攻撃と命中向上に注力し、他は後回しですね。ゲルヒルデの威力と命中向上はワルキューレにも直結しますから」

 その意見に守原有希(ga8582)も続く。確かに、ワルキューレの騎行は機槍「ゲルヒルデ」のみでしか使用できない能力だ。
 であれば、その威力を高める単純な方法の一つとしてゲルヒルデの強化は妥当だろう。

「威力強化は必須だろう。ただ、私としては取り回しがそんなに気になったことはないな」
「それは私も‥‥そこを改善するならそれ以上に攻撃力を高めてほしいです」

 ハンフリー(gc3092)は攻撃性能を重視しつつも、その取り回しの悪さに関しては改善の必要を認めないと言う。
 同様にBEATRICE(gc6758)は、自身が以前パラディンに機刀「新月」を装備させて出撃した依頼についての話を交え、その火力不足について言及した。

「う〜〜ん、それじゃ、攻撃力を重視して取り回しに関しては動きやすさというより当てやすさを重視する方向で考えた方がいいかしら?」

 そう呟く命に、翠は少し考え込みながら意見する。

「個人的には受け能力を高めてほしいところですが‥‥皆さまのお話を伺うに、確かに需要は攻撃力の方が高いかと」
「俺も攻撃力を多めにしたほうがいいかと‥‥」

 終夜・無月(ga3084)も同様、攻撃性能の強化を推した。

「重量を削りたいな」

 皆と異なる意見を出したのは時枝・悠(ga8810)だった。

「これを使う為だけの機体なら他を積む余地が無くても良い気がするけど、今回スロットを拡張するみたいだし。
 装備値底上げだけで補えるか微妙なので、固定装備の重量を抑えた方が」
「なるほど‥‥確かにその通りね‥‥」

 固定兵装は取り外しが利かない。重量低下がイコール搭載余剰の緩和になる。検討してみてもいいだろう。

「‥‥じゃあ、ゲルヒルデに関してはこんなもので良いかしら?」

 良ければ次の話に‥‥と言ったところで挙手をしたのはハンニバル・フィーベル(gb7683)だった。

「機盾槍とするのはどうだろう?」

 彼が言うには、ヘルムヴィーゲ・パリングを常動型にして組み込んでみたらどうだろうと言うのだ。

「1回毎に練力消費が必要なパリングは練力切れを恐れて使えない」
「私も、あの能力は戦闘では使わんな」

 パリングが動作プログラムの一種なら、ゲルヒルデの練力負担が少し増えても良いから組みこめないかという話だ。
 雲霞の如く押し寄せる敵を相手にいちいち練力を使って攻撃を防いでいられない、というのはハンフリーだ。

「う〜〜ん、ちょっと待ってくれる?」

 そう言うと命は資料をパラパラとめくる。
 ヘルムヴィーゲ・パリングはパラディンに搭載されているシールドを利用してより効果的に敵の攻撃を受け流すシステムだ。つまり‥‥

「そのシールドとゲルヒルデを一体化して、ってことなら可能かもしれないけど‥‥そうなると結構大幅な仕様変更になっちゃいそうね」

 そこまで行くと、やはりVUの範疇ではないだろう。命は、一応持ちかえって検討はしてみるとするに留めた。
 また、ハンニバルからはゲルヒルデの空戦での使用も可能にしてほしいと言う意見もあったが、さすがに接近戦用の槍を空中で使うのは無理という結論に達した。


「それじゃ、次は機体スペックに関してね!」

 命が提案していたのは副兵装スロットの追加と、知覚系回路のデチューンにより各種スペックを強化しようというものだ。副兵装スロットに関してはBEATRICEがゲルヒルデの強化次第では不要との考えを示した。

「銃に盾、それと固定兵装があれば十分でしょう」
「いや、ゲルヒルデの空戦使用が可能にできなければ、是非スロット追加はして欲しいな」
 
 それに対し、ハンニバルは強くスロット追加を推した。空戦への対応力が気になるところなのだろう。この辺りが、完全に陸戦用としてパラディンを運用しているBEATRICEとの違いなのだろうか。
 ともあれ、基本的には副兵装スロットの追加はそのまま行う方針となった。

「知覚のデチューンは良いアイディアですね。兄弟機であるヨロウェルとの住み分けもできそうです」
 
 そう言った有希は、強化に関してはスロット増加に対応した搭載能力強化。
 攻撃や防御の精密性向上のため、命中力強化を挙げた。装備力の強化に関しては他にも賛同が多い。

