●リプレイ本文
「じゃあ、皆さんどうぞ上がって下さい」
「今日は呼んで頂きありがとうございますですよロバートさん〜!
‥‥そ、それと‥‥ア、アンさんもオヒサシブリデス‥‥」
オルカ・スパイホップ(
gc1882)が元気にロバートへ挨拶しながら上がりこむ‥‥アンからなるべく目を逸らしながら。
「済みませんロバートさん、急に手伝うなんて我儘言って‥‥」
「いいんですよ、教えてくれる人が沢山いてくれると嬉しいですから。」
頭を下げる張 天莉(
gc3344)にロバートが笑顔で応える。
「料理が作れるって聞いて依頼を受けたけど‥‥。
凄い料理人が居るなら、俺の出る幕はなさそうだね。
俺が出来るのは精々、ドイツ料理中心に、イタリア、フランス、それに日本料理くらいだし‥‥」
「そ、それって十分凄くないですか?」
マルセル・ライスター(
gb4909)は料理の助手を早々に諦め、ただ勉強しようと考えていた。
「か、可愛い男の子がいっぱぁい‥‥ハァハァ」
一方アンを初めとした『捕食者』達の視線は、少年たちに注がれていた。
「イイ‥‥実にいいわね‥‥」
「‥‥うふふ、楽しみだなぁ」
フランツィスカ・L(
gc3985)と兎々(
ga7859)が舌なめずりをしながら囁き合う。
「――それじゃあ、さっさと準備して料理の特訓の開始ね‥‥色々味見しちゃうわよー。
味覚・触感フル動員して‥‥楽しみよね」
「ハイ‥‥ソウデスネ‥‥」
イイ笑顔で肩に手を置く樹・籐子(
gc0214)に対して、しっと団総帥こと白虎(
ga9191)はガチガチになりながら頷く事しか出来なかった。
全てはリア充粛清と、萌えっ子の頂点‥‥そして弁当調理スキルのため。
(だってお姉ちゃんは作ってくれないんだもん!)
心の中で決して発せぬ叫びを漏らす。
「おやぁ‥‥? 何だかしっと団にあるまじき甘酸っぱぁい匂いがするなぁ桃色‥‥?」
「ぎ、ぎにゃー!? 止めっ‥‥コブラツイストは止めるにゃーっ!!」
その甘い空気を感じ取り、白虎に掴みかかるフラン‥‥ショタ好きな彼女でも、リア充である事は許容出来ないらしい。
「おーい、遊んでないでそろそろ手伝ってくれ」
そんな二人に、エイミー・H・メイヤー(
gb5994)が台所から声を掛けた。
「さ、さぁ男の子達は、み、皆これを履くのよ‥‥ハァハァ」
「これって‥‥」
「半ズボン‥‥ですよね‥‥?」
そう言ってフランが少年たちに差し出したのは丈の非常に短い半ズボンであった。
「そ、そうよ‥‥これが料理をする際の正式な衣装なのよ!!」
「そ、そうだったんですか!?」
「知らなかったですね‥‥では早速‥‥」
「いや騙されないでロバートさん、張さん!! というか何この人‥‥怖い‥‥」
カオスにわいわいと準備をする中、初対面であるアンに狙いを定‥‥もとい、挨拶するエイミー。
「そういえば挨拶が遅れてしまったな。
――お初にお目に掛かります、美しいレディ。綺麗なお召し物だな? とてもお似合いだ」
「え‥‥あ、ありがとうぅ‥‥」
跪き、いきなり掌を取って接吻してくる彼女に、目を白黒させるアン。
‥‥このエイミー、実は女の子好きなのである。
そのせいか、手を握る指の動きが若干怪しい。
「何やってるのー? エイミーさんも戦闘服に着替えましょうねー?」
そんな時彼女へ覆い被さるように飛び出してきた影‥‥兎々だ。
その手に持っていたのは、可愛らしい猫のプリントが施されたパジャマであった。
「おお‥‥これは!!」
「ふふー、可愛いでしょー。コンセプトは『パジャマで作れる簡単朝食』って事で」
可愛いもの好きなのか、頬を赤らめるエイミーに、兎々が「計画通り」とほくそ笑む。
(ぬうう‥‥こ、このままではボクが埋もれてしまうにゃー!!)
