●リプレイ本文
森に子供が置き去りにされた事、そしてそれを助け(?)ようとアンが出発した事を知った傭兵達は、高速移動艇にて現場へと急いでいた。
「まずは子供の安全が第一、色々な意味で死守せねば‥‥」
窓から下を見下ろしながら、米本 剛(
gb0843)が呟く。
「アンさんの実力なら無事だと思うのですが、数も多いみたいですし少し心配ですね‥‥」
彼の言葉に張 天莉(
gc3344)も頷くが、彼にはまた別の懸念があった。
――救出対象が少年であり、アンがそういったショタっ子が大好きであるという事実。
「早く行かないと僕より年下の子が危ない! キメラよりも危ない存在な気がするよ〜!!」
オルカ・スパイホップ(
gc1882)も焦ったように叫ぶ。
どちらかと言うとそのベクトルは「アンの脅威」の方に多く向けられている。
「子供の危機(?)を守るために行きますか。
‥‥自分がどうなるかは分からないけど」
知り合いがいるから、という理由でこの依頼をなんとなく受けてしまった紫翠 瀬良(
gc1079)は、早くもこの依頼に参加した事を後悔し始めていた。
一方、中にはのほほんと笑ったり、全く依頼とは関係ない理由で熱くなっていたりする者達もいる。
「何時もながらアンちゃんは嗅覚が鋭いわねー。
『可愛らしい』『小さな男の子』を助けるために飛び出して行っちゃうなんて」
アンと(趣味的な意味で)仲が良い樹・籐子(
gc0214)が楽しげにコロコロと笑う。
「‥‥捕獲者を捕獲対象にするなんて何だかゾクゾクしますね」
そして、同じく何かを企みながらほくそ笑む二条 更紗(
gb1862)。
「‥‥私は年上の方がいいけどな」
――瓜生 巴(
ga5119)はぽつり、と自らの性癖を明かすが、誰も聞いちゃいなかった。
「うおおおおおっ!! 下ろせ!! 下ろせええええっ!!」
――目的地が近付く中、ビッグ・ロシウェル(
ga9207)はバンバンと窓ガラスを叩き続ける。
「女の子に付き纏われているリア充がいるって聞いてきたのに‥‥アンさんじゃねぇか!!
謀ったな総帥――――っ!!」
「はいはい、そろそろ目的地に着きますから落ち着いて下さいビッグさん」
彼と同じくしっと団の一員である張は、何時もの事とばかりに冷静に彼を抑え付けた。
「‥‥大丈夫かこいつら?」
「‥‥俺が知るか」
高速移動艇のパイロット達は、傭兵達を見てそんな会話を交わしたという。
――しかし、現場に着くや否や、傭兵達は迅速に行動を開始した。
「山小屋はこちらですな‥‥行きましょう!!」
「了解です!!」
米本の号令と共に、二条、樹、天莉ら――B班が続き、キメラとアンに先んじて少年が避難していると思われる山小屋へと向かい、彼の確保及び救助を目指す。
「オルカさん、今回は宜しくお願いしますね」
「うん〜、こちらこそ〜‥‥絶対無事に帰ろうね〜‥‥色んな意味で」
「‥‥うぅ‥‥こうなったらもう腹括るか‥‥」
一方アンと合流してキメラを殲滅しつつ、『体を張って時間稼ぎ』をするA班のビッグ、オルカの表情は暗澹としていた。
「‥‥?」
自分が『標的』にされかねない事を自覚していない紫翠は、そんな二人を見て怪訝そうに首を傾げた。
「まぁ、頑張ってください」
射程圏外の瓜生は、生暖かい笑みでそれを見つめていた。
アンとの合流を目指すA班だったが、思いの外その痕跡を追うのは容易かった。
――何せ至る所に様々な種類のキメラの死骸が転がっているのだ。
そのどれもが情報には無いキメラだ‥‥おそらくこの周辺は、人知れず大規模なキメラの巣と化していたのだろう。
「‥‥つ、強いのは知ってたけど、凄いな〜」
「確かに、これを一人でやったんだとしたら大したものですね‥‥」
オルカと紫翠が感慨深げに呟いた。
――キメラの傷を見れば、その技量がかなりの物と分かる。
