タイトル:KVトライアスロン・2マスター:ドク

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 19 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/29 01:45

●オープニング本文


 大規模作戦の喧騒が冷めやらぬ欧州で、あるイベントが行われようとしていた。


――その名は、『第二回 鉄人KVトライアスロン』。


 ドイツ・オランダ・イギリスの三国を跨いだ、KVによる陸・海・空の速さを競う、カプロイア社とUPC共催の一大レース大会である。
 大規模作戦が終了して間も無く、最高司令官が戦死した事もあり、この時期での開催はタイミングが悪く、不謹慎だという声も各所で聞こえた。
 しかし、それらの声にこの大会最大の出資者である紳士は真っ向から異を唱えたという。

「――皆が疲れ、悲しみに沈んでいる今この時だからこそ意味があるのだよ。
 一時の興奮と熱狂によって、彼らがその疲れと悲しみを僅かの間だけ忘れ、笑顔になってくれるのならば‥‥私は例えこの身が滅んでも良い覚悟だ」

 その言葉は多くの人々の心を打ち、そして反対する者達の声を静かにさせた。
 大体、彼が一度「やる」と決めたのならば、例えそれがバグアであろうとも止める事など出来ない。
 結局、誰が何を言おうとも、この一言に全ては集約するのだ。


『――伯爵ならば仕方ない』


――かくして、欧州は大規模作戦とはまた別の熱狂に包まれる事となったのだった。



「ええい‥‥っ!! 御剣隊の再編成もままならないと言うのに‥‥!!」

 忌々しげに頭を掻き毟りながら、エリシア・ライナルト少佐が悪態を吐く。
 前回大会同様、またしても彼女は上司であるブライアン・ミツルギ准将からの『お願い』により、この大会の諸々の手続き及び当日の審判を任されていた。

「‥‥まぁ、体を動かしていれば気が紛れるのは確かなのだがな‥‥」

 しかし、エリシアは軍人である。
――一度受けた任務や依頼は、必ずやり通さなければならない。
 諦観したような表情で、彼女は手元の計画書を目にしたのだった。


〜ルール説明〜
・レースはドイツ・フランクフルトを出発し、オランダ・ハーグまでを飛行形態。
 ドーバー海峡を水中用キット装備で横断。
 上陸地点であるイギリス・ドーバーから首都ロンドンまでを走輪走行で競う。

・優勝賞金は二十万C。
 六位までの入賞者、敢闘賞受賞者には五万Cがそれぞれ送られる。

・パイロットは原則一人。交代等は認められない。

・燃料は一律200とする。
 多い場合はその分燃料を抜き、満たない場合は増槽装着(重量=燃料不足分)が義務付けられる。

・New!! ピットインは各セクションで行える。
 燃料補給はピットイン時、もしくは西王母によるレースの道中、計4回までとする。

・水中用キットを持っていない場合は、申請すれば貸し出しを許可する。

・ピットクルーは基本的にUPC整備兵が参加する。
 ただし選手はパートナーを指定し、その者の了解を得られれば、サポートスタッフとして招聘する事が可能。(複数可)

・New!! 他者への妨害行為は観客、コース、周辺家屋、施設等に被害を及ぼさない限り許可する。
 武装は全て訓練用のものに換装し、弾薬等は全てペイント弾にする事。
 ただし、K−01やK−02、ペインブラッド、スピリットゴーストの特殊兵装等のマルチロック形式の武器は使用不可。
 武装問わず審判があまりにも危険と判断した場合は即失格とする。

・競技の間、コクピットから出る事、ハッチを開ける事は禁止。
 水分補給・栄養補給はあらかじめコクピット内に持ち込んだドリンクで行う事。

・競技中、無線の使用は禁止。
 ただしピットや燃料補給時のサポートスタッフとの通信に関してはこの限りでは無い。

・New!! 各セクション道中には敵目標を想定したバルーンが複数設置されており、これらを攻撃する事で、順位とは別にポイントが加算されていき、それらの合計に応じて各セクションにおける順位が変動する。
 ただし、中には『ハズレ』のバルーンも混じっており、破壊してしまった場合

「このセクション中(もしくは次のセクション)妨害(ブースト、燃料補給)不可」
「指定のポイントまでUターン」‥‥etc

 等の様々なペナルティが発生する。

・死して屍拾う者無し。

 最後に――
 来たれ勇敢なる傭兵諸君!! 荒々しくも華麗に飛び、泳ぎ、走れ!!



