タイトル:【亡霊】砲弾のようにマスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/06/22 22:18

●オープニング本文


『ひ、ひゃ、ヒゃハハはハはっ!!』

 ジブラルタルの海を、巨大な影が突き進んでいく。
――それは、リヴァイアサンの機体にありったけの装甲を取り付け、その上に更にありったけの魚雷や機雷、そしてプロトン砲をゴテゴテと取り付けたような姿をしていた。
 最早KVとしての原型を留めてはおらず、その姿は正しく「海魔」の名に相応しい。

――ドンドンドンドンッ!!

 海魔が砲門を一斉に解き放つ。
 凄まじい轟音が幾度も響き渡り、その度に海魔の前に立ち塞がるKVが打ち砕かれていく。

「――ウォーフィッシュ02、05、06、09ロスト!! 隊の損耗率60%を超えました!!」
「目標、尚も進行中!! こ、こちらの攻撃をまるで意にも介さず接近してきます!!」
「くっ‥‥応戦しつつ後退!! 撤退を開始するっ!!」

 その報告に、偵察隊の隊長は決断を下した。

『ひ、ひゃは、ヒャはハハははハハ!! な、何だヨ!? もう逃げルのカよ!?
 も、モっと戦おウぜェええええええっ!! ひャハハはハはハ!!』

 そして更なる被害を出しつつも、敵の射程圏内から逃れた隊長は、海魔から聞こえる声に悲しげに目を細めた。

「ゲイル‥‥お前って奴は‥‥!!」



『――俺はよ、ただの砲弾になりてぇのよ』

――まだ亡霊達が人類と共に戦っていた頃。
 傷だらけの狂相をくしゃくしゃにして笑いながら、ゲイル・バーグマンは言った。

『‥‥砲弾? 何だそれは?』
『ゲイル‥‥アンタって時々訳の分かんない事言うわよねぇ』
『うるせぇよテッドにミーシャ!! 黙って聞けって!!』

 同僚の茶化すような言葉を封じ込めると、ゲイルは甲板から海を見つめる。

『俺は頭が悪ぃ‥‥だから、俺はギースの大将とか、サイス隊長とかみたいに指揮官にゃなれねぇ。
 敵は正面からブン殴るしか能の無ぇチンピラよ。
‥‥けど、それじゃあいつらを‥‥バグア共を倒せねぇ』

 十年前――能力者とKVのいない戦場は、正しく地獄としか言い様が無かった。
 巧妙な作戦を立てなければ、HW一機すら満足に落とせず、ただ後退していくしか無い。
 敵の横面を張り、後ろを取る‥‥それだけが、人類がバグアに勝てる唯一の手段だった。

『それでも、俺はあいつらを真正面からブン殴りてぇ。
 余計な事なんか考えずに、ただひたすら、目指すものを打ち砕くまで止まらねぇ、一発の砲弾みたいによ』

 誰もが軍師、策士とならなければ生き残れない戦場‥‥それでも、ゲイルはただひたすら真正面から敵と戦う「戦士」でありたいと願っていた。

『ホントは、バグアとなんかじゃなくて、人同士で戦いたかったんだけどな。
‥‥真っ向から殴り合って、戦いが終わりゃ、どんなに憎み合ってても、最後にゃ「いい勝負だった!!」って一緒に酒飲み合ってよぉ‥‥』

