●リプレイ本文
――この数ヶ月、あまりにも遠かったバルセロナ要塞のそそり立つ城壁が、今傭兵達の目の前にある。
「ようやく人質とか気にせず戦えるようになったってのに‥‥攻勢にでられるようになるまで随分かかっちまったな。 だがその分、今ここで大暴れしてやるぜ!」
それを見て、ブレイズ・カーディナル(
ga1851)は雷電のコクピットの中で拳を打ち合わせた。
(いるのでしょう、サイラス。そこに)
リディスもまた、かつての思い人の体を乗っ取ったサイラスとの戦いが近付いているのを感じ、愛機であるディスタン「プリヴィディエーニィ」の操縦桿を握り締める。
「『サイラス』ねえ‥‥あれから随分と大暴れしてるみたいだけど、いい加減他人にその身体を使わせるのはシャクに障るよね‥‥解放する為には少しでも手伝っておきましょーか」
思い出すのは、最期に友達同士になった少女との約束。
葵 コハル(
ga3897)はそれを果たすため、今この地にいる。
「決戦、じゃな おそらくこれが最後の戦いに‥‥なりそうじゃの。
戦場ちらと見ただけじゃが‥‥バグアにしては珍しく純粋で、潔い男じゃった」
――藍紗・T・ディートリヒ(
ga6141)は願う。
唯一つの心を失い、修羅となり、ただ戦いを求めた武士(もののふ)。
せめて最後は‥‥戦いのその先では安らかで在れるように。
しかし、彼女の僚機であるディアブロ「シヴァ」の中で、如月 由梨は苦悩を続けていた。
「決戦、となるとこれが最後でしょうか‥‥。サイラスも死力を尽くしてくるはずですが――」
しかし、それに応えることができたとして、その先に何があるのだろう?
闘い抜いた先の修羅道に、見えるものは‥‥分からない。
それを知るのが怖くて、覚醒の高揚に逃げて――それこそが人を救う手立てだと信じて。
答えはまだ見えず、修羅道に落ちた者を倒しても答えが得られるとは思わないが、それでも由梨は願った。
「それでもサイラス・ウィンド‥‥私に答えをください。闘争の果てを‥‥」
その呟きは、誰の耳にも届く事無く、KVの駆動音に溶けていく。
「さて、突入班がきちんと仕事を済ませてくるまでの間、少しでも敵を引き付けておく必要があるからな。
‥‥精々派手に暴れさせて貰おうか」
そう言いながら、榊 兵衛(
ga0388)は雷電「忠勝」が背にした千鳥十文字を抜き放った。
――その視線の先では、開け放たれた要塞のゲートから、無数の敵影が姿を現す。
それはまるで細菌の増殖を早回ししたかのように、あっという間に要塞を守るように広がっていく。
指揮官用のタロスを先頭に、ゴーレム、ヘルメットワーム、タートルワーム、レックスキャノン‥‥。
地下からは、アースクエイクが地面を割って雄叫びを上げる。
そしてその隙間を埋めるように存在するのは、この三ヶ月、UPC軍に煮え湯を飲ませ続けてきた、シバリメの配下たる虫型キメラ。
地面を鋭い爪で削りながら進撃するスラッシュスパイダーと、腹から絶え間なく小型キメラを吐き出すマザーアントと、まるで雲霞の如き小型の蟲達。
もしその中に生身で放り込まれたら、刹那の一瞬で骨まで喰らい尽くされるだろう。
レーダーに映る光点の数は‥‥数えたくも無い。
「『敵の目を引き付けておくだけの、簡単なお仕事です』。
‥‥いや、まあ‥‥確かにある意味「簡単」ではあるけどね‥‥」
その光景を目にした依神 隼瀬(
gb2747)は額に汗を浮かべつつ溜息を吐いた。
――言うが易しとは良く言ったものである。
