タイトル:【初夢】魔星の母を撃てマスター:ドク
シナリオ形態: イベント |
難易度: 普通 |
参加人数: 69 人 |
サポート人数: 0 人 |
リプレイ完成日時: 2011/04/28 12:36 |
●オープニング本文
※このシナリオは初夢シナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。
「おお‥‥」
ユニヴァースナイト拾番艦のモニター越しの光景に、艦長は思わず声を上げた。
人類を長年苦しめてきた禍々しき紅の星――バグア本星のあちこちから、次々と爆発が巻き起こる。
『――こ、こちら突入班!! 反応炉を‥‥反応炉をやった!!
やったぞおおおおおおおおおおおおっ!!』
興奮気味に伝えてくる、本星に突入した傭兵達。
「‥‥ば、バグア本星から‥‥え、エネルギー反応消失‥‥。
沈黙します‥‥バグア本星が‥‥沈黙していきますっ‥‥!!」
同時に、オペレーターも瞳から大粒の涙を零しながら報告してくる。
それを聞いて呆然としていた者達にも、ようやく目の前の光景が現実のものであると認識した。
――瞬間、嵐のような歓声が宙域に響き渡った。
それは、既に感情という単純なものでは無く、バグア達の人間達の生き様のうねりであった。
バグアが現れてから15年の絶望と憎しみ‥‥そして、2007年に能力者が生み出されてからの死闘の苦しみが報われる瞬間を誰もが待ち望んでいたのだから。
‥‥ドクン
しかし、歴史と言うのはいつも繰り返されるもの。
その歓喜も、歓声も、今までがそうであったように、更なる絶望にて押し潰されるのだ。
「――!? 本星から再び凄まじいエネルギー反応!! 計測不能です!!」
「何っ!?」
「エネルギーが本星内部の一部に収縮‥‥え‥‥嘘‥‥止めて!!」
オペレーターが、自らの本分を忘れ、歳相応の少女の如き悲鳴を上げる。
だがそれを叱責する者は誰もいなかった。
――次の瞬間、回避する事など不可能な程に巨大な光条が、人類連合軍の艦隊を『抉り取って』いたから。
あらゆる兵器を、人を、その感情すらも巻き込んで、紅の光が辺りを照らす。
そして、それが収まった後には、無数の艦隊とKVの残骸と、砕けた紅の星だけがある。
「‥‥ユニヴァースナイト7、8、12、15番艦――『消滅』。
残存戦力の6割も‥‥同様に‥‥」
先程の歓声とは裏腹に、今度は沈黙が‥‥どうしようもない沈黙の帳が下りる。
そんな中、砕けた魔星の中央から、一つの人影が姿を現した。
――それは、背から左右に8枚ずつ‥‥計16枚の美しい羽根を生やした少女の姿をしていた。
それを見た瞬間、全ての人々は理解した――彼女こそが、バグアの王であるのだと。
『私は‥‥創造主に生み出されてから、一つの命令を下されました』
それは鈴を転がすようでもあり、全てを魅了する程に妖艶でもあり、全てを屈服させる王者のようでもあった。
『この宇宙に存在する、ありとあらゆるパターンの「命」を集めろと』
少女がまるで祈るかのように胸に手を当てると、周囲に存在していた人類、バグアを問わず、ありとあらゆる残骸が彼女と魔星へと集められていく。
『それ以来‥‥私は命を集め続けました』
残骸は集まり、固められ、融け合い、一つの形を成していった。
『幾万‥‥幾千万‥‥幾億‥‥幾兆‥‥』
巨大な腕に、巨大な体に、巨大な脚に、巨大な顔に、巨大な翼に。
『‥‥那由他の命を‥‥集めて‥‥集めて‥‥集メテ‥‥』
そして全ての残骸が変化を止めた時、そこには神々しくも禍々しい、星の如き大きさの女神像の姿があった。
『――ソシテ今ココニ、命ノ蒐集ハ完了シタ』
女神像から、無数の姿が生み出される――人類、バグアのありとあらゆる兵器達。
それを操るのは人間達にとって、共に戦った同胞であり、友人であり、家族であり、恋人達。
幾千、幾万の仲間達の命を奪った敵であり、好敵手であり、ライバルであったバグアの戦士達。
彼らは生前の姿のままそこにいた――魔星の母の下僕として。
『シカシ、マダ足リナイ‥‥ソレハ、強イ命ヲ生ミ出ス「母」ノ「ファクター」‥‥』
女神像のあちこちから、まるで根の如き巨大な触手が伸び始める。
――その先には、青々とした光を放つ、母なる大地‥‥地球があった。
『「コレ」ヲ取リ込メバ、私ハキットナレルダロウ‥‥。
――全テノ命ヲ生ミ出ス「母」、ソシテ「神」ニ』
「そんな事‥‥させるか‥‥」
誰かが呟いた。
たった一言‥‥しかしそれは、人類全ての思いを代弁する言葉だった。
「命を奪って‥‥命を弄んで‥‥もう‥‥もう沢山だ!!」
誰かが叫んだ。
もう、誰が死ぬのも、苦しむのも見たくなかった。
「私達の命は‥‥私達の星は‥‥アンタのパーツなんかじゃない!!」
誰かが叫んだ。
何処まで‥‥何処まで自分達を愚弄すれば気が済むのかと。
――だから武器を取る。例えボロボロでも、壊れていても。
全ては自分達を生んでくれた母(ほし)を守る為に!!
