タイトル:【亡霊】鯨に銛を撃てマスター:ドク

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/22 01:58

●オープニング本文


――アフリカ大陸の一画に存在する、天然の海底洞窟を利用したドッグに、亡霊達の旗艦であるビッグフィッシュが鎮座していた。
 その中で、ギース・バルクホルンは、部下であるミーシャ・ロウランの報告を聞いていた。

「――以上が、現在の戦況となります」
「ふむ‥‥予想以上にこちら側の被害が大きいな」

 ほとんどが無人機とは言え、かなりの数のワームやゴーレムが撃墜されている。
――尤も強化人間達の機体はその大半が健在だが‥‥問題は彼ら自身だ。

「‥‥彼らの『調整』はどうなっているのだ?」
「ええ、少々テッドとゲイルが不安定ですが、サイス隊長は問題ありません‥‥私も、大分『馴染み』ましたわ」
「‥‥そうか」

 『調整』の意味は分からないが、ミーシャの口調からそれが悪く無い報告という事は分かる。
――しかし、ギースの顔は忸怩たる思いに満ちていた。

「‥‥やはり良心とやらが咎めますか? 『資源』の有効活用だと思いますけど?
 やっぱり貴方も所詮は『地球人』ですわねぇ」

 それに対して、ミーシャは口の端を弓のように吊り上げて笑う。
 その笑みは嘲笑であり、口調こそ丁寧だが、目の前のギースを明確に愚弄していた。
――少なくとも、上官に対する態度では無い。

「‥‥」

 ギースは怒りもしなければ、何の反応も示さずに沈黙してミーシャを見つめた。
 それを見て、面白く無さそうに肩を竦めると、部屋を後にするミーシャ。

「それでは私は報告に戻りますが‥‥独断はなさらない方が身の為ですわよ?」

 だが、扉を開けるとミーシャは不意に振り返った。

「‥‥貴方達は、『我々』の奴隷に過ぎないのですから」
「――分かっている」

 一人となった部屋の中で、ギースは重々しく溜息を吐く。
――だが、それも一瞬の事。

「ビッグフィッシュ出撃だ。今回の出撃はサイスのみ。残りは全て無人機を充てる」
「アイ、サー!!」
「鹵獲した機体の調整は済んでいるな?」
「はっ!! 既にサイス隊長が乗り込んで待機中です!!」
「宜しい‥‥では往くぞ」

 部下を呼び出し、ギースは軍帽を被って歩き出した。

(「私は敗軍の将にして、叛逆の徒‥‥分かっていた事だ」)

 心の中で、そう自らに語りかけながら。



 多くのKVを鹵獲され、亡霊達の戦力増強を許してしまったUPCは、今や亡霊達に対して厳戒態勢を以って臨んでいた。

――そのためもあり、UPC軍の損傷は以前よりも格段に減少し、有人機を含めた多くのワーム達を撃墜する事に成功していた。

 この勢いを失ってはならない――そう考えたUPCは、一つの賭けに出た。
 試作品である戦艦用に開発された正規軍仕様の対潜ソナーブイを、惜しげもなく使用した作戦に出たのである。

「今回の作戦は、所謂追い込み漁である」

 定点設置型のブイを、亡霊達が活発に行動している海域にバラ撒き、敵の動向を掴む。
 然る後、囮となるKVが敵を作戦領域まで誘い込むと同時に、周囲に主機を落とした状態で配備したKVを起動。


――そして、敵が作戦海域に入り込んだ瞬間、KVによる空・海同時の一斉攻撃、同時に長距離からの艦砲射撃を加えるのだ。


「尚、今作戦においては、囮が最も重要な役割であると同時に、最も危険な任務でもある。
 よってこの役割は正規軍の精鋭たちと、諸君等庸兵達に当たって貰う事になる」

 作戦を説明していた司令官が、目の前に居並ぶ庸兵達に対して頭を下げる。

「‥‥いつも君達に困難な任務を与えてしまう我等を許して欲しい。
 しかし、君達の力はそれだけ我々にとっての希望なのだ」

 そして再び姿勢を正し、堂々とした態度で庸兵達に号令を下した。


「――それではこれより作戦を開始する。コードネームは‥‥「エイハブの銛」!!」


――多くの兵士達と船、そして兵器という足を引き千切られたUPCが、粛々と研ぎ上げた銛。
 それが今復讐の念を込めて、禍々しき白鯨目掛けて打ち出されようとしていた。

