●リプレイ本文
――帰って来た。
この独特の戦場の空気を吸うと、改めて実感する。
愛する者と結ばれ、名を変えたシーヴ・王(
ga5638)の体は、高揚感に包まれていた。
「久々の御剣隊との戦いわくわくしやがると言ったら不謹慎でありやがるですかね?
‥‥連絡してきやがった偉そうなヤツを、ギャフンと言わせてやるです」
そして現れる右腕の『ur』のルーンと共に、彼女の愛機岩龍『鋼龍』が起動する。
「やれやれ、なんとも御剣隊らしい作戦で。
それではこちらも頼りにさせてもらいましょうか、エリシアさん?」
『こちらこそな。久々の共同戦線だ‥‥楽しませて貰おうか』
そう一言語り合うと、リディス(
ga0022)のディスタン「プリヴィディエーニィ」と、エリシアのシラヌイS型が飛び立つ。
藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)のアンジェリカ「鴇」のカメラが望遠で覗いた沿岸部には、まるで雲霞の如きバグア軍の機甲部隊の姿。
「うむ、絶景かな絶景かな‥‥どれ一暴れといくか‥‥何、この程度の軍勢、今までに比べれば温いくらいじゃ」
『‥‥慣れってのは恐ろしいですね』
「それだけ我もお主も強くなったという事じゃよ‥‥では、行くとするか!!」
『――了!!』
藍紗の言葉に、ロイ曹長は溜息を吐きながらも頷き、共に空へと上がっていった。
「さて、何時も通りの無茶な任務だが‥‥御剣隊と一緒ならむしろそうでなくてはな」
『――私としてはたまには楽したい所なのですが‥‥ところで、隊長には再度アタックはしたのですか? 堺』
「そ、それは今関係無いだろう!! というか何故知っている!?」
『情報ソースはミツルギの爺ちゃんです‥‥ご愁傷様な事で』
「く、クソッ‥‥!! さ、堺・清四郎(
gb3564)、ミカガミ『剣虎』出るぞっ!!」
覚醒し、機械的な口調でからかってくるエイミィ軍曹に悪態を吐きながら、堺の白と黒の縞模様に染められたミカガミが行く。
「御剣隊‥‥初めて同道しますが、如何程の力がありますか‥‥お手並み拝見させて頂きましょうか」
ラナ・ヴェクサー(
gc1748)は期待の篭った目で御剣隊を見つめながら、サイファー「レブ・アギュセラ」を発進させた。
それに続き、次々とカタパルトから打ち出されていく御剣隊と庸兵が操るKV達。
「敵部隊が展開しているところへの強行着陸、か。生半可な作戦より合理的だな」
鳳 勇(
gc4096)が苦笑しながら呟く。
『貴様ら!! 無駄口を叩いている暇があったらすぐに出撃しろっ!!
少しは危機感を持て庸兵共っ!!』
そこへ先ほどの若い佐官の怒号が通信機にやかましく響き渡った。
「頭‥‥硬いですね‥‥でも基本は大事です‥‥それは間違ってません‥‥。
後は‥‥現場で揉まれて下さいね‥‥」
これがまるで分水嶺であるとばかりに力が入りっ放しの声に、ハミル・ジャウザール(
gb4773)は(無論聞こえないように)思わず苦笑した。
「軍人っつっても色々だな。いや、あのにーちゃんは滑稽過ぎて逆に可哀想だが」
『ガハハハッ!! 違いねぇ!!』
龍深城・我斬(
ga8283)は肩を竦めると、ディック准尉が思い切り吹き出す。
「まぁ、それぐらいにしてあげましょう‥‥それに、実際に見せてあげた方がいいでしょうしね」
彼らにとって‥‥いや、自分達にとっては、あの程度の敵、どうという事は無いという事を。
それを証明せんが為、周防 誠(
ga7131)のワイバーン「ゲイル2」が、まるで流星の如き速さで空を駆けて行った。
高空から接近していく、御剣隊と庸兵達のKV計60機。
彼らが接近すると同時に、凄まじい数の桃色の光が放たれ始めた。
