●リプレイ本文
次々と基地から発進して行く御剣隊のKV達。
そんな中でも、新兵は震え続けるままになっていた。
「自分が能力者になった頃を思い出しますね。彼の気持ちも分からなくはありません」
それを遠くから見つめながら、リディス(
ga0022)が溜息を吐く。
「さぁて‥‥新しい剣はここで折れるか鍛えられた真剣になるかどっちだろうね」
それに対して、漸 王零(
ga2930)の口元は楽しげに吊り上げられていた。
かつて彼は未熟な剣達を叩き潰した経験を持つが、彼らは真剣になって戻ってきた――ならば、彼はどうか? という興味に満ちている。
「少佐はああ言ってたけど‥‥人のまま戦い続けるのも辛い選択だけどね‥‥」
ラウラ・ブレイク(
gb1395)はエリシアの独白を思い出し、眉を寄せる。
「戦場では恐怖心を無くした人から死んでいきます。
‥‥少佐達も恐怖の御し方が人より上手いだけで、決して恐怖を感じないわけじゃないと思うんですよね」
その点を、あの新兵は誤解しているとセラ・インフィールド(
ga1889)は思う。
しかし、朱に交われば赤くなる――きっと、彼も徐々に慣れてくれる事だろう。
――だが、まずはこの戦いに生き残れたらの話‥‥だが。
「‥‥そのためにも、まずはあの腑抜けた態度、叩き直さんとあきまへんな」
エレノア・ハーベスト(
ga8856)はそう呟くと、仲間達と共に愛機のS−01Hで新兵の下へと歩み寄っていった。
「――調子はどうですか?」
震える新兵に声を掛ける周防 誠(
ga7131)。
「震えが止らんようじゃの、隊の皆が笑っていられるが信じられんと言った所かの?」
「はい‥‥」
藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)の言葉に、重々しく頷く新兵。
「俺には‥‥無理です。あんな数の敵と戦う前なのに、あの人達みたいに笑うなんて。
俺は‥‥あんな‥‥あんな狂った人達とは――っ!!」
――戦えない。
「――歯ぁ食い縛りなはれ」
と、口にしようとした瞬間、新兵はコクピットに飛び移ったエレノアに胸倉を掴まれていた。
そして、そのまま彼女は自らの頭を思い切り振りかぶり――新兵の頭に思い切り打ちつけた。
――ゴヅンッ!!
「〜〜〜〜っ!?」
目から火花が散り、頭蓋を貫くような痛みに悶える新兵。
「‥‥目が覚めたんやったらよう聞きや、あんさんを現状で戦闘に参加させたくないんやけど、遊ばすわけにもいかへんよって。
後方で戦闘の空気を感じ、自分がなぜ軍に入ったんかを、もう一度よう思い出しや」
そう言い放つと、投げ捨てるかのように襟首から手を放し、自らの愛機に乗り込んで去っていくエレノア。
新兵が茫然としていると、そこに周防のワイバーン「ゲイル2」が歩み寄った。
「目、覚めましたか?」
「う‥‥はい」
頭突きの痛みと衝撃は、新兵からネガティブな思考を一時的に晴らしていた。
彼が先程までしていた思考――それは、傍らに立つ戦友を愚弄し、危険に曝す愚かなものだ。
「彼らは確かに強い‥‥その強さは色々な要素が複合して形成されているんでしょう。
例えば‥‥僚機への信頼、とかね」
――言外に、貴方もそうなれますか? と問いかけると、周防もまた先に飛び立っていく。
「なりたいよ‥‥なりたい、けど‥‥」
思考はクリアになったとしても、その心に生まれた恐怖までは消えてくれない。
「恐れる事は無い。彼ら‥‥いや我らには先の戦いで生まれた英霊たちが傍におる。
それらに無様な姿を見せたくないのじゃ‥‥それが先に逝った者に対しての最大の弔いじゃと知っておるからの」
「英霊‥‥」
そこに、藍紗が優しく諭すように言う。
御剣隊と幾度も行動を共にし‥‥そして、彼らが死んでいくのを幾度も見てきた彼女の言葉は、重い。
だからこそ、傍らに彼らの魂があるという言葉も、現実味を帯びているように聞こえた。
