タイトル:【AP】肩を並べて‥‥マスター:ドク
シナリオ形態: イベント |
難易度: 易しい |
参加人数: 50 人 |
サポート人数: 0 人 |
リプレイ完成日時: 2010/04/20 22:55 |
●オープニング本文
※このシナリオはエイプリルフールシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません。
西暦2015年――バグアと能力者との戦いは佳境を迎えようとしていた。
戦いの中で技術を日進月歩に進化させて来た人類は、とうとうアフリカとオーストラリアを解放し、バグアの主力を宇宙に押し戻す事に成功した。
そしてこれ以降、主な戦場は宇宙へと移る事となる。
対するバグアは、バグア本星周辺に基地を作り対抗。
地球と宇宙の水際で、再び激しい戦いが繰り広げられていった。
だが、度重なる戦いによって消耗した人類は、日に日に劣勢に立たされていく。
‥‥最早、長期戦では奴等には勝てない。
人類が生き残る術は只一つ――バグア本星を、UPC全戦力を以って直接攻撃する電撃作戦しか無い。
――そして今日この日、UPCはバグア本星及び、周辺基地への一斉攻撃を決めたのだった。
『――前方に敵大群を確認!! 距離5000!! 機動兵器5万、ワーム10万!!
キメラ等の小型種は‥‥計測不能です!!』
ユニヴァースナイト七番艦‥‥旗艦である宇宙空母から伝えられた情報に、この戦いまで生き残った熟練の庸兵達も、流石に顔を引き攣らせる。
だが、彼らの不安を振り払うかのように、訛りの強い明るい男の声が聞こえてきた。
「なーにビビっとるんやお前ら。あんなんに手こずっとったら、本星の親玉に何ぞ勝てへんわい」
彼の名はハットリ・サイゾウ――アフリカ出身の能力者だ。
戦国時代の侍のような姿にカスタマイズされた、バグア軍の機動兵器ゴーレムを解析して開発された人型兵器「エメス」を駆る、人類のエースの一人だ。
「ソウソウ、サイゾウ君の言う通りだヨ。
それに『こんな事もあろうかと』、ボクの発明したとっておきがあるんだから、負けるなんてあり得ないネ」
サイゾウの言葉を肯定する、生意気な口調の少女――アニス・シュバルツバルトだ。
弱冠14歳にして、数多のKVやSES兵器を世に送り出した天才であると同時に、優秀な能力者でもある。
彼女の言葉通り、UPC軍の最後尾には、彼女が開発した巨大兵器「レヴィアタン」の姿があった。
――退役したユニヴァースナイト一番・二番・三番艦の大型ジェネレーターを使用し、鹵獲したギガワームの大型プロトン砲を二門装備した、破格の攻撃力とサイズを誇る、ワンオフ型の超巨大KVだ。
そして、今回の作戦――電撃作戦の前哨戦とも言える、周辺基地掃討の要でもある兵器だ。
今まで自分達と共に戦ってきた心強い味方の言葉に、庸兵達は自らの心に再び勇気が沸き起こるのを感じる。
――数分後には、全ての者達が覚悟を完了させていた。
――バグア軍との距離が詰まり、敵の姿が見え始める。
本星型ワームやタロス、シェイドにステアー――宇宙では、最早彼らも量産機の一つに過ぎなかった――数えるのも馬鹿らしくなるような数だ。
「‥‥皆、30分だヨ。30分ボクに時間を頂戴。
そうすれば、レヴィアタンのプロトン砲が100%チャージ出来る」
まるで血管のようなエネルギーパイプを周囲に浮かぶユニヴァースナイト達から接続され、出力を限界にまで引き上げたレヴィアタンの全開砲撃は、計算上この先にある最大の規模を誇る基地を一撃で葬り去る事が可能だ。
――ただし、全開砲撃には膨大な時間がかかる。
それまでにレヴィアタンと、周囲のユニヴァースナイトが撃墜されれば‥‥おそらくは、この場にいるUPC軍は圧倒的な物量を前に圧殺される事となるだろう。
「おう、任せんかい!!
30分と言わず、んなモン頼らんでもワイらがチャチャっと片付けたるわ!!」
刀を模したレーザーブレードを抜き放ちながら、サイゾウが気炎を上げる。
庸兵達もそれに倣い、それぞれの得物をその手に構えた。
『全軍‥‥突撃!!』
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』
――人類の命運を決する戦いが幕を開けた。
●リプレイ本文
そして標準時0700‥‥とうとう、その時は来る。
『――ユニヴァースナイト4、5、6、7番艦、レヴィアタンへのチャージ開始!!』
『敵前衛動き出しました!! ステアーとタロスを中心にした編隊です!!』
矢継ぎ早に情報が飛び交い、宙域の中はまるで都会の如き喧騒に包まれる。
『よし、迎撃開始だ!! 絶対に奴らをレヴィアタンとユニヴァースナイトに近づけるな!!』
そして司令官の号令の下、UPCの兵士達、そして庸兵達のKVがそれぞれの武器を構える。
「‥‥やっと‥‥取り戻せるのですね‥‥私達の‥‥明日が‥‥」
感慨深げに金城 エンタが呟き、周りを見渡す。
――そこには、姿形はおろか、大きさまで違う様々な進化を遂げたKV達の姿がある。
長年に渡るバグアとの戦いと、彼らの兵器から解析した技術――そして、戦いの中で次々と見つかった、バグアによって滅ぼされた異星からの『遺産』は、人類の進歩を一気に数十年以上加速させていた。
‥‥能力者が生まれたばかりの頃とは、全く違う光景。
しかし、その中に息づく思いは決して変わる事は無い。
――それを証明するかのように、UPC軍、そして、50人の庸兵達は、迫り来る敵軍へと飛び込んでいった。
敵前衛を構成するのは、タロスや本星型HW、そしてシェイドにステアー‥‥宇宙における敵の『一般機』達だ。
宙域のあちこちで、まるで花火のような閃光が瞬き、戦闘は開始された。
「野郎ども!! 我らは今から隊名の如く、修羅道を逝く!!