「‥‥え? 僕こんなの相手にすんの?」
それを見たビッグはあからさまに顔を青褪めさせる。
「ですけど、これだけの数を相手にしたら流石のアンさんも疲弊してる筈です。
急いだ方がいいでしょうね」
エネルギーガンを抜き放ちつつ、瓜生が皆に警戒を促す。
何故なら、前方から激しい剣戟と雷のような音が聞こえてきたからだ。
一斉に覚醒し、森を駆ける傭兵達‥‥が、目の前に飛び込んできた光景に呆気に取られた。
「‥‥うふ♪」
アンが指の股に挟んだ数本の包丁が凄まじい勢いで投擲され、狼型キメラを滅多刺しにする。
「‥‥うふふ♪」
空中から躍り掛かった甲虫形キメラは、禍々しいデザインのウサギ型超機械から吐き出された電撃で全身をボイルされた。
それを最後に、その場にいたキメラ達は全て肉片と化す。
‥‥心配してたのがアホらしくなる程の完勝である。
「じ、邪魔したあなた達が悪いのよぉ‥‥うふふふふ」
キメラの血と体液に塗れたまま笑う姿は、まるでホラー映画のワンシーンのようだ。
「「「「うわぁ‥‥」」」」
その声に気付いたのか、くるりとアンが振り向く。
そして傭兵達を見つけると、満面の笑みのまま物凄いスピードでにじり寄ってきた。
「‥‥あ、あらぁ‥‥? お、オルカ君にビッグ君じゃなぁい♪」
「きぃーやぁー!! きたぁあああああ!!」
ビッグは咄嗟に逃げようとするが、アンのスピードは尋常では無く、あっと言う間に捕捉される。
「こうなたっら‥‥みんな道連れだぁー!!」
「何やってるんですか!?」
逃げ切れないと判断したのか、ビッグは傍らのオルカと紫翠を盾にして死なば諸共とばかりにしがみついた。
「あ、アンさーん〜‥‥お久しぶりです〜‥‥あの、覚えてますか〜?」
「‥‥わ、忘れてる訳無いじゃなぁい♪」
オルカが若干震える声で挨拶すると、嬉しそうに抱きすくめてくる。
一瞬ときめきそうになるのだが、時折聞こえてくる「は、半ズボン‥‥ハァハァ」とか、「へ、ヘソだし‥‥うふふ」とかいう声と荒い息遣いがそれをキャンセルする。
「そ、そしてこっちの子は初対面ねぇ‥‥うふふふふふ」
「紫翠っていいます‥‥あの‥‥えっ?」
何が何だか分からないまま、同じように抱き締められ、髪の毛を弄られ、頬ずりされる紫翠。
「それにビッグ君もぉ‥‥うふふふふ」
「ぎゃああああアッー!!」
そしてとうとうビッグの耳たぶがハミハミされ始めた所で、瓜生が割って入った。
「‥‥そこら辺にして自重して下さい。子供を助けなくちゃいけないんですから」
「‥‥あ、あなた、だぁれぇ‥‥?」
「どうも、お邪魔虫‥‥じゃなくて、瓜生 巴と申します」
射抜くようなアンの視線を、挑戦的な瞳で瓜生が返し、両者の間で火花が散る。
一触即発の空気に、オルカが「あわわ」と慌てたように身を震わせる。
「そ、そうねぇ‥‥ちょっと残念だけどぉ‥‥」
しかし、瓜生の言葉は正論であるため、アンは素直に引き下がった。
(‥‥まぁ、図らずも時間は稼げましたが)
山小屋に向かう道中、相変わらずショタっ子三人にちょっかいをかけるアンを見て、瓜生は溜息を吐いた。
その頃B班は、レッドキャップスの小規模な群れと刃を交えていた。
「ぬうんっ!!」
――斬っ!!
米本の両手に握られた天魔の一閃が、赤い帽子を被った醜悪な小人――レッドキャップスを輪切りにする。
「‥‥シッ!!」
それでも果敢に斧を振り上げるレッドキャップス目掛けて、素早く踏み込んだ天莉のマーシナリーシールドによるシールドバッシュが襲う。
殴りつけられよろめいた所に、スティングヴェンドの爪が頭に突き刺さった。
「‥‥あは♪」
そして楽しげな表情をしながら、そのまま引き裂くように振り下ろす。
――鮮血が飛び散り、天莉の覚醒によって黒くなった髪に降り注いだ。
――キィッ!!
