タイトル:【RAL】潜む漆黒マスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/29 21:04

●オープニング本文


『失敗‥‥してしもうたようじゃの』
 アニヒレーター破壊失敗の報告を聞き、モニターの向こうのミツルギ准将は珍しく険しい表情を浮かべた。
「まぁ、曲がりなりにも敵の重要拠点だ。
 厄介だとは思ってけどよ‥‥まさかここまでとはな」
 サンズも忌々しげに頭を掻く。
 破壊工作が失敗した事で、敵の警戒は更に強くなり、アニヒレーターの破壊は一層困難な物となってしまった。
 加えて、厄介なのが新たに姿を見せた強力なバグアの存在――(一基はダミーだったが)アニヒレーターを守っていたゲルトとヴィクトリア、前線基地の変電施設を破壊し、司令官を暗殺したメタ、そしてアルジェの街に現れた男‥‥彼らは『プロトスクエア』と名乗る、このアフリカのバグアを率いる司令官の親衛隊であると、傭兵達からの情報により判明している。
 彼らの内のいずれかが、アニヒレーターの防衛をしている可能性が高い以上、攻略のリスクは何倍にも跳ね上がるだろう。
「‥‥だが関係ねぇ。すぐにでも再突入して、あの面倒くせぇ兵器を破壊する。
 もう、それしか道は無ぇな」
 ‥‥サンズの言う通り、グズグズはしていられない。
 何故なら敵に余計な時間を与えてしまった以上、いつ何時、破滅の光が自分達の頭上に降り注ぐか分からないのだから。
『ま、大丈夫じゃろ。ワシらは彼らを信じて、ワシらはワシらのやる事をやるだけじゃ』
「‥‥気楽に言ってくれやがるな、爺。相変わらず後生楽だな」
 先程とは打って変わったのほほんとした言葉を吐くミツルギに、サンズが苛立たしげに顔を歪めた――完全に、階級で呼ぶという考えは吹き飛んでしまっているようだ。
『生憎と性分じゃからな。ま、「渡らず」の異名を持つお前さんの悪運もついとるからの』
「――悪運? ハッ、ボケた事言ってんじゃねぇーよ」
 サンズはミツルギの言葉に、獰猛な笑みを浮かべる。
「俺はいつも、自分の力で、万全の準備をしたから生き残ってきたんだ。
 運なんていうつまんねぇ不確定要素に頼った事なんざ一度たりとも無ぇんだよ」



――アルジェのアニヒレーターのコントロール室にて、眼鏡をかけた桃髪の少女――メタはその床の上にだらしなく足を投げ出して寝転がっていた。

「う〜〜‥‥やだべ〜やだべ〜。なしてウチがこんなこどしなくちゃならねぇだ〜」

 そしてバタバタと足をやかましく打ちつけながら、涙目になって駄々をこねる。
 体には、先の暗殺任務の時とは違い、バグア本来の艶かしいボディスーツを纏っていた。
 少し幼い可愛らしい顔立ちとは打って変わって、その体は成熟した豊満な女性のもの‥‥それが子供らしい動作で惜しげもなく晒される光景に、周囲にいる強化人間を含めた兵士達も、何処か落ち着かない様子で視線を彷徨わせていた。
‥‥とは言っても、メタの今の姿は『擬態』であり、本体は蟲人間の如き異形なのだが。

「大体、なしてウチが防衛なんが任されるんよ〜、ゲルとかヴィクとかエルとかいるべな〜」

 それ故に無頓着なのか、相変わらず駄々っ子のような仕草でぶうぶう文句を言うメタ。
 彼女は上司である司令官――かつてのピエトロ・バリウス中将――の命令で、このアニヒレーターの防衛を任されていた。
 しかし、本来彼女の役割は破壊工作や暗殺――本人は嫌がっているが――であり、こういう防衛目標を守ったりする事は苦手なのである。

「ですからそれは‥‥他のプロトスクエアの方々は、別の任務か、もしくは外の防衛を任されておるからと、何度も説明した筈ですが‥‥」

 メタを宥めるように説明するバグア‥‥しかし、メタの膨れっ面は収まらなかった。

「嘘こけ!! エルはともがぐ、ゲルとヴィクはどうせ我侭言っただげだっぺ!!
‥‥う〜‥‥やだべ〜‥‥いっぺぇ人来るんだべなぁ〜、いっぺぇ殺さなぐちゃいげねぇんだべな〜」