「それでも怖いならば‥‥お主にこれを貸してやろう。
帰還の護りと言ってな、その昔戦争に向かう戦闘機乗りに恋人が渡したスカーフでの、死線と苦戦を越えて帰ることが出来るお守りじゃ」
そして藍紗はコクピットに飛び移ると、新兵の首にスカーフを巻き‥‥その瞬間、ぐっ、と引き寄せて自らの唇を重ねた。
「‥‥!?」
「そして、これもお守りじゃ――帰ったら‥‥続きをしてやるのじゃ」
目を白黒させる彼に悪戯な表情で微笑むと、藍紗はアンジェリカ「朱鷺」へと戻っていく。
「‥‥はいっ!!」
少し遅れて、大きく返事をする新兵。
――いつの間にか、全身の震えは止まっていた。
『――どうやら、大丈夫なようだな』
無線から響くエリシアの声。
『少尉、貴様は一旦我々の隊の指揮下から離れ、傭兵達と行動を共にしろ。
‥‥得られるモノは大きい筈だ』
「と、いう事なのでー‥‥新人くんには狙撃機になる私の護衛をしてほしいかなー」
それと同時に、如月・菫(
gb1886)がガンスリンガー「アメジスト」の中から、モニター越しにこちらをわざとらしくチラチラと見てくる。
『‥‥何だスミレ? 臆病風に吹かれたか?』
「い、いやいやいやいや!? ほら、狙撃機って、狙われたら最期ですしおすし!」
そんなコミカルなやり取りを見て、いつしか新兵の口から笑いが漏れていた。
そしてポイントAに集結した御剣隊と傭兵達の視界の向こうには、数えるのも嫌になるような数のバグア軍の機動兵器達がひしめき合っていた。
『よし‥‥これより戦闘行動を開始する!! 囮役のデカい花火を打ち上げろ!!』
『――了!!』
エリシアの号令の下、御剣隊を中心とした部隊がトリガーを引きながら突撃する。
バグア軍の何機かが、弾幕に巻き込まれそのまま爆発し、あるいは傷付いた所に小隊全機による一斉攻撃で止めを刺された。
しかし、反撃としてそれに倍する猛烈な攻撃が御剣隊に降り注ぐ。
『怯むな!! 多対一を常に心がけて対処しろ!! 絶対に突出はするな!!』
しかし、それでもエリシア達は必死に陣形を組み、バグア軍を引き付け続けた。
そしていつしかバグア軍の戦列は、それぞれの機動力の差から次第に間延びしていく。
『――今だ!! 横っ面を引っ叩け!!』
『了解!!』
次の瞬間、アルヴァイムのノーヴィ・ロジーナ「字」を先頭に、リヴァル・クロウのシュテルン「電影」、そして周防のゲイル2、セラのシュテルン「ミモザ」、そして御剣隊管制小隊ら空戦班が、夜空を切り裂いて現れる。
先頭を行く「字」にHWの編隊が一気に襲い掛かり、下からはマグナムキャットやTW、RCによる対空砲火が降り注ぐが、その装甲と操縦技術を以て切り抜けて行った。
「時間が無いんでね、危ない橋渡って行きますよ!?」
「攻撃を開始する、耐えろ」
「字」が射線に入っているにも関わらず、照準を合わせる周防とリヴァル――しかし、アルヴァイムは事も無げに言い放った。
「構うな、やれ」
その言葉に従い、二人はそのままK−02の弾幕を繰り出す。
――数機のHWが爆炎に呑まれて爆散するが、「字」は全くの無傷。
金剛の機体は何事も無かったかのように、敵をかく乱し続ける。
「フォローお願いしますよ!!」
「了解です!!」
バグアが「字」に気を取られている隙に、周防はセラの援護を受け、一気に降下した。
無数の砲撃がゲイル2を襲うが、周防は巧みな機動でそれらを掻い潜る。
尚も照準を向けるバグア軍の対空ワーム達‥‥だが、それらの砲口にセラのプラズマライフルが次々と打ち込まれ、逆に爆散させられていった。
――そして投下された二つのフレア弾による紅蓮の炎は、下にいたゴーレムやRC達を奇怪なオブジェへと変える。
「ウイング展開、アンチジャミング起動‥‥さぁて、盛大に暴れようじゃねぇか!!」
「小型種は踏み潰せ! 大型は斬り殺せ! 共に駆け抜けるぞ!
