●リプレイ本文
エース率いるゴーレム部隊を撃退し、前線基地を奪還するため、能力者達が駆る八機のKVが飛び立った。
「エース機のサムライ‥‥。さて、どれほどのものか‥‥」
操縦桿を握りながら、ティーダ(
ga7172)は緊張を言葉に滲ませて呟く。
「剣術を修める者のハシクレとして、負けたくない相手だね、うん」
何時に無く真面目な顔で呟くのは葵 コハル(
ga3897)。
金城 エンタ(
ga4154)も、サムライの実力を計ろうとしていた。
「‥‥臆さず‥‥驕らず‥‥見極めましょうか」
「蒼空のサムライの名にかけて――負ける訳にはいかない!!」
雪ノ下正和(
ga0219)も、仲間達とこの任務を成功させるため、負けじと気炎を上げる。
「‥‥能力者が無能だと油断してくれるのは悪くは無いが‥‥それ以上に癪に触る」
忌々しげに呟きながら、時枝・悠(
ga8810)が顔をしかめる。
全力を以って、サムライとやらの認識を正さなくてはなるまい――彼女はそう思っていた。
――数十分後。
「派手にやってくれちゃってまぁ‥‥御代はその身で払ってもらわないとね」
眼下に広がる光景を見下ろしながら、雪野 氷冥(
ga0216)が嘆息してから『奴ら』を射抜くように睨み付ける。
廃墟と化した基地の中央に立つ六つの機影――五機のゴーレムと、緋色にギラギラと輝く装甲を身に纏った『サムライ』姿のエースゴーレム。
「――サムライねぇ‥‥強きゃいいってもんじゃないし‥‥大体あいつ日本文化分かってねぇだろ」
明らかに何処か間違ったサムライゴーレムの造形に、龍深城・我斬(
ga8283)は呆れた様に呟く。
「さ、行きましょうか」
ともかく、眼前に敵がいる状態で飛び回っている訳にもいかない。
皇 千糸(
ga0843)の号令の元、能力者達はゴーレム達と対峙するように大地に降り立った。
『――よーやく来おったな、能力者ども。待ちくたびれて死にそうやったわ!!』
無線から、訛りの強い何処かお茶らけた感じの男の声が響いた。
『――ワイの名はハットリ・サイゾウ‥‥見ての通り、サムライや』
サムライゴーレムが男――サイゾウの言葉に合わせるように、親指を立てて自らを指してみせる。
「何と言うか‥‥色々と間違ってますね」
「うん‥‥特に名前とかね」
金城と葵が口々に呟いた。
――大体、その名前はどちらかというと忍者だ。
『さーて、どいつから相手してくれるんや? みんな強そうやし、楽しめそうや』
サイゾウは、まるで親しい友人に話しかけるかのような口調で話しかけてくる。
それが能力者達の神経を逆撫でした。
「‥‥決闘? ゴーレムを引き連れて言える台詞か」
耐え切れず、時枝が怒りと共に言葉を吐き捨てる。
『――分かっとらんなぁ嬢ちゃん。一騎打ちの前には合戦は付き物やろ? 最初っから一騎打ちするなんて、アホのするこっちゃ』
「貴様――ッ!!」
ヘラヘラとした態度のサイゾウに激昂し、飛びかかろうとする彼女を、ティーダが押し止める。
「――もうこれ以上、言葉は不要です」
――そう、彼らはバグア。
元々人と相容れる事の出来ない存在であり、倒すべき敵。
能力者達のKVが武器を構えていく。
それを見たサイゾウは、つまらなそうに溜息を吐いた。
『人と話すんは久しぶりやったのに‥‥まぁ、ええ――』
サムライゴーレムが、身を低くして刀の柄に手をかける。
――それだけで、周囲の空気が一変した。
改めて認識する――この男、サイゾウは紛れも無くエースであると。
背後のゴーレム達も、刀を、槍を構え、ショルダーキャノンを稼動させる。
『――やろか?』
サイゾウの言葉を合図に、戦闘は開始された。
能力者達の武装の方がリーチは長い。
先んじて一斉射撃を試みる。
「氷冥、千糸、悠、タイミングを合わせろ!!」
龍深城の号令の元、最初の手はず通りに銃撃を加えていくが、距離が離れているため中々当たらない。
ゴーレム達はその隙に距離を詰めてショルダーキャノンを放ち、激しい銃弾の応酬が繰り広げられていく。
『――ほな、行くでぇ!!』
サイゾウの叫びと共に、サムライゴーレムは真っ先にその弾幕の中に飛び込んで行った。
普通なら蜂の巣になるような銃弾の雨を、サムライゴーレムはさも当然のようにかわしていく。
あっという間に距離を詰め、能力者達に肉薄した。
「それぐらい予想の範囲内!!」
雪野のK−111がツインブーストを発動すると、サムライゴーレムの前に立ち塞がり、その手のロンゴミニアトを素早く突き出した。
そして命中する前にトリガーを引く。
――ゴバァッ!!