 しかしその時‥‥その場にいた者達の耳元に、凄まじい威圧感が篭った声が響き渡る。

『ほう、命令が不服と言いたいのか? メタよ』

 まるで心臓を握りつぶされたかのような圧迫感――その場にいたバグア達が一斉に跪き、メタがひっ、と息を呑んで弾かれるように姿勢を正した。

「い、いえっ!! そんなごだねぇですっ!! 喜んでやらせで頂ぎますっ!!」
『‥‥分かればいい』

 そう一言だけ告げると、通信は切れた。

「さ、さ〜あおめぇら仕事だべ!! グズグズしねぇで準備準備!!
 そうしねぇど、ピ、ピ‥‥えーっと新しい名前なんつったっけか?
‥‥と、ともがぐあのお方に殺されるべさ!!」

 するとメタは額から汗をだらだらと流しながら、その場にいた者達に発破をかけてコントロール室から飛び出して行った。
 それをやれやれと見送りながら、彼女の後を追って部屋を出るバグア達。
 足音は全くしない――彼らもまた、メタと同じく隠密行動を専門とする戦闘員であった。



「――任務を説明する。今回の貴君らの任務は‥‥先日破壊に失敗した、アニヒレーターへの再突入だ」

 ブリーフィングルームに集まった傭兵達に向かって、士官が任務の説明を開始する。

――内容は、シンプルかつ過酷。

 アニヒレーターの外周でUPC本隊と傭兵達によるKVと歩兵の混成部隊が大規模な陽動を行い、その隙に傭兵達を中心とした突入班が内部へと潜入、一直線にコントロールルームを目指す。
 そして可能な限り障害を排除しつつ、制御装置を破壊‥‥そうすれば、アニヒレーターはただのオブジェと化すだろう。

「既に作戦は開始されている――それに先立ち、能力者を中心とした偵察班を向かわせたのだが‥‥誰一人として帰ってこなかった」

 沈痛な面持ちでそう呟くと、士官は再び平静を取り戻し、説明を続ける。

「通信によれば、度重なる奇襲を受けて全滅したらしい‥‥奴らは屋内でゲリラ戦を展開してくる。
 状況が混乱していたので一部しか聞き取れなかったが、どうやら壁や天井に張り付いた状態から襲い掛かって来たようだ」

 更に、断片的な情報によれば、手足が蟲のように変じた少女が敵を率いていたという事だ。
――おそらくは、単身で前線基地へと乗り込み、司令官を暗殺したメタと呼ばれる異星人型バグアであろう。
 更に、その配下も殆どが特殊な改造を施された強化人間や、強化バグア兵達。

「前回と比べて、奴らの防衛網もかなり厚くなっているようだ。
‥‥どうか出来るならば、皆生きて帰ってきてくれ」

●参加者一覧

聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
リヴァル・クロウ(gb2337
26歳・♂・GD
蒼河 拓人(gb2873
16歳・♂・JG
鳳覚羅(gb3095
20歳・♂・AA
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN
杠葉 凛生(gb6638
50歳・♂・JG
館山 西土朗(gb8573
34歳・♂・CA
黒瀬 レオ(gb9668
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

「‥‥しかし、また厄介なモン作りやがって」

 聖・真琴(ga1622)が、街の中央に立つアニヒレーターを忌々しげに睨みつける。

「あの時の雪辱‥‥果たしに来たぜ」
「前回の失態は、必ずここで‥‥!!」

 前回の破壊作戦に参加した館山 西土朗(gb8573)と黒瀬 レオ(gb9668)の士気は高い。

「メタ‥‥そこにいるんだよね」

 そして、それは待ち受ける敵に因縁を持つ鷲羽・栗花落(gb4249)も同じだった




‥‥時折響いてくる地響きや轟音の木霊。

「向うも始まったか‥‥今の所は上手く行ってるようだね」

 敵戦力の多くは陽動に引き付けられているのか、今の所敵からの妨害は無い。
 鳳覚羅(gb3095)が息を吐く――まずは第一関門突破と言った所か。

「いや‥‥まだ油断は出来ないぞ?」

 そんな彼に釘を指すように呟いたのは、杠葉 凛生(gb6638)。
 彼の体には痛々しい包帯が巻かれている――ブリーダでの戦闘による傷が治りきっていないのだ。

(だがこの俺が、まさか他人のためになんてな‥‥)

