タイトル:【AW】荒ぶるサムライマスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/22 02:31

●オープニング本文


 ヨーロッパ欧州戦線‥‥トルコ方面最前線の基地に、警報が鳴り響いた。

『南東方向から、バグア軍のゴーレム五機が接近中!! 基地守備隊のKVは至急発進せよ!! 繰り返す――』

 数十分前に偵察隊の岩龍によって発見されたゴーレム達は、前線に展開していた陸上部隊を全滅させ、基地から数キロの場所まで接近してきていた。
 基地に駐屯していたS−01とR−01を中心とした十機のKVがスクランブル発進し、迎撃体勢を取る。
 彼らはいずれも、数多のヘルメットワームやゴーレムを葬ってきた猛者達だ。

「数は少々多いが‥‥一機ずつ確実に潰して、援軍が来るまで時間を稼ぐぞ」
『――了解!!』

 ディアブロを駆る隊長の言葉に、部下達が一斉に気炎を上げた。



 数多の戦車の、兵器の残骸が散らばる荒野に、ゴーレム達はいた。
 その中の一機は他の五機とは違い、不思議な装備に身を包んでいる。
 天を付くような角の付いた兜、上半身を包む緋色をした板金状の装甲、腰にマウントされた刀、そして背中には薙刀。
 その姿を見た隊長は、一つのイメージを思い浮かべていた。

「サムライ気取りという訳か‥‥ふざけやがって」

 それはまさしく昔ジャパンの映画で見た東洋の神秘――サムライにそっくりだった。
 しかし、それは何処か子供が単純な知識だけでイメージしているような、幼稚で無駄な装飾に満ちている。
 だが外見だけ見てもカスタムされているという事は、あれが隊長機に違いない。

「全機!! あの先頭の東洋かぶれから片付けるぞ!!」
『了解!!』

 陣形を組み、隊長機らしきサムライゴーレムに向かって一斉射撃を行う。
 銃弾が炸裂し、レーザーの白光がまるで太陽のように辺りを照らし出した。

「――やったか!?」

 隊長がそう叫んだ瞬間、サムライゴーレムが土煙を切り裂いて飛び出した。
――その装甲には、一つの傷も付いていない。

(「馬鹿な――!? アレを全て避けたと言うのか!!」)

 サムライゴーレムは一瞬で距離を詰めると、隊長に肉薄した。
 咄嗟にディフェンダーを抜き放つ事が出来たのは、彼の卓越した操縦技術の賜物である。
 しかし、サムライゴーレムはそれの更に上を行った。
 サムライゴーレムの右手が腰の刀に伸びたかと思うと、凄まじい速さで抜刀する。


――銀光が奔った。


 一瞬遅れて、機体のシステムが膨大なエラーを表示する。
 そして衝撃――隊長のディアブロは一瞬で手足を、機体を両断され、大地に崩れ落ちていた。
 薄れ行く意識の中で、隊長は己の浅はかさを悔やんでいた。
 ふざけた外見に惑わされ、敵の力量を誤ってしまった――このサムライゴーレムは、紛れも無くエースだったのだ。

「――た、隊長!?」

 鎧袖一触に隊長が屠られた事で、隊員達に動揺が広がる。
 その隙をサムライゴーレムは見逃さなかった。
 隊員達の間に突撃し、瞬く間に二機のR−01を血祭りに上げる。

「――ひっ!!」

 悲鳴を上げながら後退して距離を取ろうとしたS−01に、薙刀が砲弾のような勢いで叩き込まれる。
 穴だらけとなり、まるで糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
 後衛の岩龍二機がレーザーを撃って迎撃するが、サムライゴーレムはそれを当然のように回避してみせる。
 瞬く間に距離を詰められ、二機は戦場の残骸となって散った。

