●オープニング本文

　某日――クルメタル社・KV開発第９室のオフィスで、少女のキンキンと響く怒声が響き渡った。

「室長！！　ど〜〜〜〜ういう事ですか！！」

　バンバンと机を平手で打ちつけながら、広い額を輝かせた三つ編みの研究員――加賀美　命は、目の前に座る上司を鼻息も荒く睨み付ける。

「どういう事も何も‥‥今言った通りだ。
　上層部から正式に伝えられたんだよ‥‥『現時点で新型機のリリースは困難なため、開発は凍結』ってな」
「なぁ〜〜〜〜っとく出来ませんっ！！
　だってこんなに‥‥こんなに‥‥可愛いのに！！」

　命の手の下には、叩きすぎて少し皺くちゃになった企画書があった。



『ASH−01　アッシェンプッツェル

　パラディンの欠点であった突撃時及び突撃後の防御力の強化を目指した強襲・撹乱用ＫＶ。
　着脱式の分厚い装甲を装備した状態で厚い装甲に任せて敵の弾幕を強引に突破。
　そしてその場で装甲を排除し、暴れて敵陣を撹乱。
　その後に高速で離脱するという基本戦法を取る。

『重装モードは武骨でズングリしたかぼちゃのようなシルエットで、逆に高速機動モードは細身の女性型のシルエットとなっている。
　特に後者は特徴的な腰部の大型スラスターや肩アーマーの影響で優美なドレスを着ているようにも見える』←絶対にここは採用すべし！！』



‥‥細かな能力値の下の基本デザインの部分には赤線が引かれ、更に殴り書きで強調されている。

「だからなぁ‥‥これは君が今まで趣味的に設計していたモノとは訳が違うんだ。
　そりゃ装飾や象徴的なデザインはある程度必要だろう‥‥だが、それのおかげで全体の根本的な設計や性能が犠牲になっちゃ本末転倒なんだよ」

　そう言って禿頭の室長は溜息混じりの声で命を嗜めた。

「い〜〜〜〜えっ！！　ぜ〜〜〜〜ったいにこのデザインは譲れませんっ！！」

　しかし、彼女は室長の言葉など全く聞く耳持たず駄々っ子のように首を振った。
　何でも、傭兵が話していたアイデアを小耳に挟んだ瞬間、インスピレーションが湧き上がったそうなのだが‥‥。



‥‥この加賀美　命という少女、自身も能力者であり、若干二十歳でクルメタル社の一開発室の主任研究員を任されるのだから、かなり優秀な部類に入る。
　しかし、あまりに『趣味的、象徴的デザインと高性能が両立した機体の開発』に傾倒しているが故、今までメインでKV開発に携わっていないというのが現状であった。



「――それに、着脱式の装甲に関しては、現状技術的課題が多すぎる。
　基本フレームやシステムは殆ど出来上がってるのに、メインと言える着脱式装甲が出来ていないんじゃ話にならんのじゃないか？」

　そんな命の態度に激昂する事無く、尚も室長は彼女に言い聞かせるように、穏やかに問いかける。
　その話題に関しては命自身も図星だったのか、ぎくり、と身を固くした。

「うっ‥‥それは‥‥」
「まずはそこの部分を何とかしてこい。そうすりゃ上に掛け合ってみん事も無い」
「う〜〜〜〜‥‥分かりました‥‥」

　ようやく落ち着いたのか、命はがっくりとうな垂れながら第９室のオフィスから出て行った。



「基本生産ラインをパラディンのものを改良して、コストダウンを‥‥ダ〜〜〜メだわ。
　何処の工場も、既存機量産体制が主流だから、方針転換で結局予算が‥‥」

　オフィスから出た後、命は手元の資料を睨み付け、ぶつぶつ呟きながら廊下を歩いていた。
　今年、クルメタルは主力機であるシュテルン、電子戦機のウーフーをバージョンアップさせ、更にパラディンとクノスペという独自の機能を持ったKVを世に送り出した。
　それらは多くの利益を生み出したが、同時に開発費用や、工場のライン増設、技術者や整備員の育成など、莫大な出費も生み出していた。
　そして時は年末‥‥平たく言ってしまえば、今のクルメタルには予算が圧倒的に不足していたのである。