御剣隊! パンツァーフォー!」
『――了!!』
それを機に、宗太郎=シルエイトのLM−01「ストライダー」と、堺・清四郎のミカガミ「剣虎」が御剣隊のシラヌイ一個小隊を伴って突撃した。
「おおおおっ!!」
「隙だらけだ!!」
空の仲間達を狙い、前進の邪魔になるTWやRC達を彼らが引き受けている間に、中央に位置していたタロス目掛けてリディスのディスタン「プリヴィディエーニィ」と、王零の雷電「アンラ・マンユ」が突き進む。
リディスは立ち塞がるゴーレム達をセトナクトで薙ぎ払いながら、手近なタロスへと牽制のアハトアハトを撃ち込んで動きを止めると、ブーストで一気に距離を詰め、ルーネ・グングニルで刺し貫く。
そして王零は攻撃の悉くをその分厚い装甲とアイギスで受け止めて強引に接近し、ジャレイトフィアーのドリルの如き一撃を中枢部目がけて叩き込んだ。
「ぬんっ!!」
そして止めのデアボリングコレダーが、頭を叩き潰す。
‥‥たった数回の応酬で、あっという間に二機の精鋭が倒された事で、彼らを囲んで潰そうと試みるバグア軍だが、そうは問屋が卸さない。
「させんわぁっ!!」
藍紗がBCアクスでゴーレムの頭を撥ね飛ばし、アハトアハトでTWの甲羅を貫く。
「悪いけど容赦はしないわよ!!」
RCの首をラウラの雪村が貫き、翻ったハイ・ディフェンダーがタロスの装甲を打ち砕いた。
「邪魔ですえ!!」
そしてマグナムキャットの群れはエレノアのグレネードによって、隠れ蓑になっていたブッシュごと焼き払われ、悲鳴をあげながら火達磨となって飛び出してきた者には、多連装機関砲が介錯するかの如く唸りを上げる。
しかし、その内の何体かは猛攻に耐え、彼らの背後や射程外から砲撃を加えようとする。
‥‥が、突如飛来した砲弾の一撃によって次々と撃ち抜かれて倒れ、止めを刺されていった。
「敵の射程外なら、何も怖くない!!」
それは、菫によるスナイパーライフルLRX−1による、途方も無い距離から放たれた狙撃。
横槍というにはあまりにも苛烈な攻撃によって足並みを乱されたバグア軍は、中央に踏み入ったリディスと王零を囲み切る事も出来ず、成す術無く内側から食い破られていった。
――菫の傍らに立つ新兵は、前方で行われる猛烈な戦闘を、ただ黙って見ている事しか出来なかった。
恐怖も、不振も、吹っ切った筈だった‥‥しかし、最前線の狂気は若き青年の決意を易々と打ち砕く。
‥‥自分は、傍らでライフルを構えるガンスリンガーを護衛しているのだと自らに言い聞かせ、前に進ませる事を拒む弱い心。
『新人、名前はなんと言う』
それを振り払ったのは、リディスから放たれた通信。
『‥‥恐ろしいならお前がなぜここにいるか思い出せ。軍人になったのにも理由があったはずだ』
その力強い言葉は、青年が忘れかけていた士官学校時代の誓いを思い起こさせる。
――家族を、友と、傍らに立つ戦友を守るため、バグアを倒す。
それを胸に、今まで戦ってきたのでは無かったか?