‥‥細かな部分で変更はあるものの、基本的に前回のルールと殆ど変わらない。

「――また、大騒ぎになるのだろうな」

 また一つ溜息を吐くと、エリシアは御剣隊のメンバー達をこき使うべく、隊舎へと急ぐのだった。

●参加者一覧

/ 須佐 武流(ga1461) / 如月・由梨(ga1805) / セージ(ga3997) / 宗太郎=シルエイト(ga4261) / UNKNOWN(ga4276) / 井出 一真(ga6977) / 砕牙 九郎(ga7366) / ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751) / 白虎(ga9191) / 蓮角(ga9810) / 神宮寺 真理亜(gb1962) / 堺・清四郎(gb3564) / 矢神小雪(gb3650) / 鹿島 綾(gb4549) / ソウマ(gc0505) / 沁(gc1071) / 南 十星(gc1722) / オルカ・スパイホップ(gc1882) / 流星群 鎖骨(gc4130

●リプレイ本文

 満員の会場に、打ち上げられた花火の軽快な破裂音が響き渡る。
――観客は誰もが、KVトライアスロンの開幕を今か今かと待ちわびていた。
 これからが本番というこの時間――ただ一人真剣な面持ちで事に臨もうとしている者がいた。

「さぁ、オープンカフェ子狐屋、オープンなのですよ〜。やるからにはきっちり売りまくりますよ〜♪」

 小さい体をおーっ!! と精一杯伸ばしながら、会場にて売店を出店した矢神小雪(gb3650)が気炎を上げる。

「おー‥‥」
「‥‥おう」

 それに合わせて、軍服の上からフリル付きのエプロンを着せられたエリシアの部下、ディック・ケンプフォード准尉と、ロイ・エレハイン曹長が憂鬱そうな表情のまま、やる気なさげに手を上げてそれに応えた。

――スコーンッ!!

 その瞬間、小雪のフライパンが唸り、二人の頭から小気味良い音を響かせる。

「「〜〜〜〜っ!?」」
「元気が無いですよ〜!! 接客業なんですから明るく、朗らかに!!」

 悶絶する二人を見下ろして、小雪が宣言する。
‥‥この仕事はエリシア公認であるため、文句は言えない。
 彼らは黙々と厨房での調理に接客、配膳をこれでもかと手伝わされるのだった。

「‥‥はぁ、うちの娘もあれぐらい元気だったらいいんだがな」
「軍曹‥‥エイミィが羨ましいですよ」

 大量の皿を洗いながら、二人は同時に溜息を吐く。
 だが彼らの暗い気持ちとは裏腹に、店は大繁盛であり、小雪は嬉しい悲鳴を、二人は文字通り悲鳴を上げて店を切り盛りしていくのだった。



『さぁ!! とうとうやって参りました、第二回鉄人KVトライアスロン!!
 実況は私、御剣隊所属、エイミィ・バーンズ軍曹であります!!」
『解説はワシ、ブライアン・ミツルギ准将でお送りするぞい』

 前回とは違い、傭兵の有志による実況役が現れなかったため、今回はどちらの人員もUPCからの出向組だ。

『それにしてもいい天気ですね准将!! 正に絶好のレース日和!!』
『うむ、気象条件がハンデにならない、真正面からの勝負が期待出来そうじゃな』

 軽妙な実況と解説が流れる中、選手たちはただ黙々と自らの機体の最終チェックを行い、レースに備えていた。

「最近は戦いばかりで‥‥少しは休息をと思いましたけど、休息がてらも、訓練じみたイベントに参加する自分がいるのも何とも」

 好戦的な自分の性分に憂鬱そうな表情を浮かべながら、如月・由梨(ga1805)が溜息を吐く。
 しかし、今回彼女の愛機であるディアブロには、武装らしい武装は装備されていない。
 何でも戦いで疲れた心を癒すため‥‥らしい。

「旧型のディアブロだけど‥‥こいつだってがんばれる所を見せてやるのだっ☆」

 いつもはしっと団にて世のカップル達を粛清して回る白虎(ga9191)だが、今回はただレースに勝つためだけにここにいる。

「‥‥戦うだけがKVではない、ということか。
 相手は歴戦の猛者ばかりですが、勿論狙うのは優勝――賞金は僕のものです」

 足元に置かれたKV操作マニュアルと、前回大会のデータを載せた資料に目を通しながら、自信ありげに呟くのはソウマ(gc0505)。
 足りない経験と技術は知識、そして運で補う――それこそが彼にとっての実力だ。

「さて、今回も頑張って行きましょう」

 愛機である阿修羅の整備を全て自らの手で行い、井出 一真(ga6977)は額の汗を拭いながらコクピットへ入った。
 前回入賞者の意地にかけて、無様な勝負はする事は出来ない。
 それぞれの思いを乗せて、とうとう選手たちを乗せたKVが次々と飛び上がって行く。

『――ゼッケン2、3、4番の選手に離陸許可が出ました。発進して下さい』
「了解。さぁ、今年も行くとするか『ディース』」

 オペレーターの蓮角(ga9810)の誘導に従い、ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)はR−01改のフットペダルを踏み込んだ。

「皆さん、応援宜しくお願いしますね〜♪」

 そしてペイントカプロイアを施したヘルヘブン250を滑走路に向かわせる間に、南十星(gc1722)が笑顔を振りまきながら、観客達に向かって手を振る。

――おおおおおおおおおおおっ!!

