●オープニング本文

「うふふふふ‥‥♪　ひ、久々にここに来た気がするわぁ‥‥」

　陰鬱な笑みを浮かべながら、長髪を靡かせた美しい少女がとある欧州の町を楽しげに歩いていた。
　雰囲気が暗い事を除けばごく普通の少女のように見えるが、見る者が見ればその一挙手一投足には一切の隙も見当たらない事に気付いただろう。


――彼女こそ、歴戦の傭兵にしてショタっ子ハンター、アン・グレーデンである。


　この日彼女は久々にラストホープを離れ、故郷であるこの町を訪れたのであった。
　故郷‥‥とは言っても、彼女は元々孤児であり、何処で生まれたか、誰が親なのかも知らないのだが、暇があればここを訪れ、依頼で稼いだ報酬をいくらか寄付しに来るのだ。



「‥‥こ、こんにちはぁ♪」
「お！？　アンちゃんじゃねぇか久しぶりだなぁ！！
――おっと、ウチの息子には近づかないでくれよ？」
「‥‥ちぇ‥‥あ、相変わらず皆ガードが硬いわぁ‥‥」
「ははは、そりゃ慣れてるからなぁ」

　独り言をぶつぶつと呟きながら怪しく笑うホラーチックなアンを見れば、普通の人間ならば近づかないように遠ざかる所だが、幼い頃から彼女を知るこの町の住人は、にこやかに‥‥そして息子がいる場合は決して近づけさせないように、朗らかに挨拶を交わしてくれる。
　そんな空気が、アンは大好きなのだ――可愛い男の子の次ぐらいに。



　郊外へと暫く歩くと、小さな孤児院が姿を現した。

「まぁまぁまぁ！！　久しぶりねぇアン！！　元気そうじゃないの！！」
「――お久しぶり先生。そっちも元気そうで何よりだわぁ」

　その門の前では、恰幅の良い人のよさそうな五十代ほどの女性が、アンを迎えてくれる。
　彼女がこの孤児院の院長であり、アンの親代わりであった人物だ。
　アンは彼女に対して、にっこりと花のような笑顔を浮かべ、深々と丁寧にお辞儀をして応えた。
――その口調にはいつもの卑屈な様子は無く、声も彼女が本来持つ鈴のようなものに変わっている。
　普段は人見知りが激しいせいで怪しい口調になっているが、これが本来の彼女のしゃべり方なのだ。



「あー！！　アンおねえちゃんだ！！」
「おねーちゃん！！　おみやげ！！　おみやげは！？」
「ほらほら、そんなに急かさなくても沢山あるわよぉ」

　そしてその後ろからは、何人もの少年少女達がアンの姿を見て飛び出して来た。
　中には彼女にとってストライクな年齢層の男の子達もいたが、襲い掛かったりするような素振りは一切見せない。


‥‥流石の彼女も、家族に欲情はしないのである。


　群がってくる子供達をあしらいつつ、院長と世間話を続けていたアンだったが、ふと孤児院の様子がいつもと違う事に気付いた。

「‥‥そう言えばシスター――いつもと比べたら大分静かねぇ？」

　そう、いつもはこの数倍はやかましい筈の子供のはしゃぎ声が、いつもの半分ぐらいしか聞こえて来ないのである。
　アンの言葉にシスターは少し寂しげに、だが嬉しそうに答えた。

「ええ、実を言うとここ最近貴女の仕送りがあっても正直うちは苦しくてね‥‥。
　だけど、ここ最近になって子供達を預かってくれて、その上里親も探してくれるって人達が名乗り出てくれたのよ」
「へぇ‥‥このご時勢に随分と親切ねぇ。なんて言う人達なのぉ？」
「ええ、それがね‥‥」

