タイトル:【BD】雛を抱えた親鳥マスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/18 23:35

●オープニング本文


 南米のアマゾン川流域に程近い密林で、木々を薙ぎ倒しながら鋼の巨人達が空を、大地を焦がしながら戦っている。
 しかしその内容は、有機的なシルエットを持つ巨人達と甲虫達――タロスやゴーレム、ヘルメットワームなどのバグア軍が一方的に人類側のKVを蹂躙していた。

『こちらスコール1!! 駄目だ!! やはり本星型がいては抑えられ――』

 通信が途切れると同時に空に咲く爆炎の華――とうとう空で戦っていた最後の一機であるディスタンが叩き落される。
 これで残されているのは、地上に残るKV部隊だけだ。
 しかし、それを構成するサイファー、ディスタン、リンクスなどのメルス・メス製のKV達は軒並み満身創痍と言っても良い状態であり、いつ倒れてもおかしくない状況だった。
 そしてそんな彼らに守られるように、背中にコンテナを背負った独特のシルエットを持つKV――クノスペの姿がある。
 その内の一機に乗る青年パイロットが、必死な表情で隊長へと進言する。

『――隊長!! このまま地上を逃げていてもジリ貧です!! 一か八か空に飛び上がって‥‥』
『馬鹿野郎っ!! 俺達が運んでるのは何だ!?』
『‥‥っ!!』

 隊長の一喝に呻く青年。
‥‥隊長の言う通り、今は危険な賭けには決して出られない理由があった。

「う‥‥うぅ‥‥」
「水を‥‥水をくれ‥‥」
「お母さぁん‥‥」

 背負ったコンテナの中に設置されたマイクから聞こえる呻き声。
 同じく中に設置されたカメラは、コンテナの中に所狭しと横たえられた体中に包帯を巻いた兵士と、戦闘に巻き込まれた避難民の姿を映し出していた。



 前線で孤立した兵士や、避難民達を救出するために、輸送特化型KVクノスペを中心とした救出チームが結成された。
――敵地の中を突破し、救出したまでは良かったが、制空権を握られている状態ではあっという間に包囲されて各個撃破されていき、今に至るという訳だ。



 今強引に飛び上がっても確実に捕捉されてしまう。
 そして、そんな状態で戦闘機動を行えば、コンテナの中にいる者達は確実に死ぬ。

(そうは言ったが‥‥どうする‥‥どうする‥‥!?)

 青年を叱りつけた隊長だったが、その頭の中では必死に思考を巡らせていた。
 コンテナの中の者達を考えれば決して無茶は出来ない。
――しかし、この現状では何処かで無理をしなければ待っているのは確実な死だ。

『ぐはぁっ!!』

 そんな彼を更に追い込むように、鋭く踏み込んだタロスが防衛の要であった最後のサイファーを一刀の下に切り倒した。
 これで、クノスペを守る壁は僅かに二機‥‥最早、一刻の猶予も無い。

「くっ‥‥覚悟を決めるか‥‥!!」

 一か八か強行突破を命じようとする隊長だったが、その鼻先に突如空から放たれたミサイルが着弾し、激しい爆発が巻き起こった。
 一瞬敵からの攻撃だと身を硬くしたKV隊の面々だったが、その一撃が敵から自分達を守るものだと気付き、はっと顔を上げる。



――天佑とは正にこの事なのだろうか?



 隊長の視線の先には、傭兵達が織り成す編隊が颯爽と舞い降りて来るのが見えた。

『‥‥絶対に生き延びるぞ。あと一踏ん張りだ!!』
『了解!!』

――背負った命の重さを確かめるように、クノスペ達は大きく足を踏みしめる。

『ここまで来たんだ‥‥絶対に守りきるぞ!!』
『応っ!!』

 そして、彼らを守り続けてきたディスタンとリンクスのパイロットも、また。

●参加者一覧

カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
エリアノーラ・カーゾン(ga9802
21歳・♀・GD
レイヴァー(gb0805
22歳・♂・ST
仮染 勇輝(gb1239
17歳・♂・PN
冴城 アスカ(gb4188
28歳・♀・PN
綾河 零音(gb9784
17歳・♀・HD
アンナ・キンダーハイム(gc1170
22歳・♀・SF
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA

●リプレイ本文

 上空からの攻撃がクノスペ達を覆い隠した瞬間、茂みを薙ぎ払いながら現れた巨大な影が敵機との間に立ち塞がり、両の手に装備されたクァルテットガン「マルコキアス」で周辺を所構わず薙ぎ払う。
 装弾数3200発もの鋼の嵐は、タロスやゴーレム達をして、思わず後退させる程に激しかった。

「ディスタン リンクスのお二人!
 二人はここまでよく頑張ったよ〜! 後は僕たちが引き継ぐからお空の敵でも観察してて〜!」

 そう味方機に通信を送るのは、リヴァイアサン「レプンカムイ」を駆る少年、オルカ・スパイホップ(gc1882)。

『あ、ああ!! 頼むぞ!!』

 あどけない声に一瞬面食らうリンクスのパイロットだったが、すぐに力強く頷き、空へと照準を向けた。
 そしてすぐさまライフルの一撃を空へと放ち、HWの注意を一瞬自分達へと向ける。
 その隙に、HWの包囲網を突破した傭兵達は次々と地上へと降り立った。

「ありがと!!
 リンクスのにーさんも、ディスタンのにーさんも、クノスペのにーさん達も、お疲れ様。 もう大丈夫です!!」

 そう呼びかけながら、綾河 零音(gb9784)は愛機であるアンジェリカが手にしたミネルヴァを、エンハンサーを発動させながらタロスへと放つ。
 大出力のエネルギー砲は装甲を溶かすに留まったが、また一歩、敵を後退させる事に成功した。
 続けてレイヴァー(gb0805)の骸龍、仮染 勇輝(gb1239)のフェニックス「クロノス」が舞い降り、前衛としてバグア軍の地上戦力の前に立ち塞がる。

「全ブースターリミット解除‥‥突撃する!」

 仮染はブーストをかけると、プラズマリボルバーを放ちながら敵前衛へと突っ込んで行く。
 そして、着弾し動きの止まったゴーレム目掛けてライトディフェンダーで袈裟懸けに切りつけた。
 ぐらり、とバランスを崩すゴーレム――それを見て、即座にブースターの推力を全て前方に向けると、すかさず横に回り込み、練剣「メアリオン」をわき腹に叩き込む。

「足が止まっておりますよ?」

 その機を逃さず、レイヴァーの骸龍が一気に踏み込む。
 その速さは、ゴーレムに視線で追う事すら許さない。
 次の瞬間、空気を切り裂いて突き出された機槍「ドミネイター」が、ゴーレムの頭を貫き、引き千切った。

――ヒュンッ!!

 だが、その背後から突き出される二刀による突き。
 その攻撃は鋭く、圧倒的な回避力を誇る骸龍の装甲を僅かに削った。

「‥‥っと!?」

 それは両手に細身の刺突剣を装備したタロス。

「タロス‥‥タロス、でございますか。何かと相性が悪い相手ですからね。
そろそろ雪辱と行きたい所ではありますか」

 軽快なステップで即座に間合いを取り、仮染の傍らまで下がるレイヴァー。
――その彼らを、取り巻きのゴーレム達が囲み始める。
 そして更に後方からは、もう一機のタロスまでもが姿を現した。

「‥‥さて、中々厳しいね」

 後ろを取られないように周囲を警戒しつつ、仮染が呟く。

「ふんっ!! ラテン娘なめんじゃねぇっ!!
――メガエラッ!! ミネルヴァスタンバイ!!」

 だが、次第に高まる敵からの圧力に屈する事無く、綾河は自ら設計した愛機のAIに呼びかける。

『――標的補足、座標固定。3秒後にミネルヴァ発射です』
「‥‥いっけぇーっ!!」

 再び放たれる、ミネルヴァの光の奔流と同時に、タロスとゴーレム達も弾けるように行動を開始する。
――長い撤退戦が幕を開けた。



 熱帯雨林特有の濃い木々を利用し、敵は上下左右と巧みに攻撃を仕掛けてくる。
 そして隙あらば後方のクノスペ達目掛けて突撃しようと試みる。
 前衛班の四人はそれらの攻撃を必死に捌くと同時に、決して通してなるものかと、弾幕を展開する。