「やれやれ‥‥随分と豪勢な敵戦力、だね。戦い抜くには、此方もそれ相応の対処をしないと、か。
‥‥全員、命を散らさせはしない。なんとしても護り切って見せる」
誰もが絶望しかねない状況‥‥だが、それを見て柳凪 蓮夢(
gb8883)は逆に不退転の意志を示した。
全ては傍らに立つ者を、戦友を守るために。
「こちらの攻勢が陽動、と思われねば良いのでしょうな。
その為には初手から圧倒し、敵の思考から余裕を奪うに限る、違いますかな?」
仲間たちの動揺の気配を感じ取った飯島 修司(
ga7951)は、わざとおどけたような口調で呼びかけると同時に、発破をかける。
「あちらの戦力も相当ですが、こちらのそれ(戦力)もまた──相当ですからな」
――確かに、そうだ。
この場にいる傭兵達を少し見回しても、誰もが豊富な経験を持つ者達であり、中には押しも押されもせぬエース達も存在する。
そして、そんな彼らを支え、共に戦うのは、同じく厳しい戦場を生き抜いてきた歴戦のUPC軍の兵士達。
これを、精鋭と言わずして何と言おう。
「ま、確かにそうだな‥‥心機一転、いくぜ。邪機眼王!!」
相棒であるイビルアイズに呼びかけながら、リュウセイ(
ga8181)は雄叫びを上げた。
――両者とも地響きを立てながら、しかしゆっくりと、驚くほど静かに進んで行く。
そしてその距離が、互いが互いの視線を感じ取れる程になった時、オープン回線で朗々と声が響き渡った。
『――総員‥‥抜刀!!』
――ジャキジャキジャキジャキジャキジャキジャキッ!!
一斉に、そして絶え間なく、全てのKVが手にした己の得物を構える。
『‥‥打ち掛かれえええええええええええええええっ!!』
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』
雄叫びと共に、走輪を唸らせてKVが走り、後方に陣取った戦車や砲台から、ミサイルや砲弾がまるで驟雨の如く降り注ぐ。
――全力全開、出し惜しみ無しの『陽動』が幕を開けた。
まず突っ込んできたのは、タロスを先頭にしたゴーレムの部隊。
慣性制御でまるで飛ぶように時間差で飛び掛ってくる。
「まずは一番槍‥‥行かせて頂きましょう」
それらに立ち向かうは、如月・由梨(
ga1805)のシヴァ。
手に持つのは身の丈を遥かに超える、愛機と同じ名を冠する巨大剣。
その重さと長さを全く感じさせない踏み込みの鋭さは、先頭に立つタロスの足を止め、距離を取る事を選択させた。
だが、それでも由梨は口元に笑みを浮かべて笑う。
「それで、距離を取ったつもりですか? 『そこ』はまだ私の間合いですよ?」
そして、ぎりっ‥‥と歯を食い縛ると、裂帛の気合を込めて振り下ろした。
「せええええええええええええええっ!!」
――ズドゥンッ!!
物理法則を笑い飛ばすかの如く叩き付けられた巨大な刀身は、避ける事も、受ける事も許さずに、一撃の下タロスを跡形も無く叩き潰した。
あまりと言えばあまりの光景に、流石のゴーレム達も戸惑ったかのように足を止める。
――その隙を逃す傭兵達ではなかった。
「一番槍は取られましたが‥‥参りましょうか」
「無論だ!! この槍の兵衛の十文字!! しかと目に焼き付けて逝け!!」
続けて踏み込んだのは兵衛の忠勝と、飯島のディアブロ。
その手に持つのは千鳥十文字とロンゴミニアト。
二機は互いの左側を相手に預けながら、まるで竜巻のように回転しながら敵陣へと突っ込んで行く。
二本の長槍は、周囲に立つゴーレムの悉くに食らい付き、大地に沈めていった。
――キシャアアアアアッ!!