「残存艦隊を集結させろ!! 予備の機体も、弾薬も、全てありったけ彼らに渡すんだ!!」
司令官の号令の下、再び人類連合軍の心の炉に火が灯る。
「目標!! 前方に存在するバグア軍及び‥‥『マザー・オブ・バグア』!!」
「全てを終わらせるために‥‥総員――」
The Last phase――「魔星の母を撃て!!」
今ここに、運命を決する瞬間が訪れようとしていた。
果たして‥‥勝つのは、人か、バグアか。
●リプレイ本文
「う‥‥」
鯨井 起太の目がうっすらと開く。
――瞼が重い。眠い。
その時、目の前に漂って来る鉄塊。
「‥‥!」
それは、前回の大戦で人間砲弾となり散った姉、鯨井昼寝がかつて使っていたR−01だった。
『なに、まさかあんなのに負けるつもり?』
彼女の幻影が見つめる先、そこには魔星の母がいる。
「‥‥ふん、残り半分はボクに任せて、君はゆっくり寝てるといいさ」
しかし、起太はにやり、と笑うと身を起こし、R−01へと乗り込む。
――ステータスチェック。酷い状態だ。
だが――それでも。
「‥‥十分だ」
そう呟くと、起太は一気にバーニアを吹かし、一直線にマザーへと飛ぶ。
血まみれの体のままで渾身の雄叫びを上げ、一撃を加えた。
「全機、彼に‥‥そして俺に続け!!」
皆に呼び掛けながら、榊 兵衛が「天雷改」を駆り、K−04ミサイルを乱射した。
「そうだ‥‥俺達は、まだ戦える‥‥なぁ女神様よ!!」
「明日のために‥‥絶対に諦めん!」
榊の叫びに、ドッグ・ラブラードと須佐 武流が答える。
ドッグが駆るはKV「ヘル」が、と右手でデブリを掴むと、そこに搭載された試作砲「フング」が円盤状の実態弾へと変え、猛烈な勢いで射出する。
「失敗作なんかじゃ‥‥ない‥‥お前は! 俺達は!」
そして須佐はシラヌイのカスタム機を操り、ソードとエナジーウィングが合体したソードアックスを振るい、次々と敵を切り裂く。
そして、マザー目がけて胸部と肩部から伸びたジェネレーターを向けた。
「これが‥‥これが、俺の光だ!」
そしてそこから放たれた砲撃は、前方に存在した敵の悉くを貫いた。
「この戦いを終わらせる為に! 黒龍神よ! リュウナに平和を望む戦士たちを助ける為の力を!」
「青龍神様! 私に、平和を望む者達と共に平和を守る力を!」
補給機である無人岩龍の補給を受け、腹を満たしたリュウナ・セルフィンの「真・黒龍機」の鉄火の咆哮の中を、彼女の従者である東青 龍牙が両の手を白刃に変えた「真・青龍神機改」で並み居る敵を薙ぎ払い進む。
全ては、己の、大切な人の、愛機の、そして人類の存在を肯定せんがため。
「良いね、狙いをつけなくても撃てば当たる程にうじゃうじゃいる」
群がる異形の化物を、リック・オルコットは「ヴォールク」のフォースフィールドを纏った体当たりで、進路上の敵をで潰していく。
「あれは‥‥?」
その時、リックは前方で自らを囲むシェイドを薙ぎ倒すように戦うコスモクーガー2の姿を発見した。
「よう、アンタも僚機無しか? ちょうど良い、即席のロッテを組もうじゃないか」
「あら? そういうあなたはどなた?」
「リック・オルコット‥‥傭兵だ!!」
言うが早く、コスモクーガー2の背を守るかのように引き鉄を引くリック。
「ロシャーデ・ルークよ‥‥背中は守るわ。あなたは心置きなく戦って」
それに対し、ロシャーデも一切詮索する事無く、絶妙な援護で彼の突破を支援する。
――まるで長年コンビを組んだかのような連携で、二人は敵を撃破していった。
「こちら管制機ダウディング、作戦本部より作戦の更新が通達された。
参加中の全作戦機及び全作戦艦艇に連絡、更新された作戦目標を確認せよ。
‥‥これが最後の戦いだ!!」
AWACS「ヒュー・ダウディング」のコクピットで情報網を再構築していくジェームス・ハーグマン。
傭兵達の活躍により、人類軍は次第に混乱から立ち直って行く。
「ドラゴン1、FOX2。ブラックタイガーズ、止めは任せる」
「了解!! タイガーオール、新品になったからって、今までよりスコアを落とすんじゃないっすよ!」
伊藤 毅率いるブルードラゴンズのストライクフェニックスが前方の編隊へミサイルを放ち、その合間を縫って、予備機を失いスーパースカイセイバーに乗り換えた三枝 雄二達タイガーズがレーザーブレードで切り込んで行く。
「遅れて申し訳ない!その分は暴れさせてもらうぜ!」
彼ら正規軍の支援の下、野太く、荒々しい咆哮が通信に響き渡る。
『突出する友軍機を確認!! 識別は‥‥F104改!?』
『馬鹿な!? そんな旧式機で一体何を‥‥!』
オペレーターの懸念の通り、餌と見た大量の敵が一斉に群がって行く。
「機体も俺自身もロートルだがな、ロートルを甘くみるなよ!」
館山 西土朗は誇りと共に叫ぶ。
彼の駆る「バイパー・アンデッドスペシャル」はボロボロとパーツを溢しながらも、無茶苦茶な改造によって得た圧倒的なパワーで、敵を殲滅していった。
「こちら第13航宙艦隊所属、ヘイル! これよりマザーへ攻撃を開始する!
