タイトル:【LP】戯れは死の香りマスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/24 00:59

●オープニング本文


 冬を控えて、極東ロシア軍の戦意は高かった。彼らの母なる大地を侵していたバグアの主力は一昨年の末に撃破され、以後輸送ルートも多少は安定している。一昨年より去年、去年よりも今年が過ごしやすい事は間違いない。

「発令、モスクワの本国軍より。ウランバートル基地へ陽動を掛けるべし」

 例の如しの指示に、兵は僅かに落胆した。通信将校は直立不動のまま言葉を続ける。

「但し、攻勢に及んで機を掴めば、陥落せしめるも可とする」

 ざわり、と兵が動き互いの顔を見合わせた。最前列の誰かが雪焼けした顔を綻ばせる。

「――つまり、だ。落としてしまっても、構わんのだろう?」



 吹雪吹き荒ぶウランバートル戦線――そこでは、今までの侵略の仇を取るかの如く、人類側の戦力が進撃していく。

「押せ押せ!! 奴等を血祭りに上げろっ!!」
『了解っ!!』

 KV隊の隊長の号令の下、吹き荒ぶ氷の嵐を切り裂いて弾幕の嵐が、前方のゴーレムの一隊を蹂躙する。

「総員抜刀!! ロシアの大地の為に!!」
『――大地の為に!!』

 そしてその勢いのまま、凍った大地を踏みしめて、ロジーナを中心としたKV隊がディフェンダーを振り上げて突撃した。



――数刻後、彼らと対峙していたバグア軍は全てが大地に沈んでいた。

『ざまぁ見ろ畜生め!! 今度はテメェらが逃げ回る番だぜ!!』

 隊員の一人が、ロジーナの足で残骸を踏み砕きながら快哉を叫ぶ。
 普段ならば窘める所だが、士気の向上にはなっているし、彼の叫びは全員の心を代弁していたため、誰も咎める事は無かった。

「良し、陽動としては十分すぎる――そろそろ撤退するぞ」
『そりゃ無いですぜ隊長!! まだまだ俺達はやれますよ!!』

 しかし、興奮冷めやらぬ部下達は未だに前に進もうとしていた。
――確かに現状全機が健在であり損傷も軽微、加えて弾薬もまだ豊富にある。

「‥‥いいだろう、あと十キロ行軍するぞ。
 それで会敵しなければ撤退する――それでいいな?」
『流石は隊長!! 話が分かる!!』

 暫しの逡巡の後、隊長は続行の判断を下し、隊員達はそれを囃し立てた。
 そして、白く染まる大地を踏みしめて進んで行く。



――それが運命の分かれ道となるとは、誰が予想しただろうか。



 数十分後、それから先は何事も無く行軍は続いた。

「――妙だな。静か過ぎる‥‥」

 辺りにはKVの駆動音と、凍った大地を踏みしめる音、そして吹雪の吹き荒ぶ風の音しか聞こえない。
 が、ここは既にバグアの領域内――本当だったら、すぐにでもワームやキメラが大挙して来てもおかしくは無い筈なのだ。
 辺りを見回しても、それらしき物は見当たらない――異常無し。



――しかし、ここでは異常が無い事こそが『異常』なのだ。



 急に、コクピットの中の空気が冷えた気がして、隊員の一人が思わずぶるり、と体を震わせる。

「ん?」

 その時、彼の目は吹き荒ぶ吹雪の中で何か光る物を捉えていた。

「何だこ――」

――れ、と続ける事は出来なかった。



――ヒョインッ!!



 奇妙な風切音が聞こえた瞬間、ゴトン、と重々しい音を立てて、ロジーナはパイロット毎細切れの残骸に変わっていたから。

「‥‥‥‥え?」

 傍らの戦友に対してあまりに唐突に起こった現象に、間の抜けた声を上げる兵士たち。



――ヒョインッ!!