恐れを捨てろ!! 迷いを捨てろ!! 味方の背を追うな!!
ただただ敵を喰らい突き進むのみだ!! 我らの後塵は敵の屍の道と化せ!!!」
『――応っ!!』
漸 王零の咆哮と共に先陣を切ったのは、庸兵達の中でも最大勢力を誇る【修羅隊】。
隊長である王零が駆るのはGM−X00DZC アルトメシア――不安定な重力炉を、『遺産』である『太陽炉』を四つ付ける事で抑え付けた規格外の化け物KVだ。
――だが、その攻撃力は正に圧倒的。
かつては強敵として君臨していた並み居る敵機が、技術に合わせて進化した「リーゼ」の名を冠するグレートザンバーや、スラスターライフルによって紙のように落とされていく。
「戦闘システム‥‥起動――始めるぞ‥‥虎白‥‥俺達の‥‥狩りを‥‥」
隊長に負けじと、白い虎柄に塗られた阿修羅改・参式が飛び出す。
宇宙用に改造され、四足から人型へと進化を遂げた大出力の機体は、通常の十倍というサイズをものともしない機動で敵の弾幕をかわしていく。
それを駆るのは西島 百白――ただひたすら寡黙に、その手の爪のみで並み居る敵をなぎ払っていった。
「行くぜ行くぜ行くぜ行くぜェエエエエエエエエエエエエ!」
湊 獅子鷹は狂ったように叫びながら、ありとあらゆるKVのパーツをちぐはぐに取り付けたフェニックスで目の前のタロスを解体する。
目の錯覚すら覚える程に歪な影が敵を屠る様は、まるでホラー映画の中のゾンビが人々に襲い掛かる光景に似ている。
――機体の名は「マッドゾンビ」。
ただひたすら戦い、どんな姿になっても生き抜く‥‥泥臭いこの戦いを象徴するかのような機体だった。
そこにシェイドやステアーが迫り、突出した彼らに襲いかかる。
「させるかよ!!」
だが、ヒューイ・焔はひるまない。
飛び交うレーザーやプロトン砲を掻い潜りながら、ハヤブサの改修機であるG−44.Crowを人型に変形させ、手にした物理・知覚を兼ね備えた強化型剣翼・エクスカリバーで打ちかかる。
素早い連撃で、シェイドの片腕が切り飛ばされた。
「歯を食い縛れバグアども!! これが貴様等の言う生物資源とやらの力だ!!」
堺・清四郎のミカガミ・ヤタが、両の手に搭載した改良型雪村「天叢雲」を振りかざし、そのシェイドと傍らにいたステアーを原子の塵へと返す。
――「シェイドを一撃で倒す」という馬鹿げたコンセプトを、装甲を極限まで削る事で実現した機体の一撃は、正しく必殺だ。
「これが俺の全力だ‥‥喰らいやがれ!!」
ヒューイ自身によって設計された機関砲「グラトニー」が、前方に展開していたワーム群に降り注ぐ。
凄まじい貫通力を持つ砲弾は、冠せられた名前の通り、並み居る敵の装甲と機体をグズグズに喰らい、「暴食」の限りを尽くしていった。
「旦那が子供二人の世話してるから‥‥さっさと終わらせて様子を見に行かせて頂戴な!!」
百地・悠季が、愛する夫と子供達の顔を思い出し、決意を新たにしながら、乗機であるピュアホワイト宇宙戦仕様機「アルスター・ストライクカスタム」を駆る。
真GFソードが唸りを上げ、遠隔操作浮遊砲台「フォビドゥンガンナー」が死角を補いつつ敵を撃破していく。
「そして‥‥届く未来、またこの手にね」
静かに一言呟いてから、百地は真バスターライフルを放ち、前方のステアーの一群を塵へと返した。
まるで雲霞のような大群が、あっと言う間に数を減らされていく。
圧倒的な強さを見せる修羅隊に負けじと、伊藤 毅と三枝 雄二の二人に率いられたKVの編隊――ブルードラゴンズとブラックタイガースが飛び出した。
「ドラゴン1よりドラゴンオール、30分だけ持たせろ、各々最高のパフォーマンスを発揮すればいい」
「タイガー1よりタイガーオール、まさに背水の陣っす、各機持てる力を全開まで発揮するっす。 皆に信じる神のご加護がありますよう、AMEN‥‥」
彼らを構成するのは、ストライクフェニックスとバイパーADV‥‥バイパーとフェニックスの正当進化系とも言える機体だ。
「了解――こちらAWACSダウディング、作戦参加各機へ、明日は私の誕生日です、プレゼントに勝利をお願いします」
「はは、了解。ドラゴンオールブレイク、敵を一機も通すな」
「了解!! 2〜4は俺に続くっす!」
『――了解!!』
そして彼らはジェームス・ハーグマンの管制の下、編隊を組んで敵の大群目掛けて突っ込んでいく。
修羅隊のような派手さは無いが、確実に一機一機を押し囲みながら潰していった。
前衛の彼らがかなりの数を減らしても、それはほんの一握りに過ぎない。
残る無数のバグア軍の兵器が、まるで大魚が小魚の群れを飲み込むかのように押し包もうと迫る。
だが、その前に立ち塞がる巨大な影。
それはUKの艦橋から、両手を組んで現れた。