「そして着脱式装甲の理論と設計のプレゼンの時期が‥‥ぜ〜〜〜ったいに無理！！」

　加えて、課題の技術を上層部に提出する期限が迫っており、予算が確保出来るまでの時間も残されてはいなかった。

「と、なるとやっぱり欧州の他企業との提携だけど‥‥」

　あまりに離れすぎていると打ち合わせなどに時間を取られ過ぎてしまうし、いざという時の対応に遅れが出る。

「プチロフはコンセプトは合うんだけど、デザインが武骨なのよね‥‥よって却下。
‥‥と、なると英国ね」

　そして言うが早いか、手元の資料から英国王立兵器工廠のデータを引っ張り出した。
　暫く資料を凝視していた命だったが、ふととあるデータが目に留まった。



「‥‥防御重視の万能大型KV「ダムドラック」開発計画‥‥？
　リヴァイアサンのアクティブアーマーを発展させた可動式装甲に‥‥物理・非物理に対応したリアクティブアーマー‥‥それに可動式装甲を利用した非物理攻撃防御システム！？」



　その内容を読み進める内に、命の手の動きがせわしなく、激しくなっていく。

「――しかし、既存の機体とは一線を画した技術を多く積み過ぎたために、フレームの設計段階で多くの問題を抱え、開発は非常に難航‥‥こ〜〜〜〜れだわ！！」

　それは正しく天からの贈り物に匹敵する内容のもの。
　ぶわぁーっ！！　と資料を投げ捨てると、命は全速力で走り出した。



‥‥無論、後日掃除のおばちゃんからこっぴどく叱られたのは言うまでも無い。



　その数日後――英国王立兵器工廠のドックでは、整備員達が溜息を吐いていた。

「おい聞いたか？　こいつの開発‥‥殆ど凍結に近い状態らしいな」
「‥‥肝心の技術が出来上がってるのに、フレームが上がって来ないんじゃな」

　話題に上がるのは、自分たちの目の前に鎮座する、骨組みだけの大型KV「ダムドラック」についてだ。
　今までに無い技術の開発を目指していた英国工廠だったが、その先駆であるこの機体が頓挫するという事態に、彼らの士気はだだ下がりになっていた。

「だ〜〜〜〜いじょうぶ！！　心配無用よ！！」

　その時、ドックに響き渡る少女の声。

「だ、誰だ！？」
「話は聞かせて貰ったわ！！　後は私にま〜〜〜〜かせなさいっ！！」

　そこには何故かドックの二階部分で高笑いする、デコッぱちの少女‥‥加賀美　命の姿があった。
　そして、そこから飛び降りると、整備員達に向かって一つの計画書を差し出した。

「‥‥クルメタル社と英国王立兵器工廠の合同KV開発計画！？」

――フレームは出来上がっているが、技術と予算が足りないクルメタルと、技術と予算は足りているがフレームの出来上がらない英国。
　一見荒唐無稽に見えるこの計画だったが、上層部の利害は完全に一致していたのである。

「ダムドラック‥‥『湖上の貴婦人』ね‥‥い〜〜〜〜い名前じゃないの。
　私があなたをシンデレラに生まれ変わらせてあげるわ‥‥とびっきりの魔法をかけてね！！」

　呆気に取られる整備員達を前にして、命は高らかに笑った。

●参加者一覧

●リプレイ本文

「傭兵の皆！！　よ〜〜く来てくれたわね！！
　私がこのアッシェンプッツェル開発担当にして、クルメタルKV開発局第9室主任研究員、加賀美・命よ！！」

　広い額を輝かせながら少々喧しく自己紹介した命は、会議室に集まった七人の傭兵達を見回した。

「シュテルンＧを愛機としている身としては、クルメタル社の新型機体の開発の一端に関われるのは光栄ですわね。
　微力ながら、わたしなりの意見を述べさせて貰いまして、良い機体になるお手伝いとさせて頂きますわね」
「あ‥‥こりゃどうもご丁寧に」

