タイトル:【侍】バルセロナ攻略Bマスター:ドク
シナリオ形態: イベント |
難易度: 不明 |
参加人数: 41 人 |
サポート人数: 0 人 |
リプレイ完成日時: 2010/10/29 00:16 |
●オープニング本文
――バルセロナにシバリメが現れてから、戦況は一変した。
彼女が放つ大小様々なキメラたち、そして彼女に付き従うバグア兵達はその全てが今までの敵とは桁違いの強さを誇り、UPCは数ヶ月をかけて狭めてきた包囲網を緩めざるを得なかった。
更に屈辱的だったのは、シバリメは初めて人類の前に姿を現した時の言葉通り、『戯れ』程度にしか戦っていない事。
しかし、彼女の紫のフォウン・バウの猛威は凄まじく、数多の兵器の残骸と人の骸の山が築き上げられた。
更にサイラスの脅威と、シバリメの蜘蛛キメラによる奇襲を警戒し、前線の兵士達は次第に消耗していく。
だからこそ、UPCは焦りを募らせていた。
――そして三ヶ月が経った時‥‥UPCにとって、今千載一隅の機会が巡って来たのだった。
「――現状を説明する。
現在、シバリメは南米へと参戦が予想されているため、バルセロナにいない。
‥‥これは好機である」
三ヶ月ぶりに作戦司令部に集められた傭兵達を前にして、新たに着任した司令官はそう宣言した。
UPCにとっては、彼らは重要な戦力であるが、少数精鋭であるが為、ここ一番という時にしか召集は出来ない。
だからこそ、泥沼の膠着状態が続く状態で参戦させ、徒に消耗させる訳にはいかない。
――だが、今日彼らは呼ばれた。
それは、再び大きな作戦が開始される事を意味していた。
「シバリメがいない今、あの忌まわしきフォウン・バウの脅威は無い。
‥‥しかし、大規模作戦も大詰めを迎えている以上、その状態は長くは続かないだろう。
だから、我々は奴のいない間に、全てを賭けて攻勢に出る事を決定した」
そしてモニターを指し示す司令官。
――それは、バルセロナ周辺に駐屯するUPC軍の全戦力を使った大規模二面作戦の概要であった。
まず、バルセロナ要塞の直衛を行うタロスとシバリメ製巨大蜘蛛キメラを殲滅すると共に、敵の注意をこちらに引き付ける。
そして、その間に別働隊が以前発見された発進ゲートを確保し、そこから内部へと突入――要塞のエネルギーを支える反応炉への電撃作戦を敢行する。
「――君達が担当するのは、本隊が陽動している間に以前の作戦で発見された発進ゲートの入り口を確保し、反応炉破壊及び破壊活動を行う突入部隊だ」
司令官がモニターの映像を切り替えると、そこにはオペレーション・シールドブレイクの事前偵察で、傭兵達が撮影した映像であった。
「‥‥生憎、戦力を内部へと投入する前に奴らによって奪還されてしまったが、ある程度の調査は完了している」
大まかな構造としては、バルセロナまで伸びる十数km程の地下通路から、各地の発進ゲートへの通路が無数に枝分かれしている。
所々にクランクなどが存在するものの、地下通路の本道はKVの戦闘機形態で飛べる程に広大であり、突入の際はこの構造を最大限に利用するのだ。
「我々UPC軍がゲートの隔壁を爆破次第、君達傭兵隊が突入。
――敵の防衛戦力を撃破しつつ飛行形態にて一気にバルセロナ要塞地下を目指し、反応炉を破壊する‥‥概要はこれだけだ」
内容は至ってシンプル‥‥しかし、その困難さは尋常では無い。
敵地の、しかも密閉空間での電撃作戦――足を止めたならば、おそらくは倍する程の数の敵に囲まれる事だろう。
しかも、肝心の防衛戦力に関しては全くの未知数‥‥つまり、いざ蓋を開けて見なければ何も分からないという事なのだ。
――あまりにも無茶な作戦だ。
しかし、この無茶を通さなければ、バルセロナを奪還する機会はこの先、いつ、何度あるかも分からないのだ。
そして、長期戦を行える体力は、この場所に駐留する兵士達には‥‥無い。
作戦説明が終わり、司令官は沈痛な面持ちでその場にいる者達を見渡す。
「‥‥このように、要塞を攻略するには多くの困難と障害が存在する。
一体何人が生きて帰ってこられるかどうかすらも分からない、危険な任務だ。
――だが、これを成さねば欧州の地図を白く染める事など不可能だ!!」
そして、司令官は最後に静かに宣言した。
「――全傭兵及び、全将兵に告げる‥‥」
‥‥君達の命を、私にくれ。
――その頃、サイラスはとうとう一人となった直属の部下と対面していた。
「‥‥暇が欲しい、だと?」
「はい――あなたに仕えて数百年‥‥我が友も死んだ今、そろそろ潮時と思いまして」
跪く部下の言葉に、一瞬だけ眉を跳ね上げたサイラスだったが、すぐに平静を取り戻して逆に問う。
「何故、このタイミングでそれを言うのだ?」
既にUPCによる猛攻が続いている今、本来ならば彼は真っ先に出撃すべき立場である。
「――サイラス様。あなたは、この戦を最期の戦いとするおつもり‥‥違いますか?」
「良く分かったな」
「伊達に長年あなたの下にはいませんよ」