――一騎当千型広域殲滅戦闘用超巨大KV‥‥通称バスターKVグスタフである。
「G4弾頭の弾幕、抜けられるもんなら抜けてみろ!!」
パイロットであるゲシュペンストは、指先からミサイルを発射させる。
それは発射炎の橙色の軌跡を残しながら敵軍へと消えて行き‥‥瞬間、閃光を上げて爆発した。
――その威力は凄まじく、爆発が起こった宙域にいたバグア軍の兵器は、跡形も無くレーダーから消失している。
「ここから先に行きたければこの俺とグスタフを倒す事だ!!」
残った敵を巨大な拳で叩き潰しながら、ゲシュペンストが叫ぶ。
「ちょっとちょっと!! 一人でだけカッコつけるなんてずるいですよっ!!」
だが、その瞬間そんな叫びと共に、下方から傍らのHW目掛けて108式螺旋弾頭が突き刺さり爆散する。
それを成したのは、ボロボロになったドリルのような機首を持つKVアルブ・ブルギウと、それに搭乗する白蓮。
「どいてどいて〜! 当たると痛いよ〜!」
続けて、月明里 光輝のLx・ハリアーが、前面にフィールドを張っての体当たりでタロスの編隊を蹴散らした。
「弾さえ張ってれば‥‥!!」
布野 あすみの豪打は分厚い装甲を活かして敵の攻撃を跳ね返しながら、バルカンの弾幕で敵を寄せ付けない。
「おおおおおおっ!!」
猛牛の姿をした神棟星嵐のデルタ・アルデバランの角が、シェイドのどてっ腹を貫き、そのまま力任せに引き千切る。
彼らこそ、カプロイアが技術の粋を尽くして開発した改造KVに乗る「TBZチーム」だ。
「おいおい、折角人がかっこ良く決めてる時に、邪魔しないでくれよ?」
「無論、貴方の事は信頼していますけど、一人より二人、二人より七人の方が頼もしいと思いますよ?
それに――」
ゲシュペンストが、突然の仲間の乱入におどけた調子で語りかける。
彼の言葉に、5機の無変形型KVを率い、自らも無変形型KV「ヘルヴォル・アルヴィト」を駆る御崎 緋音がウィンクして応え、すぐに真剣な眼差しで前を向いた。
「‥‥それに、アレを相手にするんですから‥‥」
二門の長大なレーザー砲を装備したリーゼ・フラグメントに乗った奏歌 アルブレヒトの視線の先には、敵基地から飛び立った十を超える1km級ギガワームの群れがいた。
周囲を見れば、他の仲間達は自分の周りにいる敵に手一杯で手が回らない状態だ。
――つまり、グスタフと彼ら六機の戦闘機型KVで、奴等を相手にしなければならない事になる。
普通に考えれば絶望的な状況‥‥だが、彼らの口には笑みが浮かんでいた。
「――何だ、それなら楽勝だな」
「うん!! それに‥‥」
「自分達を待っている人がいる‥‥だから、負けられない!!」
「TBZチーム、これより敵を殲滅します!!」
『――了解!!』
御崎の号令の下、上方へと飛び上がっていくTBZチーム。
そして、同時に六機のKVが形を変えていく。
――ヘルヴォル・アルヴィトが胴体に。
――Lx・ハリアーが両足に。
――リーゼ・フラグメントが腰に。
――豪打と、デルタ・アルデバランが両腕に。
――そして、アルヴ・ブルギウは巨大なドリル兵器に。
『――蒼星合体!!』
全員の叫びと同時に凄まじい閃光が上がる。
――そして、それが収まった後には、一機の巨大なKVが鎮座していた。
その名は、テラブリンガー・ゼクスGC(ギャラクティカカプロイア)。
――人類の夢と希望の詰まった、史上初の合体型KVである。
「行くぜTBZチーム!! アレを使うぞ!!」
「アレ? ――ええ、宜しいですわよ。光輝さん、お願いします!!」
「うん!! 任せてっ!! 光子フィールド出力全開!!」
TB・ZGCは、グスタフと共にバーニアを吹かして敵軍の上方へと飛び上がると、それに倍する勢いで急降下する。
突き出した足から途轍もないエネルギーを放出しながら放たれるソレは――
「究極‥‥ゲシュペンスト――!!」
「‥‥超!! 新!! 星!!」
『――――キイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイックッ!!!!』
――進路上に存在するモノだけでなく、周囲の敵をもその余波だけで次々と破壊していく。
それを見つめていたUPCの兵士は、思わず呟いていた。
『‥‥無茶苦茶だな』
『ああ‥‥だが何だ? この胸の高鳴りは?』
――二機の攻撃は非効率で、非現実的で、理屈も何も無い。
しかし、人類の希望が描く二筋の光は確かにそれを見ていた者の魂を熱く揺さぶった。
『――我々もあの光に続けええええええっ!!』
『――おおおおおおおっ!!』
そして、UPC軍と共に庸兵達も我先にと敵へと突撃していく。
「彼らと、修羅隊の連中が前線で掻き回して稼いでくれた時間を無駄にするな!
こちらに向かってくる有象無象は俺たちで確実に落としていくぞ!