不利を悟り、残る一匹が逃げようとするが、背中を銃弾によって貫かれる。
「残念♪ お姉ちゃんは逃がさないわよ」
樹の強撃弾による狙撃だ。
「委細構わず突貫‥‥刺し、穿ち、貫け!!」
動きが止まった所を、リンドヴルムを纏った二条が飛び出す。
龍の翼で一気に間合いを詰め、苦し紛れの斧を龍の鱗で弾き――龍の角で強化されたユビルスの黄色い穂先がキメラの心臓を貫いていた。
そして程無くして山小屋は見つかった。
――慎重に近付いて、ゆっくりと扉を開ける。
「ひっ‥‥!!」
押し殺したような悲鳴――そこに子供はいた。
「助けに来たわよ、大丈夫?」
樹がすぐに怖がらせないように優しく声をかける。
少年は泥だらけで、あちこちに草や木の葉がこびりついているが、怪我は擦り傷や痣程度で命には別状は無いようだ。
「あ、そだ、喉乾きません?
今日は色々持ってきたんですよー♪
ミネラルウォーターとー、スポーツドリンクとー、乳酸菌飲料とー、ミックスジュース! ‥‥どれが良いですか?」
「‥‥ミックスジュース」
天莉が色取り取りの飲料を差し出すと、少年はミックスジュースを選び、飲み始める。
――すると、ようやく実感が沸いて来たのか、じわり、と涙が溢れ、泣き始めた。
「ひっ‥‥く‥‥えぐっ‥‥!!」
「よしよし怖かったわね‥‥もう大丈夫よ」
蘇生術をかけて少年の傷を癒しながら、樹は彼を優しく抱き締める。
(‥‥ん、可愛い子はいいわね)
――ただし、その手は少年の全身のあちこちをまさぐっていたが。
その内にA班から連絡が入った。
『こちらA班、アンさんと合流して、もうすぐそっちに着きますよ〜』
「それは重畳‥‥なるべく早くお願いしますよぉ」
そう言って米本は鋭い目つきで窓の外を窺いつつ、天魔の鯉口を切る。
――山小屋の周囲を、キメラの群れが包囲しつつあった。
少年に絶対に外へ出ないように言いつけると、傭兵達は外に飛び出し、山小屋を守るかのように陣形を組む。
可憐な少女の姿をしたフェアリーが、飛び回りつつ山小屋目掛けてレーザーを放つ。
米本はそれを咄嗟に体で受け止めた。
「むうっ!?」
アーマージャケットが赤熱し、その下の彼の体を焼く。
フェアリーは再び飛び上がり、上空から攻撃を仕掛けようとするが、突如閃いた光線により貫かれ、炎を上げて落ちていった。
「遅くなりました!! 敵の光線技は危険です‥‥ちょっと減らすかな」
そこにはエネルギーガンを構える瓜生の姿――A班が到着したのだ。
そして瓜生は次々とレイ・エンチャントをかけたエネルギーガンを乱射し、フェアリーの羽を正確に打ち抜いて行く。
「こんにゃろー!! どうして毎回僕ばっかりいいいいいっ!!」
落ちたフェアリーを、半ば八つ当たりに近い事を叫びながらビッグはイアリスで滅多刺しにした。
だが、そこにいくつも飛来する斧――レッドキャップが投擲したものだ。
「うわわっ!?」
咄嗟にシールドで防御するが、バランスを崩すビッグ。
だが、傭兵達はそれ以上の追撃を許しはしない。
「調子に乗るな!!」
覚醒した紫翠が大鎌「紫苑」を旋風のように振るい、首を跳ね飛ばす。
「お返‥‥しっ!!」
オルカは宙空でそれをキャッチすると、体を回転させてレッドキャップに投げ返した。
無論それはFFによって遮られるが、その隙に一気に間合いを詰め、忍刀「颯颯」と蛇剋の二段撃によって首を貫く。
傭兵達の実力に、キメラ達が明らかに浮き足立つ。
「皆さん今ですよぉっ!!」