だが、そこに襲い掛かる黒い津波――小型キメラの一群が彼らに迫りつつあった。
「ちっ!!」
「これは‥‥厄介ですな」
兵衛が咄嗟にグレネードを、飯島がツングースカを放つが、キメラの耐久力は予想以上に高く、勢いは中々緩まらない。
二人の機体が飲み込まれようとした時、後方から次々と砲撃が降り注ぐ。
「その人達に手を出されちゃ困るな!!」
依神のロビン「天鳥」のレーザーガトリングが、今にも飯島に喰らいつこうとしていた群れを黒焦げの炭へと変える。
「その通り‥‥これから先は長い訳だからね。
行くよ、ハーモニー」
「はい、柳凪さん!!」
並び立ちながらマルコキアスとGPSh−30mm重機関砲の弾幕の嵐を展開する、柳凪のシラヌイS「紅弁慶」とハーモニーのゼカリア「調和」。
膨大な弾薬量を誇る二つの武器の制圧力は凄まじく、二機がリロードした時には、キメラの一群の殆どが掃討されていた。
「皆さん‥‥感謝致します」
「我らには仲間がいる――これ程頼もしい事な無いな」
「ええ、全くです。だからこそ、余計に負ける訳にはいきませんな!!」
飯島と兵衛は互いに顔を見合わせて笑いあうと、先程よりも増した勢いで敵陣目掛けて槍を振るった。
巨大剣を振るう由梨の優先度が引き上げられたのか、彼女目掛けてタロスやゴーレム達が殺到する。
その巨大さ故に小回りが利かず、味方を巻き込む訳にもいかないため中々全力が振るえず、次第に囲まれ始めるシヴァ。
ゴーレム達はそんな彼女を遠距離からプロトン砲やショルダーキャノンによって狙撃し、消耗させようと試みる。
「そう簡単に事が運ぶと思うで無いぞ馬鹿者が!!」
しかし、その彼女の隙を補う者がいた――藍紗のアンジェリカ「朱鷺」だ。
巨大剣を振り切ったシヴァを狙って放たれたミサイルや砲弾を、朱鷺のファランクス・テーバイが打ち落とし、返す刀で放たれたアハトアハトや帯電粒子加速砲がゴーレムやタロスの機体を抉っていく。
そして動きの止まった機体は、例外無く全て巨大剣の刃が叩き付けられ、地面のクレーターに混ざった残骸と化した。
「ふふ、我らの息も随分と板についてきたようじゃ。
‥‥これほど背中を任せて安心できるのは、久方ぶりじゃ」
「ええ、私も同じ気持ちですよ」
不敵に笑いあう二人――そこには、美しくも恐ろしい夜叉がいた。
しかし、バグア軍は尚も彼女たち目掛けて迫り来る。
「まだ、来ますか‥‥藍紗さん、大丈夫ですね?」
「誰に向かって言うておる? ‥‥問題など毛ほども無い!!」
雄々しく叫びながら、再び砲撃を始める藍紗。
頼もしき仲間を横目で見ながら、由梨はそこに何か光明を見た気がした。
(一人でない戦い‥‥私たちと彼らの違いはもしかしたら‥‥)
そう‥‥自分達には仲間がいる。
対してあの修羅は孤独だった――武人の孤高と気質は味方からは理解はされど誰かと共有は出来ず、彼の拠り所となり得た少女はもういない。
「これが答えなのかどうか確かめるためにも‥‥私は生き延びます、絶対に!!」
改めて決意を固めると、由梨は巨大剣を横殴りに叩き付ける。
それはゴーレムを二体纏めて輪切りにし、スクラップへと変えた。
しかし、前進しようとする傭兵達の足を、後方から降り注ぐTW、RC、マグナムキャット、そして要塞からの砲撃が阻む。
その弾幕は厚く、如何に傭兵達の実力が高くとも、そう簡単に前進する事が出来ない。
その間に、側面から回りこんで来たスラッシュスパイダーの一群が、彼らに襲い掛かる。
正面から来る敵を相手に弾薬を使っていた傭兵達は、一瞬だが対応が遅れた。
スラッシュスパイダーは八本の足を巧みに使って直立して掴みかかり、ソーニャ(
gb5824)のロビン「エルシアン」目掛けて、まるで雪崩のように激しい爪の一撃を見舞う。
「くっ‥‥!?」
リコポリスで防御するものの、エルシアンの装甲が見る見る内に削れて行く。
だが、そこに僚機であるリュウセイの邪機銃王が陽光を蜘蛛の腹に叩き込み、転倒させた。
「奴と話をつけるんだろ、こんな所でまごついていてどうするよ!!」
「‥‥確かに、そうだね」
ソーニャははっとしたように顔を上げると、倒れた蜘蛛目掛けて月光を叩き落し、止めを刺す。
――九州を荒らし回るあの男と再び会うまでは、彼女は倒れる訳にはいかないのだ。
だからこそ、前を向き、再びゴーレム目掛けて打ちかかる。
「灰は灰に、塵は塵に、そして泥人形は泥へ‥‥emethのeを削るは我がツルギ!!