行くぞ‥‥セリア!!」
『――了解です、ヘイル。システム、起動します』
ヘイルの呼び声に応え、彼の操るKVネクスト「アルシエル」が蒼い光を帯びる。
――そのサポートシステムたる擬似人格「セリア」が喉を震わせると、それは『唄』となって戦場を駆け巡った。
その音色を聞いた敵達はその動きを鈍らせ、逆に人類は傷ついた体を癒され、折れそうになる心を再び立ち上がらせていく。
「うむ、正に千人力よ!! その働き誠に天晴れである!!」
尊大に、しかし誇り高い叫びと共に、人形巨大空母「クティリミオン」が前に出る。
その艦長席に座り戦場を睥睨するは、自らを『魔王』と称する少女、レフィクル・ヘヴネス。
「天烈地砕海割界制・大魔神軍、出撃せよ!」
『応っ!!』
その叫びに呼応し、傷ついた機体に無限の闘志を抱えた傭兵たちがクティミリオンから次々と飛び出していく。
「SESフルドライブ。バスタードソードウィング、アクティブ!」
先陣を切ったのは、阿修羅・大牙「蒼翼号」に乗る井出 一真。
ブースター搭載型の巨大な剣翼「バスタード・ソードウィング」で切り裂き、頭部から伸びる衝角「ハウリングホーン」の高周波を帯びた突進で打ち砕く。
井出が切り開いた活路を、まるでスペースシャトルの如き姿をしたエルト・エレンの「デルフィーン」が突き進んだ。
そしてハッチを解放する――そこには、カイトの操るパイルバンカーとミサイルポッドを搭載した強化改修型KV「鋼鉄の巨狼」が鎮座している。
「最終決戦には改修が間に合ったな…全賭けで行かせてもらうぞ!」
巨狼は一気に敵の弾幕を掻い潜ると、敵艦の密集地点目がけて肩のミサイルポッドを一斉に解き放つ。
「全弾‥‥持って行けっ!!」
――まるで嵐の如き鉄の嵐が巻き起こる。
そして続けて放たれるパイルバンカーの一撃は、ギガワームを一撃の下に叩き落とした。
「‥‥!!」
大魔神軍の猛攻――その間にも仲間の支援で動けないエレンの機体目がけて敵の攻撃が殺到する。
「させるかああああっ!!」
そしてとうとう装甲が限界に達しようとしたその時、咆哮と共に飛来した無数のG4弾頭ミサイルがエレンの周辺に群がっていた敵を一掃した。
それを成したのは、一際巨大なシルエットを持つ巨大なKVであった。
――これこそ、人類存続の為に戦う対バグア戦闘用決戦兵器・バスターKVである!!
「弾切れ‥‥か。だが、出し惜しみ出来る状態でも無い、良しとするか」
その内の一機「グスタフ」のコクピットの中でゲシュペンストが呟く。
そこへ、強敵を察知した敵軍の攻撃が降り注いだ。
「ちぃっ!?」
舌打ちすると、ゲシュペンストは右手に装備したSoLC改【ベヨネッタ】を構え、引き金を引いた。
しかし流石に全ては捌き切れず、何機か突破を許してしまう。
「‥‥しまった!?」
――もうダメかと思われたその時、再び新たな救世主は来た。
『‥‥修復――完了っ!! 出番だよ「ディバイザー」!!』
活発そうな少女の歓声と共にデルフィーンのハッチが解放され、その中から雷電に酷似したもう一機のバスターKVが姿を現し、近づいてきた敵を全て打ち砕く。
「――来るのが遅いぞ安藤!!」
「てへへ、ごめんごめん‥‥でも、ここは『アレ』で許してくれるかなっ?」
「応っ!!」
はにかみながら、ニヤリ、と笑う安藤の言葉に、ゲシュペンストも口の端を釣り上げる。
「行くぜっ!! 究‥‥極っ!! ゲシュペンストオオオオッ‥‥!!」
「これが私の必殺技 !超・雷・電‥‥っ!!」
『――――キイイイイッッッックッッッッ!!』
バスターKVの超出力を込めた二機のキックは、巨大なマザーの触手を、その周囲に群がる敵を巻き込みながら打ち砕いた。
――ヲヲヲヲヲッ!!
その攻撃で初めて、マザーが痛みに身を震わせる。
「さあ、修羅隊。まだまだ戦いは続くぞ!全軍、突撃にぃぃ移れぇぇぇ!!」
『了解っ!!』
筆頭代行たるクラーク・エアハルトの指揮官用シラヌイ・アサルトG型を先頭に、人類軍屈指の精鋭傭兵部隊・「修羅隊」が飛び出す。
クラークが自ら先陣を切り、試作型リニア・マシンガンの弾幕を目くらましに一気に接近し、ユダの一群を一気に単分子ブレードで切り裂く。
「全く‥‥ようやく子供たちの顔を見れると思ったのに‥‥難儀な事ね」
「ぼやかないの。そういうのは生き残ってからよ、悠季さん」
「そうだったわね‥‥右後方!! 敵からの射撃群360!!」
「了解!!‥‥私たちの連携も、中々に年季が入ってるでしょ?」
二児の母である百地・悠季は軽口を叩きつつも、「アルスター・ストライクカスタムマーク?」の能力をフルに使用し、相棒である澄野・絣の「ロイヤル・アーセナル」との連携攻撃からのカウンターで確実に敵を仕留めていった。
降り注ぐ敵の攻撃の前に立ち塞がったのは最終決戦装備【粉雪】を纏った、矢神小雪の操るマリアンデール。
「んじゃ‥‥全力全壊でいってみよーっ!! 皆避けてねー!!」
AIの導きに従い、掃射モード【終焉】と名付けられたシステムによって放たれた超高出力の荷電粒子砲の弾幕は、次々とマザーの巨大な砲弾を相殺した。
「させないっ!! 行って!! フェアリースレイブ!!」
それでも味方に届いた攻撃は、綾小路・なでしこの乗る60m級決戦KV「アーク・アンジェ」の持つ脳波によって制御された24基の妖精たちによるレーザーが捌き切る。
「ストライクカノン、雷撃ミサイルポッド‥‥疑似太陽炉出力、オールグリーン!!」
そして続けて放たれた要塞の如き機動ユニットシステム「KVフォートレス」の一斉砲撃が、マザーの体を大きく抉った。