「このっ‥‥!! その中にいるのが何か知ってて攻撃してるのかな〜!?」

 額に汗を浮かべながらも、オルカは卑劣なバグアに対する怒りを燃やしながら、マルコキアスをゴーレム目掛けて叩きつける。
 四百発もの弾丸は、瞬時にその片足をグズグズの鉄屑に変えるが、ゴーレムは構わず慣性制御で突撃を続けた。
 再び狙いをつけるが、モニターの武器コンディションに表示される「empty」の文字。

「あっ‥‥こんな時にっ!?」

 すぐにリロードするが、その間にゴーレムは前衛の囲みを抜けていた。
 攻撃しようにも、射線が味方と重なり撃てず、武装を交換する時間も無い。

「ちくしょう、抜かれた‥‥ッ姐さーん! 頼みますっ!」

 瞬時に察した綾河は、後方に向かって叫ぶ。
 そこには、クノスペ直衛班の前衛を務める冴城 アスカ(gb4188)のシュテルン「Luzifer」がいた。

「オーケイれもんちゃん、丁度暇を持て余してたところよ♪
――さぁ、ハグ・キスはフリーで受け止めてあげるわよ‥‥ただしこの槍でね!!」

 言うが早いか、冴城は自ら設計したガンランスを構え、ゴーレムの剣を払うと、そのどてっ腹に穂先を叩き込む。
 そして引かれる引き鉄――砲弾が炸裂し、ゴーレムは内部から爆ぜて散った。

「――各機、俺の先導に従って後退を開始してくれ。
 奴らの攻撃は全て俺達が引き受ける」
『了解!! 頼りにしてるぜ、傭兵さん方!!』

 一方、四機のクノスペ達はカルマ・シュタット(ga6302)のシュテルン「ウシンディ」の先導の下、後退を開始する。
 その両脇を固めるのは、同じくシュテルン「空飛ぶ剣山号」に乗るエリアノーラ・カーゾン(ga9802)と、ペインブラッド「Nina」のアンナ・キンダーハイム(gc1170)。

「難民と、それを守る兵士‥‥か」

 エリアノーラの脳裏に浮かぶのは、難民キャンプをキメラの攻撃から守るために命を散らした父の顔。
 だから、という訳では無いけれど――、

「───護りきるわよ。絶対に」
「‥‥了解‥‥」

 その言葉に、アンナはぼそり、と囁くように答えを返す。
 それ以外彼女は言葉を話さない――その顔にかける純白のデスマスクに隠れ、その表情は窺い知れないが、その思考は周囲の状況を目まぐるしく分析していた。


――敵は多勢でありどれも個体性能は上‥‥しかも重力センサーによってこちらは丸見え。
 加えて、こちらには雛を抱えたクノスペや、ディスタンなどの足の遅い随伴機が多い。


――ならば。


 一瞬の間にそこまで思考すると、アンナは上空を見上げる。
 そこには、急降下しようとするHWの編隊の姿。
 その集団目掛けて、彼女はペインブラッドのフォトニッククラスターを解き放った。


