タイトル:選択の時は今マスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/04 16:52

●オープニング本文


――ギシャアアアアアアアッ!!

 欧州の山間部に身の毛もよだつような悲鳴が響くと共に、この地域一帯に巣食っていたキメラの最後の一匹が崩れ落ちる。
 それを確認すると、傭兵達は大きく息を吐く――その場にいる誰もが、血と汗と泥に塗れ、練力は底を尽こうとしていた。



‥‥事前の情報と違い、思った以上にキメラの数が多く、更にそれらから流れ出た血と肉が、更なる数の別個体を呼び寄せてしまったのだ。



 そしてそれ以上に彼らを消耗させた要因‥‥それは、彼らの背後で呻き声を上げていた。

「うう‥‥」
「痛いよ‥‥痛いよぉ‥‥」
「助けて‥‥」

 それはハイキングの途中でキメラの一団に襲われた、近隣の小学生の児童達と、その保護者である女性教師だった。
 最初は単純な救出任務の筈だった。
 しかし、次々と襲い掛かってくるキメラに抗しきれず、彼らは次々と傷付いていき‥‥今や彼らの誰もが大きな傷を負い、痛みに呻いている。
――中には、今すぐ相応の処置をしなければ手遅れになりかねない者達もいた。
 こうしてはいられない‥‥疲れ切った体に鞭打って、傭兵達はULTに向けて通信を送る。
 しかし、帰ってきたのはあまりにも無情な一言。

『――済まない、この時間帯と天候では、如何に高速移動艇でも危険すぎる。
 一晩‥‥一晩だけでいい。どうにか耐えてくれ』

 一晩‥‥たった一言だけであるが、その場にいる者達を絶望の淵に叩き落とす無情な言葉だった。
 既に日は稜線の向こうに沈んで久しく、更に追い打ちをかけるかのように氷の如き冷たい雨が空から舞い降り始める。
‥‥遠くの雲の中では、青白い光が走ると共に唸るような轟音が響く。
 天候は悪化の一途を辿っている。
 幸い雨露が凌げそうな林は近くにあるが、このままでは非常に不味い。



――その上、能力者達が持っている治療薬と、治療のための練力も残り僅かになろうとしていた。



 どう計算しても、それを彼ら全員に行き渡らせる事は不可能。

「私は‥‥私はどうなってもいいんです‥‥子供達を‥‥子供達を‥‥」

 教師は朦朧とする意識の中で、ただひたすら子供達の命が助ける事を望んでいた。
 だが、どう見ても彼女の傷が最も重く、このままでは絶対に助からないのは明白だった。



‥‥しかし仮に彼女に残る治療薬と練力を分けてしまえば、体力の少ない子供達全員がこの一晩を越えられる保証は無い。



 教師を犠牲に子供達を助けるか、子供達の誰かを犠牲に教師を助けるか。
‥‥それとも、両方を助ける事の出来る方法を、この困難な状況から捻り出すか。
 傭兵達は今、大きな決断を迫られようとしていた。

●参加者一覧

セージ(ga3997
25歳・♂・AA
魔宗・琢磨(ga8475
25歳・♂・JG
テト・シュタイナー(gb5138
18歳・♀・ER
諌山美雲(gb5758
21歳・♀・ER
天原大地(gb5927
24歳・♂・AA
綾河 零音(gb9784
17歳・♀・HD
ローゼ・E・如月(gb9973
24歳・♀・ST
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER

●リプレイ本文

「あ、はは‥‥どうにかしないとね、こりゃ‥‥」

 引き攣った笑顔のまま綾河 零音(gb9784)が呟きを漏らす。
 予想外の事態の連続に、彼女は取り乱しそうな気持ちを抑えるのに精一杯だった。

「落ち着け‥‥それじゃ、救える奴も救えないぞ」

 そんな彼女を落ち着かせるように、セージ(ga3997)が肩を優しく叩いた。

「そうだが‥‥クソッ‥‥これは不味いか」

 ローゼ・E・如月(gb9973)が焦ったように後ろをちらり、と見遣る。

「う、うう‥‥」
「おかぁさぁん‥‥」
「‥‥いたい、よぉ」

――いや、まだだ。彼らのためにもまだ諦める訳にはいかない。
 ここで諦めて、何のための能力者か‥‥彼らにとっては、自分達が最後の希望なのだから。

「――先生さんの具合はどうだ?」

 天原大地(gb5927)が最も重症である教師の女性に付いていた諌山美雲(gb5758)に声を掛ける。

「‥‥素人目にも危険な事がわかります」

 美雲は可能な限り子供達に聞こえないように配慮しながら‥‥しかし、その瞳に焦りを滲ませながら答えた。

「ちょっと待ってくれ‥‥」

 すると、如月が咄嗟に駆け寄り、なけなしの練力を使って練成治療を発動させる。


――浅い傷が塞がり、若干出血が抑えられるが、殆ど焼け石に水だった。


 もう少し体力や練力を温存していたら、重装備をしてきていたら、もっと彼女達を庇えていたら‥‥そんな思いが魔宗・琢磨(ga8475)の心を責め苛む。
‥‥だが、いつまでも「たら、れば」を考えていても仕方がない。

「後悔しても誰も救えねぇ。今は一人でも‥‥いや、全員で帰る事を目指すんだ!」

 その叫びに、仲間達は決意の表情で一斉に頷いた。

「‥‥よーしテメェら!! 歩ける奴は俺様達に着いてきな!! 駄目な奴はおぶってやる!!
 なーに、あと一晩キャンプすりゃ助けが来るんだぜ!! 気合入れろっ!!」

――このような時にこそ、余裕を持って。
 アイドルらしい良く通る声で呼びかけるテト・シュタイナー(gb5138)。
 その口調こそ男勝りだが、優しく元気な彼女の言葉は、少しだけ子供達に元気の火を灯したらしい。
 比較的体力の余っている子供達が、泣くのを止め、震える足で懸命に立ち上がる。

「――いい子だ」

 それを見たテトは優しく微笑むと、彼らの手を引いて歩き始めた。



 最初に確保すべきは雨風を凌げるキャンプ地‥‥パワータイプの傭兵達の数人が、先行して森の中へ準備のために入って行く。

「テント張るとしたら‥‥ここら辺か」

 手早く周囲を捜索し、魔宗が見つけたのは比較的平坦で、それでいて頭上に枝葉が鬱蒼と生い茂る地点。
 近くからは、沢の流れる音も聞こえてくる‥‥この距離ならば、溢れても大丈夫だろう。
 ここならば、テントを張っても問題無い筈だ。
 しかし、本来のキャンプ場では無いため、多少木々を切り倒し、下草を刈る必要があった。
‥‥常人ならば一両日かかりそうではあるが、彼らは能力者である。

「とりあえずは休める場所を確保しないとな。雨に濡れるだけでも体力を奪われる」

 セージが言うが早いか刹那を抜き放ち、手近な木目がけて振り下ろす。


――ザンッ!!


 豪力発現によって強化された筋力は、子供の一抱えほどの木を一撃で切り倒していた。
 そして切株を取り除き、切り落とした木から枝を払って即席の天幕を作り、空いた空間にはテントを張れるだけ張っていく。
 あっという間に開拓されていく森の一角。

「‥‥よし、ここら辺にしよう。
 体力と練力を消耗し過ぎたら、今度は俺達が持たねぇぞ」

 テントを粗方張り終わった天原の号令で、作業を終了させる傭兵達。
 そして救助者達を招き入れるため、通信機のスイッチを入れるのだった。



 激しくなっていく雨の中、切り倒した木を利用して担架を作り、重傷者を優先して救助者達を運んで行く傭兵達。

「‥‥っ‥‥ととっ!?」

 覚醒を切っていた如月は、何時ものように子供を抱えようとして、危うくバランスを崩しそうになった。

(ぁ、そうだった‥‥練力が切れれば私たちも一般人と変わらない、か‥‥)