『――死を恐れるのは悪い事じゃないわ。
‥‥でもね、死より恐れるべきは希望を失うこと。生きる希望の為に戦うのよ』
続けてラウラが言う――深き絶望の向こうに見える本当の希望を諦めるか、掴み取るかは全て己自身に他ならないと。
『――無敵のエースなんて存在しない。
必要なのは命を賭す覚悟と、痛みに耐え失敗に学ぶこと。
‥‥それを幾度も乗り越えたのが彼らよ』
ラウラの視線の先には、傷付き、ボロボロになりながらも無数の敵を相手に、隊の仲間達と共に戦い続ける御剣隊の姿がある。
『痛みを知るからこそ命を無駄にしない。希望を活かす為に命を使う。
――彼らは狂ってるんじゃない。絶望しない、人を信じる心を持っている。
‥‥そうじゃなきゃ命懸けで希望を繋ぐなんてできないわ』
‥‥そう、彼も受け継いだ筈だ。
そもそも彼が御剣隊に来たのは‥‥再起不能となり、希望のバトンを運べなくなった者に代わり、バトンを届けるため。
――新兵のシラヌイの足が一歩、前に出る。
その時だった――上空にいた管制小隊のウーフーのパイロットが警告の叫びを上げたのは。
『‥‥一機抜けた!! 指揮官機仕様のタロス!! 速いぞ!!』
新兵と、菫目掛けて一気に接近してくる機影――それは、無改造の、そして無改造に等しい性能の機体にとっては、あまりにも致命的な相手。
『うわわわわわっ!? こっち来たぁ〜〜っ!!』
咄嗟に飛び退こうとするアメジストだったが、巨大な砲身は行動を阻害する。
このままでは彼女がやられる‥‥そう思った瞬間、シラヌイは指揮官機に立ち塞がっていた。
「うおおおおおおおおっ!!」
プロトン砲を盾で防ぎ、続いて飛び降り様に振るわれた剣をディフェンダーで遮る。
「俺はっ!! ライル‥‥ッ!! 御剣隊所属‥‥ライル・ハーディング少尉でありますっ!!」
圧倒的なパワーの前に、機体の全身が悲鳴を上げる‥‥が、彼は決して引かなかった。
「――いい名前ですね」
優しい微笑みと共に、飛び込んでくる南十字星と天使の翼のエンブレム。
セラのミモザによる剣翼の一撃が、指揮官機を引き剥がし、大空へと再び放り上げる。
「――覚えときますね♪ 何せ、命の恩人ですから!!」
更に追い打ちとばかりに菫の放ったスラスターライフルの弾幕が、更に指揮官機を空高くへとかち上げていった。
「――では、新たな希望のデビューの記念に‥‥ちょっと試してみますか!!」
その上空から急降下した周防がK−02を放つ。
弾幕に隠れながらブーストを吹かした白銀の疾風は一気に奔り抜け‥‥勢いの乗った剣翼が指揮官機を真っ二つに切り裂いた。
――そして、止めに降り注ぐミサイルの嵐。
まるで号砲の如く咲き誇った爆炎の華は、夜の戦域を明るく照らした。
「――ここはもう安心ですから、行って来ちゃって下さい♪」
『はいっ!!』
菫の言葉に押され、新兵は前線で戦う傭兵達へと合流した――彼らと轡を並べるために。
「吹っ切れたようじゃの‥‥行くぞライル!!」
『――了!!』
呼吸を合わせると、藍紗と新兵は即席にバディを組んで敵陣に切り込んでいく。
しかし、一瞬の隙を突いて彼目がけてタロスが斧槍を振り上げながら一気に踏み込んだ。
『‥‥!?』
「ここで死なせはせん、おぉぉぉぉ!」
咄嗟に割り込む藍紗の朱鷺――両者は激しくぶつかり合い、轟音が辺りに響き渡った。
『藍紗さん!!』
「‥‥勝手に殺すでない。
まだまだ死ぬわけにはいかんよ。お守りも返してもらわねばならんしの」
悲鳴を上げる新兵――だが、藍紗は間一髪の所でウルを機体と斧槍の間にすべり込ませている。
そしてそのまま零距離で押し付けられた粒子砲の一撃が、タロスの上半身を吹き飛ばした。
――数分後‥‥戦域に動くバグア軍の姿は影も形も残ってはいなかった。
戦いが終わり、新兵の前にはエリシアら御剣隊の面々が立っていた。
「――改めて言おう。『ようこそ、御剣隊へ』‥‥我等は、貴官を歓迎しよう」
「‥‥はっ!! 宜しくお願いいたします!!」
固く握手し合う彼らを見つめる傭兵達の目は、優しく細められていた。