眼下のTW、RCといった対空迎撃用のワーム達による一斉砲撃だ。
『全機、死んでも耐えろ!! この程度で落とされるなよ!!』
『――了!!』
絶え間なく爆発の衝撃が襲い、プロトン砲の熱と光が紙一重の場所を掠めて飛んでいく。
最初の弾幕を掻い潜った時には何機かが被弾し、装甲を赤熱させるが、墜ちる者は皆無だ。
続けて彼らに殺到したのは、空を守る大型・中型を中心とするHWの編隊。
しかし、それを悠長に全機で向かえ撃つ事はしない。
「奴らはこちらで引き受ける!! 君達は下を頼むぞ!!」
「うむ、このような雑魚共などさっさと片付けて見せよう。頼むぞ皆の者!!」
エリシア率いる御剣隊十数名と、藍紗が空に残り、HWへと攻撃を仕掛ける。
「空はお任せします‥‥幸運を!!」
その間に、ラナを初めとした残った者達は、次々と高度を下げて行った。
「では往こうかエリシア殿に三羽烏、HWだけでは食い足りぬ。
さっさと片して地上の部隊も食いに行くとしよう」
『だから一緒にするな(しないで下さい)!!』
藍紗の呼び掛けに一斉に突っ込む部下トリオ‥‥だが、彼女はそれを華麗にスルーすると、アハトアハトの引き鉄を引いた。
立て続けに放たれた光の矢は、先頭にいた中型のバーニアに突き刺さり、その巨体をぐらり、と大きく揺らす。
『無駄口を叩くな!! さっさと喰らい尽くすぞ!!』
部下達を叱責しながら、エリシアがG放電装置を放って追い討ちをかける。
中型のバランスの崩れが決定的となり、ふらふらとした機動で高度を下げた。
『――了解っと!!』
流石はプロと言うべきか――その瞬間部下達は飛燕の如く翻り、ディック准尉の剣翼が中型に止めを刺す。
『――ターゲット確認、排除開始』
『止めは任せます!!』
続けてエイミィ軍曹の狙撃がピンポイントで大型のプロトン砲を撃ち抜き爆散させると、ロイ曹長が上からミサイルの雨を降らせ、上部装甲を剥がしていく。
『――回避などさせぬよ。機械が冥府へ行くかは解らぬが、弾頭を抱いて逝くがいい』
酷薄な笑みを浮かべながら、藍紗は躊躇する事無く装甲の裂け目へとアハトを叩き込み、内部から大型を破裂させた。
作戦の第一段階は、フレア弾による『地ならし』の前準備‥‥囮部隊による対空砲撃及び、地上戦力の撹乱。
庸兵達の一部と、御剣隊の中でも高い実力を持つ者達が一斉に行動を開始した。
「着陸までの時間稼ぎだが、別に倒してしまってもいいんだよな?」
高度を下げる度に激しくなっていく砲撃の嵐を掻い潜りながら、セージ(
ga3997)が不敵な笑みを浮かべる。
敵陣の頭上を突っ切っていく群青色のシュテルン「リゲル」に、一斉に敵の照準と注意が向いた。
無数のプロトン砲が再び放たれるが、それは同じく強硬着陸のフリをして低空を飛ぶ龍深城のシラヌイ「剛覇」が放つラージフレアによって狙いを狂わされ、当たったとしても超伝導AECによって弾かれていく。
「AEC展開っと‥‥対知覚オンリーだが中々便利だな、これ」
いくら撃っても落ちない敵――それに躍起になったのか、更に彼らへと向ける砲口を増やすバグア軍。
「私達から目を離すとは――迂闊だな」
「僕も‥‥頑張らなくちゃ‥‥」
そこへ、リディスとハミルの機体が一気に接近し、同時に放たれた84mm8連装ロケットランチャーの弾幕が、進路上に存在していたTWやRCを次々と業火の中へと飲み込み、打ち砕いた。
その間に敵集団をフライパスしたセージは、垂直離着陸能力を発動し、その背後へと強引に着陸する。
「さぁ一緒に踊ろうぜ。死と破壊が奏でる舞踏曲を!!」
そして高らかに叫ぶと同時に、目の前に居並ぶTWやRC達に対して、建御雷を振るって装甲を砕き、スラスターライフルやプラズマライフルで次々と打ち抜いていった。