 杠葉は昔では考えられない己の行動に驚きを隠せないでいた。
 かつてのように復讐では無く、友と共にアフリカを解放するための戦い。
――それも、いいかもしれない。
 ふ、と笑うと、杠葉は燻らせていた煙草を投げ捨て、臨戦態勢となった。

「そろそろ時間だ‥‥皆、準備はいいか?」

 リヴァル・クロウ(gb2337)の呼び掛けに、傭兵達が頷く。

「――行こうか、自分達の戦場へ」

 私情を殺し、蒼河 拓人(gb2873)はジーザリオのアクセルを踏み込んだ。




 ゲート目がけて、一直線にジーザリオが突き進む。

「‥‥っ!? 数が多すぎるっ!!」

 だが、視界に飛び込んできたのは、数えるのも馬鹿らしくなる程のキメラの大群。

「やはりか‥‥」

 おそらくはブリーダからの‥‥あのヨリシロの少女が送った援軍であろう。
 傭兵達は動揺する事無く一気に接近すると、ピンを抜いておいた閃光手榴弾を投擲する。



――つんざくような轟音と、凄まじい閃光。



 悲鳴を上げるキメラ達‥‥その混乱の隙に、一斉に傭兵達は飛び込んだ。

「こっちだぜ!!」
「了解!!」

 探査の眼を発動させた館山や杠葉が最もキメラの層が薄いコースを見つけ出すと、混乱が収まらない内に一気に突破を試みる。

「もう一つ喰らっておけっ!!」

 その間に立ち直るキメラ達もいたが、蒼河が閃光手榴弾を投げつけて再び無力化する。
――入口に到達する間に多少傷は負ったものの、考え得る最短の時間で、傭兵達は突破に成功していた。