「――う、うわああああああっ!!」

 恐慌状態となった残りの四機は、サムライゴーレムから背を向けて逃走を試みるが、そこには何時の間にか残りの五機のゴーレムが回り込んでいた。



――戦いはあまりに一方的に終わりを告げる。
 二分と経たずに歴戦を誇ったKV隊は一機残らず全滅し、基地が壊滅したのはその僅か三十分後の事であった。



『‥‥つまらん』

 基地から撤退したUPC軍の無線機に、訛りの強い若い男の声が響いた。

『能力者っちゅうのはこんなもんか?』

 それはKV隊の半数を血祭りに上げた、エースゴーレムのパイロットからの通信だった。
 男は何処か苛々とした雰囲気で、更に続ける。

『サムライであるこのワイと戦える、真のサムライはおらんのか!?』

 そして刀を抜き放ち、天高く突き上げ世界中に響けと言わんばかりに、男は吠えた。



『――ワイより強いモンはおらんのかあぁぁぁっ!!』



 UPC欧州軍に傭兵として雇われていた君達に、緊急入電が入った。



『トルコ方面最前線の基地に、一機のエースゴーレムを含む六機のゴーレムの編隊が襲来。
 守備隊のKV十機を瞬く間に全滅させ、基地を壊滅させた。
 ゴーレム達は基地を占拠、その隊長機であるサムライの姿をしたゴーレムのパイロットは、能力者との決闘を要求している。

――君達の任務は、このゴーレム達を撃破あるいは撤退させる事だ。
 そしてあのサムライかぶれを討ち果たし、『真のサムライ』となれ!!

 なお、基地内人員の退去は完了している。好きに暴れまわってくれて構わない。
 それでは諸君、健闘を祈る!!』

●参加者一覧

雪野 氷冥(ga0216
20歳・♀・AA
雪ノ下正和(ga0219
16歳・♂・AA
皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
葵 コハル(ga3897
21歳・♀・AA
金城 エンタ(ga4154
14歳・♂・FC
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
龍深城・我斬(ga8283
21歳・♂・AA
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA

●リプレイ本文

 エース率いるゴーレム部隊を撃退し、前線基地を奪還するため、能力者達が駆る八機のKVが飛び立った。

「エース機のサムライ‥‥。さて、どれほどのものか‥‥」

 操縦桿を握りながら、ティーダ(ga7172)は緊張を言葉に滲ませて呟く。

「剣術を修める者のハシクレとして、負けたくない相手だね、うん」

 何時に無く真面目な顔で呟くのは葵 コハル(ga3897)。
 金城 エンタ(ga4154)も、サムライの実力を計ろうとしていた。

「‥‥臆さず‥‥驕らず‥‥見極めましょうか」
「蒼空のサムライの名にかけて――負ける訳にはいかない!!」

 雪ノ下正和(ga0219)も、仲間達とこの任務を成功させるため、負けじと気炎を上げる。

「‥‥能力者が無能だと油断してくれるのは悪くは無いが‥‥それ以上に癪に触る」

 忌々しげに呟きながら、時枝・悠(ga8810)が顔をしかめる。
 全力を以って、サムライとやらの認識を正さなくてはなるまい――彼女はそう思っていた。



――数十分後。

「派手にやってくれちゃってまぁ‥‥御代はその身で払ってもらわないとね」

 眼下に広がる光景を見下ろしながら、雪野 氷冥(ga0216)が嘆息してから『奴ら』を射抜くように睨み付ける。
 廃墟と化した基地の中央に立つ六つの機影――五機のゴーレムと、緋色にギラギラと輝く装甲を身に纏った『サムライ』姿のエースゴーレム。

「――サムライねぇ‥‥強きゃいいってもんじゃないし‥‥大体あいつ日本文化分かってねぇだろ」

 明らかに何処か間違ったサムライゴーレムの造形に、龍深城・我斬(ga8283)は呆れた様に呟く。

「さ、行きましょうか」

 ともかく、眼前に敵がいる状態で飛び回っている訳にもいかない。
 皇 千糸(ga0843)の号令の元、能力者達はゴーレム達と対峙するように大地に降り立った。




『――よーやく来おったな、能力者ども。待ちくたびれて死にそうやったわ!!』

 無線から、訛りの強い何処かお茶らけた感じの男の声が響いた。

『――ワイの名はハットリ・サイゾウ‥‥見ての通り、サムライや』

 サムライゴーレムが男――サイゾウの言葉に合わせるように、親指を立てて自らを指してみせる。

「何と言うか‥‥色々と間違ってますね」
「うん‥‥特に名前とかね」

 金城と葵が口々に呟いた。
――大体、その名前はどちらかというと忍者だ。

『さーて、どいつから相手してくれるんや? みんな強そうやし、楽しめそうや』

 サイゾウは、まるで親しい友人に話しかけるかのような口調で話しかけてくる。
 それが能力者達の神経を逆撫でした。

「‥‥決闘? ゴーレムを引き連れて言える台詞か」

 耐え切れず、時枝が怒りと共に言葉を吐き捨てる。

『――分かっとらんなぁ嬢ちゃん。一騎打ちの前には合戦は付き物やろ? 最初っから一騎打ちするなんて、アホのするこっちゃ』
「貴様――ッ!!」

 ヘラヘラとした態度のサイゾウに激昂し、飛びかかろうとする彼女を、ティーダが押し止める。

「――もうこれ以上、言葉は不要です」

――そう、彼らはバグア。
 元々人と相容れる事の出来ない存在であり、倒すべき敵。
 能力者達のKVが武器を構えていく。
 それを見たサイゾウは、つまらなそうに溜息を吐いた。