ゴーレムがさせじと飛び出すが、セージは動揺する事無くウルでその剣を受け流すと、自らの砲口を突きつける。
「届くからって絶対に遠距離攻撃しなきゃならん道理はねぇ。
銃ってのはな‥‥こう使うんだ!」
そして零距離で放たれる数百発の弾丸――ゴーレムは内臓の如くパーツを撒き散らしながら吹き飛ばされる。
無論、皆が皆無傷ではいられない――が、敵は狙い通り彼らにかまけ、上空の守りがおろそかになる。
「まずはゴミの焼却から始めようか」
「プレゼントを一発、受け取りやがれです」
「そしてついでに地ならし、と‥‥迎撃されませんように」
その間に、シーヴと周防、鳳の三機を初めとした爆撃隊は、高度を下げ、腹に抱えたフレア弾を着陸予定地点へと投下した。
――絶え間なく爆裂音が響き渡ると同時に猛烈な炎が巻き起こる。
この世の地獄が収まった後には、融け崩れた残骸と、異臭を漂わせる炭だけしか無い。
そして、それらを踏み砕きながら、残る御剣隊、そして庸兵達が次々と降り立った。
「死地は前にこそ活路がある!!」
堺の剣虎が手近なゴーレムへと駆け寄ると、建御雷を振るい、首を跳ね飛ばす。
更にそれだけでは止まらずに、堺は並み居る敵集団へと切り込んでいった。
例え倍する敵に囲まれようとも、彼の勢いは止まらない。
「悪いがエリシア少佐の前で無様は見せられないのでな!!」
――何故なら、彼はこれしきの攻撃では消えぬ炎の如き恋に燃える男であるから。
居合いの如き鋭さで抜き放たれた内蔵雪村が、TWを甲羅ごと蒸発させた。
「さあ、行くですよ――鋼龍」
彼に続き、シーヴが重々しい音を立てて着陸する。
――しかし、岩龍は変形に時間がかかる。
戦場の真ん中で立ち止まる彼女目掛けて、敵の狙いが集中した。
「させません!!」
だが、同時に降下したラナのレブ・アギュセラがフィールド・コーティングを発動させて飛来する弾幕を減衰させ、自らもスラスターライフルを放って逆に敵を弾幕の贄へと捧げる。
だが、流石の彼女も全体はカバー出来ず、今度は反対側からRCがプロトン砲を構えた。
「やら‥‥せない‥‥!!」
だが、そこにはハミルのS−01H「ナイトリィ」が割り込み、スナイパーライフルとバルカンを放ち、足止めする。
RCもただ黙ってはやられずに、体色を赤の物理防御に変え、砲弾を弾き返した。
「なら‥‥これで‥‥!!」
咄嗟にハミルは武装を荷電粒子砲に切り替え、すかさず発射する。
光の奔流が迸り、進路上にいたTWごと、赤のRCを吹き飛ばした。
「――止めです」
倒れたRCの首目掛けて、ラナはメアリオンの刃を振るい、跳ね飛ばす。
「‥‥援護感謝しやがります。後はお任せ下さい」
その間に変形を完了させたシーヴは、目の前から突進してくるタロスへと目を向ける。
敵は二刀を構えて突進し、飛び上がり様に振り下ろす。
だが、それを難なくアテナの穂先で受けると、返す刀で横殴りに叩きつけ、強引に間合いを開ける。
――そして、数合の剣戟を交わす両者。
本来のスペックを考えるならば、岩龍でタロスに勝負を挑むなど、無謀を超えて自殺行為以外の何者でも無い。
しかし忘るる無かれ――彼女の乗機は『岩』では無く、鍛え抜かれた『鋼』である事を。
「――遅すぎでやがります」
タロスの攻撃は全てアテナによって弾かれ、逆に彼女の穂先の悉くがタロスの装甲を砕いていく。
「――軽すぎでやがります」
そして、辛うじて届いた攻撃も、その全てが分厚い装甲に阻まれてその下の肉に届かない。
「止めに言うなら‥‥弱すぎでやがります」