●参加者一覧

鯨井昼寝(ga0488
23歳・♀・PN
威龍(ga3859
24歳・♂・PN
クラウディア・マリウス(ga6559
17歳・♀・ER
美海(ga7630
13歳・♀・HD
ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751
19歳・♂・ER
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD
澄野・絣(gb3855
20歳・♀・JG
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

 庸兵達のKVを搭載した空母の中で、着々と作戦の準備が進められていく。
 その喧騒をビーストソウルのコクピットから見下ろしながら、美海(ga7630)は自らの心が躍るのを感じていた。

「狩りです。狩りの時間なのですよ」

 小さな体を奮い立たせ、操縦桿を握り締める。

「この前の戦いは、見逃してもらったも同然の結果だったからね。今度は前みたいにやられたりしないよ」

 そして、傍らのリヴァイアサンに乗るアーク・ウイング(gb4432)もまた、前回の戦いの屈辱を思い出し、闘志を燃やす。

「あまり好き勝手にされるのも気に食わないし、釣り甲斐のある鯨を引っ張るとしようか」

 その言葉に、ユーリ・ヴェルトライゼン(ga8751)も鷹揚に頷いた。

「‥‥ですが、あの人達は強いです。改めて気を引き締めていかないと‥‥」

 穏やかな口調に少し緊張を滲ませ、澄野・絣(gb3855)が呟く。
――非覚醒時の彼女は、戦闘時とはまったく逆におっとりとしている。

「亡霊のための犠牲になる事も、誰かをそうさせる気も僕には無いですよ」

 戦いを前にしても尚身上とする笑顔を忘れない須磨井 礼二(gb2034)が朗らかに、しかしきっぱりと断言した。
 いつもは呑気に見える彼だが、こう見えても庸兵‥‥軍事に関わる者の端くれだ。
――だからこそ、亡霊達には敬意を以って対抗し、成仏して貰う。


(「――やっぱり、嫌だよ。こんなの‥‥。
 心から悪い人じゃないって、思うから。きっと、何か理由が‥‥」)

 クラウディア・マリウス(ga6559)は、『亡霊』の強化人間のリーダー、サイス・クロフォードの優しげな声を思い出し、自分の心の支えである星のペンダントを胸の前で抱き締める。
 そうしているところへ、不意に通信が入った――威龍(ga3859)からだ。
 おそらくは、クラウが落ち込んでいるのを見かねて声をかけてきたのだろう。

「奴に――サイスに声を届かせたいと思うのなら、奴を打ち負かすくらいの気概で戦ってみせろ。
 任務に支障がない程度は俺も付き合ってやるぜ」
「威龍さん‥‥」

 亡霊が出現して以来、威龍は執拗に彼らを追い続けている。
 長く愛用していたビーストソウルから、更に性能の高いリヴァイアサンに乗り換えたという事を見ただけでも、その執着がどれほどか分かろうというものだ。

――だと言うのに、彼は自分の我儘に付き合ってくれるという。

 威龍のそんな心意気に、沈んでいた心が温まっていくのを感じる。
 亡霊達がバグアに寝返ってでも戦う理由‥‥それをサイスは『自分達に勝てば教える』と言っていた。

(「――なら私は、戦って、勝って、彼を止めるんだ!!」)

‥‥一人では無力だが、自分には愛機であるアルバトロスと、みんな――仲間たちがいる。
 ならば、私だって戦えるはず――!