凄まじい爆音と共に、炎が上がる。
例え回避されたとしても、目くらましと、行動阻害にはなる――その彼女の認識は甘かった。
『――遅い!!』
――爆炎すらも、サムライゴーレムは掻い潜ってみせた。
そして抜刀――三筋の銀光が奔った。
「――っ!!」
腕が切り飛ばされ、胴体を両断されたK−111が音を立てて崩れ落ちる。
雪野機、轟沈――戦闘開始から一分と経っていなかった。
「――雪野さんっ!!」
「‥‥」
ティーダが叫ぶが、雪野機の無線からはノイズだけしか聞こえてこない。
どうやら完全に気を失っているようだ。
『さて‥‥次はどいつや?』
「‥‥俺だ!!」
まるで獲物を狙う蛇のような笑みを浮かべながら呟くサイゾウに、雪ノ下が答えた。
「――俺の名は雪ノ下正和!! 『蒼空のサムライ』の名にかけて、お前に決闘を申し込む!!」
『ほう、アンタもサムライか‥‥ええやろう。その挑戦、受けて立ったる!!
‥‥お前らは、後の残りをやれや!!』
サイゾウが号令をかけると、ゴーレム達は目を輝かせてそれに応じ、ショルダーキャノンを納めて能力者達に向かっていった。
最初に格闘戦が行われたのは、右翼。
雪野が撃墜されたため、葵、龍深城、時枝の三人が、同数のゴーレムと対峙する事となった。
敵の編成は刀持ちが二機に、槍持ちが一機。
刀を持った一機が放った斬撃を、葵機のソニックブレードが受け止め、そのまま鍔迫り合いとなった。
刀と超振動の刃が噛み合い、耳障りな音を立てる。
ディアブロのパワーは強化ゴーレムに引けを取ること無く、膠着状態に陥るが、葵は不敵な笑みを浮かべていた。
「遊んであげられなくてね、さっさと極めるよ?」
不意に葵機がすっ、と身を引く。
押し合っていたゴーレムはすぐに対応出来ずにたたらを踏んだ。
「葵顕流・空技! 颶風烈破!!」
すかさず切り込み、袈裟切り、逆胴の二連撃を加え、更にアグレッシブ・フォースを込めた突きを放つ。
ソニックブレードは紙のように装甲を切り裂き、貫く。
龍深城の雷電は槍持ちの機と対峙していた。
鋭い突きが繰り出され、鉄の穂先がヒートディフェンダーを掻い潜って雷電の装甲に突き刺さる。
「くっ‥‥効けよ補助輪!!」
龍深城は追撃をかわし、お返しとばかりに体重を乗せたヒートディフェンダーの斬撃を放つ。
続けてレッグドリルをぶち込むと、赤熱したゴーレムの装甲は易々と砕けていった。
「律儀に敵に合わせる気は無い。油断無く容赦無く、迅速に確実に抉って叩く!!」
時枝のディアブロも負けじとツイストドリルを放ち、もう一機の肩装甲を貫いた。
しかしゴーレム達も簡単には倒れず、反撃を三人に加えて行く。
――戦況は正に五分と五分であった。
――一方、左翼。
同じく同数機のゴーレムと対峙するのは、皇のS−01と、金城のディアブロだ。
しかしこちらは右翼とは違い、終始ゴーレム達を圧倒していた。
敵が放つ一撃一撃をいなし、受け流す金城機。
無駄な装備の一切を省いたディアブロの動きは、機動兵器というよりは円熟した拳法家のそれ。
大きく振るわれた槍の一撃をいなすと、ゴーレムの脇腹ががら空きとなった。
「――ッ!! ――今です!!」
叫ぶと同時に、金城は人工筋肉の収縮を調整し、人間で言う「力を溜めてから一気に開放する」という動きを再現し、更に推進器の出力をパーツ事の動きに合わせて行く。
――その結果は爆発的な瞬発力という形で現れ、ゴーレムとの間合いを瞬く間にゼロにする。
チタンファングの連撃に腹を抉られ、ゴーレムは堪らずくの字に折れ曲がった。
体勢を立て直そうとするも、皇のS−01が放ったレーザーが手足や頭部に突き刺さり、それを許さない。
「はぁぁぁぁっ!!」
――連打、連打、連打!!