『危険、危険、危険‥‥ヤハリ、人類ハ危険スギル』
しかし、それは同時にマザー自身の認識を改める契機にもなった。
『「子共達」ノ再生率上昇――排除!!』
そして『彼女』の叫びと共にソレは起こる。
――ズクン、とマザーの巨大な体が震えたかと思うと、再びその身から無数の機体群が次々と出現する。
その中から現れた咆哮を上げる黒い龍の姿に、UPC兵に幾人かが呻き声を上げた。
「あれは‥‥ゲオルギウスっ!?」
それはバグア大戦初期――KV教導隊の隊長であるイレイズ・バークライドをコアとして起動した、最悪とも言える力を持ったバグア軍の生態機動兵器。
『くっ‥‥怯むな!! 所詮は不完全な再生体だ!! 囲んで潰せっ!!』
動揺しながらも、ゲオルギウスを迎え撃つKVの編隊。
しかし、黒竜はそれらの攻撃を猛烈な機動で全て掻い潜ると、その尾と爪でKVを宇宙の鉄屑へと変え、その錬力を喰らって自らの血肉を再生させる。
『続けて反応っ!! け、K−XXXだとっ!?』
オペレーターが口の端を震わせる‥‥無理も無い。
その名は人類最強の一角であった男が駆った機体だから。
現れた艶消しの黒一色に染まった機体の周囲は、あまりの出力に歪んでいた。
「耐えて見せろ‥‥」
放たれた超重力砲とミサイルの弾幕は、次々と人類軍の機体と艦艇を撃破していく。
――一人の犠牲者も出す事無く。
「この程度か‥‥バグアも」
UNKNOWNと呼ばれた男は、コクピットの暗闇の中で煙草を燻らせた。
「ねぇ、やっと分かったんだ‥‥みんなが争わなくてすむ方法をね」
『こちらUK拾番艦っ!!――た、助けてくれ化け物だっ!!』
迫るのは、黒衣に身を包み、紫に光るレーザーブレードを持った少女――それは、かつて雨霧・零と呼ばれていた。
「‥‥‥私も傭兵として君達と同じように戦い、傷つき、それでもまた戦っていたよ。
そして、あの日バグアに負けた‥‥」
虚ろな笑顔のまま、彼女はオペレーター目がけて水晶球の嵌った左腕をかざす。
「ひっ‥‥!?」
「でもね、それでよかったんだ。
おかげで気づけたんだ、この争いの愚かさに、ね。
みんなで、マザーとひとつになれば争いもなくなる、平和が訪れる。
ね? 私達は最初からこれを選択してれば良かったんだ。
今からでも遅くない‥‥みんなで一つになろうよ‥‥」
そして放たれる黒い波動。
――それきり、拾番艦からの通信は途絶えた。
度重なる強敵の出現に、勢いに乗っていた人類軍の進撃が‥‥止まる。
「艦長!! 明らかに動きの違う敵が接近中っ!!」
「くそっ‥‥!! まだ再編が済んで無いと言うのに‥‥!!」
八番艦から辛うじて脱出し、クルーの救助をしていたロジャー・藤原の目の前に現れる巨大なモジュールを纏った再生KV。
「あれは‥‥シンデレラとゴーストワーム!? あんなものまで!!」
それはかつての仲間が使っていた電子戦用機体と、そのモジュール。
怒りに染まりそうになる思考を晴らすかの如く、ロジャーはシラヌイSX「千鳥」のバスターライフル「雷切」を放った。
「‥‥ここは、何処でしょうか〜?‥‥一体‥‥何が〜‥‥?」
そしてシンデレラの操縦者、八尾師・命は混乱していた。
見知らぬ戦場‥‥自分を見ては逃げ、そして襲い掛かってくる仲間たち。
「見覚えのある機体‥‥でも‥‥何故‥‥?」
戸惑いながらも問い返すが、答えは無い。
容赦無く降り注ぐ弾幕は、容赦なくコクピットを命ごと押し潰す。
「か、はっ‥‥ナん、デ?」
しかし彼女は死ねない――その身には、マザーの種が宿り、宿主である命の体をその意志とは関係なく癒していく。
「止めだっ!!」
ロジャーの一撃が、とうとうシンデレラのコクピットを抉る。
『‥‥こコニは‥‥もウ‥‥私ノ‥‥居場所ハ‥‥』
「君は‥‥っ!? うおおおおっ!!」
そこでようやく自らの過ちに気付くが、爆炎は容赦なく彼女の体を包み込んだ。
「ねぇ零音さん‥‥貴方もこっちにいらっしゃいな。
命の蒐集の中では愛しい人ともいつでも会えますわよ?」
「ミリハナク‥‥どォしてこォなった?」
紅の巨竜を模したKV「アポカリュプス」が吐き出す紅蓮の炎を、綾河 零音の操るワンオフKV「クリムゾンシューター」が馬鹿げた機動力で掻い潜り、膨大な熱量のビームで反撃する。
――かつて共に一人のバグアを愛した二人は今、道を違えてここにいる。
「シスターズ起動‥‥行動予測演算終わりました! 桜夜、頼んだよっ!」
「おうっ!! あっちいのは嫌いなんだよっ!!」
零音の僚機である知世の操る重装甲支援型KV「クレメンサー2」の情報収集用子機「シスターズ」からの予測演算を元に、桜夜の「ソルブ」が放った冷却ガトリング「チルシース」がミリハナクを捉え、一瞬にして龍を絶対零度の檻に閉じ込めた。
「貰ったァっ!!」
零音の高速の貫手が龍を貫こうとした瞬間、それを試作特殊型KV「フゲン」が遮り、殴りつけて吹き飛ばす。
「ぐぅっ!? ローゼ‥‥アンタ、自分が何やってるか分かってンのか!?」
零音は、怒りの眼差しでフゲンを――そして、それを操るヘミシング・ローゼに向けて厳しい声で問いかける。
「分からない。だが俺がこの人が好きという事だけは分かる‥‥今度こそ、守って見せる!!」
「本気‥‥なンだな‥‥なら――!!」
クリムゾンシューターとフゲンが織りなす残像が、幾度も激しく交錯する。
「喰らえっ!!」
その間に、桜夜がミリハナクへと間合いを詰め、氷ごと砕かんとレールガンを放つ。
しかし、その寸前に檻を砕いた龍の腕がローゼの機体を掴みとった。
――ズドンッ!!