 そう言ってから、こちらに向かって振り向いたゲイルの顔は、まるで子供のように純粋だった。

『後腐れなんざねぇ‥‥ただ真っ直ぐな戦い、そんな戦いを俺はしてぇのよ。
――バグアだろうが人間だろうが誰でもいいからさ』
『‥‥あなたらしいですよ、ゲイル』

 それを聞いて、サイスを始めとした隊の仲間達は、互いに顔を見合わせて笑いあった。



「――それが、あいつの口癖だったんだ‥‥」

 傭兵達を集めたブリーフィングで、戦場から生き残った隊長は静かに呟いた。

「‥‥済まない、話を続けよう。
 敵目標は鹵獲リヴァイアサンを更に改造し、過剰とも言える火力を持った機体だ。
――以後、コードネームを「海魔」と呼称する」

 海魔のパイロットは亡霊の実行部隊の一人、ゲイル・バーグマン。
 凶暴な性格とは裏腹に、針の穴を通すような性格な射撃技術と、機雷を使った巧みな戦法を得意とする強化人間だ。
 しかし、度重なる洗脳と強化を受けた影響なのか、その理性は完全に破壊され、こちらの呼びかけにも全く応じないような状況だと言う。

「――亡霊達はバグア達の実働部隊であると同時に、優秀なヨリシロの候補を集めた「牧場」的な存在である事から鑑みて‥‥奴らはヨリシロに使えない個体を『間引く』と同時に、こちらに攻撃を行う尖兵としているのだろう――テッド・カーマインがそうだったようにな」

 海魔及びゲイルは現在、艦隊に向かってただひたすら突き進んで来ている。
 傭兵達に課せられた任務は一つ――ゲイルを撃破し、止める事。

「――あいつ、笑ってたよ。
 狂っちゃいるが、嬉しそうに‥‥あいつは、やっと夢を叶えたんだ」

 ブリーフィングが終わると、隊長は傭兵達に向かって言った。

「それが例えバグアのクソ野郎共のおかげだったとしても、あいつはきっと本望だろう。
‥‥頼む、あいつと戦ってやってくれ――正々堂々、真正面から」

そして、溢れる涙を拭おうともせずに頭を下げる。

「俺達じゃ、あいつの正面には立てん。
 あいつの願いを叶えてやれないんだ‥‥だから、頼む‥‥!!」

――部下を殺され、部隊を壊滅状態にされ、ゲイルに対する憎しみが無い訳が無い。
 それでもなお、かつての友の心を救って欲しいと願う隊長の言葉に、傭兵達は力強く頷いた。

●参加者一覧

鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
荒巻 美琴(ga4863
21歳・♀・PN
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
美海(ga7630
13歳・♀・HD
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
カーディナル(gc1569
28歳・♂・EL
オルカ・スパイホップ(gc1882
11歳・♂・AA

●リプレイ本文

 作戦水域まで向かう傭兵達――ゲイルの過去を聞かされた彼らの顔は様々だ。

「最強の海の男に敬意を表して全力でお相手するのですよ」

 願いを叶えたというゲイルの笑い声――美海(ga7630)にはソレが悲鳴にしか聞こえなかった。
 だから、彼に引導を渡すべく彼女は行く。

「気に入らねぇ‥‥」

 初参戦のカーディナル(gc1569)には、彼らの事情は良く分からない。
 しかし、彼は怒りのあまり吐き捨てるように呟いた。
 ゲイルの望みは戦う『だけ』では無かった筈なのに‥‥彼は、彼の意思を忘れて戦っている。
 それが、カーディナルには気に食わなかった。

「笑ってるけど心を破壊されて元の人格が無くなっちゃってるんなら‥‥それはもう化け物と一緒になっちゃうよ‥‥」

 悔しげに涙を浮かべながらオルカ・スパイホップ(gc1882)は呟く。
 化け物は、人間に「退治」されなければいけない。
――その前に、オルカはゲイルを人として送ってやりたかった。

「やっぱり、倒すしかないんだね‥‥悲しいけど、それが彼の望みで、それしかないなら‥‥」

 戦うだけの望みなど、戦う前に聞きたく無かったと、クラウディア・マリウス(ga6559)は思っていた。
 しかし、思わず止まりそうになる己の体を、あの心優しき強化人間の言葉が押す。