白虎はその光景を陰から見て、危機感を募らせる。
そこで彼が考え出したのが半ズボンの上に裸エプロン‥‥どう見ても死亡フラグだ。
「だが‥‥しっとの心は父心! 男の子には引き下がってはいけない時があるのだッ!」
「――あら、立派な心がけねぇ白虎ちゃん」
「さ、流石は白虎君だわぁ‥‥うふふふふ‥‥」
「い!?」
決意を込めて呟いた瞬間、そこにいたのは樹とアンの最凶コンビであった。
「さぁさぁこうしちゃいられないわ、お姉ちゃん達と一緒に着替えましょ♪」
「うふふふふふふ‥‥」
「うわあああああっ!? こ、こんなに早い展開は予想が‥‥あ、ちょ‥‥待‥‥アッ――――!?」
そんなこんなで数十分後――キッチンとダイニングに、全員が集合する。
「‥‥おねえちゃん‥‥おねえちゃん‥‥助けてにゃー‥‥」
白虎が隅でガクガクと震えているが、皆が皆見慣れた光景なので誰も気にしてなかった。
「リヒテン‥‥相変わらずだなぁ」
「うーん‥‥これ履くの何年振りですかね‥‥」
「僕は撮影で何度か履いた事はありますけど‥‥」
マルセルや張、ロバート達は、いつも着慣れない半ズボン姿に少し恥ずかしげな様子だ。
鍛えられ、それでいて筋張っていないスラリとした美しい脚線は、例え同性であったとしても見惚れかねないものだった。
「‥‥いい‥‥いいわぁ‥‥♪」
「天国みたい‥‥」
「‥‥フランちゃん‥‥グッジョブ!!」
「同志ですね‥‥私達」
フランの偉業を讃え、固く握手を交わすエイミーを除く女性陣(プラス兎々)。
「え、エイミーさん‥‥これって‥‥?」
「メイドさんやウェイトレスさんになりきれば、きっとお料理も上手になるはずです!!」
その一方、エイミーはと言うと、真っ赤なウソで理論武装しつつ、オルカにメイド服を着せていたりする。
――浅黒い肌と純白のレースが映え、足元のスカートの裾からは動く度に太腿の肌とガーターベルトが垣間見える。
そしてオルカの顔は羞恥で赤らめられ、目には薄く涙が浮かんでいた。
――ブパァッ!!
「ハァハァハァ‥‥」
「何コレ‥‥凄い‥‥」
「素敵‥‥素敵よオルカちゃん‥‥!!」
「わ、私とした事が‥‥半ズボン以外にときめいてしまうとは‥‥っ!!」
だくだくと鼻から愛情をダダ漏れさせる女性陣(プラス兎々)。
「あのー‥‥始めないんですか?」
カオスな状況はロバートが声を掛けるまで延々と続いた。
「ま、まず‥‥ロバート君は料理をする時は、ど、どんな事を心掛けてるのかしらぁ‥‥♪」
「えっと‥‥やっぱり、普通の味付けだと食べる人に悪いから、色々と考えて‥‥」
「ふぅん‥‥や、やっぱり思った通りねぇ‥‥」
「――まずはそこの部分からして間違えてますね」
ロバートの言葉に、アンとフランが納得したような表情で頷いた。
そして、先程とは打って変わった真剣な眼差しで教えるフラン。
「ロバートさんに分かり易い例えで言えば‥‥型が出来ていない人が芝居をすると『型無し』。
でも、型がしっかりした人がオリジナリティを持てば『型破り』になれるんです。
まずは基礎からしっかり覚え、技術を身につけることが肝要ですよ。
『料理は愛情』といいますが、それは形無しであってはいけません」
「‥‥!! 成程‥‥」
その言葉にロバートは力強く頷いた。
「ふ、フランさんが真面目だ‥‥」
「リヒテンとは料理依頼で何回か一緒しているんだ。
堅実な腕前だし、作業も正確だから、指導には向いているかもね」
フランの豹変ぶりに驚くオルカに、マルセルが補足する。
性癖はアレだが、こと料理に関しては至って真面目なのだ。
「‥‥ま、まずは包丁の持ち方とかぁ‥‥材料の切り方からやるわよぉ‥‥。
あ、味付けとかは後回しねぇ‥‥」
「はいっ!!」
そしてアンもここまでは真面目にレクチャーを続けていた。
やはり好みもバラバラの我儘な子供達の胃袋を支えていたという経験は、普段の性癖を凌駕する程に染みついているらしい。