「スロット強化に合わせた装備強化は必須だな」
「まずは装備。固定兵装を積んでる分をカバーしないと」

 ハンニバルと悠が続けて意見を出す。
 やはり固定兵装の重量と、それに伴う装備能力の弱さは気になるようだ。 

「装備力は確かに重要で、強化したいが‥‥一点強化する必要はないだろうな。
 装備を引き上げつつ練力も強化したい」
「私も、練力も可能ならば強化できればと思いますわ」
 
 ハンフリー、クラリッサも装備強化に関しては同意見だった。それに加えて、練力強化を案として挙げた。

「‥‥パラディンの特殊能力は練力を大きく消費するものが多いですからね」

 練力強化に関しては無月も同意見だった。
 パラディンの特殊能力はワルキューレの騎行だけではない。ヘルムヴィーゲ・パリングも多少練力を消費する。システム・ニーベルングに至っては、初期状態では一度使用しただけで半分以上の練力が消える代物だ。

「やはり、練力の確保は必要そうね‥‥」

 命は意見を聞きながら資料の練力タンク部に丸印を付けた。
 そこに悠が別の意見を述べる。

「消費のデカすぎるニーベルングとか燃費の悪すぎるパリングとかはいじれないのだろうか」
「うちもそれに関しては同じ考えですね。どちらも使い勝手が悪いです」 

 有希もこれに関しては問題を感じていた。
 特にニーベルングについて。

「この能力は集団運用志向過ぎて傭兵向きではないです。単騎運用向けになにか機能追加が行えたら‥‥」
「取り外しや追加は難しいわね。
 最初から複数システムの整合性を図って設計されているから、そうなると設計段階から見直しが必要になっちゃいそうなの」
「‥‥いっそのこと、効力や動作時間を確保した指揮官型機体みたいなのがあると面白いかもしれませんね」

 有希や命の意見を聞きつつ、BEATRICEはそんな意見を述べた。
 確かに、この能力単体を見れば、指揮官機にはもってこいかもしれない。そのことは上の方に伝えておく、として命はここで機体スペックに関して打ち切った。


「じゃあ、今回の本命!! ワルキューレの騎行に関してね!」

 命はモニターに注目するように指示すると、説明を始めた。

「基本は案Aと案Bの2パターンね。火力と突破力重視か、複数回使用できるようにするか。
 あ、先に言っておくけど、両方可能にするってのは難しいから」

 早口にそう言い切ると、命は参加者に意見を促した。

「この特殊能力の持ち味は突進力と制圧力だが、突撃後に孤立しやすくなるという欠点を孕んでいる。
 自力で虎口を脱する手立ては備えておきたい」
「私としては、失敗したときの保険という意味で2回でしょうか」

 案Bに賛同したのはハンフリー、翠だった。ただ、翠の意見はどちらかというと案Aを推しているようにも聞こえる。

「実のところ、2回以上使う事はあまり無いと思われるのですがね。
 一直線の突撃攻撃、なんて1回目はともかく2度は通じないでしょうし。
 ただ、仮に外してもう使えない、となってはあれですしね」

 それに続いて発言したハンフリーの意見は説得力が強い。自身の大規模作戦における経験を語りつつ、2回使用可能な利点を説く。

「突撃後そのまま包囲され、撃破される。あるいは後退しきれないで撃破されるという経験もしている。
 2回突撃が可能なら、1回目で敵陣に突っ込み、もう1回で脱出が可能になるだろう」
「なるほど。確かにそういう使い方も可能ね。面白いと思うわ」
 
 ハンフリーの意見に、なるほどと頷く命。だが、それに対し案Aを推す悠が反論した。

「全員がVUするならそれでいいと思うんだけど‥‥実際同型機がそろっても、そのすべてがVUされているとは限らないんじゃないか?
 そうなると回数の差って結構面倒だと思うんだけど、どうだろう」
「私としても、使用回数を増やしたとして、戦場で使用する機会がそれほど訪れるとは正直考えづらいですわ」

 それならば、瞬発性を高めておく方がより使いやすいと考える、とクラリッサも同意を示した。

「実用的には案Bの方が面白そうですが‥‥やはり一発だけの切り札的存在がカッコいいと思うので、私は案Aを支持します」
「俺も基本的には案Aを推すが‥‥少し修正を加えたいと思う」