『――貴女が戦いに躊躇している間にも、このように戦いは続きます。
 覚悟が無ければ、ずっとそのまま死ぬまで立ち尽くしていなさい』

 自分が躊躇っている間に誰かが傷付くのは嫌だ。
 だから戦う――そんな可能性を少しでも少なくする為に。

「奴とは妙な因縁を抱えたが、最後くらいは奴らしく散らせてやるのが、俺達の責務なんだろうぜ。
――いいだろう。熱い戦いで散らせてやろうじゃないか」

 クラウの覚悟に頷くのは威龍(ga3859)――傭兵達の中で最もゲイルと因縁が深い男だ。

「そんな難しく考える必要なんて無いわよ。
 狂戦士はそれが全てだし、元々戦いなんて『戦いたい』からで完結すべきものだしね」

 満足げな笑みを浮かべる鯨井昼寝(ga0488)の思考は実にシンプルだが、確かに的を射ている。
 主義主張や思想などの不純物はいらない――ただ自分達は、目の前にの敵と全力で戦うだけだ。

「話が通じないところまで突き抜けちゃった感じだけど、私たちがする事は変わらないわよね。
 キッチリ止めてあげましょう」
「うん、そうだね‥‥皆、宜しく頼むね!!」

 昼寝の言葉を肯定するかのような澄野・絣(gb3855)の言葉に、荒巻 美琴(ga4863)は場を明るくさせるかのように元気な声で答えた。



『ひ、ひゃハ‥‥ヒャははハハハはは!! き、来タ‥‥来たキタ来た!!』

 海を行く事数十分――そこに、狂笑を垂れ流す異形が姿を現す。
 最早それはKVの原型を留めていない。
 ゴテゴテと装甲と砲門、弾倉を取り付けた、ただ破壊のみを追及する火力を限りなく詰め込んだ化け物だ。

「随分と不格好なリヴァイアサンだけど、それはそれで一種の凄味があって悪くないんじゃない?」

 そんな戦闘の具現と言える機体‥‥『海魔』を一目見て、昼寝がそんな感想を抱く。

「ゲイルさん‥‥」
『ヒ、ハ‥‥ヒャはははハハハハ!!』

 オルカは彼と面識は無い――だけど、その笑い声が何故だか無性に悲しかった。

「‥‥もうここで寝て下さい、冥界までの案内は僕がします。
 最後の一歩まで行かせません!!」

 自らの名前――冥界よりの魔物・シャチの名の如く。
――涙を拭った少年の目は、一瞬にして雄々しき海神のソレに変わる。

『さァ!! やろウぜぇ!! ヒリヒリしタ戦イをヨおおオオオオ!?』
「そうだな‥‥さて、一世一代のマジな大喧嘩をやらかそうぜ、ゲイル!」

 ゲイルの言葉に応えた威龍は、リヴァイアサン「玄龍」を前進させる。
――それに他の仲間達も続き、とうとう海魔との戦いは幕を開けた。



『オらあああアアアア!!』

 傭兵達が射程に入った瞬間、ミサイルと魚雷、そしてプロトン砲の雨を降らせるゲイル。
 それに対し、傭兵達は接近戦のA班、遠距離戦のB班に分かれて迎え撃つ。
 まずは挨拶代わりとばかりに、ガウスガンとホーミングミサイルを放つのは昼寝のリヴァイアサン「モービー・ディック」。
 しかしそれらの攻撃は倍する程の数の弾幕によって阻まれ、殆ど海魔の体に届く事は無かった。

「それなら‥‥!!」

 装甲をプロトン砲で削られながらも、「バトちゃん」と愛称を付けられたクラウのアルバトロスが側面へと回り込み、気を引くように手にしたガウスガンを放つ。

『ヒャッはアアアアああああ!!』

 海魔の眼が禍々しく光ったかと思うと、クラウ目掛けて無数の機雷が撒き散らされた。
 クラウは咄嗟に掻い潜ろうと試みるが、そこにミサイルが打ち込まれる。

――ドンドンドンドンッ!!