 再び聞こえる風切音――次の瞬間、三機が纏めて鉄屑へと変わる。

「へ‥‥? あ‥‥うわ――」

 ようやく目の前で起こった現象が、何者かによる攻撃と理解し、悲鳴を上げようとした瞬間、その兵士もまた、コクピット毎真っ二つの肉片となった。

『何だよ‥‥何なんだよこ――』
『落ち着け!! 周囲をけ――!?』

 誰もが叫び声や怒号を上げる暇も無く、KVごとバターのように切り裂かれて死んで行く。



 それは凄惨な虐殺だった――何処までも静かで、徹底的な蹂躙。



 歴戦を誇っていた筈の古参兵も、隊長も、自分を襲ったモノが何なのか知らないまま、大地に沈む。
 気付けば、残るは一人だけになっていた。

「‥‥訳が‥‥分からん‥‥」

 その隊員の顔は、まるで蝋人形のように真っ白だ。
――完全に思考が停止してしまっている。
 仲間を殺された怒りも、悲しみも何もかも、感じる事すら出来なかった。

『あらあら、あっと言う間に一人ぼっちねぇアナタ』

 その時、この凄惨な光景には似合わない女の声が聞こえてくる。
――それは、声を聞いただけで劣情を催しかねない程に妖艶で、扇情的だった。

「お前‥‥誰だ‥‥一体‥‥‥‥何だ?」
『そんなに知りたい? なら、教えてあげるわ坊や』

 吹雪が作り出す白い闇の中から、ぬめり、とした紫と漆黒のパーツで構成された、細身のシルエットが現れる。
 それは、兵士にとって絶望的な存在だった。

「フォウン‥‥バウ‥‥? シバリ、メ‥‥?」
『――正解♪ それじゃ、ご褒美を上げるわ』

 シバリメ――フォウン・バウが指先をこちらに向ける。



――ブズッ!!



 次の瞬間、コクピットに打ち込まれた何かが、兵士の腹を貫き、KVの背から抜けた。

「あ‥‥?」

 ゆるゆると、兵士は自らを貫いたモノを見る。



――それが何なのか理解する前に、凄まじい熱さと痛みが全身を駆け巡ったかと思うと、それとは逆に急激に冷めて行く兵士の体。



 それは、シベリアの凍土のように永久に暖まる事は無い絶対の冷たさ。
 同時に兵士の思考はぐちゃぐちゃになっていった。



――痛い、寒い、怖い、死にたくない。



――つたえなきゃ、これをみんなにつたえなきゃ‥‥。



 最後の力を振り絞り、兵士がコンソールを操作した瞬間、彼は細切れの肉片となり、ブリザードの冷気によって凍りついた。



――その数分後、近隣の基地に謎の通信文が届いた。

『糸』

 その内容は、たった一文字だけ。
 同時に、ウランバートル基地へ向けて進軍していた部隊の信号が突然途絶したという報告が入る。
 彼らはいずれもこのロシア戦線における精鋭達。

「彼らが、たった一文字の通信文しか送れない程の敵‥‥?」

 基地司令は迷わず通信機を取り、傭兵の出動要請を行う。
――その顔と手は、冷たい汗でじっとりと濡れていた。



『ふふふ‥‥ちょっとは暇潰しになるかしら?』

 残骸の上に腰掛けながら、シバリメはクスクスと笑う。
 バルセロナが陥落してから、再び目的を失くした彼女は、ただ自由気ままに戦場を彷徨っていた。
 足元に倒れる彼らを狙ったのは、ただ面白そうだったから‥‥ただ、それだけ。

『ふふ‥‥可愛い健気な坊や達‥‥私の「戯れ」に付き合って頂戴な♪』

●参加者一覧

ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
宗太郎=シルエイト(ga4261
22歳・♂・AA
アンジェリナ・ルヴァン(ga6940
20歳・♀・AA
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
砕牙 九郎(ga7366
21歳・♂・AA
如月・菫(gb1886
18歳・♀・HD
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA

●リプレイ本文

「ドラゴン1、空域に侵入、情報のリンクを開始」

 吹雪を切り裂きながら、伊藤 毅(ga2610)のフェニックスが大きく上空を旋回しつつ、下にいる仲間達へと通信を送る。

「――了解‥‥しかし、嫌な天気だぜ」

 吹きすさぶ吹雪の向こうを見据えながら、蒼のLM−01「ストライダー」を前進させる宗太郎=シルエイト(ga4261)。
 傭兵達は、既にバグアの勢力圏内に入りつつあった。