「あ、じゃあ、私もお手伝いして良いですか?」
「‥‥も、勿論よぉ‥‥そ、その方が私としても嬉しいしぃ‥‥うふふふ♪」
「教師役が二人もいる事だし、折角だから、今日は俺も勉強させてもらおうかな」
張がアシスタントとして名乗りを上げ、マルセルはアンやフランの一挙手一投足を料理人の瞳で見つめる。
「うふふ、頑張ってねー。お姉ちゃんは味見役をさせて貰うわー」
樹はそんな彼らに優しく声援を送った。
(ふむ‥‥中々どうして絵になるじゃないか)
そしてエイミーは、その光景を一枚一枚カメラに収めていくのだった。
まずはアンとフランが模範として料理を作りつつ、ロバートがそれを見ながら真似をしていく‥‥という形で特訓は進んでいく。
「‥‥ま、まず材料を切ったらぁ‥‥水につけておいてねぇ‥‥」
「えっと‥‥こうやって‥‥うーん‥‥」
アンの教えた通りに材料を切るロバートだったが、具材の大きさは揃わず、どんどんと滅茶苦茶になっていく。
「うぅ‥‥どうしよう‥‥」
「最初はこんなものですから、気にせず続けましょう」
そんな彼を励ましながら、指導を続けるフラン。
「‥‥それでは手を切ってしまいます。持ち手は、こうです――猫の手」
「あ、はい!!」
そこには一切の下心は存在しない‥‥やはり彼女にとって、料理とは性癖を凌駕する存在のようだ。
そして材料を切り終え、ロバートの調理は火を使うものへと進んでいく。
「ロバートさん!! 焦げてますよ!?」
「え? あ!! あわわわわっ!!」
工程が複雑になり、あたふたし始めるロバート。
「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥」
それを眺めていたアンの理性は、そろそろ限界に近づいていた。
思わずロバートを抱きすくめ‥‥ようとした瞬間、そこにオルカが飛び出した。
「あーっとアンさん!! ちょっと聞きたい事があるんだけど〜!!」
そして代わりにぎゅむっ、と抱きしめられるオルカ。
彼女が突然の乱入にきょとん、としている所に、マルセルが少し黒い笑みを浮かべて囁いた。
「ロバートさんは、アンさんをとても信頼しているんですね。
その信頼を裏切られたら、ロバートくん凄く悲しむだろうなぁ‥‥。
アンさんは、そんな酷い人じゃ、ないですよね?」
「う‥‥そ、そうよねぇ‥‥が、我慢するわぁ‥‥オルカ君でぇ‥‥♪」
「あ、あわわわっ!? まさか狙いがボクに変更!?
や、止めて〜っ!? フトモモ撫でないで〜っ!!」
説得を受けて踏み止まり、今度はオルカをターゲットにセクハラを働くアン。
「む‥‥アン嬢。そんな事ばかりしていないで、少しは私も気にかけてくれないか‥‥?」
「ふぇ?」
そこにエイミーが目をうるうるさせながら彼女を覗き込む。
「あらあら、まさかの三角関係? お姉ちゃん興奮しちゃうわ♪」
「これを機会に、あなたとは仲良くなりたいんだ‥‥」
「えっと‥‥あの‥‥そのぉ‥‥」
「あ、あの〜‥‥い、いいから放して〜!!」
嗚呼、ますますカオスになっていくキッチン。
――その混乱の中で、人知れずピンチに陥っている存在がいた‥‥張である。
「――ととさん? ちょっと質問いいですか?」
「んー? 却下」
何時の間にやら彼はリビングで兎々に馬乗りされ、裸に剥かれようとしていた。
――そしてその手にはデコレーション用のホイップクリーム。
「張さん‥‥ロバートさんの為に美味しいデザートになってください!」
「あ、あわわわわっ‥‥」
流石に裸に剥かれるのには勘弁と抵抗していたが、時間の問題‥‥そこに白虎が駆けつける。
「こらーっ!! うちの大事な構成員に何してるにゃー!!」
「むむ? 邪魔する気?」
‥‥だが、最凶コンビの襲撃によって体力を消耗していたが故に満足に覚醒出来ず、あっという間に張共々組伏せられてしまう。
「にゅあああ〜〜っ!?」
「ふふ、白虎さんも美味しくしてあげましょうねー?