　その中の一人、クラリッサ・メディスン（ga0853）は丁寧に深々と頭を下げる。
　それは思わず命も頭を下げる程に美しかった。

「なんというか‥‥長ったらしい名前だな‥‥略名は「AP」と言った所か？」
「む！？　シンデレラの原典であるアッシェンプッツェル（灰被り）の名前に何か文句ある訳！？」

　漸　王零（ga2930）が呟いた言葉に、命がむっとした表情で噛み付く。
　その勢いに、「いや‥‥文句がある訳でも無いのだが‥‥」と思わずたじろぐ王零。
――そんな命をまぁまぁと嗜めるのは、セリアフィーナ（gc3083）だ。

「兎も角、このAPを完成させて、舞踏会に送り届けられるよう、頑張りましょう」
「ん！！　そうね！！　じゃ〜〜あ早速始めましょうか！！」

　セリアの言葉に、命はうんうんと頷き、会議室の照明を落とし、モニターのスイッチを入れた。



「それにしてもこの機体は、クルメタル社にしては久しぶりに高級機という形になるのかな？」

　最初期からシュテルンを愛用しているカルマ・シュタット（ga6302）が期待の眼差しをモニターに向ける。

「あ、ご〜〜めん言い忘れてたわ。
――まず、誤解の無いように言っておくけど、このアッシェンプッツェルは私達クルメタルから発売される訳じゃないわ。
　あくまで、発売元は英国王立兵器工廠になるの」

　だが、命は開口一番彼を含めた皆に向かって告げる。

「む？　てっきり俺はクルメタルから出るものだと思っていたのだが？」

　命の言葉に、首を傾げて問いかえす

「確かにこの話を持ち込んで、APの設計とコンセプトを組み立てたのはウチだけど、フレームやメインとなる防御機構の基本技術、果ては予算まで英国が提供してるのよ。
　それに元々、向こうはいち早く新機体を出したかった訳だし‥‥悔しいけど、そればっかりは向こうの言う通りにしなくちゃいけないワケ」

「まぁ、それでもウチが開発のメインを張る事に変わりは無いけどね」、と補足を入れてから、続けてモニターを操作する命。
　そこには、リヴァイアサンのように大型でありながら、まるでアンジェリカのように女性的なシルエットを持つKVの姿が映し出されていた。
　ドレスのように広がったスカート型の装甲と、あちこちに施された美しい装飾が印象的だ。
　同時に、柄を覆い隠すような装甲を持つ護拳部が特徴のランスは雄々しさを感じさせ、まるでジャンヌ・ダルクや伝説上のヴァルキリーを連想させる。
　そしてその横には、この機体のコンセプトや運用方法、特殊能力や固定武装の説明が載っており、それについて逐一命が注釈を入れていった。

　一連の説明が終わると、リディス（ga0022）と刃金　仁（ga3052）がほう、と感嘆の声を上げた。

「中々面白そうなKVですね。既に基本骨格も出来上がっているようですし」
「面白そうな物が見られると聞いてきたが‥‥確かに面白いな」

　見れば、他の傭兵達も、一様に期待の眼差しでモニターを見つめている。

「そ〜〜れじゃ今回のメイン、意見交換会の開幕と行きましょうか？」

　掴みは上々――満足げな笑みを浮かべると、命は皆に向かってにかっ、と笑った。



　まず開口一番に質問したのは刃金だった。

「まず、この機体はどういった客層を狙っておるのじゃ？
　後は――価格の問題じゃな」
「地上戦における集団戦をメインに行っている軍の精鋭部隊や、傭兵達ね。
　価格帯も、リヴァイアサンの生産ラインや、技術を流用する事でコストをカット――このクラスにしては抑え目にする事に成功してるわ。
　それと、この意見具申会の直前に、固定武装の機盾槍のコストを大分抑えられそうだって技術部から報告を受けたから、まだまだ下がる可能性があるでしょうね」