――眩い閃光と共に熱波が上空を焼き、巻き込まれた木々の葉が縮れ、燃え、灰になる。


 思わぬ反撃を受けたHWは上空へと再び旋回して戻っていき、損傷の激しい機体はフラフラとバランスを崩す。

『止めは頼むぞ傭兵っ!!』
「任せなさい!!」

 それをリンクスが後方から狙い撃ち、続けてエリアノーラがスラスターライフルと十式高性能長距離バルカンを放って止めを刺す。


――結論。こちらの出現によって攻勢の削がれた敵の隙を突いての、迅速な撤退。


 そのために、アンナはただ黙して敵を撃ち、払い、その機を待つ。



 そして、数キロ後退した所で、ゴーレムの数は半分に減じ、上空のHWも通常仕様機の内三機が撃墜、若しくは撤退を余儀なくされていた。


――だが、上を抑えられている状態では傭兵達の不利は変わらない。



 上空からのHWによる激しい波状攻撃に、傭兵達の被弾が目立ち始めた。

『ぐあっ!!‥‥クソがっ!!』
「大丈夫か!?」
『問題‥‥はあるが、まだ戦えるさ。空の警戒は任せておけ』

そして空の敵への牽制を続けていたリンクスとディスタンもまた幾度も被弾し、次第に限界が近づいて来る。

「ぐぅっ!?」
『きゃああああああっ!!』
『うわああああああっ!?』

 そして、とうとうクノスペにも砲撃は襲い掛かった。
 プロトン砲の一撃に、クノスペの内の一機の肩が吹き飛ばされ、コンテナの中から避難民達の悲鳴が響き渡った。

「――これ以上はさせないっ!! 常時ブーストモード! フルドライブ!」

 反転し、再び攻撃を仕掛けてくる本星型に、前衛の仮染が咄嗟にブーストをかけて飛び込み、それ以上の攻撃を身を挺して防ぐ。
 通常のHWとは比べ物にならない出力の攻撃が突き刺さり、フェニックスの装甲が剥げ落ち、中の仮染の体がコクピットに打ち付けられた。

「ぐ‥‥ぅ‥‥回避できるからって、避けない選択肢が無い訳じゃねえんだよ!」

 仮染は歯を食い縛って耐えると、反撃のプラズマリボルバーを立て続けに放つ。

『やらせんぞバグアが!!』

 同時に反対側からディスタンが高分子レーザーを撃ち、支援する
 本星型はそれを強化FFを発動させて耐えた。
――だが、一瞬上昇のスピードが止まる。

「悪いが、通さないさ」

 その瞬間を、カルマは見逃さなかった。
 ツングースカが立て続けに火を噴き、次々と本星型の機体で爆ぜる。

「迂闊ね。いい的よ、あなた」
「‥‥同意‥‥」

 一度発動させた強化FFは一定時間解除出来ない。
 その特性を理解していたエリアノーラとアンナは、スラスターライフルとバルカン、アハトアハトとレーザーバルカンを一気に放ち、強化FFを次々と消耗させていった。

「――貫け、ウシンディ!!」

 そしてとうとう赤い光が無くなったのを見計らうと、カルマは武装をアグニに切り替え、なけなしの砲弾を一気に解き放つ。
 本星型は、機体の中央に風穴を空けられ、ジャングルの中へと落ちて行った。
 しかし、未だに上空にはもう一機の本星型が控えており、半数以上が健在だ。

「目障りね‥‥まとめてローストしてあげるわ」

 一気に急降下してくる複数のHWに対して、冴城はガンランスを構えて砲撃を開始した。



 一方地上の敵戦力は、とうとう最後のゴーレムが倒れ、残るはタロス一機のみ。
――しかし、対する前衛もかなりの損傷を受けていた。

「さっすが指揮官タロス‥‥」

 ぐっと歯を噛み締めて呟く綾河――彼女のバイルシュミットの左腕は、プロトン砲によって消し飛んでいる。

「‥‥一筋縄にはいきませんか」

 レイヴァーはタロスの攻撃の殆どをかわしていたが、最悪とも言って良い足場の上での戦闘の為バランスを崩す事もしばしばで、予想以上の疲労が彼を襲っていた。
 そのため、一度図らずも攻撃を受けてしまい、損傷率はそれだけで八割を廻っている。
――それ程までに、骸龍の装甲は薄いのだ。

「けど、もう一押しだよ〜!!」

 オルカのレプンカムイもアクティブアーマーの一つが脱落してしまっているが、元気に叫んで皆を鼓舞する。
 この最もクノスペに近い敵を排除出来れば、撤退の成功は大きく近づくのだ。


――一気に間合いを詰めてくるタロス。


「近づいてくれるなら好都合っ!!」

 それに対して、綾河は白雪を抜き放って応える。
 突き出された剣によって顔の装甲が剥がれ、内部の配線が剥き出しになるが、代わりに光の剣はタロスの腕を切り落とした。

「たぁーっ!!」

 同時にオルカが踏み込み、機鎌「リビティナ」を大上段に振りかざし、頭を瓜のように断ち割る。
――が、タロスはまだ動いている。
 だからオルカはすぐさま踏み込みの勢いを乗せて、思い切りローキックを放った。


――ガヅンッ!!