ついでにおいたをしようとした罰として蝋燭も立ててあげましょー」
‥‥抵抗空しく、哀れ18禁な饗宴に捧げられようとしたその時、救世主が現れた。
「あの‥‥ふざけるのは別に構わないんですけど‥‥料理中ですし、埃が立つから止めてくれませんか‥‥?」
「食べ物で遊ぶのは好みじゃないから、自分の体でやりなさい」
申し訳無さそうに、三人に頭を下げるロバートと、厳しい表情でびしっ、と指を突きつける樹。
「‥‥‥‥ごめんなさい」
至極真っ当すぎる正論に、流石の兎々も黙って従うしか無かった。
そして、とうとうアンとフランの模範料理が完成し、次々と食卓に並べられていく。
スクランブルエッグ、コンソメスープ、フレンチトースト――二人のものは、そのままサンプルとして使えるのではないかという盛り付けの美しさと、誰もが唸る程の味を兼ね備えていた。
その一方、ロバートのものはスクランブルエッグはボソボソ、スープの具は崩れ、トーストは焦げてしまっている。
「‥‥‥んー、ちょっと微妙かしら」
それを食べ終えた樹の一言は、ロバートの心にぐさり、と突き刺さった。
だが、彼女は続けてこう言い放つ。
「それでも壊滅的なものじゃないから、コツを覚えれば何とかなりそうな感じよねー。
‥‥気付いてない? コレ、普通に食べられるわよ?」
「あ‥‥」
その言葉に、ようやく気付く――今までは焦げの塊しか作れなかった自分が、満足に食べられる料理を作った事実に。
「今はまだ、一つ一つの工程を丁寧にやることが大事ですが‥‥。
積み重ねが大事です。頑張ってくださいね」
「――はいっ!!」
優しいフランの言葉に、ロバートは元気よく頷いた。
そして特訓を終え、後片付けを始める傭兵達。
食器や調理器具を洗いながら、マルセルはロバートに自分の夢を語っていた。
「料理は人を幸せにする力だって、俺は信じてるから‥‥。
アンさんやロバートくんみたいに、俺には持って生まれたものは無いけれど。
でも、夢なんだ。料理人になるのが」
「そうなんですか‥‥じゃあ、一緒に頑張りましょう」
「ああ」
夢を目指す少年と、夢を歩む少年は、こつん、と拳を打ち合わせた。
そんなほのぼのとした光景の裏では、阿鼻叫喚の宴が始まろうとしていた。
「さーて‥‥食後の運動でもしましょうか、アンちゃん♪」
「そ、そうねぇ‥‥うふふふふふ♪」
「ボクも不完全燃焼だったからねー‥‥楽しみー」
「は、半ズボン‥‥半ズボン‥‥ハァハァ」
特訓を終え、再び性癖を露わにした捕食者達が、獲物達に迫る。
「‥‥救いの女神は居なかったのですね
周りはエネミーばかりですよ〜四面楚歌ですよ‥‥」
「え? 皆さん何を‥‥え?」
「にゅああ‥‥」
そこへキッチンからマルセルが眉を顰めながら現れた。
「おーい!! 何してるんだよ!! 皆も片付け手伝‥‥失礼」
――と、目の前の光景を見た瞬間踵を返そうとした瞬間、フランががしり、とその手を掴む。
「ふふふふ‥‥逃がすと思う?」
「ちょ‥‥リヒテン‥‥待‥‥!?」
そのまま四人はずるずるとマンションの一室へと引きずられていく。
「折角綺麗に終わったのに‥‥なんだこのオチはーっ!?」
白虎の叫びを最後に、無情にも扉の鍵が閉められた。