そう言って笑いあう二人。
その様子は、部下と上司という立場を越えた、親友のような笑みであった。
「‥‥ならば、有象無象の兵として死ぬのでは無く、私もあなたと共にこの要塞の最期を飾る徒花となりたいのです」
――それは、部下としては過ぎたる望み。
だからこそ、部下という立場からの暇を告げたのである。
――そこに告げられる、発進ゲートの入り口が占拠されたという知らせ。
地下には、この要塞の反応炉がある――サイラスは、一瞬で人間達の狙いを悟った。
「‥‥我がタロスを与えよう。反応炉の防衛を任せる」
「――有り難き幸せ」
そして一礼し、部下‥‥いや、『戦友』は立ち去っていく。
「‥‥感謝している」
サイラスの呟きは、誰もいなくなった部屋の中へと溶けていった。
格納庫へ向かった男は黒いタロスへと乗り込むと、一つの能力を発動させる。
――男の体がタロスのコクピットと融合していく。
タロスのモニターはまるで巨大な生物のような有機的な輝きを帯び、関節の合間を奇妙な肉塊が埋め始める。
そして全てが終わった時‥‥男は『タロスそのもの』となっていた。
『来るがいい人間共‥‥この「ツヴァイ」楽な相手と思うなよ‥‥!!』
タロスとなった男は高らかに名乗る
サイラスの部下の『二番機』‥‥それが自らの存在意義が故に。
●リプレイ本文
激しい爆発と共に隔壁に開けられた大穴は、KVが優に二、三機並んで通れるほどに広がった。
「‥‥我らが先導する。汝らは後に続いてくれ」
「欧州の地図を塗り替える重要な作戦です。皆さん、決して臆せず参りましょう」
それを確認すると、突入部隊の傭兵達は、アルヴァイムのディスタン「字」と月神陽子のバイパー「夜叉姫」を先頭に次々と突入していく。
――巨大な筒状の通路の中に入った瞬間、激しいノイズが通信機から起こるが、すぐにそれを打ち消すかのようなクリアな声が響き渡る。
「通信は大丈夫です、そのための私とこの子ですから」
バーシャのワイズマン「トラフィックス」のハイコミュニケーターの恩恵だ。
「こちら狭霧、各部隊のコンディションを随時お伝えします
そして狭霧 雷のウーフーが、各機の状態を全員に逐一知らせて行く。
『安心しろ、お前らが返ってくるまでは、何が何でも守ってやる』
『後は頼んだぜ! あんたらが帰ってくるまで、敵は一機たりとも通さねぇからよ!!』
彼らの機体を通じて、ゲート防衛を担うクライブ=ハーグマンや巳沢 涼達からの激励が伝えられる。
「さあ、地獄一丁目へ完全武装で遠足だ‥‥」
「おうっ!! さっていよいよ大詰めだ‥‥気合入れていくぜ!!」
それを聞き、堺・清四郎が体に溜めた滾る思いを漏らすように呟き、砕牙が盛大に気炎を吐いて応えた。
「この辺りは、サイラスが指揮してるらしいがさてさて‥‥」
その声に呼応しつつ、キョーコ・クルックはアンジェリカ「修羅皇」のコクピットでこの要塞を指揮する男の事を思考に巡らせていた。
「『彼』の元に辿りつく為に‥‥まずは、目の前の事に全力を尽くしましょう」
「‥‥だな。こんな所で躓いていては、奴の前に立つ資格すら無い」
キョーコの呟きに、結城 悠璃とアンジェリナ・ルヴァンが応える。
――サイラスとの深い因縁を持つ者達は、この作戦に並々ならぬ決意を以て臨んでいた。
(‥‥なんだろうな? 確かに決着を望んで、今この瞬間、俺は昂ってる。
――なのに‥‥心の片隅に、終わりを拒む何かが居座ってる)
しかし、宗太郎=シルエイトは、未だに自らの葛藤と戦っていた。
「けどな‥‥今更止まる気はねぇ。今はただ、進むのみだ!!」
それはまだ分からない‥‥分からないが、今立ち止まっていては決着はつけられない。
宗太郎は覚悟を決めると、愛機のスカイスクレイパー「ストライダー」のアクセルを、空を飛ぶ仲間達に負けじと一杯に踏み込んだ。
「さて、突入班が戻って来るまでの間、ここを明け渡すわけにはいかないな」
「シスターズの名にかけてこのゲートより先は一歩も通さないのであります!!」
突入部隊が全て進入した事を確認すると、神棟星嵐のパラディン「ズィルバーンリッター」が機槍「ゲルヒルデ」を構え、美空は姉妹である美紅・ラング、美空・緑一色らと共に、一斉に武器を取る。
ゲートの爆発を察知したのか、傭兵達の周囲には無数のバグア軍によって包囲されていた。
この場所を抜けられてしまえば、挟み撃ちされた突入部隊の全滅は免れないだろう。
――だからこそ、決してここを通す訳にはいかない。
「敵さん大集合だ、気合入れてお出迎えしようか」
紫藤 文のウーフーが即席の情報網を構築し、各機のコンディションを伝えてくれる。
コンディションは全員が言うまでも無く良好‥‥万全の態勢だ。
「‥‥突入部隊のその背を、ゲートを護るのが俺達の役目‥‥ならそれに全力を尽くすまでだ‥‥」
イレイズ・バークライドの竜牙「ドライグ」が、センチネルを構えながら大地を高らかに踏みしめる。
それに呼応するかのように、地響きを立ててバグア軍が殺到し始めた。