――いくよエルシアン!!」
アリスシステムを起動させつつ、リコポリスを構えて突進したソーニャは、その勢いで月光を脇腹へと突きたて、一気に横に払う。
腹を裂かれたゴーレムは、小爆発を起こして大地に沈んだ。
――ピピピピピピッ!!
突如地面に打ち込んだ地殻変化計測器が異常振動を感知する。
「皆離れてっ!! ミミズが頭を出すわよ!!」
ロジーナbis「Witch of Logic」に乗った番場論子(
gb4628)が皆に向かって警告を発する。
その言葉に傭兵達が飛び退るのと、二匹のEQがキメラを土砂ごと飲み込みながら、地面を突き破って現れたのはほぼ同時だった。
その巨大な口でKVを丸呑みにし、破壊するEQの攻撃は出現から二年近くが経とうとしている現在でも、大きな脅威の一つだ。
しかし、一度それをかわしてしまえば、熟練の傭兵にかかればただの巨大なワームの一種に過ぎない。
「そんな大口‥‥随分と沢山叩き込めそうね?」
ストームブリンガーBを起動させ、人型のままEQの真上へと飛び上がった番場は、乱杭歯だらけの口腔に、容赦なくツングースカを叩き込んだ。
――ギシャアアアアアアアアッ!!
血反吐を吐きながらのたうつEQだが、その勢いにまかせて剣山のような刃を生やした巨体をぶつけようと周囲を跳ね回り始めた。
「――うぁっつ!? よくもやってくれたな!!」
依神の天神が跳ね飛ばされ、地面を転がるが、すぐに体勢を立て直し、お返しにがら空きの腹目掛けて弾幕を放つ。
高分子レーザーにショルダーレーザー、レーザーガトリング‥‥ありったけの知覚兵器が火を噴き、辺りを明るく照らすと同時にEQの柔らかい腹を貫き、焼き尽くす。
「止めぇっ!!」
動きが鈍った所で、依神は一気に接近し、月光で腹を三枚におろすかの如く掻っ捌いた。
そして残る一匹も、番場の口腔への射撃を加えられて動きの鈍った所に、ハーモニーのゼカリアによるツングースカの弾幕を浴びた。
「‥‥420mmキャノン展開――行けっ!!」
そして彼女は折り畳まれていた砲身を構え、照準を合わせる。
――そして放たれた砲弾は、EQの頭部を正確に穿ち、破裂させた。
EQは一瞬痙攣すると、周囲に血とオイルの雨を撒き散らせながら断末魔を上げて崩れ落ちた。
ブヂュブヂュと不快な音を立てながら、マザーアントが大量のキメラ達を腹から吐き出す。
しかし、ある程度吐いた所で、その柔らかい腹が大きく爆ぜ、マザーアントの口から絶叫にも似た悲鳴が響き渡った。
それを成したのは、ディスタン「幾島」と、ピンク色に染められたウーフー「ヒープアロック」。
「女として、心が痛まなくもないが、な」
天空橋 雅(
gc0864)は小さく呟きながらも、決して手を緩める事無く、幾島のヘビーガトリングで腹の中のキメラごとマザーアントを蜂の巣にしていく。
名前に「母」と冠してはいるが、生殖能力は無い‥‥ただのキメラを貯蔵したタンクに過ぎないのだから。
「みんな〜ここが私のステージよ♪ 完全燃焼しよねっ!!」
一方、ヒープアロックの常夜ケイ(
ga4803)は、アイドルらしく明るく皆に呼びかけながら、ハンドマシンガンやプラズマリボルバーを乱射し、踊るようにリロードしては撃ち続ける。
「ここ、ですね‥‥はあああああっ!!」
生み出された小型キメラ達は、金城 エンタ(
ga4154)の操るディアブロ「真・韋駄天」によってなぎ払われていく。