皆、命を惜しむな、名こそ惜しめ!」
榊 兵衛は皆を鼓舞しながら、XF−14CS「天雷改」――雷電を元に宇宙用に開発された「天雷」の指揮官専用機――からK−02を敵軍に放ち、その爆炎に乗じて突っ込む。
それを支援するは、アンジェリカを数倍大きくし、漆黒の追加装甲を付けたような姿の遠距離支援型KV「黒龍改」。
「リュウナ・セルフィン! 黒龍神の名のもとに、敵を廃除します!」
リュウナは左右の腕に装備した大型ガトリング砲と脚部のミサイルで露払いを行い、折を見て両肩に装備されたレーザーキャノン砲で敵をなぎ払っていく。
「岩龍隊! 補給を開始して下さい!」
湯水のように弾薬とエネルギーが消費されていくが、その度に彼女の機体の周囲に飛ぶ無人機の岩龍が補給を施していった。
――無論、彼女をバグア軍が放っておく訳が無い。
次々とシェイドやステアー、タロスが彼女の下へと殺到する。
「リュウナ様に近づく者は! 私と真・青龍神機が御相手します!」
だが、その前に東青 龍牙の真・青龍神機が立ち塞がる。
ミカガミを巨大にし、出力を十倍にも引き上げた性能を持つ機体のポテンシャルは十分で、巨体に似合わぬ最小限の動きで敵の攻撃を両腕の盾で防ぎ、実体剣とレーザーブレードの二刀流で、リュウナ機に近付く敵をなぎ払う。
「リュウナ様! 今です!」
「うんっ!!」
そして、時には彼女の射線上に敵を引き付けて撃墜数を増やしていった。
――その時、リュウナ機と東青機に一際強烈な光条が降り注ぐ。
爆音と衝撃が響き渡り、周囲にいたUPC軍を始めとしたかなりの数の友軍が次々と撃破されていく。
「龍ちゃん大丈夫!?」
「くっ‥‥何とか‥‥」
その一撃により、補給用の岩龍は悉く消し飛び、東青は咄嗟にリュウナの事を庇ったため、大きなダメージを負ってしまう。
前を見れば、指揮官機らしきシェイドがこちら目掛けて突っ込んでくるのが見える。
しかし、リュウナ機は東青機を支えているために動けず、東青機は損傷で動けない。
「させませんっ!!」
――ープロトン砲の砲口に光が灯り、二人が死を覚悟した瞬間、盾を構えた黄金色のKV――ソウマの駆るKVライブラが割って入った。
通常のKVならば一撃で落とされかねない攻撃だが、ソウマの機体は耐え切ってみせる。
「二人とも一旦下がって!! 修理と補給を!!」
二人にそう叫びながら、ソウマはライブラに大量に搭載された武装の一部を抜き放ってシェイドを牽制すると、後方を指し示した。
そこには、秋津玲司の戦艦型KV「アイギス」がいた。
「ありがとうございます‥‥っ!!」
「龍ちゃん、行こう!!」
「周囲の敵を排除します!! その間に着艦して下さい!!」
傷付いた二人に襲い掛かる敵を、戦艦型特有の圧倒的な弾幕で排除し、掻い潜って来た者には、12機のAI制御式ドローンで攻撃を仕掛けていく。
「後もう少しで全てが終わるんだ、守ってみせる‥‥!!」
そして、秋津は二人の着艦を確認したと同時に、ドローンと共に荷電粒子砲を放って退路を確保し、後退していった。
その間、ソウマは指揮官機と一進一退の攻防を続けていた。
――ズゥンッ!!
「くっ‥‥!!」
しかし、如何に重装甲を誇るライブラでも、再生能力を持つ敵が相手ではジリ貧だ。
一対一では勝てないと、ソウマは確信した。
「済みません――後は頼みます!!」
――しかし、それは絶望では無い。
一人で勝てなければ、仲間達と協力すれば良いのだ。
「了解だ――行くぞウシンディ!!」
仲間の劣勢を聞き駆けつけたカルマ・シュタットが、ノイエ・シュテルンで指揮官シェイドに打ちかかった。
クリーガーパックと名付けられた追加武装専用の巨大機剣「フロッティ」が、錬力を流され、赤い光に包まれる。
シェイドの持つレーザーブレードとフロッティが幾度も打ち合わされ、その度に激しい閃光が舞い散る。
何時までも続くと思われた剣戟は、突如何も無い空間から放たれたレーザーによって崩れた。
――シェイドのモニターが怪訝そうに周囲を見渡すが、何も無い。
「迂闊だぞ!!」
しかし、その間もカルマの攻撃は続いている。
――斬っ!!
指揮官シェイドの右半身が大きく切り裂かれた。
「悪いが、ここから先に進ませる訳にはいかぬのでな!!」
そして、追い討ちとばかりに榊が電磁加速砲「ゲイボルグ」を放つ。
――紙一重で避けられるが、かすっただけでも装甲を飴のように溶かし、生体部品を黒焦げにした。
後退するシェイド――しかし、凍りついたように動きを止める。
そのモニターは、自らを取り囲む32を数える小型の誘導兵器の姿を捉えていた。
「この先には通さないわよ‥‥フラック展開!!」
鷹代 由稀が高らかに叫ぶと同時に、「フラック」と名付けられた誘導兵器が一斉に火を吹く。
その弾幕を掻い潜った先には、鷹代の空間戦闘用非可変KV「ジャガンナート」の巨体が、錬剣を構えている姿があった。
シェイドに対応する隙すら与えず、鷹代は彼を四つに分解していた。
――そのバグアはほくそ笑んでいた。
彼が率いるシェイド部隊には、人間には一切感知出来ない完璧なステルスが施されている。
彼らは戦いの混乱に乗じて、レーダー網を掻い潜りながらUKと、レヴィアタンの喉下へと迫りつつあった。
『‥‥家畜は家畜らしく飼われていればいいのだ』
――さぁ絶望しろ家畜共。
ほら、レーダーを見ればもうデカブツ共は目の前――300‥‥200‥‥100‥‥今!!