電磁加速した砲弾が、フゲンの中枢へと叩き込まれる。
「が、は‥‥み、ミリハナ――」
「あら、いい所に盾が♪ 感謝致しますわ」
あまりにも、酷薄な言葉と笑み――同時に、フゲンが内部から爆発を起こし始めた。
「御機嫌よう――丁度いい手駒でしたわ♪」
「ああ‥‥やっぱり、いい女だなぁ‥‥」
そして咲く爆炎の華。
「この野郎おおおおおおっ!!」
絶叫する零音――最早、彼女はミリハナクを倒す事に何の躊躇いも無かった。
「ふふ‥‥おバカさんっ!!」
速いが、直線的な動き‥‥アポカリュプスの周囲に浮かんでいた赤龍型のビット「ミレニアム」の攻撃が、次々と零音に直撃する。
「――止めですわっ!!」
そして、周囲のエネルギーを吸収し、威力を増した灼熱の火球が零音を包み込んだ。
――ゴウッ!!
「あ、あ‥‥」
だが、その身を焼き尽くされたのは紅の龍の方だった。
「こっから先は‥‥一方通行‥‥ってな」
それは、零音の切り札‥‥ありとあらゆる攻撃を反射する、『遺産』のシステム。
「し、『システム・アクセラレータ』‥‥か、完成していたとは、計算外でした‥‥わ‥‥」
ボロボロと崩壊していく紅の龍とミリハナク――しかし、その顔には満足げな笑みが浮かんでいた。
「あぁ‥‥でも‥‥楽しかったぁ‥‥」
「ミリハナク‥‥この、バカ野郎がっ‥‥!!」
業火に包まれる友を見つめる零音の瞳に涙が一粒――コクピットの中に弾けた。
『――私ハ、無限ノ命ヲ作リ出セル。如何ナル抵抗モ、無意味』
苦戦する人類軍を見下ろすかのようなマザーの宣言。
「ふざけるなぁ! 命はそれを持つ一人一人のものだぁ!」
堺・清四郎が咆哮を上げ、「ミカガミ・ムサシ」がそれに応えるかのように、両の手に装備された改良型雪村「天叢雲」を振るって突き進む。
「ちぃっ‥‥是非も無しっ!!」
手足がもげ、ボロボロになっても前進を続ける清四郎。
――だが、その気迫も空しく、マザーの口から放たれた主砲の閃光が迫る。
「振り向いて‥‥欲しかったな‥‥」
思い人を思い浮かべながら、そっと瞳を閉じ‥‥ようとした瞬間、響き渡る怒声。
『諦めるとは情けないぞセイシロウッ!!』
その瞬間、マザーの砲撃に勝るとも劣らない光条が闇を切り裂き、清四郎を包もうとした閃光を弾き飛ばす。
それは――エリシア・ライナルト大佐が艦長を務めるUK壱五番艦の主砲の一撃だった。
「大‥‥佐‥‥?」
『それでも貴様は私が認めた男か!? 生きて帰れという約束を忘れたか愚か者!!』
「そう‥‥だったな‥‥済まない!!」
その言葉に、堺は再び立ち上がる――今度は、生き残るために。
それに満足げに頷くと、ブリッジ全体に号令をかけるエリシア。
「システムを発動させろ!!」
それに答えたのは、情報集積と検索に特化した能力を持つクラス「パターンジャグラー」として覚醒した唯一の人類、瓜生 巴と、天才科学者アニス・シュバルツバルト。
「了解!! 百式観測機発動っ!! 私の能力を使えば、皆の力を上乗せ出来るっ!!
‥‥行くわよアニスっ!!」
「オーケーだヨ!! システム‥‥機動っ!!」
そして、唸りを上げる観測機。
――アニスが開発したシステム‥‥それは、エミタが持つ真なる能力の発動。
それは、考え得る全ての『可能性』から、最良の未来・事実を引き寄せる事象干渉。
願いの数が多いほど、願いの力が強いほど、その引き寄せる『結果』は最良に近くなっていく。
奇跡を願う皆の思いが、有り得ないような『可能性』を引き出していく。
『現宙域に巨大な時空の歪みを検出!! これは‥‥人類軍の識別信号ですっ!!』
マザーに程近い空間が切り裂かれ――その中から現れたのは、途方も無く巨大な戦艦の姿。
それは時空の狭間にて建造された巨大戦艦‥‥その名もUK零番艦『テラ』。
「次元転移シークエンス完了‥‥総隊長、ご指示を」
零番艦副長である月影・白夜に応えたのは、舳先に立つ、次元を切り裂く錬剣「伊弉諾」を携えた神域に到達したKV「神威」のパイロットにして、月狼総隊長、終夜・無月。
「これで終わりにします‥‥全軍、突撃――!!」
その声に呼応し、零番から猛烈な砲火が飛び、無数の精鋭機体が飛び出していく。
「イカロスの翼は挑戦の翼。
どんな困難が待ち構えていようとも、決して諦めはしない‥‥。
月の狼の元で、未来へ向かって飛ぶんだ!」
真珠の片翼のエンブレムを持つ依神 隼瀬の「スィームルグ」が放った対要塞荷電粒子砲がギガワームを貫く。
「我等にいと高き月の恩寵があらん事を‥‥YF−203SSSEXテスタロッサ発艦する!」
対エース小隊所属の秋月 愁矢が瞬間転移と言っても過言では無い速さで飛び回り、その神速を持って振るわれる機刀「神狩り」は巨大なマザーの触手を一刀の下に叩き切る。
「‥‥紅 アリカ、「黒羽の騎士」。行きます‥‥!」
シュテルンG・アサルトカスタム「ブラックフェザー・ナイト」のブースターと一体化した黒い翼がはためき、スラスターライフルやアハトアハトが撃ち貫く。
そして彼らに続く正規軍による一斉攻撃が、生き残った敵を蹂躙していった。
「大遅刻だぞ零番艦! でもまあ最終決戦に間に合ったから、よしとするか」
ユーリ・ヴェルトライゼンが、キメラに寄生された奇怪なKVと鍔迫り合いをしながら歓声を上げる。
『げつ‥‥ロウ‥‥ナつかし‥‥ころ‥‥ス』
『ワースト・ナイトメア』と名付けられた寄生KVの主が、小型HWを縦横無尽に操って弾幕を張りながら、小さく狂声を漏らす。
「そうだ‥‥懐かしいだろう? かつて、お前もあそこにいた」
R−01カスタム「フレースヴェルグ」はそれらを重力フィールドで逸らすと、さらに激しく打ち掛かっていく。
「‥‥だから手加減はせん。それが仲間に対する礼儀というものだ!!」
かつてキムム君と呼ばれた、敵に捕らわれ、自我を亡くしたかつての友に向けて、ユーリは鎮魂の叫びを上げた。
頼りになる援軍の出現に、人類軍の士気は燃え立つ。
しかし、戦況は今だ僅かに均衡が戻ったに過ぎない。
「くっ‥‥!!」
修羅隊所属の王 憐華は、そんな戦場の最も劣勢な場所で戦っていた。
幾度も被弾しながらも、愛機であるガンスリンガーの後継機「修羅嫁」が持つ複合Gライフル「天照」を操り、敵を倒していく。
「零‥‥私達を守って」
思わず、前回の大戦で戦死を遂げた夫の‥‥修羅の長たる男の名前を呼ぶ。
――その思いが、一つの奇跡を呼んだ。
次の瞬間、マザーの腹を食い破るかのように現れる機体。
「ただいま、だな‥‥皆」
「あれ‥‥は‥‥心配したんだから‥‥バカ‥‥」
ソレを見た瞬間、憐華を初めとした修羅達から、歓喜の声が上がる。
「さぁ、立て修羅達よ!!