 その愛らしい容姿と声は、男性客の心を鷲掴みにしたようだ――彼が男だという事も知らずに。

(よしこれで、私を攻撃した人にはブーイングが飛ぶことでしょう。
‥‥ふっふっふ、ふふ‥‥あれ? 目から塩水が‥‥)

 恥じも外聞も捨て、観客たちを味方につける十星の作戦であったが、その目の端にはちょっと涙が浮かんでいたりする。
‥‥嫌なら止めればいいのに。

「スタジオフィエスタの代表としてきました! お便りまってま〜す!!
 詳しくは兵舎のスタジオフィエスタのスタジオにて!!」
『キャー!! 可愛いー!!』
『お、オルカ君ハァハァ‥‥』

 こちらは兵舎の宣伝をするオルカ・スパイホップ(gc1882)。
 彼の半そで半ズボンな臍出しルックは、女性ファンの支持を得られたようだ。

「‥‥暑い」

 そんな選手たちのKVを、沁(gc1071)は一人観客席から眺めていた。
 一つ一つの動き、特性、武装‥‥実戦では掴む暇の無い特徴の一つ一つまで気を配りながら。



 そして大きくなっていく歓声の中で、戦いやレースとは別の方向で勇気を振り絞ろうとする男が一人――堺・清四郎(gb3564)だ。
 彼の目の前には、パイロットスーツを着たエリシアが立っている。

「‥‥競技前だというのに、いきなり何の用だセイシロウ?」
「エリシア少佐もこれが終わったらしょ、食事でも‥‥一緒にどうだろうか?」
「何?」

 一瞬呆けたような表情を浮かべたエリシアだったが、苦笑するように微笑む。

「‥‥済まないが、終わった後も諸々の処理が盛り沢山でな」

 遠まわしな拒否にもめげず、清四郎は尚も食い下がる。

「ならば入賞したら一緒にいってもらえまいか?」
「――何だと?」
「俺は真剣だ‥‥こういう時になんていえばいいか分からない自分が恨めしい‥‥」

 もどかしそうに俯く清四郎――その姿は、いつも勇猛に戦う彼の姿とはまるで正反対に見える。
 それが滑稽に見えたのか、エリシアは声を上げて笑った。

「分かった分かった‥‥ただし、入賞したら、だぞ?」
「ほ、本当か!? よし!! 俺は必ず勝つ!! だから期待していてくれ!!」

 小躍りしそうな勢いで、清四郎はかけていく。
 それを、エリシアは暖かな目で見守っていた。



 そして全てのKVが空へと上がり、エリシアや蓮角らの誘導の下、スタジアム上空に横一直線に並んで行く。

『さぁ‥‥スタートです!!』

 そしてシグナルが緑に変わった瞬間――一斉に選手たちは優勝を目指して一気にスロットル全開にした。



『さぁ、とうとうレースが始まりました!! まずはオランダ・ハーグまでの空のレース!!
 ミツルギの爺ちゃ‥‥じゃなかった――准将の注目点は何処でしょう!?』
『エイミィちゃんや、一応ワシ等は軍人として参加しとる訳じゃから無礼講モードにはならんようにな‥‥。
――それはそうと、やはり最速区間である以上、一瞬のミスとチャンスが大幅な順位の変動に繋がるし目まぐるしく状況が変わる事じゃろうな。
 また、如何にペナルティのバルーンを割らずにポイントを稼ぐかも重要じゃ』
『ありがとうございます!! では早速選手の様子を見てみましょう!!』

 一回の下士官が准将を爺ちゃん呼ばわりしかけるという、厳格な軍人が見たら卒倒しそうな光景が繰り広げられていたが、レースを凝視する観客達はそれに気付く事は無かった。



「うっしゃあ!! 行くってばよ!!」

 そう一声叫ぶと、頭一つ飛び出したのは砕牙 九郎(ga7366)。
 装甲のセッティングを変えた雷電「爆雷牙」を引っさげての参加だ。
 今回の目的はあくまで愛機の慣らしが目的ではあるが、やるからには狙うは優勝だ。

――だが、そこにいきなりファランクスの雨が降り注ぐ。

「うわっと!?」
「‥‥あれ? あ、間違えたごめんっ!!」

 それは「迎撃用」のファランクス・テーバイと「自動攻撃」用のファランクス・アテナイを積み間違えたユーリによるものだった。
 しかし、間違えようと間違えなかろうと、それは砕牙の出鼻を挫く。

「ふむ、錯綜しているな‥‥仕掛けるなら――今だな」

 その間に、異なった高度から様子を見ていた鹿島 綾(gb4549)は、それを機にディアブロ「モーニングスパロー」を一気に前進させる。
 無論彼女の機体をもファランクスが襲うが、彼女は巧みに砕牙の機体を盾にする事でそれを避けた。