「精鋭機が消息不明ですか‥‥気をつけなければですね」

 ティーダ(ga7172)も緊張に唾を飲み込みながら、アンジェリカ『Frau』で慎重に前へ進んでいく。

「たった一文字の情報だが、これを無駄にする訳にはいかないな」

 消息を絶った彼らは生きていないだろう‥‥彼らに対して一瞬だけ瞑目してから、ブレイズ・カーディナル(ga1851)が呟く。

「『糸』‥‥か。そう言うのであればよっぽど細い、もしくはきめ細かい何かを見たのだろうか‥‥いや、今は止めておこう。」

――このような場合、決めて掛かるのが最も危険だ‥‥だから、アンジェリナ・ルヴァン(ga6940)は『糸』という概念だけを頭に、警戒を続ける。

「糸って聞くと、ロクなのが思いつかねぇな‥‥」

 砕牙 九郎(ga7366)の脳裏に過ぎる嫌な予感を振り払い、砕牙は雷電「爆雷牙」を前進させるのだった。



 吹き荒ぶ吹雪は、地面に積もった雪を巻き上げ、立ち並ぶ木々を影の向こうに隠し、周囲をまるでこの世のものでない幻想的な光景へと変えていた。

「雪が綺麗なのです‥‥なんて呑気な状況じゃないよなー」

 如月・菫(gb1886)はガンスリンガーのモニターに映る光景に見入っていた視線を、慌てて周囲に巡らせた。

「‥‥なんか面白い相手がいるんだって〜? 楽しく戦えたらいいなぁ〜♪」

 だからこそ、リヴァイアサン「レプンカムイ」を駆るオルカ・スパイホップ(gc1882)の心は躍る。
 吹雪の中から敵が現れるのを、今か今かと待ち構えながら。



――数十分後、傭兵達は部隊が消息を絶った場所に到着する。

「‥‥ひでぇな、こりゃ」

 砕牙がまるで呻くかのように呟く。
 そこには、まるで墓標の如くKVの残骸が山となっていた。

「今の所レーダーに反応は無しか‥‥伊藤、そっちはどうだ?」

 周囲に目を配りつつ、空で待機する伊藤へと通信を送る宗太郎。

「こちらドラゴン1、吹雪の為視界が上手く利かないが、今の所怪しい物は見当たらない」
「好都合ですね――今の内に、出来るだけの調査を済ませてしまいましょう」

 その報告に頷いたティーダの提案に従い、傭兵達は索敵・警戒と、残骸の調査に別れて行動を開始した。

「――これから調査を開始する。逐一音声の記録頼むぜ?」
『り‥‥解。お気‥‥けて!!』

 宗太郎は地殻変化計測器を設置すると、基地へと通信を繋ぐ。

「戦闘記録のレコーダーとか、記録用の映像とか、回収できればいいんだけどなぁ」

 残骸を爆雷牙の手で押しのけ、時にコクピットから降りたりもして、砕牙が身を切る寒さに耐えながら辺りを調べる。
 中には辛うじて修復が可能と思われる物もあったが、この場では判断出来ない。
 砕牙はそれを可能な限り回収していった。

「だがこれは‥‥何と言う切れ味だ‥‥」

 アンジェリナのシラヌイS型が手にした残骸――それは合わせると、殆どぴったりと繋げる事が出来た。
 加えて、溶けたような痕跡も見当たらなかった。

「つまり、非物理攻撃では無いという事でしょうか?」
「分からん‥‥が――」
「‥‥何にせよ、とんでもない威力ってのは分かりますよぉ‥‥」

 残骸の状況から敵の攻撃を推理するティーダの言葉に、如月がぶるり、と寒さでは無く恐怖で体を震わせる。
――何故ならこの場にある残骸には、その切断面しか存在しないのだから。



『フフフ‥‥お困りのようね? それじゃ、ちょっと見せてあげましょうか?』



 その時、全員の無線に妖艶な女性の声が響き渡った。

「何っ!? ‥‥ぐっ!?」

――ザザザザザザッ!!