――そして、企画書にあった価格をその場で修正し、300万C後半から、300万C半ば程に直す。
　刃金の質問に澱みなく、それでいて堂々と答えるその姿は、皆に期待を抱かせるのに十分だ。
　傭兵達は、続けて質問や意見をぶつけていった。



　やはりまず傭兵達が関心を示したのは、この機体のスペックについてだ。

「じゃあ、早速見せて欲しいんだけど？」
「も〜〜ちのロンよ！！　‥‥ポチっとな」

　アーク・ウイング（gb4432）の言葉に死語で応えると、命は詳細なスペックを表示する――そこには、高水準でフラットな能力値が並んでいる。
　極端に突出した数値こそ無いが、その殆どが中堅機の高レベルクラスの数値を維持していた。
　特に、大型KVでありながら回避力は高機動型機体に匹敵する程。
　更にカルマが希望する練力量と装備重量はクリアしており、クラリッサや王零、セリアが気にしていた兵装のスロット数も、パラディンに比べれば倍に増えている。
　移動力も、シュテルン並の水準に達しているようだ。


――単純なカタログスペックだけを見ても、かなりの高性能と言えるだろう。


「装甲の薄さが懸念材料ではありましたが‥‥それなりに高いようですね」

　リディスの言葉通り、対物理・非物理の防御力は、確かに他の数値よりは若干下がるが、それでも他のKVと比べれば、それなりに高い数値が確保されていた。

「フレームはリヴァイアサンの物を使ってるしね。
　ちょ〜〜っとやそっとでは落ちないわよ！！」

　そう言って胸を張る命――無いが――実際、装甲を抜かした機体自体の耐久力は、現行のKVの中ではゼカリアに告ぐ数値だ。

「うーん‥‥だけど、パンプチャリオッツ（PC）での突撃がメインなら、回避より防御力の重突撃機の方が良くないですか？」

　しかし、そこでセリアがスペックについて異議を唱えた。
　現状のAPの数値は、どちらかと言うと回避を重視した高機動型に寄ったスペックとなっているのだ。


――如何に特殊能力が優れているとは言っても、確実にダメージを０に出来ない以上、突撃中に倒れてしまっては元も子も無い。


「それに、身の軽いお姫様よりは身持ちの堅いお姫様の方がそれらしいですし」
「む‥‥まぁ、確かにそこの所は自分も納得は行って無いんだけどね〜〜。
　ただ、重装甲にすると、重量のバランスとかが難しくなって、移動力とか回避力とかが落ちちゃうのよ‥‥何せ、見かけは可憐でも図体はリヴァイアサン並な訳だしね」

　セリアの言葉に、命は難しい表情を浮かべた。
　命としては、防御は比較的アクセサリや武装で補えるため、ある程度減らしても問題ないと考えていた。
　そのためこのようなセッティングにした訳だが、セリアの発言も事実のため、強く反論はしない。

「なら、胸の装甲厚くしてみるとかどうかな？　そうすれば回避力を下げずに防御を上げられるんじゃないかな？」

　そこに、突然アークが手を上げて提案してくる。

‥‥この提案、本人曰く「女性型ということは、おっぱいが重要だね、おっぱいが」という謎の発想から出た突拍子も無い意見であった。
　あったのだが――命はそれを聞いて顎に手を当ててブツブツと呟き始める。