「さて、このドライグの背、無傷で越えられると思うなよ!!」
それに負けじと高らかに叫ぶイレイズ。
バグア軍の黒い津波を押し戻さんと、ゲート防衛班の決死の攻防が幕を開けた。
傭兵達は壊れたゲートの隔壁を盾に即席の陣地を敷き、そこを基点に戦闘を開始した。
「‥‥まずは数減らしといきましょうか。巻き込まれないように注意してね‥‥」
爆発によって捲れた巨大な隔壁の上に陣取りながら、紅 アリカのシュテルン「ブラックナイト」が、前方で両者が接敵する間にアハトアハトを放ち、敵の体力を削っていく。
「死にたいバグアからかかってこいなのであります!!」
「見よ、シスターズのシスターズによるシスターズのための攻防一体の技を‥‥」
そして突出していた敵に、美空らシスターズの連携が襲い掛かった。
美空の破暁の真ルシファーズフィストの鉄球が振り回され、重々しい音を立ててタロスを吹き飛ばし、装甲の破片が飛び散る。
その背後からゴーレムが迫るが、咄嗟に緑一色のパラディンが割り込み、ファングシールドで剣を防がれ、逆にゲルヒルデで串刺しにされた。
『座標1126、ラング軍曹、クライブ殿、砲撃よろしくなのであります」
「了解である。どんだけ数を頼み押し寄せようとも、害虫はただ駆除するだけなのである」
「前方指定エリア内、クリアにする、攻撃同調、うち方始め!」
彼女達を狙う敵がある程度集まった所で、美紅のスピリットゴースト「イングロリアスバスター?」と、クライブのリッジウェイによる砲撃が襲い掛かった。
M−181大型榴弾砲、200mm4連キャノン砲、220mm6連装ロケットランチャー、バルカン、スナイパーライフル、ショルダーキャノン‥‥惜しげも無く放たれた砲弾はバグア軍の前衛へと降り注ぎ、スクラップへと変える。
「おおおおおおおおおっ!!」
「‥‥これ以上は行かせないわ。ここで落ちなさい‥‥!」
そして辛うじて生き残っていた者達も、ドライグのセンチネルに貫かれ、アリカの放つスラスターライフルとアハトで狙撃され、次々と殲滅されていった。
――その攻撃によって一時的に発生する緩衝地域‥‥そこへ、抜刀した他の傭兵達が突撃していく。
まず一番槍は、カルマ・シュタットとその愛機のシュテルン「ウシンディ」。
「実戦投入は初めてだな‥‥思う存分振るうぞ」
その手に握るは、天を衝くが如くそびえ立つ巨大剣「シヴァ」。
この剣の形をした、KVより遥かに巨大な冗談のような物体を満足に振るえる傭兵は、恐らく十指にも満たぬだろう。
カルマは歯を食い縛り、シヴァを振り上げる――それだけで大気が震え、風が巻き起こった。
「‥‥ッォォォォオオオオオオオオッ!!」
鍛えに鍛えぬいたウシンディの機体も、流石にミシミシとあちこちを軋ませる‥‥が、カルマを長く支えてきた最高の相棒は、見事に最後のモーションまでそれを成し遂げた。
――鼓膜が破れるのでは無いかという途轍もない轟音と、KVすらも転倒させかねないほどの衝撃。
シヴァが振り下ろされたその後には、ただ捲れあがった地盤と、その周囲で判別もつかなくなるほどに飛び散ったバグア軍の残骸だけが残っていた。
その光景は、バグアには躊躇を、傭兵達には勇気を与える。
「さぁ行きましょうジョシュ‥‥♪ 援護お願いします!」
「陽一君、よほど暴れたかったんですねぇ‥‥。ま、お付き合いしますよ」
フェニックス「龍宮」で敵陣へと突っ込む龍乃 陽一に、ジョシュア・キルストンが肩を竦めつつ応える。
そして彼を援護せんと、ミカガミ「ジャッカル」のガトリングが唸りを上げた。
絶え間なく放たれる弾幕は先頭を走っていた小型キメラを消し飛ばすように薙ぎ払いながら、ゴーレム目掛けて叩き込まれる。
更に龍乃のファランクス・ソウルの雨が降り注ぐ――威力こそ低いが、あまりの弾幕の圧力にゴーレムは動く事が出来ない。
「はあああああああっ!!」
その隙に一気に踏み込むと、機鎌「サロメ」でゴーレムの首を跳ね飛ばし、その勢いのまま周囲に群がる小型キメラを地面ごと刈り取った。
――しかし、すぐにキメラ、タートルワームやレックスキャノンなど、倒した敵に倍する数の敵が現れる。
「お二人とも、あまり離れすぎないで下さいね? この状況での孤立が最も危険ですから‥‥」
しかし、そこへ星月 歩による高分子レーザーとショルダーレーザーによる攻撃が放たれ、タートルワームの体に突き刺さる。
咄嗟にレックスキャノンが飛び退るが、その前に那月・ケイのパラディン「アイアス−S」のヒートディフェンダーとゲルヒルデがその胴を刈り取っていた。
「全員で生きて帰る‥‥その為に絶対に生き残る‥‥!!」
「まだ始まったばかりなんだし、倒れるにゃまだ早いぜ!?」
そしてキメラ達は巳沢のゼカリアの7.65mm多連装機関砲の弾幕を受けて、ブチブチと音を立てて破裂して行く。
「‥‥と、言う訳です。突っ込みすぎはアレですが、ある程度なら僕達がサポートしますよ?