「‥‥星よ、力を‥‥!!」

 クラウは新たな決意を胸に、星のペンダントを強く握り締めた。


 そして、次々とKVが海へと発艦していく。

『――傭兵隊発艦準備完了!! 幸運を祈ります!!』
「了解!! それじゃ皆、抜かり無く行くわよ!!」

 鯨井昼寝(ga0488)が気炎を上げて、真っ先に海原へと飛び出していく。

――七海を統べる白鯨は一頭で十分だ。紛い物との違いを今度こそ思い知らせてやる。

 「モービー・ディック」と名付けた愛機リヴァイアサンを駆り、昼寝は更にスピードを上げて進む。
――それに続くは仲間たちである庸兵と、UPC軍の精兵の乗るリヴァイアサン十機。


 とうとう、『亡霊』撃退作戦「エイハブの銛」は開始された。


――仄暗い水底の向こうから、亡霊達が姿を現す。
 編成は情報通り、強化BFと鹵獲リヴァイアサン、そして取り巻きのゴーレム、マンタ、メガロの編隊だ。

『‥‥お久しぶりです、庸兵の皆さん』
「サイスさん‥‥なんですか?」

 禍々しい巨大な鋏を腕に装備した鹵獲リヴァイアサンから響く声に、クラウがぴくり、と反応する。

「やっぱり、ダメですか? やめに出来ませんか?」

 クラウは懇願するようにサイスに語りかける。
――一縷の望みに賭けるかのように。

『――くどいですよ。我々はバグアの手先。本来ならば話などする必要が無い存在の筈です』

――サイス機の手がすっ‥‥と上げられる。
 それに合わせて、取り巻きのゴーレムやワーム達の目が輝き、こちらに目掛けて動き出す。

「奴らは俺達で相手をするぞ!! 美海! 澄野! 準備はいいか!!」
「――言われるまでも無いわ」
「勿論なのです!! 軍の人達もお願いするのです!!」
『――心得た!!』

 それに対抗するため、ユーリ機と、「罔象」と名付けた澄野のリヴァイアサン、美海のビーストソウル「ケモッタマーク2」が迎え撃った。
 UPC軍のリヴァイアサンも、ガウスガンや魚雷を放って彼らを援護する。
 そして同様に、強化BFもまた、取り巻き達を援護するために砲塔を向けた。
――クラウの説得も空しく、戦いは始まった。

『――貴女が戦いに躊躇している間にも、このように戦いは続きます。
 覚悟が無ければ、ずっとそのまま死ぬまで立ち尽くしていなさい』
「――っ!!」

 クラウが顔を上げる――だが、そこには悲しみは無く、決意の眼差しだけがある。

「こんな悲しい事、やっぱり、嫌だよ‥‥だけど‥‥ううん、だから、私は、貴方を止めます!」
『‥‥それでこそ、人類の希望たる能力者です』

 サイスはふっ‥‥と微笑むと、瞬時に表情を引き締め、凄まじい殺気を放った。
 巨大な鋏が光を帯び、巨大なレーザーシザーへと変わる。

『――ならば、私も全力でお相手しよう』
「「「――望む所だ(よ)(です)!!」」」


 マンタに乗っていた時と同じく、直線的な動きで突っ込んでくるサイス。
 それに対して、庸兵達はミサイルや魚雷の弾幕で応戦する。

「さぁ〜て、行かせて頂きますよ」

 笑顔を浮かべたまま、須磨井のリヴァイアサンがM−042小型魚雷ポッドを撒き散らす。
 25発もの小型魚雷が殺到するが、アクティブアーマーを使って強引に突破するサイス。
 そして、残るミサイルや魚雷も鋏で打ち落としていく。

「貰った!!」
「おおおおおおっ!!」

 その隙に、昼寝と威龍のリヴァイアサン――「モービー・ディック」と「玄龍」――が人型に変じ、レーザークローを叩き付けんとする。

『――遅い』

 だが、それは悉く鋏によって防がれ、逆に鋏の一撃によって後退する二人。

『――むっ!?』

 昼寝と威龍の後ろに見えたのは、サイスに向かってガウスガンを構えるクラウのアルバトロスと、多連装魚雷「エキドナ」の砲口を向けるアーク機の姿。

「バトちゃん、行って!!」
「当たれっ!!」

 次々と放たれる砲弾――だが、それらは後方から放たれたミサイルにより防がれ、サイスには殆ど届かない。
――強化BFによる援護だ。
 そして、それは能力者たちにも襲い掛かる。

「うーん、厄介ですねぇ」

 笑顔のまま眉根を寄せるという器用な真似をしながら、須磨井が弾幕を掻い潜る。

「確かにそうだけど、こんな豆鉄砲でアーク達は止められないよっ!!」

 アークはそう叫ぶと、レーザークローを使った一撃離脱戦法で、矢継ぎ早に攻撃を繰り出していった。


――その最中、威龍は確信していた。

(「やはり、サイスごと落とす訳にはいかんという事か‥‥」)