『人と話すんは久しぶりやったのに‥‥まぁ、ええ――』

 サムライゴーレムが、身を低くして刀の柄に手をかける。


――それだけで、周囲の空気が一変した。


 改めて認識する――この男、サイゾウは紛れも無くエースであると。
 背後のゴーレム達も、刀を、槍を構え、ショルダーキャノンを稼動させる。

『――やろか?』

 サイゾウの言葉を合図に、戦闘は開始された。



 能力者達の武装の方がリーチは長い。
 先んじて一斉射撃を試みる。

「氷冥、千糸、悠、タイミングを合わせろ!!」

 龍深城の号令の元、最初の手はず通りに銃撃を加えていくが、距離が離れているため中々当たらない。
 ゴーレム達はその隙に距離を詰めてショルダーキャノンを放ち、激しい銃弾の応酬が繰り広げられていく。

『――ほな、行くでぇ!!』

 サイゾウの叫びと共に、サムライゴーレムは真っ先にその弾幕の中に飛び込んで行った。
 普通なら蜂の巣になるような銃弾の雨を、サムライゴーレムはさも当然のようにかわしていく。
 あっという間に距離を詰め、能力者達に肉薄した。

「それぐらい予想の範囲内!!」

 雪野のK−111がツインブーストを発動すると、サムライゴーレムの前に立ち塞がり、その手のロンゴミニアトを素早く突き出した。
 そして命中する前にトリガーを引く。

――ゴバァッ!!

 凄まじい爆音と共に、炎が上がる。
 例え回避されたとしても、目くらましと、行動阻害にはなる――その彼女の認識は甘かった。

『――遅い!!』

――爆炎すらも、サムライゴーレムは掻い潜ってみせた。
 そして抜刀――三筋の銀光が奔った。

「――っ!!」

 腕が切り飛ばされ、胴体を両断されたK−111が音を立てて崩れ落ちる。
 雪野機、轟沈――戦闘開始から一分と経っていなかった。

「――雪野さんっ!!」
「‥‥」

 ティーダが叫ぶが、雪野機の無線からはノイズだけしか聞こえてこない。
 どうやら完全に気を失っているようだ。

『さて‥‥次はどいつや?』
「‥‥俺だ!!」

 まるで獲物を狙う蛇のような笑みを浮かべながら呟くサイゾウに、雪ノ下が答えた。

「――俺の名は雪ノ下正和!! 『蒼空のサムライ』の名にかけて、お前に決闘を申し込む!!」
『ほう、アンタもサムライか‥‥ええやろう。その挑戦、受けて立ったる!!
 ‥‥お前らは、後の残りをやれや!!』

 サイゾウが号令をかけると、ゴーレム達は目を輝かせてそれに応じ、ショルダーキャノンを納めて能力者達に向かっていった。




 最初に格闘戦が行われたのは、右翼。
 雪野が撃墜されたため、葵、龍深城、時枝の三人が、同数のゴーレムと対峙する事となった。
 敵の編成は刀持ちが二機に、槍持ちが一機。
 刀を持った一機が放った斬撃を、葵機のソニックブレードが受け止め、そのまま鍔迫り合いとなった。
 刀と超振動の刃が噛み合い、耳障りな音を立てる。
 ディアブロのパワーは強化ゴーレムに引けを取ること無く、膠着状態に陥るが、葵は不敵な笑みを浮かべていた。

「遊んであげられなくてね、さっさと極めるよ?」

 不意に葵機がすっ、と身を引く。
 押し合っていたゴーレムはすぐに対応出来ずにたたらを踏んだ。

「葵顕流・空技! 颶風烈破!!」

 すかさず切り込み、袈裟切り、逆胴の二連撃を加え、更にアグレッシブ・フォースを込めた突きを放つ。
 ソニックブレードは紙のように装甲を切り裂き、貫く。


 龍深城の雷電は槍持ちの機と対峙していた。
 鋭い突きが繰り出され、鉄の穂先がヒートディフェンダーを掻い潜って雷電の装甲に突き刺さる。

「くっ‥‥効けよ補助輪!!」

 龍深城は追撃をかわし、お返しとばかりに体重を乗せたヒートディフェンダーの斬撃を放つ。
 続けてレッグドリルをぶち込むと、赤熱したゴーレムの装甲は易々と砕けていった。