見せ付けるように姿を現しながら、バグアは引き連れた部下達と共に引き金を‥‥
『何‥‥だと‥‥!?』
引こうとして、バグアの表情が引き攣る。
何も‥‥無い。
レーダーには確かにUKとレヴィアタンの姿があると言うのに。
馬鹿な‥‥あり得ない‥‥あり得ない‥‥!!
たかが家畜なぞに、自分達がたばかられるなど‥‥!!
――だが、バグアにはそんな負け惜しみを言っている暇など無かった。
呆然と立ち尽くす彼らに向けて、一斉に砲口が向けられる。
「チャージ90‥‥95‥‥100、全機セーフティ解除」
UKから伸びた光が、紅い機体を眩く輝かせる。
それは超高出力を誇る追加武装・ダイダロス・キャノンのチャージを完了させた、月影・透夜率いるディアブロ・ロッソ部隊であった。
「3‥‥2‥‥1‥‥ダイダロス・キャノン発射!!」
縦横をなぎ払うかのようなダイダロス・キャノンの一斉発射は、シェイド達全てを巻き込んでいく。
『‥‥あ‥‥あ‥‥?』
間の抜けた声を上げて、バグア兵はその長き生に終止符を打った。
「ふう‥‥デコイはひとまず成功、と」
自らの周囲をまるで奔流のように流れていく周囲情報と戦況のモニターを逐一チェックしながら、瓜生 巴は電子戦機のコクピットの中で溜息を吐いた。
――pipi‥‥。
「――ん? ちょっと休憩しろって? ‥‥冗談。そんな暇無いわよ」
AIが休息を勧めてくるが、敢えて無視して作業を続ける。
――周囲のデブリに紛れて数多くのデコイを撒き散らしているとは言え、そう何度も通用するような手では無い。
瓜生はデコイが発する重力パターンや熱量、電磁波などを微調整していく。
これで少しでも友軍の‥‥そしてアニスの負担が和らぐのならば、いくらでも無理をしてやろう。
――庸兵達の活躍を目にして、全軍の士気が上がっていく。
『レヴィアタン、チャージ完了まであと15分!!』
『‥‥勝てる!! 人類は勝てるぞ!!』
『一気に押し進めえええええっ!!』
――だが、その時突如鳴り響くアラート。
『――え?』
と、呟く暇も無く、UPC軍の部隊は光の奔流に飲まれ、跡形も無く消滅していた。
――彼らは幸せだったのかもしれない。
これから先に繰り広げられる悲劇と絶望を見なくて済んだのだから。
――先陣を切る修羅隊の前には、信じられないような光景が広がっていた。
とうとう基地の防空圏内へと進入した修羅隊。
そこには今までの兵力が小勢に見える程の大規模な‥‥そして、更に凶悪な軍勢が待ち構えていたのだ。
――無数の10km級ギガワームと、ユダとシェイド、そしてステアー『のみ』で構成された親衛隊。
あまりの光景に呆然とする庸兵達の無線に、何者かが語りかけてくる。
『‥‥良くぞここまで我等に歯向かえたものだ‥‥褒めてやろう、人間達よ』
それは、幾度も人類と刃を交えてきた司令官の声であった。
『――事ここに至り、我等を脅かすまでに成長した君達を、我等は「敵」として認める事となった』
――そう、バグアはようやく人類を『搾取』するだけの存在から、『敵』として認めたのだ。
『君達に敬意を表し、我等も全力でお相手する』
兵器群の瞳に、紅い光が宿る。
――そして司令官は厳かに、そして冷酷に宣言した。
『――死 ぬ が よ い』
『後退だ!! 防衛線まで後退――っ!!』
『ぐああああああっ!!』
『嫌よ‥‥何で‥‥ここまで来たのに――!!』
――精鋭を誇ったUPC軍のKVが、まるで紙のように落ちていく。
そして、それは庸兵達も例外では無かった。
「く‥‥そっ‥‥!!」
山崎 健二はアラートを吐き出し続けるコンソールを焦った表情で睨み付ける。
一撃離脱を狙い敵の喉下まで迫ったが、成す術無く迎撃され、周囲にいた仲間は既にいない。
時折飛んでくる攻撃を必死にかわしながら、山崎は後退して行く。
「‥‥あれは!?」
――その時、レーダーに救難信号が受信される。
見れば、前方にボロボロになった脱出ポッドが漂っていた。
生命反応アリ‥‥まだ生きている!!
「大丈夫か!? すぐに助けるからな!!」
『あ、ああ‥‥ありがとう』
ポッドを抱えて、更に強くフットペダルを踏み込むが、重い荷物を抱えた事で機体のスピードが落ち、敵にジワジワと距離を詰められ始めた。
――後もう少しで‥‥味方の制空圏――!!
だが次の瞬間、轟音と共に衝撃が山崎を襲う‥‥バーニアに直撃したのだ。
‥‥それから先はあっと言う間だった。
敵に囲まれ、蜂の巣にされ、数分と経たずボロボロになる山崎の機体。
――もう、脱出は不可能だ。
ならばせめて彼だけでも‥‥そう思い視線を下ろした先には、キャノピーが砕けた脱出ポッドと、その中でぐったりとリニアシートにもたれかかる『下半分の無い』パイロットの姿。
「‥‥くそおおおおおおおおっ!!」
悔しさのあまり、山崎は叫ぶ。
しかし、その絶叫すら掻き消して、ギガワームのプロトン砲が彼の機体を飲み込んだ。
そして、敵の牙は同じく撤退中だったサイゾウにも襲い掛かる。
「ちいっ!!」
すれ違い様に何機かを返り討ちにするが、近接武器しか持たない彼の武装では全てに対処する事は出来ない。
遠距離からのプロトン砲が、サイゾウの機体を明るく照らしたその時――!!