 以前戦った時の火力と比べれば、かなり散発的な攻撃しかして来ない。

――サイスこそが亡霊の実行部隊の支柱的存在であると予想していたが、どうやら当たったようだ。

 今回の攻撃はあくまで囮――しかし、ここでサイスを撃破しておけば、これから先かなり有利に働く事は明らかだ。

「ならば、その弱点を突かせて貰う!!」

 威龍は更に激しく、サイス機を攻め立てていった。


 その傍らでは、ユーリ達三人とUPC軍のKV隊、そして強化BFの艦載機達‥‥計30を超える機動兵器が激しく入り乱れていた。
 UPC軍の援護射撃を隠れ蓑に、ユーリがメガロ目掛けてガウスガンを放ちながら突っ込んでいく。
 メガロはそれらをかわし、迎撃せんと牙を向けるが、その前にユーリは手にしたスクリュードライバーを起動していた。
 唸りを上げて取り付けられたスクリューが回転し、ユーリ機の突進の勢いが増す。

「貰った!!」

 距離感を狂わされたメガロの頭に、ドライバー状の穂先が思い切り突き入れられる。
 同時に澄野の「罔象」が肉薄し、止めに水中機槍斧「ベヒモス」で胴を両断した。
 だが、敵を倒した瞬間、二人の真下からマンタが迫る。

『――危ない!!』

 UPC兵が咄嗟に割って入り、アクティブアーマーでプロトン砲を遮る。
 すかさず別のUPC兵が二機がかりでガウスガンを放ち、動きが止まった所を美海機のエキドナによって胴体をごっそりと抉られ、マンタは海底へと没していく。

「ありがとう、助かったわ」
『礼は後で結構ですよ。BFから砲撃が来ます!!』

 その警告通り、激しい弾幕がBFから降り注ぐ。
――そのどれもがかなりの威力だが、リヴァイアサンのアクティブアーマーと、分厚い装甲はそれらに耐え切ってみせた。

「むう、ちょっと羨ましいのですよ」

 唯一ビーストソウルに乗る美海が、装甲一枚を剥がされて憮然とした表情を見せる。

「まぁそう言うな。続けて来るぞ?」
「――了解なのです!!」

 BFの援護射撃が収まり、一旦後退していたワーム達が戻ってくる。
 美海は腹いせとばかりにゴーレムへと迫ると、レーザークローを振り下ろした。


「――ほう、あれに乗ったサイスを抑え切るとはな‥‥」

 BFの艦橋で矢継ぎ早に命令を下しながら、ギースが感心したように声を上げる。
 モニター越しに見える戦況は正に一進一退。

――ギースがかつてUPC軍として戦っていた頃には、想像も出来なかった光景だ。

 羨ましそうに目を細め、ギースは傍らの操舵手に指令を下す。

「――艦を前に進めろ。残りの艦載機も順次発進だ」
「‥‥宜しいのですか艦長? おそらく奴らの狙いは――」
「分かっている。しかし、ここでサイスを失う訳にはいかん。それに――」

 そこで言葉を切り、軍帽を脱いで髪を整えると、再び目深にかぶる。

「――見て‥‥みたくはないか?
 強大な敵に凛として立ち向かう、かつての戦友たちの姿を」
「――アイ、サー、艦長‥‥微速前進!!」

――ギースは庸兵達の狙いも、この先に待ち受けるモノも、全てを悟っていた。
 それでも彼は行くのだ‥‥全ては、自らの願いを成就させんがために。


(「――かかった!!」)

 こちらに向かって前進してくる強化BFを見て、鯨井は心の中でほくそ笑んだ。
 しかし、決してそれを表に出す事は無い。
 傭兵達はあくまでジワジワと後退しているように振る舞いながら、サイスを攻め立て、BFからの砲撃を捌き続ける。

――だが、それをいつまでも許す亡霊達では無い。

 強化BFが前進した事で、砲撃の威力と激しさは更に増し、ジワジワと友軍の損傷率が上がっていく。
 その中でエース級の強化人間を相手取る四人の損傷は特に酷く、いつ撃沈されてもおかしくない状況だ。
 そして、艦載機を相手取る三人とUPC兵達も、無限とも思える程の増援に苦しめられ、性能の劣るUPC兵は既に三機が海の底へと沈んでいた。


――ヴォンッ!!