本来ならば雲霞の如き蟲の大群相手に近接戦など愚の骨頂であるが、極限にまで軽量・近接に特化された彼の機体の手数は圧倒的だった。
キメラに一度纏わりつかれる間に、彼の機体は数十匹ものキメラ達を細切れの肉片へと変えている。
それ以上はさせじと、スラッシュスパイダーが彼らへと迫り、TWが盾となるために立ち塞がった。
しかし、後方から一斉に放たれた砲撃が次々と突き刺さり、常夜やエンタの下へはその牙と爪は届かない。
「邪魔だっ!!」
スラスターライフルの嵐を巻き起こしながら、リディス(
ga0022)のプリヴィディエーニィが一気に踏み込み、正面に立っていたスラッシュスパイダーごと小型キメラの群れ達を次々となぎ払う。
スラッシュスパイダーはその苛烈な斬撃を受けても倒れず、尚も爪を振り上げ、プロトン砲を放つが、リディスには蚊ほどにも届かなかった。
最小限の動きでかわされ、逆手に握られたハイ・ディフェンダーで受け止められ、逆に地面に縫い付けられた。
しかし、彼女目掛けて小型キメラの波が迫り一瞬だが飲み込まれるリディス。
「くっ!!」
やはり仇敵との戦いを前に焦っているのか、かわす動きは僅かに精彩を欠いている。
そこへタートルワームが回転しながら体当たりをし、その巨体で押し潰そうと迫る。
――だが、それ以上を許す彼女の仲間達‥‥【8246小隊】では無かった。
「ざーんねん、こっから先は通行止めなのよねぇ〜」
「邪魔はさせませんよ。役者が舞台に上がろうとしているのですから‥‥!」
ワイバーンに乗ったレイラ・ブラウニング(
ga0033)と水上・未早(
ga0049)の二人による重機関砲とスラスターライフルの弾幕が黒い波に突き刺さる。
「邪魔するんじゃねぇよ馬鹿野郎っ!!」
ブレイズの雷電がスレッジハンマーをTW目掛けて横殴りに叩き付けると、頑丈な筈の甲羅が卵の殻のように砕け、横倒しになる巨体。
「イレーネさん!! 頼むぜ!!」
「任せておけブレイズ‥‥そこだっ!!」
ブレイズの叫びに答え、イレーネ・V・ノイエ(
ga4317)のサイファー「Samiel」のスラスターライフルが柔らかい甲羅の中の内臓を穿つと、TWはデロリ、とミンチになった中身を晒しながら動かなくなった。
「‥‥隊長、動かないで下さいね‥‥」
そして、リディスの機体に尚も纏わり付く小型キメラの生き残りは、ベル(
ga0924)のスナイパーライフルの狙撃によって排除されていく。
「皆‥‥」
「‥‥あんまり一人で突っ走り過ぎるなよ隊長。おそらく、まだ奴は出てこない」
「だから、それまでしっかりと温存しておけ。そんな事では奴には勝てんぞ?」
「そうだな‥‥少し熱くなりすぎていたようだ」
ブレイズとイレーネの言葉に、ふ、と微笑むリディス――しかし、その瞳は先程までとは違い、冷静に燃えている。
「だが生憎と下がるつもりは無い。それでは、奴の前に立つ資格は無いからな」
「‥‥言うと思った。やるならとことんやんなさい。あたし達が援護してあげるからさ」
レイラはやれやれ、と肩をすくめると、本来の動きを取り戻した隊長の支援をすべく、せわしなく照準を定め始めた。
そして、傭兵達は砲撃を吐き出し続ける砲台の排除にも乗り出そうとしていた。
「いい加減倒れな‥‥さいっ!!」
瓜生 巴(
ga5119)のオウガが振るったディノテールがRCの足に巻きつき、全力で引くともんどり打って倒れる恐竜の巨体。
そこに試作型電磁ナックルをぶち込むと、乱杭歯を生やした頭が爆ぜ、燃料の混じった温かい鮮血がオウガの体を紅く染めた。