　紅茶を飲みながらにこやかに相槌を打っていたアンだったが、その団体の名前を聞いた瞬間、ぴくり、と目を見開いた。

「――ごめんなさぁい、先生。ちょっと用事を思い出したわぁ」
「あら残念ね‥‥もう少しゆっくりしていけばいいのに」
「ごめんねぇ‥‥『急ぎの用事』だからぁ‥‥」

　そういい残して孤児院を後にするアン――その顔は、正に歴戦の傭兵の殺気を纏っていた。



――ホーキンス商会。



　表向きは慈善事業などに力を入れる貿易会社だが、傭兵達や『その道の者達』の間では曰く付きの団体である。
　貿易会社という立場を隠れ蓑に、非合法なものまで扱っていると噂がたっていたのだ。


　例えば麻薬、武器、希少生物、例えば‥‥幼い子供達の体。


　アン自身、いつか（ピーっ！！）してやろうとは思っていたのだが、中々巡り合う機会が無かったので手を出さずにいたのだが‥‥。

「‥‥うふ、うふふ‥‥うふふふふふふふふふふふふふふふふ‥‥」

　町の路地に不気味な笑い声が響き渡る。



――この瞬間、ホーキンス商会の運命は決した。



「出して！！　出してよおっ！！」
「おうちに‥‥おうちにかえしてよぉ‥‥」

　薄暗い地下室に、子供達の悲痛な叫びが木霊する。

「うるせぇぞガキ共っ！！　殺されてぇか！！」

　見張りらしきチンピラ然とした男の怒声に子供達は叫ぶのを止めたが、すすり泣きの声が止む事は無かった。

「‥‥しかし、今回のトコの孤児院は随分とコロリと騙されてくれやしたねぇ？」
「ああ、きっと人がいいんだろう――可愛い可愛い子供達が、変態共や外道共に売り捌かれるとも知らずによ？」
「ギャハハハハハハッ！！　ああお可哀想に！！　ギャハハハハハハッ！！」

　大声で下品に笑い出す男達――中には、能力者も混ざっているようだ。
　そんな時、檻の中に入れられていた少年が震える声で叫んだ。

「‥‥き、きっとおねえちゃんが助けに来てくれるもんっ！！
　お、お前らなんかやっつけてくれるぞっ！！」

　その声に一瞬ポカンとすると、再び爆発するように笑い出す男達。

「ギャハハハハハッ！！　そりゃいいや！！　そしたらそのおねえちゃんも可愛がってやるよ！！」


――ジリリリリリリンッ！！


　その時、部屋の隅に置いてあった電話のベルが高らかに鳴った。
　リーダー格らしき男が顎をしゃくると、下っ端がそれを取る。

「毎度ありがとうございます。ホーキンス商会でござ――」
『‥‥うふふふふふ‥‥おねえちゃん見ざぁん‥‥うふふふふふふ‥‥♪』
「‥‥っ！？」
『‥‥もしもしぃ‥‥私おねぇちゃん‥‥今あなたの家の入り口にいるのぉ‥‥。
　そこで待っててねぇ‥‥うふふふふふ‥‥』

　そして唐突にぶつり、と切れる電話。



「‥‥‥‥」



――訳が分からない。



　分からないが、男達は悟った‥‥今日が自分達の命日だと。



「うふふふふ‥‥じゃあ行きましょみんなぁ‥‥うふふふふふ‥‥♪」

　一方その頃ホーキンス商会の入り口には、アンと傭兵たちの姿があった。
　いきなり理由も聞かされず「依頼がある」と呼ばれ、強引にここまで連れてこられたのだ。
　無論抵抗を試みた者もいた。
　しかし――



『‥‥千切られるか、叩き潰されるか、「握り潰される」か‥‥どれがいーいぃ‥‥？』



――という呟きに、成す術も無かった‥‥特に男は。



　そんな訳で、子供達（主にショタっ子）を守るため、悪の巣窟潰しが始まったのだった。

●参加者一覧

●リプレイ本文

「お、おい‥‥どどどどどうする！？」
「落ち着けっ！！　まずは用心棒共に連絡を‥‥！！」

　電話が切れた後、ホーキンス商会の幹部達は体の震えを抑えるのに必死になっていた。
　慌しく動き出す屋敷の中――しかし、数分後‥‥、

「――離せー！！　離せにゃー！！　ボクはただジャック君に会いに来ただけにゃー！！」
「‥‥そ、そうなのっ！！　な、何で里親を紹介してくれる人がこんな‥‥！！」

――用心棒達が連れてきたのは、共に銀髪の少年と少女であった。

「‥‥あぁ！？　何だぁこのガキ共！？」
「はぁ‥‥それが、いきなり『友達に合わせろ』とか言って駄々こねて、追い出そうとしたら暴れだしまして‥‥」

　話によると、どうやら二人は『商品』の子供の友人であり、遠くに行く彼らにお別れを言いに来たのだそうだ。
　それを聞いた幹部達は「おどかしやがって‥‥」と溜息を吐くと、二人を他の子供達と同じく檻の中に放り投げる。