「きゃあっ!!」

 ミサイルの爆発に触れた機雷が一斉に爆発し、凄まじい衝撃がクラウを襲った。
 機体は木の葉のように吹き飛ばされ、体勢を崩した所へ更に無数の魚雷が放たれる。
 だが、それらの弾幕の間には無数の小型魚雷が割り込み、クラウへと届く事は無い。

「ふぅ‥‥危ない危ない〜」

 そこには小型魚雷ポッドの砲門を向けるリヴァイアサン「レプンカムイ」の姿。
――オルカの咄嗟の機転だ。

『邪魔スンじゃねェっ!!』

 横槍が気に食わなかったのか、海魔はその矛先をオルカへと向け、今度はプロトン砲を立て続けに放つ。

「‥‥っと!! ビームは流石に無理だね〜」

 アクティブアーマーで防御するオルカだが、その威力は凄まじく、分厚い装甲越しでも受ける衝撃にオルカは呻いた。

『そんナもンかァ‥‥? ソンなもんカヨテメえらああアあっ!?』

 立て続けの傭兵達の猛攻にも構わず、ゲイルは咆哮を上げ、弾幕を狂ったように放ち続ける。
 その威圧感は膨れ上がったシルエットも相まって、分かっていても恐怖で体が震え、下がってしまいそうになるほどに強烈だ。
 そして、狂った態度に似合わず、その攻撃は堅実にして緻密。
――機雷を使って結界を作り、そこへ傭兵達を追い込む事で動きを制限すると同時に、攻撃を叩き込む。
 動きの鈍った傭兵達は攻撃を避けきれず、避けたとしても攻撃は機雷に当たり、それによって起こった強烈な爆発が彼らを襲うのだ。

「クソァッ!! けどな‥‥絶対に下がってたまるか‥‥!!」

 機雷を、ミサイルを、魚雷を、プロトン砲を‥‥何度受けたか分からない。
 しかし、それでもカーディナルは下がらず、絶対に怯まない。

――例え心が壊れていても、ゲイルは戦士だ。

 死なないように及び腰で戦っていたら、確実に奴はその隙を突いてくる。

「‥‥なら、こっちも死ぬ気で掛かってやるしかねぇだろうが!」

 雄々しく叫ぶと、カーディナルは愛機アルバトロス「マルス・リッターA」のM−25水中用アサルトライフルとエキドナを放つ。
 その一撃は、中に装填されていた魚雷ごと、砲門の一つを叩き潰した。



 B班の援護を受けたA班がとうとう射程距離まで海魔へと肉薄する。

「乱戦になると使い難いから挨拶代わりに使っちゃうね!!」

 荒巻のビーストソウルが接近する間に、DM5B3重量魚雷とホーミングミサイルを撃ち尽くさんとばかりに放つ。
 しかし、その返礼とばかりに返された弾幕が彼女の機体を一斉に襲う。

「く、簡単に攻撃は通させないわよ!!」

 そこに澄野のリヴァイアサン「罔象」が立ち塞がり、それらの攻撃をエンヴィー・クロックを発動させつつアクティブアーマーで受け止めた。
 そして隙を見てアーマー越しにシステム・インヴィディアを込めたガウスガンの弾丸を次々と叩き付ける。

「今よ。一発叩き込んできなさい!」
「了解なのですよー!!」

 澄野が後ろに向かって呼び掛けると同時に、美海のビーストソウル「けもったマークII」が飛び出した。
 そしてブーストと剛装アクチュエータ「インベイションB」を発動させ、エキドナとガウスガンを放ちながら突っ込んで行く。

――猛烈な火力を持つ海魔を相手に、堂々と、正面から。

「さぁ、チキンレースの開幕なのでありますよ‥‥!!」

 無茶で無謀に見える彼女の行為――しかし、それは決して自棄を起こした訳では無かった。
 ゲイルの基本戦術、そしてその火力を支えているのは機雷の攻撃だ。
 美海の目はそれらが海魔の進路上にのみ撒き散らされている事を見抜いていた。

――つまり、前に立っていれば機雷の攻撃は来ない!!