「ありがとう、ジョシュ、ケイ、涼‥‥行きます!!」
仲間達に微笑むと、彼らの支援を受けながら龍乃は更に雄々しく敵へと飛び掛っていった。
「各機へ、八時方向に敵大群!! 一斉射撃のタイミングは‥‥とっ!?」
防衛班をナビゲートする紫藤のウーフーだったが、バグア軍にとって管制を兼ねた電子戦機は目の上の瘤だ。
無論、数多くの敵が彼を狙って攻めかかる。
しかし、そんな彼を守る者がいた――グローム「レゾンデートル」を操る、リズレット・ベイヤールだ。
「紫藤様は我々の目なのです‥‥落とされるわけには行きません‥‥」
迫るキメラにはガトリングで応え、砲撃するRCやTWに対しては、逆にスナイパーライフルで狙撃していく。
彼女の奮戦もあり、防衛班は情報網を乱される事無く戦い続ける事が出来たと言えるだろう。
空でも、また戦いは始まっていた。
「ドラゴン2より各機。敵の大規模編隊が接近中っす」
フェニックスに乗る三枝 雄二が、先輩である伊藤 毅と、僚機のジェームス・ハーグマンへと呼びかける。
『ドラゴン3より2、1、後方は任せてください、お二人は、自分のやることを」
「了解、後ろは任せる‥‥エネミータリホー、ドラゴン2、付いて来い」
「了解! おそらくゲートの奪還部隊‥‥突入部隊が戻ってくるまで守り切れば俺らの勝ちっす!」
三機のフェニックスの編隊は前方へと進路を取ると、巧みな連携で近い位置にいたHWの編隊を崩し、各個撃破せんと試みる。
「ドラゴン1、FOX2」
伊藤が進路上にミサイルを撒き散らし、敵がそれを避けた所に、本命の螺旋弾頭を叩き込む。
そこへ三枝がAAMを叩き込み、HWを火達磨へと変えた。
「ドラゴン2、FOX2! ‥‥スプラッシュッ!! イヤッホゥッ!!」
その手応えに歓声を上げる三枝――後方を見れば、ジェームスもまた一機を屠っている。
『FOX2!! FOX2!! やっと1機‥‥先は長いぞ‥‥」
――だが、視線の先にはこちらへ向けて高度を取る新たな編隊が複数。
ジェームスは気を引き締めるかのように操縦桿を握り締めた。
一方その頃、突入部隊の面々は月神の夜叉姫、アルヴァイムの字、そしてUNKNOWNのK−111‥‥その名も『UNKNOWN』を先頭に、要塞への地下通路をひた走っていた。
進路上の通路には、レックスキャノンやタートルワームが砲を連ね、奥からはHWやタロスが傭兵達を叩き落さんと迫る。
そして足元には無数のキメラ達‥‥彼らはマグナムキャットなどの一部を除いて空中には手が出せないが、仲間達が打ち落とした「おこぼれ」に預かろうと、ジョワジョワと音を立てて蠢いていた。
そして、通路の要所要所には、通路一杯にフェザー砲が設置され、全周囲から傭兵達を狙い打つ。
――そんな障害の数々を、傭兵達は突破を重視し、最低限を打ち砕きながら進んで行く。
無論、先頭の三人には猛烈な数の攻撃が降り注ぐ。
「ん〜、中々のジェットコースターだ、な」
「‥‥だが、若干喧しいのが難点だ」
「まぁでも、退屈はしませんわね」
‥‥が、彼らの顔は至って涼しげそのものだ。
打ち込まれる攻撃を、ひたすら全てかわし、弾き、打ち落として行く。
まるで冗談のような光景だが、全傭兵中でもトップクラスの強靭な装甲と性能を持つ三機のKVと、同じくトップクラスの実力と経験を持つ彼らだからこそ可能な芸当と言えた。
「‥‥ですがいい加減目障りです――消えなさい!!」
月神が前方で後退しながらこちらを狙い打つタロス目掛けてエニセイを放つ。
彼女にとっては牽制と言える攻撃だったが、その火力はタロスの装甲を打ち砕き、体勢を崩すのに十分な威力だ。
そしてすれ違い様の剣翼――タロスは一瞬にして真っ二つにされる、
「――邪魔だ‥‥!!」
そしてアルヴァイムも、スラスターライフルや十式バルカン、スナイパーライフルなどを用い、前方に群がる敵を狙い撃つ。
月神ほど派手さは無いが、堅実に、確実に敵にダメージを与えて行く。
「‥‥撃ち漏らしは頼むぞ」
「了解――くっくっくっ‥‥火事場泥棒と蔑むが良いさね」
バランスを崩し、後方へと流れて行く敵に、アルヴァイムの後方に位置していた錦織・長郎のバイパーがスラスターライフルで止めを刺した。
何とか編隊を組みなおして抵抗を試みる者達もいたが、そこに狙いを定めてミリハナクの竜牙「ぎゃおちゃん」がK−02の弾幕を放った。
「この雰囲気‥‥ふふふ、楽しい楽しい戦争ですわ♪」
ゴーレムやタロス達が織り成す爆炎の華を見ながら、うっとりとした笑みを浮かべるミリハナク。
しかし、その時突如傭兵達の周囲の壁や天井、床がスライドし、無数のフェザー砲が姿を現す。
桃色の光条が全方位から次々と降り注ぎ、傭兵達のKVの装甲が削られ、熱によって杏色に染まった。
「ちっ、とんだ障害物競走だな‥‥これは!」
鹿島 綾がディアブロ「モーニング・スパロー」を襲う衝撃に呻きながらも、エニセイを放って進路上に存在する砲塔を可能な限り撃ち砕いていく。
だが、フェザー砲の嵐を抜けると、すぐさま通路のあちこちから駆動音が響き渡ると、かなりのスピードで隔壁が降り始めた。
「‥‥っと。これは少々いかんね」
それを見たUNKNOWNは、隔壁のレールに狙いを定め、弾幕を叩き込む。
耳障りな金属音と共に、巨大な壁の動きが遅くなる。
「見えた! ミサイル食らえ!!」
更に藤田あやこのアンジェリカ「看看兮(かんかんのう)」がミサイルを放ち、今度こそ隔壁は止まった。
「今の内に目標まで一気に駆け抜ける。行くぞ!」
前方の障害が粗方片付いたのを見ると、白鐘剣一郎は皆に呼びかけると同時に、ブーストをかけつつ、シュテルン「流星皇」のスロットルを目一杯まで上げた。
「――この先一キロ地点にクランクを発見!! スピードを落として下さい!!」
その矢先に、ナビゲートをしていた狭霧が慌てたように報告してくる。
慣性制御を持つバグアにとっては、少々通りにくい道程度のものでしか無いが、飛行機としての制約を持つKVにとっては、かなり危険だ。
「この速度でクランクとは正気の沙汰じゃないな‥‥だが、それがいい!!
――ビビッたら負けだ、突っ切るぞ!!
だが、堺のミカガミ「剣虎」全く臆する事無く、殆ど減速もしないままクランクへと進入し、突破していく。
「このへんは腕の見せ所‥‥ってね」
狭間 久志のハヤブサ「紫電−シデン−」も、翼面超伝導流体摩擦装置を発動させ、通常ならばあり得ない機動を以て、その障害を乗り越えていった。
「これは負けていられませんわね‥‥続きましょう!!」
月神達を初めとした他の傭兵達も、負けじと高速のままクランクへと突入していった。
――その一方で隔壁の通路をストライダーの車両形態でひた走る宗太郎は苦戦していた。
先を行く傭兵達が露払いをしてくれているため、敵の数こそ少ないが、彼らが相手にする必要の無かったキメラ達を相手にしなければならず、思ったように進めない。
「ちぃっ!? 邪魔だっつってんだろうがっ!!」
目の前に立ち塞がるスラッシュスパイダーの群れの爪を掻い潜ると、一瞬だけ変形してプラズマライフルを放ち、足だけを消し飛ばす。
牙を剥き出しにして目の前に迫ったレックスキャノンには、ロンゴミニアトをどてっ腹にお見舞いして破裂させた。
対して、かなりの回避能力を持つストライダーは殆ど傷を負っていない。
しかし、空の敵の攻撃は如何ともし難く、常に頭の上を抑えられた状況に、宗太郎は戦々恐々とも言える心地だ。
――チュウンッ!!