 それはFFによって遮られてダメージは通らないが、勢いまでは殺せず、大きくグラリ、とバランスを崩す。

「貰いましたよ!!」

 最後に放たれた、ブーストをかけたレイヴァーの突撃は、タロスの腹を半ば千切るように貫いた。
 何度か再生を行おうとしたのか、暫く蠢いていた生体部分も動きを止め、とうとうタロスは沈黙した。



 水の流れる大きな音が次第に近づいて来る――アマゾン川だ。
 この先を越えれば、人類側の領域となる。

「良し!! 今が機だ!! 撤退するぞ!!」

 マップを表示すると共に、地上の敵戦力が殲滅されたのを確認すると、カルマはそう判断を下した。

「OKれもんちゃん!! 一発どデカいのを頼むわ!!」
「任せといてっ!! メガエラ!! 最後の一発かますわよっ!!」
『――ミネルヴァスタンバイ。これ以降は使用を制限』

 冴城の言葉に応え、綾河は上空目掛けてミネルヴァの砲口を向け、一気に解き放つ。
 凄まじい勢いで放たれた光条は、一機のHWを巻き込みながら天を貫いた。

「クノスペは俺達の後に続いてくれ!!」
『了解だ!!』

 クノスペを守るように、仮染のフェニックスが空へと飛び立つ。
――度重なる戦闘によって、辺りはかなりならされ、離陸には殆ど支障は無い。
 それに続けてクノスペもVTOL機能を使い、後に続いた。



――だが、KVが最も弱いのは、離着陸の時。



 そして、傭兵達は防衛と敵の撃退に苦心するが余り、最後に集中力を途切らせてしまった。
 それをHWが見逃す筈も無い。

「レイヴァーっ!! 上っ!!」
「‥‥っ!?」

 今正に飛び立とうとしていたレイヴァーが、エリアノーラの警告に上を向くと、そこには桃色の光を砲口に輝かせたHWの姿。
――離陸途中であるため避ける事は出来ず、損傷率から考えれば、撃墜は免れない。

『やらせるかああああああああっ!!』

 だが、そこに飛び出した影が一つ――それは、満身創痍のディスタンだった。



――そしてほぼ同時に放たれたプロトン砲は、銀色の機体を貫き、爆散させた。



 光はコクピットを直撃しており、おそらくは即死であったろう。

「――――ッ!!!!」

 声にならない叫びを上げて、アンナの砲撃がHWを落とす。
――しかし、憎き仇を落としても、ディスタンのパイロットの命は戻らない。
 更に、傭兵達が動揺した所に次々と叩き込まれる、本星型の強力な攻撃。

『ぐあああああっ!!』

 それは最後まで空への警戒を続けていたリンクスへと直撃し、下半身の殆どが打ち砕かれる。

「‥‥っ!? おじさんっ!!」
『あ‥‥ぶねぇ‥‥ぞ‥‥ボウズっ!!』

 オルカが咄嗟に駆け寄ろうとするが、リンクスのパイロットはライフルを彼の背後目掛けて放った。
 上空から近付いていたHWが、砲弾を受けてバランスを崩す。
 そして、レプンカムイ目掛けて放たれようとしていたミサイルは、代わりにリンクスへと直撃した。
――辺り一面を、爆炎が飲み込み、リンクスはパイロットごと灰と鉄屑へと変じる。

「おじさ‥‥うわああああああああっ!?」
「許しません‥‥貴方達は絶対にっ!!」

 レイヴァーとオルカは激昂、敵へと砲口を向けようとするが、それを必死にカルマが抑える。

「撤退するんだ!! 彼らの死を‥‥無駄には出来ん‥‥っ!!」

 残る敵は本星型を含めたHWの編隊四機。
 それらを相手にするには‥‥傭兵達はあまりに消耗しすぎていた。

「‥‥了‥‥解っ!!」
「撤退‥‥致します‥‥」

 その言葉に、二人は頷くしか無かった。



 クノスペと、それに乗る避難民・傷病兵達の全員が生還に成功し、作戦は成功を収めたと言える。
‥‥しかし、凱旋した傭兵達の顔に笑顔は無かった。