『面白ェ‥‥来やガレええエエエっ!!』

 その意図を知ってか知らずか、海魔が美海へと突進し、同じように無数の弾幕を放った。


――両者の間に凄まじい爆発が巻き起こり、水流が逆巻く。


 それに混じって装甲がボロボロと落ちていくが、その殆どが美海のもの。
 火力と装甲の厚さ――そのどれにも、彼女の機体は海魔に負けていた。

「く‥‥ううううううううっ!!」

 頭を、腕を、足を砕かれようとも、それでも美海は前進する。
 そしてとうとう光るレーザークローが海魔の装甲に叩き込まれる。

――しかしその時、彼女の機体は両足を失い、片腕のみになっており、装甲も一つ残らず剥げていた。

 限界を迎え動きが止まると、そのまま振り払われ、沈んで行くビーストソウル。

「‥‥美海の‥‥勝ちで、ありますよ‥‥」

‥‥だが、その中で美海は会心の笑みを浮かべる。
 彼女の一撃は、海魔の厚い装甲の一部を剥がしていた。

「ボクもいるのを忘れないでね!!」

 そこへ、僅かに遅れて接近した荒巻機のレーザークローが勢い良く叩き込まれる。

――ドゴォッ!!

 その一撃は深々と海魔の腹に突き刺さり、燃料に引火したのか、内部から爆発が巻き起こった。
 衝撃によって自重を支えられなくなったのか、足の一本が千切れ、沈んで行く。

『ガ‥‥ハ‥‥ぁ‥‥』

 そして流石のゲイルも衝撃に耐えかねたのか、苦しげに呻いた。

「おおおおおおおおおおおおっ!!」

 そこへ飛び出したのは威龍の玄龍――ガウスガンと魚雷を放ちつつ突撃する。

『舐メるんジャねぇッ!!』

 海魔が弾幕を放つが、未だに体勢を整え切れていないのか、キレが無い。
 威龍はそれらの攻撃を自らの弾幕で相殺し、時にはレーザークローで切り裂きながら強引に突破して行く。
 そして振るわれた光る鍵爪の一撃は、プロトン砲が取り付けられた巨大な触手を数本纏めて切り飛ばした。

「はああああああっ!!」

 そして澄野の罔象がベヒモスとソードフィンを立て続けに繰り出す。
 まるで鉋(かんな)で柱を削るように装甲が剥がれていき、とうとう腕の一本がだらり、と垂れ下がり、動きを止めた。

「おかわりはいくらでもあるよ〜!!」

 オルカのレプンカムイは真上からブーストをかけて接近してセドナを叩き込み、砕けた装甲へとハープーンボウ「ウェールズ」を叩き込む。
――魚雷ポッドの一つが誘爆を起こし、巨体が軋んだ。