それを機と見た米本の号令の下、A班の傭兵達も一斉に撃ちかかる。
――その後キメラ達が殲滅されるまで、数分とかからなかった。
「ふぅ‥‥やっと片付きましたね」
リンドヴルムを脱ぎながら二条が汗で張り付いた髪を掃う。
――だが、ふとある事に気付いた。
「アンさん‥‥何処行った?」
「あ」
慌てて山小屋の方に注意を向けると、その中から聞こえてくる声。
『さ、さぁ‥‥ぬ、脱ぎ脱ぎしましょうぅ‥‥』
『え‥‥? う、うん‥‥』
そして聞こえてくる衣擦れの音――。
「待て待て待てええええええっ!!」
慌てて山小屋の中に入り、半裸になりかける少年と、鼻血を垂れ流すアンを引き剥がす。
「な、何よぉ‥‥邪魔しないで欲しいわぁ‥‥」
「‥‥」
不満げな表情をするアンに対して、立ち塞がった米本は物凄くいい笑顔のままだ。
――普段は温厚な彼だが、こういう時の威圧感は凄まじい。
「う‥‥」
流石のアンも気圧され、後退りする。
――が、その時どん、と背中に衝撃。
振り向くと、そこには二条の姿があった。
――いきなりアンの前髪を掻き分け、素顔を晒す。
「ふむ、報告通りに美人さんです」
「‥‥ふぇ?」
突然の事にしどろもどろとなるアン――実は極度の恥ずかしがり屋だったりするのである。
「‥‥美味しそう」
「え、わ‥‥きゃっ‥‥!?」
そしてそのままの勢いでアンを押し倒した。
「ふむ、まっ平らですけど中々のプロポーション‥‥羨ましいですね」
「‥‥ち、ちょっとぉ‥‥ひゃんっ!!」
そしてあらゆる手練手管でアンを攻める二条――かなりあられもない光景である。
「もう我慢出来ないわ‥‥お姉ちゃんも混ぜなさいっ!!」
それを見ていた樹も次第にうずうずし始め、とうとう物凄い勢いでダイブした。
「うわー‥‥うわー‥‥うわぁ‥‥」
「え? 何〜? 二人とも何やってるの〜」
「‥‥子供は見てはいけませんよぉ」
それを見ていた張は顔を真っ赤にし、米本は年齢の低い者達の視界をその巨体を活かして遮る。
――かくして三人が疲れ切ってダウンするまで、百合の花は咲き乱れたという。
「う、うふふふ‥‥お姉さまぁ‥‥♪」
「‥‥うーん、予想以上に懐かれちゃいましたね‥‥」
そして帰路の高速移動艇の中で、二条は腕に纏わりつくアンを持て余していた。
「アンちゃん‥‥お姉ちゃんも構って頂戴‥‥」
樹はそれを見て、何処か寂しそうに指を口に当てる。
「でもこれでショタっ子にあまり手を出さないようになってくれたら、万々歳だなぁ‥‥」
ほっと胸を撫で下ろすビッグ――その時、服の端から一本の紐が垂れ下がった。
「ん? 何ですかこれ?」
それに張が気付いて、くいっと引っ張る。
「ば、馬鹿!! それは緊急用の最終兵器――」
その瞬間服が全て脱げ、中からは生まれたままの姿にエプロン一枚‥‥要は裸エプロン状態になったビッグが現れた。
‥‥少年が危険になったら、身を挺して守るための備えが仇となったようだ。
――ブパァッ!!
その瞬間、猛烈な勢いで吹き上がる血飛沫‥‥アンの鼻血だ。
「うふ、うふふふふ‥‥き、今日は新しい世界も見られたし‥‥最高の日だわぁ‥‥♪」
「結局はこうなるんかアッ――――!?」
「ち、ちょっとアンさん僕も巻き込んでまアッ――――!?」
高速移動艇の中に巻き起こる魂消るような悲鳴。
「‥‥大丈夫かこいつら」
「‥‥知らん。だから俺に聞くな」
それを聞いていたパイロット達は、行きと同じ事を呟いた。