「律儀に敵に合わせる気は無い。油断無く容赦無く、迅速に確実に抉って叩く!!」

 時枝のディアブロも負けじとツイストドリルを放ち、もう一機の肩装甲を貫いた。
 しかしゴーレム達も簡単には倒れず、反撃を三人に加えて行く。
――戦況は正に五分と五分であった。




――一方、左翼。
 同じく同数機のゴーレムと対峙するのは、皇のS−01と、金城のディアブロだ。
 しかしこちらは右翼とは違い、終始ゴーレム達を圧倒していた。
 敵が放つ一撃一撃をいなし、受け流す金城機。
 無駄な装備の一切を省いたディアブロの動きは、機動兵器というよりは円熟した拳法家のそれ。
 大きく振るわれた槍の一撃をいなすと、ゴーレムの脇腹ががら空きとなった。

「――ッ!! ――今です!!」

 叫ぶと同時に、金城は人工筋肉の収縮を調整し、人間で言う「力を溜めてから一気に開放する」という動きを再現し、更に推進器の出力をパーツ事の動きに合わせて行く。
――その結果は爆発的な瞬発力という形で現れ、ゴーレムとの間合いを瞬く間にゼロにする。
 チタンファングの連撃に腹を抉られ、ゴーレムは堪らずくの字に折れ曲がった。
 体勢を立て直そうとするも、皇のS−01が放ったレーザーが手足や頭部に突き刺さり、それを許さない。

「はぁぁぁぁっ!!」

――連打、連打、連打!!
 爪に、そして剣翼にずたずたに引き裂かれたゴーレムは、瞬く間にスクラップと化した。
 仲間の敵とばかりに、もう一機の刀持ちが皇に切りかかる。

「ハードね、全く‥‥」

 それを辛うじてディフェンダーで受け止めながら、皇はぼやく。
 そしてすかさず距離を取り、徹底的に手足やモニターを狙って狙撃していく。
 ゴーレムは皇機を追いかけようとするが、金城機がそれを遮った。

「刺し、穿つ!!」

 転じて一気に間合いを詰めた皇機が雪村を抜き放ち、ゴーレムの胸の中枢部を刺し貫く。
 火花が散り、痙攣するかのようにゴーレムが断末魔を上げる。
 皇が雪村を引き抜くと、ゴーレムは重い音を立てながら崩れ落ち、その機能を停止させた。




――そして、中央。

「さて、どこまでもつでしょうか‥‥」

 そこでは雪ノ下のR−01と、ティーダのアンジェリカ、サイゾウのサムライゴーレムが睨み合っていた。
 雪ノ下機の構えは左八相――剣先を相手に見せずに、出方を探らせない構えだ。
 対するサムライゴーレムの構えは、雪野機を轟沈せしめた必殺の居合い。
 じりじりと二機の間合いが近付いて行く。
 そして一足の間合いに達した所で突然、サイゾウが後方のティーダに向けて通信を送ってきた。

『そこの女っぽいKVの奴――ワイを撃て。それが合図や』
「――!! ‥‥雪ノ下さん?」
「――お願いします」

 ティーダはこくり、と頷くと、高分子レーザーの照準をサムライゴーレムに合わせる。
 しばしの逡巡の後、ティーダは引き金を引いた。
 白光が、矢のように打ち出される。
 同時に、雪ノ下がアグレッシブ・ファングを機動させ、地を駆ける。
 ゴーレムはレーザーをかわしたせいで、前進する事が出来ない。
 まず機先を制したのは、雪ノ下機であった。

「うおおおおおおおっ!!」

 裂帛の気合とともに、ヒートディフェンダーを振りかぶる雪ノ下。
 だが、サムライゴーレムはあえて後の先を取り、あえてその場から動かずに雪ノ下を迎撃した。


――ギィィィィンッ!!