――この騒動が終わったら、こいつらも商品にすればいい。


　そう考えていた幹部達だったが、それは大きな間違いである事に気付かない。

（ふっふっふ‥‥上手くいったにゃー‥‥）
（後は機会を待つばかり‥‥なの）

　自分達の思惑通りの展開に、少年と少女――白虎（ga9191）とファリス（gb9339）はほくそ笑むのだった。



――その頃玄関のロビー前には、八人程の用心棒達がいた。
　騒動が起こった事で、明らかに警戒を緩める用心棒達‥‥その隙を逃す傭兵達では無かった。


――ドガァッ！！


　轟音を立てて蹴破られるドア。
　それは木の葉のように宙を舞い、数人の護衛をなぎ倒して止まる。

「いたいけな子供を甘言で騙して売り飛ばす‥‥。
――貴様ら‥‥やってはいい事と悪い事の区別がつかないようだな‥‥！」

　それを成したのは堺・清四郎（gb3564）。
　白刃の鯉口を切りながら、ギラリと光るその眼光は、用心棒達の心と体を凍りつかせた。
　その動揺が収まる前に、一気に踏み込む黒い影――それは手近な男の鳩尾に羅刹の柄をめり込ませる。

「げ‥‥ぇ‥‥？」
「‥‥悪いけど‥‥容赦はしないわよ‥‥？」

　崩れ落ちる用心棒を絶対零度の瞳で見下ろすのは紅　アリカ（ga8708）。

「‥‥の、能力者‥‥だと‥‥！？」
「ひ、ひいいっ！！」

　用心棒達はそこでようやく自失から立ち直り、自分達を襲う彼らが尋常の者達で無い事を認識すると、慌てて広間の正面の階段を駆け上がって逃げようとする。

「‥‥何処へ行くつもりだ？」

　だが、その横を風が走りぬけたかと思うと、一瞬にして彼らの目の前にリディス（ga0022）が立ち塞がった。
　その速さはまるで瞬間移動――その動きの凄まじさに、再び凍りつく用心棒達。


　だが、今度は彼らに自失の時間は与えられなかった。


　あっという間に一人がリディスに組み伏されると同時に、肩の関節を外されて悶絶する。
　そして背後から一気に接近した宵藍（gb4961）の顎を打ち抜くかのような肘打ちを受け、更に一人が沈む。

「ひ、ひいいいいっ！！」
「ぬるいな。そんな攻撃掠りもしないぞ？」

　傍らの男はすっかり混乱し、まるで駄々をこねる子供のようにナイフを振り回すが、回し蹴りで弾かれ、すかさず翻った踵を頭頂に受けて意識を断ち切られた。

「あ、あわわわわっ‥‥」

　残る一人は、転がり落ちるかの如く階段を降りて逃げようとするが、その前にはにっこりと笑う幡多野　克（ga0444）がいる。

「ど、どきやが――！！」

　用心棒は咄嗟に拳銃を抜き放って突きつけ‥‥ようとしたのだが、


――グシャッ！！


　幡多野の手が目にも留まらぬスピードで跳ね上がったかと思うと、豪力発現で底上げした怪力で、拳銃を握り潰すようにバラバラにした。

「こんな武器‥‥能力者には何の役にも立たない‥‥まだ‥‥やる？」

　傍らに立つ仲間達と同様に、彼の目もまた怒りによって光っていた。
‥‥ただし、彼の場合お気に入りのケーキを食べる直前に呼び出された事による八つ当たりも含まれていたりする。