 背中に子供をおぶりながら、自分達が如何にエミタの恩恵を受けているか実感する。
 そのため、動けない救助者達は、練力に余裕のある傭兵達が率先して運んで行った。

「辛い思いさせて、ゴメンな。
‥‥明日の朝すぐ‥‥必ず迎えが来るから、それまでガマンしてくれな‥‥!」
「う‥‥ん‥‥」

 魔宗の言葉に、懸命に微笑みを返して少女が頷く。
 その健気さに胸を打たれ、彼は更に全員を無事に返す事を改めて心に誓う。

「‥‥み、んな‥‥は‥‥?」
「大丈夫、私たちに任せて。みんなで生還しようね」

 最も重症な教師は、それでも尚子供達を気にかけていた。
 強い女性だ‥‥だからこそ、少しでも元気づけようと美雲はにっこりと笑顔を浮かべて励ます。
 一人、また一人と野営地まで運ばれていく救助者達だったが、比較的傷の少ない者達は後回しのため、必然的に対応が遅くなってしまう。

「ねぇ‥‥おねえちゃん、おいていっちゃやだよ‥‥いっしょにいてよ‥‥」

 そう言って服の裾を引っ張ってくる男の子の手を取り、テトは諭すように言った。

「後回しにして申し訳ねぇが‥‥てめぇはそんだけ余裕があるって事だ。
 落ち着いて待っててくれ」
「うん‥‥ぜったいだよ‥‥?」

 くしゃり、と男の子の頭を撫でる反対側の彼女の手は、爪が食い込みそうになる程に握りしめられていた。
‥‥本当ならば今すぐにでも彼ら全員に治療を施し、全員抱えて下山したい。
 だが、彼女は貴重な治療役――感情に任せて動く事は決して出来なかった。



――傭兵達を含めた全員が移動を終えたのは数十分後‥‥稲光がはっきりと見え始めた頃だった。



 野営地では、準備を終えた天野 天魔(gc4365)が通信機を片手に待ち構えていた。

「‥‥待ちくたびれたぞ? さぁ、手早く済ませるとしよう。既に先生は向こうで待機中だ」

 すると、それに応えるように、医師の必死そうな声がノイズ混じりに聞こえてくる。

『――ありがとう!! ではまず重傷者の容体を逐一教えてくれ!!
 あくまで非常措置だが、やらないだけはマシな筈だ!!』

 彼の言葉に一斉に頷くと、傭兵達は行動を開始した。

「コンロにライター、毛布に‥‥それにレーションが各種‥‥と。
 ふう、この状況で役に立ちそうなのはこのぐらいか」
「助かる‥‥まずはありったけ水を汲んできてくれ!! 後は重傷者をすぐにテントへ!!」

 事前にセージが振り分けておいた道具をひとしきり頭に叩き込むと、如月は医師から指示を受けた通りに仲間達に指示を与えていった。
 飯ごう等を使って沢から水を汲むと、それらを魔宗が持ってきていたポットセットや、ジッポライターで起こした火種で沸かし、様々な器具の煮沸や、安全な飲み水、治療用の熱湯などを確保していく。

『まずは何にしても出血を抑えてくれ!! ただし、君達のスキルを使う前に、傷口の洗浄と異物の排除だけは徹底してくれ!!
 傷口が塞がっても感染症が起こってしまったら目も当てられん!!』
「分かった!!」

 医師の指示に従い、天原がエマージェンシーキットの器具と煮沸した水を使い、教師の傷口を丹念に洗い流していく。

「〜〜〜〜っ!?」
「コラ暴れるな‥‥大丈夫大丈夫」

 猛烈な痛みに身を捩る教師の体を抑えつつ励ます。
 程なくして主要な傷口の洗浄は完了し、止血が開始されるが、その頃には目に見えて体力が落ちてきているのが分かった。

「‥‥先生は助かるかね?
 いや、100%助からないなら楽にしてやったほうがいいと思ってね」
「‥‥!? おい!!」

 それを見ていた天野の問いに、如月が抗議するように声を上げる。
――しかし、彼の瞳を見た瞬間二の句が継げなくなる。
 言葉こそ冷たいが、その瞳には慈悲の光が宿っていた。
 救助者全てに満足な治療が回らないこの現状‥‥助かる見込みの無い者にそれらを分け与える余裕が無い以上、それは必要な取捨選択の一つなのだ。