「のわぁっ!!」
「悪ィな、今回は前回みたいな無様は見せたく無いんでね」

 その隙を突いたのは彼女だけでは無く、須佐 武流(ga1461)もそうだった。
 シラヌイの足を活かし、一気に二機の間をすり抜けて行く。

「ちっくしょ〜‥‥けど、ここでへばってたら駄目だ!!」

 一瞬の体勢の崩れが大きく砕牙の順位を遅らせるが、彼はすぐさま立ち直ると遅れを取り戻さんとブースターを吹かした。



――一方、ユーリはと言うと‥‥。



 その後も彼のファランクスは会う者会う者に鉄の嵐を撒き散らし続け、とうとう審判長であるエリシアから警告の通信が入る。

『そこの機体!! 君のこのコース内での妨害可能回数は限度を迎えている!!
 これ以上の妨害は失格になる恐れがあるため、すぐに中止しろ!!』
「す、すまないっ!!」

 と、警告を恐れユーリはファランクスの機能をオフにする――決してエリシアの剣幕を恐れたからでは無い‥‥と思う。

「くっ‥‥ここからは実力勝負か‥‥いいだろう!!」

 警告にもめげず、ユーリは機体のスロットルを上昇させた。



 各機の激しいデッドヒートが続く中、とうとう空のレースも終盤戦へと差し掛かる。

『さあ!! ここで皆様お待ちかね!!
 今回のレースで初めて導入されました、バルーンエリアへと差し掛かります!!』
『鬼が出るか蛇が出るか‥‥選手達の運が試されるエリアじゃな。
 外れならば大きなロスに繋がりかねんが、見返りは十分に大きいぞい』

 メリットとしては、バルーンにはポイントが付けられており、そのポイントに応じて順位が変動する。
 つまりは、極端に言えば例え順位が最下位でもポイントが高ければ上位に食い込む可能性がある。
 デメリットとしては、『ブースター使用禁止』『妨害禁止』『追い越し禁止』などのペナルティも同時に設けられている事。
 中には『一定時間引き返さなければならない』という高速コース的には最悪とも言えるものもあったりする。



 デメリットを恐れ、そのままスルーする者が多い中、一機がバルーン密集空域へと高度を下げた。
 それは神宮寺 真理亜(gb1962)のオウガであった。

「この機体に慣れるのが目的だからな。無様は曝したくない」

 そう言うが早いか、手近なバルーンに照準を合わせると、二回ガトリングのトリガーを引く。
 ペイント弾の着弾の衝撃で二つのバルーンが割れ、それをレーダーで見ていた審判の蓮角が判定を下した。

『――神宮寺機ポイント加算二ポイント!! 現在の順位が二つ繰り上がります!!』
「‥‥良し、幸先が良いな」

 無線からの声に満足気に頷くと、それ以上はバルーンを狙う事無く通り過ぎて行く神宮寺。
 様子見をしていた他の機体も、彼女が加点されたのを見て、次々と高度を下げてバルーンを狙う。
 無論それが原因で何機かに追い抜かれるが、上手く加点されたらお釣りが来る。

「リスクは承知の上にゃー!!」

 白虎が一声叫ぶと、弾幕を放ってそこら中に浮いている目標目掛けて打ちまくる。
 キャノピー越しなので音は聞こえないが、小気味良く割れて行くバルーン。

『白虎機二ポイント加算。
 ペナルティ『10秒間Uターン』『三十秒間Uターン』『三十秒間Uターン』
「ぎにゃーっ!! 何じゃそりゃあああああああああっ!!」

‥‥その結果はポイントこそ取れたものの、惨憺たる結果であった。

「もらい〜っ!!」
「にゅああああっ!! 貴様ああああああっ!!」

 その上、Uターンしている最中に、バルーンを狙う者に照準を合わせたオルカの狙撃を受けたりと、終始泣きっ面に蜂であった。

『南十星選手、三ポイント加算』
「お、これはラッキーですね♪」

 その横を機嫌良く十星のヘルヘブン250が通り過ぎて言った。



「さて、今回の運はどちらに傾くか‥‥勝負っ!!」

 ソウマが叫ぶと同時に目の前のバルーンを片っ端から割っていった。
 計五つ‥‥果たしてその内容は――

『――ソウマ機ポイント加算一ポイント。
 ペナルティ『ブースター禁止』『妨害禁止』『コース終了までアニソン熱唱』『天地逆転飛行』‥‥以上です』
「くっ!! 今回は凶運でしたか。
 ですが、まだ勝負が決まったわけではない‥‥」

 審判から告げられるイロモノ含めたペナルティに呻くが、その顔は何処か楽しげだった。
 取り敢えずは、機体の天地を逆転させつつ、早速歌い始めるソウマ。
――元演劇部員だけあって、その歌は結構上手だった。