爪に、そして剣翼にずたずたに引き裂かれたゴーレムは、瞬く間にスクラップと化した。
仲間の敵とばかりに、もう一機の刀持ちが皇に切りかかる。
「ハードね、全く‥‥」
それを辛うじてディフェンダーで受け止めながら、皇はぼやく。
そしてすかさず距離を取り、徹底的に手足やモニターを狙って狙撃していく。
ゴーレムは皇機を追いかけようとするが、金城機がそれを遮った。
「刺し、穿つ!!」
転じて一気に間合いを詰めた皇機が雪村を抜き放ち、ゴーレムの胸の中枢部を刺し貫く。
火花が散り、痙攣するかのようにゴーレムが断末魔を上げる。
皇が雪村を引き抜くと、ゴーレムは重い音を立てながら崩れ落ち、その機能を停止させた。
――そして、中央。
「さて、どこまでもつでしょうか‥‥」
そこでは雪ノ下のR−01と、ティーダのアンジェリカ、サイゾウのサムライゴーレムが睨み合っていた。
雪ノ下機の構えは左八相――剣先を相手に見せずに、出方を探らせない構えだ。
対するサムライゴーレムの構えは、雪野機を轟沈せしめた必殺の居合い。
じりじりと二機の間合いが近付いて行く。
そして一足の間合いに達した所で突然、サイゾウが後方のティーダに向けて通信を送ってきた。
『そこの女っぽいKVの奴――ワイを撃て。それが合図や』
「――!! ‥‥雪ノ下さん?」
「――お願いします」
ティーダはこくり、と頷くと、高分子レーザーの照準をサムライゴーレムに合わせる。
しばしの逡巡の後、ティーダは引き金を引いた。
白光が、矢のように打ち出される。
同時に、雪ノ下がアグレッシブ・ファングを機動させ、地を駆ける。
ゴーレムはレーザーをかわしたせいで、前進する事が出来ない。
まず機先を制したのは、雪ノ下機であった。
「うおおおおおおおっ!!」
裂帛の気合とともに、ヒートディフェンダーを振りかぶる雪ノ下。
だが、サムライゴーレムはあえて後の先を取り、あえてその場から動かずに雪ノ下を迎撃した。
――ギィィィィンッ!!