連携を取るまでも無かった――彼女が放った渾身の刺突はタロスの胸を刺し貫き、動けなくなった所に放った白雪の一撃は、その首を頭ごと消し飛ばしていた。
「こっちも負けてはいられませんね‥‥駆けろゲイル!!」
彼女に負けじと、周防も愛機の驚異的な機動力をフルに使い、戦場を飛び回る。
ゴーレムの振るったディフェンダーを掻い潜ると同時に飛び退り、放たれたプロトン砲をかわすと、彼らの頭部、脚部、砲身を狙ってスナイパーライフルD−02の砲弾を放った。
針の穴を通すかの如き狙撃は、その全てが目を、関節を、砲身を貫く。
「この間合い‥‥貰った!!」
そして動きの止まったゴーレム目掛けて鳳が駆る黄金の隼が間合いを詰め、ストライクシールドの一撃を容赦無く腹にぶち込んだ。
「よーし、そろそろ俺らも降りられるか?」
地上の優位を見て、敵を引き付けていた龍深城を初めとした囮班達も降下を開始した。
先に下りていた仲間達と敵の間に割り込むように着陸した龍深城は、まずは手近な場所にいたRC目掛けて、手にしたG・シュラークの巨拳を叩きつける。
「悪いなっ!!」
吹き飛んだ所に、追い討ちのプラズマリボルバーが閃くと、恐竜は体のあちこちに大穴を開けて崩れ落ちた。
「む‥‥!?」
リディスもそれを追って降下しようと試みるが、その寸前に彼女目掛けてプロトン砲が放たれる。
咄嗟にイクシード・コーティングを発動させて弾く。
それは、変形して空中に飛び上がったタロスのものだった。
恐らくは、これ以上自分達を地上へと降ろす訳にはいかないと考えたのだろう。
「その考えは正しい‥‥が、相手が悪かったようだな」
リディスは不敵な笑みを浮かべると、ブーストを吹かして急接近し、強引にドッグファイトに持ち込んだ。
プロトン砲が次々と放たれ、近付けば頭の上に取り付けられたパーツが剣翼の如くプリヴィディエーニィを襲う。
「強化はされているようだが、今更無人機如きにやられる訳にもいかないのでな」
リディスは多少の被弾に構いもせず、スラスターライフルを放って逆にタロスを追い詰めて行く。
そして、ブリューナクが腹を貫き、すれ違い様の剣翼が千切れかけた胴を今度こそ泣き別れにする。
「‥‥同じタロスなら、やつが乗ったタロスのほうがはるかに強く美しかったよ」
背後で咲く爆炎の華に振り向く事無く、リディスは一言呟いた。
もう少しで皆と合流出来るという時になって、セージはRCの群れに取り囲まれていた。
「ちぃっ!!」
プロトン砲を避けた所に、牙で噛み付かれ、装甲の一部が持っていかれる。
更に、見れば離れた場所からプロトン砲を構えるRCの姿。
「――やらせはせぬぞトカゲめがっ!!」
その時、高らかに舞い降りる影――RCはすかさず上空に狙いを変え、放つ。
しかし、それは巨大な盾――ウルによって阻まれていた。
「前と同じ轍は踏まんよ!
このために、巨盾を準備・更に外殻を強化したのじゃからのおおおおっ!!」
空中で変形し、まるでサーファーのようにウルの上に乗った藍紗の鴇。
彼女は着弾の勢いでバランスを取ると、そのままの勢いでRCを巻き込みながら着地する。
盾の下で蠢くRCの首をBCアクスで跳ね飛ばし、何事も無かったかのように盾を構えた。
「どれ、相手をしてやる 死にたい奴から来るがいい‥‥尤も来なくともこちらから行くがの!!」
「‥‥やれやれとんだ無茶するお姫さんだ。こりゃ負けてられないなっ!!」
残る敵目掛けて、リゲルの建御雷と鴇のBCアクスが唸りを上げた。
程無くして空母から発進した揚陸部隊との挟み撃ちにより、敵機甲部隊は全滅。
ミツルギ准将率いる部隊は、上陸の足がかりを作る事に成功したのだった。
「‥‥信じ、られん」
余談ではあるが、若い佐官は、驚愕の表情でその戦果を見つめていたという。