『‥‥つーか誰じゃい。あんなペナルティ作ったのは』
『いやー、御剣隊総勢『59名』で一生懸命頑張りました♪』
『――部下が独断専行しとるぞエリシア嬢ちゃんや』



 その後は基本的に様子見の選手が多数を占め、大きな順位の変動も無くレースは進み、とうとう一度目のピットインポイントである港が姿を現した。
 着陸しようと次々と速度を落として行く選手たち‥‥だが、その内の一機がブーストをかけて前に進み出た。

『おおっと!! 一気に飛び出したのはセージ(ga3997)選手のオウガ!!
 しかしこれでは滑走路をフライパスしてしまうぞ!?』

 実況のエイミィの叫ぶ通り、既に彼の機体は滑走路を通り過ぎ、各機に用意されたピットエリアへと至ろうとしている。
 だが、当の本人はコクピットの中でしてやったりと言った笑みを浮かべていた。

「前回は煙幕だったが、今回はこれで行こうか」

 そして自分のピットの真上まで来ると、ツインブースト・OGRE/Aを発動させる。


――突如巻き起こった暴風のようなブーストの噴射に、下にいた整備員が急いで退避する。


 固定していなかった機材や工具を吹き飛ばしながら、セージのオウガはピットへと降り立った。

「馬鹿野郎っ!! んな危ない事をやるなら事前に言えっ!!」
「いや、悪い悪い――と、いう訳で整備頼むぜ?」

 整備員達の怒号を受けながらも、セージはしたり顔で笑みを浮かべたのだった。



『――と、言う訳で早くも空のレースが終了致しました!!
 上位六名の順位は以下の通りとなっております!!』



一位 セージ
二位 鹿島
三位 須佐
四位 南
五位 神宮寺
六位 井出



『上位陣の内二人がポイントの枠じゃな。やはりバルーンのポイントが後々の勝敗を決しそうじゃ』
『さて、この次は水中用キットに換装しての水中戦!!
 どのような展開が待っているのでしょうか!?』



‥‥ちなみに、最下位は数多くの所持機体からワイバーンを選んだUNKNOWN(ga4276)であった。
 彼はレース開始から最後の着陸を除いた全ての操作を、自動操縦に任せていたのだが、いくらKVのAIが優れているとは言え、全部を全部任せられる程都合の良いものでは無い。

「‥‥ふむ、まだまだ私も精進が必要かね。
 だがまぁこれもこれで中々オツなものだな」

――他の選手達にかなり遅れてのピットインだったが、彼の表情は満足げだった。

『ワンワンっ!!』
「キャーッ!! 可愛いっ!!」
「本当に子犬みたいねぇ」

 彼のプログラミングをしたAIの動きは、正しく可愛らしい子犬のそれに似ており、多くの観客から微笑ましい拍手とカメラに囲まれていたから。
 最早彼は勝敗を度外視し、この状況を楽しもうと決めていた。



 一方各ピットでは、水中用キットの取り付けと燃料の補給、ペイント弾の洗浄などで大わらわとなっていた。
 レースは中盤、しかも全員のスピードが同じになるという低速コース‥‥皆が皆燃料補給や整備を行い、万全の体制を以て臨もうとしている。

「水中用キット装着だけで結構です。燃料を積んでいる時間が惜しいですから」

 しかし、由梨はただ一人燃料補給をせずに真っ先に水中コースのスタートを切った。
 それを見た他の選手たちも、急いで彼女の後を追うように次々とスタートしていく。

『おおっと!! これは波乱の幕開けとなりました!!
 ともかくも、ドーバー海峡を渡る水中コースのスタートです!!』
『この区間はスピードが一律じゃからな。このアドバンテージは大きいぞい』



 無論、由梨がトップをひた走るのを他の選手たちが黙ってみている筈も無い。

「態々これを積んだのだからな。使わねば損と言う物だ」

 トップを走る由梨を狙い神宮寺が魚雷の照準を合わせると、容赦無く解き放つ。

「‥‥っ!!」

 完全に背を向けていた由梨は対応が遅れた。
 避けようとするが水中用キットによって機体が重くなっているため思うように動かない。
――このために取っておいた煙幕も、水中では意味が無かった。

「おっとぉっ!!」

 だがそれは突如間に割り込んだ一機の機影の剣翼によって切り払われる。
――それは宗太郎=シルエイト(ga4261)のフェニックスであった。

「宗太郎さん!?」
「空と海挟んで俺が上位に行ける筈もねぇし‥‥まぁ、単なる気まぐれだ。
 さっさと行っちまえ」
「‥‥感謝します!!」

 豪快に笑う宗太郎の声を背に受けて、由梨はそのままドーバー海峡の海をひた走っていった。



 水中でのレースは空のようなスピード感や派手さこそ無いが、選手達の順位が目まぐるしく移り変わるため、観客たちの熱狂は相変わらずだ。
 そして、それを大会本部へと送る蓮角の忙しさも正に目が回るのではないかとばかりに慌しいものだったが、彼の顔には笑みが浮かんでいる。