「‥‥へ‥‥は‥‥ぁ‥‥」

――最早、彼には戦意の欠片すらも残っていなかった。



「‥‥あらぁ‥‥？　も、もう終わっちゃったのぉ‥‥つまんなぁい‥‥」

　そこでようやく、傭兵達の依頼主であるアンが堺の蹴り破った玄関の隙間から現れる。
　その背後には、ミリハナク（gc4008）がぎゅうっと抱きついていた。
　白虎とファリスの二人が囮として潜入する前に、暴走した彼女が突っ込まないようにするために措置だったのだが‥‥、

「‥‥んぅ‥‥そ、そろそろ離れてぇ‥‥」
「あら？　これは失礼しましたわ――ふふふ、役得役得」

　顔を真っ赤にしながら身を捩るアンの言葉に、ホホホ、と笑いながら離れるミリハナク。
　その実、ミリハナクの手は密かにアンの体のあちこちをまさぐっていた。
――そのおかげかどうか分からないが、その顔はつやつやと輝いている。

「――ま、まぁそれは置いといて、だ。応援も来るだろうから、手早く済まそう」

　こほん、と咳払いをしてから、宵藍は尻餅を突いた用心棒に向けて月詠を突きつけた。

「あまり時間がかかると、うっかり手が滑るかもしれないな。
‥‥で、子供達は何処だ？」

　にっこりと笑いながらの言葉に、男はようやく口を開いた。

「お、お前ら！！　こ、こんな事をして只で済むと思うなよ！？
　おおお俺達のバックに誰がついていると思ってやがる！！」

　如何にも三下のような事を叫び始める用心棒――しかし、それは炸裂した一発の銃声によって遮られる。
　男の頬が浅く裂け、すぐ隣の床にはS−01による穴が開いていた。

「‥‥まだ自分の立場がわかっていないようね。次は頭を撃ち抜くわよ？」

　アリカはまるでマグマのような怒りを瞳に湛えながら、最後通告とばかりに再び銃口を向ける。

「へ‥‥へっ！！　こ、殺すなら殺しやがれっ！！
　ただしその時はてめぇらは一般人を虐殺した犯罪者だっ！！」

　だが、それが逆に男の覚悟を決めさせてしまったのか、引きつった笑みを浮かべてゲラゲラと笑いだした。

「ほう‥‥そうか‥‥そんなにこの獅子牡丹の白刃の輝きが見たいようだな‥‥」

　その言葉に、堺が目を血走らせつつ白刃を抜き放つ。


――しかし、それをアンがそっと抑えた。


　そしてそのまま覆いかぶさるように男の顔を覗き込む。

「ひ‥‥！？」

　長い髪の向こうに見える表情‥‥そこには、不気味な笑みはおろか、感情すら浮かんでいない。
　ただ、爛々と紅の瞳だけが光っていた。



「――ソ　ノ　粗　末　ナ　○　○　○　ミ　ン　チ　ニ　サ　レ　テ　エ　カ　？」



「地下ですっ！！　一番奥の部屋に入り口とレバーがありますっ！！」

――男の雄としての生存本能が、反射的に口を開かせる。
　それを聞いて満足げに頷くと、アンはいつも通りの笑みで傭兵達に向き直った。

「‥‥うふふふ、ですってぇ‥‥行きましょうみんなぁ‥‥♪」
（怖ぇえええええええっ！！）

　男性陣三人は、体中からかいた事の無いような汗が噴き出すのを感じた。
　女性陣は少し気まずそうに顔を赤らめて視線を外す。


‥‥ミリハナクの顔だけ、弱冠別のベクトルで赤くなっているような気がするが、きっと気のせいだろう。


　そんな事をしている内に、ようやくこの騒ぎを聞きつけたのか、奥から複数人の足音が向かってくるのが聞こえた。