「何最初っから切り捨てる選択肢を頭に入れてるのさ?」

 その時、声を上げたのは今まで黙して治療を手伝っていた零音であった。

「達成不可能な依頼なんて存在しない。
 どんなに緊急でも、それを完遂すんのが【最後の希望】の傭兵の矜持ってモンだよ」

 青臭いかもしれない――それでも、そのぐらいの覚悟で臨まなくて、どうして失われようとしている命を救えよう?

『‥‥私からも頼む。一般人の私にとっては駄目でも、君達能力者ならば救える命かもしれない。
 一般人ならば打てないもう一手さえあれば‥‥もう一手さえあればいけそうなんだ!』
「‥‥了解、なら全力を尽くすか。犠牲は少ないに越した事は無いからな」

 医師の必死な叫びに、天野が口の端を吊り上げて応える。
 その言葉を聞いた皆は、はっきりと覚悟を決めた。

「おい‥‥治療用のスキルは何回使える? ちなみに私はあと1,2回と言った所かな」
「俺様はあと2,3回って所だな‥‥正直余裕はねぇ」
「アタシは本業じゃないから、一回こっきり」
「俺も一回だけだな」

 手は休みなく重傷者たちの治療をしながら、如月の確認の言葉に治療が可能な者達が矢継ぎ早に答える。
 するとおずおずと美雲が手を上げた。

「テトさん、私のスキルでテトさんのサポートが出来ます」
「『魂の共有』か!! 助かるぜ!!」

 練力消費の半分を肩代わりするスキルの存在に、してやったりと手を打ち合わせるテト。

「なら、先生さんの事は任せるぞ? 俺達は子供達の方に回る!!」
「おう!! ‥‥やるぜ、美雲!!」
「はいっ!!」

 セージの叫びに応え、テトと美雲の二人は教師の傍らに跪いてスキルを発動させる。
 二人の間を光のパスが繋ぎ、教師の体が暖かな光に包まれ始めた。



 そして別のテントでも、重傷の子供達の治療が開始される。

「おねぇちゃん‥‥いたい‥‥」
「だーいじょーぶだって! ねーちゃんを誰だと思ってんのさ」

 不安げな表情を浮かべる少年に向かって微笑みかけると、零音はてきぱきと彼に治療を施していく。
 傷口を洗って消毒し、包帯を巻き、骨の折れた場所には添え木を据えて固定する。


――だが、何人目かの時にとうとうエマージェンシーキットの包帯が尽きた。


 それに気付いた彼女の行動は迅速だった。



‥‥ビリビリッ!!



 即座に自分のブラウスの袖とスカートの裾を破り、それを器用に切り裂いて即席の包帯を作り、巻きつけていく。

「お前それは俺が‥‥っとに女の子が無闇に肌晒すなっつの!」
「どうしたん、天兄? 私、何か変かな?」

 その音を聞きつけた天原が咄嗟にテントの中に入って来るが、零音の姿を見た瞬間顔を赤くしながら目を逸らした。
 零音は全く自覚していないが、手足の肌が惜しげも無く晒され、かなりあられもない恰好になっている。