「誰よりも近くでレースを見られる‥‥良いですよねぇ♪」

 普段は戦いのツールであるKVがこのように平和な争いをしているという事が、彼にとっては非常に嬉しいのだった。



 そして選手たちは少しでもライバルたちよりもスピードを出そうと、様々な方法を編み出していた。



――水圧の低い海面を進む事を徹底する者。



――海流に乗る事でスピードを補う者。



 中でも独特だったのが、井出の阿修羅と白虎のディアブロだ。
 彼は阿修羅が海流に乗った事を確認すると、装備されているツインジャイロとスクリュードライバーを起動させる。
 スクリュードライバーは地上用武装だが、その回転は水の中に渦を作り出すのに十分な力を持っていた。
 それらが生み出す回転は、正に船のスクリューのように彼の機体をぐんぐんと前に進ませてくれる。

『おお!! 井出選手が武装を上手く使って頭一つ飛び出ました!!』
『武装は何も妨害のためにある訳では無いからのう。中々上手い戦法じゃ』

 そして白虎は‥‥徹底的に周囲の選手の後ろに張り付く事で、前の機体が生み出す渦に乗って加速し、追い抜いては別の選手の後ろに‥‥といった戦法を取り続けていた。

『え!? そんなのありなの!? 総帥せこくない!?』
『ふははははっ!! 精々吼えるがいいにゃ若造が!!
 他力本願大いに結構!! 最後に笑った者が勝つのにゃー!!』

 後ろに張り付かれて呻くオルカに対して、空の時の意趣返しとばかりに喝采を上げる白虎であった。



 そして水中では妨害も有効な順位を上げる手段だ。

「おっと!! これでも喰らいな!!」

 須佐はシラヌイの武装をピットでわざわざ全て水中用に変え、追う相手にはガウスガン、迫る相手には足に装備したシリウスの爪で泡を巻き起こして他選手を寄せ付けない。
 そして妨害も最後の一回となった所で、標的にされたのは‥‥またしても砕牙の雷電であった。

「そう何度もやられてたまるかってんだ!!」

 しかし空の時とは違い、今回は彼の機体は人型――つまりここは水中とは言え、彼の土俵も同然だ。
 次々と放たれるガウスガンの弾丸‥‥無論模擬弾ではあるが‥‥を分厚い装甲を施した腕で受け止め、払い落とす。

「へぇ、中々やるねぇ?」
「こっちだってただ機体の調整だけが目的でやってるんじゃねぇってばよ!!」

 互いに獰猛に笑い合うと、二人は互いに一歩も譲る事無く、純粋なスピード勝負を繰り広げ始めた。



 そして注目のバルーンエリア‥‥しかし、予想に反してこのエリアでは状況を大きく動かすようなペナルティは発生する事無く終わった。
 
『‥‥チッ』
『‥‥これエイミィちゃんや、実況は公平でなけりゃならんのじゃぞ?』
『こ、これは失礼しました!! しかしこれはある意味波乱です!!
 何と下位の選手もかなりポイントを伸ばして来ています!!』

 かくして、更に順位は混迷を深め、更にレースの先が見えなくなっていく。



一位 如月
二位 井出
三位 砕牙
四位 須佐
五位 南十星
六位 白虎



 そして再び行われるピットイン――レースも終盤であるだけあって、整備員達の目もギラギラと燃えている。
 正しく一分一秒を争うような整備合戦の中、真っ先に飛び出した機影が二つ。
 それはユーリのR−01と井出の阿修羅であった。

「これだけあれば十分だ‥‥後は行くのみ!!」

 ユーリは必要最低限の燃料だけを積む事でピットインのスピードを速めていた。
 ブーストを使ってしまえば、数回妨害を受けただけで行動不能になる量でしか無いが、そんなリスクなど百も承知だ。

「少し危ないですが‥‥この方が時間がかからないのでね!!
 陸上での四脚機の走り、見せてやりますよ!!」

 対して井出は普通ならば必ず外す水中用キットをつけたままスタートしていた。
 全身にウェイトのように取り付けられたソレを外すのには、最も時間がかかる。

――が、逆に言えば外さなければ相当な時間の短縮になるのだ。

 無論、そのまま走っていれば動きは制限され、後々圧倒的に不利となるが、彼はそれを走りながらパージした。
 コース上にパーツを撒き散らしながら、四足獣型のスピードを活かしてアスファルトの上をひた走る。

『ああっ!! こらっ!! 水中用キットもタダじゃないんだぞーっ!!』
『うーむ、スポンサーとしては褒められるものでは無いが、有効と言えば有効じゃなぁ』

 井出の行為に顔を曇らせる実況と解説であったが、最大の出資者である伯爵からはこの程度の事お釣りが来る程の資金が提供されている。
 観客たちに被害も無いため、レースはそのまま続行されたのだった。