「く、そっ‥‥!!」
そしてとうとうHW達は、宗太郎の進路上を狙って攻撃を仕掛け始めた。
鼻先を掠めるプロトン砲やミサイル‥‥避けたとしても、爆風に炙られ、めくれ上がった通路の破片に乗り上げ、激しい衝撃が彼を襲う。
「彼をやらせはしない‥‥おまえらの相手はボクがしてあげるよ‥‥」
だが、それ以上の攻撃は来なかった――何故なら、月森 花のアンジェリカ『Schwertleite』が放ったレーザーカノンが、一機を撃ち落し、編隊を散らせていたから。
「花!?」
「‥‥宗太郎君は、ボクが‥‥守るよ‥‥」
覚醒で無機質になった月森の声――だが、それは決して彼女の大切な人を死なせはしないという決意に満ちていた。
『トラフィックスより宗太郎さんへ――UNKNOWNさんからの通信、繋ぎます』
そして同時にバーシャのワイズマンから通信が入る。
『――置いて行ってしまって済まないな宗太郎。しかしある程度の敵は我々がついでに片付けておいた。
予測進路を送るから、その後を辿って来たまえ』
「‥‥サンキューな、母さん!!」
その言葉に、拳を打ち付けて歓喜する宗太郎。
彼がLHに来てから築いた家族‥‥その母親役たる彼の言葉は、何処か胡散臭いけれど、何処までも頼もしかった。
「母さん達のフォローを無駄には出来ねぇな‥‥行くぜ花ッ!!」
「うん‥‥頑張ろう‥‥」
その言葉に、普段は決して動かない筈の覚醒状態の月森の唇が少しだけ綻んだ。
――しかし隔壁はその一枚では無く、その後も五枚、十枚と現れ、傭兵達の進路を阻もうと迫る。
その間にも敵やフェザー砲の攻撃は容赦なく降り注ぎ、彼らを疲弊させていく。
更に、後方からは打ち漏らしや、追いかけてきた敵達が迫りつつあった。
「‥‥やるとしたら、ここら辺かな」
砕牙はぼそり、と呟くと、皆に号令をかけた。
「『足止め班』は次の隔壁前で反転!! ここで奴らを食い止める!!
ミリハナクさん!! 頼むぜ!!」
「了解ですわ♪ ぎゃおちゃん、九頭竜発射ですわ!!」
今にも閉じようととする隔壁のレールに向けて、ミリハナクの竜牙が荷電粒子砲「九頭竜」を放ち、大きく歪ませる。
そして砕牙とミリハナクを含めた数人の傭兵達が、隔壁の直前で反転すると、迫り来る敵に向かって攻撃を開始した。
「ここは押さえるから、先に進んでもらえるかな?」
キョーコ・クルックが空を行く仲間達に呼びかけながら、K−01をHWの編隊へと向かって放つ。
知覚重視の修羅皇の攻撃では一撃とはいかないまでも、数百発ものミサイルが巻き起こす爆炎は、HWの視線を覆うには十分だ。
「うおりゃああああああああっ!!」
そこに、砕牙の雷電「爆雷牙」によるスラスターライフルやショルダーキャノンの弾幕が襲い掛かり、まるでハエのように叩き落した。
「こっちは任せとけ! 思いっきりガツンとやってこい!!」
「感謝する!!」
砕牙がアンジェリナに向かって大きな声で呼びかける。
その間に、反応炉破壊を目指す者達の機体は閉じかけの隔壁を盾に、前へと進んで行く。
そして情報網の構築に務めていた狭霧も足止め班に合流し、その場に留まって中継を開始した。
「ここで中継を行います。皆さん、ご武運を」
「分かりました!! あなた達も無茶だけはしないで下さいね!!」
それに敬礼で応え、悠璃はフェニックス「幻夢」を半分ほどまでに閉じた隔壁へと滑り込ませる。
「さて、隔壁を死守せねば突入班すべてが危険に曝されてしまう‥‥踏ん張り所だな」
最後尾に位置していた月森と宗太郎の二人が通過したのを確認すると、鳳 勇はパイバーを操り、通路や敵の破片を隔壁と通路の隙間に積み上げ、即席のつっかえ棒にする。
足止め班の面々は、この隔壁をわざと閉じ掛けの状態のまま維持し、反応炉破壊に成功して撤退する際に、今度はそれを崩す事で、敵から逃げる時間稼ぎに使おうとしているのだ。
――だが、重く、厚い隔壁を完全に留めるのは簡単では無い。
砕牙や鳳らが作業をする間にも、敵は隔壁ごと彼らを亡き者にせんと迫るが、その動きは反応炉破壊班を追いかけようと焦っているのか、単調で雑な機動を取り、中途半端に固まっている。
それを見て好機を感じたレインウォーカーの唇が吊り上がった。
「道化から砕牙。お前の作業を援護する。邪魔する敵は全部潰す。お前は作業に集中しなぁ」
ペインブラッド「リストレイン」のブラックハーツが唸りを上げ――フォトニッククラスターの熱線が、通路をまるで太陽のように眩く照らす。