 咄嗟に反応した宗太郎の鼓膜を、通信機が吐き出した激しいノイズが打つ。
 見れば、通信も、レーダーも使い物にならなくなる程のジャミングが発生していた。

――ヒョインッ!!

 同時に森の木々の間にある吹雪を切り裂いて迫る『何か』が、ブレイズの雷電と如月のガンスリンガーに襲い掛かった。

「うわっ!?」

 周囲を警戒していたブレイズは咄嗟に『何か』の進路上へ盾を割り込ませるが、如月はその『何か』に腕を絡み取られる。

「えっ!? 何‥‥きゃあああああっ!!」

 甲高い金属音と共に、殆ど何の抵抗も無くガンスリンガーの腕が輪切りとなり、ボトボトと雪の上に落ちた。

「これって‥‥!?」

 オルカの目は、激しい吹雪の中でも、飛来した『鋭く尖った錘』のようなものを捕らえていた。

『防御出来た子はおめでとう、出来なかった子は残念だったわね‥‥フフフ』

 そんな声と共に、木々と吹雪の中から現れる、紫色の痩身の機体――フォウン・バウ。

「‥‥フォウン・バウ? って、ゼオン・ジハイドじゃないですか、やだー!」

 予想外の強敵の出現に、自失から立ち直った如月が悲鳴を上げる。

「あの機体は‥‥!!
 そうか‥‥これをやったのはお前か、シバリメ!!」
『あらその声‥‥確かバルセロナで啖呵を切ってくれた坊やだったかしら?
 久しぶり‥‥って言うのは変かしらねぇ』

 ブレイズの怒気の篭った叫びに、楽しそうに笑いながらシバリメが応える。

「南アメリカでは‥‥随分と良いようにしていたようだな。
 戦域こそ違えど話は聞いていた」

 激昂こそしなかったものの、アンジェリナも煮え滾るような怒りを込めて口を開く。

『あら? でも、楽勝ムードよりも、ちょっと緊張感があった方があなた達も楽しめるでしょう?
 私はそのお手伝いをしてあげただけよ』
「貴様‥‥!!」

 挑発するかのようなシバリメの言葉に、ぎり、と歯を食い縛る。
 冷静さを失う訳にはいかない――この任務は、目の前の蜘蛛を倒す事では無く、少しでも多くの情報を持ち帰る事。

「後は打ち合わせ通り‥‥だな」

 宗太郎はプラズマライフルを構えながら、ぼそりと呟く。
 フォウン・バウの能力なのか、レーダーや通信機器はノイズで全く使い物にならなくなっていた。
 しかし、事前で決めた段取りは既に頭の中に入っている。

――可能な限り戦闘を行い、敵の情報を入手し、三機以上が撃墜された時点で即時撤退。

「‥‥行こうぜ、ダチ公」

 コクピットの傍らに置かれた好敵手(とも)の刀に一瞬目をやると、宗太郎はプラズマライフルの引き鉄を引く。
 それに合わせて、上空にいた伊藤が急降下しつつミサイルを放った。

「それでは、少し、僕達と踊って頂きましょうか、ミスブラックウィドウ」
『あら嬉しい。しっかりとエスコートして下さいな、ジェントルマン?』

 シバリメは楽しそうに笑うと、まるでタクト振る指揮者の如く、大きく腕を広げた。



 同時にフォウン・バウの指元から放たれるいくつもの錘。
 それは複雑な軌道を描きながら傭兵達目掛けて突き進んで行く。

「まずはその正体を見極める!!」

 アンジェリナを初めとした傭兵達は、装甲を何枚か切り裂かれながらも錘を掻い潜り、それに向かって実弾に混ぜてペイント弾を放つ。
 シバリメはそれらを指や手首、腕を振るい、錘と『間にある何か』で次々と打ち落とした。
 ペイント弾は錘と『錘とフォウン・バウの間にある空間』で爆ぜ、辺りに赤いペンキの飛沫を散らせる。
 しかし、ペイント弾が当たったというのに、その空間には何も無かった――いや。