――交錯する影。
そして、宙に腕が舞った。
剣を握ったままのそれは、二機から離れた場所に突き立つ。
「――無念ッ!!」
――それは、雪ノ下のR−01の腕だった。
『未熟!!』
止めに中枢部に薙刀を叩き込まれ、雪ノ下機は崩れ落ちるように地面に倒れた。
――雪ノ下機、撃墜。
『せやけどワイに正面切って立ち向かった、その心意気や良し――確かに、お前さんはサムライやったぞ』
その胸の装甲には、ヒートディフェンダーの刀傷がくっきりと刻まれていた。
――雪ノ下の一撃は、確かに届いていたのだ。
そして大見得を切って薙刀を納めるサムライゴーレムに向かって、ティーダがレーザーを叩き込んだ。
「油断しすぎですっ!!」
『うおっ!? 無粋なやっちゃ!!』
慌てて回避するサムライゴーレムだが、何本かが避けきれずに肩装甲を直撃した。
飴のように溶け、変形する装甲。
『ち、ちょっと待てや!! 何やそのアホみたいな出力は!?』
サイゾウはモニターに表示される損耗率を見て、驚愕の表情を浮かべた。
このゴーレムでも、そう何発も耐え切れないほどの威力で、その上正確無比と来ている。
だが、サイゾウの言葉にティーダが耳を貸すはずも無く、彼女は容赦無くレーザーを叩き込んでくる。
サムライゴーレムは薙刀を再び構え、踏み込む。
しかしその悉くはティーダ機の持つセミーサキュアラーによって受け止められた。
「‥‥何発、耐えられますか?」
その隙を突いてティーダが腰の柄に手を当てる。
――ゴッ!!
一気に抜刀すると、光の刀身がサムライゴーレムを襲った。
咄嗟に避けるが、その光に触れた兜の角が、跡形も無く蒸発する。
それは途轍もない強化が施された、錬剣「雪村」であった。
『じ、冗談やないで!?』
すかさず距離を取るサイゾウ。
――確かに己より強い者はいた。
しかし、彼にとってその強さはあまりに予想外に過ぎた。
サイゾウは戦法を変え、薙刀による間合いを開けながらのヒット&アウェイでティーダ機を攻め立てる。
ティーダ機はそれを半月刀で受け止め、レーザーを放って行く。
しかし堅牢を誇るはずのセミーサキュアラーは、度重なる強烈な攻撃によって、既にボロボロになっていた。
そして、それはサムライゴーレムの装甲も同じ。
このままでは埒が明かないと判断したティーダが間合いを詰めようとした時、右翼から轟音が響いた。
――見れば、三機のゴーレムの内二機は葵と時枝によって倒され、龍深城と戦っていたゴーレムも、両腕を破壊され、既に虫の息であった。
無論三人とも無事では無い。特に龍深城の雷電は、ほぼ半壊状態だ。
だが、全員がしっかりと立っている。
サイゾウは舌打ちして薙刀を捨てると、ティーダに向けて宣言した。
『――次で‥‥最後や‥‥行くで!!』
一気に間合いを詰め、再び居合い抜きでティーダを攻め立てる。
――閃く銀光は五筋。
それを受け止めた半月刀と、アンジェリカの腕が悲鳴を上げる――損耗率は一気に50%にまで達した。
そして最後の一撃が、半月刀を粉々に打ち砕く。
「ただではやられませんよ!!」
ティーダはその破片ごと雪村を振るった。
烈光がサムライゴーレムの腕を刀ごと消し飛ばし、胴を半ばまで切り裂いた。
しかし、雪村を振り切った瞬間、アンジェリカの腕もまた、くぐもった爆発音と共に動かなくなる。
『――ま、まだや!!』
まだ生きているサムライゴーレムに向けて、後方の能力者達が一斉に砲撃した。
避けきれずに銃弾がサムライゴーレムに突き刺さろうとした瞬間、生き残っていたゴーレムが庇うように立ち塞がり、その身に全ての銃弾を受け、爆散する。
『‥‥すまん!!』
サイゾウは瞑目するように呟くと、ブーストをかけて離脱を開始する。
『――覚えとれよ!! 今度は必ずワイが勝ってみせるでぇ〜‥‥』
捨て台詞を残し、サイゾウは地平線へと消えて行った。
基地は無事奪還され、至急救出された雪野と雪ノ下も、幸い命を取りとめる事が出来た。
「‥‥しかし、こっぴどくやられたわね私たち」
「‥‥ええ」
病院のベッドの上で目覚めた二人は、悔しげに顔を歪める。
「でも俺は‥‥もっと強くなってみせる‥‥絶対に!!」
傷だらけの拳を握り締め、雪ノ下は改めて己に固く誓うのであった。
「――私もよ」
そして、それは雪野も同じ。
何があっても、ただ前へ――それが、自分達能力者の使命なのだから。