――そしてその光は、実際に太陽に近付いたかの如く、浴びたバグア軍のキメラを、ワームを、焼き尽くしていった。
その間に、作業を続けていた砕牙と鳳はかなりの高さの瓦礫を積む事に成功していた。
‥‥しかし、ミシミシと未だに軋みを上げている。
「いい加減‥‥止まれってばよおおおおおおっ!!」
ダメ押しに砕牙がグレートザンバーをレールに叩き込むと、ようやく止まる隔壁。
「うっし!! これで準備万端だな!!」
「ここからが本番ってね‥‥!!」
更に湧くように現れる敵の兵器を前に、キョーコは思わず唇を舌で舐める。
「さぁ‥‥派手にぶちかましますわよ!!」
ミリハナクの竜牙が、咆哮の如く九頭竜を放つ。
――正しく津波のような勢いで迫るバグア軍に対するは、わずか六機の防波堤。
両者は真っ向から、一斉にぶつかり合った。
その頃、先を行っていた傭兵達の前から巨大な通路は消え失せ、そこから枝分かれするように、KVが数機並んで歩ける程の広さの通路が伸びていた。
「見えた‥‥あれだな。カバーは任せた。先に降りるぞ!!」
白鐘を先頭に反応炉破壊班の面々は慎重に着陸すると、機体を変形させ、通路の奥へと進んで行く。
「‥‥後戻りはできませんね‥‥必ずここを突破しきって反応炉を破壊し‥‥皆で生還できるよう全力を尽くします」
奏歌・アルブレヒトは周囲を警戒しつつ、ロビン「シュワルベ」のコンディションをチェックする――少々損傷はしているものの、全力戦闘には全く問題無いレベルと言える。
「高エネルギー反応‥‥近いな」
暫く通路を抜けると、相当広い空間に出た。
――部屋の中央には、まるで巨大な心臓のような機械と生物を融合したような機関が鎮座していた。
恐らくは、これがバルセロナ要塞を支える反応炉に違いない。
「敵さんの心臓部だ。ラスボスの一体ぐらいは‥‥って矢張りお出ましかい!」
そこに広がっていた光景に、藤田が愚痴るように叫ぶ。
彼女の言う通り、反応炉の前には複数のタロスと‥‥因縁ある者達にとっては見慣れた、黒いタロスがいた。
「‥‥でも、気配が違う?」
しかし、何度も彼と相対してきた悠璃を始めとした傭兵達は、身に纏う闘気が異なる事に気付く。
『‥‥待っていたぞ、人間共』
「貴様はあの時の‥‥!!」
その声を聞いて、堺はそれが誰かに気付いていた。
幾度か刃を交えたサイラスの部下の声――それはスピーカーからでは無く、タロスの「口」の部分から聞こえてきた。
――見れば、目の前のタロスは肉を持ち、目を持ち、歯を持つ、一匹の生物と化している。
それは規模こそ桁違いだが、大規模作戦においてキュアノエイデスがギガワームと融合したものと酷似していた。
「まさか貴方は‥‥そのタロスと融合を‥‥?」
『その通りだ――バグアにとってこの姿は屈辱でしかないが‥‥。
私が貴様らに対抗するには、これしか方法が無かったからな」
月神の問いに、然りと答える部下。
「敵ながら見事です。死兵となってでも‥‥守るべき者のため殉じますか」
「戦友の為に覚悟を決めたか。ならば‥‥こちらも、相応の覚悟を決めるとしよう。
それが、お前という戦士に対する礼儀というもの――!」
それ以上問いかける事をせず、月神が爆槍を構え、鹿島が機拳「G・シュラーク」を装着する。
他の傭兵達もそれに倣うが、アンジェリナだけは違っていた。
「キュアノエイデスといい、あなたといい、『それ』がバグアなりの忠誠の証だとでも言うのか‥‥?」
彼女の言葉は、怒りだけでは無く、複雑な感情で僅かに震えていた。
「私には分からない‥‥お前たちのそういう考え方が分からない。
もっとも‥‥理解できるとも思わない」
そこでようやく、アンジェリナはミカガミ「リ・レイズ」にレーヴァテインを構えさせる。
「敵である以上は討つ。今までもそうして来たように‥‥私は地球人、能力者なのだから」
『当然だ――我らは侵略者、貴様らは抵抗者‥‥我らの間にあるのはただ闘争と‥‥そして勝敗の結果のみだ!!』
そして部下は爆槍を引き抜き、構える。
彼に付き従うタロス達も同様にそれぞれの得物を手にし、ジリジリと間合いを詰める。
「戦う前に‥‥名を、お聞かせ願えませんか?」
『貴様か‥‥サイラス様にも聞いていたな』
だが、悠璃は敢えてそこで彼に問うた。
部下は少しだけ苦笑すると、高らかに名乗る。
『最早この姿になっては名など意味を持たないが名乗ろう‥‥我はツヴァイ!!