――ズゥンッ!!
「うっ‥‥!!」
「葵!?」
葵 コハルの機体が、身を挺してサイゾウを狙った敵の攻撃を受け止めていた。
「お前等あああああああっ!!」
ブレイズ・カーディナルが激昂し、雷電カスタム「トール」の持つトールハンマーを振りかざし、葵を撃った敵を粉々に打ち砕く。
「こンアホぉっ!! 無茶しおって‥‥!! ワイに話があるんやなかったんか!?」
「あ、ああ‥‥その、事かぁ‥‥」
葵の呼吸は、見る見るか細くなっていく。
――どう見ても手遅れだった。
「あたしずっと‥‥サイゾウくんの事、好きだったんだ‥‥ホントは帰ってからにしようとと思ったんだ、けどね‥‥予定、狂っちゃったな‥‥」
「葵さん‥‥貴女は‥‥」
リディスがはっとした表情を浮かべる。
「‥‥もう結婚してるんだから、横、恋慕なのは分かってたけど‥‥それでも――」
「オイ葵‥‥コラ‥‥目ぇ開けんかいっ!!」
しかし、もう葵から返事は聞こえなくなっていた。
「‥‥行こう」
「ああ‥‥」
――暫しの沈黙‥‥だが、イレーネ・V・ノイエが皆を促す。
悲しみに暮れている時間は、自分達には残されていないのだから。
次々と友軍が、友が死んでいく中、修羅隊は今や殿となって敵と戦っていた。
だが、常に先陣を切って戦っていた彼らの損傷と消耗は激しく一人、また一人と脱落し、終に隊長である王零の機体も直撃を受け、ユダの大群に捕捉される。
「はぁ‥‥はぁ‥‥ここまでか‥‥」
「――隊長!!」
「行け!! 絶対に止まるな!!」
自分を助けようとする隊員達を後退させ、王零は覚悟を決めてユダの大群へと向き直る。
「だが‥‥我は修羅隊筆頭‥‥ただでは死なん!!
‥‥我が死にざまとくと見よ‥‥そして聖闇へと共に散り逝こう‥‥!!」
そして、コクピットに取り付けられたプラスチックカバーに包まれたスイッチに、思い切り拳を叩きつけた。
――最終奥義『G−バニッシャー』。
アルトメシアの主機関を暴走させ、遺産の力でそれを増幅――極小のブラックホールを作り出す自爆技。
重力の嵐が周囲を飲み込み、後には塵すらも残らなかった。
――王零はその身を挺して、戦線の後退を成功させたのだった。
後退した人類軍は、レヴィアタンとUKを中心に球形に陣を敷き、徹底的に防御を重視した布陣で敵の大軍を迎え撃つ。
だが、敵の攻撃の密度は凄まじく、次々と被弾し、傷付いていく庸兵達。
「わあああああっ!!」
プロトン砲の直撃を受け、白虎のValiantが吹き飛ばされる。
「ぐぅ‥‥!!」
今や修羅隊の隊長代理となったクラーク・エアハルトのシラヌイ・アサルトS型にも、シェイドのミサイルが直撃した。
リアクティブアーマーで直撃は避けたものの、手持ちの武器が引き剥がされる。
無手になったクラークは、視界の先に半壊した白虎機が持つ刀を見つけ、咄嗟に叫んだ。
「白虎!! そいつを貸せぇぇっ!!」
「‥‥く、ぅ‥‥了、解!!」
薄れかけた意識の中でも懸命に操縦桿を動かし、刀を投げる白虎。
クラークは受け取った刀で、ユダの首を跳ね飛ばす。
だが、ボロボロになった彼の機体目掛けて、多くの敵が殺到し始めた。
「侮るな!! アサルトアーマーがやられただけだ!!」
「クラークさん!! 援護するってばよ!!」
「‥‥この戦いが終わったらナハトで一杯引っ掛ける予定なんだから、いなくなっちゃ困るわよ?」
同じく雷電にアーマードパックを装備した砕牙 九郎と、旧型シュテルンの改修機であるシュテルン・アーフェストゥングに乗る冴城 アスカが前進し、同時にありとあらゆる武装のロックを解除する。
「一気に吹っ飛びやがれえええええええっ!!」
まるで爆竹のようにミサイルとガンポッドが放たれ、辺りの敵を全て爆炎の渦へと巻き込んだ。
そして、冴城はそれを目くらましに一気に距離を詰めると、ガンランスとストライクガントレットで傷付いた敵を一機一機打ち砕いていく。
「旧型機の性能を舐めないで頂戴!!」
修羅隊はまだここに在り――そう宣言するかのように、三人は戦い続けた。
(「‥‥白虎‥‥生きていてくれ!!」)
ここを自分が離れては守りきれない‥‥クラークは唇を噛み締めながら、友の無事を祈った。
「八尾師くん、状況は!?」
庸兵でありながらUK八番艦を任されたロジャー・藤原は、混乱する戦況の中でも冷静に情報収集に当たっていた。
傍らのオペレーター八尾師 命に状況を確認すると、彼女はいつものんびりとした声を少し硬くして答える。
「不味いです〜‥‥UPC軍の損耗率五割を超えてます〜。
‥‥それに、白虎さんの機体の反応も見当たりません〜」
その報告に、もう一人のオペレーターが顔を青くして崩れ落ちそうになる。
‥‥確か、彼女は白虎の恋人だった筈だ。
だが、そんな彼女の肩を、藤原は優しく叩いた。
「‥‥大丈夫だ。白虎くんは必ず生きている」
そして、彼女を支えると、ブリッジクルー達を鼓舞するかのように腕を前に突き出す。
「――そして、人類も負ける事は無い!!