 追いかけてくるキメラを牽制しながら、傭兵達は物陰や天井、果ては通風孔にまで最大限の注意を払いながら通路を進んでいく。


――陣形は、真琴とリヴァル、蒼河と黒瀬、鳳と館山、栗花落と杠葉がそれぞれペアとなり、各々前衛クラスの者達が四方を警戒する形だ。


ドーム状の広間へと到達する――あちこちに、警備用のキメラの姿が見て取れた。
 アーチ状の広間の入口を全員が潜った瞬間‥‥ぞわり、と杠葉の背筋が総毛立つ。

「上だっ!!」

 見上げれば、アーチのすぐ上の壁に虫のように張り付きながら、こちらを見据える影。
 それは桃色の残像を帯びながら、傭兵達へと頭上から襲い掛かった――狙いは、蒼河。

「蒼河さんっ!!」

 咄嗟に黒瀬が紅炎を抜き放つが、桃色の残像は空中で斬撃を掻い潜ると、蒼河目掛けて肘から伸びたブレードを振るう。

「ぐあっ‥‥!?」

 目で追う事がやっとの鋭い一撃が、装甲を易々と切り裂いた。
 だが、反撃に放たれたアラスカ454による制圧射撃が、それ以上の追撃を阻む。

「――おおっ!!」

その間に間合いを詰めた鳳の、猛撃とスマッシュの込もった竜斬斧「ベオウルフ」の一撃で弾き飛ばされた。
 更に続けて頭上から飛び掛かる複数の影。

「‥‥遅い」
「残念だがキャリアが違うぜ!」

 しかし、それらが振るうナイフの一撃は、杠葉と館山が持つ盾に防がれ、逆にケルベロスとエネルギーガンによる銃撃を受けて後退した。

「ありゃー、最低でも一人は殺るづもりだっだけんども‥‥失敗したべや」
「‥‥まさか、あなたがいきなり現れるなんてね、メタ」

 そう言って頭を掻く桃色の髪の影――メタを険しい表情で睨みつけながら、栗花落がハミングバードを構える。

「んあ? あ、そういやおめ、どっがで見だど思っだらこの前会った奴だっぺ」
「‥‥ボクは鷲羽栗花落、お前は必ずボクが倒す。姉さんの痛みも万倍にしてね!」

 そして言うが早く迅雷で間合いを詰める栗花落――しかし、そこに飛び掛かるキメラ。
 広場に点在していた者達が、騒ぎを聞きつけて集結したのだ。

「んだらば、後は任せるっぺ〜」
「待‥‥このっ!!」

 咄嗟にエアスマッシュを叩き付けて吹き飛ばし、カルブンクルスの火炎弾で焼き尽くすが、その間にメタとバグア兵は広間の天井のダクトへと飛び込んで姿を消していた。

「――蒼河、無事か?」
「な‥‥何とか‥‥」

 傷はかなり深かったが、リヴァルの錬成治療によってどうにか動けるまでに回復する。

「――あまり時間はかけられん。先を急ぐぞ!!」

 舘山が前衛達の合間から、迫る獅子型キメラの前足を撃ち抜きながら警告の声を上げた。
 ――彼の言葉通り、広間の出口からワラワラとキメラの増援が現れる‥‥その数、十数匹。
 ‥‥グズグズしていてはジリ貧だ。

「確かにな‥‥一気に突破するぞ真琴!!」
「ああ、遅れンなよく〜ちゃんっ!!」

 リヴァルの援護を受けて疾風脚で先陣を切った真琴の回し蹴りが、狼型のキメラ達を纏めて吹き飛ばした。




 次々と現れるキメラ達を時に倒し、時に逃げ、多数の群れに遭遇した際には虎の子の閃光手榴弾を用いて無力化して階層を突破していく傭兵達。

「――見〜っけ」
「‥‥ぐっ!?」

 通路の角を曲がった瞬間突き出されたブレードが、鳳の肩に突き刺さる。

「ちぇっ、また仕留め損ねたべ」
「待‥‥くそっ!!」

態勢を整える頃にはメタの姿は通路の奥に消えていた。

「こちらの神経をすり減らす試みか‥‥性質が悪いけど確かに効果的だね」

 止血のために肩を押さえながら、鳳が忌々しげに呟く。
 メタを初めとしたバグア兵達は、こうして傭兵達を傷付けてはすぐに撤退するという戦法をとり続けていた。
 1階から地下1階に到達するまでに受けた襲撃は、軽く十を超える。

「‥‥このままじゃ、流石に持たないぜ」

 鳳を癒す館山とリヴァルも体中に傷を負い、顔にも疲労の色が濃い――既に錬成治療だけでは追いつかなくなってきていた。
 唯一の嬉しい誤算と言えば、最も強力な敵であるメタの奇襲が少ない事。
 ‥‥もしかしたら、ここを守る事に消極的なのかもしれない。



 ――ヒュンッ!!



 その数分後――何度目かも分からない物陰からの襲撃。
 しかし、流石に傭兵達も黙ってはやられていなかった。

「‥‥そこかっ!!」

 蒼河が制圧射撃を試みてバグア兵の足を止めると、エネルギーガンを放ってその腹を熱線で貫く。

「おおおおおっ!!」

 足が止まった所へ黒瀬が先手必勝を以て踏み込み、袈裟切りに肩口を叩き割った。
 残る二体が撤退しようと試みるが、杠葉の放ったケルベロスの弾丸が膝裏を撃ち抜く方が早い。