「――胸の装甲『だけ』‥‥そうか‥‥全体の装甲では無く、例えば機体の一部の装甲を上げていけばバランスを崩さないで済むかも‥‥ん、行けるかも！！」

　暫く考え込んでいた命だったが、一つの結論に至ったのか、端末を操作し、課題案件に『機体装甲の一部集中によるバランスの確保』という一文を追加した。

「――な〜〜かなか面白い意見、ありがとね。
　何とかギリギリまで、何処まで装甲を増加しつつバランスを保持出来るか試してみるわ」
「あ‥‥うん」

　アークとしては、まさかここまでマトモに返されるとは思っていなかったので、少し曖昧に返事をしたのだった。



　次に傭兵達が興味を示したのは、この機体の最大の特徴であるツヴェルフウァロイテン（TR）と、エネルギーパリング（EP）についてだった。

「『エネルギーパリング』は面白い技術だね。
　いままでどうしようもなかった知覚攻撃を受けることができるんだから」

　興味津々な様子で、王零が口を開く。

「しかし‥‥「特殊フィールド」を発生させてってことは武装とかではなくその特殊フィールドで受けるってことなのか？
　そうなると‥‥「ツヴェルフウァロイテン」とかぶってくる面があるな」

　そして思考の途中で新たな疑問を抱いたのか、矢継ぎ早に質問していく。

「ああ‥‥そうだ。この２つは両方ともフィールド障壁のような物だと思うんだが同時展開可能なのか？
　２つ同時に使ったらフィールド同士のフィールド干渉が起きて維持できないとかおきないのか？」
「ふ〜〜む、これはこっちの説明不足だったわね」

　その質問に、命は端末を操作し、モニターをヴィヴィアンとEPの原理を説明した画像に切り替えた。

「EPのフィールドが発生するのはここ‥‥主にこの護拳部になるわ。
　その装甲にエネルギーを流し込む事で、その表面に一時的なコーティングを加えるの」

　命が続けて端末を操作すると、今度はTRについての画像に変わる。

「一方、TRの基本的な構造は既存のリアクティブアーマーとほぼ同じよ。
　着弾した瞬間に炸薬を炸裂させてそのショックを相殺――そして同時にスカート式のジェネレーターから特殊な触媒を散布して、光線などの非物理攻撃を減衰させる擬似的なフィールドを発生させるの。
――まぁ、要点だけ言っちゃえばこの両者の原理は根本から違うから、両者が干渉し合って使えないとか、効果が弱まるとかそういう事は起きないわ」

「ふむ、成程‥‥参考になったよ」

　命の説明を聞いた王零は、ふむ、と頷いて再び席に着いた。
　続けて、カルマと刃金の二人が手を上げる。

「そういえば、一応スペック上の性能は希望に叶っていたんだが、PCやこのTR・EPは練力をどれだけ消費するんだ？」

　彼らが見るに、これらの能力全てに練力が必要になった時、あっという間に消費し尽してしまうのでは無いかと感じていた。

「目的が強襲・撹乱のみなら消費が高くても構わんのじゃろうがのう」

　だが、敵陣のど真ん中で動けなくなっては本末転倒だ。
　そういう意味では、二人の懸念は当然と言えよう。

「あ〜〜んしんして！！　TRとEPに関しては、一切エネルギーを消費するような事は無いわ」

　そして再びモニターを指し示すと、指示棒を取り出して説明を始める命。

「TRの際に防御力を発揮するのは、あくまでリアクティブアーマーと、特殊フィールド散布のためのジェネレーターなの。
　どちらも使い捨て式になってるから、機体自体の燃料とは直結はしてないわ。
　そしてEPに関しては、大型エンジンが生み出す余剰電力を溜めて、それを流し込む事で発動されるのよ。
　つまり、APが練力を消費するのは、PCとブーストしか無いって事ね」

　ただし、PCの突撃に関しては、訳１．４倍の威力の上昇に成功したものの、練力消費に関しては増大してしまい、無改造の状態で使用した場合、一気に半分を消費してしまう。
　それに加えて、機盾槍がエネルギーを少々圧迫してしまう事を加味すると、PCとブーストはそれぞれ一回ずつしか使えない計算になる。