『ひ、ヒャははハハッハハはははは!! 楽しィなア!?
 正々堂々の殴り合いハヨォ!!』

 自らが傷ついているにも関わらず、ゲイルはただ狂ったように笑い続ける。
 彼はただ、目の前の敵を打ち砕く事に愉悦していた。

「――フザけんなよ‥‥」

――だから、気が付かなかった。
 カーディナルのマルス・リッターAがアルバトロスの最大深度まで潜り、真下から一気に突っ込んで来るのを。

「テメェは誰よりも『戦士』で在りたいと願ったんだろうが‥‥!
 何上手く利用されてやがる!」

 そのまま大きく伸び上がるようにスウィフトクローを突き出し、胸を大きく切り裂く。

『グッ‥‥!?』
「『戦士』なら‥‥ちゃんとテメェの意志で戦いやがれ!!」

 そして立て続けにもう一撃、切り裂いた装甲に爪を叩き込んだ。



 堪らず後ろへと下がる海魔。
――だが、そこに今まで感じられた威圧感は感じられない。

『そうだよなぁ‥‥けど、俺ァ馬鹿だからよぉ‥‥』
「ゲイル‥‥お前!? 意識が‥‥?」

 今までのような歪では無いゲイルの声に、威龍の眼が大きく見開かれる。

『こうでもしなきゃあ‥‥出来なかったんだよ‥‥。
 オメェらを‥‥仲間達を‥‥殺すなんてよぉ‥‥出来なかったんだよ‥‥』
「もういい‥‥何も言うなゲイル」

――威龍は理解した。
 この男は‥‥純粋で、一本気なこの男は、自ら望んで洗脳と強化を受けたのだと。
 仲間を‥‥友を殺す罪悪感を少しでも紛らわせようとしたのだと。

「――決着を着けるぞ、ゲイル」

 だから何も詮索する事無く、レーザークローを構えた。

『‥‥イーロン‥‥けど、俺は――』
「いつまでもグチグチ言ってんじゃないわよ、ゲイル」

 躊躇うようなゲイルの言葉に、昼寝はピシャリと叩き付けるように言った。

「目の前で折角強い男が立ってんのよ? それを受けなくてどうすんの。
――なりたかったんでしょ? 戦士に。なりたかったんでしょ?‥‥砲弾に」
「だったら、迷わずそうすれはいいよ〜」
「悔いが無いように、ね」
『ああ‥‥ありがとよ』

 傭兵達の言葉に頷くとゲイルは威龍へと向き直り、海魔の残った腕から巨大な爪を伸ばす。

『‥‥行くぜ』
「ああ‥‥来い!!」

 ゲイルの言葉に威龍は拳と掌を合わせ、最大の礼を以て応えた。



 勢い良く飛び出す両者――傭兵達は誰も止めない。
 何故ならそれは、侵す事の出来ない戦士たちの決闘であるが故に。

『イィィィィィロォォォォォォォンッ!!』
「ゲイルウウウウウウウウッ!!」

 光の爪と、鋼の爪が交錯する。
――それはどちらも決死の一撃だが、両者の込められた思いは異なる。
 全てを捨て去ったゲイルの一撃と、最期まで生きて帰る事に執着した威龍の一撃。


――勝ったのは‥‥後者。


 ゲイルの一撃は僅かにコクピットを逸れて玄龍の上半身を削り取り、威龍の一撃はゲイルの半身ごと、海魔のコクピットを砕いていた。

『‥‥たの‥‥し、かっ‥‥た‥‥なぁ‥‥』

 それでも、ゲイルは笑っていた。
 それは狂った笑いでは無く、まるで子供のような、純粋で、楽しげな笑み。

『また‥‥や、ろうぜぇ‥‥』
「ああ‥‥」

 砕けたコンソールと機器の破片で血まみれになっても、威龍はそれに応えた。
 そして海魔は沈んで行き‥‥深い海の底で、爆発が巻き起こった。



 そして帰還した傭兵達を待っていたのは、荒巻提案による宴だった。
 暗い気持ちを吹き飛ばすように、重傷者も混ざってのどんちゃん騒ぎ。

――そんな中、威龍は一人埠頭の縁に座っていた。

 傍らには、ゲイルの分の杯が一つ。

「‥‥あんまり飲みすぎると、傷に障りますよ?」

 ひょこり、と包帯だらけの威龍の顔を、クラウが覗き込む。

「心配はいらん‥‥一杯だけだ」
「――はい」

 その言葉にクラウはクスリ、と微笑み、威龍の瞳の向こうにある物を一緒に見上げる。
 空には月――蒼い光を放つそれに、威龍は杯を掲げた。

「‥‥あばよ、ゲイル。 お前の事は忘れないぜ」