「させません!!」
「‥‥中々やってくれるじゃねぇか。負けねぇぞ!!」
「ここまで来て負けるのは嫌にゃー!!」

 そしてその後に続いて由梨や須佐、白虎といったトップを争う選手達も次々と発進していく。

「まだだ‥‥まだ終われん!! 駆け抜けろ、剣虎!!」
「地上こそがヘルヘブンの領域‥‥負けられません!!」

 そして、堺や十星などの下位の者達も決して諦める事無く、前に進んだ。



 ここまで来れば最早温存など不要とばかりに、選手達の間で幾度も剣戟が交わされ、弾幕が飛び交う。
 そんな中、ヘルヘブンの高速二輪モードの速度を活かしてトップ集団に食い込んだ十星とオルカの二人は、そのまま一気に集団を抜かそうと試みていた。

「うわ〜っ!! すっごいスピード‥‥!!」
「くっ‥‥少しでも気を抜いたら‥‥」

 しかし、周囲に多くの機体がいる中を突き抜けるには、ただでさえ小回りの利かない高速二輪モードではかなり難しい。
 実際、実戦経験のあまり無い十星や、このレースで初めてヘルヘブンに乗ったオルカは制御に必死になっていた。

‥‥それを、須佐は見逃さない。

「少しばかりエグイが‥‥悪く思うなよ!?」

 にやり、と笑うと同時にプラズマリボルバーを二人に向け、それぞれモニターとコクピット付近に放つ。

「うわあっ!?」
「くっ‥‥前が!?」

 制御に必死になっていた二人はそれを避けきる事が出来ず、オルカはコクピット付近の着弾に驚き、南十星は目の前で炸裂した光に目を一瞬眩ませた。
 二人は咄嗟にスピードを落とし、高速二輪モードを解除する事で辛うじてクラッシュは避けたものの、大きくバランスを崩した。


――ズゥンッ!!


「あいたっ!!」

 オルカは何とか耐えたが、十星は運悪く道路の起伏に足を取られ、転倒する。

『おおっと!! 南十星選手転倒!! ダメージは大丈夫か!?』
『まぁスピードも落ちておったし、大した事は無いじゃろう‥‥が、レースとしてはかなりの遅れじゃのう』


――解説の言う通り、衝撃もダメージも大した事は無く、すぐに立ち上がる事は出来たが、そのおかげで彼は大きく引き離されていた。
 この終盤では‥‥復帰は絶望的だ。

「くっ‥‥だけど、ここまで来たら少しでもいい成績でゴールしたいですね!!」

 しかし、それでも十星の心は折れず、モニターを再起動して再び走り始めるのだった。



 そして数を減らしたトップ集団の中では、再び激しいデッドヒートが繰り広げられる。

「もういっちょ喰らえっ!!」
「ふふっ、面白いですね。当てられるものでしたら、当ててごらんなさい」

 須佐の放った妨害を、由梨が華麗な動きで避けつつ、煙幕弾を地面に当てて逆に文字通り煙に巻く。

「しまった!!」

 それに後続も巻き込まれ、堺のミカガミがコースアウトし、積まれたタイヤの中に突っ込んだ。
 凄まじい衝撃が堺を襲うが、それに構わずすかさず立ち上がり、尚も執拗に喰らいつこうと試みる。

「まだだぁっ!! 少佐とのデートをここまで来て諦められるかぁっ!!」

 一声叫ぶと、ブーストをかけて遅れを取り戻さんとする堺――正に、男の情念恐るべき、と言った所か。



『各機一歩も引かない展開!! いつまでも見ていたくなります‥‥が!!
 すでにゴールまで後僅か‥‥決着の時が来ようとしています!!』
『もうここまで来れば、後はただ走るのみじゃな。最後まで頑張って欲しいのう』



 ここまででトップ集団に入っているのは、須佐、由梨、井出、ユーリ、白虎、鹿島の六人。
 そしてその順位はほぼ団子状態であり、いつ誰がトップを取ってもおかしくは無い状況!!