（アンの噂は聞いていたし、今回の連行とさっきので恐ろしいのがよく分かった。
――そんなアンを敵に回すとは‥‥終わったな、ホーキンス商会）

　今度は我先にと、指の又に十数本もの包丁を持ちつつ突っ込んで行くアンの背中を見つめながら、宵藍はそう感じていた。

「‥‥かと言って、同情はしないけどな！！」

　そう一声叫ぶと、負けじと華麗な飛び膝蹴りを先頭の男に叩き込んだ。



「おいっ！！　早くデータ移せっ！！」
「んな事言っても‥‥し、消去しちまった方が‥‥」
「馬鹿っ！！　それじゃこの先商売出来ないだろうがっ！！」

　用心棒の数人は、幹部達の命令で、端末から今までの闇取引のデータを移そうと試みていた。


――だが、彼らの間違いは、まだ自分達に『先』があると考えていた事だろう。

「――あら、ビンゴでしたわね？」

　それを分からせるかのように、扉がこじ開けられ、そこからミリハナクが姿を現す。

「で、出たぁっ！？」

　悲鳴を上げながら拳銃を抜き放ち、乱射する用心棒達。
　しかし、ミリハナクはそれらを敢えて避けずに全てを受け止める。
　覚醒によって強化された皮膚はそれらの多くを弾き、傷ついたとしても活性化によって見る見る内に塞がっていった。

「あらあら、服を汚した弁償はして下さるのかしら？」
「おごっ！！」
「ぶべっ！！」

　そして起動させない機械拳「クルセイド」でビンタを食らわせ、沈黙させる。
　あっという間に用心棒達は残る一人となり、ミリハナクは彼の襟首を掴んで拘束した。

「さて、他にも悪事の証拠の場所を教えてくださらないかしら？
　お礼に天国の一歩手前までにも連れて行ってあげますわよ」
「は‥‥はいぃ‥‥」

　眼前数ミリまでに突きつけられた苦無に、彼は大人しく白状するしか無かった。



『ぎゃああああああああっ！！』
『誰か‥‥助‥‥っ！？』
『応援を！！　誰でもいい！！　応援――』

　次々と無線から聞こえて来ては途切れていく用心棒達の悲鳴。
　その声にようやく事の重大さを理解したのか、幹部達は顔を真っ青にし始めた。

「‥‥せ、先生方！！　頼みます！！　こういう時のためのあんた達だ！！」
「――ようやく出番かよ。待ちくたびれたぜ」

　幹部の言葉に、のっそりと起き上がる巨漢の男――どうやらファイターのようだ。
　そして彼らは仲間達を連れて地下室を出て行く。
　その背は自信に満ち溢れていた。

「‥‥へ、へへへ‥‥能力者には能力者ってな‥‥」
「こういう時のために雇ってて助かったぜ‥‥」

　早くも安心したように笑い出す幹部達――だが、そこに突然背後から声が掛けられる。

「‥‥ふっふっふ‥‥そうイカの何とやらだにゃー」


――ヴォン！！


　そして檻から光り輝くレーザーの刀身が突き出されたかと思うと、それは鉄格子を容易く切り裂き、人一人が潜れる程の穴を作り出した。
　それを成したのは、幹部達が先程捕らえた少年――白虎であった。

「なっ‥‥！？　てめぇも能力者だったのかっ！？」

　悲鳴を上げながら後退りをする幹部達だったが、その中の一人が咄嗟に檻の中の子供達に銃を向ける。
　如何に能力者とは言え、人質さえ取ってしまえばこちらのもの――その考えに間違いは無かったが、彼はもう一つのイレギュラーの存在を忘れていた。