「邪魔っけにゃー!!」
白虎(
ga9191)は一声叫ぶと、ビーストソウル「タイガーヴァリアント」に握られたドラゴン・スタッフを起動させる。
龍の口から吐き出された炎のような刃が、TWへと突き刺さり、内部を蒸し焼きにした。
「そろそろかにゃー‥‥あの邪魔くさい砲台を全部ぶっ壊すにゃー!」
「オッケーッ!! 待ちくたびれてたよっ!!」
「了解です‥‥笑顔のマイレージもそう簡単には溜まりませんねぇ」」
対空砲を持つワーム達を粗方片付けたのを確認すると、須磨井 礼二(
gb2034)のシュテルン「煌星(きらぼし)」、葵のディアブロ「桜嵐」を先頭に、対空砲破壊の役を担う傭兵達が空を行く。
その彼らを撃ち落さんと、砲台から次々と放たれる弾幕――プロトン砲や、体中にエネルギーを直結させられ、攻撃力を強化したTW、RCなどによる砲撃だ。
しかし、下にいるRCが傭兵達によって撃破された事でその弾幕は開幕当初と比べて格段に薄くなっていた。
(私は特にバルセロナに因縁があったりするわけじゃない。
だけど、私のこの力がここで戦う皆の力になれるなら‥‥)
「‥‥突入支援は任せてください。時間を稼いでみせましょう」
下にいる仲間達に呼びかけながら、御崎 緋音(
ga8646)の雷電「ヒルヴォル」が一気にブーストをかけて弾幕を掻い潜ると、手近なプロトン砲目掛けて真スラスターライフルを放つ。
鋼の弾幕はエネルギーチューブへと食らいつき、爆発させた。
「お、これは負けてらんないね‥‥いっけぇっ!!」
続けて葵の桜嵐がRC目掛けて8連装ロケット弾ランチャーを放つと、エネルギーチューブを接続され、身動きの取れないRCは回避する事すら許されずに爆炎の中に消える。
周囲を飛ぶHWが彼らへと殺到するが、本星型のいない通常型の編隊では、彼らを止めるには至らない。
が、数だけは十分であり、次第に包囲されていく傭兵達。
「おっと、これはいけませんねぇ。一旦下がりますよ皆さん」
須磨井は空にいる者達に呼びかけると、ファランクス・ソウルとクロスマシンガンで露払いをしつつ後退して行く。
その時には、既に砲台は三分の一近くが使用不能となっている。
――まだ敵が第一波である事を考えると、十分すぎる戦果といえた。
『――全部隊に通達!! これより支援砲撃を開始する!! これより支援砲撃を開始する!!
着弾予想地点を送信後、圏内にいる機体及び人員は即座に後退せよ!!』
大型の敵を粗方片付け、残るは小型種のみ‥‥という段階になった時、後方から通信が入る。
「中々に良いタイミングですな。それでは皆さん、一時退避と行きましょう」
飯島が周囲のキメラをなぎ払うと同時に、後ろを向いて後退する。
それに他の傭兵達も続くが、後退した事でキメラ達は勢い付き、一斉に追撃してきた。
「ちっ‥‥うざったいったらありゃしないな!!」
麻宮 光(
ga9696)の阿修羅が後ろ向きに走輪装甲しながら、ミサイルポッドを放つが、その勢いは止まらない。
「きゃあああああっ!!」
とうとうハーモニー(
gc3384)のゼカリアがキメラの波に飲み込まれ、取り付かれる。
ガリガリと鋭い爪と牙が装甲を削り、隙間から潜り込んだ個体がキャタピラや関節を齧り始めた。
「大丈夫か、ハーモニー!!」
鳴り響くアラート‥‥だが、咄嗟に柳凪が駆け寄り、引き剥がし、叩き潰す。
「私達が抑えている間に後退しろ!!