そして戦え!! 我らに振り返る必要などいらん。ただ‥‥敵を喰らうのみだ」
それは、かつての大戦で壮絶な戦死を遂げた修羅達の長、漸 王零の機体と、マザーによる再生体が融合した姿――その名も修羅鬼。
「――ご無事で何よりです、隊長」
「‥‥お前か、ドゥ」
その目の前に現れたのは、紅の機体を駆るドゥ・ヤフーリヴァ。
そして、ドゥは一振りの剣を彼に与える。
それは「神を喰らう」と冠せられた、禁断の魔剣。
まるで獣の咢の如き形態に変化したかと思うと、マザーの身体を大きく食いちぎった。
「‥‥人が創造した全ての神の念が詰まったとっておきです‥‥お使い下さい」
「感謝する‥‥ならば、俺も託そう――この禁断の遺産を」
そして漸もその背に取り付けられた12の真・重力炉を切り離し、ドゥに託す。
それを機体に格納し、ドゥはマザーの顔の前に飛んだ。
そして恭しく一礼し、声をかける。
「どうも…ヤフーリヴァですマザー様。
神であるあなたが御所望した通り我々は人の歴史を千年見届け‥‥人は貴方無しでも生き残れると分かった事を報告に来ました。
‥‥そして僕がこの世に初めて生を貴方より受けた意味‥‥今返します!」
歴史の傍観者の叫びと共に、機体から真・重力炉を手にし、真の力を取り戻した修羅達が飛び出した。
「龍!! きみで足りなう分は俺が補う!!
‥‥ここまで一緒にやってきたんだ最後まで付き合ったっていいだろう?」
「ああ!! 行くぞ千道!!」
親友同士である龍零鳳と千道 月歌の黒と白に染められたGD−Z−89による絶妙のコンビネーションが、マザーと群がる敵をかく乱する。
「西島 百白‥‥零式‥‥出るぞ!!」
零式と名付けられた機体が飛び出し、両手の爪と、搭載されたホーミングレーザーでマザーの身体を穿てば、
「食いちぎれっ!!」
ヒューイ・焔のハヤブサ改修型G−44R.Crow typeGが、ワープで攻撃を掻い潜ると、搭載されたFF貫通弾を使用した機関砲「グラトニー2」で、文字通り暴食の限りを尽くす。
「人類を支えるために聳え立つ修羅の魂宿りし者!
煌く銀河に仇をなすバグア共に鉄槌を下す為、ここに見参!」
そして、神棟星嵐のUK三隻が合体した超巨大KV、ゴッド・ギャラクシー・ガーディオンが顕現し、ギャラクシーバーストと名付けられた一斉砲撃がマザーの進路上の敵軍を一撃で灰燼に帰した。
『何故‥‥!? 何故我ガ子供ガ我ニ逆ラウ!?
何故意志ヲ乗ッ取ラレズニ遺産ヲ使ウ事ガ出来ル!?』
マザーが、初めて動揺する。
『何故だか教えてあげようかしらぁ?』
「‥‥滅ぼす為じゃない‥‥守る為に使う力だからだ! これは!」
その声と共に現れたのは、死んだと思われていた白虎と、その友人であり古代文明人の生き残りであるアン・グレーデンの乗るKV「バリアント」。
その手に持つのは、バグアに滅ぼされた古代文明人の憎しみが凝縮された槍型遺産「スピア・オブ・ビースト」。
幾度も力に呑まれそうになりながらも、白虎はマザーの胸に槍を叩き付けた。
「そして人類もバグアも根本に願う意思は‥‥生きる事に掛ける意思は同じなんだ!」
続けて星辰の彼方から並み居る敵を薙ぎ払いながら現れた影の斬撃が、マザーを大きく後退させる。
それは、ゼオン・ジハイド筆頭の少女と今際の際に心を通わせ、復活を果たしたアンジェリナ・ルヴァンのXXC(ゼクシィ)だった。
「アンジェリナさん!! 生きてたのか!!」
死んだと思っていた女性の復活に、砕牙九郎が歓声を上げる。
「済まんな九郎‥‥心配をかけた――行くぞ!!」
「‥‥っ‥‥おうっ!!」
思わず流れそうになる涙をこらえ、砕牙はアンジェと共に、強化外骨格を纏った雷電の拳で、目の前の敵を打ち砕いた。
『危険‥‥再せ――!?』
傷付いた自らの体と、子供達を再生しようと試みるマザーだったが、どんなに力を込めても再生が始まらない。
「無駄です‥‥マザー。
ガイア・メモリーが発動した今、もはや貴方は無敵ではありません」
その力の正体は、地球の危機を救うため、その『意志』と融合を果たした月神 陽子と、その乗機である、「夜叉姫−デウス・エクス・マキナモード」だった。
『あれは‥‥悪しき夢の結晶だよ。
遠い昔に一人の天才が願った悲しい夢の成れの果て‥‥』
「ええ‥‥だからこそ、止めなければいけません」
コクピットに浮かぶマスコット型AIの言葉に頷くと、陽子はマザーを縛るために更なる力を込めた。
次々と起こる奇跡――マザーはその原因を突き止める。
『コレガ事象干渉‥‥ソウハ、サセナイ!!』
システムの起動を察知したマザーの命令の下、UK壱五番艦に猛攻が襲い掛かる。
「みんなの帰る場所はしっかり守ってみせるよ――だから、それ以上先には行かせないっ!」
キョーコ・クルックはアンジェリカ「修羅皇」に搭載されたK−04ミサイルを解き放ち、その隙間を縫ってきた敵にはブースターを吹かして接近し、グングニルの一撃を見舞う。