総員に告ぐ!! 生きて地球に帰るぞ、勝利を手土産にしてな!」
『――了解!!』
そして、レヴィアタンの直衛する者達も、懸命に戦っていた。
「むう‥‥ここらで一発決めたいとは思っとったが‥‥流石に多すぎじゃわい!!」
コクピットを改造し、自分の動きをトレースするように設定したKVの中で、小野坂 源太郎が汗を拭いながら愚痴る。
「てめぇら聞けッ!! 恋人、家族、ダチ――なんだっていい!!
そいつらの顔をもっぺん心に刻め!!」
諦観が庸兵達を支配しようとしたその時、日輪のような輝きが辺りを照らす――天原 大地のビーストソウル=ネオ【十拳】だ。
――それは、爆発的な性能と引き換えに操縦者の命を奪いかねない諸刃の剣《ハイパードライブ》の光だ。
「――刻めたか? 刻めた奴から‥‥俺の光に続けぇえっ!!」
天原に呼応し、ボロボロの機体で再び立ち上がる庸兵達。
「スパローよりレヴィアタン。片道切符を切ってくれないか?」
「‥‥!! 鹿島君!?」
KV用G動力炉を二基搭載した白銀のディアブロ「グリント・スパロー」に乗る鹿島 綾が、アニスに、動力炉をフル稼働させる一度きりのリミッター解除「ツインモード」を要請する。
もしそれを使ってしまえば‥‥機体とパイロットがもたず、確実に帰って来られない。
それでも、今やらなければ人類は負けてしまう。
「‥‥了解だヨ。ツインモード――承認」
――友情と、人類の未来‥‥それを天秤にかけ、アニスは人類の未来を選んだ。
そして涙で顔をくしゃくしゃにしながら‥‥泣いた。
「ごめん‥‥ごめんネ‥‥」
「アニス‥‥あんたを信じるよ‥‥だから、泣くのはよしな?」
グリント・スパローから凄まじいエネルギーが吹き上がり、先を行っていた天原の十拳と共に敵軍の中へと飛び込んでいった。
「さぁてワシも行くとするか‥‥今日は死ぬのにはいい日かもしれんな!
そろそろ老いぼれは退場するか! はっはっはっは!!」
そして、それに小野坂も続く。
閃光と爆発――ギガワームとユダの群れを消し飛ばしながら、三人はその最後の瞬間まで戦い‥‥逝った。
そして、ボロボロになりながらもレヴィアタンを守っていた、リュティア・アマリリスのディスタン・ゼクスと、結城 悠璃のフェニックス「幻夢」も、とうとう限界を迎えようとしていた。
「――悠璃くん!! リュティアくん!!」
「死なないでね‥‥アニス‥‥」
「‥‥元気で‥‥ね」
アニスの目の前で、二人の機体が爆発し‥‥消える。
「あ‥‥ああああ‥‥」
心が‥‥今にも折れそうになる。
しかしその時、目が覚めるかのような強烈なレーザーがユダとギガワームを穿っていた。
「‥‥守ってあげられなくてごめん、悠璃。けど‥‥必ず、君の代わりにアニスを守る!!」
レヴィアタンの上方に潜んでいた、結城の友・柳凪 蓮夢の遠距離知覚射撃機体「アルフェラッツ」による狙撃だ。
そして、接近してきた敵を、アンジェリカ「修羅皇」のミサイルが次々と撃破していく。
「遅くなってごめんね、アニス。でも、もう大丈夫!!」
それは、出産を機に庸兵を引退していた筈のキョーコ・クルックだった。
「キョーコくん!? 何で‥‥」
「あの子達の未来のためにも、じっとなんてしてられない!!」
「私もまだ死なないよ。まだ、アニスと一緒にやりたい事があるから!!」
そして、忌咲が大型砲戦用KV「ユミル」で、周囲の敵を殲滅していく。
それを見たアニスは、崩れ落ちそうになる心をどうにか支える事が出来た。
――自分にはまだ仲間がいる。
それ以上に、ここで投げ出したら、死んでいった人達に申し訳が立たない!!