サイラス様の二番機‥‥それが我が存在意義だ!!』
「それが、貴方を表わす『名』なんですね‥‥ありがとう、ございます」
一瞬、ツヴァイに向かって頭を下げると‥‥悠璃は一気に踏み込んだ。
『タクティカル・プレディクション・B、起動します!」
バーシャのトラフィックスが唸りを上げ、周囲の仲間達の能力を引き上げる。
それとほぼ同時に、ツヴァイが大きく踏み込んだ。
『セェッ!!』
十文字槍型の爆槍が、まるで鉄槌のように振るわれる。
進路上にいた傭兵達が咄嗟にかわすと、硬い筈の鋼鉄の床に巨大なクレーターが穿たれた。
そしてすぐさま翻った穂先は、白鐘と悠璃目掛けて突きこまれる。
「やるな‥‥!!」
「くっ!?」
流星皇の獅子王と幻夢のディフェンダーがそれを辛うじて弾くが、巻き起こる炎が装甲を炙った。
「はあああああああっ!!」
「食らええええええっ!!」
その間に両側から月神と鹿島が飛び出し、爆槍と巨大な拳が連続で叩き込まれる。
『ぐううううっ‥‥まだまだァッ!!』
ツヴァイは爆槍を腕の装甲を犠牲にして凌ぎ、鉄拳は蹴りで迎撃。
そして空中へと飛び上がり、猛烈な勢いで回転しながら槍で周囲を薙ぎ払い、吹き飛ばした。
「天都神影流、白鐘剣一郎と流星皇、推して参る!」
「この建御雷が! 雪村が! 折れない限り俺達は倒れん!!」
しかし、着地した瞬間白鐘の流星皇と、堺の剣虎が躍り掛かる。
獅子王が、建御雷と雪村が、ツヴァイの装甲を貫き、中の肉体を切り裂く。
『ガ、アアアアッ!?』
「受けるがいいツヴァイ‥‥私の渾身の一撃を!!」
続けて踏み込んだのはリ・レイズ――アンジェリナは雄々しく叫びながらレーヴァテインと雪村を、近接仕様マニューバを発動させながら矢継ぎ早に叩き着けた。
『させんぞぉ!!』
雪村が爆槍を両断するが、何の執念か、ツヴァイは必殺のレーヴァテインを掻い潜ってみせる。
そして鋭い貫き手で、逆に彼女を貫かんとする。
――しかし、アンジェリナはその更に上を行った。
振り切られた筈のレーヴァテインが、カートリッジの爆発によって再び飛燕のように翻り、ツヴァイを大きく切り裂く。
‥‥それは、彼女がサイラスのために編み出した戦法であった。
『グハ‥‥ァ‥‥』
血をゴボリ、と吐いて後退する。
ツヴァイも決して弱くは無い‥‥ただ、目の前の傭兵達が強すぎるのだ。
サイラスですら勝てない相手に、ツヴァイが勝てる筈が無い――だが、だからこそ彼は退かない。
『まだだ‥‥マだダアアアアアァッ!!』
更に、タロスが変異していく。
――四つん這いになると、メキメキと音を立てて装甲を弾き飛ばしながら、手足に爪が生え、犬のような頭部が姿を現し、巨大な尻尾が生える。
限界突破‥‥彼の姿は、まるでこの反応炉を守る地獄の番犬のようであった。
『ウオオオオオオオオオオオオンッ!!』
最早人の声すら捨てて、ツヴァイは傭兵達目掛けて飛び掛った。
傭兵達の半数ほどがツヴァイを足止めしてる間に、残る者達が反応炉の破壊を目指す。
「ここは一気に押し通る‥‥!!」
まず飛び出したのは狭間の紫電。
一気に間合いを詰めて反応炉に一撃を与えんと迫る。
‥‥しかし、その前にタロス達が立ち塞がった。
「邪魔をするな!!」
振るった雪村がその内の一機の腕を切り飛ばすが、返す刀で振るわれた斧が紫電の装甲に食い込む。
「うわっ!? このっ!!」
すぐさま反撃するが、敵の性能は予想以上に高い。
剣翼とスラスターライフルを駆使し、何機かを屠った所で、狭間の紫電は崩れ落ちた。
「狭間っ!! クソッ‥‥悪いが、余裕が無ぇ。
外で戦ってる奴らと一緒に‥‥あいつを倒しに行くんだよ!」
宗太郎は怯む事無く手近なタロス目掛けて爆槍で突きかかる。
しかしタロスは装甲を焦がされながらも、爆炎の穂先を受け止め、逆に二刀を叩き付けてきた。
「くそっ! 流石サムライ、配下も優秀だ!」
そこに後方から放たれた光条がタロスの腹を貫く――アルヴァイムのブリュ―ナクだ。
更に前に立ち塞がっていた敵も、UNKNOWNのグングニルによって立て続けに砕かれていく。
「‥‥行け!!」
「その通り。取り巻きは我々に任せて、存分に叩き込みたまえ」
「一気に押し切ってください!」
後方からは、バーシャがなけなしの練力を削りながら、タクティカル・プレディクション・Aを発動させて支援する。
「ありがとよアルヴァイム、母さん、バーシャ‥‥行くぜ花ァッ!!」
「――うん‥‥Schwertleiteの名に恥じぬよう‥‥皆の想いを‥‥努力を‥‥この剣に込めて」
援護を受けて、宗太郎は月森と共に反応炉目掛けて突き進む。
「不死身駱駝の死亡遊戯、私と踊れーっ!!」
「若いお二人を邪魔するとは無粋だぞ?」
二人の花道を、藤田が金曜日の悪夢でタロスをバラバラにし、錦織が多連装機関砲で動きを止めた敵をパイルバンカーで刺し貫く事で切り開く。
「‥‥邪魔をしないで貰いましょう」
囲みを突破した宗太郎達を追い縋ろうとするタロスは、後方から放たれた奏歌のシュワルベによるレーザーカノンによる狙撃で、手足を貫かれ、各座していった。
そしてとうとう、反応炉に手が――届く!!
「‥‥宗太郎君‥‥行って‥‥!!」
背後を月森に任せ、宗太郎は反応炉に爆槍を叩き込み、中で爆発させる‥‥何度も‥‥何度も!!