「最後までアニスを守り切った『アイツ』のためにも‥‥やらせはしない。
今度こそ、防いで見せる!」
柳凪 蓮夢は、特殊明細を施したカスタムKVを操り、特殊砲「カランコエ」の超長距離狙撃により性能の高い敵を狙い撃ち、彼らが到達する前に撃ち落とす。
――しかし、雲霞の如く湧き出る敵の圧力に、ジワリ、ジワリと押され始める。
こんな時に仲間がいれば――誰もがそう願う。
その瞬間、システムはその『可能性』を引き出した。
「地球の害虫駆除を終わらせたんで上がってきたんですが‥‥酒盛り場はこちらで?」
剽軽そうな声が響いたかと思うと、六つの分身を携えた、五十嵐 八九十専用アヌビス「ヴィルトゥス」が残像を帯びて現れ、サークルブラストや重力結界を駆使してバグアの波を押し戻す。
「おうっ!! どうしたよ、気合いが足りてねぇぞテメェらァ!!」
続けて現れたのは、宇宙空間に「生身」で仁王立ちする男――エミタの突然変異が生んだ人間兵器・天原大地。
「男の魂‥‥満載パァアアアンチ!!!!!」
一気に間合いを詰めると、滅茶苦茶に拳を突き出す――それは幾万もの衝撃波となり、敵の波を押し戻す前に粉砕した。
『オノレオノレエエエエエッ!!』
陽子の下に現れたのは、二体の強力な再生体。
それは、奇しくも彼女を守る二人の傭兵の因縁の相手だった。
一組は、とある歪んだヨリシロの妄執に乗っ取られ、人類を裏切ったラナ・ヴェクサーと、彼女に弟を殺された鷹代 由稀。
「もう一度殺してあげます‥‥そしたら再会できるでしょう? あなたの弟と!!
行きなさいなぁ‥‥ファングっ!!」
「やれやれ‥‥居残りしたらむしろ都合よくなったわね‥‥仇、討たせてもらうわ。
ライフルビット‥‥乱れ撃つわよぉぉぉぉぉっ!!」
ラナの「アルカロイド」と鷹代の「バロール」の自律兵器が踊る中、二機は激しく交錯するが、次第に光学迷彩と隠し腕による攪乱戦法により、次第に損傷していくバロール。
「これで止め――っ!!」
哄笑を上げ、建御雷・最上大業物を振り上げるラナ――だが、鷹代は切り札を残していた。
「っ‥‥まだ‥‥まだ終わらない! 重力炉フルドライブ!‥‥いくわよおおおおっ!」
次の瞬間、バロールは赤い光を纏ったかと思うと、猛烈な機動を取り、全方位からアルカロイドに向けてミサイルを乱射――爆発が巻き起こり、四肢が砕ける。
「‥‥あの世で、弟や皆に謝んなさい」
「ひっ‥‥!! こんな所で死んでしまう訳にはっ‥‥!」
ラナは必死に脱出しようとするが、脱出装置は作動しなかった。
「‥‥彼と同じだったのか、私は‥‥」
引き鉄が引かれ、光に包まれる瞬間――ラナは自らの行いがかつて忌み嫌った男そのものだった事をようやく悟ったが、何もかもが遅すぎた。
「‥‥さよなら」
鷹代は哀れな女の末路を、悲しみの篭った瞳で見届けた。
もう一組は、「勝利」を冠する機体を駆るカルマ・シュタットと、その名付け親にして好敵手たる誇り高きラゴン族の戦士。
――二人に、言葉はいらなかった。
何故なら、戦いにはそんなものなど無粋であるから。
ノイエ・シュテルン「ウシンディ」の巨大機剣「フロッティ」とロンゴミニアト改の連撃と、ファームライドの爆槍が幾度も、幾度も交錯し、炸裂する。
「うおおおおおおおっ!!」
『‥‥ぬんっ!!』
再び間合いを開ける――技量も、性能も、損傷も消耗も、両者は完全な互角。
そしてどちらも理解していた‥‥次の交錯が最期であると。
「持ってくれよ‥‥ウシンディ‥‥はぁぁぁぁぁぁ!」
『‥‥来い』
PRM・ESNと名付けられたオーバーロードシステムを発動させ駆けるカルマ。
それをどっしりと構えて待ち構えるFR。
影が一瞬だけ重なり合い――勝ったのは、ウシンディ。
深々と胴を切り裂かれたFRが、その乗り手と共に崩壊を始める。
『見事だ‥‥お前の姿、正に「勝利」の名に相応しい』
「改めて言わせて貰う‥‥最高の名をありがとう」
短く言葉を交わしあい、最後に拳を合わせる――FRは塵となって消えていった。
強大だったマザーの体が、人類の攻撃によって少しずつ崩れていく。
『何故‥‥何故‥‥? 我ハ神ニ‥‥母ニ‥‥』
「――マザー、貴様は大きな勘違いをしている。
幾ら命を蒐集しようと、貴様が本当の意味で「母」になることは出来ない」
マザーのか細い呟きに、「レジスタントカスタム」で愛する夫・サイラスと共に戦いながら、リディスが答える。
「命が生まれるその意味を、その先に生まれる想いを理解できない限り‥‥!」
『煩イ! 黙レ‥‥黙レ!』
マザーの声にあわせて、無数の敵がリディスを狙い‥‥、一瞬で衝撃波に薙ぎ払われた。
『何!?』
「‥‥帰ったら俺、結婚式挙げるんで。隊長たちも生きて帰って、参列して貰わないと」
必殺の神槌を振りぬいたままの姿勢で、傷だらけの「トール」機内でブレイズが笑う。
『そうや!! オカンっちゅうのはな‥‥子供を愛するモンや!!