「あと‥‥五分!!」
アニスは涙を拭って前を向き、カウントダウンを再開した。
「ちっ‥‥次から次へと‥‥!!」
サイファーが持つ狙撃銃「魔弾の射手」を放ちながら、イレーネは舌打ちした。
敵の数が多すぎる‥‥圧倒的に手数が足りなすぎる。
「はあああああああっ!!」
「邪魔やっちゅうとるやろ!!」
それでもサイゾウとリディスの夫妻は果敢に敵へと打ち込んで行き、刀の錆を次々と増やしている。
だが‥‥それだけだ。
リディスは汗で張り付いた髪を一房払いのけると、乗機のリファイン・ディスタン「レジスタント」のコンソールを覗き込む。
損傷率、燃料などその殆どがエラーを吐き出していた。
――専用武装であるビームランサー「ロンギヌス」も、そう何度も使えない。
「――こら、覚悟決めんといかんかもしれんな」
「‥‥サイゾウ。あなたと一緒なら、何処でも怖くはありませんよ。
たとえ、もう帰れないとしても」
「‥‥ワイもや」
その時、傍らでハンマーを手に敵を粉砕していたブレイズ・カーディナルがぼそり、と何かを呟いた。
「ん? 何か言うたか?」
「‥‥色々とありがとな、義兄さん、義姉さん」
「‥‥ったく、そんな冥土の土産いらんわい」
悪態を吐くサイゾウだったが、その表情は柔らかかった。
だが、その時突然無線に声が割り込んでくる。
「あらあら、面白そうなパーティではないですか。私も混ぜて頂けません?」
同時に、後方にいたギガワームが、腹から巨大な刃を生やして沈黙する。
――それは、以前の戦いで死んだ筈の如月・由梨と、彼女の愛刀である巨大剣シヴァであった。
「‥‥彼女だけでは無い‥‥私も参加させて頂こう」
レーダーに「UNKNOWN」が表示され、凄まじい威力のプロトン砲が、ギガワームごとシェイドやステアーを飲み込む。
彼もまた、以前の戦いで行方不明となった男――UNKNOWNだ。
「お前達‥‥生きていたのか!?」
「‥‥説明は後だ‥‥時間を稼ごう」
そう告げると、二人は圧倒的な攻撃力で、並み居る敵の悉くを撃破していった。
そして、UKの方角から更なる援軍が現れる。
手負いの敵を爆槍で屠りながら現れたのは、KV用のパワードスーツを纏った摩天楼「ストライダー・シルフ」。
サイゾウの無二の親友、宗太郎=シルエイトであった。
「――遅いやないか、宗太郎!!」
「悪ぃな! 調整に手間どっちまってよ!!」
言うが早く、巡航形態に変形すると、宗太郎はサイゾウへと呼びかける。
「‥‥さぁ正念場だ。気張って行こうぜ!! ダチ公!! 俺達の力を見せてやろうぜぇ!!」
「応っ!!」
ストライダーにサイゾウのエメスが乗り、敵陣へと乗り込んでいく。
そして、レヴィアタンから射出された巨大なレーザースピア「ロンギヌス」に追いつくと、旋風のように振り回す。
そして、そのまま一直線にギガワームへと突進した。
「見やがれ! これが俺達の‥‥」
「乾坤一滴の一撃やぁっ!!」
そして、FFを紙のように打ち砕き、まるで流星のようにギガワームを貫いた二機が、大見得を切る。
「‥‥俺達に!!」
「貫けぬもの無し!!」
――そしてそのバックで、巨大なギガワームが爆散した。
「‥‥少し、嫉妬してしまいますね」
それを見ていたリディスは、少しだけ羨ましそうに呟いたのだった。
――そして、単騎で行動していた須佐 武流から更に明るい報告が飛び込んでくる。
「こちら須佐!! 敵のミサイル衛星を破壊したぜ!!
これで長距離からドカンって事は無くなった筈だ!!」
加えて庸兵達を喜ばせたのは、彼がほぼ無傷だと言う事だった。
「俺のシラヌイだったら余裕でそっちに着ける!! お前らは戦いに集中してくれ!!」
「さて‥‥どうすっかな‥‥」
通信を切った後、須佐は前方に布陣する敵の大軍を見据えていた。
先ほどまで装着していた阿修羅を改造した強化パーツは既に破壊されている。
ほぼ無傷というのは、あくまでシラヌイ本体の状態の話だ。
‥‥戦闘力はかなり落ちてしまっているため、これを突破出来る保障など無い。
だが‥‥やらなければ皆の下へは帰れないのだ。
「さーて、いっちょ帰宅前の露払いと行きますか!!」
レーザークローを構えながら、須佐は手近な敵へと飛び掛った。
――レヴィアタンのコクピットのランプが、緑色に点灯する。
チャージ完了の合図だ。
「皆!! 射線上から退避してネ!! 大至急!!」
アニスは全軍に呼びかけてから、『砲弾に向けて通信を開いた』。
そこには、砲弾型のKVに乗る鯨井昼寝の姿あった。
――KVに名前は無い。
死ぬ事が前提の兵器に名前をつけるなど無意味と、アニスが拒んだのだ。
「‥‥準備はいい? 鯨井君」
「ええ、いつでも構わないわよ?」
「――ごめんネ、こんなモノしか作れなくてサ」
「気にしなくていいわよ。これが出来るのは、今では私だけなんだから」
集められた全てのエネルギーを、『能力者』というエンジンを使って最大限まで増幅させ、敵に叩き付ける事‥‥それこそが、レヴィアタンの砲撃の正体であった。
無論、通常の能力者では耐え切れないが、この日のために、鯨井の体にはありとあらゆる場所に特殊な処置が施されている。
「‥‥人類を、頼むわ」
「うん‥‥約束する」
一言だけ別れの言葉を告げると、アニスは照準を合わせずに引き金に手をかける。
――彼女の組んだプログラムは、最初から完璧だ。
狙う必要など無い。
だからこそ、アニスは万感の思いを込めて、ゆっくりと引き金を引いた。
――まるで太陽のような白い光がレヴィアタンから放たれる。
それは全てを光に返しながら、バグアの基地へと突き進む。
‥‥同時に、鯨井の体をも光の中に溶かしながら。
――鯨井昼寝という砲弾は、狙い違わず敵基地の動力炉へと到達した。
そして、鯨井はもう既に形の無い拳を思い切り叩きつける。
――光が全てを破壊しながら広がっていく。
その最後の刹那、鯨井の顔には満足げな笑みが浮かんでいた。
「――――今のは、悪く無いわね」
――戦いは七割近いUPC軍と、半数近くの庸兵達を失いながらも、人類の勝利に終わった。
しかし、彼らに休む事は許されない。
温存していた残る全艦隊と共に、バグア本星を攻略しなければならないのだ。
「‥‥お前等の命、持って行くで」
サイゾウは、宇宙に漂う装甲の一欠けらを掴み、最後の戦いへと赴いていった。