「‥‥消えろ」
「いい加減にしてっ!!」

 そして背後から飛び掛かったリヴァルの月読が一体の首を刎ね飛ばし、迅雷で回り込んだ栗花落の刹那の一撃が、残る一体の心臓を抉った。

「‥‥流石に調子に乗り過ぎだ」

冷たい目で亡骸を見下ろす杠葉。
――バグア兵の体には、直前の襲撃の際に撃ったペイント弾が淡い燐光を放っていた。




 そして地下2階――ここが、偵察隊が入り込めた最後の階層だ。
 暫くして左右の分かれ道が現れるが、以前の突入によって正しいルートは既に判明している。

――左側の部屋に入ると、そこには漆黒のボディスーツを身に着けた壮年と少年の姿。
 恐らくは‥‥強化人間。

「てっきり隣の部屋から来ると思ってたが‥‥」
「‥‥既にこの部屋の構造は割れているからな。意味はあるまい」

 蒼河の言葉に、壮年の強化人間が手短に答え、構えを取る。

「――んじゃ、という訳で時間を稼がせて貰うよ?」

 少年の強化人間が再びチャクラムを取り出し‥‥それが戦いの合図となった。




 壁を走りながら少年が放つ、唸りを上げる戦輪。

「ぐうううっ!!」

 その威力は、館山が構えた盾を断ち割る程に強く、蒼河の全身を切り裂く程に鋭い。

「この‥‥程度っ!!」

 それでも二人はエネルギーガンで少年を狙い撃ち、チャクラムの投擲を阻止する。

「今だ栗花落さんっ!!」
「うんっ!!」

 その間に飛び込んだ栗花落が刹那とスマッシュを込めた斬撃を嵐のように繰り出し、その隙を狙った鳳が防御ごと打ち砕かんばかりの力で竜斬斧を振るう。

「‥‥ととっ!! 中々やるねっ!!」

 致命的な一打こそ与えられないが、釘付けにされる少年。

「行けっ!!」

 その隙を見計らった杠葉が放つ制圧射撃の支援を受けて、真琴とリヴァル、そして黒瀬が駆ける。
 壮年は天井に手を張り付けて銃弾をかわし、そのままブレイクダンスのように回転して蹴りつけた。

「ぐぅっ!!」

 よろめいた所に、天井に『立った』壮年の拳が黒瀬の顔面に突き刺さる。

――もんどり打って倒れる黒瀬‥‥しかし、すぐに刀を杖にして立ち上がった。

「‥‥カードキーもってるの、誰?」
「ほう、立つか」
「‥‥破壊するまで、帰れない!!」

 鼻血をぼたぼたと垂らしながらも、一歩を踏みしめる。

「‥‥その意気や良し」

黒瀬を狙って再び天井を蹴る壮年。

「させっかよ!!」

 ‥‥そこに真琴がナイフを投擲する。
 片手で払い落とそうとした所に炸裂する、リヴァルのザフィエルによる雷撃。

「むっ!?」

 壮年の態勢が崩れ――その瞬間、黒瀬が踏み込む。
 込められたスキルは両断剣・絶。


――紅の軌跡を伴って振るわれた一撃は、壮年の右腕を切り飛ばした。


「ぐおおおっ!?」

 呻きを上げて後退する壮年。
 追撃を試みるが、その前に飛来したチャクラムがそれを阻む。

「あーあ、油断するからだよ」
「‥‥そうだな――予想以上に強い」

 けらけらと笑う少年の言葉に、壮年が相変わらず無表情で答える。
 そして二人はそのまま反対側の扉へと後退していく。

「‥‥!? 逃げる気か!?」
「‥‥不味くなったら逃げろとの、メタ様のお達しだ」
「上からの命令は聞くけどやる気無いからねー、うちの大将‥‥んじゃ、また会おうよ」