 唸りを上げて迫る光の鋏をどうにか受け止めるクラウだが、圧倒的なパワーにジワジワと押し潰されそうになる。

「くぅ‥‥っ!!」
『どうした? 私を止めるのだろう?』

 丁寧さをかなぐり捨て、静かにサイスが囁く。

「――止めます。皆と力を合わせて!!」

――しかし、クラウの顔には笑顔が浮かんでいた。

『――!?』

 何かを察知したのか、サイスが飛びのくように距離を取る。
――しかし、僅かに遅い!!

『――強化BF迎撃ラインを突破!! アングラー部隊全機起動!!
――繰り返す!! 全機起動!!』

 機を見計らって主機を起動させ、待機状態で潜んでいた待ち伏せの部隊が偽装を解き、一斉にサイスに‥‥そしてその後ろの強化BFに砲口を向けた。


『――撃てええええええええっ!!』


 数十機ものKVによる一斉射撃が、次々と亡霊達に襲い掛かる。
 そして遠距離からはUPC軍艦船の攻撃が降り注ぎ、上空からはKVによる対潜ミサイルが次々と打ち込まれた。
 あまりの数の攻撃に強化FFすら張れず、BFは次々とその身に攻撃を浴び、艦載機達は成す術無く蹂躙され、破壊されていく。

『‥‥成程、素晴らしいタイミングです』

 アクティブアーマーを犠牲にして、第一射を掻い潜ったサイスは後退しようとするが、その時一機のリヴァイアサンが飛び出した――須磨井機だ。

「貰った!!」

 エンヴィー・クロックとシステム・インヴィディア‥‥そして会心の笑みと共に放たれた水中練剣「大蛇」が、サイス機の肩口から股下までを袈裟切りに叩き切った。

『これは‥‥流石に、きつい‥‥ですね』

 続けて鯨井が退路を断つように立ち塞がり、ガウスガンを構える。

「悪いけど逃がさないわよ!!」
『‥‥そう、は‥‥行きません!!』

 しかし、サイスは昼寝が弾丸を放つより早く、照明弾を炸裂させる。

「うっ‥‥!?」

――目が眩んで照準が反れ、その間に、サイスは強化BFの下へと後退していた。


 度重なる攻撃に曝された強化BFは、今や満身創痍だ。
 艦のあちこちに大きな穴が開き、針鼠のような数の砲塔も、半分以下に減じている。
 あちこちから大量の気泡を立ち上らせながら、UPCの艦隊に背を向けて転進していく強化BFに、UPC軍、そして庸兵達は容赦無く攻撃を加えていく。

「そう焦る事は無い――全弾味わっていけ!!」
「逃がさない‥‥!!」

 システム・インヴィディアを乗せたエキドナや魚雷の雨が、傷付いた鯨に止めを刺さんと次々と叩き付けられる。
 しかし、傷付いているとは言え、元々圧倒的な耐久力を誇るBFは、なけなしのエネルギーを使って強化FFでそれらを凌ぐと、UPC軍の射程圏外まで逃れていく。
 すぐさま追撃に向かうUPC軍――しかし、消耗しきった庸兵達は正に精も根も尽き果て、コクピットにへたり込んでいた。

『‥‥見事だ。人類の希望の力、確かに見せて貰った』
「何っ‥‥!?」

――そこに突如響き渡る無線からの声に、威龍が驚きの声を上げた。
 庸兵達の動揺を余所に、声は更に続ける。

『‥‥そして、貴君らの覚悟もな』
「‥‥」

 クラウが唇を強く噛み締め、凛とした表情で頷く。

『――出来る事ならば、また貴君らと戦いたいものだ。
 ‥‥バグアに立ち向かう勇気ある剣に、海神の加護があらん事を』

 そう言って、通信は唐突に切れた。


――その声の主が、亡霊達の長たるギース・バルクホルンであると庸兵達が知ったのは、後の事であった。