――交錯する影。
 そして、宙に腕が舞った。
 剣を握ったままのそれは、二機から離れた場所に突き立つ。

「――無念ッ!!」

――それは、雪ノ下のR−01の腕だった。

『未熟!!』

 止めに中枢部に薙刀を叩き込まれ、雪ノ下機は崩れ落ちるように地面に倒れた。
――雪ノ下機、撃墜。

『せやけどワイに正面切って立ち向かった、その心意気や良し――確かに、お前さんはサムライやったぞ』

 その胸の装甲には、ヒートディフェンダーの刀傷がくっきりと刻まれていた。
――雪ノ下の一撃は、確かに届いていたのだ。
 そして大見得を切って薙刀を納めるサムライゴーレムに向かって、ティーダがレーザーを叩き込んだ。

「油断しすぎですっ!!」
『うおっ!? 無粋なやっちゃ!!』

 慌てて回避するサムライゴーレムだが、何本かが避けきれずに肩装甲を直撃した。
 飴のように溶け、変形する装甲。

『ち、ちょっと待てや!! 何やそのアホみたいな出力は!?』

 サイゾウはモニターに表示される損耗率を見て、驚愕の表情を浮かべた。
 このゴーレムでも、そう何発も耐え切れないほどの威力で、その上正確無比と来ている。
 だが、サイゾウの言葉にティーダが耳を貸すはずも無く、彼女は容赦無くレーザーを叩き込んでくる。
 サムライゴーレムは薙刀を再び構え、踏み込む。
 しかしその悉くはティーダ機の持つセミーサキュアラーによって受け止められた。

「‥‥何発、耐えられますか?」

 その隙を突いてティーダが腰の柄に手を当てる。

――ゴッ!!

 一気に抜刀すると、光の刀身がサムライゴーレムを襲った。
 咄嗟に避けるが、その光に触れた兜の角が、跡形も無く蒸発する。
 それは途轍もない強化が施された、錬剣「雪村」であった。

『じ、冗談やないで!?』

 すかさず距離を取るサイゾウ。
――確かに己より強い者はいた。
 しかし、彼にとってその強さはあまりに予想外に過ぎた。




 サイゾウは戦法を変え、薙刀による間合いを開けながらのヒット&アウェイでティーダ機を攻め立てる。
 ティーダ機はそれを半月刀で受け止め、レーザーを放って行く。
 しかし堅牢を誇るはずのセミーサキュアラーは、度重なる強烈な攻撃によって、既にボロボロになっていた。
 そして、それはサムライゴーレムの装甲も同じ。
 このままでは埒が明かないと判断したティーダが間合いを詰めようとした時、右翼から轟音が響いた。

――見れば、三機のゴーレムの内二機は葵と時枝によって倒され、龍深城と戦っていたゴーレムも、両腕を破壊され、既に虫の息であった。
 無論三人とも無事では無い。特に龍深城の雷電は、ほぼ半壊状態だ。
 だが、全員がしっかりと立っている。
 サイゾウは舌打ちして薙刀を捨てると、ティーダに向けて宣言した。

『――次で‥‥最後や‥‥行くで!!』

 一気に間合いを詰め、再び居合い抜きでティーダを攻め立てる。
――閃く銀光は五筋。
 それを受け止めた半月刀と、アンジェリカの腕が悲鳴を上げる――損耗率は一気に50%にまで達した。
 そして最後の一撃が、半月刀を粉々に打ち砕く。

「ただではやられませんよ!!」

 ティーダはその破片ごと雪村を振るった。
 烈光がサムライゴーレムの腕を刀ごと消し飛ばし、胴を半ばまで切り裂いた。
 しかし、雪村を振り切った瞬間、アンジェリカの腕もまた、くぐもった爆発音と共に動かなくなる。

『――ま、まだや!!』

 まだ生きているサムライゴーレムに向けて、後方の能力者達が一斉に砲撃した。
 避けきれずに銃弾がサムライゴーレムに突き刺さろうとした瞬間、生き残っていたゴーレムが庇うように立ち塞がり、その身に全ての銃弾を受け、爆散する。

『‥‥すまん!!』

 サイゾウは瞑目するように呟くと、ブーストをかけて離脱を開始する。

『――覚えとれよ!! 今度は必ずワイが勝ってみせるでぇ〜‥‥』

 捨て台詞を残し、サイゾウは地平線へと消えて行った。




 基地は無事奪還され、至急救出された雪野と雪ノ下も、幸い命を取りとめる事が出来た。

「‥‥しかし、こっぴどくやられたわね私たち」
「‥‥ええ」

 病院のベッドの上で目覚めた二人は、悔しげに顔を歪める。

「でも俺は‥‥もっと強くなってみせる‥‥絶対に!!」

 傷だらけの拳を握り締め、雪ノ下は改めて己に固く誓うのであった。

「――私もよ」

 そして、それは雪野も同じ。
 何があっても、ただ前へ――それが、自分達能力者の使命なのだから。