――ゴールを示すゲートが見えたその時、トップに躍り出たのは‥‥白虎のディアブロであった。



「うっしゃああああああっ!! しっと団の大しょう――」
「悪いが、今だな」
「へ?」

 その時、最後までトップ集団の下位で沈黙を守り続けていた鹿島が、初めて弾幕を放った。
 完全に意識が前に行っていた白虎は、その背に全てを直撃させられ、思い切り転倒する。
 慌てて再起動しようとするが‥‥コンソールはウンともスンとも言わなかった。

「ぎゃああああああっ!! ここまで来てぇ〜!!」

 倒れた白虎の機体を飛び越えて、残る六人がひたすら走る。



『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』



 最早これ以上上がらないスロットルを更に上げるかの如く操縦桿に力を込め、六人は搾りつくすかのような咆哮を上げる。



――そして、全員が全員ほぼ同時にゲートを潜り抜けた。



『今ゴオオオオオオオオオオオオオルッ!! とうとう半日近く続いたこの死闘にも終止符が打たれました!!』
『タイム的には全くのほぼ同時‥‥これは難しい判定になるのう』
『その通りですね――これより写真判定に移ります!! 観客の皆様はどうか暫くお待ち下さい!!』



 そして数分後‥‥判定は下される。



『発表致します!! 優勝は‥‥鹿島 綾選手ですっ!!』



「まさか‥‥V1との二冠を達成するとはな‥‥自分でも驚きだよ」



 当の本人は告げられた結果に最初は呆然としていたが、次第に実感が湧いてくる。
 そして、彼女は自らの機体の上で高らかに拳を天に向かって突き上げた。



『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』



 その瞬間、爆発するかのような歓声が巻き起こった。



 だが、その結果が下された後もレースは続く。
 少しでも上の順位でゴールするべく、選手達は尚も激しく争っていた。

「うおおおおおおおっ!! ま・け・る・かぁ〜〜〜〜〜!!」
「入賞は逃しましたが‥‥負けないっ!!」

 六位を争うのは、砕牙とソウマ。
 激しく位置を入れ替える雷電とディアブロ――その戦いは互いに一歩も譲らないまま、ゴールゲート間際まで続いた。
‥‥だがその時、ソウマの機体ががくん、と揺れる。

「‥‥っ!?」

 見れば、コンソールのあちこちが原因不明のノイズを撒き散らしていた。

「ここで凶運か‥‥けれどっ!!」

 ソウマは歯軋りするが、そのまま拳を大きく振り上げる。



「それを『強』にしなくて‥‥いつするんだっ!!」



 叩き付けると、ノイズが収まり、機体の機動が安定した。
 再び並ぶ両者――そしてそのままゲートを潜り抜ける。

『六位‥‥砕牙選手!!』

 結果は‥‥ソウマに軍配は上がらなかった。
 しかし、彼の顔は満足げだ――何故なら、渾身の力を込めて負けたのだ。
 悔いなどあろう筈が無い。

「今回は俺の勝ちだったけどよ‥‥また、勝負しような!!」

 それは砕牙も同じだったのか、機体を止めた後、コクピットから身を乗り出してソウマへと手を差し伸べた。

「ええ‥‥今度は、負けませんよ」

 ソウマはその手を取り、がっちりと握手を交わす。
 その姿に、観客達は暖かな拍手を浴びせたのだった。



 レースの結果は以下の通りだ。



優勝 鹿島
二位 セージ
三位 如月
四位 ユーリ
五位 井出
六位 砕牙

敢闘賞 白虎 ソウマ‥‥最後までレースを諦めず、素晴らしいデッドヒートを見せた事による。



 こうして今年も、大盛況のまま鉄人KVトライアスロンは幕を閉じたのだった。



‥‥その祝賀会の席上で、堺は一人涙に暮れていた。
 エリシアとの約束の達成条件は、「六位以内に入賞する事」。

『すまんが約束は約束だからな‥‥悪く思うなよ?』

 それを達成できなかったという事で、エリシアはくすりと微笑んでから彼の元から去っていった。

「まだだ‥‥諦めなければまだ終わりじゃない‥‥」

 ぐすり、と鼻をすすりながら、自棄酒のようにワイングラスを煽る。
 そんな彼の耳に一つの喧騒が聞こえてきた。

「クロオオオオオオオオオオウッ!! おじ様ああああああああああああああっ!!
 これは一体どういう事だあああああああああああっ!!」
「お、落ち着いてくれって少佐!! ほんの‥‥ほんの出来心だったんだってばよ!!」
「そ、そんなに老人を怒鳴らんでくれんかのう‥‥」
「やかましいっ!! 何で更衣室に行ったら私の服が全て『こんなもの』になってるんだっ!!」

 見れば、そこにはエリシアに怒鳴り倒される顔をボコボコにした砕牙としょぼくれるミツルギの姿があった。



彼女の姿は、ハイレグ型の際どい水着に網タイツ‥‥所謂レースクイーンの姿だった。



 胸こそ無いが、元々モデル並みに整った体型のため、その美しさはまるで年齢を感じさせない。
 そのすらり、とした脚は網タイツによって扇情的な色気を醸し出していた。
‥‥どうやら砕牙とミツルギの悪巧みによって、衣装を取り替えられたようだ。

「うっ‥‥」

 思わず鼻を押さえる‥‥その指の隙間からは赤い液体が零れていた。



「‥‥参加して良かった」



 顔を真っ赤にして、鼻に詰め物をしながら、感慨深げに堺は呟いたのだった。