「させないですのっ！！」

　白虎とは別に檻の中から飛び出した少女――ファリスが飛び出し、男にタックルをかける。

「ぶべらっ！？」

　ただの子供のタックルとは侮る無かれ、覚醒した彼女の勢いは幹部達にとっては砲弾の如し。
　一気に反対側の壁まで吹き飛び、椅子や机を薙ぎ倒した。

「尻に向かって抉りこむように打つべし！　打つべし！　打つべしっ！」
「そ、そんなの入らっ‥‥アッ―――！？」

　そして白虎も負けじと二人の幹部を叩きのめすと、倒れたその尻に何処に隠していたのか巨大注射器を突き刺してノックアウトしていく。

「ひ、ひいいいいいいっ！？」

　悲鳴を上げて逃げて行く幹部達。
　だが二人はそれを追わず、子供達を檻の中から助け出す事を優先させる。

「二人とも‥‥もしかして、お姉ちゃんの友達？」
「そうだにゃー。もう安心だぞ皆」

　少年の言葉に、えっへんと胸を張る白虎。
　それを聞いた子供達はわっ！！　と歓声を上げた。

「すげー！！　こんな強い人達と友達なんて、やっぱりお姉ちゃんってかっこいいなー！！」
「やっぱりあこがれちゃう！！　あたしもおねえちゃんみたいになりたい！！」
「あー‥‥ウン‥‥ソウダネ‥‥」

　子供達の無邪気な表情に、何処か遠い目をする白虎。
‥‥この子達だけは、『あんなの』になって欲しくはないが、それを口には出来なかった。

「？」

　アンの本性を知らないファリスは、怪訝な顔をしていたが。



　そして地下室への階段が隠された部屋では、傭兵達とチンピラ能力者達の戦いが繰り広げられていた。

「舐めるな雑魚がぁっ！！」

　堺が獅子牡丹を振るうと、部屋の中に不快な鈍い音が響き渡った。

「うぎゃああああああっ！！」

　同時に、へし折れた腕から剣を取り落として絶叫するチンピラ能力者。

「助け‥‥助けてく‥‥」
「許して、帰してといった相手にお前はどうした？」
「へ‥‥？」

　地を這いながら許しを請うチンピラ‥‥しかし、堺はその手に容赦無く峰を叩き落した。
　みちり、と嫌な音を立ててへし折れるもう一本の腕。

「ミギャアアアアアアっ！？」
「――喧しいっ！！」

　再び絶叫を上げるチンピラだったが、堺はその顎を死なない程度に蹴り砕く事で応えた。



「‥‥子供達を道具としか見てない貴方達に、生きている資格はないわ。
‥‥さぁ、貴方の罪を数えなさい！」

　宣言すると同時に、アリカは一気に踏み込むと、両手の名刀「羅刹」と、自ら設計した黒刀【黒羽ノ刃】を振るい、血を流させる事無く打ちのめし、地面に口づけさせていく。
　傭兵達の攻撃には容赦は一切無いが、しかし決して殺す事無く、チンピラ達を沈黙させていく。
‥‥凄まじい激痛に身を捩りながら、チンピラ達は思った。



――死んだ方がマシだ、と。



　そして、チンピラ達を叩きのめすのとほぼ同時に、部屋の隅の床がスライドし、慌てた様子で男達が飛び出してくる。

「――そんなに慌てる事はあるまい‥‥時間はたっぷりとあるのだからな？」

　リディスは彼らの前に立ち塞がると、にっこりと微笑みかけた。



――それは、自らの快楽のためにいたいけな子供たちを食い物にしてきたホーキンス商会の最期を告げる死神の笑みであった。



「白虎くぅ〜ん‥‥心配したわぁ‥‥うふふふふ‥‥」
「し、しまった！！　そう言えばショタっ子って僕だけ‥‥っ！！
　キリーおねえちゃぁ――ん、たすけーアッ――――！！」
「ふふふっ、アンお姉様と白虎さん、凄く仲良しなの」
「ど、何処を見ればそんな結論が‥‥っ！？　やめてー耳ハミハミしないでー！！」

‥‥と、繰り広げられるお約束な光景の裏で、傭兵達は子供達を助け出し、集めた資料を纏めて証拠とすると共に、警察を呼んで事後を任せる事にした。

「さて‥‥警察が来るまで暫くかかりますね。ここからが本番です」

　リディスは縛り上げられた商会の男達の前に拳を鳴らしながら歩み寄る。
　その表情はアンとはまた違ったベクトルで恐ろしい、鬼のような形相。

「‥‥貴様等、子供たちにしてきたことをそのまま返してやろうか‥‥？
　どれだけ子供たちが素晴らしいものか理解できるようにしてやろう‥‥」

　そして最後ににこり、と微笑んだ。



「先生は手加減しませんよ‥‥？」



――魂消るような悲鳴が、暁の空に響き渡った。