「うらああああああああああっ!!」
そして更に、開けた穴に向かってグレネードを全弾叩き込んだ。
――反応炉は一瞬、ぶるり、と震えたと思うと、凄まじい轟音を立てて爆発した。
「くっ‥‥痛ぅ‥‥しまらねぇな、こりゃ‥‥」
爆発に巻きこまれたストライダーは大破し、彼自身も砕けたキャノピーが全身に突き刺さり、重傷を負っている。
――しかし、彼はやり遂げたのだ。
「もう‥‥無理するんだから‥‥」
一瞬だけ素に戻り、月森は思わず溜息を吐いた。
‥‥この瞬間を以て、反応炉破壊は遂行されたのだった。
そして、もう一つの決着も付こうとしていた。
『オオオオオオオンッ!!』
咆哮と共に飛び掛るツヴァイ――尻尾で剣虎を殴りつけ、牙でリ・レイズの腕を噛み砕く。
「ぐあ‥‥っ!!」
「くっ‥‥窮鼠と言うには厄介だな‥‥!!」
ツヴァイは最早理性も半ば失われているのか、防御を全く考えず暴れまわっていた。
彼と相対する全員が、誰もが決して軽くは無い損傷を負っている。
だが、決して誰も退こうとはしない――何故ならこれは、命を賭ける戦士との決闘なのだから。
「はああああああっ!!」
悠璃がディフェンダーで打ち掛かるが、爪で払われ、逆に体当たりを受けて吹き飛ばされる。
‥‥が、その身体には幻夢の左腕から伸びたスパークワイヤーが絡み付いていた。
凄まじい電流が走るが、ツヴァイはそれを爪で断ち切って、それ以上の追撃を避ける。
それでも、絡みついたワイヤーは彼の動きを大きく阻害した。
そこに鹿島のモーニング・スパローが大きく踏み込んだ
「俺が今まで得たモノ、その全てを出し切る!!」
そして両腕の拳を半ば強引に叩き付けると、すぐさま右腕の機拳をパージ――雪村を抜き放ってツヴァイを貫いた。
『ギャアアアアアッ!!』
激痛に身を捩りながら、尻尾を叩き付けて鹿島を引き剥がすツヴァイ。
だが、吹き飛ばされながらも、彼女の左腕には粒子加速砲が握られていた。
「‥‥貰ったぞ!!」
紫電を纏って吐き出された光は、ツヴァイの前足を吹き飛ばす。
そして、止めに夜叉姫と流星皇が突進した。
「‥‥さようなら」
月神の爆槍は胴体を貫き、地面に縫いとめ‥‥、
「――天都神影流『奥義』‥‥」
白鐘は温存していたPRMシステムを全て攻撃につぎ込んだ獅子王を‥‥、
「――白怒火っ!」
――大上段から真っ向に切り下ろし、ツヴァイの肩から胸まで、真っ二つに切り裂いた。
『‥‥ア、があア‥‥』
倒れたツヴァイの身体は、粉になって崩れ落ち始める――最期の時だ。
「最後に‥‥伝えたい言葉はありますか?」
聞こえているかも怪しいが、月神は彼を見下ろしながら問いかける。
ツヴァイは壊れた反応炉に残った腕を伸ばし‥‥それすらも崩壊させながら声を振り絞った。
『‥‥ワ、れは‥‥何時、マでモ‥‥アなた様、の‥‥傍‥‥に‥‥』
最期までサイラスに対する忠義を貫きながら、ツヴァイは砂となって崩れ落ちた。
反応炉破壊成功――それは足止め班にも狭霧のウーフーを通じてすぐさま伝えられた。
「うっ‥‥しゃあっ!! 俺達の勝ちだ馬鹿ヤロウっ!!」
「や、やりましたわ‥‥ね」
砕牙が喝采を上げ、ミリハナクが口元の血を拭いながら微笑む。
足止め班の殆どが、満身創痍とも言える状況だった――特に、主戦力として敵に立ち塞がった二人の損傷は酷い。
――そして、報告を聞いた瞬間、砕牙の爆雷牙は崩れ落ちるように倒れた。
彼は途中、支えを崩されて落ちそうになる隔壁を支えながら戦っていたのだ。
むしろ、ここまで持ったのが奇跡と言えるだろう。
「全く無茶する奴だなぁ‥‥人の事言えないけどさぁ」
片腕を失ったリストレインのコクピットに彼を押し込みながら、レインウォーカーが呟く。
その寝顔は、任務をやり遂げた満足げな笑みが浮かべられていた。
「‥‥ったく、アンタ乗せて脱出するこっちはこれからが大変だってのに」
キョーコの修羅皇も、肩羽を失っていたが、あまりに呑気な寝顔に自然と笑みが零れた。
地上では、数百ものバグア軍兵器や数千ものキメラの死骸が積み上がっていた。
しかし、それと同時に傭兵達も相応に疲弊している。
既に空の防衛をしていた380戦術戦闘飛行隊の三人の内、伊藤が落とされ、残る三枝とジェームスの二人も、弾切れ寸前だ。
『こちら突入班!! 反応炉破壊に成功しました!! 現在ゲートまで二キロですっ!!』
「ひゅう! 英雄のご帰還っす! もうひと踏ん張りっす!」
少し上気したようなバーシャの声に、三枝が喜びの声を上げる。
「後は撤退するのみだ。しくじる訳にはいかないからな‥‥システム・ニーベルング合わせるぞ!」
「ああ!! いつでも来い!!」
「遠き者は音に聞け、近き者は目にも見よ‥‥であります!!」
その報告を聞くと、神棟と那月、緑一色の三人が、ボロボロのパラディンを引き摺って集結する。
「よし、滑走路の確保だ‥‥タイミング、間違えるなよ?
3‥‥2‥‥1‥‥GO!』
そして、最後の力を振り絞るように、三機同時にワルキューレの騎行を発動させ、前方の敵を薙ぎ倒した。
神棟と那月の機体はそのまま機能停止したが、すぐさまシスターズ達に救出される。
彼らが切り開いた即席の滑走路を使い、次々と飛び立つ傭兵達。
「‥‥不味い!? 隔壁が!!」
だが、ゲートを見守っていた紫藤が叫びを上げる。
――見れば、入り口近くを新たな隔壁が塞ごうとしていた。
「――任せて貰おう」
その時、カルマのウシンディが飛び出し、再び地上へと戻っていく。
「流石にキツイが‥‥もう一撃ぐらいは出来るだろう? ウシンディ」
長時間シヴァを振り回しながら、敵の攻撃を受けた機体は、あちこちから火花を飛び散らせていた。
「うぅぅぅぅぅおおおおおおおおっ!!」
が、カルマは躊躇する事無く、再びシヴァを隔壁目掛けて振り下ろす。
巨大な刀身は隔壁を叩き潰すかのように切り裂き、穴を開け――その穴から突入班が飛び出してくる。
「俺のウシンディに‥‥断てぬものなし!」
誇りすら滲ませて、カルマは叫ぶ。
同時に力尽きるように、ウシンディはくぐもった爆発音を響かせて動かなくなった。
「‥‥全く、無茶をするなお前は」
そこからカルマを救出しながら、白鐘は窘めるように呟いた。
「何‥‥英雄の出迎えには相応しかっただろう?」
それに対し、カルマはニヒルな笑みを浮かべて応えて見せた。