「それにな‥‥おめぇだって消耗してんだろうが。体冷やしてブッ倒れたらどうすんだよ?
‥‥ほれ、これ着ろ。んで、まずは俺のから使え」
「あんがと、天兄」

 天原はやれやれと頭を振ると、自らの上着を彼女に着せ、そのままサポートに入った。



 比較的軽傷の子供達は、テントの外で防寒着や防水シートで濡れないように心掛けながら、治療スキルを持たない者達が手分けして治療を行っていく。

「コレぐらいの怪我なら俺にも処置できそうだな。
 どれ、おにーさんに痛いところ教えてくれるかな?」
「うん‥‥ここと、ここ‥‥」

 子供達とコミュニケーションを交わしながら治療を続けるセージだったが、既に練力は切れており、一般人並みとなった体力が悲鳴を上げて今にも倒れそうだった。

「よーし次だ‥‥ちょっと痛いの我慢しろよ? 男の子だよな?」
「う‥‥んっ‥‥!!」

 だが、そんな態度を見せたら、今目の前にいる不安げな彼らを更に不安にさせる事になる。
 だからこそ、セージはいつものように柔らかい笑みを崩さず、震える膝を抑えつけて子供達の間を飛び廻った。



――その甲斐もあり、ひとしきりの治療が全て終わるまで、誰の心の平静も、命も、失われる事は無かった。



『――良くやってくれた‥‥後は容態の急変に注意して、我々が着くまで待っていてくれ』

 医師の言葉を聞いた傭兵達は、大きく息を吐く。
 無論まだまだ気は抜けないが、後は治療役の者達の練力の回復を優先しながら、夜明けを待つだけだ。

「よーし、皆!! メシにするぞ!!」

 天原が大きな声で呼びかけると、バックパックに入れてきていたありったけのレーション食糧を子供達に配っていく。
 カレーにビーフシチュー、タンドリーチキンにパスタ‥‥多くが冷えてはいるものの、一様に子供達は歓声を上げた。
 そして同時に零音らが持ってきていた板チョコも切り分けられ、全員に行き渡っていく。

「こういうときの甘い物は有効だな‥‥」

 ようやく心の底からの笑顔を見せた子供達を見た如月は、自らの疲れが吹き飛んでいくような気分だった。



「これで‥‥よし、と」

 教師の様子を見ていた美雲は、テントの端で「あるモノ」を絞り出し、水筒の中に収めていた。
 体力の消耗が激しい教師だったが、医師から止められてしまったためチョコ等の食料は未だに食べられず、水も残り少ない以上飲ませる量も限られてしまっている。
――だが、今の美雲にならば彼女に与えられるものもある。

「先生、これを飲んで下さい」

 水筒の中身を口に含み、口移しで飲ませる‥‥その中身は、独特の臭みを持つ乳白色の液体だった。
 傭兵でありながら一児の母でもある彼女は、自らの母乳を分け与えていたのである。

「先生、頑張って下さい。もう少しです。もう少し頑張ればみんなで帰れます」
「は‥‥い‥‥」

 弱々しくも頷く教師――美雲はそれに慈母の如き笑顔で頷いた。



 そして深夜‥‥中には気持ちが沈み、未だに寝られない子供達もいた。

「大丈夫だって、心配すんな! 俺様達は、こういう時の為にいるんだからな」

 そんな彼らにテトが歩み寄り、傍で元気が出るような歌を歌い始める。

「そういう事だ――さて、それでは一曲‥‥」

 それに天野が唄を被せ‥‥程無くして、彼らは全員安らかに寝息を立てていた。

「悪ぃな」
「何‥‥役に立てたのなら幸いさ」

 スキル「子守唄」を発動させた天野は、血涙を流しながら微笑んだ。



――そして、翌朝。
 空から轟音が響き渡ったかと思うと、何隻もの高速移動艇が彼らの頭上に現れた。

『お待たせしました!! 今から着陸します!!』

 次々と救助隊が降下し、教師や子供達を一人一人助け上げていく。
 そしてそれに遅れる事数時間‥‥傭兵達も移動艇へと乗り込んだ。

「本当にお疲れ様でした‥‥!! このお礼は――」
「‥‥待て」

 帰路の途中、副操縦士がかけようとした言葉を、操縦士が遮る。

「‥‥もう少し、そっとしておいてやれ」
「――了解です」

 戦いを終えた傭兵達は、誇らしげな笑みを浮かべてぐっすりと眠っていた。