「ともかく、この点に関しては最後まで突き詰めていくつもりよ」

　そう言って、命はこの話題を締め括った。



「では次の質問ですが‥‥ヴィヴィアンについてです。
　どうせ重いんでしたら、攻撃力に特化させるか、KVの搭載重量的な余裕が欲しい所ですね」

　リディスが切り出した次の話題――それは、固定武装である機盾槍「ヴィヴィアン」の純粋な性能についてだ。
　パラディンが持つ機槍「ゲルヒルデ」は武装としては非常に使い辛く、第一線で戦うには、他にメインの武装を用意する必要があった。
　スロットに関しては既にクリアしているが‥‥それでも、常に持っていなければならない武装のため、傭兵達の懸念は変わらない。

「勿論、ゲルヒルデをそのまま持ってきた訳じゃないわ！！」

　モニターが今度はヴィヴィアンに関する資料に変わる。
　そこに映し出されるスペック――機体に合わせて長くなり、バランスが良くなった事で、取り回しの悪さから来る命中率の減少は解消され、むしろ上昇していた。
　他にも、護拳部の装甲により、対物理・非物理に対応した防御力も保持している。

「取り回し辛いと聞いていましたけど、『戦闘には』それなりに使えそうですね」
「うーん‥‥けど、相当重くなっちゃってるよね‥‥」

　アークの呟きの通り、その重量は元々重かったゲルヒルデの約1．3倍に膨らんでおり、「そういう意味」での取り回しの悪さが目立つ。
　そして威力の上昇に関しても、その幅は僅かだ。

「発想の転換を図るなら、思い切って【ヴィヴィアン】を機盾槍でなく、機盾としてのみ用いるのも良いかもしれませんわね。
‥‥近接戦闘で槍でなく、刀や斧を使うのになれた方々も居る事ですしね」
「ん〜〜‥‥けど、私としてはやっぱり『槍』にしたいのよね〜〜」

　クラリッサが思い切った提案をしてくるが、命は納得しかねる、といった表情で渋る。
　そこに、刃金が口を開いた。

「勿論、我輩らも機盾槍がこの機体の肝だというのは分かっとる」

　だがな――と、厳しい表情で命に向かって言い放つ。

「形態と機能は不可分じゃ、表裏一体じゃ、どちらが悪くても良い物は出来ん。
　現状ではどうみても形態が先行し機能が追いついておらん」
「むぐぐ‥‥」

　有無を言わさぬ言葉に、命はぐっ、と喉を詰まらせた。
　そこへ、更に刃金は切り込んでいく。

「‥‥このままでも売れるだろうが、客は満足せんぞ。この形態で無いと駄目だと言う機能を徹底的に盛り込め」
「う〜〜〜〜‥‥し、室長と同じ事言われた‥‥」

　ぐぬぬ、と歯を食い縛りながら、命が瞳に涙を湛える。
　それをセリアがまぁまぁ、と嗜めた。

「む‥‥済まん。技術の事となると年甲斐も無く、な‥‥」

　頭が冷えたのか、刃金は素直に頭を下げた

「しかし、話を聞くに‥‥よく出来た室長様ですね‥‥」
「そ、そうなんだけどさ〜〜‥‥せ、正論って時に暴言よりもきついのよ‥‥」

　えぐえぐと泣く命の頭を、セリアは笑顔で撫で続けた。
‥‥どっちが年上なのか分からない光景である。



　その後は王零やセリアから、APの推奨装備として装甲型スラスターやKVマントなどのアイデア等が出され、今回の意見具申会は終了となった。


「み〜〜てなさいよ！！　ぜ〜〜ったいにカッコ良くて強いKVを作って見せるんだから！！」

　その帰路――命は元気良く声を張り上げたのだった。