「確かにそこにあるってのに‥‥見えねぇ!?」
『クスクス‥‥いい作戦だったけど、ただペンキを付けただけじゃ、ね?』

 可笑しそうに笑うと、シバリメは再び指先を動かした。
 錘が翻ったかと思うと、空中で方向転換して襲い掛かる。
 錘は爆雷牙の肩を貫きながら絡みつき、ショルダーキャノンごと一気に両断した。

「くっ‥‥!! 『糸』ってのはこいつか!!」

 砕牙の目は、肩を錘が捕らえた瞬間、その進路上に目に見えない程に細いワイヤーが張られている事に気付いた。
 咄嗟にセミーサキュアラーで切り払おうとするが、糸はすぐに引き戻され、柳のように鉄塊を受け流す。

「うう‥‥よくもやってくれましたねっ!! こいつならどーだっ!!」

 如月が片腕でグレネードを抜き放ち、糸の存在するであろう地点に向かって放った。
 紅蓮の炎は雪を一瞬にして融かし、ダイヤモンドダストが巻き起こる。
 しかし、その中を切り裂いて現れた無数の錘が、ガンスリンガーの全身を次々と貫いた。

「きゃあああああああっ!!」
『あら、着眼点は良かったけど‥‥ちょっと熱さが足りないわ。残念ねお嬢ちゃん』

 コンソールが次々とアラートを吐き出し、衝撃に悲鳴を上げる如月。

「如月さん!!」
「それ以上やらせるかっ!!」

 ティーダとアンジェリナが駆け寄り、張られた糸目掛けて雪村を、ヒート・ディフェンダーを振るう。
 凄まじい出力の雪村は糸を硬い手応えと共に両断し、ヒート・ディフェンダーはガリガリと刃を削られながらも如月から糸を引き剥がした。

『あら凄い。けど生憎、まだ沢山あるのよ?』

 二人が退けた糸に倍する数の錘が再びフォウン・バウから放たれ、二人を切り裂き、貫いて行く。

「く、ううううっ!!」
「だが‥‥今だ!!」

 その瞬間にシバリメの両側面と、正面から飛び出す三機――ブレイズと宗太郎、オルカだ。

『あら、いつの間に?』

 意外そうに、しかし何処か楽しそうに漏らしながら、シバリメは彼らに向かって糸を振るう。

「それ以上はやらせねぇってばよ!!」
「ドラゴン1、FOX2」

 しかし、そこに砕牙や上空から急降下した伊藤らの援護射撃が加わり、シバリメの注意を可能な限り逸らしていく。

「初めまして、シバリメさん!
 遊び相手を探しているの? それとも遊びたいけど誰でもいいの?」

 その隙に錘と糸をエンヴィークロックとブーストを駆使し、ジグザグにかわしながら、オルカがシバリメへと呼び掛ける。

『――そうねぇ、どちらかと言うと後者かしら? 私、正直退屈してるのよ。
 だから、ちょっとは楽しませて頂戴ね坊や』

 その問い掛けに答えながらも、シバリメの攻撃は苛烈だ。
 近付く間に、あちこちの装甲が切り裂かれ、貫かれていく。

「ちぃっ!! ‥‥それじゃあテメェは、ただの暇潰しでコイツらを殺したってのか!!」

 ストライダーが一気に接近し、爆槍を突き出すが、フォウン・バウはそれをふわり、とかわした。

『そうよ? 何百年も生きてると、渇くのよねぇ‥‥まぁ、この子達は大した足しにはならなかったけど、ね?』

 そう言いながら、シバリメは足元の残骸をつまらなそうにグリグリと踏みつける。

「ふざけろっ!! お前は俺が必ず倒す!!」
「自分と同等‥‥それ以上の強い相手がいないからお遊戯しか出来ないんだよ!
 戦うのってそんなチンケな事じゃないし、戦いをその程度にしておくなんて勿体無い!!
 僕が最初で最後のお遊戯以上の遊び相手になってあげるよ!!」

 怒りの咆哮と共にブレイズの雷電が盾を構えながら強引に接近し、反対側からもオルカが間合いを詰める。
 全てを打ち砕く秘めたスレッジハンマーと、ありったけのスキルを込めた雪村が同時に叩きつけられた。
 その時、フォウン・バウの目が光ったかと思うと、二人の武器が青い光に包まれる。


――メキィッ!!