そして、天空橋がキメラの前に立ち塞がり、ガトリングとレーザーを放ち、キメラの侵攻を阻んだ。
「このっ‥‥いい加減離れろ!!」
麻宮もまた、スラスターライフルを放ってそれを援護する。
その間に柳凪はハーモニーに取り付いたキメラを全て叩き落すと、彼女を庇う様に再び後退する。
(彼女には、私の我儘に付き合って貰っているんだ。 墜とさせはしない!!)
心の中で、傍らを走る少女を思いながら、柳凪は走った。
『‥‥5!! 4!! 3!! 2!! 1!! 弾着!! 今!!』
そして傭兵達が全て塹壕に飛び込んだ瞬間、後方に待機したUPCによるミサイルやM−1戦車の砲撃、そしてスピリットゴーストの多目的誘導弾など、ありたっけの遠距離砲撃が要塞前のバグア軍に降り注ぐ。
――ズドドドドドドドドドォッ!!
吹き上がる激しい爆炎と土煙が収まった後、そこには動く物は一つとして無かった。
『――第一陣の殲滅を確認!! 前線のKVはこの間に補給を済ませろ!!
あまり悠長にやっている暇は無いぞ!!』
UPCの指揮官の怒号が響き渡る中、傭兵達は武器と弾薬の補給、そして僅かではあるが休息を取り、次の襲来に備える。
「これで第一波だってんだから‥‥先はなげえよなぁ‥‥」
栄養補給用のゼリードリンクを食べながら、リュウセイは愚痴るように呟いた。
体には疲労が溜まり、それ以上に愛機である邪機銃王の損傷も馬鹿には出来ないレベルに達している。
しかし、泣き言は言っていられなかった。
――見れば、レーダー上に再び凄まじい数の光点が姿を現し始める。
『敵第二波接近!! 全機再び迎撃体制に移れ!!』
「ほいほい了解‥‥んじゃ、もういっちょ暴れるとしますか!!」
空になったゼリードリンクを投げ捨てると、リュウセイはロックオンキャンセラーを起動した。
――唸りを上げて発生した磁場が、バグア軍の前衛を包み込む。
「今だ!! 派手にぶちかませっ!!」
「了解にゃー!!」
白虎のタイガーヴァリアントがそれに合わせて大きく踏み込み、建御雷でゴーレムを袈裟懸けに切り裂いた。
そこから先の戦いは、厳しく、激しくも、傭兵達はただひたすら懸命に戦い続けた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
兵衛がスラスターライフルを雄叫びと共に放ちながら、荒々しく突進し、ゴーレムの剣を千鳥十文字で絡めて弾き飛ばすと、矢継ぎ早に穂先を叩き込み、串刺しにする。
しかし、その物陰から飛び出したタロスの刀による一撃は、忠勝の胸の装甲を大きく削り取った。
更に、足元からは小型キメラの群れが迫る。
「まだまだぁっ!!」
しかし兵衛は怯む事無くファランクスを起動させると、足元のキメラ達をなぎ払い、タロスを牽制する。
数百発の弾幕を浴び、足が止まる――その隙に忠勝にバックステップをさせて距離を取る兵衛。
‥‥そこは、既に彼の間合いだ。
「‥‥せええええええええええええっ!!」
アクチュエーターを起動させて、捻りを加えながらの渾身の突きは、タロスの胴を真芯で捕らえ、半ば分断する形で貫いた。
「俺と『忠勝』を倒したくば、死ぬ気で掛かってくるんだな。
貴様達の最後を有意義なモノとして送ってやろう!!」
そして、槍の石突を大地に突き立て、仁王立ちとなる兵衛の忠勝。
その姿は、正しく武将というに相応しかった。
傍らでは、僚機である飯島のディアブロが、複数のゴーレム相手に奮戦していた。
敵の武装を見極めると、一気に踏み込む。
「‥‥ふっ!!」
武装が刀などの近距離武器ならば、徹底してロンゴミニアトで間合いの外から削り倒す。
同じく槍ならば、手にした機盾「ウル」で受けると同時に、カウンターで爆槍を突き出して打ち砕く。
力任せに薙ぎ払って来るならば、盾で受け流し、体勢が崩れた所を狙い撃った。
そしてあっという間に残るは一機。
正攻法では勝てないと判断したのか、ゴーレムは捨て身となり、機体ごと刀を叩き付けんと迫る。
ロンゴミニアトは強力な武器だが、その長さ故に飛び込まれれば隙が大きい。
‥‥そんな事は、飯島も良く知っていた。
だから、ロンゴミニアトを自分の真上目掛けて投げ捨てる。
そして、腰に差していたハイ・ディフェンダーを抜刀術の要領で抜き放った。
――ジャキンッ!!