使い捨ての道具にするモンやない!!」
サイラスの操る侍型KVと共に、宗太郎=シルエイトの「ストライダー・ゼロ」が駆ける。
「そして‥‥思い出を汚すような奴がっ!! 母親なんかになれるかよっ!!」
そして突き出された大型機槍、そして刀と爆槍は、六本腕のタロスを貫いた。
『流石は、我が弟子達だ‥‥誇りに思うぞ‥‥』
それは、ヨリシロとされ、かつてサイラスと宗太郎によって滅ぼされた師――ラセツ。
その彼が再び崩壊していく。
『サイナラ‥‥師匠‥‥』
「‥‥師を二度討つ、か。辛ぇなあ、ダチ公‥‥」
涙を拭うと、前を向く――そこには最早涙は無い。
「いくぜストライダー‥‥全速力だぁぁぁ!!」
悲しみを振り切り、青いLM−01は宇宙を駆けた。
「今が好機だ!! 一気に攻め上がれっ!!」
マザーのコア目がけて、零番艦「テラ」が、修羅隊が、大魔神軍が、そして全ての人類軍が攻め上がる。
「うっ‥‥!?」
『敵‥‥殺ス‥‥殺ス‥‥!!』
その前に立ち塞がる巨大剣を携えた無数の再生体。
が、それらが一斉に得物振り上げた瞬間、また別の巨大剣によって切り裂かれる。
「全く‥‥かつての私自身とは言え、目も当てられませんね」
それを成したのは、月狼総隊長である無月の恋人である如月・由梨と、その相棒たる巨大剣を携えしディアブロ「シヴァ」。
「‥‥由梨!!」
「ここは私に任せて行って下さい無月さん‥‥『あの場所』で、待っていますから」
「――ああ!!」
かつて交わした約束を再び交わし、無月は仲間たちと共に先へと進んだ。
マザーの中枢部の最奥――そこには、『核』である翼を生やした少女が佇んでいた。
『‥‥来ないでっ!!』
「ぐっ‥‥!?」
激しい拒絶の意思と共に、猛烈な圧力がその場に集った傭兵たちを襲う。
その中を進めたのはただ一人‥‥天原だけ。
「こいつはっ‥‥きついなぁ‥‥っ!!」
ボロボロになりながらも、天原はマザーの下に辿り着くと懐を探り‥‥一つの大きな握り飯を取り出した。
『‥‥?』
「――食えよ、俺の相方の手作りだ」
唐突な行動に困惑しながらも、それを手に取り、口に運ぶマザー。
『おい‥‥しい‥‥』
「だろ?‥‥そいつが、命の暖かさだ」
『わた‥‥しは‥‥』
生まれて初めての感覚に戸惑うマザーを優しく見つめる天原――だが、悲劇は起こった。
――ズブリ、とマザーの腹を醜悪な触手が貫く。
『が、は‥‥』
「ククク‥‥アーッハッハッハ!! こレで神は僕だ! ザまあミろ!」
「叔父貴っ!? 貴様まだっ!?」
それは、この戦いの中でLEGNAが倒した――倒した筈の男、デッサ・ヴィクシム。
マザーのコピー細胞によってキメラと化した彼は、驚異的な再生力で生き残り、傭兵たちのKVにへばりついて機会を伺っていたのだ。
『あ‥‥あ‥‥』
「ちいっ!!」
咄嗟に天原が触手を切り裂くが、時既に遅く、その身を侵食され始めるマザー。
「貴様ああああああっ!!」
『ガギャアアアアアアッ!!』
LEGNAと、彼の愛機エクスターミニオに搭載されたAI「タナス」が怒りの咆哮を上げる。
機体と完全融合し、デッサを滅ぼそうとする――しかし、それを止める者がいた。
「おっと‥‥無理をする事は無い」
それはバグアの再生体であった筈のUNKNOWNであった。
「あんた‥‥何で‥‥?」
「私は今も地球人だ、よ」
ニヒルに笑い、デッサに向き直る。
K−XXXから凄まじいエネルギーが放出されたかと思うと、デッサを包み込んだ。
『まサか‥‥止メろっ‥‥!?』
「断る――共に原初と永遠と、終焉を過ごすか」
『イヤだあああああっ!! よ、ようヤクこコマでっ‥‥!!』
生み出された次元の裂け目がデッサを吸い込む。
そしてUNKNOWNもまた、生み出された亜空間へと消えて行った。
『後は‥‥任せるとしよう』
そう、一言だけ言い残して、正体不明の男はこの世から消え去った。
崩壊を始めるマザー‥‥そして傭兵たちの目の前には、次元の裂け目だけが残されている。
「この先に‥‥喧嘩の黒幕がいる筈だ」
漸が、この場にいる皆に向かって呼びかける。
「無月、後は任せ「今更、抜け駆けは無しですよ、王零」‥‥済まん、無粋な言葉だったな」
そう言って笑い合うと、無月が伊弉諾で次元の穴を切り裂いて広げ、漸がそれを真・重力炉のシステムで安定させる。
「ゲートよ‥‥開け‥‥さぁ、行くぞ修羅鬼よ」
そして二人の英雄は、仲間達と共に次元の裂け目に消えて行った。
――全ての決着をつけるために。
とある国の、とある場所――その草原は、色とりどりの花が満たされている。
その上にある空に、最早赤い魔星は存在しない。
――そして、そこには二人の女性が佇んでいた。
がさり、と後ろで聞こえる足音に振り替えると、彼女達は優しく微笑んで言った。
「――おかえりなさい」
‥‥と。