「な‥‥?」
「あ、あれ‥‥?」

 目の前の光景に、思わず絶句する。
 二人の攻撃は、僅かに装甲にめり込んだだけで止まっていた。
 装甲に阻まれた訳では無い‥‥自分達の武器の出力が一時的に弱まったのだ。

『見た目通り脆いこの子が、攻撃に対して何の対策もしてないと思った?』
「‥‥っ!!」
『でも、真っ向からの攻撃でダメージを受けたのは久しぶりね‥‥気に入ったわ、あなた達』

――だからご褒美を上げる、という言葉と共に、錘と糸が赤い光を帯び、二人目掛けて襲い掛かる。
 咄嗟に飛び退るオルカ――しかし、糸が機体を捉える方が早い。
 四肢を、頭を、胴を切り裂かれ、レプンカムイが崩れ落ちた。

「オルカ!!‥‥クソっ!!」

 ブレイズはウルの防御で防御を試みるが、赤い光を帯びた錘と糸は、翳した盾ごと、まるで豆腐のように腕や体を貫き、切り裂いた。

(装甲が‥‥効かない!?)

 そして彼の雷電もまた、オルカの後を追う。

「シバリメっ!!」

 宗太郎が駆け寄り、再び爆槍を突き出すが、再びフォウン・バウの瞳が光り、硬い手応えと共に空しく弾かれる。

――その間に打ち出された錘はストライダーへ絡みつき、猛烈な勢いで投げ飛ばし、沈黙させた。

(宗太郎さん‥‥!! けれど‥‥!!)

 だが、フォウン・バウが大きく腕を振り切った瞬間を狙い、ティーダのFrauが背後から踏み込み、雪村を抜き放つ。


――だが次の瞬間、フォウン・バウの姿はまるで霞の如く掻き消えていた。


「えっ‥‥!?」

 あまりの光景に思わず呆然とするティーダ。

『――凄い攻撃ね。当たったら真っ二つになってたかもしれないわ』

 クスクスという笑みと共に、フォウン・バウはティーダの側面に再び出現すると、糸に赤い光を纏わせ、Frauを真っ二つに切り裂いた。
 シバリメは止めとばかりにプロトン砲を向けるが、そこへフェニックスのミサイルと、シラヌイS型のレーザーライフルが降り注ぐ。

「後退支援に入る。今の内に負傷者を」
「砕牙!! 頼む!!」

 二人はその身にプロトン砲を受け、黒煙を吐き出しながらも支援を続ける。

「おう!! まかせとけってばよ!!」

 爆雷牙がその間にティーダとブレイズを救助する。
 しかし、オルカへと手を伸ばそうとした瞬間、錘が飛来し、爆雷牙の胸を突き、吹き飛ばした。

「があっ!?」

 その間にシバリメはオルカの下へと歩み寄り、コクピットの前にまで引きずり出す。

「う‥‥」
「お遊戯以上の遊び相手、ね‥‥いいわ‥‥その相手になって頂戴な?
 沢山、沢山遊んであげる‥‥死んでも、肉片になっても、ずぅぅぅっとね‥‥」

 そう囁くと、オルカを解放すると、ボロボロになった傭兵達を睥睨しながら空へと浮かび上がった。

『楽しかったわ、坊や達にお嬢ちゃん達‥‥また、「遊び」ましょう?』

 その声と共に、凄まじいスピードでフォウン・バウは離脱して行った。



「大丈夫か宗太郎!!」
「ええ‥‥記録媒体も無事です‥‥けれど――」

 砕牙に助けられた宗太郎のポケットには、無傷の記録媒体。
 その中には今までの全ての記録が収められている――任務は遂行したと言っていい。

「‥‥く、くそ〜‥‥」
「私‥‥何にも‥‥出来なかった‥‥」

 だが、傭兵達が情けをかけられた事には変わりない。
 オルカと如月は、悔しさと己の不甲斐なさに涙する。

『――強く、なりたい‥‥!!』

 だが、それを糧とし、二人の心には強さへの渇望が芽を出していた。