 そしてそのままバックステップで距離を取り、扉を閉める二人の強化人間。

「待てっ!!」

 扉を開けて追いかける傭兵達‥‥しかし、そこに彼らの姿は無かった。




 そしてコントロールルームがある地下3階。
 電子ロックされた扉の前にはメタがいた。

「うぇ〜、あいづら使えねぇべ〜‥‥一人も減っでねぇ‥‥」

 溜息を吐くと、渋々といったように構えを取るメタ。

「んだらば、やるが〜。メンドくせぇけんど‥‥」

 ――それが、鳳には酷く気に障った。
 ここまで来るために犠牲になった者達を愚弄された気がして

「‥‥本気で相手をしてあげるよ」

 怒りで身に纏う焔が黒に染まり――猛撃が込められた竜斬斧が振るわれる。
 しかし、メタの体は一瞬で掻き消え、大きく脇腹を切り裂かれる鳳。

「ぐはっ‥‥」

 そのまま走り抜けたメタは、反対側の壁を蹴って再び残像と化した。

「‥‥メタっ!!」

 栗花落が迅雷で追い縋り、エアスマッシュを叩き付けるが、メタはブレードで切り払い、蹴りつけて彼女を引きはがす。

「早い‥‥!!」

 そこに放たれる杠葉の制圧射撃の弾幕は空しく空を切り、あっという間に間合いを詰められた。

「ぐおっ!?」

 放たれた拳がアバラを粉砕し、続く回し蹴りが彼の体を壁にめり込ませる。
 連戦で消耗した杠葉は堪らず崩れ落ち‥‥そのまま立ち上がれなかった。

「おおおおっ!!」
「‥‥もう、これ以上負けられないんだ!!」

 怯む事無く、真琴がジ・オーガによる連撃でメタの腹を切り裂き、黒瀬のソニックブームの連撃が空中から叩き落とすが、甲殻に遮られて致命打には至らない。
 逆にカウンターで放たれたブレードの一撃に、大きく後退を余儀なくされる二人。
 やはり強い――そして閉鎖空間では空中で姿勢制御を行えるメタに分があり過ぎた。



 ――ならばその機動力を奪ってしまえばいい。



「く〜ちゃん、行くよっ!」
「承知!!」

 真琴とリヴァルは目配せし合うと、荷物の中にあったジュースを一斉にメタ目がけて投げつけた。

「へ?」

 メタが呆気に取られている間に、それらに向かって超機械の電撃を放つ。



 ――パパパパンッ!!



 缶が破裂し、甘い液体がメタの体に降りかかった。

「わぷっ!?」

 突然の事態に驚き飛び退ろうとするが、蒸発し、ベトベトになった果汁がその動きを阻害する。

「舘山さんっ!!」
「応っ!!」

 動きの鈍ったメタを蒼河と舘山が狙撃し、羽を撃ち抜いて地面に叩き落とした。

「あだーっ!?」



――カランカランッ‥‥。



 その時、メタの胸元から零れ落ちるカードキー。

「げっ‥‥!?」

 メタが目を丸くして拾おうとするが、それよりも早くリヴァルがその間にカードキーを拾い、真琴に投げ渡した。

「真琴っ!!」
「おっけー!!」

 瞬天速で扉に駆けより、カードキーをリーダーに通して扉を解放する真琴。

「そ、それ゛返せーっ!!」

 立ち塞がる傭兵達を強引に押しのけ、メタが真琴の背目がけて飛び掛かる。

「悪いが、そうはさせんっ!!」

 が、寸前でリヴァルがタックルして阻む。



――むにゅっ。



「む‥‥?」

 絶妙に柔らかい感触‥‥偶然にも彼の手は、メタの豊満な胸を鷲掴みにしていた。

「んきゃあああああああっ!?」

 黄色い悲鳴と共に放たれた強烈すぎる一撃を喰らって吹き飛ばされ、昏倒するリヴァル。
 ‥‥過程はともかく、十分に時間は稼げた。

「オラァっ!!」

 真琴のジ・オーガが、コントロールルームの計器に突き刺さる。

「や、やめるべ〜っ!!」

 慌てて飛び掛かるメタに対して、真琴は限界突破と瞬天速を発動し、一瞬にして向き直り‥‥その腹に、渾身の寸打によるカウンターを放った。

「‥‥悪ぃな?」
「んが〜〜っ!?」

 もんどり打って吹き飛んでいくメタ――それを尻目に、真琴は計器の破壊を急ぐ。

「いい加減‥‥ぶっ壊れろってんだよォ――っ!!」

 そして止めに放たれた踵落としの一撃により、アニヒレーターは重々しい唸りを上げて停止した。




「ゆ‥‥許さねぇべ‥‥せ、『せぐはら』しだ上にぶっ壊すなんで‥‥っ!!」

 顔を真っ赤にしながら、涙目になるメタ。
 身構える傭兵達だったが、彼女は手近なダクトへと飛び込んで姿を消した。

『覚えてるべぇ〜!!』

 そんな情けない捨て台詞を残して。

「‥‥何アレ?」

 栗花落が呆れたように呟く。


 ‥‥何はともあれ、アニヒレーター破壊は成功。


 通信機でその旨を報告すると、傭兵達は地上へ脱出を開始したのだった。