 BEATRICEも加えた3人と同様に案Aを推すハンニバルは、強化に加えて突撃中に任意で斜め移動を可能にすること、突撃終了時すぐさま機体の方向転換が可能になるようにする、という案を出した。

「斜め移動はこちらの突撃を止める相手を避けて伸びた移動距離を有効に生かす。
 方向転換は突撃後の隙をなくすため。どうだろう?」
「う〜〜ん、そうねぇ‥‥まず斜め移動に関してだけど、ワルキューレの騎行は一直線に突撃することで敵を貫く能力よね。
 だから、斜め移動を加えるとその突進力が失われないまでも弱まってしまう可能性が高いわ」

 突進する特殊能力の向きを変えるというのは、言うほど容易なことではないのだ。

「突撃後の方向転換に関しては、通常ブーストの疑似慣性制御を利用してもらえたらと思うわ。
 その方が手っ取り早いしね」

 この時点でAが4票、Bが2票といったところか。
 ここで、無月が意見を出したいと手を上げた。

「折角の機会‥‥この際ですから新たな案、C案を出させていただきますね‥‥」
「C案? ‥‥興味あるわね。聞かせて頂戴」

 では、と。無月が説明を始めた。
 ブースト機能をオーバーロードさせ発動するワルキューレの騎行。しかし、突撃を行えば多くの場合敵中で孤立する。

「この機構と問題から考えるにワルキューレの騎行発動時の効果に移動力強化と騎行を使う事でブースト機能の一部も発動を追加させる事を提案します‥‥」

 具体的には、ブースト機構を強化してオーバーロードに耐え得る余剰枠を確保。
 過去の技術提携の関係からも将来的にアッシェンプッツェルにもその技術を提供する事を条件に英国工廠からパンプチャリオッツ及びマイクロブースターの技術を一部供与してもらう。

「既にパンプチャリオッツでマイクロブーストとワルキューレの二つの能力融合成功例があります‥‥いかがでしょう?」
「私も、ゲルヒルデの強化が大幅に出来ないようですし、この案は検討してみていいかと思います」

 無月の案に有希も限定的に、ではあるが賛同を示した。
 この案はハンニバルの案と通じる部分があるように思われた。要は、ワルキューレの騎行にブーストとマイクロブーストの効果を同時発生させる、ということなのだろう。
 となると‥‥

「‥‥やっぱり、能力に組み込むぐらいなら通常のブーストを使って頂戴、って感じになっちゃわね。
 プログラムを組み込むのにも費用が必要だし。それとマイクロブーストの問題があるわね」

 アッシェンプッツェルのパンプチャリオッツにマイクロブースト系の技術が使われているのは確かである。
 だが、だからと言ってパラディンにもマイクロブーストの技術を借用できるかと言われれば、やはり難しいだろう。

「英国のマイクロブースト技術っていうのは、クルメタルで言えばシュテルンのPRMにあたる技術になるわ。
 そう簡単に使わせてはくれないでしょうし、使うにしてもライセンス料が嵩むでしょうね。
 どちらにせよVUレベルでは難しいわ」

 VU費用は決まっているうえに、そう大きな強化は難しい。
 「そうですか‥‥」と、残念そうにしつつ無月は案を取り下げた。


 意見交換会が終わった後、別室にて食事がふるまわれた。
 と言っても、準備したのはクルメタル社ではなく有希だが。

「命さんは今迄で2番目に不健康な依頼人です! うちの料理を食べてしっかり栄養つけてください!」

 有希が張り切って作った料理はどれも上出来であり、意見交換会で疲れた脳みそにも十分栄養が行き渡った。

 すぅ――すぅ――

 ふと気づくと小さな寝息が聞こえてきた。有希の料理を食べて満腹になった命からだ。

「目に大きな隈を作って‥‥多分VUの為に寝ないで作業してたんでしょうね‥‥」

 その様子を見ながら翠が呟いた。
「私が‥‥生まれ変わらせて‥‥」なんて寝言をいう命に、クラリッサはそっとその場にあった白衣をタオルケット代わりに肩にかける。

「しばらく寝かせておきましょうか」
「そうだな‥‥まぁもう言うべきことは言い終わったんだ。今日のところは引き上げるとするか」

 クラリッサの意見にハンニバルはじめ参加者は同意し、静かにその場を後にした。

<代筆:植田 真>