抜き打ちの一撃がゴーレムの首を跳ね飛ばし、体を大地に叩きつける。
「‥‥出直して来るのですな」
飯島はハイ・ディフェンダーを納めると、落ちてきた爆槍をキャッチした飯島は、倒れたゴーレムの残骸に向けて口角を吊り上げた。
(サイラス‥‥お前がこの戦場に出てこないのならば、それでもいいだろう‥‥)
リディスは心の中で仇敵に呼びかけながら、タロスの砲撃をサイドステップでかわす。
その途上にいたスラッシュスパイダーとマザーアントを、逆手に盾代わりに握ったハイ・ディフェンダーで片付けると、ブーストをかけてタロスと交錯する。
セトナクトと刀が噛み合い、激しい火花が散った。
「‥‥ここだっ!!」
だが、彼女はそのまま走り抜ける事無く、ブーストをかけて強引に方向転換をかけた。
凄まじいGに一瞬意識が飛びそうになるが、なんとか耐える。
――向きを変えれば、目の前には無防備なタロスの背。
そこにリディスは容赦なく、ルーネ・グングニルの一撃を叩き込んだ。
――グボンッ!!
あまりの威力に、タロスの上半身は下半身と泣き別れになり、粉々になって飛び散った。
「‥‥ならば私は、お前が出てくるまで戦うだけだ!!」
倒しても倒しても、敵は要塞の中から絶え間なく現れ続ける。
‥‥しかし、傭兵達はそれに心を折られる事無く、絶え間なく敵を撃破し続けた。
そして作戦開始から一時間が経った時――唐突に敵の動きがぴたり、と止まった。
同時に、まるでビデオの逆再生のように要塞の中へと引いていくバグア軍。
「これは‥‥一体‥‥」
あまりにも突然の出来事に、戸惑ったように声を上げる由梨。
それと同時に、通信機から感極まったような士官の声が上がった。
『全軍に通達!! ‥‥突入部隊が‥‥突入部隊がやったぞ!! 反応炉を破壊した!!
‥‥死傷者もゼロだ!!』
一瞬、疲弊した兵士達や傭兵達はその言葉を理解する事が出来なかった。
『う‥‥おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』
‥‥だが、それが脳の奥へと染み込んだ瞬間、割れんばかり歓声が戦場に響き渡った。
そしてその数十分後‥‥バルセロナ要塞から、一つの通信が傭兵達を含めたUPC全軍へと通信が入った。
『――UPC軍及び、傭兵達に告げる』
その主は、司令官であるサイラス・ウィンドのものであった。
『今この時を以て、このバルセロナ要塞の陥落を宣言する。
この要塞に残る全ての機動兵器とキメラを停止させ、戦闘行動も今後一切行わないと約束しよう』
「敗北宣言‥‥だと!?」
その言葉に、その場にいる者達全員が驚愕の声を上げる。
人類の動揺を他所に、サイラスは更に言葉を続けた。
『だが、それには一つ条件がある‥‥』
すう‥‥と、サイラスは息を整え――高らかに告げる。
『――我と、傭兵達との最期の一騎打ち‥‥それが条件だ‥‥!!』
「最期‥‥そうか‥‥お前も、覚悟を決めたのだな」
その宣言を聞いていたリディスは、全身から湧き上がる武者震いを抑える事が出来なかった。
「――会いに行きますよ、今から。これほど焦がれたのは久々です」
震える手で拳を作りながら、リディスは要塞を真っ直ぐに見つめていた。